ルノー・トラフィック

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ルノー・トラフィック (現行)

トラフィックTrafic )は、フランスの自動車製造会社ルノー1980年から生産するモノスペースタイプのバンである。 バッジエンジニアリングによって提携先ブランドであるオペルボクスホールシボレーフィアットタタ・モーターズ日産三菱からも別名称で販売された事がある。

初代 (1980年-2000年) X20 (バン:T1,T3,T4,TXX バス:T5,T6,T7,TXW キャブシャシ:P6, PXX)[編集]

ルノー・トラフィック (初代)
X20型系
バン(ディーゼル)
バン・ハイルーフ(フェイスリフト後)
救急車仕様(フェイスリフト後)
概要
製造国 フランスの旗 フランス
販売期間 1980年 - 2000年
ボディ
駆動方式 FFFR
パワートレイン
エンジン 1397cc 1.4 OHV(ガソリン)
1647cc 1.6 OHV(ガソリン)
2164cc 2.2 SOHC(ガソリン)
2068cc 2.1D SOHC(ディーゼル)
2499cc 2.5D SOHC(ディーゼル)他
変速機 5速 MT
サスペンション
マクファーソン・ストラット
車両寸法
ホイールベース FF:2,800 mm(標準)、3,200 mm(ロング)
FR:2,550 m(標準)、2,950 mm(ロング)
系譜
先代 ルノー・エスタフェ
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1980年夏にそれまでのエスタフェットを代替するモデルとしてトラフィックとそれより大型のマスターが市場に導入された。トラフィックには前輪駆動(FF)の「トラクシオン」と後輪駆動(FR)の「プロピュルション」の2種類の駆動方式が用意されており、前輪車軸の前方に搭載されたエンジンの後方にキャブが載っていた。ディーゼルエンジン搭載車はラジエターグリルが前方に突き出していることで外観から判別できた[1] 。 初期のモデルはヘッドライトとフロントグリル部分が逆スラントノーズであったが、1990年頃のマイナーチェンジで、通常のスラントノーズに変更された。その他にも細かい変更が数回行われている。

1980年代にはアメリカモーターホーム製作会社ウィネベーゴがこのモデルのCKDキットによりノックダウン生産し、ウィネベーゴ・レシャロ(Winnebago LeSharo )およびアイタスカ・フェイザー(Itasca Phasar )として販売した。ノックダウンは米国安全基準に合致させるためにおこなわれたもので、エンジンはDouvrinエンジンと呼ばれたPRVエンジンを搭載した。

1997年からGMヨーロッパがバッジエンジニアリング版であるオペル・アリーナ1およびボクスホール・アリーナの販売を開始。

また2007年にはインドタタ・モーターズが、このモデルのプラットフォームをベースにしたタタ・ウィンガー(英語版)を発売した。

2代目 (2000年-2014年) X83 (バン:FL0x バス:JL0x キャブシャシ:EL0x)[編集]

ルノー・トラフィック (2代目)
X83型系
バン前期型
バン フェイスリフト後
概要
販売期間 2000年 - 2014年
ボディ
駆動方式 FFFR
パワートレイン
エンジン 1,870cc 1.9 dCi (F9Q760,762)
1,995cc 2.0 dCi (M9R)
1,998cc 2.0 16V (F4R)
2,463cc 2.5 dCi (G9U730,630)
変速機 6速 MT、Quickshift5
サスペンション
マクファーソン・ストラット
車両寸法
ホイールベース 3,098 mm(L1H1)、3,498 mm(L2H1)
全長 4,782 mm (L1H1)
全幅 1,904 mm
全高 1,936 mm
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2000年にフルモデルチェンジした2代目トラフィックは、ゼネラルモーターズと共同開発され、ボクスホールおよびオペルではヴィヴァーロとして販売されている。また、ルノーの提携先の日産自動車では、プリマスターとして販売されている。

パリでルノーによって設計され、プリマスターAVANTOURやヴィヴァーロと共に、イギリスのルートンにあるGMMルートンにて生産される。

また、バンは3人乗りから9人乗りまでのバリエーションが存在する。

2006年にはフェイスリフトが行われた。フロントグリルの形状とウインカーの位置が変更された。

3代目 (2014年- ) X82[編集]

ルノー・トラフィック (3代目)
X82型系
フロント・2014年型
フロント・2021年型
リア
概要
製造国 フランスの旗 フランスイギリスの旗 イギリス
販売期間 2014年 -
ボディ
乗車定員 3名 (バン、キャビン)
6名 (ワゴン)
ボディタイプ バン
エンジン位置 フロント
駆動方式 前輪駆動
パワートレイン
エンジン 2.0L BluedCi Euro 6d
110/130/150/170
最高出力 本文参照
最大トルク 本文参照
変速機 6速MT/1速AT (E-Tech)
車両寸法
ホイールベース 本文参照
全長 本文参照
全幅 1,956 mm
全高 本文参照
車両重量 2,066 kg
最大積載量 本文参照
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2014年9月、欧州にて発表された。フランスノルマンディー地域圏にあるサンドゥヴィル工場で製造されている。2018年まで先代に引き続きオペル、ボクスホールにもOEM供給され、「オペル(ボクスホール)・ヴィヴァーロB」として販売された。日産向けは先代の「プリマスター」から「日産・NV300」に(2021年に再び「プリマスター」に改称)、フィアット向けは先代にあたるプジョー・エキスパートをベースとした「スクード」から当モデルをベースとした新型に切り替わり、「タレント」に車名を変更した上で、三菱へは「三菱・エクスプレス」としてオセアニア市場へOEM供給していた。

尚、ヴィヴァーロはオペル/ボクスホールがグループPSA(現・ステランティス)傘下となったため、2019年にプジョー・パートナートヨタ・プロエースベースの兄弟車「ヴィヴァーロC」に替わったことを受け、製造終了された。その後、ビッグマイナーチェンジのタイミングでフィアットからの新車販売も終了した。

モデル[編集]

Phase 1 (2014年 - 2021年)[編集]

オペル/ボクスホールのヴィヴァーロBは、PSAの子会社である オペル の姉妹会社である ボクスホール によってイギリスの ルートン 工場で生産されていた。ただし、H2と呼ばれる車高が高いグレードについては、ルノーのオリジナル同様にサンドゥヴィル工場で製造されていた。

2年後、日産は初代プリマスターの生産を中止した後、年末にはNV300に置き換えた[2]

フィアット・プロフェッショナル (フィアットの商用車部門) とルノーは、2014年7月に商用車に関するパートナーシップを締結した。内容は2016年の第2四半期に発売する、「フィアット・タレント」[3]という名前の商用車に関するものであり、これは「フィアット・スクード」の後継車にあたる。

2018年4月、オペル/ボクスホールブランドの新たな親会社になったPSAグループは、オペル(ボクスホール)・ヴィヴァーロにおけるルノーとの提携関係を終了し、2019年にシトロエン・ジャンピーをベースに作られた新バージョンを発表した[4]。 2020年から、新たに設立されたルノー・日産・三菱アライアンスの一環として、三菱自動車オーストラリアニュージーランドで「三菱・エクスプレス[5]」という名前で販売した。エクスプレスはオーストラリアの衝突試験 (ANCAP) で5つ星中0つ星の評価を獲得した[6]。しかしその販売は、2年後に中止された[7]

スタイル変更[編集]

2019年4月、ルノーは新しいLEDサインを埋め込んだフロントデザイン[8]の変更を発表した。

2020年10月に、フィアットとルノーの合併案の承認をフランス政府が拒否したことを受け、フィアット・タレントの製造に関するルノーとフィアット間の協力協定は打ち切られた。その後、フィアットの親組織であるFCAとPSAが合併し、ステランティスが創設されたことで、2022年に再びシトロエン・ジャンピーをベースとしたフィアット・スクードが発売されることとなった。

Phase 2 (2021年 - )[編集]

2020年11月、2021年モデルの乗用モデルを発表した。今回のマイナーチェンジではLEDサインが「C」の形に変更された。グリルとシールドも再設計され、ボンネットはよりフラットになった[9]。2021年9月には、トラフィックの商用モデルの再スタイリングが控えている[10][11]

2022年改良型 (労働組合組織がプロモーション目的で使用)

2021年2月、日産はNV300の商用モデルと乗用モデル(Combi)のスタイルを変更した。LEDヘッドライトを備えた新メッシュグリルを採用している[12]。9月には、本体のデザインはそのままに、2001年から2016年に発売されたモデルと同様に「プリマスター」に名前が変更された[13]

特徴[編集]

先代と比較すると、エクステリアデザインの進化は主に、水平基調が印象的なグリル、ブランドのロゴ、つり目のヘッドライトなど車両のフロント部分に集中している。また、ドアハンドルが水平になっている。

キャビンの内部は、ダッシュボードに統合された7インチのタッチスクリーンによってすべて制御される (オプション装備。スマートフォン、タブレット、ノートPC用のスロットと接続) 。加えて、ルノー・R-Linkマルチメディアシステム(オペルではインテリンク)を内蔵している。さらにリバース カメラも利用できる。

フォード・トランジットカスタムと同様に、パーティションには長尺物を助手席の下に滑り込ませることができるハッチが付いている (L2H1 で最大 4.15 m)。

2015年、トラフィックは、トランジット2Tと兄弟車のオペル・ヴィヴァロを抑えて、その年のアーガス賞の商用車部門を受賞した。特に、その積載能力の高さとクラス中で広い積載容量(後述)が注目された。インテリアは収納性と人間工学に基づいた設計が高く評価された。アーガスによれば、「トラフィックは路上でも快適で扱いやすい」とのことである[14]。ルノーはトラフィックの実用的な側面を無視することなく、セダン同様の快適性を目指していたが、まさにそれが成功したような形である。

仕様[編集]

ボディタイプは主に次の通り。

  • fourgon (バン、片側または両側スライドドアを選択可能)
    • fourgon tôlé (荷室はパネルで覆われている)
    • fourgon semi-vitré (スライドドアのみに窓がある)
    • fourgon vitré (荷室に窓がある)
  • cabine aprofonde (乗用のワゴン、片側または両側スライドドアを選択可能)
  • plancher cabine (荷台なしのキャビンのみ)
仕様のラインナップ (2022)
H1L1 H1L2 H2L1 H2L2 Plancher Cabine Cabine Approfondie L1 Cabine Approfondie L2 Combi L1 Combi L2
Essentiel
Confort
Grand Confort
Zen
Intens
Sport+

イギリス向けの仕様に追加された、新しいスポーツ+パック[15]

その他の仕様[編集]

トラフィックスペースノマド[編集]

運転席と助手席を回転させることで、テーブルに向かい合って座ることができる。

トラフィックのキャンピングカー仕様として、2022年7月にフランスで発売された。スペースノマドには、2つの追加ベッドを格納できる昇降式ルーフが付いている。このスペース内にはUSBソケットと読書灯だけでなく、アイコニックな仕上げが施されたソーラーパネルも装備されている。加えて、49リットルの冷蔵庫、簡易キッチン、サイドオーニングを備える。スペースノマドは、他のモデルと同じサンドゥヴィルの工場で生産されているが、改造はPilote社によってアンジェにて行われる[16]

スペースノマドの価格 (2022年7月4日現在)
Équilibre (ショート/ロングバージョン) Iconic (ショート/ロングバージョン)
2.0 dCi 150 BVM 61,900 €/63,700 € -
2.0 dCi 150 EDC 64,100 €/65,900 €
2.0 dCi 170 EDC - 70 500/72,300 €

フォーミュラエディション[編集]

2017年改良型フォーミュラエディション

2018年に発売されたフォーミュラ・エディションは、カングーマスターと並んでラインナップされた。専用の新しいペイントとホイール、さらに黒と黄色のトリムが特徴であった[17]

X-Track[編集]

2016年に発売された、前輪駆動のオフロード仕様[18]

E-Tech[編集]

E-Tech

2022年のハノーファーモーターショーの中で、ルノーが100%電気自動車のトラフィックE-Techを正式に発表した[19]

電気自動車市場には、ルノー・カングーマスターに次いで2023年から投入される。

90キロワット (122 PS)の出力を発生するモーター[20]と容量 52 kWh のバッテリーを搭載する。発表された航続距離は 240 km である。

パワートレイン[編集]

BluedCi 110 Blue dCi 130 Blue dCi 150 Blue dCi 150 EDC Blue dCi 170 EDC E-Tech
タイプ 直列4気筒ディーゼルエンジン 16バルブ 回生ブレーキ付き電気自動車
排気量 1,997 cc
最高出力 81 kW (110 PS) / 3,500 rpm 96 kW (131 PS) / 3,500 rpm 110 kW (150 PS) / 3,500 rpm 110 kW (150 PS) / 3,500 rpm 125 kW (170 PS) / 3,500 rpm 90 kW (122 PS)
最大トルク 300 N⋅m (31 kgf⋅m) / 1,500 rpm 330 N⋅m (34 kgf⋅m) / 1,500 rpm 350 N⋅m (36 kgf⋅m) / 1,500 rpm 350 N⋅m (36 kgf⋅m) / 1,500 rpm 380 N⋅m (39 kgf⋅m) / 1,500 rpm 245 N⋅m (25 kgf⋅m)

寸法[編集]

仕様別の寸法[21](長さ、単位は(mm))
外装[注釈 1] WB 内装[注釈 2]
L1 L2 L1 L2 L1 L2
fourgon / cabine apporofondie 5,080 5,480 3,098 3,498 2,537 2,937
plancher cabine N/A 5,397 N/A 3,498 N/A 3,100[注釈 3]
SpaceNomad / Grand SpaceNomad [注釈 4] 4,990 5,397 3,098 3,498 [注釈 5] [注釈 5]
仕様別の寸法[21](高さ、単位は(mm))
外装 内装 車高
H1 H2 H1 H2 H1 H2
fourgon L1 1,971 2,495 1,387 1,898 160
fourgon L2 1,967 2,498
cabine apporofondie L1 1,971 N/A N/A 160 N/A
cabine apporofondie L2 1,967
plancher cabine L2 N/A 2,700[注釈 6] N/A 1,953[注釈 3] N/A 160
SpaceNomad / Grand SpaceNomad [注釈 4] 1,990 N/A [注釈 5] N/A 160 N/A
仕様別の寸法[21](積載容量、単位は(m3))
L1H1 L2H1 L1H2 L2H2
fourgon 5.80 6.70 7.75 8.90
cabine approfondie 3.30 4.30 N/A

提供先のOEM車種[編集]

車名の由来[編集]

「貿易」や「交通」を表すフランス語から。

注釈[編集]

  1. ^ すべての仕様で全幅は1,956 mm[21]
  2. ^ すべての仕様で室内幅は1,662 mm、内部ホイール アーチ間は1,268 mm。
  3. ^ a b 利用可能な後方の空きスペースの大きさ
  4. ^ a b SpaceNomadがL1H1、Grand SpaceNomadがL2H1の寸法に基づいている。
  5. ^ a b c データなし、または非公表
  6. ^ キャビン本体の全高

出典[編集]

  1. ^ 『世界のトラック/バス』二玄社、1980年11月25日、pp. 110 - 114頁。 
  2. ^ Fourgon Nissan NV300 : c'est parti !” (2016年2月18日). 2016年3月25日閲覧。
  3. ^ Fiat Professional : le Talento succède au Scudo” (2016年3月25日). 2016年3月25日閲覧。
  4. ^ Opel Vivero (2019). Le cousin des Citroën Jumpy et Peugeot Expert” (2018年4月4日). 2018年10月18日閲覧。
  5. ^ Mitsubishi Express : Trafic aux diamants” (2020年4月22日). 2021年12月5日閲覧。
  6. ^ Sandouville. Le Mitsubishi Express recalé au crash-test australien, Renault s'explique”. 2022年7月5日閲覧。
  7. ^ Mitsubishi Express axed, final deliveries by end of 2022”. 2022年10月19日閲覧。
  8. ^ Renault : quelques nouveautés sur les utilitaires et surtout nouveau Kangoo en concept”. 02-09-2020閲覧。
  9. ^ Renault Trafic restylé (2020), l’utilitaire s’offre un lifting, Turbo.fr
  10. ^ Renault Trafic (2021). Restylage pour le fourgon utilitaire” (15/09/2021). 2021年9月19日閲覧。
  11. ^ Accessoires et pièces détachées Renault”. 2023年12月9日閲覧。
  12. ^ Nissan dévoile le NV300 restylé” (10/02/2021). 2021年9月29日閲覧。
  13. ^ Nissan : restylé, le NV300 devient Primastar” (28/09/2021). 2021年9月29日閲覧。
  14. ^ https://www.largus.fr/actualite-automobile/le-renault-trafic-elu-utilitaire-de-lannee-2015-5533379.html
  15. ^ Renault Trafic Sport+ : Sportivement votre !”. 2015年12月19日閲覧。
  16. ^ Prix Renault Trafic SpaceNomad. Le van du Losange à partir de 61 900 €” (2022年7月4日). 2022年7月4日閲覧。
  17. ^ Renault Formula Edition vans”. Auto Express. 2023年12月9日閲覧。
  18. ^ Test Drive in premiera nationala cu noul Renault Trafic X-Track 2017-Un Van 4×2 cu pretentii de utilitara 4×4” (2016年12月5日). 2023年12月9日閲覧。
  19. ^ Renault Trafic E-Tech Electric. Un troisième utilitaire électrique pour le Losange”. www.largus.fr. 2023年12月9日閲覧。
  20. ^ Le Renault Trafic devient électrique, mais avec une petite autonomie” (2022年9月19日). 2023年6月6日閲覧。
  21. ^ a b c d Renault Master brochure” (英語). Renault UK (2022年11月1日). 2023年10月30日閲覧。

外部リンク[編集]