トンネル磁気抵抗効果

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

トンネル磁気抵抗効果(TMR効果: tunnel Magneto-Resistance Effect)とは、 トンネル磁気接合素子において、電圧をかけることにより絶縁体にトンネル電流が流れ、抵抗値が変化する現象である。ハードディスクドライブの超高記録密度化や、MRAM(Magnetoresistive Random Access Memory)に応用されている。コイルなどの電磁誘導を用いた磁気記録の読み取り方式に比べ、大幅な素子の微細化が可能になる。

原理[編集]

トンネル磁気抵抗素子は、2つの強磁性金属層の間に、膜厚1~2nmの絶縁体層をはさみこんだ構造をしている。この膜面に対して垂直に電圧をかけるとトンネル効果により絶縁体層に電流が流れる。

強磁性体中の伝導電子はスピン偏極しているが、2つの強磁性金属層に外部から磁場を加え、それぞれの偏極の仕方を変えることで、トンネル電流を変化させることが出来る。平行に磁場を加えた場合、双方の偏極の仕方が等しく、トンネル電流が感じる抵抗は低くなる。反平行に加えた場合、偏極の仕方が逆方向になり、抵抗は高くなる。

トンネル磁気抵抗効果の大きさは、MR比によって表される。MR比とは、二つの磁化状態での抵抗の差Rap-Rpを平行状態での抵抗値Rpで割ったものである。この値が大きいほど、トンネル磁気抵抗効果は大きい。1995年には室温でのMR比は20%程度であったが、2007年には500%のMR比が得られるようになった。

歴史  [編集]

1975年、鉄/ゲルマニウム/コバルト接合膜において、トンネル磁気抵抗効果が初めて報告された。当時の磁気抵抗比は14%。4.2Kまで冷却する必要があったため、応用に不向きであるとされ、当時はあまり注目されなかった。

1988年、Fe/Cr人工格子において巨大磁気抵抗効果 (GMR: Giant Magneto-Resistance Effect) が発見されたことにより、磁性体素子研究が盛んになった。

1995年、鉄/アルミナ(Al2O3)/鉄接合膜において、室温で約20%という比較的大きなMR比をもつトンネル磁気抵抗効果を東北大学宮崎照宣[1]マサチューセッツ工科大学のMoodera[2]らがそれぞれ独立に発見し、一躍注目を集めることとなった。

2004年産総研の湯浅新治らは、室温で88%のMR比を実現した([1])。障壁層をアモルファスであるアルミナから、酸化マグネシウム単結晶としたことでトンネル電流の散乱が抑えられ、高いMR比を得ることを可能にした。その後、同グループは障壁層の膜質向上等により、室温でMR比230%を実現した([2])。

2007年東北大学大野英男らは室温で500%のMR比を実現した[3]。この値が2007年現在、MR比の世界最高記録となっている。

応用[編集]

  • ハードディスク:トンネル磁気抵抗効果による大きなMR比により、記録密度の大幅な向上を可能とした。2007年現在、ハードディスクの磁気ヘッドは、巨大磁気抵抗効果 (GMR) によるGMRヘッドから、TMRヘッドに移行しつつある。
  • MRAM:Magnetoresistive Random Access Memoryの略。TMR効果を用いた不揮発性ランダムアクセスメモリである。強磁性体層の磁化方向を0,1の記憶に対応させ、TMR効果により、これを読み出す。磁化を用いているため、電源を切っても記憶が保存されるという特徴がある。2006年、米国のフリースケール・セミコンダクタ社は、4Mbit MRAMの量産を開始したと発表した。

脚注[編集]

  1. ^ T.Miyazaki and N.Tezuka: J. Magn. Magn. Mater.,139(1995), L231
  2. ^ J. S. Moodera et al.: Phys. Rev. Lett. 74(1995), 3273
  3. ^ Y. M. Lee et al.: Appl. Phys. Lett. 90(2007), 212507

関連項目[編集]