トンネル磁気抵抗効果

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トンネル磁気抵抗効果(とんねるじきていこうこうか・: Tunnel Magneto Resistance Effect)とは、磁気トンネル接合(MTJ)素子において磁場の印加でトンネル電流が流れて電気抵抗が変化する現象であり、TMR効果とも呼ばれる。

原理[編集]

TMR素子強磁性層の間に膜厚1nm程度の絶縁体層を挟み込む構造をしている。この接合面に対して垂直に電圧を印加するとトンネル効果に因って絶縁体層に電流が流れる。

TMR効果の大きさはトンネル磁気抵抗比TMR比)で表される。これは2つの強磁性体電極伝導電子スピン偏極を用いて定義され、更に、電気抵抗磁気抵抗アナロジーであるので、スピン偏極平行時の低電気抵抗スピン偏極が反平行時の高電気抵抗で書ける。

TMR_{ratio} = \frac{2 P_{1} P_{2}}{1 + P_{1} P_{2}} = \frac{R_{ap} - R_{p}}{R_{p}}
R_{p} < R_{ap}

強磁性体中の伝導電子スピン偏極しているが、それぞれのスピン偏極の方向を変えることで、トンネル電流を変化させられる[1]

外部磁場印加方式[編集]

強磁性層に外部から磁場が印加されて、それぞれのスピン偏極の方向を変える。

双方の強磁性層のスピン偏極が同方向になり、トンネル電流が感じる電気抵抗は低くなる。
双方の強磁性層のスピン偏極が逆方向になり、トンネル電流が感じる電気抵抗は高くなる。

この方法をMRAMに用いようとすると、消費電力性能の向上に必須である微細化に伴って増大してしまう。HDDにおいては、記録密度の大幅に向上が期待される。また、コイルなどの電磁誘導を用いた磁気記録の読み取り方式に比べて大幅な素子微細化が可能になる。

スピン注入磁化反転方式[編集]

スピン偏極して参照層から流れる伝導電子と記録層の磁化の間の角運動量の授受に因って、記録層の磁化トルクが作用して生じる磁化反転を利用する。なお、これはスピン注入磁化反転と呼ばれる。

これは、TMR素子の接合面積が小さくなると必要な電流を小さくできるスケーラブルな方式であるので、MRAMのような微細化を必要とする場合に適している。

研究・開発[編集]

実用[編集]

各種の記憶装置に応用されている。

小容量の組み込み品が商用化されている。
磁気ヘッドGMRヘッドからTMRヘッドへの移行を完了しつつある。

関連項目[編集]

参考資料[編集]

外部リンク[編集]

注釈・出典[編集]

  1. ^ 大野英男. “強磁性金属を用いたナノスピンメモリ”. 東北大学. 2014年10月1日閲覧。
  2. ^ これは、4Heを用いてその沸点である4.2Kまで冷却する必要が有って応用に不向きであるとされた為に、当時は余り注目されなかった。
  3. ^ “Giant magnetic tunneling effect in Fe/AlzO3/Fe junction” (PDF). Journal of Magnetism and Magnetic Materials (Elsevier) (139): 231-234. (1995). http://www.elsevierscitech.com/pdfs/miyazaki.pdf. 
  4. ^ “Large Magnetoresistance at Room Temperature in Ferromagnetic Thin Film Tunnel Junctions” (PDF). Phisical Review Letters (American Physical Society) 74: 3273-3276. (19950417). doi:10.1103/PhysRevLett.74.3273. http://master-mc.u-strasbg.fr/IMG/pdf/moodera_tmr_prl95.pdf. 
  5. ^ 湯浅新治. “次世代メモリーにブレークスルー”. 基礎研究最前線. 科学技術振興機構. 2014年10月1日閲覧。
  6. ^ “単結晶TMR(トンネル磁気抵抗)素子で世界最高性能を達成” (プレスリリース), 産業技術総合研究所, (2004年3月2日), http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040302/pr20040302.html 
  7. ^ 磁気トンネル接合のTMR 効果と共鳴トンネル効果」、『日本物理学会誌』第58巻第1号、日本物理学会200301、 38-42頁。
  8. ^ “世界最高性能TMR(トンネル磁気抵抗)素子の量産技術を開発” (プレスリリース), 産業技術総合研究所, (2004年9月7日), http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2004/pr20040907/pr20040907.html 
  9. ^ “Effect of electrode composition on the tunnel magnetoresistance of pseudo-spin-valve magnetic tunnel junction with a MgO tunnel barrier” (PDF). Phisical Review Letters (American Physical Society) 90: 212507. (2007). doi:10.1063/1.2742576. http://scitation.aip.org/deliver/fulltext/aip/journal/apl/90/21/1.2742576.pdf?itemId=/content/aip/journal/apl/90/21/10.1063/1.2742576&mimeType=pdf&containerItemId=content/aip/journal/apl. 
  10. ^ “室温で世界最高(1056%)の磁気抵抗効果を示す素子の開発に成功 -消費電力を極限まで低減した環境対応型集積回路の実現に大きく前進-” (PDF) (プレスリリース), 東北大学, (2009年7月15日), http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/20090717_01.pdf 
  11. ^ 吉澤恵. “東北大学,磁気抵抗比1056%のMTJ素子を開発”. 日経テクノロジーオンライン. 日経BP. 2009年7月22日閲覧。