ウラムの螺旋

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200×200のウラムの螺旋。黒点が素数を示す。素数が高密度に集まった対角線、水平線、垂線がはっきりと見て取れる。

ウラムの螺旋、もしくは素数螺旋(ウラムのらせん、そすうらせん、言語によってはウラムの布とも)は、素数を視覚化する簡単な手法である。これにより、いくつかの二次多項式が非常に多くの素数を生成する傾向にあることが容易に示される。これは1963年、数学者のスタニスワフ・ウラムによって発見された。彼によれば学会の「長くて非常に退屈な論文」の発表の際に落書きをしていてこれを発見した[1]。その後間もなくして、ウラムはマイロン・スタインやマーク・ウェルズと協力し、ロスアラモス国立研究所MANIAC II英語版を使って65,000までの範囲の螺旋を、当時まだ初期の段階にあったコンピュータグラフィックスを使用して描いた[1][2][3]。翌年の3月、マーティン・ガードナーサイエンティフィック・アメリカンで連載を持っていた数学ゲームに関するコラムでウラムの螺旋について紹介し[1]、そのコラムが掲載された号はウラムの螺旋が表紙を飾った。

サイエンティフィック・アメリカンのコラムについて補足すると[4]、ガードナーは爬虫両棲類学者ローレンス・モンロー・クローバー英語版が1932年、ウラムの発見に先立つこと30年以上前にアメリカ数学会で発表した、素数を多く生成する二次多項式を発見するための素数の2次元配列の研究についても言及している。クローバーの配列はウラムのような螺旋状ではなく、方型というよりは三角形状であった[5]

構造[編集]

ウラムは数字の螺旋を中心の1から始めて、渦巻状に、長方形の格子状に書き下した。

1から49までの数字を螺旋状に並べた

そして素数に印をつけ、次の図を得た。

小さなウラムの螺旋

驚くべきことに、素数は斜め対角線に沿って並ぶ傾向があった。上に示された例に比べれば水平線や垂線はやや目立たないが、やはり明確である。

素数は2を除けば全て奇数である。ウラムの螺旋の構成の方法から、斜め対角線の上に乗っている数字は全て奇数か偶数かのどちらかであるので、全ての素数が一つおきの対角線の上に乗っている事自体は驚くべきことではない。驚くべきなのは、ある対角線には他の対角線より多くの素数が乗っている傾向があることである。

より範囲を広げてウラムの螺旋を描いてみても、対角線が浮かび上がることが今までのところ確認されている。こうした模様は、最初の真ん中の数字が1でなくても同様に現れるように思われる(実際、1よりはるかに大きくできる)。このことはつまり、関数

f(n) = 4 n^2 + b n + c

を考え、ここでnを{1, 2, 3, ...}と動くものとし、またbcを整数とするとき、大多数の場合と比べて多くの素数を生成するような整数の組bcが多く存在することを示唆している。

ハーディ・リトルウッドのF予想[編集]

ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディジョン・エデンサー・リトルウッドは1923年のゴールドバッハの予想に関する論文の中でいくつかの予想を述べているが(ハーディ・リトルウッド予想と総称される)、その中にはもし真であればウラムの螺旋の特に目立つ特徴について説明を与えうるものが含まれている。ハーディとリトルウッドが“F予想”と呼ぶこの予想は、ベイトマン・ホーン予想英語版の特殊な場合であり、ax2 + bx + cの形をした素数の個数の漸近式について主張するものである。ウラムの螺旋の中央部から生じる、水平線と垂線に対し45°の角度をなす半直線上に乗る数字は4x2 + bx + cで表すことができ、ここにbは偶数である。水平もしくは垂直な半直線の上に乗る数字は先述の公式でbが奇数の場合である。F予想は、こうした半直線上に乗る素数の密度を見積もる公式を与える。これは半直線によって密度が相当ばらつくことを示唆している。とりわけ、密度は判別式b2 − 16cに相当に左右される。

4x2 − 2x + 41(x = 0, 1, 2, ...)で与えられる素数を強調した。画像の下半分にある、特に目立つ平行な半直線は、4x2 + 2x + 41に相当する。あるいは、元の半直線のxが負の整数の場合とも言える。

F予想はax2 + bx + cabcがすべて整数であり、aが正の整数の場合を考えるものである。もし係数が1より大きい公約数を持っているか、もしくは判別式Δ = b2 − 4ac平方数であるならば、この多項式は因数分解できるのでxが0, 1, 2, ...の値をとれば合成数を与える(ただし、xの取り方によっては片方の素因数が1である可能性はある。そのようなxは高々2個存在する)。さらに、a + bcが両方とも偶数であれば、多項式はすべて偶数となり、したがって合成数である(素数2である可能性はある)。ハーディとリトルウッドはこうした場合を除外すれば、ax2 + bx + c(x=0, 1, 2, ...)からは無限の素数が生成されると予想した。これはより古いブニャコフスキー予想の特殊な場合であり、現在まで証明されていない。ハーディとリトルウッドはさらに進んで、ax2 + bx + cから生成される、n以下の素数の個数P(n)は次の公式で近似できると予想した。

P(n)\sim A\frac{1}{\sqrt{a}}\frac{\sqrt{n}}{\log n}

ただし、ここでAabcに依存するが、nからは独立な値である。素数定理によれば、公式のAを1とすれば、n以下の整数のうち素数が占める密度と、ax2 + bx + cにより生成されるn以下の素数の密度は漸近的に等しいということになる。しかしAの値は1以上も1以下も取りうるので、この予想によればいくつかの多項式はより多く素数を生成し、他はより少ない。非常に多くの素数を生成する多項式として4x2 − 2x + 41があり、これはウラムの螺旋において視覚的に目立つ半直線を形成する(図を参照されたい)。この多項式の場合、定数Aは約6.6であり、予想によればこの多項式から生成されるn以下の整数の集合と、同じ個数だけランダムにn以下の整数を集めた集合を比較した場合、前者のほうが約7倍も素数を含んでいることを示している。この多項式はレオンハルト・オイラーの素数生成多項式x2 − x + 41と密接な関係があり、オイラーの式のxを2xで置き換えるか、xを偶数に限定することで得られる。ハーディ・リトルウッドの公式のAは次式で得られる。

A=\varepsilon\prod_p\left(\frac{p}{p-1}\right)\prod_{\varpi}\left(1-\frac{1}{\varpi-1}\left(\frac{\Delta}{\varpi}\right)\right)

ただし、pabの両方を割り切るような素数であり、\varpiaを割りきらないような奇素数である。εは、a + bが偶数であれば1、a + b が偶数であれば2である。\left(\frac{\Delta}{\varpi}\right)ルジャンドル記号である。現在までに知られている最大のAは約11.3で、ヤコブソンとウィリアムズによって発見された[6][7]

亜種[編集]

クローバーの三角形。オイラー多項式のx2  −  x  +  41の部分を強調した。

クローバーが1932年の論文で言及したのは三角形状で、n行目が(n  −  1)2 + 1からn2までの数字で構成されている。ウラムの螺旋と同じように、二次多項式によって生成される数は直線をなす。垂線上の数字はk2 − k + Mの形で書くことができる。素数の密度が濃い垂線や斜線は図から明らかである。

サックスの螺旋

ロバート・サックスは1994年にウラムの螺旋の亜種を考案した。ウラムの螺旋が四角の螺旋状だったのに対して、サックスの螺旋はアルキメデスの螺旋状に非負の整数を並べ、1周ごとに平方数が来るようにする(ウラムの螺旋では1周につき2つの平方数が含まれる)。オイラーの素数生成多項式x2 − x + 41はxの値が0, 1, 2, ...と動くとき、1本のカーブとして現れる。曲線は図の左半分側にて、漸近的に水平線に近づいていく(ウラムの螺旋では、オイラーの素数生成多項式による数字は2本の斜線を形作る。上半分はxが偶数の場合、下半分はxが奇数の場合に相当する)。

150×150のウラムの螺旋。素数と合成数の両方を示した。

ウラムの螺旋に合成数を加えるとさらなる構造が見えてくる。1は自分自身しか約数を持たない。全ての素数は自分自身と1しか約数を持たない。合成数は少なくとも3つの約数を持つ。点の大きさを対応する数字の約数の数で表現し、素数を赤、合成数を青とすると、このような図が現れる。


脚注[編集]

  1. ^ a b c Gardner 1964, p. 122.
  2. ^ Stein, Ulam & Wells 1964, p. 520.
  3. ^ Hoffman 1988, p. 41.
  4. ^ Gardner 1971, p. 88.
  5. ^ Guide to the Martin Gardner papers, The Online Archive of California, (2009), p. 155, http://www.oac.cdlib.org/findaid/ark:/13030/kt6s20356s/ .
  6. ^ Jacobson Jr., M. J.; Williams, H. C (2003), “New quadratic polynomials with high densities of prime values”, Mathematics of Computation英語版 72 (241): 499–519, doi:10.1090/S0025-5718-02-01418-7 
  7. ^ Guy, Richard K. (2004), Unsolved problems in number theory (3rd ed.), Springer, p. 8, ISBN 978-0-387-20860-2, http://books.google.com/?id=1AP2CEGxTkgC&printsec=frontcover 

参考文献[編集]

外部リンク[編集]