素数定理

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素数定理(そすうていり、: Prime number theorem: Primzahlsatz)とは自然数の中に素数がどのくらいの「割合」で含まれているかを述べる定理である。素数が自然数の中にどのように分布しているのかという問題は整数論において基本的な関心事であるが極めて難しく、2014年現在でも解明されていない部分も多い。この定理はその問題について重要な情報を与える。

歴史[編集]

この定理は、18世紀末にガウスルジャンドルによって予想された(ガウス自身の言によればそれは1792年のガウス15歳のときである)。実際にはルジャンドルが初めて自身の著『数の理論』で公表し、少年ガウスがそれを知っていたことはガウスの死後の1863年に全集が出るまでは知られず、ガウス自身は素数定理については友人エンケに一度だけ手紙(1849年)で触れただけであった。

その後チェビシェフによる部分的な結果(1850年頃)や、リーマンによる新たな解析的方法が発表された[1]が、最終的には1896年ド・ラ・ヴァレー・プーサンジャック・アダマールがそれぞれ独立に証明した。当初与えられた証明はゼータ関数複素関数論を用いる高度なものであったが、1949年アトル・セルバーグポール・エルデシュは独立に初等的な証明を与えた。ウィーナーや池原止戈夫らによるタウバー型定理によって、素数定理と「ゼータ関数が Re s = 1 上に零点を持たないこと」との同値性がすでに確立されていたために、この初等的な証明は大きな驚きをもって迎えられた。

定理の内容[編集]

具体的には、この定理は次の式で表される。

\pi (x)\sim \operatorname{Li} x

これは「π(x) を Li x近似できる」という意味であり、

\lim_{x\to \infty} \frac{\operatorname{Li} x}{\pi (x)} =1

ということである。

π(x) は素数の個数関数または素数計数関数 (prime counting function) で、x 以下の素数の個数を表す。また Li x(補正)対数積分 (logarithmic integral) で、次の積分で定義される:

\operatorname{Li} x=\int_2^x \frac{dt}{\ln t}

(積分の下端は正でさえあれば定理の本質に関係しないが、慣例的に最初の素数である 2 を選ぶことが多い)

また、対数積分を1回部分積分すると、

\int_2^x \frac{dt}{\ln t} =\frac{x}{\ln x} +O\left( \frac{x}{(\ln x)^2} \right)

となる。ただし Oランダウの記号である。このことから、定理を次のように述べることもできる。

\pi (x)\sim \frac{x}{\ln x}

これは同様に x/ln x で近似できるということを意味する。こちらのほうが近似精度は少し悪くなるが計算上扱い易い。これを

\frac{\pi (x)}{x} \sim \frac{1}{\ln x}

と変形すれば、x 以下での素数の割合が 1/ln x で近似できることが分かる。

上の2通りの近似は x が小さくても比較的正確である(以下の表を参照)。

また、n 番目の素数を pn とすると、n ≥ 6 に対して

n ln n + n ln ln nn < pn < n ln n + n ln ln n

が成り立つ。(ピエール・デザルト

π(x), x / ln x, li(x) の表[編集]

表は π(x) の正確な値を x / ln x と li(x) の2つの近似と比較している。最後の列、x / π(x)、は x 以下の平均 en:prime gap である。

近似の様子
x π(x) π(x) − x / ln x π(x) / (x / ln x) li(x) − π(x) x / π(x)
10 4 −0.3 0.921 2.2 2.500
102 25 3.3 1.151 5.1 4.000
103 168 23 1.161 10 5.952
104 1,229 143 1.132 17 8.137
105 9,592 906 1.104 38 10.425
106 78,498 6,116 1.084 130 12.740
107 664,579 44,158 1.071 339 15.047
108 5,761,455 332,774 1.061 754 17.357
109 50,847,534 2,592,592 1.054 1,701 19.667
1010 455,052,511 20,758,029 1.048 3,104 21.975
1011 4,118,054,813 169,923,159 1.043 11,588 24.283
1012 37,607,912,018 1,416,705,193 1.039 38,263 26.590
1013 346,065,536,839 11,992,858,452 1.034 108,971 28.896
1014 3,204,941,750,802 102,838,308,636 1.033 314,890 31.202
1015 29,844,570,422,669 891,604,962,452 1.031 1,052,619 33.507
1016 279,238,341,033,925 7,804,289,844,393 1.029 3,214,632 35.812
1017 2,623,557,157,654,233 68,883,734,693,281 1.027 7,956,589 38.116
1018 24,739,954,287,740,860 612,483,070,893,536 1.025 21,949,555 40.420
1019 234,057,667,276,344,607 5,481,624,169,369,960 1.024 99,877,775 42.725
1020 2,220,819,602,560,918,840 49,347,193,044,659,701 1.023 222,744,644 45.028
1021 21,127,269,486,018,731,928 446,579,871,578,168,707 1.022 597,394,254 47.332
1022 201,467,286,689,315,906,290 4,060,704,006,019,620,994 1.021 1,932,355,208 49.636
1023 1,925,320,391,606,803,968,923 37,083,513,766,578,631,309 1.020 7,250,186,216 51.939
1024 18,435,599,767,349,200,867,866 339,996,354,713,708,049,069 1.019 17,146,907,278 54.243
1025 176,846,309,399,143,769,411,680 3,128,516,637,843,038,351,228 1.018 55,160,980,939 56.546
OEIS A006880 A057835 A057752

π(1024) の値はもともとリーマン予想を仮定して計算されたが[2]、その後無条件で証明された[3]

算術級数の素数定理[編集]

この定理はまた、算術級数(等差数列)中の素数に関しても拡張されており、これを算術級数の素数定理という:

すなわち、算術級数 an + b (a > 0) に含まれる素数で、x 以下のものの数を πa,b(x) で表すとき、

\pi_{a,b} (x)\sim \frac{1}{\phi (a)} \operatorname{Li} x

が成り立つ。ここで φ(n) はオイラーの関数と呼ばれるもので、 n と互いに素な n 以下の自然数の個数を表す。この漸近公式はルジャンドルやディリクレによって予想されていたが、これもド・ラ・ヴァレー・プーサンによって証明された。近年、Ivan Soprounov により、より初等的な証明が発見された。

誤差評価[編集]

より詳しくは、現今最良の近似の誤差は次の結果である(ヴィノグラードフの素数定理)。充分大きな x について,

\pi (x)=\operatorname{Li} x+O\left( x\exp \left\{ -c(\ln x)^{\frac{3}{5}} (\ln \ln x)^{-\frac{1}{5}} \right\} \right)

ただし、c > 0 は絶対常数である. さらに、1901年ヘルゲ・フォン・コッホは、もしリーマン予想が正しければ次のように誤差評価を改善できることを証明した。

\pi (x)=\operatorname{Li} x+O\left( \sqrt{x} \ln x\right)

逆に、上記の評価式が成り立てばリーマン予想が成り立つことも知られている。

また前節で挙げた表を見れば分かるように、x が小さければ

\pi (x)<\operatorname{Li} x

が成り立っている。これが全ての x で成り立つであろうと、ガウスリーマンさえも予想していたが、これが正しくないことは1914年にリトルウッドが初めて示した。これが成り立たない最小の xスキューズ数というが、具体的な値はほとんど分かっていない。

より詳しくいえば

\pi (x)-\operatorname{Li} x

x が大きくなるにつれて、無限に符号を変える。

リーマン関数[編集]

リーマンは、リーマン関数

R(x) = \sum_{m=1}^\infty \frac{\mu(m)}{m} \operatorname{Li} x^\frac{1}{m}

を用いて、π(x) に関する以下の公式を与えた。

\pi(x)=R(x)-\sum_{\rho} R(x^\rho )

ただし、和はゼータ関数の複素零点 ρ 全体をわたる。

R(x) の項だけをとっても、これは Li x よりかなり良い近似を与える。

R(x) は、以下の級数を用いて計算可能である[4]

R(x)=1+\sum_{n=1}^\infty \left\{ \frac{1}{n\zeta (n+1)} \cdot \frac{(\ln x)^n}{n!} \right\}

有限体上の既約多項式での類似[編集]

有限体上の既約多項式の「分布」を記述する素数定理の類似がある。形式は古典的な素数定理の場合に全く同一に見える。

このことを詳しく述べるために、F = GF(q) を q 個の元を持つ有限体とし、ある固定された q に対し、Nnモニック英語版(monic)で既約な F 上の多項式で、次数が n となるものの数を表すとする。モニックな既約多項式とは、つまり、F の中に係数をもつ多項式と見て、小さな次数の積としては書くことができないような多項式とする。この設定では、モニックな既約多項式は、他の全てのモニックな多項式はモニックな既約多項式の積で書くことができるので、素数の役割を果たす。すると次のことを証明することができる。

N_n \sim \frac{q^n}{n}.

x = qn を代入すると、この式の右辺は、

\frac{x}{\log_q x}

であり、類似がより明白になる。qn は次数 n のモニックな既約多項式であるので、このことは次のように言い換えることができる。次数 n のモニック多項式をランダムに選ぶと、既約である確率は、約 1/n である。

リーマン予想の類似、すなわち、

N_n = \frac{q^n}n + O\left(\frac{q^{n/2}}{n}\right)

が成り立つことを証明することができる。

多項式についての命題の証明は、古典的な(数についての)命題の証明に比較して、非常に易しい。短い組み合わせ的な議論により証明することができる。[5] まとめると、F の次数 n の拡大の全ての元は、n を割る次数 d のある既約多項式の根であり、2つの方法でこれらの根の数を数え上げることにより、

q^n = \sum_{d\mid n} d N_d

を成立させることができる。ここに和は n の因子 d の全てを渡る。よって、μ(k) をメビウス函数とすると、反転公式は、

N_n = \frac1n \sum_{d\mid n} \mu(n/d) q^d

である。(この公式をガウスは既に知っていた。)主要項は d = n であり、残余項の境界を示すことは難しくはない。多項式の「リーマン予想」の命題は、最大な n の n 未満の因子は n/2 よりも大きくはなり得ないという事実には依存しない。

脚注[編集]

  1. ^ 1859年の論文「与えられた数より小さい素数の個数について
  2. ^ Conditional Calculation of pi(1024)”. Chris K. Caldwell. 2010年8月3日閲覧。
  3. ^ Computing π(x) Analytically)”. 2012年7月25日閲覧。
  4. ^ Gram, 1893
  5. ^ Chebolu, Sunil; Ján Mináč (December 2011). “Counting Irreducible Polynomials over Finite Fields Using the Inclusion-Exclusion Principle”. Mathematics Magazine 84 (5): 369–371. doi:10.4169/math.mag.84.5.369. http://www.jstor.org/stable/10.4169/math.mag.84.5.369. 

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]