素数定理
素数定理(そすうていり、英: Prime number theorem、独: Primzahlsatz)とは自然数の中に素数がどのくらいの「割合」で含まれているかを述べる定理である。素数が自然数の中にどのように分布しているのかという問題は整数論において基本的な関心事であるが極めて難しく、2012年現在でも解明されていない部分も多い。この定理はその問題について重要な情報を与える。
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歴史[編集]
この定理は、18世紀末にガウスやルジャンドルによって予想された(ガウス自身の言によればそれは1792年のガウス15歳のときである)。実際にはルジャンドルが初めて自身の著『数の理論』で公表し、少年ガウスがそれを知っていたことはガウスの死後の1863年に全集が出るまでは知られず、ガウス自身は素数定理については友人エンケに一度だけ手紙(1849年)で触れただけであった。
その後チェビシェフによる部分的な結果(1850年頃)や、リーマンによる新たな解析的方法が発表された[1]が、最終的には1896年にド・ラ・ヴァレー・プーサンとジャック・アダマールがそれぞれ独立に証明した。当初与えられた証明はゼータ関数と複素関数論を用いる高度なものであったが、1949年にアトル・セルバーグとポール・エルデシュは独立に初等的な証明を与えた。ウィーナーや池原止戈夫らによるタウバー型定理によって、素数定理と「ゼータ関数が Re(s) = 1 上に零点を持たないこと」との同値性がすでに確立されていたために、この初等的な証明は大きな驚きをもって迎えられた。
定理の内容[編集]
具体的には、この定理は次の式で表される。

これは「π(x) を Li(x) で近似できる」と読むことができ、

ということである。
は素数の個数関数または素数計数関数 (prime counting function) で、x 以下の素数の個数を表す。また Li(x) は(補正)対数積分 (logarithmic integral) で、次の積分で定義される:

(積分の下端は正でさえあれば定理の本質に関係しないが、慣例的に最初の素数である 2 を選ぶことが多い)
また、対数積分を1回部分積分すると、

となる。ただし O はランダウの記号である。このことから、定理を次のように述べることもできる。

これは同様に x/ln x で近似できるということを意味する。こちらのほうが近似精度は少し悪くなるが計算上扱い易い。これを

と変形すれば、x 以下での素数の割合が 1 / ln x で近似できることが分かる。
上の2通りの近似は x が小さくても比較的正確である。
| x | π(x) | Li(x) | x/ln x | π(x)/Li(x) | ![]() |
|---|---|---|---|---|---|
| 10 | 4 | 5.12... | 4.34... | 0.78118... | 0.92103... |
| 100 | 25 | 29.08... | 21.71... | 0.85966... | 1.1513... |
| 1000 | 168 | 176.56... | 144.76... | 0.95149... | 1.1605... |
| 10000 | 1229 | 1245.09... | 1085.73... | 0.98708... | 1.1320... |
| 100000 | 9592 | 9628.76... | 8685.89... | 0.99618... | 1.1043... |
| 1000000 | 78498 | 78626.50... | 72382.41... | 0.99837... | 1.0845... |
| 10000000 | 664579 | 664917.35... | 620420.69... | 0.99949... | 1.0712... |
| 100000000 | 5761455 | 5762208.33... | 5428681.02... | 0.99987... | 1.0613... |
また、pn を n 番目の素数とすると、n ≥ 6 に対して
- n ln n + n ln ln n − n < pn < n ln n + n ln ln n
が成り立つ。(ピエール・デザルト)
算術級数の素数定理[編集]
この定理はまた、算術級数(等差数列)中の素数に関しても拡張されており、これを算術級数の素数定理という:
すなわち、算術級数 an + b (a > 0) に含まれる素数で、x 以下のものの数を πa,b(x) で表すとき、

が成り立つ。ここで φ(n) はオイラーの関数と呼ばれるもので、 n と互いに素な n 以下の自然数の個数を表す。この漸近公式はルジャンドルやディリクレによって予想されていたが、これもド・ラ・ヴァレー・プーサンによって証明された。近年、Ivan Soprounov により、より初等的な証明が発見された。
誤差評価[編集]
より詳しくは、現今最良の近似の誤差は次の結果である(ヴィノグラードフの素数定理)。充分大きな x について,

但し,c>0 は絶対常数である. 更に、1901年にヘルゲ・フォン・コッホは、もしリーマン予想が正しければ次のように誤差評価を改善できることを証明した。

逆に、上記の評価式が成り立てばリーマン予想が成り立つことも知られている。
また前節であげた表を見ればわかるように、xが小さければ

が成り立っている。これがすべてのxで成り立つであろうと、ガウスやリーマンさえも予想していたが、これが正しくないことは1914年にリトルウッドが初めて示した。これが成り立たない最小の x をスキューズ数というが、具体的な値はほとんど分かっていない。
より詳しくいえば

は x が大きくなるにつれて、無限に符号を変える。
リーマン関数[編集]
リーマンは、リーマン関数

を用いて、
に関する以下の公式を与えた。

ただし、和はゼータ関数の複素零点 ρ 全体をわたる。
R(x) の項だけをとっても、これは
よりかなり良い近似を与える。
R(x) は、以下の級数を用いて計算可能である[2]。

脚注[編集]
- ^ 1859年の論文「与えられた数より小さい素数の個数について」
- ^ Gram, 1893
参考文献[編集]
- 本橋洋一,解析的整数論 I -- 素数分布論 --,朝倉書店,東京 2009(第2刷 2012: 加筆含む)ISBN 978-4-254-11821-6
- 日本数学会市民講演 ”素数の翼に乗って” http://mathsoc.jp/publication/tushin/1001/motohashi.pdf
- ウワディスワフ・ナルキェヴィッチ 『素数定理の進展』上、中嶋眞澄訳、シュプリンガー・ジャパン、2008年6月。ISBN 978-4-431-71086-8。
- ウワディスワフ・ナルキェヴィッチ 『素数定理の進展』上、中嶋眞澄訳、丸善出版、2012年7月17日。ISBN 978-4-621-06315-6。 - ナルキェヴィッチ(2008)の復刊。
- 松本耕二 「第3章 素数定理」『リーマンのゼータ関数』 朝倉書店〈開かれた数学 1〉、2005年11月。ISBN 4-254-11731-0。
- 吉田信夫 『複素解析の神秘性 複素数で素数定理を証明しよう!』 アップ研伸館編集、現代数学社、2011年10月。ISBN 978-4-7687-0416-5。
- A-M.ルジャンドル 『数の理論』 高瀬正仁訳、海鳴社、2007年12月。ISBN 978-4-87525-245-0。
関連項目[編集]
| ウィキブックスに素数定理関連の解説書・教科書があります。 |
- ドイツ語の素数定理の証明。
外部リンク[編集]
- Weisstein, Eric W., "Prime Number Theorem" - MathWorld.(英語)
- Weisstein, Eric W., "Skewes Number" - MathWorld.(英語)
