「アレクトロサウルス」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
en:Alectrosaurus 2022-07-29 16:08 (UTC) を翻訳し、出典とニュアンスの異なる部分などを修正。また、日本語文献による補強あり。
タグ: サイズの大幅な増減
17行目: 17行目:
*''A. olseni'' {{AUY|Gilmore|1933}}([[タイプ (分類学)|模式種]])
*''A. olseni'' {{AUY|Gilmore|1933}}([[タイプ (分類学)|模式種]])
}}
}}
'''アレクトロサウルス'''([[学名]]:'''''Alectrosaurus''''')は、[[ティラノサウルス上科]]に属する[[獣脚類]]の[[恐竜]]の[[属 (分類学)|属]]。1923年のモンゴル化石発掘遠征において、現在の[[内モンゴル自治区]]([[中華人民共和国]])でジョージ・オルセンが[[化石]]を発見した。学名は「未婚のトカゲ」を意味し、1個体あるいは2個体分の化石が異なる場所から発見されたことに由来する<ref name=松田2017>{{Cite book|和書|title=語源が分かる 恐竜学名辞典 |page=150 |publisher=[[北隆館]] |author=松田眞由美 |others=[[小林快次]]、藤原慎一(監修) |date=2017-01-20 |isbn=978-4-8326-0734-7}}</ref>。
'''アレクトロサウルス''' ([[学名]]:{{snamei||Alectrosaurus}}) は、[[中生代]][[白亜紀]]後期の間である約8300万 - 7400万年前に現在の[[内モンゴル自治区]]にあたる地域に生息していた、[[ティラノサウルス上科]]に分類される[[獣脚類]]の[[恐竜]]の属。中型の体躯の二足歩行の動物食性動物で、体型は本属よりも遥かに大型の[[ティラノサウルス]]に類似する。全長は5メートルと推定されている<ref name="Holtz2008">Holtz, Thomas R. Jr. (2011) ''Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages,'' [http://www.geol.umd.edu/~tholtz/dinoappendix/HoltzappendixWinter2010.pdf Winter 2010 Appendix.]</ref>。

タイプ標本は[[後期白亜紀|上部白亜系]]の[[バインシレ層]]から産出している<ref name=ポール2020>{{Cite book|和書|title=グレゴリー・ポール恐竜事典 原著第2版 |page=118 |author=[[グレゴリー・ポール]] |translator=[[東洋一]]、今井拓哉、河部壮一郎、柴田正輝、関谷透、服部創紀 |date=2020-08-30 |pubisher=[[共立出版]] |isbn=978-4-320-04738-9}}</ref>。推定全長は5メートルと見積られる<ref name=松田2017/>。既知の標本が成体である場合、森林地帯に生息し、近い体サイズの動物を[[捕食]]したと考えられている<ref name=ポール2020/>。


== 発見と命名 ==
== 発見と命名 ==
[[File:Excavation of Alectrosaurus hind limb in 1923.jpg|thumb|left|250px|1923年、''A. olseni''標本AMNH 6554 の右後肢の発掘。右側はジョージ・オルセン]]
[[File:Alectrosaurm olseni.jpg|thumb|150px|left|[[アメリカ自然史博物館]]所蔵アレクトロサウルス・オルセニの右脚 AMNH 6554]]
[[1923年]]ウォルター・ウィリス・グジャをチーフとして[[アメリカ自然史博物館]]による3次アジア調査が行われ[[モンゴル国]]で恐竜化石の発掘が行われた。[[4月25日]]に助手古生物学者ジョージ・オルセンほぼ完全なの後肢であるホロタイプ標本 '''AMNH 6554''' を発した。これは[[大腿骨]]の遠位端[[腓骨]]および[[脛骨]]・[[距骨]]・[[踵骨]]・3本の[[中足骨]]を含む足の骨・前肢の[[鉤爪]]・手及手首・ピュービックブーツとして知られる[[恥骨]]の遠位端がまれる[[5月4日]]には、オルセンが別の標本 '''AMNH 6368''' を最初の標本から30メートル離れた地点で発見した。この標本にはの[[上腕骨]]・前肢の完全な2本の[[指骨]]・断片的な[[尾椎]]およびそ他保存状態の悪い骨格要素が含まれ。これらの標本は現在の[[華人民共和]]の内モンゴル自治区 Iren Dabasu 層で発見された<ref name="CWG33">{{cite journal | last1 = Gilmore | first1 = C.W. | year = 1933 | title = On the dinosaurian fauna of the Iren Dabasu Formation | url = | journal = Bulletin of the American Museum of Natural History | volume = 67 | issue = | pages = 23–78 }}</ref>。この層の時代は明確ではないが、約8300万 - 7200万年前である[[後期白亜紀]][[カンパニアン]]にあたるとされている
1923年、[[古生物学|古生物学者]]ウォルター・G・グ率いる[[アメリカ自然史博物館]]次アジア遠征において、モンゴルにおける恐竜化石の発掘が行われていた。4月25日、[[ゴビ砂漠]]にて、アシスタントの古生物学者であったジョージ・オルセンほぼ完全な1本後肢である[[ホロタイプ]]標本 '''AMNH 6554''' を発掘・回収した。これは[[]]と2本の前肢の[[末節骨]]、およ実質的に完全な右後肢をんだ。5月4日、オルセン最初に発見した化石から30メートル離れた地点で別の標本を発見した。当該標本 '''AMNH 6368''' には、1本[[上腕骨]]・2本完全な指骨・4個の断片的な[[尾椎]]のほか、劣悪な状態のため処分された2, 3個の不特定の要素が含まれ。これらの発見は現在の中国・[[内モンゴル自治区]]の[[イレンダバス]]のことであった<ref name=Gilmore1933>{{cite journal|last1=Gilmore|first1=C. W.|year=1933|title=On the dinosaurian fauna of the Iren Dabasu Formation|journal=Bulletin of the American Museum of Natural History|volume=67|issue=2|pages=23–78|hdl=2246/355}}</ref>。


属名は「一人ぼっちのトカゲ」を意味し、[[ギリシ語]]の alektros sauros に由来する。種小名のオルセニは初めて標本を発見したジョージ・オルセンへの献名である。属名と種小名はいずれも[[1933年]]にチャールズ・ギルモアによって記載・命名された
属名と種名はアメリカの古生物学者[[チャールズ・W・ギルモア]]が[[1933年]]に命名した。属名の ''Alectrosaurus'' は「孤独なトカゲ」あるいは「未婚のトカゲ」と訳すことができ、[[ギリシ語]]で「孤独な」「未婚」を意味する '''''{{lang|grc|ἄλεκτρος}}''''' および「トカゲ」を意味する '''{{lang|grc|σαῦρος}}''' に由来する。種小名の ''olseni'' 標本を発見したジョージ・オルセンへの献名である<ref name=Gilmore1933/>


=== 割り当てれた標本 ===
=== なる標本 ===
[[File:Alectrosaurm olseni.jpg|thumb|upright|''A. olseni'' のホロタイプの右足。[[アメリカ自然史博物館]]所蔵]]
同程度の長さの後肢と頭骨と肩の骨を含む他の骨格もアレクトロサウルスに割り当てられている。この標本は[[外蒙古]]の[[バインシレ層]]で発見され、この層も時代は特定されていない<ref name=AP77>Perle, A. (1977). [On the first finding of ''Alectrosaurus'' (Tyrannosauridae, Theropoda) in the Late Cretaceous of Mongolia.] ''Problemy Geologii Mongolii'' '''3''':104-113. [In Russian]</ref>。バインシレ層はカンパニアン階に含まれる可能性があるが、後の研究により[[セノマニアン]]期から[[サントニアン]]期に堆積したことが示唆されている<ref name=H99>{{cite journal | last1 = Hicks | first1 = J.F. | last2 = Brinkman | first2 = D.L. | last3 = Nichols | first3 = D.J. | last4 = Watabe | first4 = M. | year = 1999 | title = Paleomagnetic and palynological analyses of Albian to Santonian strata at Bayn Shireh, Burkhant, and Khuren Dukh, eastern Gobi Desert, Mongolia | url = | journal = Cretaceous Research | volume = 20 | issue = 6| pages = 829–850 | doi=10.1006/cres.1999.0188}}</ref>。Iren Dabasu 層とバインシレ層の恐竜相は類似しており、Iren Dabasu 層はカンパニアン - [[マーストリヒチアン]]にあたり[[ネメグト層]]と関連があるため、アレクトロサウルスがネメグト層で発見されても驚くことではないと van Itterbeecka らは主張している<ref name=IHBV05>{{cite journal | last1 = van Itterbeecka | first1 = J. | last2 = Horne | first2 = D.J. | last3 = Bultynck | first3 = P. | last4 = Vandenbergh | first4 = N. | year = 2005 | title = Stratigraphy and palaeoenvironment of the dinosaur-bearing Upper Cretaceous Iren Dabasu Formation, Inner Mongolia, People's Republic of China | url = | journal = Cretaceous Research | volume = 26 | issue = | pages = 699–725 | doi=10.1016/j.cretres.2005.03.004}}</ref>。さらに、アレクトサウルスの可能性がある部分的な骨格が内外モンゴルのいずれからも複数発見されている<ref name=PJC01>Currie, P.J. (2001). Theropods from the Cretaceous of Mongolia. In: Benton, M.J., Shishkin, M.A., Unwin, D.M., and Kurochkin, E.N. (Eds.). ''The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia''. Cambridge University Press:Cambridge, 434-455. {{ISBN|0-521-54582-X}}.</ref>。
その後、さらなる化石がアレクトロサウルスと呼称された。1977年には、モンゴルの古生物学者 Altangerel Perle により[[バインシレ層]]の2個の追加標本が報告されており、アレクトロサウルスの可能性がある。標本 '''IGM 100/50''' は部分的な[[上顎骨]]・[[肩甲骨]]・[[烏口骨]]・前肢の末節骨からなり、標本 '''IGM 100/51''' は下顎と他の要素を伴う断片的頭蓋骨・不完全な[[腸骨]]・右[[中足骨]]からなる。これらの化石は[[外蒙古|外モンゴル]]で発見された<ref name=Perle1977>{{cite journal |last1=Perle|first1=A.|title=O pervoy nakhodke Alektrozavra (Tyrannosauridae, Theropoda) iz pozdnego Mela Mongolii|trans-title=On the first discovery of Alectrosaurus (Tyrannosauridae, Theropoda) in the Late Cretaceous of Mongolia|journal=Shinzhlekh Ukhaany Akademi Geologiin Khureelen|year=1977|volume=3|issue=3|pages=104–113|language=Russian}}</ref><ref name=Mader1989>{{cite journal|last1=Mader|first1=B. J.|last2=Bradley|first2=R. L.|year=1989|title=A redescription and revised diagnosis of the syntypes of the Mongolian tyrannosaur Alectrosaurus olseni|journal=Journal of Vertebrate Paleontology|volume=9|issue=1|pages=41–55|doi=10.1080/02724634.1989.10011737}}</ref>。イレンダバス層とバインシレ層は恐竜の動物相が非常に類似しており、アレクトロサウルスがバインシレ層で発見されても不自然ではない。さらに、内モンゴルと外モンゴルで発見されている複数の部分的骨格もアレクトロサウルスに属する可能性がある<ref>{{cite book|last1=Benton|first1=M. J.|last2=Shishkin|first2=M. A.|last3=Unwin|first3=D. M.|last4=Kurochkin|first4=E. N.|title=The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia|date=2003|publisher=Cambridge University Press|isbn=0-521-54582-X|pages=434–455}}</ref>。アレクサンダー・アヴェリアノフとハンス=ディエター・スースは、2012年にイレンダバス層を[[サントニアン]]階と推定し、上部バインシレ層と対比した<ref name=Averianov2012>{{cite journal|first1=A. |last1=Averianov |first2=H. |last2=Sues |year=2012 |title=Correlation of Late Cretaceous continental vertebrate assemblages in Middle and Central Asia |journal=Journal of Stratigraphy |volume=36 |issue=2 |pages=462–485 |s2cid=54210424 |url=http://pdfs.semanticscholar.org/df17/104349a1f7fd4dfd76252f91817fe5f58fb6.pdf |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190307103653/http://pdfs.semanticscholar.org/df17/104349a1f7fd4dfd76252f91817fe5f58fb6.pdf|url-status=dead |archivedate=2019-03-07}}</ref>。Van Itterbeeck et al. 2005 は、イレンダバス層がおそらく[[カンパニアン]]-[[マーストリヒチアン]]階であることを示唆し、[[ネメグト層]]と対比される可能性があるとした<ref name=Itterbeeck2005>{{cite journal|last1=Van Itterbeeck |first1=J. |last2=Horne |first2=D. J. |last3=Bultynck |first3=P. |last4=Vandenberghe |first4=N. |year=2005 |title=Stratigraphy and palaeoenvironment of the dinosaur-bearing Upper Cretaceous Iren Dabasu Formation, Inner Mongolia, People's Republic of China |url=https://www.academia.edu/3856254 |journal=Cretaceous Research |volume=26 |issue=4 |pages=699–725 |doi=10.1016/j.cretres.2005.03.004}}</ref>。


ホロタイプの付近では、1923年に標本 '''AMNH 6556''' が同一層準の異なる地点で発見されている。当該標本は前上顎骨歯および側縁歯・不完全な左[[涙骨]]・左[[頬骨]]の上顎突起・部分的な右[[方形頬骨]]・右外翼状骨の頬骨突起・右[[翼状骨]]に伸びる方形枝からなる。当該標本は小型個体を代表するようである。当該標本は後肢要素を欠くためアレクトロサウルスとの直接比較が極めて複雑であり、アレクトロサウルスとの関係性は未解決である<ref name=CarrW2005>{{cite journal|last1=Carr|first1=T. D. |last2=Williamson |first2=T. E. |title=A reappraisal of tyrannosauroids from Iren Dabasu, Inner Mongolia, People's Republic of China |year=2005 |journal=Journal of Vertebrate Paleontology |volume=25 |issue=3}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Carr |first1=T. D. |last2=Varricchio |first2=D. J. |last3=Sedlmayr |first3=J. C. |last4=Roberts |first4=E. M. |last5=Moore |first5=J. R. |date=2017 |title=A new tyrannosaur with evidence for anagenesis and crocodile-like facial sensory system |journal=Scientific Reports |volume=7 |issue=44942 |page=44942 |doi=10.1038/srep44942|doi-access=free |pmc=5372470 |pmid=28358353 |bibcode=2017NatSR...744942C}}</ref>。
== 記載 ==
[[File:Alectrosaurus.png|thumb|200px|ホロタイプ標本の復元図とヒトの比較]]
アレクトロサウルスは中型の体躯の肉食恐竜である。アレクトロサウルスは脛骨と大腿骨の長さが近く、これは脛骨が長い[[ティラノサウルス上科]]の多数派と対照的である。後ろ足および足首の長さも脛骨の長さに近く、これは足の方が長い大半のティラノサウルス上科と特徴を異とする。


なお、[[日本]]の[[幕張メッセ]]で開催された恐竜博2006では標本長45センチメートルの右大腿骨<ref name=恐竜博2006/>、恐竜博2009では標本長34.5センチメートルの下顎がそれぞれアレクトロサウルスのものとして展示された<ref name=恐竜博2009/>。ただし、展示時点でこれらをアレクトロサウルスと見なす統一的見解があるわけではない<ref name=恐竜博2006>{{Cite book|和書|page=148 |title=世界の大恐竜博2006 生命と環境 進化のふしぎ |publisher=[[日本経済新聞社]]、[[日本放送協会]]、[[NHKプロモーション]]、[[日経ナショナルジオグラフィック社]] |year=2006 |author1=長谷川善 |author2=ケネス・カーペンター |author3=董枝明 |author4=[[徐星]]}}</ref><ref name=恐竜博2009>{{Cite book|和書|page=144 |title=恐竜2009 砂漠の奇跡!!|publisher=[[日本経済新聞社]]、[[テレビ東京]]、[[日経ナショナルジオグラフィック社]] |author1=長谷川善 |author2=ケネス・カーペンター |author3=マット・ラマンナ |author4=[[徐星]]}}</ref>。
== 分類 ==
1933年にチャールズ・ギルモアは研究に利用できる標本を検査し、両標本に由来する鉤爪が類似しているという観察に基づいて、AMNH 6554 と AMNH 6368 を同一の属の[[シンタイプ]]と結論付けた。彼は[[ゴルゴサウルス]]の後肢の標本 AMNH 5664 との共通性に着目し、新属を現在[[ティラノサウルス科]]と同義と考えられているデイノドントとして分類した。標本が断片的であるため、他の[[ティラノサウルス上科]]の恐竜との関係は確定しておらず、多くの系統解析でアレクトロサウルスは省略されている。ある研究では、[[最大節約法]]において[[ティラノサウルス上科]]の[[クラドグラム]]で8等に位置付けられている<ref name=TRHJ04>Holtz, T.R. (2004). Tyrannosauroidea. In: Weishampel, D.A., Dodson, P., and Osmólska, H. (Eds.). ''The Dinosauria'' (2nd Edition). University of California Press:Berkeley, 111-136. {{ISBN|0-520-24209-2}}.</ref>。


== 説明 ==
アレクトロサウルスは元々前肢の長い獣脚類として特徴づけられていたが、[[1989年]]にマダーとブラッドレイは前肢 AMNH 6368 がアレクトロサウルスの個体でなく[[セグノサウルス科]]に属するとした<ref name=AP77/><ref name=MB89>{{cite journal | last1 = Mader | first1 = B.J. | last2 = Bradley | first2 = R.L. | year = 1989 | title = A redescription and revised diagnosis of the syntypes of the Mongolian tyrannosaur ''Alectrosaurus olseni'' | url = | journal = Journal of Vertebrate Paleontology | volume = 9 | issue = 1| pages = 41–55 | doi=10.1080/02724634.1989.10011737}}</ref>。残る標本 AMNH 6554 は本当のティラノサウルス上科の後肢であるとされ、アレクトロサウルス・オルセニのレクトタイプ標本に指定された。また、マダーとブラッドレイは尾椎 AMNH 21784 をアレクトロサウルスへ割り当てた。彼らは後肢のプロポーションに基づいてアレクトロサウルスが[[タルボサウルス|マレエヴォサウルス]]に近縁であるとした。
[[File:Alectrosaurus.png|thumb|left|ホロタイプに基づく生体復元図]]
レクトタイプ標本 AMNH 6554 は断片的であり、遠位[[足根骨]]要素のみを欠くほぼ完全な右後肢、左第II・III・IV[[中足骨]]、断片的な[[恥骨]]の遠位端からなる。ただし、恥骨が左右どちらのものであるかは不明である<ref name=Gilmore1933/><ref name=Mader1989/>。


アレクトロサウルスは中型の[[ティラノサウルス上科]]であり、全長は5 - 6メートルに達し、体重は454 - 907キログラムに及ぶ<ref name=Holtz2012>{{cite book|last1=Holtz|first1=T. R.|last2=Rey|first2=L. V.|title=Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages|date=2007|publisher=Random House}} [https://www.geol.umd.edu/~tholtz/dinoappendix/HoltzappendixWinter2011.pdf Genus List for Holtz 2012] [https://www.geol.umd.edu/~tholtz/dinoappendix/appendix.html Weight Information]</ref><ref>{{cite book |last1=Brett-Surman |first1=M. K. |last2=Holtz |first2=T. R. |last3=Farlow |first3=J. O. |title=The Complete Dinosaur |date=2012 |publisher=Indiana University Press |page=360 |isbn=978-0-2533-5701-4 |url=https://books.google.com/books?id=Hk5ecvEv0GcC}}</ref>。全体として、両後肢は華奢であり、頑強な[[ティラノサウルス科]]とは対照的である。[[脛骨]]長と[[大腿骨]]長は非常に近く、脛骨がより長い他のティラノサウルス上科の大多数とは対照的である。大腿骨長は72.7センチメートル、脛骨長は72.7センチメートルである。他のティラノサウルス上科と比較して中足骨の大きさも脛骨のそれに近く、長い。最大の中足骨は第III中足骨であり、長さは48センチメートルに達する<ref name=Gilmore1933/><ref name=Scott2016>{{cite journal|last1=Scott Persons IV|first1=W.|last2=Currie|first2=P. J.|date=2016|title=An approach to scoring cursorial limb proportions in carnivorous dinosaurs and an attempt to account for allometry|journal=Scientific Reports |volume=6 |issue=19828 |page=19828 |doi=10.1038/srep19828|doi-access=free |pmc=4728391 |pmid=26813782 |bibcode=2016NatSR...619828P}}</ref>。[[距骨]]と[[踵骨]]は保存が良いものの、距骨は僅かに損傷しているように見える。それらは強く接着しているが、癒合はしていない<ref name=Gilmore1933/>。
アレクトロサウルスを[[アルバートサウルス]]属の種とする古生物学者もいる<ref name="ageofdinosaursalbertosaurus">"Albertosaurus." In: Dodson, Peter & Britt, Brooks & Carpenter, Kenneth & Forster, Catherine A. & Gillette, David D. & Norell, Mark A. & Olshevsky, George & Parrish, J. Michael & Weishampel, David B. ''The Age of Dinosaurs''. Publications International, LTD. p. 106-107. {{ISBN|0-7853-0443-6}}.</ref>。


=== 解剖学的特徴の識別 ===
バヤンシレ層の化石は本当にアレクトロサウルスであるか不明で、さらなる研究が求められている。ある系統解析によると、2つの標本は他の分類群を排してグループ化していることが示唆されたため、同種ではないとしても少なくともかなり近縁な位置にある<ref name=TRHJ01>Holtz, T.R. (2001). The phylogeny and taxonomy of the Tyrannosauridae. In: Tanke, D.H., and Carpenter, K. (Eds.). ''Mesozoic Vertebrate Life''. Indiana University Press:Bloomington, 64-83. {{ISBN|0-253-33907-3}}.</ref>。
原記載に続き、アレクトロサウルスは以下の特徴により識別される。長く細長い四肢を持つタイプのティラノサウルス上科である。大腿骨が長く細長い。第I指の末節骨と指骨が頑強であり、外側に圧搾され、強く湾曲する。大腿骨と脛骨の長さがほぼ等しい。距骨長は距骨と脛骨を合わせた長さの四分の一である<ref name=Gilmore1933/>。


Carr 2005 によると、アレクトロサウルスは後肢に存在する固有の特徴に基づいて識別が可能である。その特徴には、大腿骨の内側顆の後背側面から伸びるスパイク状の突起、腓骨上の[[脛骨]]との関節面の前側縁に沿って存在する切り立った張り出し、梁構造(buttless)の内側面の下部を削る距骨の腹外側梁構造(buttless)に隣接する[[腱]]の溝、第II趾の第2趾骨の近位面の背側縁の突出、縮小した第III趾、内側顆よりも顕著に深い第III基節骨の外側顆、頑丈な第IV趾の第2趾骨、第III中足骨上の第IV中足骨との関節面の前側に膨張した背側半分、その他が挙げられる<ref>{{cite book|last1=Carr|first1=T. D.|title=Phylogeny of Tyrannosauroidea (Dinosauria: Coelurosauria) with Special Reference to North American Forms|date=2005|publisher=University of Toronto|page=1170|isbn=0-494-02932-3|oclc=75087116}}</ref>。
以下はアレクトロサウルスの系統的位置を示すクラドグラムであり、Loewen らの[[2013年]]の研究に基づく<ref name=Loewen13>{{Cite journal | last1 = Loewen | first1 = M.A. | authorlink = Mark Loewen| last2 = Irmis | first2 = R.B. | authorlink2 = Randall B. Irmis| last3 = Sertich | first3 = J.J.W. | authorlink3 = Joseph Sertich| last4 = Currie | first4 = P. J. | authorlink4 = Philip J. Currie| last5 = Sampson | first5 = S. D. | authorlink5 = Scott D. Sampson| year = 2013| title = Tyrant Dinosaur Evolution Tracks the Rise and Fall of Late Cretaceous Oceans | url = http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0079420| editor-last = Evans | editor-first = David C| editor-link = David C. Evans| journal = [[PLoS ONE]] | volume = 8 | issue = 11 | pages = e79420 | doi = 10.1371/journal.pone.0079420 | pmid = 24223179| pmc = 3819173| ref = {{sfnRef|Loewen ''et al.''|2013}}}}</ref>。
{{clade| style=font-size:90%; line-height:80%
|label1=[[ティラノサウルス上科]]
|1={{clade
|label1=[[プロケラトサウルス科]]
|1={{clade
|1={{clade
|1=[[プロケラトサウルス]]
|2=[[キレスクス]]
|3=[[グアンロン]]}}
|2={{clade
|1=[[シノティラヌス]]
|2={{clade
|1=[[ジュラティラント]]
|2=[[ストケソサウルス]] }} }} }}
|2={{clade
|1=[[ディロング]]
|2={{clade
|1=[[エオティラヌス]]
|2={{clade
|1=[[バガラアタン]]
|2={{clade
|1=[[ラプトレックス]]
|2={{clade
|1=[[ドリプトサウルス]]
|2={{clade
|1={{clade
|1='''アレクトロサウルス'''
|2=[[シオングアンロン]] }}
|2={{clade
|1=[[アパラチオサウルス]]
|2={{clade
|1={{clade
|1=[[アリオラムス|アリオラムス・アルタイ]]
|2=[[アリオラムス|アリオラムス・レモトゥス]] }}
|2=[[ティラノサウルス科]] }} }} }} }} }} }} }} }} }} }}


=== 解剖学的特徴 ===
== 分類 ==
{{multiple image
カールの[[2005年]]の研究によると、アレクトロサウルスは以下の特徴に基づいて識別が可能である<ref>Carr, 2005. Phylogeny of Tyrannosauroidea (Dinosauria: Coelurosauria) with special reference to North American forms. Unpublished PhD dissertation. University of Toronto. 1170 pp.</ref>。
|align = right
* [[大腿骨]]の中央関節丘の尾側背側表面から棘状の構造が伸びる
|total_width = 250
* 大腿骨の後方表面に楕円形の傷が存在し、正中線に対し横方向である
|perrow = 2
* 距骨に対する脛骨の関節面の中央の縁が直線である
|image1 = AMNH 6368 Therizinosaur.png
* 浅い筋肉孔が腓骨中央の窪みから後方へ伸びている
|image2 = AMNH 6368 Therizinosaur humerus.png
* 脛骨に対する腓骨の関節面の前方の縁の長さに急な拡大が存在する
|footer = AMNH 6368 の末節骨を伴う指骨および右上腕骨。後に未確認の{{仮リンク|テリジノサウルス類|en|Therizinosauria}}のものであり、アレクトロサウルスのものではないことが確認された。
* 距骨の腹側側方の控え壁に隣接した腱の窪みが控え壁の中央表面をアンダーカットする
}}
* 第1中足骨の側方突縁の根本が三角形をなす
1933年、チャールズ・ギルモアは利用可能な標本を調査し、AMNH 6554 と AMNH 6368 が同一の属に属するシンタイプであると結論した。彼の結論は、両標本の前肢末節骨が形態学的に類似するという彼の観察に基づいていた。標本 AMNH 5664 ''[[ゴルゴサウルス|Gorgosaurus]] sternbergi'' の後肢にも類似性が観察されたことから、彼はこの新属をデイノドン科、すなわち現在[[ティラノサウルス科]]と同義であると考えられている科として分類した<ref name=Gilmore1933/>。断片的であるため、現在のところ他のティラノサウルス上科との関係性の復元において信頼性は乏しく、数多くの[[分岐学|分岐]]解析においてアレクトロサウルスは全体的に省略されている。ある研究では、ティラノサウルス上科の[[クラドグラム]]においてアレクトロサウルスは8か所を下らない等しく最節約的な位置に置かれた<ref>{{cite book|last1=Weishampel|first1=D. B. |last2=Dodson |first2=P. |last3=Osmolska |first3=H. |title=The Dinosauria, Second Edition |date=2007 |publisher=University of California Press |isbn=978-0-520-24209-8 |pages=111–136}}</ref>。''Alectrosaurus olseni'' を曖昧に[[アルバートサウルス]]の種として考える古生物学者もいる<ref>{{cite book|last1=Dodson |first1=P. |last2=Britt |first2=B. |last3=Carpenter |first3=K. |last4=Forster |first4=C. A. |last5=Gillete |first5=D. D. |last6=Norell |first6=M. A. |last7=Olshevsky |first7=G. |last8=Parrish |first8=J. M. |last9=Weishampel |first9=D. B. |title=The Age of Dinosaurs |chapter=Albertosaurus |date=1994 |publisher=Publications International, Ltd |pages=106–107 |isbn=0-7853-0443-6}}</ref>。
* 第1中足骨が前後方向に狭い

* 第1中足骨の遠位関節面の頂点が骨の中心線上に位置する
アレクトロサウルスは当初長い腕を持つ獣脚類として特徴づけられていた。Perle 1977 と Mader & Bradley 1989 は観察の結果、標本 AMNH 6368 が[[ティラノサウルス上科]]と形質を共有しないことからこの前肢を本属に属さないものとし、{{仮リンク|テリジノサウルス類|label=Therizinosauria|en|Therizinosauria}} ''[[incertae sedis]]'' に割り当てた<ref name=Perle1977/><ref name=Mader1989/>。残った標本 AMNH 6554 は真のティラノサウルス上科の形質を伴う後肢を代表しており、''Alectrosaurus olseni'' のレクトタイプ標本に割り当てられた<ref name=Mader1989/>。加えて、原記載に含まれなかった4個の小型の尾椎が AMNH 6368 に関連付けられた。未記載であったにも拘わらずそれらの尾椎は1984年に '''AMNH 21784''' としてカタログ化されており、Mader と Bradley がこれらの尾椎を記載した。[[デイノニクス]]や[[プラテオサウルス]]の尾椎に類似していることから、尾椎は系統学的にティラノサウルス科とテリジノサウルス科のいずれにも属さない小型獣脚類のものと暫定的に同定された<ref name=Mader1989/>。
* 第1中足骨の側面に相並んだ靭帯の窪みが隣接する遠位関節面に向かって前方腹側へ拡張しない

* 距骨 I-1 の側方関節丘が距骨の背側の面の上に拡張する
バインシレ層の標本は本属に属さない可能性もあり、さらなる研究が必要である。ある分岐学的分析では2セットの標本は他のどの分類群も排斥するグループを共に示しているため、仮に同種でないとしても少なくとも近縁な関係にあることが示唆される<ref>{{cite book|last1=Holtz|first1=T. R.|title=Mesozoic Vertebrate Life|chapter=The phylogeny and taxonomy of the Tyrannosauridae|date=2001|publisher=Indiana University Press|pages=[https://archive.org/details/mesozoicvertebra0000unse/page/64 64]–83|isbn=0-253-33907-3|url=https://archive.org/details/mesozoicvertebra0000unse|url-access=registration}}</ref>。
* 距骨 I-1 の腹側関節丘が腹側側方へ拡張する
* 距骨 I-1 の中央靭帯の窪みが小さく円形である
* 第2中足骨の背側側方関節丘が茎状構造を持つ
* 第2中足骨の中央腹側関節丘の中央の縁が軸表面の下へ伸びる
* 第2中足骨の後方側方の縁から突起が遠位関節表面の上へ伸びる
* 距骨 II-2 の後方表面の背側の縁が突出する
* 背側から見たとき、距骨 II-2 の側方背側関節丘が相並ぶ靭帯の窪みの半分の長さに達する
* 深く狭い窪みにより距骨 II-2 の遠位関節丘が分断される
* 距骨 II-2 の屈筋の溝の中央が凸状である
* 足の鉤爪の第2 – 第4の屈筋小結節が肥大し、近位関節面の水準まで達する
* 足の第2指から第4指の近位関節面が中心線に低い垂直な隆起を持つ
* 第3中足骨の背側側方関節丘と腹側側方関節丘が茎状の構造を持つ
* 前方から見たとき、第3中足骨の遠位関節丘の遠位縁が水平に方向づく
* 第3中足骨の遠位関節面の中央の隆起が軸の縁を超えて伸びる
* 第3中足骨に関節丘の上の浅い孔が存在する
* 第3中足骨の遠位関節面が軸の上に向かって突出する
* 第3中足骨の軸が長い
* 足の第3指が短い
* 遠位側から見たとき、趾骨 III-1 の側方関節丘が中央関節丘よりも非常に深い
* 趾骨 III-1 の遠位関節面が深く凹状をなす
* 腹側から見たとき、趾骨 III-1 の遠位関節丘の後縁が凹状をなす
* 遠位側から見たとき、趾骨 III-2 の遠位関節丘が狭く深い
* 腹側から見たとき、趾骨 III-2の屈筋の溝を限る側方の隆起が卓越する
* 趾骨 III-3 の靭帯の窪みの上に凹凸が存在しない
* 背側から見たとき、趾骨 III-3 の軸の広い後方の領域が軸の後方に制限される
* 中央から見たとき、趾骨 III-3 において、相並んだ靭帯の窪みに対し後方背側の傷が低い
* 背側から見たとき、足の第3指の鉤爪の背側の縁が中心線に沿わない
* 中央腹側関節丘を除き、第3中足骨の遠位関節面に茎状の構造が存在する
* 第4中足骨の側方遠位関節丘が中足骨の腹側表面上に突出する
* 第4中足骨の関節丘を分断する切れ目が関節面の遠位端へ伸びる
* 側方から見たとき、趾骨 IV-1 の側方遠位関節丘の遠位縁が平坦化する
* 前方から見たとき、趾骨 IV-2 が狭い
* 背側から見たとき、趾骨 II-2 の側方関節丘が腹側側方へ拡張する
* 背側から見たとき、趾骨 IV-3 の側方遠位関節丘の関節面が後方に拡張する
* 趾骨 IV-4 の遠位関節丘を狭い切れ目が分断する
* 趾骨 IV-4 の中央に相並んだ靭帯の窪みが趾骨の背側縁の近くに存在する
* 趾骨 IV-4 の腹側表面の遠位に縦の溝が走る
* 第4中足骨に対する第3中足骨の関節面の背側半分が前方に拡張している


== 古生物学 ==
== 古生物学 ==
Carr and Williamson 2005 は標本 AMNH 6554 の後肢形態について、中足骨と趾骨の関節面の肥大を他のティラノサウルス上科と異なる特徴として挙げている。これらの特徴は[[平胸類]]に見られるものであり、アレクトロサウルスは発達した後肢を伴う脚の速いティラノサウルス上科の恐竜、推定される追跡型捕食者としての適応と一致する<ref name=CarrW2005/>。この解釈は、Persons and Currie 2016で行われた四肢のプロポーション分析で得られた結果と整合する。無数の獣脚類の四肢を比較することにより、彼らは[[タルボサウルス]]や[[ティラノサウルス]]といった巨大で頑強な脚を持つものを除いて、大半のティラノサウルス上科が高度な追跡型かつ脚の長い動物であったことを指摘した。アレクトロサウルスは16.5と相対的に高いCLP(Cursorial-limb-proportion)値が得られており、これは大半の[[カルノサウルス類]]よりも高い<ref name=Scott2016/>。2001年には、アレクトロサウルスと呼称される23本の足の骨に対してブルース・ロスチャイルドらにより[[疲労骨折]]の痕跡が探されたが、一切発見されなかった<ref>{{cite book|last1=Rothschild|first1=B.|last2=Tanke|first2=D.|first3=T.|last3=Ford|title=Mesozoic Vertebrate Life |chapter=Theropod stress fractures and tendon avulsions as a clue to activity |date=2001|publisher=Indiana University Press|pages=331–336}}</ref>。
Bruce Rothschild らが行った[[2001年]]の研究では、アレクトロサウルスに割り当てられた23個の足の骨で[[疲労骨折]]の痕跡が探されたが、全く発見されなかった<ref name="rothschild-dino">Rothschild, B., Tanke, D. H., and Ford, T. L., 2001, Theropod stress fractures and tendon avulsions as a clue to activity: In: Mesozoic Vertebrate Life, edited by Tanke, D. H., and Carpenter, K., Indiana University Press, p. 331-336.</ref>。

== 古環境 ==
[[File:Gigantoraptor and Alectrosaurus.jpg|thumb|2頭の[[アーケオルニトミムス]]から巣を守る2頭の[[ギガントラプトル]]。背後にアレクトロサウルスが居る。]]
アレクトロサウルスは最初に[[イレンダバス層]]から回収された。イレンダバス層はジルコン粒子に適用された[[ウラン・鉛年代測定法]]から[[セノマニアン]]階とされており、[[絶対年代]]は約 95.8 ± 6.2 Maと見積られている<ref>{{cite journal|last1=Guo |first1=Z. X. |last2=Shi |first2=Y. P. |last3=Yang |first3=Y. T. |last4=Jiang |first4=S. Q. |last5=Li |first5=L. B. |last6=Zhao |first6=Z. G. |title=Inversion of the Erlian Basin (NE China) in the early Late Cretaceous: Implications for the collision of the Okhotomorsk Block with East Asia|date=2018 |journal=Journal of Asian Earth Sciences |volume=154 |pages=49–66 |doi=10.1016/j.jseaes.2017.12.007 |bibcode=2018JAESc.154...49G |url=http://icpms.ustc.edu.cn/laicpms/publications/2018-GuoZX-JAES.pdf |accessdate=2020-05-01 |archivedate=2020-09-19 |archiveurl=https://web.archive.org/web/20200919173817/http://icpms.ustc.edu.cn/laicpms/publications/2018-GuoZX-JAES.pdf }}</ref>。[[後期白亜紀]]の間、当該の層には[[河川]]環境を伴う広大な[[氾濫原]]が存在した。氾濫原環境には広範な植生が分布しており、古土壌の卓越や無数の植物食性恐竜が河道・氾濫原堆積物の両方から発見されることが根拠とされる<ref name=Itterbeeck2005/>。当該の層の同時代の古動物相には、他の獣脚類([[アーケオルニトミムス]]、{{仮リンク|カエグナタシア|en|Caenagnathasia}}、[[エルリアンサウルス]]、[[ギガントラプトル]]、[[ネイモンゴサウルス]])や[[竜脚類]]の[[ソニドサウルス]]、2属の{{仮リンク|ハドロサウルス上科|en|Hadrosauroidea}}([[バクトロサウルス]]と[[ギルモレオサウルス]])が含まれる<ref>{{cite book|last1=Xing |first1=H. |last2=He |first2=Y. |last3=Li |first3=L. |last4=Xi |first4=D. |chapter=A review on the study of the stratigraphy, sedimentology, and paleontology of the Iren Dabasu Formation, Inner Mongolia |title=Proceedings of the Thirteenth Annual Meeting of the Chinese Society of Vertebrate Paleontology |publisher=China Ocean Press |year=2012 |editor1-last=Wei |editor1-first=D. |location=Beijing |pages=1–44 |url=https://www.researchgate.net/publication/280545869 |language=Chinese}}</ref><ref>{{cite journal|first1=Y. |last1=Xi |first2=W. |last2=Xiao-Li |first3=C. |last3=Sullivan |first4=W. |last4=Shuo |first5=T. |last5=Stidham |first6=X. |last6=Xing |year=2015 |title=Caenagnathasia sp. (Theropoda: Oviraptorosauria) from the Iren Dabasu Formation (Upper Cretaceous: Campanian) of Erenhot, Nei Mongol, China |journal=Vertebrata PalAsiatica |volume=53 |issue=4 |pages=291 298 |s2cid=53590613 |url=http://pdfs.semanticscholar.org/f76b/70ceab1a357481494b6db2012a5dc887b1b6.pdf |archiveurl=https://web.archive.org/web/20190307100255/http://pdfs.semanticscholar.org/f76b/70ceab1a357481494b6db2012a5dc887b1b6.pdf |archivedate=2019-03-07}}</ref>。これに加え、Bayshi Tsav 産地では[[バインシレ層]]にさらなる発見があった可能性がある<ref name=Perle1977/>。バインシレ層は[[セノマニアン]] - [[サントニアン]]階に相当する上部白亜系と推定されており、絶対年代は約 95.9 ± 6.0 Ma から 89.6 ± 4.0 Ma と見積られる。これはイレンダバス層の年代に近い<ref>{{cite journal|last1=Hicks |first1=J. F. |last2=Brinkman |first2=D. L. |last3=Nichols |first3=D. J. |last4=Watabe |first4=M. |title=Paleomagnetic and palynologic analyses of Albian to Santonian strata at Bayn Shireh, Burkhant, and Khuren Dukh, eastern Gobi Desert, Mongolia |doi=10.1006/cres.1999.0188 |journal=Cretaceous Research |volume=20 |issue=6 |pages=829–850 |date=1999 |url=https://www.academia.edu/1229640}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Kurumada |first1=Y. |last2=Aoki |first2=S. |last3=Aoki |first3=K. |last4=Kato |first4=D. |last5=Saneyoshi |first5=M. |last6=Tsogtbaatar |first6=K. |last7=Windley |first7=B. F. |last8=Ishigaki |first8=S. |title=Calcite U–Pb age of the Cretaceous vertebrate‐bearing Bayn Shire Formation in the Eastern Gobi Desert of Mongolia: usefulness of caliche for age determination |journal=Terra Nova |date=2020 |volume=32 |issue=4 |pages=246–252 |doi=10.1111/ter.12456|bibcode=2020TeNov..32..246K |doi-access=free}}</ref>。ここにおいて、アレクトロサウルスは多様な獣脚類([[アキロバトル]]、[[ガルディミムス]]、[[セグノサウルス]])と共存していた。[[曲竜類]]は[[タラルルス]]や[[ツァガンテギア]]に代表され、他の植物食恐竜には[[グラキリケラトプス]]や[[ゴビハドロス]]および[[エルケトゥ]]が含まれる<ref>{{cite book|last1=Weishampel |first1=D. B. |last2=Barrett |first2=P. M. |last3=Coria |first3=R. A. |last4=Loeuff |first4=J. L. |last5=Xing |first5=X. |last6=Xijin |first6=Z. |last7=Sahni |first7=A. |last8=Gomani |first8=E. M. P. |title=The Dinosauria |edition=2nd |chapter=Dinosaur Distribution |editor1-last=Weishampel |editor1-first=D. B. |editor2-last=Dodson |editor2-first=P. |editor3-last=Osmolska |editor3-first=H. |date=2004 |publisher=University of California Press |pages=596–598 |isbn=0520242092 |url=https://www.researchgate.net/publication/234025996}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Tsogtbaatar |first1=K. |last2=Weishampel |first2=D. B. |last3=Evans |first3=D. C. |last4=Watabe |first4=M. |date=2019 |title=A new hadrosauroid (Dinosauria: Ornithopoda) from the Late Cretaceous Baynshire Formation of the Gobi Desert (Mongolia) |journal=PLOS ONE |volume=14 |issue=4 |pages=e0208480 |doi=10.1371/journal.pone.0208480 |doi-access=free |pmid=30995236 |pmc=6469754 |bibcode=2019PLoSO..1408480T}}</ref><ref>{{cite journal|last1=Park |first1=J. |last4=Kobayashi |first4=Y. |last5=Koppelhus |first5=E. |last6=Barsbold |first6=R. |last7=Mateus |first7=O. |last8=Lee |first8=S. |last9=Kim |first9=S. H. |title=Additional skulls of Talarurus plicatospineus (Dinosauria: Ankylosauridae) and implications for paleobiogeography and paleoecology of armored dinosaurs |date=2020 |journal=Cretaceous Research |volume=108 |pages=e104340 |doi=10.1016/j.cretres.2019.104340 |s2cid=212423361 }}</ref>。

2012年、アレキサンダー・アヴェリアノフとハンス=ディエター・スースは上部バインシレ層とイレンダバス層が対比されると推定し、同様の環境を持つと見積った。この対比はこれらの層で報告された膨大な数の[[貝虫]]に支持されている<ref name=Averianov2012/>。恐竜の分類群の類似性に基づき、さらなる支持の根拠も提示されている。前述したように、アレクトロサウルスとしての呼称は確定していないものの本属はイレンダバス層とバインシレ層に生息しており、暫定標本からはイレンダバス標本との類似性が示唆されている。2015年にバインシレ層からは巨大な{{仮リンク|カエグナトゥス科|en|Caenagnathidae}}の恐竜が報告されており、ギガントラプトルのものに酷似する下側の吻(嘴)が保存されている<ref name=Perle1977/><ref>{{cite journal|last1=Tsuihiji |first1=T. |last2=Watabe |first2=M. |last3=Barsbold |first3=R. |last4=Tsogtbaatar |first4=K. |title=A gigantic caenagnathid oviraptorosaurian (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of the Gobi Desert, Mongolia |date=2015 |journal=Cretaceous Research |volume=56 |pages=60–65 |doi=10.1016/j.cretres.2015.03.007}}</ref>。

== 関連項目 ==
* [[イレンダバス層]]
* [[バインシレ層]]


== 出典 ==
== 出典 ==
139行目: 80行目:
[[Category:ティラノサウルス上科]]
[[Category:ティラノサウルス上科]]
[[Category:アジアの恐竜]]
[[Category:アジアの恐竜]]
[[Category:中国産の化石]]
[[Category:モンゴル産の化石]]
[[Category:1933年に記載された化石分類群]]
[[Category:1933年に記載された化石分類群]]

2022年10月2日 (日) 17:03時点における版

アレクトロサウルス
生息年代: 白亜紀後期カンパニアン, 83–74 Ma
頭部の復元図
地質時代
白亜紀後期カンパニアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
下目 : テタヌラ下目 Tetanurae
階級なし : コエルロサウルス類 Coelurosauria
上科 : ティラノサウルス上科 Tyrannosauroidea
: アレクトロサウルス属 Alectrosaurus
学名
Alectrosaurus
Gilmore1933

アレクトロサウルス学名Alectrosaurus)は、ティラノサウルス上科に属する獣脚類恐竜。1923年のモンゴル化石発掘遠征において、現在の内モンゴル自治区中華人民共和国)でジョージ・オルセンが化石を発見した。学名は「未婚のトカゲ」を意味し、1個体あるいは2個体分の化石が異なる場所から発見されたことに由来する[1]

タイプ標本は上部白亜系バインシレ層から産出している[2]。推定全長は5メートルと見積られる[1]。既知の標本が成体である場合、森林地帯に生息し、近い体サイズの動物を捕食したと考えられている[2]

発見と命名

1923年、A. olseni標本AMNH 6554 の右後肢の発掘。右側はジョージ・オルセン

1923年、古生物学者ウォルター・G・グランガー率いるアメリカ自然史博物館の第三次アジア遠征において、モンゴルにおける恐竜化石の発掘が行われていた。4月25日、ゴビ砂漠にて、アシスタントの古生物学者であったジョージ・オルセンはほぼ完全な1本の右後肢であるホロタイプ標本 AMNH 6554 を発掘・回収した。これは左と2本の前肢の末節骨、および実質的に完全な右後肢を含んだ。5月4日、オルセンは最初に発見した化石から約30メートル離れた地点で別の標本を発見した。当該標本 AMNH 6368 には、1本の右上腕骨・2本の不完全な指骨・4個の断片的な尾椎のほか、劣悪な状態のため処分された2, 3個の不特定の要素が含まれた。これらの発見は現在の中国・内モンゴル自治区イレンダバス層でのことであった[3]

属名と種名はアメリカの古生物学者チャールズ・W・ギルモア1933年に命名した。属名の Alectrosaurus は「孤独なトカゲ」あるいは「未婚のトカゲ」と訳すことができ、ギリシア語で「孤独な」「未婚の」を意味する ἄλεκτρος および「トカゲ」を意味する σαῦρος に由来する。種小名の olseni は最初の標本を発見したジョージ・オルセンへの献名である[3]

さらなる標本

A. olseni のホロタイプの右足。アメリカ自然史博物館所蔵

その後、さらなる化石がアレクトロサウルスと呼称された。1977年には、モンゴルの古生物学者 Altangerel Perle によりバインシレ層の2個の追加標本が報告されており、アレクトロサウルスの可能性がある。標本 IGM 100/50 は部分的な上顎骨肩甲骨烏口骨・前肢の末節骨からなり、標本 IGM 100/51 は下顎と他の要素を伴う断片的頭蓋骨・不完全な腸骨・右中足骨からなる。これらの化石は外モンゴルで発見された[4][5]。イレンダバス層とバインシレ層は恐竜の動物相が非常に類似しており、アレクトロサウルスがバインシレ層で発見されても不自然ではない。さらに、内モンゴルと外モンゴルで発見されている複数の部分的骨格もアレクトロサウルスに属する可能性がある[6]。アレクサンダー・アヴェリアノフとハンス=ディエター・スースは、2012年にイレンダバス層をサントニアン階と推定し、上部バインシレ層と対比した[7]。Van Itterbeeck et al. 2005 は、イレンダバス層がおそらくカンパニアン-マーストリヒチアン階であることを示唆し、ネメグト層と対比される可能性があるとした[8]

ホロタイプの付近では、1923年に標本 AMNH 6556 が同一層準の異なる地点で発見されている。当該標本は前上顎骨歯および側縁歯・不完全な左涙骨・左頬骨の上顎突起・部分的な右方形頬骨・右外翼状骨の頬骨突起・右翼状骨に伸びる方形枝からなる。当該標本は小型個体を代表するようである。当該標本は後肢要素を欠くためアレクトロサウルスとの直接比較が極めて複雑であり、アレクトロサウルスとの関係性は未解決である[9][10]

なお、日本幕張メッセで開催された恐竜博2006では標本長45センチメートルの右大腿骨[11]、恐竜博2009では標本長34.5センチメートルの下顎がそれぞれアレクトロサウルスのものとして展示された[12]。ただし、展示時点でこれらをアレクトロサウルスと見なす統一的見解があるわけではない[11][12]

説明

ホロタイプに基づく生体復元図

レクトタイプ標本 AMNH 6554 は断片的であり、遠位足根骨要素のみを欠くほぼ完全な右後肢、左第II・III・IV中足骨、断片的な恥骨の遠位端からなる。ただし、恥骨が左右どちらのものであるかは不明である[3][5]

アレクトロサウルスは中型のティラノサウルス上科であり、全長は5 - 6メートルに達し、体重は454 - 907キログラムに及ぶ[13][14]。全体として、両後肢は華奢であり、頑強なティラノサウルス科とは対照的である。脛骨長と大腿骨長は非常に近く、脛骨がより長い他のティラノサウルス上科の大多数とは対照的である。大腿骨長は72.7センチメートル、脛骨長は72.7センチメートルである。他のティラノサウルス上科と比較して中足骨の大きさも脛骨のそれに近く、長い。最大の中足骨は第III中足骨であり、長さは48センチメートルに達する[3][15]距骨踵骨は保存が良いものの、距骨は僅かに損傷しているように見える。それらは強く接着しているが、癒合はしていない[3]

解剖学的特徴の識別

原記載に続き、アレクトロサウルスは以下の特徴により識別される。長く細長い四肢を持つタイプのティラノサウルス上科である。大腿骨が長く細長い。第I指の末節骨と指骨が頑強であり、外側に圧搾され、強く湾曲する。大腿骨と脛骨の長さがほぼ等しい。距骨長は距骨と脛骨を合わせた長さの四分の一である[3]

Carr 2005 によると、アレクトロサウルスは後肢に存在する固有の特徴に基づいて識別が可能である。その特徴には、大腿骨の内側顆の後背側面から伸びるスパイク状の突起、腓骨上の脛骨との関節面の前側縁に沿って存在する切り立った張り出し、梁構造(buttless)の内側面の下部を削る距骨の腹外側梁構造(buttless)に隣接するの溝、第II趾の第2趾骨の近位面の背側縁の突出、縮小した第III趾、内側顆よりも顕著に深い第III基節骨の外側顆、頑丈な第IV趾の第2趾骨、第III中足骨上の第IV中足骨との関節面の前側に膨張した背側半分、その他が挙げられる[16]

分類

AMNH 6368 の末節骨を伴う指骨および右上腕骨。後に未確認のテリジノサウルス類英語版のものであり、アレクトロサウルスのものではないことが確認された。

1933年、チャールズ・ギルモアは利用可能な標本を調査し、AMNH 6554 と AMNH 6368 が同一の属に属するシンタイプであると結論した。彼の結論は、両標本の前肢末節骨が形態学的に類似するという彼の観察に基づいていた。標本 AMNH 5664 Gorgosaurus sternbergi の後肢にも類似性が観察されたことから、彼はこの新属をデイノドン科、すなわち現在ティラノサウルス科と同義であると考えられている科として分類した[3]。断片的であるため、現在のところ他のティラノサウルス上科との関係性の復元において信頼性は乏しく、数多くの分岐解析においてアレクトロサウルスは全体的に省略されている。ある研究では、ティラノサウルス上科のクラドグラムにおいてアレクトロサウルスは8か所を下らない等しく最節約的な位置に置かれた[17]Alectrosaurus olseni を曖昧にアルバートサウルスの種として考える古生物学者もいる[18]

アレクトロサウルスは当初長い腕を持つ獣脚類として特徴づけられていた。Perle 1977 と Mader & Bradley 1989 は観察の結果、標本 AMNH 6368 がティラノサウルス上科と形質を共有しないことからこの前肢を本属に属さないものとし、Therizinosauria英語版 incertae sedis に割り当てた[4][5]。残った標本 AMNH 6554 は真のティラノサウルス上科の形質を伴う後肢を代表しており、Alectrosaurus olseni のレクトタイプ標本に割り当てられた[5]。加えて、原記載に含まれなかった4個の小型の尾椎が AMNH 6368 に関連付けられた。未記載であったにも拘わらずそれらの尾椎は1984年に AMNH 21784 としてカタログ化されており、Mader と Bradley がこれらの尾椎を記載した。デイノニクスプラテオサウルスの尾椎に類似していることから、尾椎は系統学的にティラノサウルス科とテリジノサウルス科のいずれにも属さない小型獣脚類のものと暫定的に同定された[5]

バインシレ層の標本は本属に属さない可能性もあり、さらなる研究が必要である。ある分岐学的分析では2セットの標本は他のどの分類群も排斥するグループを共に示しているため、仮に同種でないとしても少なくとも近縁な関係にあることが示唆される[19]

古生物学

Carr and Williamson 2005 は標本 AMNH 6554 の後肢形態について、中足骨と趾骨の関節面の肥大を他のティラノサウルス上科と異なる特徴として挙げている。これらの特徴は平胸類に見られるものであり、アレクトロサウルスは発達した後肢を伴う脚の速いティラノサウルス上科の恐竜、推定される追跡型捕食者としての適応と一致する[9]。この解釈は、Persons and Currie 2016で行われた四肢のプロポーション分析で得られた結果と整合する。無数の獣脚類の四肢を比較することにより、彼らはタルボサウルスティラノサウルスといった巨大で頑強な脚を持つものを除いて、大半のティラノサウルス上科が高度な追跡型かつ脚の長い動物であったことを指摘した。アレクトロサウルスは16.5と相対的に高いCLP(Cursorial-limb-proportion)値が得られており、これは大半のカルノサウルス類よりも高い[15]。2001年には、アレクトロサウルスと呼称される23本の足の骨に対してブルース・ロスチャイルドらにより疲労骨折の痕跡が探されたが、一切発見されなかった[20]

古環境

2頭のアーケオルニトミムスから巣を守る2頭のギガントラプトル。背後にアレクトロサウルスが居る。

アレクトロサウルスは最初にイレンダバス層から回収された。イレンダバス層はジルコン粒子に適用されたウラン・鉛年代測定法からセノマニアン階とされており、絶対年代は約 95.8 ± 6.2 Maと見積られている[21]後期白亜紀の間、当該の層には河川環境を伴う広大な氾濫原が存在した。氾濫原環境には広範な植生が分布しており、古土壌の卓越や無数の植物食性恐竜が河道・氾濫原堆積物の両方から発見されることが根拠とされる[8]。当該の層の同時代の古動物相には、他の獣脚類(アーケオルニトミムスカエグナタシア英語版エルリアンサウルスギガントラプトルネイモンゴサウルス)や竜脚類ソニドサウルス、2属のハドロサウルス上科バクトロサウルスギルモレオサウルス)が含まれる[22][23]。これに加え、Bayshi Tsav 産地ではバインシレ層にさらなる発見があった可能性がある[4]。バインシレ層はセノマニアン - サントニアン階に相当する上部白亜系と推定されており、絶対年代は約 95.9 ± 6.0 Ma から 89.6 ± 4.0 Ma と見積られる。これはイレンダバス層の年代に近い[24][25]。ここにおいて、アレクトロサウルスは多様な獣脚類(アキロバトルガルディミムスセグノサウルス)と共存していた。曲竜類タラルルスツァガンテギアに代表され、他の植物食恐竜にはグラキリケラトプスゴビハドロスおよびエルケトゥが含まれる[26][27][28]

2012年、アレキサンダー・アヴェリアノフとハンス=ディエター・スースは上部バインシレ層とイレンダバス層が対比されると推定し、同様の環境を持つと見積った。この対比はこれらの層で報告された膨大な数の貝虫に支持されている[7]。恐竜の分類群の類似性に基づき、さらなる支持の根拠も提示されている。前述したように、アレクトロサウルスとしての呼称は確定していないものの本属はイレンダバス層とバインシレ層に生息しており、暫定標本からはイレンダバス標本との類似性が示唆されている。2015年にバインシレ層からは巨大なカエグナトゥス科英語版の恐竜が報告されており、ギガントラプトルのものに酷似する下側の吻(嘴)が保存されている[4][29]

関連項目

出典

  1. ^ a b 松田眞由美『語源が分かる 恐竜学名辞典』小林快次、藤原慎一(監修)、北隆館、2017年1月20日、150頁。ISBN 978-4-8326-0734-7 
  2. ^ a b グレゴリー・ポール 著、東洋一、今井拓哉、河部壮一郎、柴田正輝、関谷透、服部創紀 訳『グレゴリー・ポール恐竜事典 原著第2版』2020年8月30日、118頁。ISBN 978-4-320-04738-9 
  3. ^ a b c d e f g Gilmore, C. W. (1933). “On the dinosaurian fauna of the Iren Dabasu Formation”. Bulletin of the American Museum of Natural History 67 (2): 23–78. hdl:2246/355. 
  4. ^ a b c d Perle, A. (1977). “O pervoy nakhodke Alektrozavra (Tyrannosauridae, Theropoda) iz pozdnego Mela Mongolii [On the first discovery of Alectrosaurus (Tyrannosauridae, Theropoda) in the Late Cretaceous of Mongolia]” (Russian). Shinzhlekh Ukhaany Akademi Geologiin Khureelen 3 (3): 104–113. 
  5. ^ a b c d e Mader, B. J.; Bradley, R. L. (1989). “A redescription and revised diagnosis of the syntypes of the Mongolian tyrannosaur Alectrosaurus olseni”. Journal of Vertebrate Paleontology 9 (1): 41–55. doi:10.1080/02724634.1989.10011737. 
  6. ^ Benton, M. J.; Shishkin, M. A.; Unwin, D. M.; Kurochkin, E. N. (2003). The Age of Dinosaurs in Russia and Mongolia. Cambridge University Press. pp. 434–455. ISBN 0-521-54582-X 
  7. ^ a b Averianov, A.; Sues, H. (2012). “Correlation of Late Cretaceous continental vertebrate assemblages in Middle and Central Asia”. Journal of Stratigraphy 36 (2): 462–485. オリジナルの2019-03-07時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190307103653/http://pdfs.semanticscholar.org/df17/104349a1f7fd4dfd76252f91817fe5f58fb6.pdf. 
  8. ^ a b Van Itterbeeck, J.; Horne, D. J.; Bultynck, P.; Vandenberghe, N. (2005). “Stratigraphy and palaeoenvironment of the dinosaur-bearing Upper Cretaceous Iren Dabasu Formation, Inner Mongolia, People's Republic of China”. Cretaceous Research 26 (4): 699–725. doi:10.1016/j.cretres.2005.03.004. https://www.academia.edu/3856254. 
  9. ^ a b Carr, T. D.; Williamson, T. E. (2005). “A reappraisal of tyrannosauroids from Iren Dabasu, Inner Mongolia, People's Republic of China”. Journal of Vertebrate Paleontology 25 (3). 
  10. ^ Carr, T. D.; Varricchio, D. J.; Sedlmayr, J. C.; Roberts, E. M.; Moore, J. R. (2017). “A new tyrannosaur with evidence for anagenesis and crocodile-like facial sensory system”. Scientific Reports 7 (44942): 44942. Bibcode2017NatSR...744942C. doi:10.1038/srep44942. PMC 5372470. PMID 28358353. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5372470/. 
  11. ^ a b 長谷川善、ケネス・カーペンター、董枝明、徐星『世界の大恐竜博2006 生命と環境 進化のふしぎ』日本経済新聞社日本放送協会NHKプロモーション日経ナショナルジオグラフィック社、2006年、148頁。 
  12. ^ a b 長谷川善、ケネス・カーペンター、マット・ラマンナ、徐星『恐竜2009 砂漠の奇跡!!』日本経済新聞社テレビ東京日経ナショナルジオグラフィック社、144頁。 
  13. ^ Holtz, T. R.; Rey, L. V. (2007). Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages. Random House  Genus List for Holtz 2012 Weight Information
  14. ^ Brett-Surman, M. K.; Holtz, T. R.; Farlow, J. O. (2012). The Complete Dinosaur. Indiana University Press. p. 360. ISBN 978-0-2533-5701-4. https://books.google.com/books?id=Hk5ecvEv0GcC 
  15. ^ a b Scott Persons IV, W.; Currie, P. J. (2016). “An approach to scoring cursorial limb proportions in carnivorous dinosaurs and an attempt to account for allometry”. Scientific Reports 6 (19828): 19828. Bibcode2016NatSR...619828P. doi:10.1038/srep19828. PMC 4728391. PMID 26813782. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4728391/. 
  16. ^ Carr, T. D. (2005). Phylogeny of Tyrannosauroidea (Dinosauria: Coelurosauria) with Special Reference to North American Forms. University of Toronto. p. 1170. ISBN 0-494-02932-3. OCLC 75087116 
  17. ^ Weishampel, D. B.; Dodson, P.; Osmolska, H. (2007). The Dinosauria, Second Edition. University of California Press. pp. 111–136. ISBN 978-0-520-24209-8 
  18. ^ Dodson, P.; Britt, B.; Carpenter, K.; Forster, C. A.; Gillete, D. D.; Norell, M. A.; Olshevsky, G.; Parrish, J. M. et al. (1994). “Albertosaurus”. The Age of Dinosaurs. Publications International, Ltd. pp. 106–107. ISBN 0-7853-0443-6 
  19. ^ Holtz, T. R. (2001). “The phylogeny and taxonomy of the Tyrannosauridae”. Mesozoic Vertebrate Life. Indiana University Press. pp. 64–83. ISBN 0-253-33907-3. https://archive.org/details/mesozoicvertebra0000unse 
  20. ^ Rothschild, B.; Tanke, D.; Ford, T. (2001). “Theropod stress fractures and tendon avulsions as a clue to activity”. Mesozoic Vertebrate Life. Indiana University Press. pp. 331–336 
  21. ^ Guo, Z. X.; Shi, Y. P.; Yang, Y. T.; Jiang, S. Q.; Li, L. B.; Zhao, Z. G. (2018). “Inversion of the Erlian Basin (NE China) in the early Late Cretaceous: Implications for the collision of the Okhotomorsk Block with East Asia”. Journal of Asian Earth Sciences 154: 49–66. Bibcode2018JAESc.154...49G. doi:10.1016/j.jseaes.2017.12.007. オリジナルの2020-09-19時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20200919173817/http://icpms.ustc.edu.cn/laicpms/publications/2018-GuoZX-JAES.pdf 2020年5月1日閲覧。. 
  22. ^ Xing, H.; He, Y.; Li, L.; Xi, D. (2012). “A review on the study of the stratigraphy, sedimentology, and paleontology of the Iren Dabasu Formation, Inner Mongolia”. In Wei, D. (Chinese). Proceedings of the Thirteenth Annual Meeting of the Chinese Society of Vertebrate Paleontology. Beijing: China Ocean Press. pp. 1–44. https://www.researchgate.net/publication/280545869 
  23. ^ Xi, Y.; Xiao-Li, W.; Sullivan, C.; Shuo, W.; Stidham, T.; Xing, X. (2015). “Caenagnathasia sp. (Theropoda: Oviraptorosauria) from the Iren Dabasu Formation (Upper Cretaceous: Campanian) of Erenhot, Nei Mongol, China”. Vertebrata PalAsiatica 53 (4): 291 298. オリジナルの2019-03-07時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20190307100255/http://pdfs.semanticscholar.org/f76b/70ceab1a357481494b6db2012a5dc887b1b6.pdf. 
  24. ^ Hicks, J. F.; Brinkman, D. L.; Nichols, D. J.; Watabe, M. (1999). “Paleomagnetic and palynologic analyses of Albian to Santonian strata at Bayn Shireh, Burkhant, and Khuren Dukh, eastern Gobi Desert, Mongolia”. Cretaceous Research 20 (6): 829–850. doi:10.1006/cres.1999.0188. https://www.academia.edu/1229640. 
  25. ^ Kurumada, Y.; Aoki, S.; Aoki, K.; Kato, D.; Saneyoshi, M.; Tsogtbaatar, K.; Windley, B. F.; Ishigaki, S. (2020). “Calcite U–Pb age of the Cretaceous vertebrate‐bearing Bayn Shire Formation in the Eastern Gobi Desert of Mongolia: usefulness of caliche for age determination”. Terra Nova 32 (4): 246–252. Bibcode2020TeNov..32..246K. doi:10.1111/ter.12456. 
  26. ^ Weishampel, D. B.; Barrett, P. M.; Coria, R. A.; Loeuff, J. L.; Xing, X.; Xijin, Z.; Sahni, A.; Gomani, E. M. P. (2004). “Dinosaur Distribution”. In Weishampel, D. B.; Dodson, P.; Osmolska, H.. The Dinosauria (2nd ed.). University of California Press. pp. 596–598. ISBN 0520242092. https://www.researchgate.net/publication/234025996 
  27. ^ Tsogtbaatar, K.; Weishampel, D. B.; Evans, D. C.; Watabe, M. (2019). “A new hadrosauroid (Dinosauria: Ornithopoda) from the Late Cretaceous Baynshire Formation of the Gobi Desert (Mongolia)”. PLOS ONE 14 (4): e0208480. Bibcode2019PLoSO..1408480T. doi:10.1371/journal.pone.0208480. PMC 6469754. PMID 30995236. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6469754/. 
  28. ^ Park, J. (2020). “Additional skulls of Talarurus plicatospineus (Dinosauria: Ankylosauridae) and implications for paleobiogeography and paleoecology of armored dinosaurs”. Cretaceous Research 108: e104340. doi:10.1016/j.cretres.2019.104340. 
  29. ^ Tsuihiji, T.; Watabe, M.; Barsbold, R.; Tsogtbaatar, K. (2015). “A gigantic caenagnathid oviraptorosaurian (Dinosauria: Theropoda) from the Upper Cretaceous of the Gobi Desert, Mongolia”. Cretaceous Research 56: 60–65. doi:10.1016/j.cretres.2015.03.007.