貝虫

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貝虫
Ostracod.JPG
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 甲殻亜門 Crustacea
: 顎脚綱 Maxillopoda
亜綱 : 貝虫亜綱 Ostracoda
学名
Ostracoda Latreilla, 1806
和名
貝虫
貝形虫
貝形類
英名
seed shrimps
上目

貝虫(かいむし、学名 Ostracoda)は、節足動物の生物分類である。階級は主に顎脚綱の中の貝虫亜綱とされるが、貝虫綱ともされる。貝形虫などとも呼ばれる。

外見的には枝角類(ミジンコ類)に似ているが、全身が二枚貝のような殻で覆われている。ウミホタルなどが属する。

概論[編集]

外見的には二枚貝類のように、左右に分かれた殻に全身が包まれ、附属肢の一部以外はその外に出てこない。その点で、カイエビ類や様々な化石甲殻類に似たものが多い。またそのために体制や構造がわかりにくいが、実は殻をあけてもわかりにくい。体節の癒合が激しいためである。

見かけではミジンコ類に形と大きさが似るため、淡水産のものはカイミジンコと呼ばれる。ただし一般にミジンコ類が浮遊的な遊泳に特化しているのに対して、カイミジンコ類は匍匐的に底生生活的な活動が可能になっている。

特徴[編集]

外部形態[編集]

深海には30mmに達するものも知られるが、一般的には0.5–2mm程度の小型の甲殻類である。

外面は完全に二枚のに覆われる。これは左右に分かれた背甲で、二枚貝ののように開閉できる。殻の背面にはちょうつがいがある。原始的とされるパレオピコダ目では、背甲は完全には分離せず、その幼生では背甲が一枚になっている。殻は程度の差はあるが石灰化している。表面は滑らかなもの、様々な突起や凹凸を持つものと様々である。

それ以外の外部形態は殻の中にあってなかなか見ることが出来ない。ちなみに安易に殻をあけても、殻と体が癒合しているので、細部の区別が難しい。したがって、胴体の形がこんなだ、という説明は難しい。区別できるのは、頭部と、胴部尾部くらいである。胴部では体節構造がほとんど区別できない。原始的な群ではここに10の体節が区別できる。

殻の内側の構造

頭部にはノープリウス眼があり、複眼を持つものは少ない。第一触角は分枝がなく、第二触角は二叉形。これらは感覚器だけでなく、群によって遊泳用や這う、掘るなどの機能を持ち、その形も様々である。それより後方、胴部の下面には大顎小顎といくつかの附属肢、あるいはそれに由来する構造があるが、それらが何に相当するのかについては議論があり、意見の一致を見ていない。それらは殻から出て活動に使われるものもあるが、殻の中にあって掃除に使われるものや、性的役割を担う例もある。胴部の後端からは尾部が伸び、その先端は葉状肢となっている。この部分は前後にうごかすことが出来て、殻の外に出て蹴るように使える。

内部構造[編集]

消化管は、口・食道・中腸・終腸・肛門が区別できる。また肝脾嚢がよく発達する。

消化管の背面側に心臓があるが、淡水産の種では欠くことが多い。

特にはっきり区別できるはない。附属肢に薄膜状の外肢があって、これがその役割を担うと見られるものもあるが、多くは体表で呼吸が行われる。

また、二枚貝類の貝柱に似た、閉殻筋があって、左右の殻を閉じるのに使われる。

発生[編集]

ポドコパ類では、多くのものが卵を体外に産み落とす。そこから孵化した幼生は、外部を二枚の殻で覆われているが、その内部には第一,第二触角と大顎を持ち、ノープリウス幼生に相当すると考えられている。多くのものでは、このあと次第に附属肢を追加しながら八回の脱皮を行い、成体になる。

ミオドコパ類の場合、胴部の後方に当たる貝殻内に卵は保護され、ここで孵化する。最初の幼生は第五肢までを持つ成体に似た姿で、その後少数回の脱皮を経て成体となる。

分布と生息環境[編集]

世界に広く分布し、淡水から海水に生息する。現生種では淡水域に生息するものの方が多い。深海に生息するものもいる。陸上でも、水を多く含むコケの間に生息するものもある。

一部はプランクトンとして浮遊生活するが、多くは底生に近く、水中を遊泳することも出来て、しかし基盤の上を這い回ることも出来る。水中の懸濁物を食うものから、水底の動物遺体や植物遺体を食うものまで、様々な食性のものがある。淡水中では死んだ魚などに群がる姿がよく見かけられるし、ウミホタルは魚の切り身で採集できる。なお、中生代にアンモナイトの死んだ軟体部に集まって食っていた様子と思われる化石も発見されている。

化石[編集]

ポドコパの殻の化石でできたドーバー崖。

化石はカンブリア紀から発見され、これは甲殻類の中でも古いものの一つである。

ポドコパは殻が発達しているために化石も多く、微化石としてよく研究され、現在知られている化石種の数は、現生種を大きく上回る。個体密度も高かったため、しばしば化石が石灰岩の地層を形成する。ただし、ウミホタルに代表されるミオドコパの殻は柔らかいため、化石は少ない。

人間との関係[編集]

生体と人間との間には、実用的な利害関係はほとんど存在しない。淡水産のカイミジンコは金魚のエサとしても、殻が固くて好まれない。

ポドコパの化石からなる石灰岩層は、直接に石灰石資源にもなるが、しばしば地下に油田が眠っているため、化石貝虫の研究者には油田産業関係者が多い。ただし、地下探査技術の進歩により、化石貝虫の重要性は下がりつつある。

ウミホタルは発光が美しいとして観光資源となり、また発光生物のモデル生物としてよく研究された。

系統と分類[編集]

この類は、他の甲殻類とははっきり区別される構造を持ち、古くから一つのまとまった分類群として、また甲殻類の中では比較的原始的なものとして認められてきた。しかし、その構造が特殊すぎて判別が困難であることなどから、他の分類群との関係については諸説があってはっきりしない。

顎脚綱が認められてからは、ここに含められることが多いが、やはりそれとも独立させるべきとの判断もある。かつてはその構造が蔓脚類の幼生に似ているとして、その先祖に当たる可能性が言われたこともあった。

下位分類[編集]

現生種は世界で約5000種、化石種を合わせると13000種が知られている。日本からは現生種・化石種を合わせて366種が知られているが、研究が十分に進んでいるとは言えず、現在も新種発見が続いている[1]

現生貝虫はミオドコパとポドコパの2上目(または亜綱)に分類される。形態の証拠はこれらが姉妹群であることを示唆するが、分子系統によればおそらく姉妹群ではなく(つまり貝虫は単系統ではなく)、ポドコパはおそらく鰓尾類に近縁で、ミオドコパはカイアシ類に近縁かもしれない[2](いずれも顎脚綱)。これらが顎脚綱の中で占める位置づけは不明瞭である。

ミオドコパとポドコパは伝統的には2目ずつの4目(または亜目)に分類されてきたが、ここでは Yamaguchi & Endo (2003)[2]に従い、それとは異なる4目に分類した(ただし Kirkbycopida の名をより一般的な Palaeocopida に代えた)。亜目・上科はほぼ Martin & Davis[3]によるが、Yamaguchi & Endo に従い Punctoidea を独立させた。

ミオドコパは伝統的にはミオドコピダ目と枝柄目 Halocyprida Dana1853(新分類のクアドコパ亜目とハロキプリーナ亜目)に分けられるが、枝柄目の単系統性は不確実で、側系統の可能性がある。枝柄目を2目に分割し計3目とする説もあるが、ここではこの3グループをミオドコピダ目にまとめ、その中の3亜目とする。

ポドコパは伝統的にはカイミジンコ目と広義の扁柄目(新分類の扁柄目とパレオコーパ目)に分けられていた。しかし扁柄目とパレオコーパ目の類縁性は薄い。扁柄目はカイミジンコ目と共に単系統をなし、おそらく側系統のカイミジンコ目に内包されるのに対し、パレオコーパ目を加えた単系統性は不確かである[2]

出典[編集]

参考文献[編集]