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[[数学]]における'''多変数複素数論'''(たへんすうふくそかんすうろん、{{Lang-en-short|The theory of functions of several complex variables}})は、複素多変数の複素数値を扱う理論である。複素多変数の複素数関数とは、[[複素数]]を成分に持つ {{mvar|n}} [[タプル|組]]全体の成す[[数ベクトル空間|空間]] {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} 上の複素数値[[関数 (数学)|関数]]

[[数学]]における'''多変数複素数論'''(たへんすうふくそかんすうろん、{{Lang-en-short|The theory of functions of several complex variables}})は、複素多変数の複素数値すなわち[[複素数]]を成分に持つ {{mvar|n}}-[[タプル|組]]全体の成す[[数ベクトル空間|空間]] {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} 上の複素数値[[数]]
: <math>f(z_1,z_2, \ldots, z_n)</math>
: <math>f(z_1,z_2, \ldots, z_n)</math>
を指す。
を扱う分野だが、[[複素解析]] (これは上記の {{math|1=''n'' = 1}} の場合に当たる理論ではあるが、そうでない場合とは一線を画す特徴を持つ) におけると同様に、任意の単なる函数をうものではなく、[[正則|正則]]あるいは'''複素解析的'''(complex analytic)数(局所的に言えば変数 {{mvar|z<sub>i</sub>}} たちに関する[[冪級数]]となっているような数)についての理論う。そのような数は結局のところ、[[多項式]]列の局所[[一様収束|一様収極限]]として得られるような数ということもできるし、{{mvar|n}}-次元[[#正則数|コーシーリーマンの方程式]]の局所<!--[[Lp空間|自乗可積分]]{{citation needed|date=September 2014}}-->解であると言っても同じことである。

単変数の[[複素解析]]と同様に、多変数の複素解析においても、任意の[[写像]]はわず、[[正則数]]のような'''複素解析的''' {{en|(complex analytic)}} 数(局所的に言えば変数 {{mvar|z<sub>i</sub>}} たちに関する[[冪級数]]となっているような数)についてをう。そのような数は結局のところ、[[多項式]]列の局所[[一様収束|一様収極限]]として得られるような数ということもできるし、{{mvar|n}} 次元[[#正則数|コーシーリーマンの方程式]]の局所解であると言っても同じことである。
多変数の複素解析は単変数の複素解析を拡張した理論であるが、単変数の理論にはない特徴を持っている。


== 歴史的観点 ==
== 歴史的観点 ==


上述のような数の多くの例は、19世紀の数学においてよくれたものであった。例えば[[アーベル多様体|アーベル数]]や[[テータ数]]の他、ある種の[[超幾何級数]]がそのような例として挙げられる。また、ある複素[[媒介変数]]に依存する任意の変数数も、そのような候補として自然に挙げられる。しかしそれらの特徴的な現象は捉えられていなかったため、長年の間、[[解析学]]においてその理論の完成は充分なされていなかった。{{仮リンク|ワイエルシュトラスの予備定理|en|Weierstrass preparation theorem}}は現在では[[可換環論]]に分類されるであろう。それは[[リーマン面]]の理論における[[分岐点 (数学)|分岐点]]の一般化を扱った局所的な一面である[[分岐 (数学)|分岐]]を正当化したものである。
上述のような数の多くの例は、19世紀の数学においてよく取り扱われたものであった。例えば[[アーベル多様体|アーベル数]]や[[テータ数]]の他、ある種の[[超幾何級数]]がそのような例として挙げられる。また、ある複素[[媒介変数]]に依存する任意の 1 変数数も、そのような候補として自然に挙げられる。しかしそれらの特徴的な現象は捉えられていなかったため、長年の間、[[解析学]]においてその理論の完成は充分なされていなかった。{{仮リンク|ワイエルシュトラスの予備定理|en|Weierstrass preparation theorem}}は現在では[[可換環論]]に分類されるであろう。それは[[リーマン面]]の理論における[[分岐点 (数学)|分岐点]]の一般化を扱った局所的な一面である[[分岐 (数学)|分岐]]を正当化したものである。


1930年代の[[フリードリヒ・ハルトークス]]と[[岡潔]]の成果により、一般理論の構築がなされ始めた。その当時の同分野における他の研究者には、{{仮リンク|ハインリヒ・ベーンケ|en|Heinrich Behnke}}、{{仮リンク|ピーター・トゥレン|en|Peter Thullen}}および{{仮リンク|カール・シュタイン|en|Karl Stein (mathematician)}}がいる。ハルトークスは、{{math|1=''n'' > 1}} のとき任意の解析的
1930年代の[[フリードリヒ・ハルトークス]]と[[岡潔]]の成果により、一般理論の構築がなされ始めた。その当時の同分野における他の研究者には、{{仮リンク|ハインリヒ・ベーンケ|en|Heinrich Behnke}}、{{仮リンク|ピーター・トゥレン|en|Peter Thullen}}および{{仮リンク|カール・シュタイン|en|Karl Stein (mathematician)}}がいる。ハルトークスは、{{math|''n'' &gt; 1}} のとき任意の解析的


:<math>f:\mathbf{C}^n\longrightarrow\mathbf{C}</math>
:<math>f:\mathbf{C}^n\longrightarrow\mathbf{C}</math>


に対してすべての[[孤立特異点]]は[[可除特異点|除去可能]]であるなど、いくつかの基本的な結果を証明した。ここで自然なことであるが、[[周回積分]]と類似の概念は扱いがより難しくなる。実際、{{math|1=''n'' = 2}} のときある点の周りの積分は次元[[多様体]]上で行われる必要がある(実次元を考えるため)が、つの分かれた複素変数についての逐次周回(線)積分は次元曲面上の[[重積分]]として扱われる必要がある。このことは、[[留数|留数計算]]が非常に異なる性質を持つようになることを意味する。
に対してすべての[[孤立特異点]]は[[可除特異点|除去可能]]であるなど、いくつかの基本的な結果を証明した。ここで自然なことであるが、[[周回積分]]と類似の概念は扱いがより難しくなる。実際、{{math|1=''n'' = 2}} のときある点の周りの積分は 3 次元[[多様体]]上で行われる必要がある(実 4 次元を考えるため)が、2 つの分かれた複素変数についての逐次周回積分は 2 次元曲面上の[[多重積分| 2 重積分]]として扱われる必要がある。このことは、[[留数|留数計算]]が非常に異なる性質を持つようになることを意味する。


1945年以降、[[アンリ・カルタン]]のフランスでのセミナーや、{{仮リンク|ハンス・グラウエルト|en|Hans Grauert}}および{{仮リンク|ラインホルト・レンマート|en|Reinhold Remmert}}のドイツでの重要な研究によって、理論の形式は著しく変化した。特に[[解析接続]]に関してなど、多くの問題が明らかにされた。ここで変数の理論との主要な違いが明らかになる。すなわち、{{math|'''C'''}} 内の任意の開連結集合 {{mvar|D}} に対して、その境界上のどこでも解析接続出来ない数を見つけることが出来るが、{{math|''n'' > 1}} の場合はそのようにはならない。実際、この種の {{mvar|D}} はいくらか特殊なもの([[擬凸性]]と呼ばれる条件が課される)となる。極限に接続される、そのような数の自然な定義域は{{仮リンク|シュタイン多様体|en|Stein manifold}}と呼ばれ、それらの性質は[[層コホモロジー|層係数コホモロジー]]群を消失させるものである。実際、理論構成に対する層の有効な使用を導いたあるより明確な基底に関する岡潔の功績を取り上げる必要がある。
1945年以降、[[アンリ・カルタン]]のフランスでのセミナーや、{{仮リンク|ハンス・グラウエルト|en|Hans Grauert}}および{{仮リンク|ラインホルト・レンマート|en|Reinhold Remmert}}のドイツでの重要な研究によって、理論の形式は著しく変化した。特に[[解析接続]]に関してなど、多くの問題が明らかにされた。ここで 1 変数の理論との主要な違いが明らかになる。すなわち、{{math|'''C'''}} 内の任意の開連結集合 {{mvar|D}} に対して、その境界上のどこでも解析接続できない数を見つけることができるが、{{math|''n'' > 1}} の場合はそのようにはならない。実際、この種の {{mvar|D}} はいくらか特殊なもの([[擬凸性]]と呼ばれる条件が課される)となる。極限に接続される、そのような数の自然な定義域は[[シュタイン多様体]]と呼ばれ、それらの性質は[[層コホモロジー|層係数コホモロジー]]群を消失させるものである。実際、理論構成に対する層の有効な使用を導いたあるより明確な基底に関する岡潔の功績を取り上げる必要がある。


さらに進んで、解析幾何(紛らわしいが、これは解析的数の零点の幾何に関する名称であり、初中等教育で習うような[[解析幾何学]]のことではない)や複数変数の[[保型形式]]、[[偏微分方程式]]などに応用できる基本的な理論が構築された。また{{仮リンク|変形理論|label=複素構造の変形理論|en|deformation theory}}や[[複素多様体]]は、[[小平邦彦]]や{{仮リンク|ドナルド・スペンサー|en|Donald C. Spencer}}によって一般の形式で表現された。さらに、[[ジャン=ピエール・セール|セール]]の高名な論文[[代数幾何学と解析幾何学|GAGA]]において、解析幾何''géometrie analytique'' を代数幾何 ''géometrie algébrique''へと橋渡す観点が突き止められた。
さらに進んで、解析幾何(紛らわしいが、これは解析的数の零点の幾何に関する名称であり、初中等教育で習うような[[解析幾何学]]のことではない)や複数変数の[[保型形式]]、[[偏微分方程式]]などに応用できる基本的な理論が構築された。また{{仮リンク|変形理論|label=複素構造の変形理論|en|deformation theory}}や[[複素多様体]]は、[[小平邦彦]]や{{仮リンク|ドナルド・スペンサー|en|Donald C. Spencer}}によって一般の形式で表現された。さらに、[[ジャン=ピエール・セール]]の高名な論文 [[代数幾何学と解析幾何学|GAGA]] において、解析幾何 {{fr|(''géometrie analytique'')}} を代数幾何 {{fr|(''géometrie algébrique'')}} へと橋渡す観点が突き止められた。


[[カール・ジーゲル]]は、新たな「多複素変数の数論」にはわずかな数しか含まれていないことに不平をもらしたことが知られている。すなわち、その理論における[[特殊数]]的な側面は層に従属するものであった。[[数論]]に対する興味は、特に[[モジュラー形式]]の一般化に注がれる。その古典的な代表例は、{{仮リンク|ヒルベルトモジュラー形式|en|Hilbert modular form}}や{{仮リンク|ジーゲルモジュラー形式|en|Siegel modular form}}である。今日においてそれらは、解析的数から[[保型形式|保型表現]]が生じるような[[アーベル群]](それぞれ [[一般線型群|GL(2)]] の{{仮リンク|総実代数体|en|totally real number field}}の{{仮リンク|ヴェイユ制限|en|Weil restriction}}と、[[シンプレクティック群]])と関連付けられている。これはジーゲルの理論と矛盾しないという意味で、近代の理論はそれ自身が異なる方向性を持つものであった。
[[カール・ジーゲル]]は、新たな「多複素変数の数論」にはわずかな数しか含まれていないことに不平をもらしたことが知られている。すなわち、その理論における[[特殊数]]的な側面は層に従属するものであった。[[数論]]に対する興味は、特に[[モジュラー形式]]の一般化に注がれる。その古典的な代表例は、{{仮リンク|ヒルベルトモジュラー形式|en|Hilbert modular form}}や{{仮リンク|ジーゲルモジュラー形式|en|Siegel modular form}}である。今日においてそれらは、解析的数から[[保型形式|保型表現]]が生じるような[[アーベル群]](それぞれ [[一般線型群|GL(2)]] の{{仮リンク|総実代数体|en|totally real number field}}の{{仮リンク|ヴェイユ制限|en|Weil restriction}}と、[[シンプレクティック群]])と関連付けられている。これはジーゲルの理論と矛盾しないという意味で、近代の理論はそれ自身が異なる方向性を持つものであった。


その後の発展として、[[佐藤超函数|超数]]の理論や{{仮リンク|楔の刃の定理|en|edge-of-the-wedge theorem}}が挙げられるが、それらはいずれも[[場の量子論]]から着想が得られているものである。その他、[[バナッハ環]]の理論など、多複素変数を扱う分野は数多く存在する。
その後の発展として、[[佐藤超函数|佐藤数]]の理論や{{仮リンク|楔の刃の定理|en|edge-of-the-wedge theorem}}が挙げられるが、それらはいずれも[[場の量子論]]から着想が得られているものである。その他、[[バナッハ環]]の理論など、多複素変数を扱う分野は数多く存在する。


== '''C'''<sup>''n''</sup> 空間 ==
== {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} 空間 ==


最も簡単なシュタイン多様体は、複素数の {{mvar|n}}-[[タプル|組]]からなる空間 {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}}([[複素数|複素]] {{mvar|n}}-空間)である。これは[[複素数]]体 {{math|'''C'''}} 上の {{mvar|n}}-[[次元 (線型代数学)|次元]][[ベクトル空間]]とみることができて、つまり[[実数|{{math|'''R'''}}]] 上の次元が {{math|2''n''}}<ref>複素数体は実数体上 2-次元ベクトル空間である。</ref> である。したがって、集合および[[位相空間]]として、{{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} は {{仮リンク|実座標空間|label={{math|'''R'''<sup>2''n''</sup>}}|en|real coordinate space}} と等しく、その[[位相次元]]は {{math|2''n''}} である。
最も簡単な[[シュタイン多様体]]は、複素数の {{mvar|n}} [[タプル|組]]からなる空間 {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}}([[複素数|複素]] {{mvar|n}} 空間)である。これは[[複素数]]体 {{math|'''C'''}} 上の {{mvar|n}} [[次元 (線型代数学)|次元]][[ベクトル空間]]とみることができて、つまり[[実数|{{math|'''R'''}}]] 上の次元が {{math|2''n''}}<ref>複素数体は実数体上 2-次元ベクトル空間である。</ref> である。したがって、集合および[[位相空間]]として、{{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} は {{仮リンク|実座標空間|label={{math|'''R'''<sup>2''n''</sup>}}|en|real coordinate space}} と等しく、その[[位相次元]]は {{math|2''n''}} である。


座標を抜きにして述べるならば、複素数体上の任意のベクトル空間は、その倍の次元を持つ実ベクトル空間であって、なおかつ[[虚数単位]] {{math|''i''}} によるスカラー倍を定義する[[線型作用素]] {{mvar|J}} ({{math|''J''<sup> 2</sup> = ''I''}}) によって[[概複素構造|複素構造]]が特定されるようなものということになる。
座標を抜きにして述べるならば、複素数体上の任意のベクトル空間は、その 2 倍の次元を持つ実ベクトル空間であって、なおかつ[[虚数単位]] {{mvar|i}} によるスカラー倍を定義する[[線型作用素]] {{mvar|J}} ({{math|''J''<sup> 2</sup> {{=}} &minus;''I''}}) によって[[概複素構造|複素構造]]が特定されるようなものということになる。


そのような任意の空間は、実空間として[[向き|向き付けられている]]。[[ガウス平面]]を[[直交座標系|デカルト平面]]と見做したとき、複素数 {{math|1=''w'' = ''u'' + ''iv''}} を掛けるという操作は、実[[行列]]
そのような任意の空間は、実空間として[[向き|向き付けられている]]。[[ガウス平面]]を[[直交座標系|デカルト平面]]と見做したとき、複素数 {{math|1=''w'' = ''u'' + ''iv''}} を掛けるという操作は、実[[行列]]
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:<math>u^2 + v^2 = |w|^2\,</math>
:<math>u^2 + v^2 = |w|^2\,</math>


となる。同様に、任意の有限次元複素線型作用素を(上述の形式の 2 × 2 [[ブロック行列|ブロック]]によって構成される)実行列として表現するとき、その行列式は対応する複素行列式の[[絶対値]]の[[自乗]]に等しい。それは非負の数であるが、このことは複素作用素によって空間の(実)方向が反転されることはないことを意味する。同様のことは {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} から {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} への[[正則数]]の[[ヤコビ行列]]に対しても適用される。
となる。同様に、任意の有限次元複素線型作用素を(上述の形式の {{math|2 × 2}} [[ブロック行列]]によって構成される)実行列として表現するとき、その行列式は対応する複素行列式の[[絶対値]]の[[自乗]]に等しい。それは非負の数であるが、このことは複素作用素によって空間の(実)方向が反転されることはないことを意味する。同様のことは {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} から {{math|'''C'''<sup>''n''</sup>}} への[[正則数]]の[[ヤコビ行列]]に対しても適用される。
{{expand section|date=September 2014}}
{{expand section|date=September 2014}}


== 正則函数 ==
== {{anchors|正則函数}}正則関数 ==
領域 <math>U \in \mathbb{C}^n</math> 上で定義された数 <math>f(z)</math> が正則であるとは、<math>f(z)</math> が次の 2つの条件のうちの一つを満たすことである。
領域 <math>U \in \mathbb{C}^n</math> 上で定義された数 <math>f(z)</math> が'''正則である'''とは、<math>f(z)</math> が次の 2 つの条件のうちの一つを満たすことである。


:(i) 各々の点 <math>a=(a^1,\dots,a^n)\in U\subset\mathbb{C}^n</math> 上で、数 <math>f(z)</math> は、<math>U</math> で収束するべき級数展開
:(i) 各々の点 <math>a=(a^1,\dots,a^n)\in U\subset\mathbb{C}^n</math> 上で、数 <math>f(z)</math> は、<math>U</math> で収束するべき級数展開
::{{NumBlk|:|<math>f(z)=\sum c_{k_1,\dots,k_n}(z^1-a^1)^{k_1}\cdots(z^n-a^n)^{k_n}\ ,</math>|{{EquationRef|1}}}}
{{NumBlk|::|<math>f(z)=\sum c_{k_1,\dots,k_n}(z^1-a^1)^{k_1}\cdots(z^n-a^n)^{k_n}\,,</math>|{{EquationRef|1}}}}


:で表わされる。この方法は、ヴァイエルシュトラス(Weierestrass)の解析的な方法に起源を持つ。
:で表わされる。この方法は、ヴァイエルシュトラス(Weierestrass)の解析的な方法に起源を持つ。


:(ii) <math>f(z)</math> が <math>U</math> 上で連続であれば、各々の変数 <math>z^\lambda</math> に対して、数 <math>f(z)</math> が正則数であることである。すなわち、
:(ii) <math>f(z)</math> が <math>U</math> 上で連続であれば、各々の変数 <math>z^\lambda</math> に対して、数 <math>f(z)</math> が正則数であることである。すなわち、
::::{{NumBlk|:|<math>\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}=0</math>|{{EquationRef|2}}}}
{{NumBlk|::|<math>\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}=0</math>|{{EquationRef|2}}}}
:この方程式は、{{仮リンク|ヴィルティンガー微分|label=ヴィルティンガー微分|en|Wirtinger derivative}}(Wirtinger derivative)を使い、多変数複素正則一般化された)コーシー・リーマンの方程式と呼ばれ、リーマンの微分方程式の方法に起源を持つ([[ハルトークスの拡張定理]]を使うと、(ii) の中の連続性の仮定の必要がない
:この方程式は、一般化された'''コーシー・リーマンの方程式'''<ref>{{仮リンク|ヴィルティンガー微分|label=ヴィルティンガー微分|en|Wirtinger derivative}} {{en|(Wirtinger derivative)}} を使い、多変数複素正則について一般化する。</ref>と呼ばれ、リーマンの微分方程式の方法に起源を持つ([[ハルトークスの拡張定理]]を使うと、(ii) の中の連続性の仮定の必要がない)


各々の添字 {{mvar|λ}} に対して、<math>z^\lambda=x^\lambda+iy^\lambda,\quad f(x^\lambda+iy^\lambda)=u^\lambda+iv^\lambda</math> として、通常の 1 変数の[[コーシー・リーマンの方程式]]を一般化すると、
各々のインデックス λ に対して、
:<math>z^\lambda=x^\lambda+iy^\lambda,\ \ \ \ f(x^\lambda+iy^\lambda)=u^\lambda+iv^\lambda</math>
{{NumBlk|:|<math>\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=\frac{\partial v}{\partial y^\lambda},\quad \frac{\partial u}{\partial y^\lambda}=-\frac{\partial v}{\partial x^\lambda}</math>.|{{EquationRef|3}}}}
として、通常の一変数の[[コーシー・リーマン方程式]]を一般化すると、
:{{NumBlk|:|<math>\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=\frac{\partial v}{\partial y^\lambda},\ \ \ \ \frac{\partial u}{\partial y^\lambda}=-\frac{\partial v}{\partial x^\lambda}</math>.|{{EquationRef|3}}}}
を得る。
を得る。
:<math>\begin{align}dz^\lambda & =dx^\lambda+idy^\lambda,& d\bar{z}^\lambda & =dx^\lambda-iy^\lambda \\
:<math>\begin{align}
dz^\lambda & = dx^\lambda+idy^\lambda,& d\bar{z}^\lambda & =dx^\lambda-iy^\lambda \\
\frac{\partial}{\partial z^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}-i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr), & \frac{\partial}{\partial\bar{z}^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}+i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr)\end{align}</math>
\frac{\partial}{\partial z^\lambda}
& = \frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}-i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr),
& \frac{\partial}{\partial\bar{z}^\lambda}
& = \frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}+i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr)
\end{align}</math>
と置くと、
と置くと、
:<math>
:<math>\text{Re}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}-\frac{\partial v}{\partial y^\lambda}=0,\ \ \ \ \text{Im}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial y^\lambda}+\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=0</math>
\text{Re}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)
を通して、上の式 (2) と (3) が同値であることが分かる。
= \frac{\partial u}{\partial x^\lambda}-\frac{\partial v}{\partial y^\lambda}
= 0,\quad \text{Im}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)
= \frac{\partial u}{\partial y^\lambda}+\frac{\partial u}{\partial x^\lambda} = 0</math>
を通して、上の式 {{equationNote|2|(2)}}{{equationNote|3|(3)}} が同値であることが分かる。
<!--== Holomorphic functions ==
<!--== Holomorphic functions ==
A function <math>f(z)</math> defined on a domain <math>U \in \mathbb{C}^n</math> is called holomorphic if <math>f(z)</math> satisfies one of the following two conditions.
A function <math>f(z)</math> defined on a domain <math>U \in \mathbb{C}^n</math> is called holomorphic if <math>f(z)</math> satisfies one of the following two conditions.


:(i) For each point <math>a=(a^1,\dots,a^n)\in U\subset\mathbb{C}^n</math> , <math>f(z)</math> is expressed as a power series expansion that is convergent on <math>U</math> :
:(i) For each point <math>a=(a^1,\dots,a^n)\in U\subset\mathbb{C}^n</math> , <math>f(z)</math> is expressed as a power series expansion that is convergent on <math>U</math> :
::::{{NumBlk|:|<math>f(z)=\sum c_{k_1,\dots,k_n}(z^1-a^1)^{k_1}\cdots(z^n-a^n)^{k_n}\ ,</math>|{{EquationRef|1}}}}
::::{{NumBlk|:|<math>f(z)=\sum c_{k_1,\dots,k_n}(z^1-a^1)^{k_1}\cdots(z^n-a^n)^{k_n}\,,</math>|{{EquationRef|1}}}}
:which was the origin of Weierstrass' analytic methods.
:which was the origin of Weierstrass' analytic methods.


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For each index λ let
For each index λ let
:<math>z^\lambda=x^\lambda+iy^\lambda,\ \ \ \ f(x^\lambda+iy^\lambda)=u^\lambda+iv^\lambda</math>
:<math>z^\lambda=x^\lambda+iy^\lambda,\quad f(x^\lambda+iy^\lambda)=u^\lambda+iv^\lambda</math>
and generalize the usual [[Cauchy-Riemann equation]] for one variable, then we obtain
and generalize the usual [[Cauchy-Riemann equation]] for one variable, then we obtain
:{{NumBlk|:|<math>\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=\frac{\partial v}{\partial y^\lambda},\ \ \ \ \frac{\partial u}{\partial y^\lambda}=-\frac{\partial v}{\partial x^\lambda}</math>.|{{EquationRef|3}}}}
:{{NumBlk|:|<math>\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=\frac{\partial v}{\partial y^\lambda},\quad \frac{\partial u}{\partial y^\lambda}=-\frac{\partial v}{\partial x^\lambda}</math>.|{{EquationRef|3}}}}
Let
Let
:<math>\begin{align}dz^\lambda & =dx^\lambda+idy^\lambda,& d\bar{z}^\lambda & =dx^\lambda-iy^\lambda \\
:<math>\begin{align}dz^\lambda & =dx^\lambda+idy^\lambda,& d\bar{z}^\lambda & =dx^\lambda-iy^\lambda \\
\frac{\partial}{\partial z^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}-i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr), & \frac{\partial}{\partial\bar{z}^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}+i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr)\end{align}</math>
\frac{\partial}{\partial z^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}-i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr), & \frac{\partial}{\partial\bar{z}^\lambda} & =\frac{1}{2}\biggl(\frac{\partial}{\partial x^\lambda}+i\frac{\partial}{\partial y^\lambda}\biggr)\end{align}</math>
through
through
:<math>\text{Re}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}-\frac{\partial v}{\partial y^\lambda}=0,\ \ \ \ \text{Im}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial y^\lambda}+\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=0</math>
:<math>\text{Re}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}-\frac{\partial v}{\partial y^\lambda}=0,\quad \text{Im}\biggl(\frac{\partial f}{\partial\bar{z}^\lambda}\biggr)=\frac{\partial u}{\partial y^\lambda}+\frac{\partial u}{\partial x^\lambda}=0</math>
the above equations (2) and (3) turn to be equivalent. -->
the above equations (2) and (3) turn to be equivalent. -->


2つの条件 (i) と (ii) の同値性を示すには、(i) → (ii) を証明することは容易である。(ii) → (i) を証明するためには、多変数複素数についての n-多重円板上での[[コーシーの積分公式]]
2つの条件 (i) と (ii) の同値性を示すには、(i) → (ii) を証明することは容易である。(ii) → (i) を証明するためには、多変数複素数についての {{mvar|n}} {{仮リンク|多重円板|en|polydisc}} {{en|(multiple disc)}} 上での[[コーシーの積分公式]]
:{{NumBlk|:|:<math>f(z^1,\dots,z^n)=\biggl(\frac{1}{2\pi i}\biggr)^n\int_{|a^1-w^1|=r_1}\cdots\int_{|a^n-w^n|=r_n}\frac{f(w^1,\dots,w^n)dw^1\cdots dw^n}{(w^1-z^1)\cdots(w^n-z^n)}</math>|{{EquationRef|4}}}}
{{NumBlk|:|<math>f(z^1,\dots,z^n)=\biggl(\frac{1}{2\pi i}\biggr)^n\int_{|a^1-w^1|=r_1}\cdots\int_{|a^n-w^n|=r_n}\frac{f(w^1,\dots,w^n)dw^1\cdots dw^n}{(w^1-z^1)\cdots(w^n-z^n)}</math>|{{EquationRef|4}}}}
を使い、式 (1) の中のべき級数展開の係数 <math>c_{k_1,\dots,k_n}</math> を評価する。変数の場合のコーシーの積分公式はある半径 r の円周上での積分であったが、多変数の場合は (4) のように半径が <math>r_i</math> の{{仮リンク|多重円板|en|polydisc}}(multiple disc)の円筒の周上の積分である。
を使い、式 {{equationNote|1|(1)}} の中のべき級数展開の係数 <math>c_{k_1,\dots,k_n}</math> を評価する。1 変数の場合のコーシーの積分公式はある半径 {{mvar|r}} の円周上での積分であったが、多変数の場合は {{equationNote|4|(4)}} のように半径が <math>r_i</math> の多重円板の円筒の周上の積分である。


変数の場合と同様に、多変数の場合でも成立する[[ローラン級数]]の性質のために、[[一致の定理]]が成り立つ。
1 変数の場合と同様に、多変数の場合でも成立する[[ローラン級数]]の性質のために、[[一致の定理]]が成り立つ。
:<math>G_1, G_2\subset\mathbb{C}</math> を領域とし、<math>G_1\cap G_2</math> を単連結、<math>f_1</math> と <math>f_2</math> をそれぞれ、<math>G_1, G_2</math> 上の正則数とし、<math>z^0=x^0+iy^0 \in G_1\cap G_2</math> とする。
:<math>G_1, G_2\subset\mathbb{C}</math> を領域とし、<math>G_1\cap G_2</math> を単連結、<math>f_1</math> と <math>f_2</math> をそれぞれ、<math>G_1, G_2</math> 上の正則数とし、<math>z^0=x^0+iy^0 \in G_1\cap G_2</math> とする。
:<math>\{z\bigl||z_j-z_j^0|<r_j,y=y^0,1\le j\le n\}</math> 上で <math>f_1=f_2</math> あれば、<math>G_1\cup G_2</math> に一意に正則数 <math>f</math> が存在し、<math>G_1</math> 上で <math>f=f_1</math>、<math>G_2</math> 上で <math>f=f_2</math> となる。
:<math>\{z\bigl||z_j-z_j^0|<r_j,y=y^0,1\le j\le n\}</math> 上で <math>f_1=f_2</math> あれば、<math>G_1\cup G_2</math> に一意に正則数 <math>f</math> が存在し、<math>G_1</math> 上で <math>f=f_1</math>、<math>G_2</math> 上で <math>f=f_2</math> となる。


従って、整数についての[[リウヴィルの定理 (解析学)|リウヴィルの定理]]と[[最大値原理]]が多変数の場合にも同様に成り立ち、さらに、[[逆数定理]]や[[陰関数#陰関数定理|陰数定理]]も変数の場合と同様に成り立つ。
従って、[[]]についての[[リウヴィルの定理 (解析学)|リウヴィルの定理]]と[[最大値原理]]が多変数の場合にも同様に成り立ち、さらに、[[逆数定理]]や[[陰関数#陰関数定理|陰数定理]]も 1 変数の場合と同様に成り立つ。
<!--To show that above two conditions (i) and (ii) are equivalent, it is easy to prove (i) → (ii). To prove (ii) → (i) one uses [[Cauchy's integral formula]] on the n-multiple disc for several complex variables
<!--To show that above two conditions (i) and (ii) are equivalent, it is easy to prove (i) → (ii). To prove (ii) → (i) one uses [[Cauchy's integral formula]] on the n-multiple disc for several complex variables
:{{NumBlk|:|:<math>f(z^1,\dots,z^n)=\biggl(\frac{1}{2\pi i}\biggr)^n\int_{|a^1-w^1|=r_1}\cdots\int_{|a^n-w^n|=r_n}\frac{f(w^1,\dots,w^n)dw^1\cdots dw^n}{(w^1-z^1)\cdots(w^n-z^n)}</math>|{{EquationRef|4}}}}
:{{NumBlk|:|:<math>f(z^1,\dots,z^n)=\biggl(\frac{1}{2\pi i}\biggr)^n\int_{|a^1-w^1|=r_1}\cdots\int_{|a^n-w^n|=r_n}\frac{f(w^1,\dots,w^n)dw^1\cdots dw^n}{(w^1-z^1)\cdots(w^n-z^n)}</math>|{{EquationRef|4}}}}
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== 解析接続の例 ==
== 解析接続の例 ==
[[#正則数|前のセクション]]で述べたように、多変数の場合には、変数の場合と同様な結果が存在するが、多変数の場合には変数と大きく異なった側面もある。たとえば、[[リーマンの写像定理]]、[[ミッタク=レフラーの定理]]、[[ヴァイエルシュトラスの因数分解定理|ヴァイエルシュトラスの定理]]、[[ルンゲの定理]]など変数の場合には変数のままでは適用できない。次の変数の解析接続の例は、これらの差異を示していて、これが多変数複素数論の動機のひとつとなった。
[[#正則数|前]]で述べたように、多変数の場合には、1 変数の場合と同様な結果が存在するが、多変数の場合には 1 変数と大きく異なった側面もある。たとえば、[[リーマンの写像定理]]、[[ミッタク=レフラーの定理]]、[[イエルシュトラスの因数分解定理|イエルシュトラスの定理]]、[[ルンゲの定理]]などそのまま 1 変数の場合と同様には変数の場合へは適用できない。次の 2 変数の解析接続の例は、これらの差異を示していて、これが多変数複素数論の動機のひとつとなった。


多変数複素数の場合は、[[解析接続]]は変数の場合と同じ方法で定義される。すなわち、<math>U, V</math> を <math>\mathbb{C}^n</math> の中の開部分集合とし、<math>f \in \mathcal{O}(U)</math> であり、<math>g \in \mathcal{O}(V)</math> であるとする。<math>U \cap V \ne \phi</math> と <math>W</math> が <math>U \cap V</math> の連結成分と仮定する。<math>f|_W =g|_W</math> であるとすると、<math>h</math> は、
多変数複素数の場合は、[[解析接続]]は 1 変数の場合と同じ方法で定義される。すなわち、<math>U, V</math> を <math>\mathbb{C}^n</math> の中の開部分集合とし、<math>f \in \mathcal{O}(U)</math> であり、<math>g \in \mathcal{O}(V)</math> であるとする。<math>U \cap V \ne \phi</math> と <math>W</math> が <math>U \cap V</math> の連結成分と仮定する。<math>f|_W =g|_W</math> であるとすると、<math>h</math> は、
:<math>h(z) = \begin{cases} f(z) & z\in U, \\ g(z) & z\in V. \end{cases}</math>
:<math>h(z) = \begin{cases}
f(z) & z\in U, \\
g(z) & z\in V.
\end{cases}</math>
として定義される。この <math>h</math> のことを <math>f</math> もしくは、<math>g</math> の解析接続と呼ぶ。<math>h</math> は[[一致の定理]]により一意に決定されるが、[[多価数]]かも知れない。
として定義される。この <math>h</math> のことを <math>f</math> もしくは、<math>g</math> の解析接続と呼ぶ。<math>h</math> は[[一致の定理]]により一意に決定されるが、[[多価数]]かも知れない。


変数の場合(<math>n=1</math>)、任意の開領域 <math>U \varsubsetneqq \mathbb{C}</math> に対し、<math>U</math> 上の正則数 <math>f</math> が存在し、<math>U</math> を超えて解析接続することができない。すなわち、任意の <math>a\in\partial U</math> に対して、<math>f=\frac{1}{z-a}</math> は <math>a</math> を超えて解析接続することは不可能である。しかしながら、多変数の場合(<math>n\ge 2</math>)には、ある厳密に大きな開領域 <math>\widetilde{U} \varsupsetneqq U</math> が存在し、すべての <math>f\in\mathcal{O}(U)</math> が <math>\tilde{f} \in\widetilde{U}</math> へ解析接続できるという現象が起きる。この現象'''ハルトークス現象'''(Hartogs's phenomenon)([[ハルトークスの拡張定理]]も参照)と呼この現象は一変数の場合は起きなかった現象である。
1 変数の場合 ({{math|1=''n'' = 1}})、任意の開領域 <math>U \varsubsetneqq \mathbb{C}</math> に対し、<math>U</math> 上の正則数 <math>f</math> が存在し、<math>U</math> を超えて解析接続することができない。すなわち、任意の <math>a\in\partial U</math> に対して、<math>f=\frac{1}{z-a}</math> は <math>a</math> を超えて解析接続することは不可能である。しかしながら、多変数の場合(<math>n\ge 2</math>)には、ある厳密に大きな開領域 <math>\widetilde{U} \varsupsetneqq U</math> が存在し、すべての <math>f\in\mathcal{O}(U)</math> が <math>\tilde{f} \in\widetilde{U}</math> へ解析接続できるという現象が起きる。この現象'''ハルトークス現象''' {{en|(Hartogs's phenomenon)}}と呼ばれ1 変数の場合は起きなかった現象である([[ハルトークスの拡張定理]]を参照)
<!--== An example on analytic continuation ==
<!--== An example on analytic continuation ==
As described in [[#holomorphic function|the previous]] there are similar results in several variables case as one variable case. However, there are very different aspects in several variable case. For example, [[Riemann mapping theorem]], [[Mittag-Leffler's theorem]], [[Weierstrass factorization theorem|Weierstrass theorem]], [[Runge's theorem]] and so on can not apply to the several variables case as it is in one variable case. The following example of analytic continuation in two variables shows these differences, which was one of motivations to complex analysis in several variables.
As described in [[#holomorphic function|the previous]] there are similar results in several variables case as one variable case. However, there are very different aspects in several variable case. For example, [[Riemann mapping theorem]], [[Mittag-Leffler's theorem]], [[Weierstrass factorization theorem|Weierstrass theorem]], [[Runge's theorem]] and so on can not apply to the several variables case as it is in one variable case. The following example of analytic continuation in two variables shows these differences, which was one of motivations to complex analysis in several variables.


In several variables [[analytic continuation]] is defined in the same way as in one variable case. Namely, let <math>U, V</math> be open subsets in <math>\mathbb{C}^n</math>, <math>f \in \mathcal{O}(U)</math> and <math>g \in \mathcal{O}(V)</math>. Assume that <math>U \cap V \ne \phi</math> and <math>W</math> is a connected component of <math>U \cap V</math>. If <math>f|_W =g|_W</math> then <math>h</math> is defined as
In several variables [[analytic continuation]] is defined in the same way as in one variable case. Namely, let <math>U, V</math> be open subsets in <math>\mathbb{C}^n</math>, <math>f \in \mathcal{O}(U)</math> and <math>g \in \mathcal{O}(V)</math>. Assume that <math>U \cap V \ne \phi</math> and <math>W</math> is a connected component of <math>U \cap V</math>. If <math>f|_W =g|_W</math> then <math>h</math> is defined as
:<math>h(z) = \begin{cases} f(z) & z\in U, \\ g(z) & z\in V. \end{cases}</math>
:<math>h(z) = \begin{cases}
f(z) & z\in U, \\
g(z) & z\in V.
\end{cases}</math>
The above <math>h</math> is called analytic continuation of <math>f</math> or <math>g</math>. Note that <math>h</math> is uniquely determined by the [[identity theorem]] but may be [[multi-valued function|multi-valued]].
The above <math>h</math> is called analytic continuation of <math>f</math> or <math>g</math>. Note that <math>h</math> is uniquely determined by the [[identity theorem]] but may be [[multi-valued function|multi-valued]].


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* [[複素幾何学]]
* [[複素幾何学]]
* [[複素射影空間]]
* [[複素射影空間]]
* {{仮リンク|多実数変数数|label=多実数変数|en|Function of several real variables}}
* {{仮リンク|多実数変数数|label=多実数変数|en|Function of several real variables}}


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==


* H. Behnke and P. Thullen, ''Theorie der Funktionen mehrerer komplexer Veränderlichen'' (1934)
* {{citation|first1=H.|last1=Behnke|first2=P.|last2=Thullen|title=Theorie der Funktionen mehrerer komplexer Veränderlichen|date=1934|ref=harv}}
* {{仮リンク|サロモン・ボホナー|label=Salomon Bochner|en|Salomon Bochner}} and W. T. Martin ''Several Complex Variables'' (1948)
* {{citation|first1=Salomon|last1=Bochner|authorlink1=:en:Salomon Bochner|first2=W. T.|last2=Martin|title=Several Complex Variables|date=1948|ref=harv}}
* [[ラース・ヘルマンダー]], ''An Introduction to Complex Analysis in Several Variables'' (1966) and later editions
* {{citation|first=Lars|last=Hörmander|authorlink=ラース・ヘルマンダー|title=An Introduction to Complex Analysis in Several Variables|origdate=1966|ref=harv}}
* Steven G. Krantz, ''Function Theory of Several Complex Variables'' (1992)
* {{citation|first=Steven G.|last=Krantz|title=Function Theory of Several Complex Variables|date=1992|ref=harv}}
* Volker Scheidemann, ''Introduction to complex analysis in several variables'', Birkhäuser, 2005, ISBN 3-7643-7490-X
* {{citation|first=Volker|last=Scheidemann|title=Introduction to complex analysis in several variables|publisher=Birkhäuser|date=2005|isbn=3-7643-7490-X|ref=harv}}


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2015年2月7日 (土) 12:49時点における版

数学における多変数複素関数論(たへんすうふくそかんすうろん、: The theory of functions of several complex variables)は、複素多変数の複素数値関数を扱う理論である。複素多変数の複素数関数とは、複素数を成分に持つ n 全体の成す空間 Cn 上の複素数値関数

を指す。

単変数の複素解析と同様に、多変数の複素解析においても、任意の写像は扱わず、正則関数のような複素解析的 (complex analytic) な関数(局所的に言えば変数 zi たちに関する冪級数となっているような関数)についてを扱う。そのような関数は結局のところ、多項式列の局所一様収束極限として得られるような関数ということもできるし、n 次元コーシー・リーマンの方程式の局所解であると言っても同じことである。 多変数の複素解析は単変数の複素解析を拡張した理論であるが、単変数の理論にはない特徴を持っている。

歴史的観点

上述のような関数の多くの例は、19世紀の数学においてよく取り扱われたものであった。例えばアーベル関数テータ関数の他、ある種の超幾何級数がそのような例として挙げられる。また、ある複素媒介変数に依存する任意の 1 変数関数も、そのような候補として自然に挙げられる。しかしそれらの特徴的な現象は捉えられていなかったため、長年の間、解析学においてその理論の完成は充分なされていなかった。ワイエルシュトラスの予備定理は現在では可換環論に分類されるであろう。それはリーマン面の理論における分岐点の一般化を扱った局所的な一面である分岐を正当化したものである。

1930年代のフリードリヒ・ハルトークス岡潔の成果により、一般理論の構築がなされ始めた。その当時の同分野における他の研究者には、ハインリヒ・ベーンケピーター・トゥレン英語版およびカール・シュタイン英語版がいる。ハルトークスは、n > 1 のとき任意の解析的関数

に対してすべての孤立特異点除去可能であるなど、いくつかの基本的な結果を証明した。ここで自然なことであるが、周回積分と類似の概念は扱いがより難しくなる。実際、n = 2 のときある点の周りの積分は 3 次元多様体上で行われる必要がある(実 4 次元を考えるため)が、2 つの分かれた複素変数についての逐次周回積分は 2 次元曲面上の 2 重積分として扱われる必要がある。このことは、留数計算が非常に異なる性質を持つようになることを意味する。

1945年以降、アンリ・カルタンのフランスでのセミナーや、ハンス・グラウエルト英語版およびラインホルト・レンマート英語版のドイツでの重要な研究によって、理論の形式は著しく変化した。特に解析接続に関してなど、多くの問題が明らかにされた。ここで 1 変数の理論との主要な違いが明らかになる。すなわち、C 内の任意の開連結集合 D に対して、その境界上のどこでも解析接続できない関数を見つけることができるが、n > 1 の場合はそのようにはならない。実際、この種の D はいくらか特殊なもの(擬凸性と呼ばれる条件が課される)となる。極限に接続される、そのような関数の自然な定義域はシュタイン多様体と呼ばれ、それらの性質は層係数コホモロジー群を消失させるものである。実際、理論構成に対する層の有効な使用を導いたあるより明確な基底に関する岡潔の功績を取り上げる必要がある。

さらに進んで、解析幾何(紛らわしいが、これは解析的関数の零点の幾何に関する名称であり、初中等教育で習うような解析幾何学のことではない)や複数変数の保型形式偏微分方程式などに応用できる基本的な理論が構築された。また複素構造の変形理論英語版複素多様体は、小平邦彦ドナルド・スペンサーによって一般の形式で表現された。さらに、ジャン=ピエール・セールの高名な論文 GAGA において、解析幾何 (géometrie analytique) を代数幾何 (géometrie algébrique) へと橋渡す観点が突き止められた。

カール・ジーゲルは、新たな「多複素変数の関数論」にはわずかな関数しか含まれていないことに不平をもらしたことが知られている。すなわち、その理論における特殊関数的な側面は層に従属するものであった。数論に対する興味は、特にモジュラー形式の一般化に注がれる。その古典的な代表例は、ヒルベルトモジュラー形式英語版ジーゲルモジュラー形式英語版である。今日においてそれらは、解析的関数から保型表現が生じるようなアーベル群(それぞれ GL(2)総実代数体英語版ヴェイユ制限英語版と、シンプレクティック群)と関連付けられている。これはジーゲルの理論と矛盾しないという意味で、近代の理論はそれ自身が異なる方向性を持つものであった。

その後の発展として、佐藤超関数の理論や楔の刃の定理英語版が挙げられるが、それらはいずれも場の量子論から着想が得られているものである。その他、バナッハ環の理論など、多複素変数を扱う分野は数多く存在する。

Cn 空間

最も簡単なシュタイン多様体は、複素数の n からなる空間 Cn複素 n 空間)である。これは複素数C 上の n 次元ベクトル空間とみることができて、つまりR 上の次元が 2n[1] である。したがって、集合および位相空間として、CnR2n と等しく、その位相次元2n である。

座標を抜きにして述べるならば、複素数体上の任意のベクトル空間は、その 2 倍の次元を持つ実ベクトル空間であって、なおかつ虚数単位 i によるスカラー倍を定義する線型作用素 J (J 2 = −I) によって複素構造が特定されるようなものということになる。

そのような任意の空間は、実空間として向き付けられているガウス平面デカルト平面と見做したとき、複素数 w = u + iv を掛けるという操作は、実行列

によって表現される。これは 2 × 2 の実行列で、行列式

となる。同様に、任意の有限次元複素線型作用素を(上述の形式の 2 × 2 ブロック行列によって構成される)実行列として表現するとき、その行列式は対応する複素行列式の絶対値自乗に等しい。それは非負の数であるが、このことは複素作用素によって空間の(実)方向が反転されることはないことを意味する。同様のことは Cn から Cn への正則関数ヤコビ行列に対しても適用される。

正則関数

領域 上で定義された関数 正則であるとは、 が次の 2 つの条件のうちの一つを満たすことである。

(i) 各々の点 上で、関数 は、 で収束するべき級数展開
(1)
で表わされる。この方法は、ヴァイエルシュトラス(Weierestrass)の解析的な方法に起源を持つ。
(ii) 上で連続であれば、各々の変数 に対して、関数 が正則関数であることである。すなわち、
(2)
この方程式は、一般化されたコーシー・リーマンの方程式[2]と呼ばれ、リーマンの微分方程式の方法に起源を持つ(ハルトークスの拡張定理を使うと、(ii) の中の連続性の仮定の必要がない)。

各々の添字 λ に対して、 として、通常の 1 変数のコーシー・リーマンの方程式を一般化すると、

.
(3)

を得る。

と置くと、

を通して、上の式 (2)(3) が同値であることが分かる。

2つの条件 (i) と (ii) の同値性を示すには、(i) → (ii) を証明することは容易である。(ii) → (i) を証明するためには、多変数複素関数についての n 多重円板 (multiple disc) 上でのコーシーの積分公式

(4)

を使い、式 (1) の中のべき級数展開の係数 を評価する。1 変数の場合のコーシーの積分公式はある半径 r の円周上での積分であったが、多変数の場合は (4) のように半径が の多重円板の円筒の周上の積分である。

1 変数の場合と同様に、多変数の場合でも成立するローラン級数の性質のために、一致の定理が成り立つ。

を領域とし、 を単連結、 をそれぞれ、 上の正則関数とし、 とする。
上で あれば、 に一意に正則関数 が存在し、 上で 上で となる。

従って、整関数についてのリウヴィルの定理最大値原理が多変数の場合にも同様に成り立ち、さらに、逆関数定理陰関数定理も 1 変数の場合と同様に成り立つ。

解析接続の例

前節で述べたように、多変数の場合には、1 変数の場合と同様な結果が存在するが、多変数の場合には 1 変数と大きく異なった側面もある。たとえば、リーマンの写像定理ミッタク=レフラーの定理ワイエルシュトラスの定理ルンゲの定理などは、そのまま 1 変数の場合と同様には多変数の場合へは適用できない。次の 2 変数の解析接続の例は、これらの差異を示していて、これが多変数複素関数論の動機のひとつとなった。

多変数複素関数の場合は、解析接続は 1 変数の場合と同じ方法で定義される。すなわち、 の中の開部分集合とし、 であり、 であるとする。 の連結成分と仮定する。 であるとすると、 は、

として定義される。この のことを もしくは、 の解析接続と呼ぶ。一致の定理により一意に決定されるが、多価関数かも知れない。

1 変数の場合 (n = 1)、任意の開領域 に対し、 上の正則関数 が存在し、 を超えて解析接続することができない。すなわち、任意の に対して、 を超えて解析接続することは不可能である。しかしながら、多変数の場合()には、ある厳密に大きな開領域 が存在し、すべての へ解析接続できるという現象が起きる。この現象はハルトークス現象 (Hartogs's phenomenon)と呼ばれ、1 変数の場合は起きなかった現象である(ハルトークスの拡張定理を参照)。

関連項目

脚注

  1. ^ 複素数体は実数体上 2-次元ベクトル空間である。
  2. ^ ヴィルティンガー微分 (Wirtinger derivative) を使い、多変数複素正則関数について一般化する。

参考文献

  • Behnke, H.; Thullen, P. (1934), Theorie der Funktionen mehrerer komplexer Veränderlichen 
  • Bochner, Salomon; Martin, W. T. (1948), Several Complex Variables 
  • Hörmander, Lars, An Introduction to Complex Analysis in Several Variables 
  • Krantz, Steven G. (1992), Function Theory of Several Complex Variables 
  • Scheidemann, Volker (2005), Introduction to complex analysis in several variables, Birkhäuser, ISBN 3-7643-7490-X