「ホッジ双対」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Enyokoyama (会話 | 投稿記録)
en:Hodge dual 1 Jan. 2015 より日本語化
(相違点なし)

2015年1月2日 (金) 04:56時点における版

数学において、ホッジスター作用素(Hodge star operator)、もしくは、ホッジ双対(Hodge dual)は、ホッジ英語版(Hodge)により導入された重要な線型写像である。ホッジ双対は、有限次元の向き付けられた内積空間外積代数の上で定義される。

次元と代数

n を向きつけられた内積空間の次元とし、k0 ≤ kn の整数とすると、ホッジスター作用素は、k-ベクトル英語版(k-vectors)から (nk)-ベクトル空間への1:1対応を確立する。この写像の k-ベクトルの像は、k-ベクトルのホッジ双対と呼ばれる。前者の k-ベクトルは次元

がであることに対し、後者の次元は、

であり、実際は、二項係数の対称性により 2つの次元は等しい。同じ体の上の同じ次元の 2つのベクトル空間は常に同型であるが、自然に標準的方法で同型となるわけではない。しかし、この場合のホッジ双対は、内積とベクトル空間の向き付けを保存しない。従って、代数における二項係数のパターンを反映した同型を一意に特定してする。このことは、k-ベクトル空間の内積を導く。自然な定義とは、この双対関係が理論の幾何学的な役割を果たすことを意味する。

最初の興味深い例は、3次元ユークリッド空間 V である。パスカルの三角形の適当な行を考えると

1, 3, 3, 1

であり、ホッジ双対は、2つの 3次元空間、V 自身とV から導かれる 2つのベクトルのウェッジ積の空間の間の同型を確立する。詳細は、#例の節を参照。この場合には、まさに伝統的なベクトル解析であるクロス積である。クロス積の性質が 3次元での特殊な例であることに対し、ホッジ双対はすべての次元に適用される。

拡張

ベクトル空間上の k の交代的な線型形式の空間は、自然にこのベクトル空間上のk-ベクトル空間の双対と同型となるので、ホッジ双対はこれらの空間上でも同様に定義することができる。従って、線型代数からの大部分の構成は、ホッジ双対はベクトルバンドルへ拡張することができる。このように、ホッジ双対を理解することは、外微分余微分形式(codifferential)、従ってラプラス=ド・ラーム作用素である余接バンドルの外積代数(つまり、多様体の上の微分形式の空間)を理解することである。このことがコンパクトリーマン多様体上の微分形式ホッジ分解を導く。

k-ベクトルのホッジスターの公式な定義

非退化対称双線型形式(ここでは内積である)を持つベクトル空間 V 上のホッジスター作用素(Hodge star operator)は、V外積代数上の線型作用素であり、0 ≤ kn に対し、k-ベクトルを (nk)-ベクトルへ写像する。ホッジスター作用素は、作用素自身を完全に定義するような次の正式を持つ。2つの k-ベクトル α, β が与えられたとき、

である。ここに k-ベクトル上の内積であり、ω は単位 n-べクトルである。

k-ベクトル上の内積 は、V 上の内積から、すべての分解可能な k-ベクトル に対して、

と定義を拡張することができる。

単位 n-ベクトル ω は符号を除き一意に決まる。ω を選択すると、V 上の向き付けが決まる。

説明

W を内積 を持つベクトル空間とする。リースの表現定理は、(有限次元の場合)すべての連続な線型写像 に対し、W の中に一意なベクトル v が存在し、W のすべての w について を満たすという定理である。 により与えられる写像 は同型である。このことは、内積を持つすべてのベクトル空間について成立し、ホッジ双対の説明に使うことができる。

V を基底 を持つ n-次元ベクトル空間とする。0 ≤ kn に対し、外べき積空間 を考えると、

に対し、

が得られる。スカラー倍を同一視すると、唯一の n-ベクトル、つまり が一意に存在する。言い換えると、 は、すべての に対して のスカラー倍でなければならない。

を固定すると、一意に線型函数

が存在して、

となる。この は前のパラグラフのスカラー倍である。(nk)-ベクトルの内積を表すと、一意に (nk)-ベクトル、

が存在し、

を満たす。この (nk)-ベクトル λλ のホッジ双対であり、内積

により導かれた同型の下で の像となる。このようにして、

が得られる。

ホッジスターの計算

と順序付けされた直交基底 が与えらえると、

となることが分かる。ここに {1, 2, ..., n}. の置換である。これらの 個の関係式 は独立である。最初のひとつを辞書式順序を使って表すと、

となる。

スター作用素のインデックス記法

インデックス記法を使うと、ホッジ双対は、n-次元完全反対称レヴィ・チヴィタテンソル(Levi-Civita tensor)を持つ k-形式のインデックスを取り出すことにより得られる。g を内積(計量テンソル)としたときの |det g|1/2 の要素が、ホッジ双対とレヴィ・チヴィタの記号との差異である。行列式の絶対値は、g が正定値でない(たとえば、ローレンツ多様体(Lorentzian manifolds))場合には、必然である。

このように[1]

と書く。ここに ηk の任意の反対称テンソルである。レヴィ・チヴィタテンソル同じ内積 g を使い、レヴィ・チヴィタテンソルの定義と同様に、インデックスを上げたり下げたりする英語版(indices are raised and lowered)。任意のテンソルに対しスター作用素を作用させることができるが、完全な反対称なレヴィ・チヴィタ記号を引き抜くとテンソルの対称的な成分が完全にキャンセルされつので、結果は反対称的である。

スター作用素の共通の例は、n = 3 であり、サイズが 3 × 3 のベクトルと歪対称行列の場合である。このことはベクトル解析において暗に使うことができ、たとえば、2つのベクトルのウェッジ積からクロス積を作りだすことができる。特に、ユークリッド空間 R3 では、容易に、

であることが分かる。ここに dx, dy と dzR3 上の標準の直交な微分 1-形式である。3次元におけるホッジ双対は、明らかにクロス積とウェッジ積を関連付ける。微分幾何学へ限定しない詳細な説明は、パラグラフを改める。

3次元の例

ホッジ双対を3次元へ適用すると、軸性ベクトル2-ベクトル英語版(bivector)の間の同型が得られるので、軸性ベクトル a と 2-ベクトル A に互いに付随する。すなわち、[2]

が成り立つ。ここに、 は双対作用素を表す。これらの双対関係は、実、および複素クリフォード代数 C3(R) の単位擬スカラー英語版(Unit pseudoscalar)をかけることにより、導入することができる[3]i = e1e2e3 (ベクトル {e} は 3次元ユークリッド空間の中での直交基底である)は、次の関係式に従う[4]

ベクトルの双対は i をかけることにより得られ、次のように代数の幾何学的な積英語版(geometric product)の性質を使い確立できる。

また、{eem} によりはられる空間においても、

である。これらの結果を確立するとき、恒等式

使い、

を得る。

これらの双対 i 関係式は、任意のベクトルに対して適用できる。ここで双対は、クロス積 a = u × v として生成された軸性べクトルを、2-ベクトルに値を持ち 2つの英語版(polar)(つまり、軸性ではない)ベクトル uv外積 A = uv へと関係付けることに適用される。2つの積は、行列式を使う同じ方法で、記法 em = eem を使い、次ぎのように書き表すことができる。

これらの表現は、2つのタイプのベクトルは、ℓ, m, n が巡回的(acyclic)な関係式

と、再び ℓ, m, n が巡回的な関係式

の 2つの結果として、ホッジ双対であることを示される[2]

i を基礎とする の導入については、共通に使われている関係式[5] は、

である。

4次元

n = 4 の場合では、ホッジ双対は第二外微分のべきの自己準同型として作用する(つまり、 4 − 2 = 2 であるので、ホッジ双対は 2-形式から 2-形式への写像である)。ホッジ双対は、一種の対合であり、よって、ホッジ双対は自分から自分自身への自己双対反自己双対な部分空間へ分解し、その上でホッジ双対がそれぞれ +1 , -1 として作用する。

他の有用な例は、n = 4 次元の計量の符号 (+ − − −) と 座標 (t, x, y, z) を使いミンコフスキー空間に対し、( を使い、) 1-形式に対し、

であり、一方、2-形式に対し、

である。

k-ベクトルの内積

ホッジ双対は k-ベクトル空間、つまり、V外積代数上の内積を導く。2つの k-ベクトル ηζ が与えられると、

を得る。ここに ω は正規化された n-形式(すなわち、ω ∧ ★ω = ω) である。次元 n擬リーマン多様体(pseudo-Riemannian manifold)上の外微分形式の計算において、正規化された n-形式を体積形式と呼び、

と書く。ここに 座標基底で多様体の計量テンソルの成分の行列であす。

内積が 上に与えられると、この方程式はホッジ双対の代わりとなる定義をみなすことができる[6]V の中の直交基底の元のウェッジ積は、V の外積代数の直交基底を形成する。

双対性

ホッジスターは双対性を定義する。そのときに二重にホッジスターを適用した結果は符号を除き外積代数の恒等元である。n-次元空間 V の中の Λk(V)k-ベクトルが与えられると、

を得る。ここに sV 上の内積の計量の符号英語版(metric signature)である。特に、s は内積テンソルの行列式の符号である。このように、たとえば、n = 4 で内積の符号が、(+ − − −) 、または、(− + + +) であれば、s = −1 である。通常のユークリッド空間に対し、符号は常に正であり、従って、s = 1 である。ホッジスターが擬リーマン多様体へ拡張されると、上の内積は対角形式での計量であると理解される。

注意すべきは、上の恒等元は、 の逆元が

で与えられることである。n が奇数であれば、任意の k に対し k(nk) は偶数であり、n が偶数であれば、偶数の k(nk)k のパリティを持っている。従って、

である。ここに k は操作した形式の次数である。

余微分形式

多様体上のホッジ双対の最も重要な応用は、余微分(codifferential) δ を定義することである。

とする。ここに、リーマン多様体に対し、d外微分、あるいは微分形式とし、s = 1 とする。

であることに対し、

である。余微分は、外積代数上の反微分ではなく、外微分である。

余微分は、外微分に随伴し、

である。ここに ζ は (k+1)-形式であり、ηk-形式である。この恒等式は滑らかな微分形式に対するストークスの定理に従う。このときに、

となる。つまり、M は境界を持たないか、または、η あるいは ζ が境界値が 0 を持っているときである(もちろん、真の随伴性は、滑らかな微分形式の閉包として、適切な位相ベクトル空間への連続に接続した後に、これらの事実が成り立つ)。

注意すべきは、微分形式は、d2 = 0を満たすので、余微分は対応する性質

を持っている。

ラプラス・ド・ラーム作用素

で与えられ、ホッジ理論の心臓部をなす。この作用素は対称的であり、

であり、非負

である。ホッジ双対は、調和形式を調和形式へ写像する。ホッジ理論の結果として、ド・ラームコホモロジーは自然に調和 k-形式の空間と同型となり、ホッジスターはコホモロジー群

の同型をもたらす。このことは双対空間を持つ H k(M)ポアンカレ双対性を通して、標準的な同一視をもたらす。

多様体上のホッジスター

上の構成を各々の n-次元のリーマン多様体、あるいは擬リーマン多様体(pseudo-Riemannian manifold)のそれぞれの余接空間に対し繰り返すことができ、k-形式ホッジ双対 (nk)-形式を得る。すると、ホッジスターは多様体上の微分形式のL2-ノルムである内積を与える。 切断 ηζ の内積に対し、

である(切断の集合は、 と書かれることが多い。 の元は、外 k-形式と呼ばれる)。

さらに一般的には、向き付けされていない場合は、k-形式のホッジスターを (nk)-擬微分形式英語版(pseudo differential form)、すなわち、標準ラインバンドルに値を持つ微分形式を定義することができる。

3次元での微分

3次元では、 作用素と外微分 d の組み合わせは、古典的作用素 gradcurldiv を生成する。このことは次のようにして分かる。d は、0-形式(函数)から 1-形式へ、1-形式から 2-形式へ、2-形式から 3-形式へ(3-形式へ作用させると 0 となる)作用素である。0-形式 に対し、成分表示された第一の場合は、grad 作用素と同一視される。

第二の場合は、 作用素により、1-形式上の作用素()を成分で示すと、curl 作用素である。

ホッジスター作用素を適用することは、次を意味する。

最後の場合は、 を作用させると、1-形式 () から 0-形式(函数)を得て、成分で示すと div 作用素である。

この表現の有利な点のひとつは、どの場合でも成り立つ恒等式 d2 = 0 が、残る 2つをまとめ、curl(grad( f )) = 0div(curl(F)) = 0 と得る。特に、マクスウェルの方程式は、外微分とホッジスター作用素で表すと、特別に単純でエレガントな形となる。

ラプラシアンも得ることができる。上の情報と Δ f  = div grad f という事実を使うと、0-形式 に対し、

となる。

脚注

  1. ^ The Geometry of Physics (3rd edition), T. Frankel, Cambridge University Press, 2012, ISBN 978-1107-602601
  2. ^ a b Pertti Lounesto (2001). “§3.6 The Hodge dual”. Clifford Algebras and Spinors, Volume 286 of London Mathematical Society Lecture Note Series (2nd ed.). Cambridge University Press. p. 39. ISBN 0-521-00551-5. http://books.google.com/books?id=E_xvJuA4M7QC&pg=PA39 
  3. ^ Venzo De Sabbata, Bidyut Kumar Datta (2007). “The pseudoscalar and imaginary unit”. Geometric algebra and applications to physics. CRC Press. p. 53 ff. ISBN 1-58488-772-9. http://books.google.com/books?id=AXTQXnws8E8C&pg=PA53 
  4. ^ William E Baylis (2004). “Chapter 4: Applications of Clifford algebras in physics”. In Rafal Ablamowicz, Garret Sobczyk. Lectures on Clifford (geometric) algebras and applications. Birkhäuser. p. 100 ff. ISBN 0-8176-3257-3. http://books.google.com/books?id=oaoLbMS3ErwC&pg=PA100 
  5. ^ David Hestenes (1999). “The vector cross product”. New foundations for classical mechanics: Fundamental Theories of Physics (2nd ed.). Springer. p. 60. ISBN 0-7923-5302-1. http://books.google.com/books?id=AlvTCEzSI5wC&pg=PA60 
  6. ^ Darling, R. W. R. (1994). Differential forms and connections. Cambridge University Press 

参考文献