標準バンドル

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数学において、標準バンドル(canonical bundle)とは、 n 次元非特異代数多様体 V上の余接バンドルをΩとしたとき、その外積代数としての n 乗となるラインバンドル \,\!\Omega^n = \omega のことを言う。

複素数上では、V の正則 n-形式の行列式バンドル英語版である。これは、セール双対性により V 上の双対対象英語版を考えることができ、これは可逆層である。

標準クラスは、V 上のカルティエ因子因子類英語版であり、標準バンドル — により与えられる。この標準クラスは、V 上の任意の因子の線型同値同値類であり、標準因子(canonical divisor)とも呼ばれる。反標準因子は、K を標準因子としたときの、因子 −K である。

反標準バンドルは、−K に対応する可逆層 ω−1 である。V の反標準バンドルが豊富なとき、V をファノ多様体と呼ぶ。

随伴公式[編集]

X を滑らかな多様体英語版(smooth variety)で、D を X の上の滑らかな因子とする。随伴公式は X の標準バンドルと D を関連付ける。これは自然な同型

\omega_D = i^*(\omega_X \otimes \mathcal{O}(D))

のことを言う。標準類の項では、

K_D = (K_X + D)|_D.

である。この公式は代数幾何学で最も強力な公式の一つであり、現代の双有理幾何学の重要なツールは、随伴公式の逆のバージョンで、この公式は D の特異点から X の特異点についての結果を導くことが可能となる。

特異点のある場合[編集]

多様体 X に特異点のある場合には、標準因子を定義する方法がいくつか存在する。多様体が正規(normal)であれば、余次元は 1 では滑らかである。特に、滑らかな軌跡の上の標準バンドルを定義することができる。このことが X 上に一意にヴェイユ因子のクラスを与える。これを K_X と記し、X 上の標準因子とする。

替わって、再び正規多様体 X の場合には、h^{-d}(\omega^._X)、X の正規化された双対複体英語版 -d番目のコホモロジーを考えることができる。この層は、ヴェイユ因子クラスに対応し、上記の因子類 K_X に同値である。正規性を仮定しない場合でも、X が S2 の場合や、次元が 1 のゴレンシュタイン環(Gorenstein ring)の場合は同じ結果が成立する。

標準写像[編集]

標準写像が有効(effective)の場合は、標準写像は V から射影空間の中への有理写像英語版を決定する。この写像を標準写像という。標準クラスの n 乗積によって決定された有理写像は、n-標準写像と呼ばれる。n-標準写像は、V から次元が標準写像の n-乗積の大域切断の次元よりも 1 だけ小さな次元の射影空間への埋め込みを決める。n-標準写像は、基本となる点(base point)を持っていることがある。この意味は、どこにも定義されない点のことで、つまり多様体の写像されない点のことである。基本点は、正の次元のファイバーで、ゼロ次元のファイバーであっても、局所的に解析的に同型であるとは限らない。

標準曲線[編集]

最も研究されている例は曲線の場合である。ここでは、標準バンドルは、(正則)余接バンドルである。標準バンドルの大域的切断は、従って、どこでも微分形式と同一となる。古典的には、これらは第一種微分英語版(differentials of the first kind)と呼ばれる。標準クラスの自由度(degree)は、種数 g の曲線に対しては、2g − 2 である。[1]

小さな種数[編集]

C を種数 g を持つ滑らかな代数曲線とする。g がゼロであれば、C は P1 であり、標準クラスは −2P のクラスとなる。ここに P は C の任意の点である。このことは、計算のための式 d(1/t) = −dt/t2 から従う。例えば、リーマン球面の上の無限遠点で二重の極を持つ有理型微分形式がある。特に、KC とその多重化したもの(multiples)は有効(effective)ではない。g = 1 であれば、C は楕円曲線 であり、KC は自明なバンドルとなる。自明なバンドルの大域的切断は、1-次元のベクトル空間を形成するので、任意の n について n-標準写像は一つの点への写像となる。

超楕円曲線の場合[編集]

C が種数 2 もしくはそれ以上の場合は、標準クラスは大きなラインバンドルとなるので、任意の n-標準写像の像は曲線となる。1-標準写像の像を標準曲線という。種数 g の標準曲線はいつも常に種数 g - 1 の次元の射影空間に像を持つ。[2] C が超楕円曲線の場合には、標準曲線は有理正規曲線英語版(rational normal curve)であり、C は標準曲線の二重被覆である。例えば、P を(重根がないような)6次の多項式とすると、

y^2 = P(x)

は種数 2 の曲線のアフィン曲線表現であり、必ずしも超楕円曲線ではなく、第一種微分形式の基底は同じ記号を使い次の式で与えられる。

dx/\sqrt{P(x)},\ \ \ \ \ \ \ \ x dx/\sqrt{P(x)}.

このことは、標準写像が射影直線への射影として、同次座標 [1:x] により与えられる意味している。高次の種数を持った超楕円曲線の有理正規曲線は、x の中の高次のべきの単項式と同じ方法で現れる。

一般の場合[編集]

一般の場合には、少なくとも 3 以上の種数 g を持つことを意味する超楕円曲線 C について、写像は種数が 2g − 2 の曲線とその像とが同型となる。このように、g = 3 と場合は、標準曲線(超楕円曲線ではない)は、4次平面曲線英語版(quartic plane curve)となる。すべての非特異 4次曲線はこの方法で作ることができる。種数 g = 4 の場合も明らかになっていて、標準曲線は二次曲面三次曲面英語版(cubic surface)の交叉となり、種数が g = 5 の場合には、3つの二次曲面の交叉となっている。[2] この定理の逆もまた存在していて、リーマン・ロッホの定理の系となっている。次元が g - 1 の射影空間へ種数 g - 2 の線型正規な曲線として埋め込まれた種数 g の非特異代数曲線 C は、標準曲線であり、もたらされた線形の空間は全空間を満たす。実際、(種数 g が少なくとも 3 以上の非超楕円曲線の場合では)標準曲線 C、リーマン・ロッホの定理と、特殊因子英語版の関係は密接で、異なる点からなる C 上の有効因子 D は、標準埋め込みの線型空間を持っていて、線型空間の次元は直接それらが動く線形系の次元に関係している。多重度を持つ点へのこれの適用についての詳細な議論は、次の文献を参照のこと。[3][4]

さらに詳細な情報があって、大きな種数 g に対し、標準曲線は一般には完全交叉英語版にならず、さらに可換代数英語版の知識を必要とする。マックスネターの定理によって出発した分野は、標準曲線として埋め込まれた C と通した二次曲面の空間の次元は、(g − 2)(g − 3)/2 である。[5] ペトリの定理(Petri's theorem)は、1923年にカール・ペトリ(1881–1955)が出版したのでこの名前がついているが、少なくとも種数 g が 4 に対して、標準曲線で定義される同次イデアルは次数 2 の元により生成される。ただし、(a) トリゴナル曲線英語版 と (b) 種数 g = 6 の場合には非特異5次平面曲線となる。例外として、イデアルは次数 2 と 3 の元により生成される。歴史的に見て見ると、この結果は、ペトリ以前よりよく知られていて、ババージ・キッシーニ・エンリケス(Babbage-Chisini-Enriques)の定理として知られていた(デニス・ババージ、オスカー・キッシーニ、フェデリゴ・エンリケスにより)。用語が混乱しているのは、結果がネター・エンリケスの定理(Noether–Enriques theorem)と呼ばれているからである。超楕円曲線以外では、ネターは(現代のことはで言うと)標準バンドルは正規に生成英語版(normally generated)されたことを証明した。標準バンドルの切断の空間の対称べき英語版は、テンソル積の切断の上へ写像される。[6][7] 例えば、このことは、例えば、第一種の微分によるそのような曲線上の二次微分の生成であり、これは局所トレリの定理英語版に結論を持っている[8]。ペトリの仕事は実際には、イデアルの 2次と 3次の生成子を明確に与えたことで、これは例外とは別に3次曲線は2次曲線の項で表現されることを示した。例外的な場合は、2次曲線と標準曲線を通した交叉が、それぞれル-ルド曲面英語版(ruled surface)とボロネーゼ曲面英語版(Veronese surface)である。

これらの古典的な結果は、複素数体の上で証明されたが、最近の議論では、このテクニックは任意の標数の体へも適用出来ることが示されている。[9]

標準環[編集]

V の標準環は、次の次数付き環である。

R = \bigoplus_{d = 0}^\infty H^0(V, K_V^d).

V の標準クラスが、豊富なラインバンドルであれば、標準環は標準写像の像の斉次座標環となる。このことは、V の標準環が豊富でない場合でも正しい。例えば、V が超楕円曲線の場合には、標準環は再び標準写像の像の斉次座標環となる。一般的には、上記の環が有限生成の場合は、k を充分に分割可能な大きな正の整数としたときの k-標準写像の像の斉次座標環となることを見ることは、容易にできる。

極小モデルプログラムは、マイルドな特異性を持つ射影多様体の標準環が有限生成となることを提唱している。とくに、標準モデル(canonical model)の存在は、つまりV へブローダウンすることができる特異性を持った V の双有理モデルの存在を言っている。標準モデルが有限生成の場合は、標準モデルは標準環の Proj である。もし標準環が有限生成でない場合は、Proj Rは多様体ではなく、従って、V とは双有理同値ではなく、とくに、V は標準モデルを持つことはない。

2006年のバーカー・カッシーニ・ハーコン・マッカナンの基本定理[10] は、滑らかで、マイルドな特異性を持つ射影代数多様体はの標準環は有限生成であることを言っている。

極小モデルプログラムは、標準環がすべて滑らかでマイルドな特異性しか持たない射影多様体であれば、有限生成であろうことを提唱している。特に、このことは標準モデルの存在、つまりV の双有理モデルで V へブローダウン可能なマイルドな特異性を持つことを意味している。標準環が有限生成の場合には、標準モデルは標準環のProjである。標準環が有限生成ではない場合には、Proj Rは多様体にならず、V とは双有理同値ではありえず、特に、V は標準モデルを持つことになる。

V の小平次元は標準環の次元から 1 を引いた次元で、標準環の次元はクルル次元、あるいは超越次数である。

参照項目[編集]

参考文献[編集]