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NEM (暗号通貨)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ネム
作者 Jaguar, Gimre, BloodyRookie 他
開発元 Jaguar, Gimre, Hatchet
初版 2015年3月31日 (9年前) (2015-03-31)
リポジトリ https://github.com/NemProject
プログラミング
言語
Java
後継 Symbol(シンボル)
種別 ブロックチェーン
公式サイト nem.io
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NEM(ネム)とは、分散化、経済的な自由、平等といった原則に基づいた新しい経済の枠組みを確立することを目標としたプロジェクトで利用されるブロックチェーンである[1]。2015年3月31日に開始された[2]。ネイティブ通貨はXEM(ゼム)[3]。主な機能として、P2Pセキュアなマルチシグ(多重署名)アカウント[4]、暗号化メッセージングシステム、Eigentrust++評判システム[5]が組み込まれている。電子署名アルゴリズムとしてED22519を採用する[6]

また、NEMの機能をアップグレードさせた後継ブロックチェーンにSymbolがある。今後NEMはSymbolのサブチェーンとして統合されていく予定である[7]

歴史

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2014年1月19日、Nxtに触発されUtopianFutureと呼ばれるBitcoin Talkフォーラムユーザーによって参加が呼びかけられ[8]、Jaguar、Gimre、BloodyRookieらで開発が始まった[9]。オープンアルファテストを6月25日に開始し[10]、オープンベータテストを10月20日に開始した[10]。そして2015年3月31日にメインネットが公開された[2]。また、メインネットのジェネシスブロックは3月29日に出ている[11]。2016年11月1日に新型ウォレット「Nanowallet」をオープンソースとして公開された[12]。2017年3月にはNEMの導入、教育、普及を国際的規模で行うことを目的に「NEM財団」がシンガポールにて設立された[13]。 2018年1月26日、コインチェックにてXEMが大量流出し[14]、3月には流出分が全額返金された[15]。2020年4月にはNEM財団を解散して「NEMグループ(NEM Group Ltd.:NGL)」が設立された[16][17]。 2020年7月23日、リトアニア中央銀行がNEMブロックチェーンを利用した世界初のCBDCLBCoin」を発行した[18]。2021年11月5日、ハードフォーク「Harlock(ハーロック)」の実施を発表し、日本時間12月1日に完了した[19]

特徴

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XEM
使用
国・地域
世界の旗 世界
総発行量8,999,999,999 XEM
補助単位
10−6μXem (microXem)
10−3mXem (milliXem)
通貨記号XEM

XEM

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NEMでは、内部通貨として「XEM」が規定され、総発行量は約90億(8,999,999,999)XEMである。これはNEMが公開された時に全て発行され、新規発行される事はない。XEMは取引手数料の支払いや、ハーベストと言われる取引承認作業を行なった人への報酬として使用される[3]

ハーベスト

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NEMはコンセンサスアルゴリズムとしてProof-of-Importance(PoI)を採用し、ブロック生成するプロセスをハーベストという。 PoIでは、NEMアカウントの重要度(インポータンス)が所有しているXEMの数とウォレットとの間の取引数や取引額によって決まり、約1分ごとにブロックの中に入っている手数料が重要度によってウォレットに対してランダムに配分される。ただし、配分される権利はNEMアカウントの既得バランスが10,000XEM以上の保有アカウントに適用される[20]

トークン資産管理機能

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NEMでは、トークンを発行する機能があり、そのトークンをモザイクと呼ぶ。内部通貨XEMはモザイクの一種であり、初めから組み込まれているトークンである。トークンを作成するには、ネームスペース領域にてドメイン名を作り、その下にてモザイクを作ることになっている。またモザイクは、以下の属性を持つ[21][22]

  • Description(説明):モザイクの説明文
  • Divisibility(可分性):モザイクを小数点まで分割できるようにする
  • Information(情報):プロパティに入れることができる任意のバイト配列
  • Namespace(名前空間):NEMにおけるドメイン名
  • Name(名前):モザイクの名称
  • Mutable quantity(可変発行量):流通させるモザイクの総量
  • Transferability(譲渡性):誰と譲渡できるのかを設定する
  • Levy(課徴金):モザイクの取引における手数料を設定する

オンチェーンマルチシグ

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マルチシグとは複数当事者による署名機能である。NEMでは、指定されたウォレットからの署名が揃うまではトランザクションがウォレットに保存されず、ネットワークにブロードキャストされない。その代わりに、まず署名されてノードに送信されたらメモリに保存され、残りの署名者によって署名される仕組みになっている。つまり、一連の仕組みはブロックチェーン上で完結できるようになっている。

またマルチシグ機能は、以下のようになっている。

  • M of N 機能:N人が署名権限を持ち、そのうちM人以上が揃えば署名できる機能
  • 署名者の追加と削除
  • TTLトランザクション:トランザクションに署名できる有効期間(最大24時間)

それにより、あるウォレットがハッキングで秘密鍵を見られて不正ログインされても、別のウォレットが署名しない限り、XEMをはじめとするトークンを送信できないようになる[21][23]

アーキテクチャ

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NEMアーキテクチャーの概要

NEMはウェブベースのアーキテクチャを採用する。各ノードはWebサーバー、データベース、コアアプリケーションで構成され、各アカウントはそれらを用いてハーベストや取引記録の保存を行う。そのノードをNEM Infracture Server(NIS)という。また、各ノードはP2Pの接続形態で相互に同期する。ウォレットはクライエントとして動作し、APIを通じてノードに接続する仕組みとなっている。つまりクライエントとサーバーが分離して処理をしている[24]

NEM Wallet

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NEM WalletとはNEMの公式ウォレットであり、XEM、モザイク、及びメッセージを送ることができる。またハーベストの設定やオンチェーンマルチシグ、ネームスペースの登録およびモザイク作成、NEMを使ったDNSサービス、アポスティーユ公証サービス等を行える[25][26][27]

ノード評価システム

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NEMは評判システムとしてEigentrust++を採用し、ネットワーク内のノードの過去の動作を監視することでノードの管理をする。それにより、信用できないノードは拒否され、無視される仕様になっている[28][5][8]

脚注

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  1. ^ ネム(NEM)とは?”. bitFlyer. 2022年1月6日閲覧。
  2. ^ a b NEM Launches, Targets Old Economy with Proof-of-Importance”. Coin Telegraph. Coin Telegraph. 2018年2月4日閲覧。
  3. ^ a b 仮想通貨ネムとは|初心者でもわかる仕組みとユースケースを紹介”. CoinPost. 2021年4月5日閲覧。
  4. ^ Blockchain Project Thinks Microsoft Azure License Agreement Goes Too Far”. ccn. 2018年2月4日閲覧。
  5. ^ a b This Cryptocurrency Doesn't Want to Beat Bitcoin, It Wants to Beat the Economy”. Motherboard. 2018年2月4日閲覧。
  6. ^ ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会 2016, p. 275.
  7. ^ ネム&シンボルが新章突入へ、近日中に複数の発表を予告”. CoinPost (2021年11月1日). 2022年12月27日閲覧。
  8. ^ a b 仮想通貨 ネム(XEM)とは|今後の将来性とおすすめ取引所”. CoinPost. 2021年4月5日閲覧。
  9. ^ “The Coincheck hack and the issue with crypto assets on centralised exchanges”. Reuters. (2018年1月29日). https://jp.reuters.com/article/japan-cryptocurrency-q-a-idINKBN1FI0PY 2022年1月27日閲覧。 
  10. ^ a b 中国のCERT報告書:NEM(XEM)が最も安全なプロジェクト”. CoinPost. 2021年4月9日閲覧。
  11. ^ NEM - BlockChain Explorer”. explorer.nemtool.com. 2021年4月4日閲覧。
  12. ^ テックビューロ、オープンソースの新型ウォレットとブロックチェーン証明書発行ツールを発表”. ZDNet Japan (2016年11月12日). 2021年4月9日閲覧。
  13. ^ NEM Meetup JAPAN:NEM.io財団ジェフ氏が語るcoincheck騒動とNEMの今後”. CoinPost. 2022年9月12日閲覧。
  14. ^ Iwamoto, Yuhei (2018年1月27日). “コインチェックが580億円のNEM不正流出について説明、補償や取引再開のめどは立たず”. TechCrunch Japan. 2022年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月27日閲覧。
  15. ^ コインチェック、「NEM」返金でも不透明な前途 | インターネット”. 東洋経済オンライン (2018年3月15日). 2021年4月4日閲覧。
  16. ^ 仮想通貨ネムのエコシステム発展へ 新組織「NEMグループ」の役割をCEOが説明”. CoinPost. 2022年9月12日閲覧。
  17. ^ 関連組織をまとめた「NEM Group」誕生|日本語対応のAMAも本日開催へ”. 仮想通貨ニュースメディア ビットタイムズ. 2022年9月12日閲覧。
  18. ^ Bank of Lithuania issues LBCOIN – the world’s first digital collector coin More: https://www.lb.lt/en/news/bank-of-lithuania-issues-lbcoin-the-world-s-first-digital-collector-coin”. Bank of Lithuania (2020年7月23日). 2022年12月24日閲覧。
  19. ^ ネム(XEM)、ハードフォークを完了”. CoinPost. 2021年12月1日閲覧。
  20. ^ 仮想通貨ネムとは|初心者でもわかる仕組みとユースケースを紹介”. CoinPost. 2021年4月5日閲覧。
  21. ^ a b ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会 2016, pp. 276, 277, 264–288.
  22. ^ Namespaces and Mosaics | NEM Documentation”. docs.nem.io. 2021年4月18日閲覧。
  23. ^ Multisig | NEM Documentation”. docs.nem.io. 2021年4月4日閲覧。
  24. ^ ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会 2016, pp. 270–271.
  25. ^ 仮想通貨ネムとは|初心者でもわかる仕組みとユースケースを紹介”. CoinPost. 2022年1月6日閲覧。
  26. ^ NEM Nano Wallet(ナノウォレット)の使い方を解説!”. マイナビニュース 仮想通貨比較. 2022年1月8日閲覧。
  27. ^ NEM(ネム)の「ネームスペース」と「モザイク」とは?”. BITDAYS (2018年9月10日). 2022年1月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年12月27日閲覧。
  28. ^ ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会 2016, p. 273.

参考文献

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  • ビットバンク株式会社&『ブロックチェーンの衝撃』編集委員会; 馬渕邦美監修『ブロックチェーンの衝撃―ビットコイン、FinTechからIoTまで社会構造を覆す破壊的技術―』日経BP社、2016年、265-291頁。ISBN 978-4-8222-3659-5 

関連項目

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外部リンク

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