春一番
春一番(はるいちばん)は、北日本(北海道・東北)と沖縄を除く地域で春先に吹く南寄り(東南東から西南西)の強風[1]。春一番が吹いた日は気温が上昇し、その後は寒さが戻ることが多い[2]。
発生条件
春一番の発生条件及び認定基準は、地域・気象台により、多少異なる。おおむね、立春から春分までの間に、日本海を進む低気圧に向かって、南側の高気圧から10分間平均で風速8m/s以上の風が吹き込み、前日に比べて気温が上昇することを発生条件とする。ただし、「日本海を進む低気圧に向かって」という条件は比較的幅広く解釈されることもある。たとえば、2006年3月6日には、北海道の北に低気圧があったものの、この低気圧に向かって吹いた南寄りの強風が春一番と認定された。また、春一番は必ずしも毎年発生する訳ではなく、風が春分の日までに気象台の認定基準にあてはまらず「春一番の観測なし」とされる年もある。2013年2月2日には、南方の暖かい風が吹き込み全国的に気温が上昇したが、立春の前であったために、定義上、気象庁はこの風を「春一番」と認めなかった。(後述参照)
語源
気象庁は「春一番」の語源について、石川県能登地方や三重県志摩地方以西で昔から用いられていたという例を挙げ、諸説があるとしつつ、安政6年2月13日(1859年3月17日)、長崎県壱岐郡郷ノ浦町(現・壱岐市)の漁師が出漁中、おりからの強風によって船が転覆し、53人の死者を出して以降、漁師らがこの強い南風を「春一」または「春一番」と呼ぶようになったと紹介している[3]。一方、長崎県では、この事件以前から郷ノ浦町で「春一」と呼ばれていたものが、事件をきっかけに広く知られるようになったとしている[4]。この故事により、1987年に郷ノ浦港近くの元居公園内に「春一番の塔」が建てられている。
民俗学者の宮本常一は研究のために郷ノ浦町を訪れてこの「春一番」をいう語を採集し、1959年に壱岐で用いられている語として『俳句歳時記』で紹介した。これをきっかけに、「春一番」は新聞などで使われるようになり、一般に広まったとされる。つまり、郷ノ浦町で使われていた「春一」または「春一番」は、この語の初出であるかどうかはともかく、現在広く用いられている「春一番」という語の直接の源であるということになる。なお、「春一番」という語の新聞での初出は、1963年2月15日の朝日新聞朝刊での「春の突風」という記事であるとされ、このため2月15日は「春一番名付けの日」とされている[5]。
一方、「春一番」という語の初出については、『池田市史 史料編』に収録された『稲束家日記』の天保2年1月11日(1831年2月23日)の記事には「晴天午ノ刻より雨、春一番東風」との記載が見られ、前記の転覆事件以前から長崎県外でも「春一番」という語が用いられていたことが確認されている[6]。さらに、前出の宮本常一も1775年に刊行された越谷吾山の『物類称呼』に「ハルイチ」が掲載されていると指摘している[7]。
春二番、春三番
春一番に後続する南寄りの強風を春二番、春三番と呼ぶ[8][9]。ただし、気象庁はその発生については発表していない[10]。
なお、「春一番」、「春二番」、「春三番」は春の季語となっている。
観測日
平成期以後の観測日
気象庁データソース[11]
年 | 鹿児島 | 福岡 | 中国地方 | 高松 | 大阪 | 東海地方 | 福井 | 金沢 | 富山 | 東京 |
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1989年 | 観測されず | 2月28日 | 観測されず | 2月20日 | 3月1日 | |||||
1990年 | 2月11日 | 2月10日 | 2月11日 | 2月19日 | 2月20日 | 2月11日 | ||||
1991年 | 2月10日 | 2月15日 | 観測されず | 3月20日 | 2月28日 | |||||
1992年 | 観測されず | 2月29日 | 観測されず | 2月27日 | 観測されず | |||||
1993年 | 2月6日 | 2月7日 | 観測されず | 2月17日 | 2月6日 | 2月21日 | 2月6日 | |||
1994年 | 観測されず | 3月8日 | 観測されず | 3月8日 | 2月9日 | |||||
1995年 | 観測されず | 3月16日 | 観測されず | 3月16日 | 3月17日 | |||||
1996年 | 3月15日 | 3月17日 | 観測されず | 3月8日 | 観測せず | 2月5日 | 観測されず | |||
1997年 | 観測されず | 2月28日 | 2月20日 | 観測されず | 2月20日 | 観測されず | 2月28日 | 2月21日 | ||
1998年 | 観測せず | 2月9日 | 2月12日 | 観測されず | 3月14日 | 2月8日 | 2月12日 | 3月14日 |
年 | 九州南部・奄美 (鹿児島) |
九州北部・山口 (福岡) |
中国地方 (広島) |
四国地方 (高松) |
近畿地方 (大阪) |
東海地方 (名古屋) |
北陸地方 (新潟※) |
関東地方 (東京) |
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1999年 | 観測されず | 3月5日 | 観測されず | 3月5日 | ||||
2000年 | 3月16日 | 観測されず | ||||||
2001年 | 観測せず | 2月28日 | 観測されず | 3月10日 | 観測されず | 2月28日 | ||
2002年 | 3月5日 | 3月10日 | 観測されず | 3月21日 | 観測されず | 3月15日 | ||
2003年 | 2月8日 | 観測されず | 3月3日 | |||||
2004年 | 2月14日 | 2月22日 | 2月14日 | |||||
2005年 | 観測されず | 3月17日 | 観測されず | 2月23日 | 3月17日 | 2月23日 | ||
2006年 | 観測されず | 3月16日 | 観測されず | 3月6日 | ||||
2007年 | 2月14日 | |||||||
2008年 | 観測されず | 2月29日 | 2月23日 | |||||
2009年 | 2月13日 | |||||||
2010年 | 2月11日 | 2月25日 | 3月15日 | 観測されず | 2月22日 | 2月25日 | ||
2011年 | 観測されず | 3月19日 | 観測されず | 3月19日 | 2月25日 | |||
2012年 | 観測されず | 3月17日 | 3月6日 | 3月17日 | 観測されず | 3月11日 | 観測されず | |
2013年 | 2月4日 | 3月1日 | 3月18日 | 2月7日 | 3月1日 | |||
2014年 | 3月13日 | 観測されず | 3月16日 | 3月18日 | 観測されず | 3月12日 | 3月18日 | |
2015年 | 観測されず | 2月22日 | 観測されず | 2月22日 | 観測されず | |||
2016年 | 観測されず | 2月14日 | 2月13日 | 観測されず | 2月14日 | |||
2017年 | 2月17日 | 2月16日 | 2月22日 | 2月17日 | 2月20日 | 2月17日 | ||
2018年 | 3月5日 | 2月14日 | 2月28日 | 3月1日 | 2月28日 | 2月14日 | 3月1日 | |
2019年 | 3月21日 | 2月19日 | 3月21日 | 2月19日 | 観測されず | 2月4日 | 3月9日 | |
2020年 | 2月22日 | 2月12日 | 2月16日 | 2月16日 | 2月22日 | |||
2021年 | 2月4日 |
- 沖縄(那覇)・東北(仙台)・北海道(札幌)では発表されない。
- 1999年より各気象台が発表するのは、「○○地方における春一番」であり、その判断基準は各気象台により異なることに注意が必要である。気象庁本庁(東京管区気象台)のように、東京大手町(北の丸)単一地点のみにおける観測により、春一番かどうかを判断する[12]気象台もあるが、北陸地方(新潟・富山・金沢・福井[13])や東海地方(名古屋・岐阜・津・静岡[14])などでは複数の地方気象台の観測によって判断を行っている。中国地方でも、具体的な観測地点は明示していないものの、「山陽で強い風が吹かないときでも、中国地方の春一番とすることがあります。」[15]とあり、広島地方気象台以外の観測データも判断の材料としている。
- ※2019年の北陸地方の春一番は北陸地方を管轄する新潟地方気象台より先に金沢地方気象台から発表された[16]。
地方別
- 関東地方
気象庁が関東地方の春一番の観測を始めた1951年以降、最も早く観測されたのは2021年の2月4日、最も遅く観測されたのは1972年の3月20日である。1989年以降の各年の春一番観測日は以下の通り。
影響
事故
春一番は、雪崩や融雪洪水などの気象災害や海難事故をもたらすことが多い。1978年2月28日には、関東地方に春一番をもたらした低気圧から延びる寒冷前線による竜巻が発生し、営団地下鉄東西線(現・東京メトロ東西線)の車両が橋の上で脱線・転覆して、大きな被害を生じた[12][18]。
その他
競馬
2004年2月22日に高知競馬第11レースと、2013年3月17日に福山競馬第9レースで特別競走、春一番特別が行われた。
呼び方の方言
北陸地方の加賀や能登では古くから寒風の北風から替わる春一番に相当する暖かい南風を「ぼんぼろ風」と呼ぶ[19][20]。
脚注
注釈
出典
- ^ 「春一番」 - 精選版 日本国語大辞典、小学館。
- ^ 「春一番」 - 世界大百科事典 第2版、平凡社。
- ^ こんにちは! 気象庁です! 平成15年2月号 気象庁
- ^ 「春一番・風のフェスタ(郷ノ浦町)」、長崎文化ジャンクション、長崎県文化振興課
- ^ 2月15日は春一番名付けの日 OCN TODAY
- ^ 「春一番の初見と語源について」 小野寺健太郎、『てんきすと』第27号、気象予報士会、2004年
- ^ 長崎文化ジャンクション 長崎文化百選 88 春一番、長崎県文化振興課
- ^ 平凡社大百科事典 第12巻(ハマ-フノ)、p.105、春一番の項、「なお、春一番に続く南寄りの強風を春二番、春三番と呼ぶ。」執筆者は竹内清秀、平凡社、1985年6月28日初版
- ^ 平凡社大百科事典 第3巻(カウ-キス)、p.312、風の項、風の異名の欄、「2番目、3番目をそれぞれ<春二番><春三番>という。」執筆者は花房竜男、平凡社、1984年11月2日初版
- ^ 春一番、春二番、春三番...何番まである? 気象庁に聞いてみたら、意外な回答が 「『春二番』や『春三番』は気象庁としては発表しておりません」、Jcastニュース、2017年02月23日
- ^ 各地方の最近(1989年から)の春一番
- ^ a b “関東地方の春一番”. 気象庁天気相談所. 2020年1月8日閲覧。
- ^ “北陸地方の春一番”. 富山地方気象台. 2019年2月4日閲覧。
- ^ “東海地方の春一番に関するお知らせ” (PDF). 名古屋地方気象台 (2018年3月1日). 2019年2月4日閲覧。
- ^ “今日(14日)、中国地方で「春一番」が吹きました。” (PDF). 広島地方気象台 (2018年2月14日). 2019年2月4日閲覧。
- ^ “北陸地方で「春一番」が吹きました”. 日本気象協会 (2019年2月4日). 2019年2月4日閲覧。
- ^ 春一番:関東で - 毎日jp(毎日新聞)
- ^ “強風に起因する主な列車脱線事故” (pdf). 国土交通省. 2020年1月8日閲覧。
- ^ 故郷では・・「ぼんぼろ風」花一輪のシアワセ(2010-02-25) 2010-06-24閲覧
- ^ “平成13年3月20日(火)ぼんぼろ風” (2001年3月). 2010年2月23日閲覧。
関連項目
外部リンク
- 春一番って何のこと? - 気象庁
- 関東地方の春一番 - 東京管区気象台(東京における気象の記録)