海難事故

当該船は鹿島港に入港していたが荒天のために港外に避難したのち、操船不能に陥って座礁した。座礁後しばらくは引き出しが試みられたが、荒天が続いたため作業は難航、引き出せないでいるうちに船体が破断した。積荷は鉄鉱石であり、1/3強が避難出航までに荷下ろしが間に合わず搭載されたままになっていたが、オイルタンカーではなかったため重大な汚染は発生しなかった。
海難事故(かいなんじこ)は、海上および隣接水域における船舶に関して生じた事故であり、人や船舶やその積荷に損傷を生じるもののことである[1][2]。
本記事では海難事故に加えて、それと関連のある「海難」という概念についても解説する。
概説[編集]
海難事故とは、一般的に、海上および隣接水域における船舶に関して生じた事故で、(かつ)人や船舶や積荷に損傷を生じるもののことである[1]。海難事故は事故の一種である。
関係者が生還しないケースも少なくなく、また証拠となる物も回収が容易ではないために原因の解析が困難なことも珍しくない。
- 定義。「海難事故」と「海難」 2用語の相違点と重なる範囲
海難事故というのは、あくまで、海上および隣接水域における船舶に関して生じた事故で、(かつ)人や船舶や積荷に損傷を生じるもののことである。
ただし日本語では「海難事故」をつい省略して「海難」と呼んでしまうことがあるが、「海難事故」と「海難」は指す範囲が異なっており、「海難」のほうは事故がまだ起きていない状況まで含んでしまう概念なので、両者は完全に同義語ではなく、範囲が異なる概念・用語、と理解したほうがよい。海難でも事故にならずに済む場合があるが、海難の結果で事故になる場合もある、という関係にある。(分かりやすく言うと、「危険」と「事故」は完全同一ではなく別概念であり、「危険(な状況)」だが「事故」にならずに済む場合もあるが、「危険」でかつ(結果として)「事故」になってしまう場合も(多々)ある、というような、近接し関連しあっているが、厳密に分析すると、指す範囲が異なる2概念である。) 本記事では2概念をしっかり区別して説明する(だが、海難の概念のほうも説明する)。
海難のほうはより広義の海上危険(maritime perils)の一種で、イギリスの海上保険法では海上危険を、海難、火災、戦時危険、海賊、窃盗、拿捕捕獲、押止押差、投荷、船員の悪行、その他類似の危険及び保険証券記載の危険に分けている[3]。 歴史的には海難(perils of the sea)は、狭義に風浪の異常など絶対的自然力により発生する海に固有の危険のみが海難とされたこともあった[3]。しかし、現代では平穏な海上で船舶が暗礁に乗り上げて沈没した場合や、他船の過失によって衝突し浸水沈没した場合も海難として扱われている[3]。海難を海の作用に限らない考え方は少なくとも19世紀後半には一般的になっていた[3]。
日本の海難審判法2条に定義される「海難」も以下のようなものとなっている。
- 船舶の運用に関連した船舶又は船舶以外の施設の損傷(海難審判法2条1号)
- 船舶の構造、設備又は運用に関連した人の死傷(海難審判法2条2号)
- 船舶の安全又は運航の阻害(海難審判法2条3号)
冒頭の定義文に「平時に」と書かれているように、一般的に戦時のもの、つまり戦争に起因する被害は「海難事故」に含まれない、とすることが多い。海難には船舶の衝突、乗り上げ、火災、沈没、エンジン事故、操舵装置の事故なども含まれる[1]。世の中の船舶の大型化・巨大化と海上物流のグローバル化の傾向にあるため、大きな海難が発生すると、海難防止制度や海上保険制度にも大きな影響を与えるようになった[1]。
なお、日常用語では「難破(なんぱ)」ということもあるが、専門用語では、難破(シップレック、shipwreck)は、風浪の作用によって船舶が打ち砕かれ、船体の一部あるいは積荷が海岸に打ち揚げられたり海上を漂ったりすることをいう[3]。つまり、重なる部分もありはするが、概念の範囲が異なっている。
事故の態様[編集]
海難事故の態様としては、以下のようなものがある。
- 衝突
- 座礁(坐礁)
- 座礁は一般的には船舶が偶発的原因により所定の航路を離れて岩礁、海岸、浅瀬に乗揚げ航行を阻害されることをいう[3]。
- 沈没
- 転覆
- 機関故障・推進器故障・かじ故障などによる漂流
- なんらかの理由で航行できなくなり、海上を漂うもの。
このほか海難以外の広い意味での海上危険(航海危険)に含まれるものに、火災、海賊、窃盗、投荷、船員の悪行、戦時危険(perils of war)などがある[3]。

事故の原因[編集]
海難事故の原因となるものには、以下のようなものがある(例示)。
- 船員の操船技術に関連するもの
- 操縦のミスによるもの。
- 船員の判断の過誤に関連するもの
- 船舶の堪航能力に関連するもの
- 設計ミス、材質の強度不足、構造欠陥などによるもの。小規模な船体損傷から船体折損などの重大なものまで、さまざまなものがある。改造・当初予定とは別の用途への転用などの結果、問題点が顕在化するケースなどもある(運用の問題とも関係する)。
- 船舶の搭載機関・搭載機器の整備不良、管理・運用に関連するもの
事故の影響[編集]
引き起こされる結果としては、以下のようなものがある(例示)。
- 人的損害
- 物的損害
- 船体の喪失・荷物の流失・港湾施設の損壊など。
- 自然損害
事故の経過の例[編集]
原因、それによって生じる状況、さらにさまざまな影響などがどのように連鎖してゆくか挙げる。通常、海難事故に関する報道(ニュース)ではそうした連鎖(原因、途中経過、さらに結果)について説明している。そうしないと事故の全体像が理解できないからである。当記事でも、ありがちなパターンを次に挙げる。
- 天気予報で「荒天になる」との予報情報があったのにそれを無視・軽視して出航 → 操船不能 → 座礁(あるいは岸壁や橋などへの衝突) → 船体断裂 → 浸水 → 水没や沈没(燃料流出)
- 機関(エンジン)整備不良のまま出航 → エンジン停止 → 漂流 (→ 座礁 → 船体断裂 → 水没など)
- 燃料残量の確認を怠り燃料が不足していることに気付かず出航 → エンジン停止 → 以下同様
- (法律で、常に周囲の見張りをしなければならないと定められているのにもかかわらず)「(船長の安易な判断で)見張りの無い時間帯を長時間つくった」 → 船舶どうしの衝突 → 船体破損および衝突の衝撃による死者
- 「オートパイロットにまかせて、見張り役の船員が(眠いから、と)勝手に寝てしまった」 → 衝突
- 軍への協力的な風土をつくるために政治家(米国議員)らを潜水艦の「体験乗艦」に招いた → 「政治家たちを喜ばせよう。そのためには派手なパフォーマンスも見せよう」などと考え、艦長が緊急浮上を見せ物のように実演してみせることにした → 政治家を楽しませることを優先し海面上に他の船舶がいないかどうかの確認を手抜きした → 海上にいた船舶に衝突してしまいその船舶が沈没した(えひめ丸事故のパターン。米国の潜水艦の体験乗艦においてショーのように行われた緊急浮上ではこのえひめ丸事故以外の事故や「ひやり」とする状況を何度か起こしたことがある。)
海難事故の法的扱い[編集]
海難事故は、船という陸上での経験があまり通用しない交通機関にかかわるものであること、独特の法的規制や慣習があることなどに鑑み、法的に特殊な扱いがなされる場合がある。
日本における海難事故の法的扱い[編集]
日本では、一般に事故をめぐる責任の追及については民事上の責任や刑事上の責任が問題となり、海難事故に関しても同様であるが、海難事故の場合には特に将来的な海難の防止という観点から、運輸安全委員会による海難事故の究明(運輸安全委員会設置法1条)がなされ、故意・過失によって海難を発生させた船員に対しては海難審判所の海難審判による懲戒がなされる(海難審判法1条)。なお、海難事故の究明や海難審判について以前は海難審判庁が担っていたが、2008年10月の法改正により海難審判庁は廃止され現行の体制に移行した。
海難事故の損害賠償枠組み[編集]
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一般的な海難事故の損害賠償については、通常の損害賠償保険によって扱われる。
しかしながら海難事故の場合、特にオイルタンカーの事故などの際には、その汚染規模が大きく、被害額・除染費用などが巨額に上ることが少なくなく、補償の実効性には疑問が持たれるケースも少なからず存在した。そのため、1967年のトリー・キャニオン号事故を契機として1969年には「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約」が作られ、以下幾度か改定されている。
この条約では、タンカー事故などについて、ほとんど無過失責任であるといえるレベルの損害賠償責任を負わせている。また、現実的な被害救済のために、一定量以上の荷主に拠出を義務付けるなどして国際基金を整備し、確実に補償がなされるような枠組みを作っている。
日本国内では、この条約に基づいて船舶油濁損害賠償保障法が制定されている。また、保険未加入船舶については入港を拒否するといった方法で、補償が期待できないような被害の発生を防止している。アメリカ軍の艦艇が関わる事故の場合、アメリカ側の艦艇や関係者はアメリカ(主にアメリカ沿岸警備隊)が、民間の船舶は海上保安庁がそれぞれ捜査を行う[4]。
海難事故に関する作品一覧[編集]
絵画[編集]
ノンフィクション[編集]
- 『沈んだ船を探り出せ』
- アメリカの小説家、クライブ・カッスラーが稼いだ印税を使って沈船の探索を行なった記録。
- 『パーフェクトストーム』(1997年)
フィクション[編集]
- ポセイドン・アドベンチャー(1969年)
映画[編集]
- タイタニックの沈没を扱った映画は1912年以来 多数作られている。→詳細は「タイタニック (映画)」を参照
- ポセイドン・アドベンチャー(1972年~)
- 東京湾炎上(1975年)
- 白い嵐(1996年)
- ブリタニック (映画)(2000年)
- パーフェクト ストーム(2000年)
- 海猿 (2004年~2012年)
- 守護神 (映画)(2006年)
- ボトム・ダウン(2006年。ノンフィクション映画)
- 空へ-救いの翼 RESCUE WINGS-(2008年)
- ザ・ディープ(2012年のアイスランド映画)
- 海難1890(2015年)エルトゥールル号遭難事件とその後の出来事を扱った作品
漫画[編集]
- 海猿 (1999年~)
アニメ[編集]
コンピューターゲーム[編集]
クラシック音楽[編集]
- 超絶技巧練習曲集 - ブライアン・ファーニホウによる組曲。