家政婦
家政婦(かせいふ)とは、家庭における家事を補助・代行する職業であり、またその仕事を行う女性のことを指す日本国内での呼称である。お手伝いさんとも呼ばれる。なお、男性が行う場合では、家政夫(かせいふ)と呼ばれる。世界的には、家庭内労働者や家事代行者と呼ばれることが多い。
同じく家事労働を行う女性の職業呼称であるメイドや女中と同義語とされることもあるが、特に後述する就業形態や歴史的経緯の面で区別して用いられることが多い。また、ハウスキーパーの訳として家政婦が当てられることもあるが、本来のハウスキーパーはメイドたちを統括する一種の管理職であり、現代の日本語でいう家政婦のイメージとは異なる。
業務内容
家政婦の業務は伝統的な炊事(あるいはそれに関わる買い物)、洗濯、家屋の掃除などに限定されることが多い。しばしば、乳幼児の育児を業務とすることもある。ほとんどの場合家計等には関与しない。
かつては介護等も業務範囲に含まれていたが、20世紀終盤ごろからは介護の専業化(ホームヘルパー)が進んでいる。
就業形態
家政婦の就業に際しては家事経験が最も重要であり、中年以降の既婚女性あるいは寡婦で主婦経験者が主に該当する場合と高度成長期までは中学校または高校卒業と同時に(集団就職を含め)地方出身の娘が花嫁修業を兼ねお手伝いさんとして主要都市への就職を花形職業とする向きもあった。 これらの女性が、自分の子供が成長したなどの理由によって、自分自身の家庭における家事労働が減少する場合に、家事経験を活かして家政婦に就くという形態がよく見られる。
就業斡旋には、新聞、雑誌など個人的な宣伝や仲介といった経路も見られるが、特に家政婦紹介所(有料職業紹介事業所の一形態。)と称される業者が人材紹介することが多い。
また、プライバシーが重視される現代は住み込みよりも通勤による業務が一般化したため、深夜には業務を行わないことが多い。
歴史
19世紀後半から20世紀にかけて、都市部における中流家庭の増加に伴い、伝統的な女中に相当する家事労働力の需要は増加傾向にあった。
一方で、女性の人権意識向上や進学率上昇といった理由により、女中の供給は減少していた。
こうした需給のアンバランスを解消するため、パートタイム労働としての家事労働者が必要とされた。
日本では派出婦という名称の職業が現れ、全国各地に派出婦会という仲介組織が設立された(派出婦会は現在の訪問看護に相当するサービスも供給していた)。派出婦はそれまでの女中のような雇用者との主従関係でなく契約によって業務を行った点、また習熟期間を設けず即戦力となる労働力を供給した点などにおいて、現在の家政婦の原点と考えられる。
その後、日本では日露戦争や第二次世界大戦で夫と死別した寡婦が増加し、その経済的支援という側面からも家政婦斡旋が広がっていった。
1918年10月1日、東京に共同婦人会(派出婦会)ができ、1925年9月、警視庁は、派出婦会取締規則を制定した[1]。
家政婦が登場する著作物
家政婦は家族以外の人間でありながら、家庭内に定期的・恒常的に存在しているという、やや異質な存在である。このことを利用して、家庭内の出来事を客観的に(あるいは野次馬的に)描写する際の視点となるキャラクターとして、家政婦はさまざまな著作物に登場する。
- 熱い空気(1963年) - 松本清張の小説。下記『家政婦は見た!』第1作の原作。
- 家族八景(1970年) - 筒井康隆の小説。主人公火田七瀬が家政婦として様々な家庭を渡り歩く。いわゆる『七瀬三部作』の第1作。
- 家政婦は見た! - 市原悦子が家政婦に扮したテレビドラマシリーズ。
- 家政婦のミタ - 松嶋菜々子が家政婦を演じる連続テレビドラマ。
- 家政夫のミタゾノ - 松岡昌宏が女装の家政夫を演じるテレビドラマシリーズ。
- きょうの猫村さん - 猫が家政婦として働くシュールな漫画作品。
- 私を月まで連れてって!
- 博士の愛した数式
- 妖怪人間ベム - 広田レオナが家政婦を演じる土曜ドラマ。
- 家政夫のナギサさん - 男性の家政夫とキャリアウーマンのラブコメディ漫画・小説・連続テレビドラマ。
- 女中・お手伝いさん
- お嬢さんの散歩道(1960年) - 笹森礼子演じる主人公まり子がお手伝いさんとして活躍する映画。
- 台所太平記(1962年) - 谷崎潤一郎の小説。ある作家の家に仕えた女中さんたちの行状記。映画化・テレビドラマ化。
- 風と樹と空と - 石坂洋次郎の小説。1964年に映画化。1965年とテレビドラマ化されている。ドラマは福島県の高校を卒業した鰐淵晴子演ずる主人公が集団就職によって田園調布の社長宅でお手伝いさんとして活躍するテレビドラマ。第1話のみ横浜の放送ライブラリーにて視聴可能。
1967年にはテレビドラマ続編「続・風と樹と空と」も作成された
脚注
- ^ 近世世態風俗誌 豊泉益三