けん玉
けん玉(けんだま)は、十字状の「けん(剣)」と穴の空いた「玉」で構成される玩具。日本をはじめ、世界各国で遊ばれている。なお表記には剣玉、拳玉、剣球、拳球などがあるが、21世紀初頭では「けん玉」が一般的。
歴史
木製の棒や玉、リングなど、2つのものを糸または紐で結び、一方を引き上げまたは振り、もう一方に乗せる・穴を突起物にはめるような玩具は昔から世界中に存在する[1]。例えば日本のアイヌ民族のウコ・カリ・カチュ、アメリカの五大湖周辺のインディアンに伝わっているジャグジェラ、エスキモーに伝わるアジャクゥァクなどである。その中でフランスのビルボケ(bilboquet)は16世紀頃から子どものみならず貴族や上流階級の人々にも広く浸透し、国王アンリ3世も愛好したという記録も残っている[2]。このようなことから、ビルボケがけん玉のルーツというのが一般的な説であるが、フランスのビルボケが日本に伝わった証拠となる文献は確認されていない。ビルボケやメキシコのバレロ(balero)などは現在も現地にて販売されている。イギリスでは、カップ&ボール(cup-and-ball)と呼ばれるけん玉に似ている物がある[3]。
日本の文献で確認できるのは江戸時代からであり、1830年に喜多村信節が著した『喜遊笑覧(きゆうしょうらん)』に「安永六七年の頃拳玉と云もの出來たり」という記載があり、当初は酒席の遊びだったと考えられる。この資料にはけん玉の図はなく文章で紹介されているだけだった。しかし、それよりも前の資料である1809年の『拳会角力図会』に「すくいたまけん」としてけん玉が図つきで紹介されていることが1981年に判明した[4]。
明治時代になり、文部省発行の児童教育解説『童女筌』(どうじょせん、1876年)にて「盃及び玉」として紹介されてから子どもの遊びへと変化していった。やがて大正時代に入り、1918年[5]、広島県呉市にて[6]、従来のけん先と皿1つで構成されたけんに、鼓状の皿胴を組み合わせた「日月ボール」(または「明治ボール」)が考案され[7]、現在のけん玉の形がほぼ完成した[5][7][8][9]。日月ボールは1919年5月14日に実用新案として登録された[10]。「日月ボール」の考案者である江草濱次(えぐさはまじ)が、木工ろくろ技術と木工玩具の生産地として有名な広島県佐伯郡廿日市町(現廿日市市)を訪れて製造を依頼し、1921年頃より当地で製造が始まり、廿日市で作られた多くのけん玉が、けん玉文化を作り上げてきた[7]。広島県は2022年を「けん玉発祥100周年」とし「廿日市を生誕の地」とした[8][11]。
日本でのけん玉の大流行は1907年、1924年、1933年とされている[12]。また、1977年は「けん玉ルネッサンス」といわれる爆発的な大流行となった[13]。この流行には、皿胴に糸を出す穴を開けるなど合理的な設計がされた競技用けん玉が普及したことが影響している。
1968年にクラシックギタリストの新間英雄(深谷伊三郎の息子で立川志らくの父)が東京けん玉クラブを設立。
1975年には童話作家の藤原一生により日本けん玉協会が設立された[14]。上述の新間英雄らが開発したS型けん玉をベースにした競技用けん玉を認定けん玉とし、その普及のほか、けん玉道級段位認定制度、全国競技会の運営等に取り組む。全国レベルでのルール統一がけん玉競技の公平性を担保し、普及・発展に寄与した。一方で、けん玉道として規定された型や持ち方、動作の細部に至るまでの徹底したルール化が原因でけん玉の遊び方が画一化し、各地の伝統的な遊び方が失われ、創意工夫の土壌が失われてしまったのではないかという指摘もある[15]。
21世紀初頭では、前述の「競技用けん玉」が一般的となったが、民芸品や単純な玩具としてのけん玉も各地に存在する。また、1945年まで日本が統治していた台湾でも、日月球(リーユエチュウ)や劍球(ジエンチュウ)と称してけん玉が遊ばれている。
2000年代後半、米国の若者が日本から持ち帰ったけん玉をヒップホップ系の音楽に合わせて様々な技を披露する様子を動画サイトに投稿。これがきっかけでけん玉はKENDAMAとして世界中で認知されるようになった。以降、新たなスポーツやパフォーマンスとして認知され、海外で急速に広がりを見せるようになった[16]。
日本けん玉協会
公益社団法人である日本けん玉協会が、けん玉道と規定した級位段位認定制度、各種大会の主催、その他各種行事の開催などを行っている。尚、協会が行っていた認定けん玉販売部門は、現在一般社団法人国際けん玉サポートセンターに移転している。 同協会主催のけん玉道日本一を決める大会は以下の通り。
- 日本けん玉協会ジュニア杯争奪戦
- 日本けん玉協会杯(JKA杯)争奪戦(通称JKAカップ)
- 全日本けん玉道選手権大会
- 全日本少年少女けん玉道選手権大会(文部科学大臣杯)
- 全日本クラス別けん玉道選手権大会
- 全日本けん玉道パフォーマンス大会
- 全日本けん玉道もしかめ選手権大会
- 全日本マスターズけん玉道選手権大会(2008年より)
グローバルけん玉ネットワーク(GLOKEN)
一般社団法人グローバルけん玉ネットワーク(通称GLOKEN/グロケン)が2012年に設立され、2014年からはけん玉発祥の地とされる広島県廿日市市にてけん玉ワールドカップを毎年開催[11]。その他、日本けん玉協会が定める「けん玉道」の規定にとらわれない競技大会や、イベント、けん玉検定の運営や指導者研修などを通じて、けん玉の普及活動に努めている。法人設立時から現在までの代表理事は窪田保。
主な活動・取組みは
- けん玉ワールドカップ の開催
- けん玉検定 の運営
- けん玉先生資格制度 の運営
- けん玉あそび研究所+ の運営
- けん玉の日 の制定
- NHK紅白歌合戦でのギネス世界記録™チャレンジプロデュース
- 競技用けん玉開発 の監修
- 国内外でのけん玉普及活動、競技大会運営協力
等
各部の名称
右図を参照のこと。「けんの根元」は便宜上の名称。なお、小皿とは両サイドの2つの皿のうち「小さい方の皿」、中皿とは3つの皿のうち「真ん中の位置にある皿」という意味であり、大きさは一般的に大皿>小皿>中皿となっている。中皿という名は、かつては「えんとつ」といわれていたものが1977年に愛好家によって中皿と決定されたという説[17]と、大皿と小皿ができたときに中皿と名がついたという説[18]がある。
けん玉の技
グリップ
技を始める前のけん玉の持ち方。以下は主要なもの。
- 皿グリップ(大皿グリップ)
- 親指と人差し指でけんの根元をつまみ、残りの指を小皿に添え、けん先を下に向ける。残りの指を大皿に添えると小皿グリップとなる。
- けんグリップ
- けん先を上、大皿を手前に向けて皿胴の下のけんを持つ。薬指、小指は添えない場合も多い。
- 玉グリップ
- 玉を持つグリップ。穴を真上にする場合が多い。
- ろうそくグリップ
- 中皿を上にしてけん先を持つ。
- つるしグリップ
- 糸の中程を指で支えてけん玉をぶら下げる。技によって玉をけんにさすかささないか、人差し指に引っ掛けるか親指と人差し指でつまむかは異なる。いずれの場合も糸を余らせて持ってはならない。
- 極意グリップ
- けんを横にし、親指で小皿を、残りの指で大皿を持つ。
- おしゃもじグリップ
- すべり止めから中皿のふちあたりを軽く握る。
構え
以下は主要なもの。
- まっすぐ
- 玉やけんなどを真下に垂らした状態、または玉をけん(けんを玉)に乗せて正面で構えた状態。
- ななめ
- 玉やけんなどを反対の手で持って体側に引き寄せ、地面に対し角度がついた状態。
技の分類
けん玉の技は300種類とも5万種類ともいわれているが、以下のような理由で正確な数を把握するのは不可能に近い。
- 同じような技でもグリップや動作の違いで別の技と呼びうるため。例えば玉を大皿に乗せる技でも、けんグリップやつるしグリップなどから始める、玉を振る方向を前・横・けんと体の間などに変える、などすれば厳密には違う技となる。
- それぞれの技は以下のように柔軟にアレンジを加えうるため。
- 動作の一部を他の動作に置き換える(例:「村一周」で玉を引き上げるべきところ手で玉を大皿に乗せる)。
- 動作を省く、または新たな動作を加える(例:「うぐいす〜けん」)。
- 複数の技を連続して行う(例:「つるし一回転飛行機〜はねけん」)。「持ちかえわざ」というつなぎのための技すら存在する。
- 新しい技が今なお創作され続けているため。新しいグリップ・構え・動作、手以外の体の部分の使用、頭上・背後・股下などの空間の利用、あるいは複数のけんや玉の使用など、今後も新しいアイディアが生まれる可能性を秘めている。
以下の技の分類は日本けん玉協会が2000年に定めた「けん玉の技百選」による。
- 皿系
- 玉を皿に乗せる技。
- もしかめ系
- 所定の動作(主に皿に乗せる)を繰り返し、持続時間を競う技。
- とめけん系
- 玉を垂直に引き上げ、けん先で受ける技。
- 飛行機系
- けんを玉の穴で受ける技。
- ふりけん系
- 玉を回転させ、けん先で受ける技。
- 一周系
- 玉をけんの大皿・小皿・中皿・けん先側の皿胴などの場所に乗せる、またはけん先で受ける動作を連続して行う技。
- 灯台系
- けんを中皿を下にして玉の上に一定時間立てる技。またはある技が決まった状態からけん玉を放り投げて玉を取り、けんを玉の穴で受ける技。
- すべり系
- けんに乗せた玉をけんから離さずに別の場所に移動させる技。
- まわし系
- 玉を空中で回転させけん先で受ける、またはけんを空中で回転させ玉の穴で受ける技。
- うぐいす系
- 玉を、穴がけん先側またはけんじり側の大皿(小皿)のふちに接した状態でけんに一定時間乗せる技。
- 極意系
- 玉を、けんの上の不安定な場所に一定時間乗せる技。名前の由来は日月ボールの頃に最も難しい技とされていたことから。
- 静止系
- けんを、不安定な形で玉の上に一定時間乗せる技。
- 空中系
- けん玉を糸が張った状態で投げ上げて回転させ、玉を取ってけんを穴で受ける、またはけんを取って玉をけん先で受ける技。
- あやとり系
- けんを糸で作った輪に引っ掛ける技。
- 特殊系
- 上記の分類に含まれない技。
デジケン
バンダイが1997年4月に発売し人気を博した現代版ヨーヨー、ハイパーヨーヨーの流行を追って、タカラ(現在のタカラトミー)が1998年7月25日(博品館での先行販売は6月26日)に発売した電子けん玉。単四電池2本を使用し、技を成功させたり失敗したりする毎に音と光で反応を示す。玉が軽過ぎて受け皿に座らず反発してしまう為、9月には補助部品として受け皿の円周を拡大する輪も発売された。子供の玩具としては大きく重過ぎた為、後に小型版のデジケンミニが発売された。半透明の様々な本体色が存在する。
- 音と光で遊ぶ「ノーマルモード」
- 音楽に合わせて玉を動かす「リズムモード」
- 玉を乗せる場所が指示される「コンビネーションモード」
という3通りの遊び方ができる。
2008年1月24日にはタカラトミーからヤッターマン デジケンミニという商品の発売が予定されていた。
1998年8月に公開された玩具会社が舞台のミュージカル『big 〜夢はかなう〜』の日本版にも登場した。『big ~夢はかなう~』の主催がフジサンケイグループである関係からか、関連会社である扶桑社の雑誌SPA!の連載『渡辺浩弐のバーチァリアン日記』でもデジケンが取り上げられた。
TOKYO FM『三井ゆりのモーニングブリーズ』内のコーナー「おはようタカラジェンヌ」でも『big 〜夢はかなう〜』の出演者と共に紹介された。
紹介サイト
ケンダマジック
2008年1月14日から放送が始まった『平成20年度版ヤッターマン』の主人公の使うケンダマジックというけん玉を模した武器の玩具がタカラトミーから2008年4月下旬に発売された。
DXケンダマジック(2940円)[リンク切れ]は劇中のケンダマジックをそのまま模したデザインで、受け皿の向きの変更と大きさの違う受け皿に交換する事が可能になっている。ケンダマジックNEO(1890円)は劇中のケンダマジックとは全く違うデザインでDXケンダマジックよりも小型な他、スピンホルダーという指掛け穴、個性を出す為のカスタムシール、交換可能な受け皿であるカスタムプレート等、より競技性と改造性を高めている。本体色は4種類。
脚注
出典
- ^ 『けん玉たのしいな』70頁。
- ^ 『けん玉』30頁。
- ^ Hellmund GMS. 2001: Jocus, juegos, game, jogo, jeu, giocco, spiel. Papelera Tolasana S.A. Buenos Aires. 34p
- ^ 『けん玉たのしいな』71頁。
- ^ a b 鎌田直秀 (2022年2月8日). “【フィギュア】けん玉得意の羽生結弦へ けん玉工場「山形工房」社長が大逆転V願掛け大技”. 日刊スポーツ (日刊スポーツ新聞社). オリジナルの2022年2月8日時点におけるアーカイブ。 2022年9月25日閲覧。
- ^ “けん玉”. 一般社団法人はつかいち観光協会. 2020年12月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年4月19日閲覧。
- ^ a b c “けん玉発祥の地 はつかいち”. 廿日市市 (2019年2月8日). 2020年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月25日閲覧。「けん玉」と廿日市市 (PDF) 廿日市市
- ^ a b “けん玉発祥100周年。生誕の地、廿日市と木工の歴史を紐解く”. ひろしまラボ. 広島県庁 (2021年8月17日). 2020年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月25日閲覧。
- ^ 『けん玉スポーツ教室』144頁。
- ^ “けん玉(日月ボール)パンフレット”. 廿日市市木材利用センター運営協議会. 2013年4月19日閲覧。[リンク切れ]
- ^ a b “市長からのメッセージ 広島県廿日市市長に市の魅力やまちづくりのビジョンをお伺いしました。”. 5K(ファイブエル). TARGET (2015年12月16日). 2022年9月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月25日閲覧。“けん玉ワールドカップ”. NHK NEWS WEB. 日本放送協会 (2022年8月1日). 2022年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月25日閲覧。“世界が注目 お値段なんと100万円の高級けん玉”. ひろしまリード. 広島ホームテレビ (2022年8月1日). 2021年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年3月1日閲覧。“2014年のヒットに学ぶ 商品広報のノウハウ「けん玉」でインバウンドPRに成功、世界大会開催で広島・廿日市も活性化”. 2015年1月号 広報会議. 宣伝会議 (2015年1月). 2015年7月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月25日閲覧。黒田陸離 (2022年8月1日). “けん玉「発祥の地」で3年ぶりW杯 2~84歳の725人が技競う”. 朝日新聞 (朝日新聞社). オリジナルの2022年8月5日時点におけるアーカイブ。 2022年9月25日閲覧。“廿日市駅通り商店街「けん玉商店街」が国のはばたく30選に”. 産経新聞 (産業経済新聞社). (2016年6月2日). オリジナルの2022年7月9日時点におけるアーカイブ。 2022年9月25日閲覧。
- ^ 『けん玉スポーツ教室』146頁。
- ^ 『けん玉たのしいな』73頁。
- ^ 競技用けん玉の歴史(変遷)グローバルけん玉ネットワーク
- ^ 『けん玉たのしいな』68頁。
- ^ アメリカのストリートから逆輸入された「KENDAMA」が俺の知ってるけん玉となんか違う - 2013年11月27日 ITMedia
- ^ 『けん玉たのしいな』6頁。
- ^ 『けん玉スポーツ教室』12頁。
参考文献
- 『けん玉スポーツ教室 入門からチャンピオンコースまで』(藤原一生、金の星社、1980年)
- 『けん玉たのしいな』(新間英雄、一声社、1991年)
- 『あそびとスポーツのひみつ101-10 けん玉 けん玉道の奥義101』(高橋真理子、ポプラ社、1998年)
- 『あそびとスポーツのひみつ101-12 けん玉の技百選』(日本けん玉協会、ポプラ社、2000年)
- 『けん玉』(監修:NPO法人日本けん玉協会、文:丸石照機・鈴木一郎・千葉雄司、文溪堂、2003年)
- 『けん玉学 起源から技の種類・世界のけん玉まで』(窪田保、今人舎、2015年)
関連図書
関連項目
外部リンク
- 日本けん玉協会
- グローバルけん玉ネットワーク
- けん玉検定公式サイト
- けん玉 - 日本文化いろは事典
- けん玉 - キッズ・ウェブ・ジャパン