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「ミソサザイ」の版間の差分

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グリム童話の『みそさざいと熊』
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|省略 = 鳥綱
|省略 = 鳥綱
|名称 = ミソサザイ
|名称 = ミソサザイ
|画像=[[ファイル:Troglodytes troglodytes.jpg|250px|ミソサザイ]]
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|画像キャプション = '''ミソサザイ''' ''Troglodytes troglodytes''
|画像キャプション = '''ミソサザイ''' ''Troglodytes troglodytes''
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|status = LC
|status_ref =<ref name="IUCN">{{Cite web |url=http://www.iucnredlist.org/details/106006968/0 |title=IUCN Red List of Threatened Species. 2013.1 (''Troglodytes troglodytes'') |publisher=[[IUCN]] |accessdate=2013-07-11 |language=英語 }}</ref>|目 = [[スズメ目]] {{Sname||Passerine|Passeriformes}}
|status_ref = <ref group="a" name="iucn">
[http://www.iucnredlist.org/ The IUCN Red List of Threatened Species]
* BirdLife International 2009.0. [http://www.iucnredlist.org/details/147806/0 ''Troglodytes troglodytes'']. In: IUCN 2010. IUCN Red List of Threatened Species. Version 2010.4.
</ref>
|目 = [[スズメ目]] {{Sname||Passerine|Passeriformes}}
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|属 = [[ミソサザイ属]] {{Snamei||Troglodytes}}
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|種 = '''ミソサザイ''' ''T. troglodytes''
|学名 = ''Troglodytes troglodytes''<br />({{AU|Linnaeus}}, [[1758年|1758]])<ref name="worldbirdnames">{{Cite web |url=http://www.worldbirdnames.org/n-sugarbirds.html |title=IOC World Bird List 3.3 (Sugarbirds, starlings, thrushes) |publisher=[[国際鳥類学会議|国際鳥類学会議(IOC)]] |language=英語 |accessdate=2013-07-11}}</ref>
|学名 = ''Troglodytes troglodytes''<br />([[カール・フォン・リンネ|Linnaeus]], [[1758年|1758]])
|和名 = ミソサザイ
|和名 = ミソサザイ
|英名 = [[w:Winter_Wren|Winter wren]]
|英名 = [[w:Eurasian Wren|Eurasian Wren]]<ref name="worldbirdnames" />
|下位分類名 = [[亜種]]
|下位分類 = * ''T. t. fumigatus'' ミソサザイ<br />
* ''T. t. mosukei'' モスケミソサザイ<br />
* ''T. t. orii'' ダイトウミソサザイ など多数<br />
* [[#分類|詳細は本文の分類を参照]]
}}
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'''ミソサザイ'''(鷦鷯<ref name="fn1">安部直哉 『山溪名前図鑑 野鳥の名前』、[[山と渓谷|山と溪谷社]]、[[2008年]]、308頁。</ref>、''Troglodytes troglodytes'')は、[[動物|動物界]][[脊索動物|脊索動物門]][[鳥類|鳥綱]][[スズメ目]][[ミソサザイ科]][[ミソサザイ属]]に分類される鳥類。
'''ミソサザイ'''(鷦鷯<ref name="fn1">安部直哉 『山溪名前図鑑 野鳥の名前』、[[山と渓谷|山と溪谷社]]、[[2008年]]、308頁。</ref>、[[学名]] ''Troglodytes troglodytes'' ({{AU|Linnaeus}}, [[1758年|1758]]) )は、[[スズメ目]][[ミソサザイ科]][[ミソサザイ属]]に分類される[[鳥類]]の1[[種 (分類学)|種]]


== 分布 ==
== 分布 ==
ヨーロッパ、アフリカ北部、西アジア、中央アジアからロシア極東部、中国北東部、朝鮮半島にかけてと、北アメリカ西部および東部で繁殖し、北方で繁殖した個体は冬季南方へ渡る。
[[ヨーロッパ]][[アフリカ]]北部、[[西アジア]][[中央アジア]]から[[ロシア極東]]部、[[南アジア]]北部、[[中国]]、[[台湾]]、[[朝鮮半島]]、[[日本]]にかけてと<ref name="worldbirdnames" />[[北アメリカ]]西部および東部で繁殖し、北方で繁殖した個体は冬季南方へ渡る<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁">[[#山溪ハンディ図鑑7日本の野鳥|叶内拓哉 (2006)、461頁]]</ref>


日本では[[留鳥]]として、[[大隅諸島]]以北に周年生息している。[[亜高山帯]]~[[高山帯]]で[[繁殖]]するとされているが、亜高山帯には属さない宮崎県の[[御池]]野鳥の森では繁殖期にも観察されており、繁殖していると思われる。
日本では[[留鳥]]として、[[大隅諸島]]以北に周年生息している。[[亜高山帯]]~[[高山帯]]で[[繁殖]]するとされているが、亜高山帯には属さない宮崎県の[[御池]]野鳥の森では繁殖期にも観察されており、繁殖していると思われる。


繁殖期の一部の個体は、秋~春先にかけては[[低山帯]]や[[平地]]に降りて[[越冬]]する([[漂鳥]])。
繁殖期の一部の個体は、秋~春先にかけては低山帯や[[平地]]に降りて[[越冬]]する([[漂鳥]])。
* ''T. t. mosukei'' モスケミソサザイ
日本([[青ヶ島]]、[[神津島]]、[[新島]]、[[八丈島]]、[[八丈小島]]、[[御蔵島]]、[[三宅島]])[[固有種|固有亜種]]<ref group="a" name="bio">[http://www.biodic.go.jp/index.html 環境省 自然環境局 生物多様性センター]
* [http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/73-015.html 絶滅危惧種情報(動物)- モスケミソサザイ -]
* [http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/73-131.html 絶滅危惧種情報(動物)- ダイトウミソサザイ -]</ref>
=== 絶滅亜種 ===
* ''T. t. orii'' ダイトウミソサザイ
日本([[南大東島]])固有亜種<ref group="a" name="bio"/>


== 形態 ==
== 形態 ==
全長が約11 [[センチメートル|cm]]<ref name="fn1"/><ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" /><ref name="高木清和 (2000)、69頁">[[#野山の鳥|高木清和 (2000)、69頁]]</ref>、[[翼幅|翼開長]]が約16 cm<ref name="中川雄三 (2010)、175頁">[[#ひと目でわかる野鳥|中川雄三 (2010)、175頁]]</ref>。体重7-13g。[[和名]]のサザイは、古くは「小さい鳥」を指す「さざき」が転じた<ref name="fn1"/>。また溝(谷側)の些細の鳥が訛ってミソサザイと呼ばれるようになったとする説がある<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。全身は茶褐色で、体の上面と翼に黒褐色の横斑が、体の下面には黒色と白色の波状横斑がある。雌雄同色である<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" /><ref name="真木広造 (2012)、186頁">[[#名前がわかる野鳥大図鑑|真木広造 (2012)、186頁]]</ref>。体つきは丸みを帯びており、[[尾]]は短い。よく短い[[尾羽]]を上に立てた姿勢をとる<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" />。
[[ファイル:Troglodytes troglodytes fumigatus.JPG|thumb|尾を上げた姿勢のミソサザイ]]
全長11センチメートル<ref name="fn1"/>。翼開長約16cm。体重7-13g。和名サザイは、古くは「小さい鳥」を指す「さざき」が転じた<ref name="fn1"/>。全身は茶褐色で、体の上面と翼に黒褐色の横斑が、体の下面には黒色と白色の波状横斑がある。雌雄同色である。


== 生態 ==
体つきは丸みを帯びており、[[尾]]は短い。よく短い尾を上に上げる姿勢をとる。
日本の野鳥の中でも、[[キクイタダキ]]と共に最小種のひとつ<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" /><ref name="真木広造 (2012)、186頁" />。常に短い尾羽を立てて、上下左右に小刻みに震わせている。属名、種小名''troglodytes''は「岩の割れ目に住むもの」を意味する。


茂った薄暗い[[森林]]の中に生息し、特に[[渓流]]の近辺に多い<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。単独か番いで生活し、群れを形成することはない。繁殖期以外は単独で生活する<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" />。
== 分類 ==
{{Listen
亜種ダイトウミソサザイは[[1938年]]の冬季に1羽のみ模式標本の採集例しか記録がないことから、単に冬季に南大東島に飛来した個体の可能性もある<ref group="a" name="bio"/>。
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|title=ミソサザイのさえずり
|description=音声データ
|format=[[Ogg]]}}
早春の2月くらいから囀り始める習性があり、平地や里山などでも2月頃にその美しい囀りを耳にすることができる。小さな体の割には声が大きく、高音の大変に良く響く声で「チリリリリ」とさえずる<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。また[[地鳴き]]で「チャッチャッ」とも鳴く<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。同じような地鳴きをするものに[[ウグイス]]がいるが、ウグイスの地鳴きと比べて明らかに金属的な鋭い声で「ジジッ」と聞こえる<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" />。ミソサザイの地鳴きを聞いたことがある人なら、聞き間違えることはないほどの相違点がある。秋~早春、場所によっては両種が同じ環境で生活しているため、初めて聞く人にとって、両種の特定には注意が必要である。


食性は[[動物食]]で、[[昆虫]]、[[クモ類]]を食べる<ref name="叶内拓哉 (2006)、461頁" /><ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。
== 生態 ==
日本の野鳥の中でも、[[キクイタダキ]]と共に最小種のひとつ。常に短い尾羽を立てて、上下左右に小刻みに震わせている。属名、種小名''troglodytes''は「岩の割れ目に住むもの」を意味する。


繁殖形態は卵生。繁殖期は5-8月で、4-6卵を産む。抱卵日数は14-15日、16-17日で雛は巣立つ。[[一夫多妻制]]<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />でオスは営巣のみを行い、抱卵、育雛はメスが行う<ref name="真木広造 (2012)、186頁" />。
茂った森林の中に生息する。特に渓流の近辺に多い。単独か番いで生活し、群れを形成することはない。


ミソサザイは、森の中のがけ地や大木の根元などに[[コケ類]]や[[獣毛]]等を使って壷型の巣を作るが<ref name="真木広造 (2012)、186頁" />、他の鳥と異なり、オスは自分の[[縄張り]]の中の2個以上の巣を作り、移動しながらさえずってメスを誘う<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。ただし、オスが作るのは巣の外側のみで実際の繁殖に使用されるものは、作られた巣の内の1個のみであり、巣の内側はオスとつがいになったメスが完成させる<ref name="真木広造 (2012)、186頁" />。
早春の2月くらいから囀り始める習性があり、平地や里山などでも2月頃にその美しい囀りを耳にすることができる。
また、巣自体にも特徴があり、通常の壷巣は出入口が1つのみであるが、ミソサザイの巣は、入口と出口の双方がそれぞれ反対側に設計されている。抱卵・育雛中の親鳥が外敵から襲われると、中にいる親鳥は入り口とは反対側の出口から脱出するといわれている。
小さな体の割には声が大きく、高音の大変に良く響く声で「チリリリリ」とさえずる。また、[[地鳴き]]で「チャッチャッ」とも鳴く。
<gallery widths="125">
同じような地鳴きをするものに[[ウグイス]]がいるが、ウグイスの地鳴きと比べて明らかに金属的な鋭い声で「ジジッ」と聞こえる。
ファイル:Troglodytes troglodytes fumigatus c3.JPG|[[コケ植物|コケ]]をくわえて[[巣]]作りを行うミソサザイ
ミソサザイの地鳴きを聞いたことがある人なら、聞き間違えることはないほどの相違点がある。
ファイル:Wren Nest 02-05-10 (4571730338).jpg|巣と[[卵]]
秋~早春、場所によっては両種が同じ環境で生活しているため、初めて聞く人にとって、両種の特定には注意が必要である。
ファイル:Zaunkoenig alleinerziehend.jpg|親と雛
</gallery>


== 分類 ==
食性は動物食で、[[昆虫]]、クモ類を食べる。
=== ミソサザイ属 ===
{{Template:節stub}}
{{commons|Troglodytes|ミソサザイ属}}
{{Wikispecies|Troglodytes|ミソサザイ属}}
'''ミソサザイ属'''(''Troglodytes'')は、以下の種に分類されている<ref name="worldbirdnames" /><ref>{{Cite web |url=http://www.itis.gov/servlet/SingleRpt/SingleRpt?search_topic=TSN&search_value=178540 |title=''Troglodytes'' Vieillot, 1809 |publisher=[[ITIS]] |language=英語 |accessdate=2013-07-12}}</ref>。
* ''T. troglodytes'' (Linnaeus, 1758) - '''ミソサザイ'''、英名:[[:en:Eurasian Wren|Eurasian Wren]]
* ''T. hiemalis'' {{AU|Vieillot}}, [[1819年|1819]] - 英名:Eastern Winter Wren
* ''T. pacificus'' {{AU|Baird, SF}}, [[1864年|1864]] - 英名:[[:en:Pacific Wren|Pacific Wren]]
* ''T. tanneri'' {{AU|Townsend, CH}}, [[1890年|1890]] - クラリオンミソサザイ、英名:[[:en:Clarión Wren|Clarión Wren]]
* ''T. aedon'' Vieillot, 1809 - [[イエミソサザイ]]、英名:[[:en:House Wren|House Wren]]
* ''T. cobbi'' {{AU| Chubb}}, [[1908年|1908]] - 英名:[[:en:Cobb's Wren|Cobb's Wren]]
* ''T. sissonii'' ({{AU|Grayson}}, [[1868年|1868]]) - 英名:[[:en:Socorro Wren|Socorro Wren]]
* ''T. rufociliatus'' ({{AU|Sharpe}}, [[1882年|1882]]) - アカマユヤマミソサザイ、英名:[[:en:Rufous-browed Wren|Rufous-browed Wren]]
* ''T. ochraceus'' {{AU|Ridgway}}, 1882 - キイロヤマミソサザイ、英名:[[:en:Ochraceous Wren|Ochraceous Wren]]
* ''T. solstitialis'' {{AU|Sclater, PL}}, [[1859年|1859]] - ヤマミソサザイ、英名:[[:en:Mountain Wren|Mountain Wren]]
* ''T. monticola'' {{AU|Bangs}}, [[1899年|1899]] - サンタマルタミソサザイ、英名:[[:en:Santa Marta Wren|Santa Marta Wren]]
* ''T. rufulus'' {{AU|Cabanis}}, [[1849年|1849]] - アカチャミソサザイ、英名:[[:en:Tepui Wren|Tepui Wren]]
<gallery widths="100">
ファイル:Troglodytes troglodytes fumigatus c2.JPG|''T. troglodytes''<br />ミソサザイ
ファイル:Troglodytes hiemalis Central Park NY.jpg|''T. hiemalis''
ファイル:Troglodytes pacificus US-NPS.jpg|''T. pacificus''
ファイル:Troglodytes musculus Registro.jpg|''T. aedon''<br />[[イエミソサザイ]]
ファイル:Cobb's Wren.png|''T. cobbi''
ファイル:Rufous-browed Wren - cropped.jpg|''T. rufociliatus''<br />アカマユヤマミソサザイ
ファイル:Ochraceous Wren (6914453566).jpg|''T. ochraceus''<br />キイロヤマミソサザイ
ファイル:Troglodytes solstitialis Smit.jpg|''T. solstitialis''<br />ヤマミソサザイ
</gallery>


=== 亜種 ===
繁殖形態は卵生。繁殖期は5-8月で、4-6卵を産む。抱卵日数は14-15日、16-17日で雛は巣立つ。一夫多妻でオスは営巣のみを行い、抱卵、育雛はメスが行う。
ミソサザイ(''T. troglodytes'')は、以下の[[亜種]]に分類されている<ref name="worldbirdnames" /><ref name="avibase">{{Cite web |url=http://avibase.bsc-eoc.org/species.jsp?lang=EN&avibaseid=AF700208E4339572 |title=Eurasian Wren (''Troglodytes troglodytes'') (Linnaeus, 1758) |publisher=[[バードライフ・インターナショナル]] |language=英語 |accessdate=2013-07-11}}</ref>。
* ''T. t. islandicus'' {{AU|Hartert}}, [[1907年|1907]] - [[アイスランド]]に分布する。
* ''T. t. borealis'' {{AU|JCH}}, [[1861年|1861]] - [[デンマーク]]の[[フェロー諸島]]に分布する。
* ''T. t. zetlandicus'' Hartert, [[1910年|1910]] - [[スコットランド]]の[[シェトランド諸島]]に分布する。
* ''T. t. fridariensis'' {{AU|Williamson}}, [[1951年|1951]] - シェトランド諸島南部の[[フェア島]]に分布する。
* ''T. t. hirtensis'' {{AU|Seebohm}}, [[1884年|1884]] - [[イギリス]]の[[セント・キルダ]]に分布する。
* ''T. t. hebridensis'' {{AU|Meinertzhagen}}, [[1924年|1924]] - スコットランドの[[ヘブリディーズ諸島]]に分布する。
[[ファイル:Troglodytes troglodytes indigenus Leighton Moss.jpg|150px|サムネイル|''T. t. indigenus'']]
* ''T. t. indigenus '' {{AU|Clancey}}, [[1937年|1937]] - [[アイルランド]]と[[グレートブリテン島]]に分布する。
* ''T. t. troglodytes'' (Linnaeus, 1758) - [[ヨーロッパ大陸]]の大部分の領域に分布する。
* ''T. t. kabylorum'' Hartert, 1910 - [[アフリカ]]北西部、[[スペイン]]の南部と[[バレアレス諸島]]に分布する。
* ''T. t. koenigi '' {{AU|Schiebel}}, 1910 - [[フランス]]の[[コルシカ島]]と[[イタリア]]の[[サルデーニャ]]に分布する。
* ''T. t. juniperi'' Hartert, 1922 - [[リビア]]北東部に分布する。
* ''T. t. cypriotes'' ({{AU|Bate}}, [[1903年|1903]]) - [[キプロス]]と[[トルコ]]南部から[[イスラエル]]北部にかけて分布する。
* ''T. t. hyrcanus'' {{AU|Zarudny}} & {{AU|Loudon}}, [[1905年|1905]] - [[クリミア半島]]、トルコ北部、[[コーカサス]]、[[イラン]]北部に分布する。
* ''T. t. zagrossiensis'' Zarudny & Loudon, [[1908年|1908]] - イラン西部に分布する。
* ''T. t. tianschanicus'' {{AU|Sharpe}}, [[1882年|1882]] - [[アフガニスタン]]北東部から[[中央アジア]]の山地にかけて分布する。
* ''T. t. subpallidus'' Zarudny & Loudon, [[1905年|1905]] - イラン北東部から[[ウズベキスタン]]南部にかけてとアフガニスタン北西部に分布する。
* ''T. t. magrathi'' ({{AU|Whitehead}}, {{AU|CHT}}, 1907) - アフガニスタン南東部と[[パキスタン]]西部に分布する。
* ''T. t. neglectus'' {{AU|Brooks, WE}}, [[1872年|1872]] - [[ヒマラヤ山脈]]西部に分布する。
* ''T. t. nipalensis'' {{AU|Blyth}}, [[1845年|1845]] - ヒマラヤ山脈の中部と東部に分布する
* ''T. t. idius'' ({{AU|Richmond}}, 1907) - [[中国]]中南部に分布する。
* ''T. t. szetschuanus'' Hartert, 1910 - 中国中西部に分布する。
* ''T. t. talifuensis'' (Sharpe, [[1902年|1902]]) - 中国南部と[[ミャンマー]]北東部に分布する。
* ''T. t. dauricus'' {{AU|Dybowski}} & {{AU|Taczanowski}}, [[1884年|1884]] - [[シベリア]]南東部、中国北東部、[[朝鮮半島]]、日本の[[対馬]]に分布する。
* ''T. t. pallescens '' ({{AU|Ridgway}}, [[1883年|1883]]) - [[ロシア]]の[[カムチャッカ半島]]と[[コマンドルスキー諸島]]に分布する。
* ''T. t. kurilensis'' {{AU|Stejneger}}, [[1889年|1889]] - [[千島列島]]北部に分布する。
* ''T. t. fumigatus'' {{AU|Temminck}}, [[1835年|1835]] - 亜種'''ミソサザイ'''。千島列島南部、[[樺太]]、日本に分布する。
* ''T. t. mosukei'' {{AU|Momiyama}}, [[1923年|1923]] - 亜種'''モスケミソサザイ'''。[[伊豆諸島]]([[青ヶ島]]、[[神津島]]、[[新島]]、[[八丈島]]、[[八丈小島]]、[[御蔵島]]、[[三宅島]])に分布する<ref name="biodic-mosukei">{{Cite web |url=http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/73-015.html |title=絶滅危惧種情報検索・モスケミソサザイ |publisher=環境省自然環境局生物多様性センター |accessdate=2013-07-11}}</ref>。
* ''T. t. ogawae'' Hartert, 1910 - [[屋久島]]と[[種子島]]に分布する。
* ''T. t. taivanus'' Hartert, 1910 - [[台湾]]に分布する。
* (''T. t. orii'') - 亜種'''ダイトウミソサザイ'''。[[絶滅]]した種で、[[南大東島]]に分布していた<ref group="注釈">亜種ダイトウミソサザイは[[1938年]]の冬季に1羽のみ模式標本の採集例しか記録がないことから、単に冬季に南大東島に飛来した個体の可能性もある。</ref><ref name="biodic-orii">{{Cite web |url=http://www.biodic.go.jp/rdb_fts/2000/73-131.html |title=絶滅危惧種情報検索・ダイトウミソサザイ |publisher=環境省自然環境局生物多様性センター |accessdate=2013-07-11}}</ref>。


== 種の保全状況評価 ==
ミソサザイは、森の中のがけ地や大木の根元などにコケ類や獣毛等を使って[[壷型]]の巣を作るが、他の鳥と異なり、オスは2個以上の巣を自分の縄張りの中の別の場所に作る。ただし、オスが作るのは巣の外側のみで実際の繁殖に使用されるものは、作られた巣の内の1個のみであり、巣の内側はオスとつがいになったメスが完成させる。
=== ミソサザイ ===
また、巣自体にも特徴があり、通常の壷巣は出入口が1つのみであるが、ミソサザイの巣は、入口と出口の双方がそれぞれ反対側に設計されている。抱卵・育雛中の親鳥が外敵から襲われると、中にいる親鳥は入り口とは反対側の出口から脱出するといわれている。
[[国際自然保護連合]](IUCN)により、[[2004年]]から[[レッドリスト]]の[[軽度懸念]](LC)の指定を受けている<ref name="IUCN" />。

日本では亜種ミソサザイ(''T. t. fumigatus'')が、以下の[[都道府県]]でレッドリストの指定を受けている<ref name="jpnrdb">{{Cite web |url=http://www.jpnrdb.com/search.php?mode=map&q=02180100336 |title=日本のレッドデータ検索システム「ミソサザイ」 |publisher=(エンビジョン環境保全事務局)|accessdate=2013-07-11}} - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典元の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。</ref>。
* 絶滅危惧II類(VU) - [[大阪府]]
** 要保護生物(C) - [[千葉県]]<ref group="注釈">千葉県の要保護生物(C)は、環境省の絶滅危惧II類相当。</ref><ref name="chiba">{{Cite web |url=http://www.bdcchiba.jp/endangered/rdb-a/rdb-2011re/rdb-201104tori.pdf |title=千葉県レッドデータブック動物編(2009年改訂版) |publisher=千葉県 |format=PDF |pages=109 |date=2009 |accessdate=2013-07-11}}</ref>
* 準絶滅危惧(NT)- [[東京都]](北多摩、南多摩、西多摩地区)、[[愛知県]]<ref name="aichi">{{Cite web |url=http://www.pref.aichi.jp/kankyo/sizen-ka/shizen/yasei/rdb/cyourui/animals_169.pdf |title=レッドデータブックあいち2009 |publisher=愛知県 |format=PDF |pages=169 |date=2009 |accessdate=2013-07-11}}</ref>、[[長崎県]]
** 希少種 - [[滋賀県]]<ref group="注釈">滋賀県の希少種は、環境省の準絶滅危惧相当。</ref>
=== モスケミソサザイ ===
日本の東京都伊豆諸島の固有亜種であるモスケミソサザイ(''T. t. mosukei'')は、[[環境省]]及び東京都のレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)の指定を受けている<ref name="biodic-mosukei" /><ref name="biodic-2012">{{Cite web |url=http://www.biodic.go.jp/rdb/rl2012/RL2012siryo7_1.pdf |title=環境省第4次レッドリスト(9分類群・分類群順) |publisher=環境省 |format=PDF |pages=4-5 |date=2012 |accessdate=2013-07-11}}</ref>。
{{絶滅危惧IB類|ref = <ref name="biodic-2012" />}}
=== ダイトウミソサザイ ===
日本の[[沖縄県]]の[[大東諸島]]南大東島の固有亜種であるダイトウミソサザイ(''T. t. orii'')は、環境省<ref name="biodic-orii" /><ref name="biodic-2012" />及び沖縄県<ref>{{Cite web |url=http://www.pref.okinawa.lg.jp/site/kankyo/shizenhogo/hogo/documents/tyourui-shusei.pdf |title=改訂版 レッドデータおきなわ-動物編- |publisher=沖縄県 |format=PDF |pages=42 |date=2005 |accessdate=2013-07-11}}</ref>のレッドリストで[[絶滅]](EX)の種の指定を受けている。 
{{絶滅|ref = <ref name="biodic-2012" />}}


== 人間との関係 ==
== 人間との関係 ==
日本では古くから知られている鳥で、[[古事記]]・[[日本書紀]]にも登場する。なお、古くは「ササキ」であったが時代が下り「サザキ」または「ササギ」「ミソササギ」等と言った。
日本では古くから知られている鳥で、[[古事記]]・[[日本書紀]]にも登場する<ref group="注釈">[[仁徳天皇]]の記紀にミソサザイが登場する。</ref><ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />。なお、古くは「[[佐々木|ササキ]]」であったが時代が下り「サザキ」または「ササギ」「ミソササギ」等と言った。冬の[[季語]]とされている([[季語一覧#冬の季語]])。[[江戸時代]]の[[俳人]][[小林一茶]]が「みそさざい ちっというても 日の暮るる」の句を詠んでいる。[[1710年]]([[宝永]]7年)に、蘇生堂主人による鳥の飼育書の『喚子鳥』で描写されている<ref>[[#江戸時代に描かれた鳥たち|細川博昭 (2012)、14-15頁]]</ref>


西欧各国の民間伝承においてはしばしば「鳥の王」とされ、各国語における呼称も君主や王の意を含んだ単語が用いられる。また、[[ヨーロッパコマドリ]]と対になって現れることも多い。かつては、ヨーロッパコマドリがオス、ミソサザイがメスだと考えられており、「神の雄鳥」「神の雌鳥」として伝承中では夫婦とされていた。また、イギリスでは[[ヨーロッパコマドリ]]が新年の魂を、ミソサザイが旧年の魂を宿しているとして、[[クリスマス]]や[[ステファノ|聖ステファノ]]の日(12月26日)に「ミソサザイ狩り」が行われていた<ref>『世界大百科事典 改訂版 30巻』平凡社、2006年、ISBN 4582033008</ref>。
[[西欧]]各国の民間伝承においてはしばしば「鳥の王」とされ<ref name="中川雄三 (2010)、175頁" />、各国語における呼称も君主や王の意を含んだ単語が用いられる。[[グリム童話]]の『みそさざいと熊』で「鳥の王さま」と呼ばれていた<ref>[[#完訳グリム童話集|ヤーコプ・グリム (2006)、9頁]]</ref>。また、[[ヨーロッパコマドリ]]と対になって現れることも多い。かつては、ヨーロッパコマドリがオス、ミソサザイがメスだと考えられており、「神の雄鳥」「神の雌鳥」として伝承中では夫婦とされていた。また、イギリスでは[[ヨーロッパコマドリ]]が新年の魂を、ミソサザイが旧年の魂を宿しているとして、[[クリスマス]]や[[ステファノ|聖ステファノ]]の日(12月26日)に「ミソサザイ狩り」が行われていた<ref>『世界大百科事典 改訂版 30巻』平凡社、2006年、ISBN 4582033008</ref>。


森の王に立候補したミソサザイが、森の王者イノシシの耳の中に飛び込んで、見事にイノシシを倒したものの、だれも小さなミソサザイを森の王とは認めなかったという寓話が有名である。
森の王に立候補したミソサザイが、森の王者イノシシの耳の中に飛び込んで、見事にイノシシを倒したものの、だれも小さなミソサザイを森の王とは認めなかったという寓話が有名である。


また、ミソサザイは[[アイヌ]]の伝承の中にも登場する。人間を食い殺すクマを退治するために、ツルやワシも尻込みする中でミソサザイが先陣を切ってクマの耳に飛び込んで攻撃をし、その姿に励まされた他の鳥たちも後に続く。最終的にはサマイクル神も参戦して荒クマを倒すという内容のもので、この伝承の中では小さいけれども立派な働きをしたと、サマイクルによってミソサザイが讃えられている<ref>山本多助『カムイ・ユーカラ』平凡社、1993年、ISBN 4582760260</ref>。
また、ミソサザイは[[アイヌ]]の伝承の中にも登場する。人間を食い殺すクマを退治するために、ツルやワシも尻込みする中でミソサザイが先陣を切ってクマの耳に飛び込んで攻撃をし、その姿に励まされた他の鳥たちも後に続く。最終的にはサマイクル神も参戦して荒クマを倒すという内容のもので、この伝承の中では小さいけれども立派な働きをしたと、サマイクルによってミソサザイが讃えられている<ref>山本多助『カムイ・ユーカラ』平凡社、1993年、ISBN 4582760260</ref>。『[[ワシ]]とミソサザイ』の[[童話]]の題材とされている<ref>[[#ワシとミソサザイ|ジェーン・グドール (2001)]]</ref>。
* ''T. t. mosukei'' モスケミソサザイ
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* ''T. t. orii'' ダイトウミソサザイ
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==脚注==
== 脚注 ==
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<references />
=== 注釈 ===
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=== 出典 ===
<div class="references-small">{{Reflist|2}}</div>


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
* 山カラー名鑑『日本の野鳥』、[[山と渓谷社]]
* 山カラー名鑑『日本の野鳥』、[[山と渓谷|山と溪谷社]]
*『日本の鳥 550 山野の鳥 増補改訂版』、文一総合出版
*『日本の鳥 550 山野の鳥 増補改訂版』、文一総合出版
* [[黒田長久]]監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科9 鳥III』、[[平凡社]]、[[1986年]]、154頁。
* [[黒田長久]]監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科9 鳥III』、[[平凡社]]、[[1986年]]、154頁。
* {{Cite book|和書 |author=高木清和 |date=2000-08 |title=フィールドのための野鳥図鑑-野山の鳥 |publisher=山と溪谷社 |isbn=4635063313 |ref=野山の鳥}}
* {{Cite book|和書 |author=叶内拓哉、安部直哉 |date=2006-10-01 |title=山溪ハンディ図鑑7 日本の野鳥 |publisher=山と溪谷社 |isbn=4635070077 |edition=第2版 |ref=山溪ハンディ図鑑7日本の野鳥}}
* {{Cite book|和書 |editor=中川雄三(監修) |date=2010-02-20 |title=ひと目でわかる野鳥 |publisher=成美堂出版 |isbn=978-4415305325 |ref=ひと目でわかる野鳥}}
* {{Cite book|和書 |author=真木広造 |date=2012-04-10 |title=名前がわかる野鳥大図鑑 |publisher=[[永岡書店]] |isbn=978-4522430866 |ref=名前がわかる野鳥大図鑑}}
* {{Cite book|和書 |author=[[ジェーン・グドール]] |translator=[[百々佑利子]] |date=2001-04 |title=ワシとミソサザイ |publisher=[[さえら書房]] |isbn=4378001098 |ref=ワシとミソサザイ}}
* {{Cite book|和書 |author=[[ヤーコプ・グリム]]、[[ヴィルヘルム・グリム]] |translator=野村泫 |date=2006-04-10 |title=完訳グリム童話集 |series=5 |publisher=[[ちくま文庫]] |isbn=4480421459 |ref=完訳グリム童話集}}
* {{Cite book|和書 |author=細川博昭 |date=2012-02-16 |title=江戸時代に描かれた鳥たち 輸入された鳥、身近な鳥 |publisher=[[ソフトバンククリエイティブ]] |isbn=978-4797352566 |ref=江戸時代に描かれた鳥たち}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
* [[ミソサザイ科]]
{{commons|Troglodytes troglodytes}}
*[[日本の野鳥一覧]]
* [[日本の野鳥一覧]]
*[[仁徳天皇]](大'''鷦鷯'''尊)
* [[仁徳天皇]](大'''鷦鷯'''尊)
*[[武烈天皇]](小泊瀬稚'''鷦鷯'''尊)
* [[武烈天皇]](小泊瀬稚'''鷦鷯'''尊)
*ツァーンケーニッヒ(みそさざい) [[ドイツ海軍]]が第二次大戦後半に開発した音響誘導式T-5魚雷のニックネーム。
* ツァーンケーニッヒ(みそさざい) [[ドイツ海軍]]が第二次大戦後半に開発した音響誘導式T-5魚雷のニックネーム。
*[[ガリンシャ]] サッカー選手、この鳥の名前がサッカーネームとなった。
* [[ガリンシャ]] サッカー選手、この鳥の名前がサッカーネームとなった。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{commons&cat|Troglodytes troglodytes|Troglodytes troglodytes}}
{{Reflist|group="a"}}
{{Wikispecies|Troglodytes troglodytes}}
* [http://www.birdfan.net/pg/kind/ord17/fam1709/spe170900/ ミソサザイ] ([[日本野鳥の会]])
* [http://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/63.html ミソサザイ] ([[サントリー]])

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2013年7月14日 (日) 10:29時点における版

ミソサザイ
尾羽を立てたミソサザイ
ミソサザイ Troglodytes troglodytes
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
: スズメ目 Passeriformes
: ミソサザイ科 Troglodytidae
: ミソサザイ属 Troglodytes
: ミソサザイ T. troglodytes
学名
Troglodytes troglodytes
(Linnaeus, 1758)[2]
和名
ミソサザイ
英名
Eurasian Wren[2]
亜種

ミソサザイ(鷦鷯[3]学名 Troglodytes troglodytes (Linnaeus, 1758) )は、スズメ目ミソサザイ科ミソサザイ属に分類される鳥類の1

分布

ヨーロッパアフリカ北部、西アジア中央アジアからロシア極東部、東南アジア北部、中国台湾朝鮮半島日本にかけてと[2]北アメリカ西部および東部で繁殖し、北方で繁殖した個体は冬季南方へ渡る[4]

日本では留鳥として、大隅諸島以北に周年生息している。亜高山帯高山帯繁殖するとされているが、亜高山帯には属さない宮崎県の御池野鳥の森では繁殖期にも観察されており、繁殖していると思われる。

繁殖期の一部の個体は、秋~春先にかけては低山帯や平地に降りて越冬する(漂鳥)。

形態

全長が約11 cm[3][4][5]翼開長が約16 cm[6]。体重7-13g。和名のサザイは、古くは「小さい鳥」を指す「さざき」が転じた[3]。また溝(谷側)の些細の鳥が訛ってミソサザイと呼ばれるようになったとする説がある[6]。全身は茶褐色で、体の上面と翼に黒褐色の横斑が、体の下面には黒色と白色の波状横斑がある。雌雄同色である[4][7]。体つきは丸みを帯びており、は短い。よく短い尾羽を上に立てた姿勢をとる[4]

生態

日本の野鳥の中でも、キクイタダキと共に最小種のひとつ[6][7]。常に短い尾羽を立てて、上下左右に小刻みに震わせている。属名、種小名troglodytesは「岩の割れ目に住むもの」を意味する。

茂った薄暗い森林の中に生息し、特に渓流の近辺に多い[6]。単独か番いで生活し、群れを形成することはない。繁殖期以外は単独で生活する[4]

早春の2月くらいから囀り始める習性があり、平地や里山などでも2月頃にその美しい囀りを耳にすることができる。小さな体の割には声が大きく、高音の大変に良く響く声で「チリリリリ」とさえずる[6]。また地鳴きで「チャッチャッ」とも鳴く[6]。同じような地鳴きをするものにウグイスがいるが、ウグイスの地鳴きと比べて明らかに金属的な鋭い声で「ジジッ」と聞こえる[4]。ミソサザイの地鳴きを聞いたことがある人なら、聞き間違えることはないほどの相違点がある。秋~早春、場所によっては両種が同じ環境で生活しているため、初めて聞く人にとって、両種の特定には注意が必要である。

食性は動物食で、昆虫クモ類を食べる[4][6]

繁殖形態は卵生。繁殖期は5-8月で、4-6卵を産む。抱卵日数は14-15日、16-17日で雛は巣立つ。一夫多妻制[6]でオスは営巣のみを行い、抱卵、育雛はメスが行う[7]

ミソサザイは、森の中のがけ地や大木の根元などにコケ類獣毛等を使って壷型の巣を作るが[7]、他の鳥と異なり、オスは自分の縄張りの中の2個以上の巣を作り、移動しながらさえずってメスを誘う[6]。ただし、オスが作るのは巣の外側のみで実際の繁殖に使用されるものは、作られた巣の内の1個のみであり、巣の内側はオスとつがいになったメスが完成させる[7]。 また、巣自体にも特徴があり、通常の壷巣は出入口が1つのみであるが、ミソサザイの巣は、入口と出口の双方がそれぞれ反対側に設計されている。抱卵・育雛中の親鳥が外敵から襲われると、中にいる親鳥は入り口とは反対側の出口から脱出するといわれている。

分類

ミソサザイ属

ミソサザイ属Troglodytes)は、以下の種に分類されている[2][8]

亜種

ミソサザイ(T. troglodytes)は、以下の亜種に分類されている[2][9]

T. t. indigenus

種の保全状況評価

ミソサザイ

国際自然保護連合(IUCN)により、2004年からレッドリスト軽度懸念(LC)の指定を受けている[1]

日本では亜種ミソサザイ(T. t. fumigatus)が、以下の都道府県でレッドリストの指定を受けている[12]

モスケミソサザイ

日本の東京都伊豆諸島の固有亜種であるモスケミソサザイ(T. t. mosukei)は、環境省及び東京都のレッドリストで絶滅危惧IB類(EN)の指定を受けている[10][15]

絶滅危惧IB類 (EN)環境省レッドリスト[15]

ダイトウミソサザイ

日本の沖縄県大東諸島南大東島の固有亜種であるダイトウミソサザイ(T. t. orii)は、環境省[11][15]及び沖縄県[16]のレッドリストで絶滅(EX)の種の指定を受けている。 

絶滅環境省レッドリスト[15]

人間との関係

日本では古くから知られている鳥で、古事記日本書紀にも登場する[注釈 4][6]。なお、古くは「ササキ」であったが時代が下り「サザキ」または「ササギ」「ミソササギ」等と言った。冬の季語とされている(季語一覧#冬の季語)。江戸時代俳人小林一茶が「みそさざい ちっというても 日の暮るる」の句を詠んでいる。1710年宝永7年)に、蘇生堂主人による鳥の飼育書の『喚子鳥』で描写されている[17]

西欧各国の民間伝承においてはしばしば「鳥の王」とされ[6]、各国語における呼称も君主や王の意を含んだ単語が用いられる。グリム童話の『みそさざいと熊』で「鳥の王さま」と呼ばれていた[18]。また、ヨーロッパコマドリと対になって現れることも多い。かつては、ヨーロッパコマドリがオス、ミソサザイがメスだと考えられており、「神の雄鳥」「神の雌鳥」として伝承中では夫婦とされていた。また、イギリスではヨーロッパコマドリが新年の魂を、ミソサザイが旧年の魂を宿しているとして、クリスマス聖ステファノの日(12月26日)に「ミソサザイ狩り」が行われていた[19]

森の王に立候補したミソサザイが、森の王者イノシシの耳の中に飛び込んで、見事にイノシシを倒したものの、だれも小さなミソサザイを森の王とは認めなかったという寓話が有名である。

また、ミソサザイはアイヌの伝承の中にも登場する。人間を食い殺すクマを退治するために、ツルやワシも尻込みする中でミソサザイが先陣を切ってクマの耳に飛び込んで攻撃をし、その姿に励まされた他の鳥たちも後に続く。最終的にはサマイクル神も参戦して荒クマを倒すという内容のもので、この伝承の中では小さいけれども立派な働きをしたと、サマイクルによってミソサザイが讃えられている[20]。『ワシとミソサザイ』の童話の題材とされている[21]

脚注

注釈

  1. ^ 亜種ダイトウミソサザイは1938年の冬季に1羽のみ模式標本の採集例しか記録がないことから、単に冬季に南大東島に飛来した個体の可能性もある。
  2. ^ 千葉県の要保護生物(C)は、環境省の絶滅危惧II類相当。
  3. ^ 滋賀県の希少種は、環境省の準絶滅危惧相当。
  4. ^ 仁徳天皇の記紀にミソサザイが登場する。

出典

  1. ^ a b IUCN Red List of Threatened Species. 2013.1 (Troglodytes troglodytes)” (英語). IUCN. 2013年7月11日閲覧。
  2. ^ a b c d e IOC World Bird List 3.3 (Sugarbirds, starlings, thrushes)” (英語). 国際鳥類学会議(IOC). 2013年7月11日閲覧。
  3. ^ a b c 安部直哉 『山溪名前図鑑 野鳥の名前』、山と溪谷社2008年、308頁。
  4. ^ a b c d e f g 叶内拓哉 (2006)、461頁
  5. ^ 高木清和 (2000)、69頁
  6. ^ a b c d e f g h i j k 中川雄三 (2010)、175頁
  7. ^ a b c d e 真木広造 (2012)、186頁
  8. ^ Troglodytes Vieillot, 1809” (英語). ITIS. 2013年7月12日閲覧。
  9. ^ Eurasian Wren (Troglodytes troglodytes) (Linnaeus, 1758)” (英語). バードライフ・インターナショナル. 2013年7月11日閲覧。
  10. ^ a b 絶滅危惧種情報検索・モスケミソサザイ”. 環境省自然環境局生物多様性センター. 2013年7月11日閲覧。
  11. ^ a b 絶滅危惧種情報検索・ダイトウミソサザイ”. 環境省自然環境局生物多様性センター. 2013年7月11日閲覧。
  12. ^ 日本のレッドデータ検索システム「ミソサザイ」”. (エンビジョン環境保全事務局). 2013年7月11日閲覧。 - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典元の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
  13. ^ 千葉県レッドデータブック動物編(2009年改訂版)” (PDF). 千葉県. pp. 109 (2009年). 2013年7月11日閲覧。
  14. ^ レッドデータブックあいち2009” (PDF). 愛知県. pp. 169 (2009年). 2013年7月11日閲覧。
  15. ^ a b c d 環境省第4次レッドリスト(9分類群・分類群順)” (PDF). 環境省. pp. 4-5 (2012年). 2013年7月11日閲覧。
  16. ^ 改訂版 レッドデータおきなわ-動物編-” (PDF). 沖縄県. pp. 42 (2005年). 2013年7月11日閲覧。
  17. ^ 細川博昭 (2012)、14-15頁
  18. ^ ヤーコプ・グリム (2006)、9頁
  19. ^ 『世界大百科事典 改訂版 30巻』平凡社、2006年、ISBN 4582033008
  20. ^ 山本多助『カムイ・ユーカラ』平凡社、1993年、ISBN 4582760260
  21. ^ ジェーン・グドール (2001)

参考文献

  • 山溪カラー名鑑『日本の野鳥』、山と溪谷社
  • 『日本の鳥 550 山野の鳥 増補改訂版』、文一総合出版
  • 黒田長久監修 C.M.ペリンズ、A.L.A.ミドルトン編 『動物大百科9 鳥III』、平凡社1986年、154頁。
  • 高木清和『フィールドのための野鳥図鑑-野山の鳥』山と溪谷社、2000年8月。ISBN 4635063313 
  • 叶内拓哉、安部直哉『山溪ハンディ図鑑7 日本の野鳥』(第2版)山と溪谷社、2006年10月1日。ISBN 4635070077 
  • 中川雄三(監修) 編『ひと目でわかる野鳥』成美堂出版、2010年2月20日。ISBN 978-4415305325 
  • 真木広造『名前がわかる野鳥大図鑑』永岡書店、2012年4月10日。ISBN 978-4522430866 
  • ジェーン・グドール 著、百々佑利子 訳『ワシとミソサザイ』さえら書房、2001年4月。ISBN 4378001098 
  • ヤーコプ・グリムヴィルヘルム・グリム 著、野村泫 訳『完訳グリム童話集』ちくま文庫〈5〉、2006年4月10日。ISBN 4480421459 
  • 細川博昭『江戸時代に描かれた鳥たち 輸入された鳥、身近な鳥』ソフトバンククリエイティブ、2012年2月16日。ISBN 978-4797352566 

関連項目

外部リンク

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