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|画像キャプション = '''アライグマ''' ''Procyon lotor''
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| status_ref = <ref name=iucn>{{IUCN2008|assessors=Timm, R., Cuarón, A.D., Reid, F. & Helgen, K. |year=2008|id=41686|title=Procyon lotor|downloaded=22 March 2009}} Database entry includes a brief justification of why this species is of least concern</ref>
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[[File:Waschbaer fg01.jpg|thumb|right|足跡]]
'''アライグマ'''(洗熊、浣熊、''Procyon lotor'')は、[[哺乳類|哺乳綱]][[ネコ目|食肉目]][[アライグマ科]][[アライグマ属]]に分類される哺乳類。アライグマ属の模式種。[[環境省]]指定[[特定外来生物]]及び[[日本生態学会]]指定[[日本の侵略的外来種ワースト100]]の指定種。
'''アライグマ'''(洗熊、浣熊、''Procyon lotor'')は、[[哺乳類|哺乳綱]][[ネコ目|食肉目]][[アライグマ科]][[アライグマ属]]に分類される哺乳類。アライグマ属の模式種。[[北アメリカ]]原産で、[[日本]]にはもともと分布していない[[外来種]]。


== 分布 ==
== 分布 ==
[[アメリカ合衆国]]、[[カナダ]]、[[メキシコ]]を原産地とする。
[[アメリカ合衆国]]、[[カナダ]]南部、[[メキシコ]]を原産地とする<ref name="Bjmanmal">{{cite book | 和書 | author = 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明| title = 日本の哺乳類 改訂版 | publisher = [[東海大学出版会]] | date = 2005-07-20 | isbn = 4-486-01690-4}}</ref>

日本国内では海外からの移入により広く定着する。また、[[ドイツ]]や[[フランス]]、旧[[ソビエト連邦]]の[[ベラルーシ]]や[[アゼルバイジャン]]といった国々にも、[[外来種]]として定着している。
日本では海外からの移入により広い地域に定着する。また、[[ドイツ]]、[[フランス]]などの[[ヨーロッパ]]諸国、旧[[ソビエト連邦]]の[[ベラルーシ]]や[[アゼルバイジャン]]、[[西インド諸島]]といった国々にも[[外来種]]として定着している<ref name="Rkeika">{{Cite journal|和書|author=池田透|year=1999| title=北海道における移入アライグマ問題の経過と課題 |journal=北海道大學文學部紀要|volume=47|issue=4|url= http://eprints2008.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/33734/1/47(4)_PL149-175.pdf|format=PDF|pages=p.p.149-175|accessdate=2011-07-03}}</ref><ref name="Ribaraki">{{Cite journal|和書|author=山﨑晃司・佐伯緑・竹内正彦・及川ひろみ|year=2009| title=茨城県でのアライグマの生息動向と今後の管理課題について|journal=県自然博物館研究報告|volume=12|url= http://www.nat.pref.ibaraki.jp/publish/documents/study_report/kenkyu12_light.pdf#page=43|format=PDF|pages=p.p.41-49|accessdate=2011-07-03}}</ref>。


== 形態 ==
== 形態 ==
頭胴長42-60cm、尾長20-41cm、体重4-10kg<ref name="Bjmanmal"/>。飼育下では体重が20kgに達するものもいる<ref name="Rkeika"/>。
[[体長]]約55[[センチメートル|cm]]、[[体重]]約5-8[[キログラム|kg]]、灰褐色の体毛をもち、目のまわりから頬にかけて黒い斑紋がある。[[タヌキ]]と誤認されることが多いが、タヌキとの違いとして長いふさふさとした尾には黒い横縞がある。また、[[クマ]]などと同じく、かかとをつける[[蹠行性]](しょこうせい)の歩き方をするため、[[足跡]]は人の子どもの手のような長い5本の指がくっきりとつく。この特徴は、本種と他の哺乳類とを識別する重要なポイントとなる。

灰褐色の体毛をもち、眼のまわりから頬にかけて黒い斑紋がある。[[タヌキ]]と誤認されることが多いが、タヌキとの違いとして長いふさふさとした尾には黒い横縞がある<ref name="Bfnipon">{{cite book | 和書 | author =小宮輝之 | title = フィールドベスト図鑑 日本の哺乳類 | publisher = [[学習研究社]] | date = 2002-03-29 | isbn = 4-05-401374-0}}</ref>。また、[[クマ]]などと同じく、かかとをつける[[蹠行性]](しょこうせい)という歩き方をするため、[[足跡]]は人の子どもの手のような長い5本の指がくっきりとつく<ref name="Bfnipon"/>。この特徴は、本種と他の哺乳類とを識別する重要なポイントとなる。

[[歯式]]は、3/3・1/1・4/4・2/2=40<ref name="Bbone">{{cite book | 和書 | author = 阿部永 | title = 日本産哺乳類頭骨図説 | publisher = [[北海道大学出版会]] | date = 2000-01-25 | isbn = 978-4-8329-9832-2}}</ref>。[[乳頭式]]は、1+1+1=6で、まれに8つの乳頭をもつ個体が確認される<ref name="Bemammal">{{cite book | author = S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, and T. Saitoh | title = The Wild Mammals of Japan | publisher = Shoukadoh | date = 2009-07 | isbn = 978-4-87974-626-9}}</ref>。


== 生態 ==
== 生態 ==
=== 生息地 ===
水辺近くの[[森林]]に生息する。[[夜行性]]で、昼間は他の動物が地中に掘った巣穴、木の洞、時には農家の納屋や物置等で休む。寒い地方に棲むアライグマは冬に冬ごもりを行うが、真の[[冬眠]]をするわけではない。
基本的に水辺近くの[[森林]]に生息するが、湿地、農耕地、海岸、都市環境にも適応している<ref name="Bjmanmal"/><ref name="Raiti">{{Cite journal|和書|author=揚妻-柳原芳美|year=2004| title=愛知県におけるアライグマ野生化の過程と今後の対策のあり方について |journal=哺乳類科学 |volume=44|issue=2|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/44/2/147/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.147-160|accessdate=2011-06-30}}</ref>。アメリカにおけるアライグマの都市部への生息範囲の拡大は顕著で、最初の都市部への定着報告は1920年代に始まり、[[ワシントンD.C]]・[[ニューヨーク]]・[[シカゴ]]・[[トロント]]など各地の都市に拡大している<ref name="Burban">{{cite book| author =C. E. Adams and K. J. Lindsey | title = Urban Wildlife Management Second Edition | publisher = CRC Press | date = 2010 | isbn = 978-1-4398-0460-5}}</ref>。
[[夜行性]] <ref name="Bjmanmal"/>。自分で巣を掘ることはなく、他の動物が地中に掘った巣穴、木の洞、時には農家の納屋や物置などで休む<ref name="Raiti"/>。


四肢に水掻きはないが泳ぐことが可能で、後ろ足で立つこともでき、木登りもうまく、立体的な行動をみせる<ref name="Btraces">{{cite book | 和書 | author = 門崎允昭 | title = 野生動物調査痕跡学図鑑 | publisher = [[北海道出版企画センター]] | date = 2009-10-20 | isbn = 978-4832809147}}</ref>。
前足を器用に使うことができ、木登りや泳ぎが得意である。


行動圏は基本的に直径1-3kmの範囲で、都市近郊に暮らす個体群は狭くなり、低い個体数密度では逆に拡大するといったように環境条件によって変化する<ref name="Bcoon">{{cite book | author = Samuel I. Zeveloff| title = Raccoons : A Natural History| publisher = Smithsonian Institution | date = 2002-02-17 | isbn = 978-1588340337 }}</ref><ref name="Rnopporo">{{Cite journal|和書|author=池田透・遠藤将史・村野紀雄|year=2001| title=野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏 |journal=酪農学園大学|volume=25|issue=2|url= http://clover.rakuno.ac.jp/dspace/bitstream/10659/1001/1/S-25-2-311.pdf|format=PDF|pages=p.p.311-319|accessdate=2011-07-03}}</ref>。オスの行動圏のほうが広く排他的で、その中に複数のメスの行動圏が共有している<ref name="Reniwa">{{Cite journal|和書|author=倉島治・庭瀬奈穂美|year=1998| title=北海道恵庭市に帰化したアライグマ(Procyon lotor)の行動圏とその空間配置|journal=哺乳類科学 |volume=38|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/38/1/9/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.9-22|accessdate=2011-06-30}}</ref>。
雑食性で、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[鳥類]]の[[卵]]、[[昆虫類]]、[[甲殻類]]、[[果実]]、さらに畑にある[[トウモロコシ]]等の農作物も食べる。
視覚があまりよくないため前足を水中に突っ込んで獲物を探る姿が手を洗っているように見えることから、その名がついた。「食べ物を洗ってから食べると言う習性から、アライグマと言う和名が付けられた」という説が一般化しており、実際に飼育下ではそのような行動が見られる。過去の研究では野生のアライグマは食べ物を水で洗ってから食べるような行動は一切しないと言われていたが、最近の研究で野生下でも、[[毒]]を持つ生物を食べる場合、土にこすり付けるなどして毒を洗い落とす行動が確認されている(後述)。


寒い地方に棲むアライグマは気温がマイナス4度以下になると冬ごもり(半冬眠)を行う<ref name="Reniwa"/>。これは真の[[冬眠]]とは異なるが、活動は大きく減退する<ref name="Reniwa"/>。
春には4-6頭の子供を生む。雌は1歳、雄は2歳で成熟する。


== Status ==
=== 食性 ===
雑食性で、[[両生類]]、[[爬虫類]]、[[魚類]]、[[鳥類]]([[卵]])、[[昆虫類]]、 [[甲殻類]]、その他の[[無脊椎動物]]、[[植物]](果実など)と非常に幅広い食性を示す。水生生物の中では、とくに[[ザリガニ]]類を好む<ref name="Burban"/><ref name="Bcoon"/>。具体的に捕食対象となる生物は、両生類の場合は[[サンショウウオ]]や[[カエル]]、昆虫を含む無脊椎動物の場合は[[甲虫]]、[[トンボ]]、[[バッタ]]、[[アリ]]、[[ハチ]]、[[ミミズ]]、[[カタツムリ]]などで、魚類の場合は[[ブラックバス]]、[[コイ]]、[[ナマズ]]、[[ウナギ]]、[[パイク]]、[[マス]]などが挙げられる<ref name="Bcoon"/>。爬虫類はあまり捕食しないが、まれに[[ヘビ]]や[[トカゲ]]を食べることがあり、変わったところでは[[ウミガメ]]の卵を餌とする事例もある<ref name="Bcoon"/>。海岸沿いに生息するアライグマは、[[二枚貝]]([[カキ]]や[[イガイ]])、[[エビ]]、[[カニ]]、[[ウニ]]などを食べ、[[テキサス州]]の[[メキシコ湾]]近辺では[[シオマネキ]]を主食としている<ref name="Bcoon"/>。また、人間の居住地近くでは、[[生ごみ]]を利用するアライグマもいる<ref name="Rkamakura">{{Cite journal|和書|author=矢部辰男・渋谷良文|year=2007| title=鎌倉市内の一寺院におけるアライグマの侵入防止工事と糞内容物分析|journal=ペストロジー |volume=22|issue=1|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110007328461.pdf?id=ART0009182629&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1309480221&cp=|format=PDF|pages=p.p.13-14|accessdate=2011-06-30}}</ref>。ちなみに、アライグマを罠で捕獲する際の誘引餌には、[[スナック菓子]]([[キャラメルコーン]])や[[マヨネーズ]]、[[揚げパン]]といった人間の食べ物を用いることが多い<ref name="Ribaraki"/>。
{{Least concern}}


主に器用な指を使って獲物を取る。ときには両手もしくは片手で食べ物を掴んで、そのまま二本脚で歩き持っていくこともある<ref name="Btraces"/>。
== 人間との関係 ==
アライグマはその[[毛皮]]を目的に狩られてきたという歴史がある。日本国内でもアライグマの毛皮を用いた製品は「ラクーン」と表示され、広く流通している([[タヌキ]]の場合もある)<ref>[http://www.fur.or.jp/fur/category.html 一般社団法人 日本毛皮協会]</ref>。一方で、[[ペット]]としても愛されており、マスコットキャラクターのように扱われることも多い。


視覚があまりよくないため前足を水中に突っ込んで獲物を探る姿が手を洗っているように見えることから、その名がついた<ref name="Bkng">{{cite book | 和書 | author = 多紀保彦(監修) 財団法人[[自然環境研究センター]](編著) | title = 決定版 日本の外来生物 | publisher = [[平凡社]] | date = 2008-04-21 | isbn = 978-4-582-54241-7 }}</ref>。「食べ物を洗ってから食べると言う習性から、アライグマと言う和名が付けられた」という説が一般化しており、実際に飼育下ではそのような行動が見られる。過去の研究では野生のアライグマは食べ物を水で洗ってから食べるような行動はしないと言われ、飼育個体では水の有無に関係なく食べ物をこする行動が報告されている<ref name="Rinyu">{{Cite journal|和書|author=池田透|year=2000| title=移入アライグマの管理に向けて |journal=保全生態学研究 |volume=5|url= http://ci.nii.ac.jp/els/110007643291.pdf?id=ART0009462496&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1309479131&cp=|format=PDF|pages=p.p.156-170|accessdate=2011-06-30}}</ref>。しかし、最近の研究では、野生下でも[[毒]]を持つ生物を食べる場合、土にこすり付けるなどして毒を洗い落とす行動が確認されている<ref name="Ndoku">「[http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090427-OYT1T00061.htm?from=main6 アライグマ、やっぱり洗っていた…エサを毒抜き]」 [[読売新聞|YOMIURI ONLINE]]、2009年4月27日</ref>。
=== 日本 ===
北米原産であるアライグマは日本には生息していなかったが、[[1962年]]、国内で初めての野外繁殖が[[岐阜県]][[可児市]]で確認された([[日本モンキーパーク|愛知県の動物園]]からの逃亡個体)。1970年代以降には、アニメ「[[あらいぐまラスカル]]」人気などから、[[ペット]]としてアメリカから多数の個体が輸入されるようになり盛んに飼育されるようになった。その後、成獣を飼い切れなくなった者が遺棄したり、飼い主から逃亡したりしたことがきっかけで、野生化するようになった。


=== 繁殖 ===
野生化したアライグマは天敵となる[[オオカミ]]、[[ピューマ]]などの肉食獣が日本にいなかったため、急速に生息域を広げ、40を超える都道府県で生息確認され[[北海道]]・[[東京都]]・[[千葉県]]・[[神奈川県]]・[[埼玉県]]・[[石川県]]・[[岐阜県]]・[[愛知県]]・[[京都府]]・[[和歌山県]]で繁殖が確認された。特に神奈川県[[三浦半島]]、埼玉県[[ときがわ町]]は、生息密度が高いことで知られる。
雌は1歳、雄は2歳で成熟し、2歳以上の妊娠率はほぼ100%といわれている<ref name="Bkng"/><ref name="Otebiki">{{Cite web|和書|author= [[環境省]] 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室|year=2011| title=アライグマ防除の手引き(計画的な防除の進め方|url= http://www.env.go.jp/nature/intro/4control/files/manual_racoon.pdf |format=PDF|accessdate=2011-07-10}}</ref>。繁殖期は1-3月で、妊娠期間は63-65日、春に3-6頭の子供を生む<ref name="Rkeika"/><ref name="Bcoon"/>。1度目の繁殖に失敗しても2度目の発情が存在し、その場合は夏に出産する<ref name="Reniwa"/>。一夫多妻制で、雌が子育てをする<ref name="Rkeika"/>。


[[オオカミ]]・[[オオヤマネコ]]・[[ピューマ]]・[[ワシミミズク]]などの天敵は一応存在するものの<ref name="Rinyu"/><ref name="Bosou">{{cite book | 和書 | author =池田透 | title = 外来生物が日本を襲う! | publisher = [[青春新書]] | date = 2007-02-15 | isbn = 978-4-413-04166-9}}</ref>、アライグマにとって最も脅威となる生物は人間である。[[アイオワ州]]における事例では、死因の判明しているアライグマのうち、78%が[[狩猟]]や駆除、10%が交通事故によって死亡していた<ref name="Bcoon"/>。寿命は最も長いもので野生化では13-16年、飼育下では22.5年という記録があり、幼獣の死亡率も低い<ref name="Otebiki"/>。
定着地域では作物や錦鯉等の食害が発生しており、2009年度の農業被害は全国で約2億8千万円となった。家屋(寺社が利用されることが多い)の屋根裏に侵入、ねぐらとすることによる汚損が報告されており、歴史的建造物が被害を受けるケースもある。さらには、[[カエル]]・[[カメ]]・[[サンショウウオ]]・[[ネズミ]]などの小動物類を幅広く捕食する雑食性の上に繁殖力が強いため、在来生態系に影響を与えている可能性も指摘されている。千葉県では2008年アライグマが原因と見られる食害で、減少が危惧されている[[ニホンイシガメ]]を含む、100匹以上に及ぶ在来カメ類の死体が発見された<ref>小賀野大一、小林頼太、小菅康弘、篠原栄里子、長谷川雅美「[http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/57/P3-235.html 淡水性カメ類の被食被害:房総半島における発生事例]」 [[日本生態学会]]ポスター発表、2010年3月</ref>。また、有毒である[[アカハライモリ]]・[[ニホンヒキガエル]]等の生物は洗って毒抜きをした後に捕食する様子が観察されている<ref>「[http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090427-OYT1T00061.htm?from=main6 アライグマ、やっぱり洗っていた…エサを毒抜き]」 [[読売新聞|YOMIURI ONLINE]]、2009年4月27日</ref>。


== アライグマが引き起こす問題 ==
また、懸念されている[[アライグマ回虫]]等の人畜共通感染症は、日本では感染例がなく、アライグマ回虫が寄生した野生アライグマは確認されていない(2002年10月時点)。予防のためには、アライグマ回虫卵を含む可能性のある、アライグマ等の糞で汚染された土、その他を摂取することを避けることが重要である<ref>川中正憲、杉山広、森嶋康之「[http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_42/k02_42.html アライグマ回虫による幼虫移行症]」 [[国立感染症研究所]]、2002年10月</ref>。また、アライグマは[[狂犬病]]に感染している可能性があり、注意を要する動物である。
=== 外来種問題 ===
北米原産であるアライグマは日本には生息していなかったが、国内で初めての野外繁殖が確認されたのは1960年代のことである。始まりは[[愛知県]][[犬山市]]にある[[日本モンキーパーク]]が1961年に飼育し始めたアライグマのうち12頭が翌年に脱走したことで、さらにその翌年の1963年には付近の農家から「尻尾に縞模様のあるタヌキ」の目撃情報があった<ref name="Raiti"/>。その後、しばらく経過した1977年に犬山市と隣接する[[岐阜県]][[可児市]]で住民がアライグマを捕獲し、野生化が正式に確認された<ref name="Raiti"/>。そのアライグマを捕獲した住人は、アライグマの繁殖を試み始め、1982年には30-40頭を野外へ放している<ref name="Raiti"/>。北海道でも1979年に[[恵庭市]]で飼育個体の約10頭が逃亡し、付近の酪農地帯に定着した<ref name="Rkeika"/>。


こうした飼育個体の逃亡や遺棄は他の地域でも起こっていた可能性が高い。1970年代当時は、テレビアニメ「[[あらいぐまラスカル]]」の人気などから、[[ペット]]としてアメリカから多い年では年間1500頭もの個体が輸入されるようになり盛んに飼育されていた<ref name="Raiti"/>。しかし、アライグマは手先が器用で脱走しやすい動物だったこともあり、多くの飼育個体が逃げ出したことが考えられる<ref name="Bosou"/>。また、アニメの最終回と同様に、「動物は自然の中で暮らすのが一番良い」という名目で、意図的に飼い主によって自然へ帰された個体も少なくなかったと思われる<ref name="Bosou"/>。とくに当時は一般人はもちろんのこと、学者も外来種問題に対して危機意識をあまり抱いていなかった<ref name="Bniscience">{{cite book | 和書 | title = 日経サイエンス2004年11月号 「外来動物ミニ図鑑 野に放たれたラスカルたち」| publisher = [[日経サイエンス]] |date = 2004-11-01 }}</ref>。こうして飼い切れなくなった成獣が遺棄されたり、飼い主から逃亡して野生化した個体は各地へ自然分散し、2001年には36都道府県で確認され、2008年には47都道府県でみられるようになった<ref name="Ribaraki"/><ref name="Bgfield">{{cite book | 和書 | author = 鈴木欣司 | title = 日本外来哺乳類フィールド図鑑 | publisher = [[旺文社]] | date = 2005-07-20 | isbn = 4-01-071867-6 }}</ref>。日本には天敵や競争種がおらず、繁殖力が高いため、容易に定着できたものと考えられる<ref name="Otebiki"/>。
現在、アライグマは「[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律|外来生物法]]」により特定外来生物に指定され、無許可での飼育・譲渡・販売が禁止されている(近縁な[[カニクイアライグマ]]''Procyon cancrivorus''も、日本国内の定着は確認されていないものの、特定外来生物に指定されている)。同法では人的被害や環境影響から守るため、外来種を防除できるとする。外来生物法による防除や有害駆除を含めたアライグマの捕獲数は2008年には14000頭を超えた(捕獲数が特に多いのは[[北海道]]と[[兵庫県]]で合わせて6000頭)。しかし、防除対策の実行主体である[[地方自治体]]や研究機関と、一部の[[動物愛護団体]]との間で、アライグマのこうした防除をめぐって意見の衝突が起きている。


=== 北米 ===
=== 農業等被害 ===
アライグマによって農作物([[トウモロコシ]]、[[メロン]]、[[イチゴ]]、[[スイカ]]など)や錦鯉が食べられたり、乳牛の乳首が噛み切られたりする被害が発生している<ref name="Rkadai">{{Cite journal|和書|author=池田透|year=2006| title=アライグマ対策の課題|journal=哺乳類科学 |volume=46|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/1/95/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.95-97|accessdate=2011-07-03}}</ref>。スイカでは前脚が入る程度の穴を開けて中身だけがくりぬかれたり、トウモロコシでは綺麗に皮が剥かされるなどアライグマの食害の痕は特徴的なものが多い<ref name="Otebiki"/>。2009年度の農業被害は全国で約2億8千万円となり、数年で倍増している<ref name="Otebiki"/>。市街地周辺に生息するアライグマは、家庭菜園にも被害を与える<ref name="Rkeika"/>。
原産国である[[北米]]でも、アライグマはペットとして飼育されてきた。アメリカ合衆国第30代大統領[[カルビン・クーリッジ]]の妻であるグレース・クーリッジは、レッベカという名のアライグマを可愛がっていたという逸話がある。


さらに、家屋や寺社の屋根裏への侵入、ねぐらとして利用することによる汚損が報告されており、歴史的建造物が被害を受けるケースもある<ref name="Rkamakura"/>。
アライグマは[[都市]]部にも生息範囲を広げており、最初の都市部への定着報告は1920年代に始まり、[[ワシントンD.C]]・[[ニューヨーク]]・[[シカゴ]]・[[トロント]]など各地の都市に拡大している。都市のアライグマは住宅の庭に植えられている[[果物]]や[[野菜]]、昆虫などを食べるほか、ごみを漁るなどして暮らしている。時に、ペットの[[イヌ]]や[[ネコ]]を襲う事例も報告されている。


アメリカでもアライグマによる農作物への被害は、[[シカ]]に次いで深刻な問題になっている<ref name="Rcrop">{{Cite journal|author=J. C. Beasley and O. E. Rhodes Jr |year=2008| title=Relationship between raccoon abundance and crop damage |journal=Human-Wildlife Conflicts |volume=2|issue=2|url= http://digitalcommons.unl.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1039&context=hwi&sei-redir=1#search=%22Raccoon%20damage%22|format=PDF|pages=p.p.248-259|accessdate=2011-07-11}}</ref>。
== アライグマの仲間 ==

アライグマ属 ( ''Procyon'' ) には全6種が属している。
=== 生態系への影響 ===
さまざまな動植物を幅広く捕食する雑食性のうえに繁殖力が強いため、在来[[生態系]]に影響を与えている可能性が指摘されている。北海道の[[野幌森林公園]]では、アライグマが原因で[[アオサギ]]のコロニーが営巣を放棄する事態が発生している<ref name="Rkeika"/><ref name="Rnopporo"/>。また、[[フクロウ]]類の巣の略奪も起きている<ref name="Rkadai"/>。[[キツネ]]や[[タヌキ]]などの在来哺乳類との競争も問題である<ref name="Rkeika"/><ref name="Rkadai"/>。千葉県では2008年にアライグマが原因と見られる食害で、減少が危惧されている[[ニホンイシガメ]]を含む、100匹以上に及ぶ在来カメ類の死体が発見された<ref>小賀野大一・小林頼太・小菅康弘・篠原栄里子・長谷川雅美「[http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/57/P3-235.html 淡水性カメ類の被食被害:房総半島における発生事例]」 [[日本生態学会]]ポスター発表、2010年3月</ref>。また、有毒である[[アカハライモリ]]・[[ニホンヒキガエル]]などの生物を洗って毒抜きした後に捕食する様子が観察されている<ref name="Ndoku"/>。

アメリカのある海岸では、砂浜に産卵されたウミガメの卵の16-87%が捕食され、ウミガメの生存が脅かされている<ref name="Bcoon"/>。

=== 感染症 ===
アライグマは[[アライグマ回虫]]、[[狂犬病]]、[[レプトスピラ症]]などの人畜共通感染症をもっており、注意を要する動物である<ref name="Rkadai"/><ref name="Rinyu"/>。アライグマ回虫は極めて危険な寄生虫であり、アメリカでは人間(幼児)の死亡例がある<ref name="Bghb">{{cite book | 和書 | author = 村上興正・鷲谷いづみ(監修) [[日本生態学会]](編著) | title = 外来種ハンドブック | publisher = [[地人書館]] | date = 2002-09-30 | isbn = 4-8052-0706-X }}</ref>。今のところ日本では感染例がなく、アライグマ回虫が寄生した野生アライグマは確認されていないが、国内の動物園で飼育されている個体の約40%に寄生していたという調査結果がでている<ref name="Bghb"/>。予防のためには、アライグマ回虫卵を含む可能性のあるアライグマの糞で汚染された土などの摂取を避けることが重要である<ref>川中正憲・杉山広・森嶋康之「[http://idsc.nih.go.jp/idwr/kansen/k02_g2/k02_42/k02_42.html アライグマ回虫による幼虫移行症]」 [[国立感染症研究所]]、2002年10月</ref>。

アライグマが人間を好んで襲うことはないが、突発的な遭遇による咬傷被害は報告されている<ref name="Rkeika"/>。アメリカでは、ペットの[[イヌ]]や[[ネコ]]が襲われる事例が報告されており、なかには狩猟犬が逆にアライグマに殺されるという話もある<ref name="Rinyu"/>。アライグマへの餌付けは、こうした感染症や物理的傷害を誘発させる危険な行為となりうる<ref name="Bgfield"/>。

== 対策 ==
日本ではアライグマによる問題が深刻になるにつれ、早急な対策を求める声が強くなってきた。そのなか、[[日本哺乳類学会]]では、アライグマ・[[ノヤギ]]・[[ジャワマングース]]の3種の外来種の駆除を求める緊急の大会決議を1998年に採択した<ref name="Rketugi">{{Cite journal|和書|author=哺乳類保護管理専門委員会|year=1999| title=移入哺乳類への緊急対策に関する大会決議|journal=哺乳類科学 |volume=39|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/39/1/115/_pdf/-char/ja/ |format=PDF|pages=p.p.115-129|accessdate=2011-07-10}}</ref>。加えて[[日本生態学会]]は[[日本の侵略的外来種ワースト100]]のひとつに本種を選定した。そして、2005年に [[外来生物法]]が施行されると同時に、[[特定外来生物]]に一次指定され、防除に向けた活動が本格化した。国内の現状ではアライグマは外来種であり、よって根絶が最終的な目標となるため、駆除が解決手法として選択されることが多い<ref name="Otebiki"/>。一方で、日本ではアライグマは1994年度に狩猟獣に指定されたものの、夜行性であるなどの条件から狩猟されることが少ない<ref name="Rketugi"/>。そのため、外来生物法に基づいた箱わなによる有害駆除の捕獲が主となっている<ref name="Bjmanmal"/><ref name="Otebiki"/>。近年は、錯誤捕獲を防ぐためにエッグトラップという新しい罠も開発されている<ref name="Regg">{{Cite journal|和書|author=阿部豪・青柳正英・的場洋平・佐鹿万里子・車田利夫・高野恭子・池田透・立澤史郎|year=2006| title=北海道におけるアライグマ捕獲のためのEgg Trapの有効性と混獲防止効果の検証|journal=哺乳類科学 |volume=46|issue=2|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/46/2/169/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.169-175|accessdate=2011-07-03}}</ref>。捕獲された個体は、[[動物福祉]]に配慮して薬殺や二酸化炭素吸入によって安楽殺しなければならないことになっている<ref name="Otebiki"/>。外来生物法による防除や有害駆除を含めたアライグマの捕獲数は2008年には14000頭を超えた(捕獲数が特に多いのは[[北海道]]と[[兵庫県]]で合わせて6000頭)<ref name="Otebiki"/>。やみくもな駆除を行わないためにも、科学的なモニタリングと効果の検証が求められている<ref name="Rkadai"/>。

原産地のアメリカでもアライグマの引き起こす問題に対して、さまざまな対策手法が実行されており、[[電気柵]]によって農作物や野生生物をアライグマから保護したり、同時に個体数を削減するための駆除も進められている<ref name="Bcoon"/>。

=== 駆除をめぐる論争 ===
国内の各地で駆除が実行されるなか、駆除を進める[[地方自治体]]や研究機関と、一部の[[動物愛護団体]]との間で、アライグマの扱い方をめぐって意見の衝突が起きることがある<ref name="Bkng"/>。場合によっては、駆除に取り組む自治体に対して愛護団体から抗議の電話が殺到することもある<ref name="Rseimei">{{Cite journal|和書|author=池田透・村上興正|year=1998| title= 移入哺乳類問題に対する学会声明に向けて(野生化動物問題ネットワーク第4回研究会,野生生物の保護に関する法体制検討会)|journal=哺乳類科学 |volume=38|issue=1|url= http://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/38/1/204/_pdf/-char/ja/|format=PDF|pages=p.p.204-208|accessdate=2011-07-09}}</ref>。こうした駆除への反対意見は被害を直接経験していない都市部の人間が主張する傾向があるといわれている<ref name="Rseimei"/>。

動物愛護の立場から求められる人道的な解決策のひとつとして、別の地域へ放獣する、もしくは保護施設で預かるという案がある<ref name="Rseimei"/>。一方で、この手法はただ単に問題を別の場所に移動させただけであり、不適切であるとの指摘もある<ref name="Bkyoui">{{cite book | 和書 | author = [[種生物学会]] | title = 外来生物の生態学 進化する脅威とその対策 | publisher = [[文一総合出版]] | date = 2010-03-31 | isbn = 978-4-8299-1080-1}}</ref>。また、他地域へ病気を伝播させてしまう危険性もあり、実際にアメリカでは狂犬病を拡大させてしまっている<ref name="Bcoon"/>。同様に、これらの問題点に加えて[[遺伝子汚染]]の観点から、日本の外来種であるアライグマを原産地のアメリカに移送して帰すという方策も基本的に不可能である<ref name="Rkeika"/>。放獣以外の方法として、避妊によって繁殖を抑制する手段も主張されることがあるが、その有効性やコスト、リスクについて評価した研究は少ない<ref name="Bcoon"/><ref name="Rseimei"/>。

== 名称 ==
英名 raccoon は、インディアン語 Ah-ra-koon-em の「手でこするもの」という意味が語源となっている<ref name="Rkeika"/>。ちなみに、アライグマに姿が似た動物であるタヌキの英名は raccoon dog である。

[[学名]]の属名 ''Procyon'' は「イヌの前」、種小名 ''lotor'' は「洗うもの」を意味する<ref name="Bcoon"/>。属名の由来は、アライグマがイヌの祖先であると考えられていたためといわれる<ref name="Bcoon"/>。

== 人間との関わり ==
[[File:Coonskin cap.JPG|thumb|right |アライグマ皮の帽子、通称「クロケット帽」]]
アライグマは、アメリカでは国民的な動物として昔から広く愛され、さまざまな文化や作品にも関係している<ref name="Bcoon"/>。日本でもペットや毛皮動物として、そして今では外来種の代表格として良く知られている。

=== ペット ===
アライグマはその可愛らしい風貌から[[ペット]]として人気が高かった。原産地であるアメリカでもペットとして飼育されており、例えば、アメリカ合衆国第30代大統領[[カルビン・クーリッジ]]の妻であるグレース・クーリッジは、レッベカという名のアライグマを可愛がっていたという逸話がある<ref name="Burban"/>。ペットとまでいかなくても、自宅の庭先に現れる野生のアライグマに餌を毎日与えて、ペット同然に扱う人もいる<ref name="Burban"/>。

一方で、アライグマは幼少期においては人に懐くが、成獣(特に発情期)になると気性が荒くなり、一般人がペットとして飼育するのはかなり難しい動物である<ref name="Rkeika"/><ref name="Rkadai"/>。手先が器用ということもあり、簡易的な飼育設備ではすぐに脱走してしまう<ref name="Rkadai"/>。

現在の日本では、アライグマは[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律|外来生物法]]により特定外来生物に指定されているため、'''無許可での飼育・譲渡・販売は禁止'''されている。

=== 毛皮 ===
アライグマは[[毛皮]]動物として狩られてきたという歴史があり、アライグマの毛皮を用いたさまざまな商品がこれまで数多く販売されている。

アメリカの国民的英雄である[[デイヴィッド・クロケット]]を題材にしたテレビドラマが1950年代に放映された際、彼の愛用していたアライグマの毛皮から作られたスキン・キャップ(皮の帽子)が、当時のアメリカの子どもたちのあいだで大ヒットした<ref name="Bcoon"/>。この流行によって、多くのアライグマが狩猟され、一時的に数を減らしてしまうまでに至った<ref name="Bcoon"/>。

日本国内でもアライグマの毛皮を用いた製品は「ラクーン」と表示され、広く流通している(ただし、[[タヌキ]]の場合もある)<ref>[http://www.fur.or.jp/fur/category.html 一般社団法人 日本毛皮協会]</ref>。

=== その他 ===
アライグマは、「[[あらいぐまラスカル]]」や「[[ポカホンタス (映画)|ポカホンタス]]」などの[[アニメーション]]作品にも登場する。

== 分類 ==
=== 亜種 ===
アライグマの[[亜種]]については諸説あり、25の亜種に分けることがある<ref name="Bcoon"/>。
* ''Procyon lotor lotor'' アメリカ北東部とカナダ南東部([[ノバスコシア州]]、[[ニューブランズウィック州]]など)に分布。
* ''Procyon lotor maritimus'' [[デルマーバ半島]]に分布。
* ''Procyon lotor solutus''
* ''Procyon lotor litoreus'' [[ジョージア州]]の沿岸地域と島々に分布。
* ''Procyon lotor elucus'' 主に[[フロリダ半島]]に分布。
* ''Procyon lotor inesperatus'' [[キー (島) |キー諸島]]に分布。
* ''Procyon lotor auspicatus'' [[キー (島) |キー諸島]]に分布。
* ''Procyon lotor incautus'' [[キー (島) |キー諸島]]に分布。
* ''Procyon lotor marinus''
* ''Procyon lotor varius'' [[テネシー州]]、[[ミシシッピ州]]、[[アラバマ州]]に分布。
* ''Procyon lotor megalodous'' [[ルイジアナ州]]の沿岸地域に分布。
* ''Procyon lotor birtus'' アメリカ中央部とカナダの一部の州に分布。最も分布域の広い亜種。
* ''Procyon lotor excelsus'' アメリカ西部の[[スネーク川]]周辺に分布。
* ''Procyon lotor pacificus'' [[ワシントン州]]、[[オレゴン州]]などに分布。
* ''Procyon lotor vancouverensis'' [[バンクーバー島]]に分布。
* ''Procyon lotor psora''
* ''Procyon lotor grinnelli''
* ''Procyon lotor pallidus'' [[コロラド州]]、[[アリゾナ州]]南央部などに分布。
* ''Procyon lotor mexicanus'' アメリカの[[ニューメキシコ州]]とメキシコの一部([[チワワ州]]など)に分布。
* ''Procyon lotor fuscipes'' アメリカの[[テキサス州]]とメキシコ北東部([[コアウイラ州]]など)に分布。
* ''Procyon lotor bernandezii''
* ''Procyon lotor sbufeldti'' [[テワンテペク地峡]]、[[ベリーズ]]、[[グアテマラ]]、[[ホンジュラス]]西部に分布。
* ''Procyon lotor dickevi'' [[エルサルバドル]]南西部の沿岸地域に分布。
* ''Procyon lotor crassidens''
* ''Procyon lotor pumilus'' [[パナマ]]西部に分布。

=== 近縁種 ===
アライグマ属 (''Procyon'') には全6種が属している。
* アライグマ ''Procyon lotor''
* アライグマ ''Procyon lotor''
* [[トレマリアアライグマ]] ''Procyon insularis''
* [[トレマリアアライグマ]] ''Procyon insularis''
66行目: 156行目:
* [[コズメルアライグマ]] ''Procyon pygmaeus''
* [[コズメルアライグマ]] ''Procyon pygmaeus''
* [[グアドループアライグマ]] ''Procyon minor''
* [[グアドループアライグマ]] ''Procyon minor''

== 脚注 ==
<div class="references-small"><references /></div>


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<div class="references-small">{{Reflist|2}}</div>
*『[[日経サイエンス]] 2004年11月号』 P18~20「外来動物ミニ図鑑 野に放たれたラスカルたち」
* {{cite book | 和書 | publisher = [[環境省]]自然環境局 野生生物課 外来生物対策室 | title = アライグマ防除の手引き(計画的な防除の進め方)| date = 2011-03 }}
* {{cite book | 和書 | author = 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著) | title = 決定版 日本の外来生物 | publisher = 平凡社 | date = 2008-04-21 | isbn = 978-4-582-54241-7 }}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
83行目: 168行目:
{{Commons|Procyon lotor}}
{{Commons|Procyon lotor}}
{{Wikispecies|Procyon_lotor}}
{{Wikispecies|Procyon_lotor}}
* [http://www.pref.kyoto.jp/gairai/data/d01_03.html 京都府外来生物データ(アライグマ][[京都府]] 外来生物情報
* [http://www.env.go.jp/nature/intro/4control/files/manual_racoon.pdf アライグマ防除の手引き] [[環境省]] 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室
* [http://www.city.kobe.lg.jp/information/project/industry/raccoon/index.html アライグマ被害対策について]:[[神戸市]]アライグマ被害対策について
* [http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/ryokusei/ysi/racoonriv.pdf アライグマによる被害を防ぐために]:[[神奈川県]]アライグマ被害対策についてと情報提供の呼びかけ


[[Category:食肉目|あらいくま]]
[[Category:食肉目|あらいくま]]
[[Category:日本の外来種|あらいくま]]
[[Category:特定外来生物|あらいくま]]
[[Category:特定外来生物|あらいくま]]
[[Category:Least concern|あらいくま]]
[[Category:Least concern|あらいくま]]

2011年7月19日 (火) 23:44時点における版

アライグマ
アライグマ Procyon lotor
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
: 食肉目 Carnivora
亜目 : イヌ亜目 Caniformia
下目 : クマ下目 Arctoidea
小目 : イタチ小目 Mustelida
: アライグマ科 Procyonidae
亜科 : アライグマ亜科 Procyoninae
: アライグマ属 Procyon
: アライグマ P. lotor
学名
Procyon lotor
(Linnaeus, 1758)
シノニム

Ursus lotor Linnaeus, 1758

和名
アライグマ
英名
Common raccoon
足跡

アライグマ(洗熊、浣熊、Procyon lotor)は、哺乳綱食肉目アライグマ科アライグマ属に分類される哺乳類。アライグマ属の模式種。北アメリカ原産で、日本にはもともと分布していない外来種

分布

アメリカ合衆国カナダ南部、メキシコを原産地とする[2]

日本では海外からの移入により広い地域に定着する。また、ドイツフランスなどのヨーロッパ諸国、旧ソビエト連邦ベラルーシアゼルバイジャン西インド諸島といった国々にも外来種として定着している[3][4]

形態

頭胴長42-60cm、尾長20-41cm、体重4-10kg[2]。飼育下では体重が20kgに達するものもいる[3]

灰褐色の体毛をもち、眼のまわりから頬にかけて黒い斑紋がある。タヌキと誤認されることが多いが、タヌキとの違いとして長いふさふさとした尾には黒い横縞がある[5]。また、クマなどと同じく、かかとをつける蹠行性(しょこうせい)という歩き方をするため、足跡は人の子どもの手のような長い5本の指がくっきりとつく[5]。この特徴は、本種と他の哺乳類とを識別する重要なポイントとなる。

歯式は、3/3・1/1・4/4・2/2=40[6]乳頭式は、1+1+1=6で、まれに8つの乳頭をもつ個体が確認される[7]

生態

生息地

基本的に水辺近くの森林に生息するが、湿地、農耕地、海岸、都市環境にも適応している[2][8]。アメリカにおけるアライグマの都市部への生息範囲の拡大は顕著で、最初の都市部への定着報告は1920年代に始まり、ワシントンD.Cニューヨークシカゴトロントなど各地の都市に拡大している[9]

夜行性 [2]。自分で巣を掘ることはなく、他の動物が地中に掘った巣穴、木の洞、時には農家の納屋や物置などで休む[8]

四肢に水掻きはないが泳ぐことが可能で、後ろ足で立つこともでき、木登りもうまく、立体的な行動をみせる[10]

行動圏は基本的に直径1-3kmの範囲で、都市近郊に暮らす個体群は狭くなり、低い個体数密度では逆に拡大するといったように環境条件によって変化する[11][12]。オスの行動圏のほうが広く排他的で、その中に複数のメスの行動圏が共有している[13]

寒い地方に棲むアライグマは気温がマイナス4度以下になると冬ごもり(半冬眠)を行う[13]。これは真の冬眠とは異なるが、活動は大きく減退する[13]

食性

雑食性で、両生類爬虫類魚類鳥類)、昆虫類甲殻類、その他の無脊椎動物植物(果実など)と非常に幅広い食性を示す。水生生物の中では、とくにザリガニ類を好む[9][11]。具体的に捕食対象となる生物は、両生類の場合はサンショウウオカエル、昆虫を含む無脊椎動物の場合は甲虫トンボバッタアリハチミミズカタツムリなどで、魚類の場合はブラックバスコイナマズウナギパイクマスなどが挙げられる[11]。爬虫類はあまり捕食しないが、まれにヘビトカゲを食べることがあり、変わったところではウミガメの卵を餌とする事例もある[11]。海岸沿いに生息するアライグマは、二枚貝カキイガイ)、エビカニウニなどを食べ、テキサス州メキシコ湾近辺ではシオマネキを主食としている[11]。また、人間の居住地近くでは、生ごみを利用するアライグマもいる[14]。ちなみに、アライグマを罠で捕獲する際の誘引餌には、スナック菓子キャラメルコーン)やマヨネーズ揚げパンといった人間の食べ物を用いることが多い[4]

主に器用な指を使って獲物を取る。ときには両手もしくは片手で食べ物を掴んで、そのまま二本脚で歩き持っていくこともある[10]

視覚があまりよくないため前足を水中に突っ込んで獲物を探る姿が手を洗っているように見えることから、その名がついた[15]。「食べ物を洗ってから食べると言う習性から、アライグマと言う和名が付けられた」という説が一般化しており、実際に飼育下ではそのような行動が見られる。過去の研究では野生のアライグマは食べ物を水で洗ってから食べるような行動はしないと言われ、飼育個体では水の有無に関係なく食べ物をこする行動が報告されている[16]。しかし、最近の研究では、野生下でもを持つ生物を食べる場合、土にこすり付けるなどして毒を洗い落とす行動が確認されている[17]

繁殖

雌は1歳、雄は2歳で成熟し、2歳以上の妊娠率はほぼ100%といわれている[15][18]。繁殖期は1-3月で、妊娠期間は63-65日、春に3-6頭の子供を生む[3][11]。1度目の繁殖に失敗しても2度目の発情が存在し、その場合は夏に出産する[13]。一夫多妻制で、雌が子育てをする[3]

オオカミオオヤマネコピューマワシミミズクなどの天敵は一応存在するものの[16][19]、アライグマにとって最も脅威となる生物は人間である。アイオワ州における事例では、死因の判明しているアライグマのうち、78%が狩猟や駆除、10%が交通事故によって死亡していた[11]。寿命は最も長いもので野生化では13-16年、飼育下では22.5年という記録があり、幼獣の死亡率も低い[18]

アライグマが引き起こす問題

外来種問題

北米原産であるアライグマは日本には生息していなかったが、国内で初めての野外繁殖が確認されたのは1960年代のことである。始まりは愛知県犬山市にある日本モンキーパークが1961年に飼育し始めたアライグマのうち12頭が翌年に脱走したことで、さらにその翌年の1963年には付近の農家から「尻尾に縞模様のあるタヌキ」の目撃情報があった[8]。その後、しばらく経過した1977年に犬山市と隣接する岐阜県可児市で住民がアライグマを捕獲し、野生化が正式に確認された[8]。そのアライグマを捕獲した住人は、アライグマの繁殖を試み始め、1982年には30-40頭を野外へ放している[8]。北海道でも1979年に恵庭市で飼育個体の約10頭が逃亡し、付近の酪農地帯に定着した[3]

こうした飼育個体の逃亡や遺棄は他の地域でも起こっていた可能性が高い。1970年代当時は、テレビアニメ「あらいぐまラスカル」の人気などから、ペットとしてアメリカから多い年では年間1500頭もの個体が輸入されるようになり盛んに飼育されていた[8]。しかし、アライグマは手先が器用で脱走しやすい動物だったこともあり、多くの飼育個体が逃げ出したことが考えられる[19]。また、アニメの最終回と同様に、「動物は自然の中で暮らすのが一番良い」という名目で、意図的に飼い主によって自然へ帰された個体も少なくなかったと思われる[19]。とくに当時は一般人はもちろんのこと、学者も外来種問題に対して危機意識をあまり抱いていなかった[20]。こうして飼い切れなくなった成獣が遺棄されたり、飼い主から逃亡して野生化した個体は各地へ自然分散し、2001年には36都道府県で確認され、2008年には47都道府県でみられるようになった[4][21]。日本には天敵や競争種がおらず、繁殖力が高いため、容易に定着できたものと考えられる[18]

農業等被害

アライグマによって農作物(トウモロコシメロンイチゴスイカなど)や錦鯉が食べられたり、乳牛の乳首が噛み切られたりする被害が発生している[22]。スイカでは前脚が入る程度の穴を開けて中身だけがくりぬかれたり、トウモロコシでは綺麗に皮が剥かされるなどアライグマの食害の痕は特徴的なものが多い[18]。2009年度の農業被害は全国で約2億8千万円となり、数年で倍増している[18]。市街地周辺に生息するアライグマは、家庭菜園にも被害を与える[3]

さらに、家屋や寺社の屋根裏への侵入、ねぐらとして利用することによる汚損が報告されており、歴史的建造物が被害を受けるケースもある[14]

アメリカでもアライグマによる農作物への被害は、シカに次いで深刻な問題になっている[23]

生態系への影響

さまざまな動植物を幅広く捕食する雑食性のうえに繁殖力が強いため、在来生態系に影響を与えている可能性が指摘されている。北海道の野幌森林公園では、アライグマが原因でアオサギのコロニーが営巣を放棄する事態が発生している[3][12]。また、フクロウ類の巣の略奪も起きている[22]キツネタヌキなどの在来哺乳類との競争も問題である[3][22]。千葉県では2008年にアライグマが原因と見られる食害で、減少が危惧されているニホンイシガメを含む、100匹以上に及ぶ在来カメ類の死体が発見された[24]。また、有毒であるアカハライモリニホンヒキガエルなどの生物を洗って毒抜きした後に捕食する様子が観察されている[17]

アメリカのある海岸では、砂浜に産卵されたウミガメの卵の16-87%が捕食され、ウミガメの生存が脅かされている[11]

感染症

アライグマはアライグマ回虫狂犬病レプトスピラ症などの人畜共通感染症をもっており、注意を要する動物である[22][16]。アライグマ回虫は極めて危険な寄生虫であり、アメリカでは人間(幼児)の死亡例がある[25]。今のところ日本では感染例がなく、アライグマ回虫が寄生した野生アライグマは確認されていないが、国内の動物園で飼育されている個体の約40%に寄生していたという調査結果がでている[25]。予防のためには、アライグマ回虫卵を含む可能性のあるアライグマの糞で汚染された土などの摂取を避けることが重要である[26]

アライグマが人間を好んで襲うことはないが、突発的な遭遇による咬傷被害は報告されている[3]。アメリカでは、ペットのイヌネコが襲われる事例が報告されており、なかには狩猟犬が逆にアライグマに殺されるという話もある[16]。アライグマへの餌付けは、こうした感染症や物理的傷害を誘発させる危険な行為となりうる[21]

対策

日本ではアライグマによる問題が深刻になるにつれ、早急な対策を求める声が強くなってきた。そのなか、日本哺乳類学会では、アライグマ・ノヤギジャワマングースの3種の外来種の駆除を求める緊急の大会決議を1998年に採択した[27]。加えて日本生態学会日本の侵略的外来種ワースト100のひとつに本種を選定した。そして、2005年に 外来生物法が施行されると同時に、特定外来生物に一次指定され、防除に向けた活動が本格化した。国内の現状ではアライグマは外来種であり、よって根絶が最終的な目標となるため、駆除が解決手法として選択されることが多い[18]。一方で、日本ではアライグマは1994年度に狩猟獣に指定されたものの、夜行性であるなどの条件から狩猟されることが少ない[27]。そのため、外来生物法に基づいた箱わなによる有害駆除の捕獲が主となっている[2][18]。近年は、錯誤捕獲を防ぐためにエッグトラップという新しい罠も開発されている[28]。捕獲された個体は、動物福祉に配慮して薬殺や二酸化炭素吸入によって安楽殺しなければならないことになっている[18]。外来生物法による防除や有害駆除を含めたアライグマの捕獲数は2008年には14000頭を超えた(捕獲数が特に多いのは北海道兵庫県で合わせて6000頭)[18]。やみくもな駆除を行わないためにも、科学的なモニタリングと効果の検証が求められている[22]

原産地のアメリカでもアライグマの引き起こす問題に対して、さまざまな対策手法が実行されており、電気柵によって農作物や野生生物をアライグマから保護したり、同時に個体数を削減するための駆除も進められている[11]

駆除をめぐる論争

国内の各地で駆除が実行されるなか、駆除を進める地方自治体や研究機関と、一部の動物愛護団体との間で、アライグマの扱い方をめぐって意見の衝突が起きることがある[15]。場合によっては、駆除に取り組む自治体に対して愛護団体から抗議の電話が殺到することもある[29]。こうした駆除への反対意見は被害を直接経験していない都市部の人間が主張する傾向があるといわれている[29]

動物愛護の立場から求められる人道的な解決策のひとつとして、別の地域へ放獣する、もしくは保護施設で預かるという案がある[29]。一方で、この手法はただ単に問題を別の場所に移動させただけであり、不適切であるとの指摘もある[30]。また、他地域へ病気を伝播させてしまう危険性もあり、実際にアメリカでは狂犬病を拡大させてしまっている[11]。同様に、これらの問題点に加えて遺伝子汚染の観点から、日本の外来種であるアライグマを原産地のアメリカに移送して帰すという方策も基本的に不可能である[3]。放獣以外の方法として、避妊によって繁殖を抑制する手段も主張されることがあるが、その有効性やコスト、リスクについて評価した研究は少ない[11][29]

名称

英名 raccoon は、インディアン語 Ah-ra-koon-em の「手でこするもの」という意味が語源となっている[3]。ちなみに、アライグマに姿が似た動物であるタヌキの英名は raccoon dog である。

学名の属名 Procyon は「イヌの前」、種小名 lotor は「洗うもの」を意味する[11]。属名の由来は、アライグマがイヌの祖先であると考えられていたためといわれる[11]

人間との関わり

ファイル:Coonskin cap.JPG
アライグマ皮の帽子、通称「クロケット帽」

アライグマは、アメリカでは国民的な動物として昔から広く愛され、さまざまな文化や作品にも関係している[11]。日本でもペットや毛皮動物として、そして今では外来種の代表格として良く知られている。

ペット

アライグマはその可愛らしい風貌からペットとして人気が高かった。原産地であるアメリカでもペットとして飼育されており、例えば、アメリカ合衆国第30代大統領カルビン・クーリッジの妻であるグレース・クーリッジは、レッベカという名のアライグマを可愛がっていたという逸話がある[9]。ペットとまでいかなくても、自宅の庭先に現れる野生のアライグマに餌を毎日与えて、ペット同然に扱う人もいる[9]

一方で、アライグマは幼少期においては人に懐くが、成獣(特に発情期)になると気性が荒くなり、一般人がペットとして飼育するのはかなり難しい動物である[3][22]。手先が器用ということもあり、簡易的な飼育設備ではすぐに脱走してしまう[22]

現在の日本では、アライグマは外来生物法により特定外来生物に指定されているため、無許可での飼育・譲渡・販売は禁止されている。

毛皮

アライグマは毛皮動物として狩られてきたという歴史があり、アライグマの毛皮を用いたさまざまな商品がこれまで数多く販売されている。

アメリカの国民的英雄であるデイヴィッド・クロケットを題材にしたテレビドラマが1950年代に放映された際、彼の愛用していたアライグマの毛皮から作られたスキン・キャップ(皮の帽子)が、当時のアメリカの子どもたちのあいだで大ヒットした[11]。この流行によって、多くのアライグマが狩猟され、一時的に数を減らしてしまうまでに至った[11]

日本国内でもアライグマの毛皮を用いた製品は「ラクーン」と表示され、広く流通している(ただし、タヌキの場合もある)[31]

その他

アライグマは、「あらいぐまラスカル」や「ポカホンタス」などのアニメーション作品にも登場する。

分類

亜種

アライグマの亜種については諸説あり、25の亜種に分けることがある[11]

近縁種

アライグマ属 (Procyon) には全6種が属している。

参考文献

  1. ^ Timm, R., Cuarón, A.D., Reid, F. & Helgen, K. (2008). "Procyon lotor". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2008. International Union for Conservation of Nature. 2009年3月22日閲覧 Database entry includes a brief justification of why this species is of least concern
  2. ^ a b c d e 阿部永・石井信夫・伊藤徹魯・金子之史・前田喜四雄・三浦慎悟・米田政明『日本の哺乳類 改訂版』東海大学出版会、2005年7月20日。ISBN 4-486-01690-4 
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 池田透「北海道における移入アライグマ問題の経過と課題」(PDF)『北海道大學文學部紀要』第47巻第4号、1999年、p.p.149-175、2011年7月3日閲覧 
  4. ^ a b c 山﨑晃司・佐伯緑・竹内正彦・及川ひろみ「茨城県でのアライグマの生息動向と今後の管理課題について」(PDF)『県自然博物館研究報告』第12巻、2009年、p.p.41-49、2011年7月3日閲覧 
  5. ^ a b 小宮輝之『フィールドベスト図鑑 日本の哺乳類』学習研究社、2002年3月29日。ISBN 4-05-401374-0 
  6. ^ 阿部永『日本産哺乳類頭骨図説』北海道大学出版会、2000年1月25日。ISBN 978-4-8329-9832-2 
  7. ^ S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, and T. Saitoh (2009-07). The Wild Mammals of Japan. Shoukadoh. ISBN 978-4-87974-626-9 
  8. ^ a b c d e f 揚妻-柳原芳美「愛知県におけるアライグマ野生化の過程と今後の対策のあり方について」(PDF)『哺乳類科学』第44巻第2号、2004年、p.p.147-160、2011年6月30日閲覧 
  9. ^ a b c d C. E. Adams and K. J. Lindsey (2010). Urban Wildlife Management Second Edition. CRC Press. ISBN 978-1-4398-0460-5 
  10. ^ a b 門崎允昭『野生動物調査痕跡学図鑑』北海道出版企画センター、2009年10月20日。ISBN 978-4832809147 
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q Samuel I. Zeveloff (2002-02-17). Raccoons : A Natural History. Smithsonian Institution. ISBN 978-1588340337 
  12. ^ a b 池田透・遠藤将史・村野紀雄「野幌森林公園地域におけるアライグマの行動圏」(PDF)『酪農学園大学』第25巻第2号、2001年、p.p.311-319、2011年7月3日閲覧 
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  15. ^ a b c 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7 
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  19. ^ a b c 池田透『外来生物が日本を襲う!』青春新書、2007年2月15日。ISBN 978-4-413-04166-9 
  20. ^ 『日経サイエンス2004年11月号 「外来動物ミニ図鑑 野に放たれたラスカルたち」』日経サイエンス、2004年11月1日。 
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  24. ^ 小賀野大一・小林頼太・小菅康弘・篠原栄里子・長谷川雅美「淡水性カメ類の被食被害:房総半島における発生事例日本生態学会ポスター発表、2010年3月
  25. ^ a b 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X 
  26. ^ 川中正憲・杉山広・森嶋康之「アライグマ回虫による幼虫移行症」 国立感染症研究所、2002年10月
  27. ^ a b 哺乳類保護管理専門委員会「移入哺乳類への緊急対策に関する大会決議」(PDF)『哺乳類科学』第39巻第1号、1999年、p.p.115-129、2011年7月10日閲覧 
  28. ^ 阿部豪・青柳正英・的場洋平・佐鹿万里子・車田利夫・高野恭子・池田透・立澤史郎「北海道におけるアライグマ捕獲のためのEgg Trapの有効性と混獲防止効果の検証」(PDF)『哺乳類科学』第46巻第2号、2006年、p.p.169-175、2011年7月3日閲覧 
  29. ^ a b c d 池田透・村上興正「移入哺乳類問題に対する学会声明に向けて(野生化動物問題ネットワーク第4回研究会,野生生物の保護に関する法体制検討会)」(PDF)『哺乳類科学』第38巻第1号、1998年、p.p.204-208、2011年7月9日閲覧 
  30. ^ 種生物学会『外来生物の生態学 進化する脅威とその対策』文一総合出版、2010年3月31日。ISBN 978-4-8299-1080-1 
  31. ^ 一般社団法人 日本毛皮協会

関連項目

外部リンク

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