捩れテンソル

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測地線に沿った捩れ

微分幾何学では、捩れ(torsion)とは、曲線に関する動標構英語版(moving frame)のツイストや捩れ方を特徴づける方法のことをいう。曲線の捩れ(torsion of a curve)は、たとえばフレネ・セレの公式に現れるように、曲線の捩れ具合を、曲線の発展として接ベクトルについての量(むしろ、フレネ・セレの標構の接ベクトルについての回転)として測る。曲面の幾何学では、測地線の捩れ(geodesic torsion)は、どのように曲面がその上の曲線について捩れているかを記述する。曲率の考えは、どのくらい動標構が捩れることなく曲線に沿って「回っている」かを測る。

さらに一般的には、アフィン接続(つまり、接バンドル上の接続英語版(connection)のこと)をもつ微分可能多様体上では、捩れ形式や曲率形式は、接続の基本不変量である。この脈絡では、曲線に沿って平行移動英語版(parallel transport)すると、接空間がどのくらい捩れるかを本質的に特徴つける量が捩れである。一方、曲率はどれくらい接空間が曲線にそって回るかを記述するようである。捩れは具体的にテンソル、多様体上のベクトル値英語版(vector-valued) 2-形式として表わされる。∇ を微分可能多様体上のアフィン接続形式とすると、捩れテンソルは、ベクトル場 X と Y により、

と定義される。ここに [X, Y] はベクトル場のリーブラケット英語版(Lie bracket of vector fields)である。

捩れは、測地線の幾何学の研究にとって特に有用である。パラメータ化された測地線の系が与えられると、捩れの違いによる差異はあるが、それらの測地線を持つアフィン接続のクラスを特定することができる。(フィンスラー幾何学英語版(Finsler geometry)のように、)計量を持たない状況下でも可能な、レヴィ・チヴィタ接続を一般化となる捩れを併せ持つような接続が一意に存在する。また、捩れを併せ持つことは、G-構造英語版(G-structure)やカルタン同値の方法英語版(Cartan's equivalence method)の研究で、重要な役割を果たす。 捩れは、また、捩れ形式に伴う射影接続英語版(projective connection)を通してパラメータ付けを持たない測地線の族の研究にも有用である。相対論では、捩れ形式の考えはアインシュタイン・カルタン理論英語版(Einstein–Cartan theory)の形で、理論の中に実現されている。

捩れテンソル[編集]

M を接バンドル上に接続 ∇ を持つ多様体とする。捩れテンソルまたは捩率テンソル(れいりつテンソル)(torsion tensor)(ときに、カルタン捩れテンソルともいう)は、ベクトル場 X と Y の上に

により定義されたベクトルに値をもつ 2-形式英語版(vector-valued 2-form)である。ここに、[X, Y] は 2つのベクトル場のリーブラケット英語版(Lie bracket)である。ライプニッツの規則により、任意の滑らかな函数 f に対し、T(fX,Y) = T(X,fY) = fT(X,Y) であるので、T は非テンソル的な共変微分(covariant derivative)の項で定義されているにもかかわらず、テンソル的(tensorial)である。共変微分はベクトル場に対しのみ定義される。

曲率とビアンキ恒等式[編集]

∇ の曲率テンソルは、ベクトル場 X, Y と Z の上で、

により定義される写像 TM × TM → End(TM) である。ある点でのベクトルに対し、この定義はどのようにベクトルが点を離れて拡張されるかとは独立である(このように捩れに非常によく似たテンソルを定義する)。

ビアンキの恒等式(Bianchi identities)は、曲率と捩れを次ぎのように関連付ける[1] で X, Y と Z の巡回置換英語版(cyclic sum)を表すとする。たとえば、

すると、次の等式が成り立つ。

1. ビアンキ第一恒等式

2. ビアンキ第二恒等式

捩れテンソルの成分[編集]

接バンドルの切断 (e1, ..., en) の局所基底の項として、捩れテンソルの成分 は、X=ei, Y=ej とし、係数の交換関係 γkijek := [ei,ej] を導入することで導くことができる。すると、捩れの成分は、

となる。

基底がホロノミー的英語版(holonomic)であれば、リーブラケットは 0 となる 。従って、 となる。特に(以下にみるように)、測地線方程式が接続の対称部分を決定することに対し、捩れは反対称の部分を決定する。

捩れ形式[編集]

捩れ形式(torsion form)は交代的な捩れを特徴付ける形式で、多様体 M のフレームバンドル英語版(frame bundle) FM に適用される。この主バンドルは、接続形式 ω である、ω は、垂直ベクトルを gl(n) の中の右作用の生成子へ写像する gl(n) に値を持つ 1-形式である。同じことであるが、gl(n) の随伴表現と FM の接バンドル上の右 GL(n) の作用が同変に作用する。動標構バンドルは、Rn に値をもつ標準 1-形式 θ も持っていて、標構 u ∈ FxM 上で π : FM → M を主バンドルの射影写像とすると、

定義される(線型写像 u : Rn → TxMとみなす)。すると、捩れ形式は、

となる。同値なことであるが、D を接続により決定される共変外微分英語版(exterior covariant derivative)とすると、Θ = Dθ としても定義される。

捩れ形式は、Rn に値を持つ(水平な)テンソル形式英語版(tensorial form)であり、g ∈ Gl(n) の右作用の下では、次の同変写像の意味を持っている。

ここに g は Rn 上へ基本表現を通して右側から作用する。

曲率形式とビアンキ恒等式[編集]

曲率形式は、gl(n) に値を持つ 2-形式

である。ここで、再び、D は共変外微分である。曲率形式と捩れ形式のことばでは、対応するビアンキ恒等式は[2]

である。

さらに、次のようにして曲率形式と捩れ形式より、曲率と捩れを再現することができる。FxM の点 u では[3]

が成り立つ。再び、u : Rn → TxM はファイバーの標構を特定する函数であり、π−1 を通してのベクトルのリフトの選択は、曲率形式と捩れ形式が水平な形式であるので(両者とも垂直方向が曖昧であるので)、不適当である。

標構の中の捩れ形式[編集]

捩れ形式は、基礎多様体 M 上の接続形式の項で表現することもでき、接バンドルの標構 (e1,...,en) で書き出すことができる。接続形式はこれらの基底切断の共変外微分を形成する。

接バンドル(この標構に相対的な)ソルダー形式英語版(solder form)[4]は、ei双対基底 θi ∈ T*M であり、θi(ej) = δij (クロネッカーのデルタ) となる。従って、捩れ 2-形式は、成分

を持っている。

右端の式において、

は、捩れテンソルの標構成分であり、前の定義で与えられる。

ある可逆な行列値をとる函数 (gij) についての別な標構

に対し、

となるという意味で、 Θi がテンソル的に変換することを容易に示すことができる。言い換えると、Θ は (1,2) タイプの(ひとつの反変、ふたつの共変なインデックスをもつ)テンソルである。

代わって、ソルダー形式は、双対同型 End(TM) ≈ TM ⊗ T*M の下に接バンドルの自己準同型の単位元に対応する M 上の TM に値をもつ 1-形式として、標構に独立な形であると特徴付けることができる。従って、捩れ 2-形式は、

の切断であり、

により与えられる。ここで、D は共変外微分英語版(exterior covariant derivative)である。(さらに詳しくは接続形式を参照。)

既約分解[編集]

捩れテンソルは 2つの既約な部分に分解することができる。トレースを持たない部分とトレース項を持つもうひとつの部分である。添字表記法を使うと、T のトレースは、

で与えられ、トレースを持たない部分は、

で与えられる。ここの δijクロネッカーのデルタである。

本質的には、次式を得る。

T のトレース tr T は、次のようにして定義された T*M の元である。各々の固定化されたベクトル X ∈ TM に対し、T は、

を通して、Hom(TM, TM) の元 T(X) を定義する。

従って、(tr T)(X) は自己準同型のトレースとして定義される。すなわち、

である。

T のトレースのない部分は、

である。ここに ι は内積を表す。

特徴付けと解釈[編集]

このセクションを通して、M は微分可能多様体(differentiable manifold)であるとし、∇ は M の接バンドル上の共変微分(covariant derivative)とする。

座標系のツイスト[編集]

古典的な曲線の微分幾何学英語版(differential geometry of curves)では、フレネ・セレの公式は、どのようにして特殊な動標構(フレネ・セレ標構)が曲線に沿って「ツイスト」しているのかを記述する。物理学の用語では、捩れは曲線の接線方向を示す理想化された頂点角運動量へ対応する。

(計量)接続を持つ多様体の場合は、これと似た解釈がある。観測者が接続の測地線に沿って動いているとする。そのような観測者は、加速度を体験してはいないので、慣性と普通は考える。加えて、観測者が正確なまっすぐな定規(座標系)を持っているとする。それぞれの定規は、真っ直ぐな目盛で測地的である。それぞれの定規が軌跡に沿って平行移動英語版(parallel transport)する。これらの定規が物理的に軌跡に沿って動くという事実は、リーの移動(Lie-dragged)あるいは、接方向に沿ったそれぞれの定規のリー微分が 0 となって伝播していることを意味する。しかし、 フレネ・セレ標構の中の頂点で体感できるトルクと似たトルク(捩れの力)かもしれない。この力は、捩れにより測る。

さらに詳しくは、観測者が測地線の経路 γ(t) に沿って動き、測定する定規を持っているとすると、定規は測地線に沿う観察者の経路としては曲面を外れて移動することになる。この曲面に沿った自然な座標が (t,x) が存在し、そこでは、観測者により t はパラメータじかと取られ、x は測る定規に沿った位置と取られる。定規が曲線に沿って平行に移動するという条件は、

である。

結局、捩れは、

により与えられる。

これが 0 でないならば、定規のマークされた点たち(x = 定数曲線)は、測地線に代わり捩れた量(helices)を追いかけることとなる。それらは観測者の周りで回転する傾向を持つことになる。この議論により、 は測地的でないということが重要ではなくなる。任意の曲線で問題ないことが分かる。

捩れのこの解釈は遠方平行性英語版(teleparallelism)の理論で重要であり、アインシュタイン・カルタン理論英語版(Einstein-Cartan theory)や相対論のもうひとつの定式化として知られている。

つるの捩れ[編集]

物質科学、特に弾性理論では、捩れの考え方は重要である。ひとつの問題は、ぶどうのつるが巻きつくことをどう管理するかに焦点をあて、ぶどうの生長をモデル化する問題である[5] 。ぶどう自身は、互いに弾性的に巻きつくつるのペアとしてモデル化される。エネルギーを最小化する中で、ぶどうは螺旋の形をして自然に成長する。しかし、ぶどうは長さを最大化して伸びるかも知れない。この場合は、ぶどうの捩れはつるのペアの捩れ(もしくは、同じことであるが、つるを結んでいるリボンの曲面の捩れ)に関係していて、ぶどうのつるの長さを最大化する(測地線)の構成とエネルギーを最小化する構成の間の差異を反映している。

捩れと渦[編集]

流体力学では、捩れは自然に渦線に自然に関係する。

測地線と捩れの吸収[編集]

γ(t) を M 上の曲線とすると、γ は、γ の領域の中の時間 t に対し、

で与えられるアフィンパラメータを持つ測地線である。(ここにドットは、t についての微分を表わし、測地線にそった方向を持つ接ベクトルと γ と関連つけている。)各々の測地線は、一意に、時刻 t = 0 での初期接ベクトル により決まる。

接続の捩れの応用のひとつは、接続の測地的スプレー英語版(geodesic spray)[6] である。大まかには、アフィンパラメータされた測地線である。捩れは、測地スプレーの項では接続を分類する曖昧さを意味する。

  • 2つの接続 ∇ と ∇′ が同一のアフィンパラメータを持つ(つまり、同一の測地スプレーを持つとする)と、その差異は捩れである[7] 。さらに詳しくは、X と Y を p ∈ M での 2つの接ベクトルとし、

を p を離れて任意の X と Y の拡大から計算された 2つの接続の間の差異とする。ライプニッツの積公式により、Δ はどのように X と Y が拡大されたか(従って、M 上のテンソルを定義するか)には実際依存しないことが分かる。S と A を Δ の対称的部分と交代的部分

とすると、

  • は捩れテンソルの差異である。
  • ∇ と ∇′ が同一のアフィンパラメータを持つ測地線であることと、S(X, Y) = 0 であることは同値である。

言い換えると、2つの接続の差異の対称的部分は、接続が同一のパラメータを持つかどうかを決定し、一方、差異の交代的部分は、2つの接続の相対的な捩れの違いが決定する。もうひとつの別な結論は、

  • 任意のアフィン接続 ∇ が与えられると、同一のアフィンパラメータを持つ測地線の族の中に、一意に捩れのない接続 ∇′ が存在する。これはリーマン幾何学の基本定理のアフィン接続(計量がなくともよい)への一般化である。パラメータ化された族の下にある一意な捩れのない接続をとることは、捩れの吸収として知られていて、カルタンの同値の方法英語版(Cartan's equivalence method)の一段階である。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ See Kobayashi–Nomizu (1996) Volume 1, Proposition III.5.2.
  2. ^ Kobayashi–Nomizu (1996) Volume 1, III.2.
  3. ^ Kobayashi–Nomizu (1996) Volume 1, III.5.
  4. ^ 接合形式という訳語が妥当かも知れない。
  5. ^ Goriely et al. (2006).
  6. ^ 測地フローは接バンドルの中で曲線の族をなすが、これらの曲線の微分は接バンドルの全空間上のベクトル場をなし、このベクトル場を測地的スプレーという。
  7. ^ See Spivak (1999) Volume II, Addendum 1 to Chapter 6. See also Bishop and Goldberg (1980), section 5.10.

参考文献[編集]