ファン・デル・ヴェルデン表示

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ファン・デル・ヴェルデン表示(ファン・デル・ヴェルデンひょうじ、: Van der Waerden notation)とは理論物理学において4次元における2成分スピノルワイル・スピノル)の表記法[1][2]ツイスター理論超対称性理論においては標準的な記法となっている。オランダの数学者ファン・デル・ヴェルデンに由来する。

添字の点[編集]

以下ではカイラル表現(ワイル表現)により、ディラック・スピノル ψ は左右のカイラリティが上下の2成分で分かれているとする。すなわち

,

ここで ξ, η はそれぞれ2成分スピノル(ワイル・スピノル)。

点なし添字[編集]

下付の点なし(ドットなし, undotted)添字をもつスピノルはカイラリティ左巻きであり、カイラル・スピノルとも呼ばれる。

.[注釈 1]

点付き添字[編集]

上付きの点付き(ドット付き, dotted)添字と記号の上[注釈 2]上線(バー)をもつスピノルは右巻きであり、反カイラル・スピノルとも呼ばれる。

.[注釈 1]

添え字を欠く記法においても、曖昧さを無くすため右巻きワイル・スピノルには上線が残される。

ハット付き添字[編集]

ハットが付く添字はディラック添字と呼ばれ、点付きと点なし添字をまとめたものである。例えば、もしそれぞれの添字が

を動くのなら、カイラル表現の下でディラック・スピノル ψ は次のように表示される:

,

ここで

.

また ψディラック共役 ψ = ψγ0 はこのとき

と表記される。すなわち ηα = (η·α), ξ·α = (ξα)[注釈 3]、上線と添字の点が複素共役を意味することが分かる。

荷電共役[編集]

スピノルの荷電共役変換C 変換)は次のように表される:

,

ここで C は荷電共役行列であり、カイラル表現においては

である。ただし

,

ここで εij は2階の完全反対称テンソルである。

よって

,

ここで ε·α·βクロネッカーのデルタ δ を用いた εαβ εβγ = δαγ によって定義され、εij = −εij を満たす。[注釈 4]

これまでの整合性から

とすると、

.

すなわち ηα, ξ·α の添字の上げ下げには、2階の完全反対称テンソル εαβ が用いられることが分かる。[5][6]

注釈[編集]

  1. ^ a b ここで ξα, η·α はそれぞれの成分ではなく、成分の集合 (ξ1 ξ2)T, (η·1 η·2)T であることに注意。[3]
  2. ^ 添字の上にではない
  3. ^ ここでは成分同士の等式となっている。
  4. ^ これらの表記を用いると、荷電共役行列 C は次のように表される:[4]
    .

出典[編集]

  1. ^ Van der Waerden, B.L. (1929). “Spinoranalyse”. Nachr. Ges. Wiss. Göttingen Math. Phys. 1929: 100–109. 
  2. ^ Veblen O. (1933). “Geometry of two-component Spinors”. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 19: 462–474. Bibcode1933PNAS...19..462V. doi:10.1073/pnas.19.4.462. 
  3. ^ 佐古 2007, p. 25.
  4. ^ 佐古 2007, p. 26.
  5. ^ 林 青司「CP対称性の破れ ~ 小林・益川模型から深める素粒子物理 ~」『臨時別冊・数理科学』第91巻、サイエンス社、2012年6月、40-41頁。 
  6. ^ 林 2015, pp. 70–71.

参考文献[編集]

  • Spinors in physics - ウェイバックマシン(2016年9月20日アーカイブ分)
  • P. Labelle (2010), Supersymmetry, Demystified series, McGraw-Hill (USA), ISBN 978-0-07-163641-4 
  • Hurley, D.J.; Vandyck, M.A. (2000), Geometry, Spinors and Applications, Springer, ISBN 1-85233-223-9 
  • Penrose, R.; Rindler, W. (1984), Spinors and Space–Time, Vol. 1, Cambridge University Press, pp. 107-, ISBN 0-521-24527-3  - ただし印刷上の理由により、 · の代わりにプライム ′ を用いている。
  • Budinich, P.; Trautman, A. (1988), The Spinorial Chessboard, Springer-Verlag, ISBN 0-387-19078-3 
  • 九後 汰一郎『ゲージ場の量子論〈1〉』培風館〈新物理学シリーズ〉、1989年、8-29頁。ISBN 978-4563024239 
  • ヴェス, J.、バガー, J. 著、志摩 一成 訳「付録A. 表記法とスピノル代数」『超対称性と超重力』丸善出版、2011年(原著1992年)、219頁。ISBN 978-4621084465 
  • 佐古 彰史『超対称ゲージ理論と幾何学』日本評論社、2007年。ISBN 978-4535784680 
  • 林 青司「3.1 スピノールの2成分表示とスピノールのタイプ」『素粒子の標準模型を超えて』丸善出版〈現代理論物理学シリーズ〉、2015年、68-74頁。ISBN 978-4621065099 

関連項目[編集]