慣性モーメント

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古典力学
歴史
慣性モーメント
量記号 I
次元 L 2 M
SI単位 kg m2
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慣性モーメント(かんせいモーメント、: moment of inertia)あるいは慣性能率(かんせいのうりつ)、イナーシャとは、オイラーの運動方程式

 I\frac{d\omega}{dt} = T

における、トルクT角加速度 dω/dt に対する比例定数I のことである。剛体と固定された回転軸によって定まる量であり[1]、物体の回転運動の変化(回りだす、止まる)のしにくさ(慣性)を表す。

慣性モーメントを用いると、剛体の角運動量 L と角速度 ω の関係は

\boldsymbol L = I \boldsymbol\omega

と記述できる。

物体が連続体であるときの慣性モーメントは、

I = \int_V r^2 dm = \int_V \rho r^2 dV

で求められる。r は中心軸からの距離、dm は微小質量、ρは密度分布である。

慣性モーメントと次元は異なるが同じ意味を持つ物理量として、剛体(円筒状回転子)の直径D 、および剛体の重量G [ kgf ]を用いて求めたものをGD2、またははずみ車効果と呼ぶ。これと慣性モーメントI には、GD2 = 4gI の関係がある(g重力加速度[2]

剛体に対しては、慣性モーメントを質量で正規化して、円板、円筒などの幾何学形状だけで決まる定数式を算出して一覧表としておき、これに質量を乗じて慣性モーメントを算出することが多い。

工学での応用として、回転軸に慣性モーメントの大きい回転体を取り付けた装置をフライホイール(はずみ車)という。これは、回転速度の急激な変化を抑止したり、回転によるエネルギーを保存する目的で使用される。

計算例[編集]

質点[編集]

N 個の質点がその相対位置を変えずに回転運動する場合、その系の慣性モーメントは、

I = \sum_i m_i r_i^2

で求められる。mii 番目の質点の質量、ri は中心軸からの距離である。

いま、質点mi が、回転軸から距離 ri の位置で角加速度 dω/dt で運動する場合、質点mi の周方向の速度がvi = ri ω となることから、質点mi が受けている力fi は、

f_i = m_i\frac{dv_i}{dt} = m_i r_i \frac{d\omega}{dt}

となる。トルクの定義により、これにri を乗ずれば質点mi にはたらくトルクti を求めることが出来る。すなわち

t_i = r_i f_i = m_i r_i^2 \frac{d\omega}{dt}

となる。回転体の全ての質点で発生するトルクの総和が総トルクT だから、

T= \sum_i t_i
=\sum_i m_i r_i^2 \frac{d\omega}{dt}
\equiv I \frac{d\omega}{dt}

となる。

棒の両端の質量[編集]

重さの無視できる長さL の棒の両端に、質量mM の物体がくっついたものを考える。棒の適当な位置に回転の中心となる点を定め、そこから両端までの腕の長さをそれぞれaL -a とする。このとき、中心に対する慣性モーメントI は、

I = m a^2 + M (L-a)^2 = (m+M)\left(a-\frac{M}{m+M}L\right)^2+\frac{mM}{m+M}L^2

と、計算される。この式から分かるように、慣性モーメントは、中心(回転軸)のとり方によってその値が変わる。中心として系の重心をとったとき、慣性モーメントは最小となる。すなわちもっとも回しやすい。

中心が回転軸の円板[編集]

半径a 、全質量M の、一様な密度ρ= Ma2 をもつ円板の、中心周りの慣性モーメントは

I=\frac{1}{2}a^2 M

となる。

これは中心から半径r 、幅dr のリングの質量dM を考えると

dM=2\pi r \rho dr

より、このリングの慣性モーメントdI

dI = r^2 dM = 2\pi \rho r^3 dr

だから

I = \int_0^a dI = 2\pi\rho \int_0^a r^3 dr = \frac{1}{2}\rho\pi a^4

より求めることができる。

リング状円板[編集]

円板外径a 、くり抜き内径b 、全質量M のリング状円板では、

I=\frac{1}{2}(a^2+b^2)M

となる。

性質[編集]

一般に、剛体の慣性モーメントは、剛体の質量に比例し、質量が軸から遠くに分布しているほど大きくなる。

また、回転軸が重心を通るとき慣性モーメントは最小値IG をとり、軸が重心から距離h だけ離れている場合、その軸の周りの慣性モーメントIh

I_h = I_\mathrm{G}+Mh^2

となる[1]

慣性テンソル[編集]

角速度ベクトルと角運動量ベクトルが平行の場合は I はスカラーとなるが、一般の場合はテンソルとなり、慣性テンソルと呼ぶ。 すなわち、

\begin{pmatrix}L_x\\L_y\\L_z\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}I_{xx}&-I_{xy}&-I_{xz} \\ -I_{yx}&I_{yy}&-I_{yz} \\ -I_{zx}&-I_{zy}&I_{zz}\end{pmatrix} \begin{pmatrix}\omega_x\\ \omega_y \\ \omega_z\end{pmatrix}

ここで、

I_{xx} = I_x = \int (y^2+z^2)\rho dV,\quad I_{yy} = I_y = \int (x^2+z^2)\rho dV,\quad I_{zz} = I_z = \int (x^2+y^2)\rho dV
I_{xy} = I_{yx} = \int xy\rho dV,\quad I_{xz} = I_{zx} = \int zx\rho dV,\quad I_{yz} = I_{zy} = \int yz\rho dV

IxIyIz を(それぞれ x、 y、 z軸に関する)慣性モーメント、 IxyIyzIzx慣性乗積という。

ここで、慣性テンソル行列は実対称行列なので、適当な直交座標系 { e1 , e2 , e3 } を選ぶことで対角化(すなわち Ixy = Iyz = Izx = 0 と)することができ、そのときの座標軸を慣性主軸、慣性モーメント { I1 , I2 , I3 } とを主慣性モーメントと呼ぶ。慣性主軸座標系では角運動量は

\begin{pmatrix}L_1\\L_2\\L_3\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}I_1&0&0\\0&I_2&0\\0&0&I_3\end{pmatrix} \begin{pmatrix}\omega_1\\ \omega_2\\ \omega_3\end{pmatrix}

と単純に表すことができる。

回転半径[編集]

慣性モーメントI は物体の質量M に比例するから、

I = M\kappa^2

と書くことができる。このκは長さの次元を持ち、回転半径と呼ばれる[1]

脚注[編集]

  1. ^ a b c 戸田盛和 『力学』 岩波書店、1982年、167-175頁。ISBN 4-00-007641-8 
  2. ^ 谷腰欣司 『小型モーターのしくみ』 電波新聞社、2004年、24頁。ISBN 4-88554-775-X 

関連項目[編集]

回転運動と並進運動の対応一覧
回転運動 並進運動
力学変数 角度 \boldsymbol{\theta} 位置 \boldsymbol{r}
一階微分 角速度 \boldsymbol{\omega}
 =\frac{d\boldsymbol{\theta}}{dt} 速度 \boldsymbol{v}
 =\frac{d\boldsymbol{r}}{dt}
二階微分 角加速度 \boldsymbol{\alpha}
 =\frac{d\boldsymbol{\omega}}{dt} 加速度 \boldsymbol{a}
 =\frac{d\boldsymbol{v}}{dt}
慣性 慣性モーメント I 質量 m
運動量 角運動量 \boldsymbol{L}
 =\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p} 運動量 \boldsymbol{p}=m\boldsymbol{v}
力のモーメント \boldsymbol{N}
 =\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{F} \boldsymbol{F}
運動方程式 \frac{d\boldsymbol{L}}{dt} =\boldsymbol{N} \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} =\boldsymbol{F}
運動エネルギー \frac{1}{2}I\omega^2 \frac{1}{2}mv^2
仕事 \boldsymbol{N}\cdot\Delta\boldsymbol{\theta} \boldsymbol{F}\cdot\Delta\boldsymbol{r}
仕事率 \boldsymbol{N}\cdot\boldsymbol{\omega} \boldsymbol{F}\cdot\boldsymbol{v}
ダンパーばねに発生する力を
考慮した運動方程式
I\alpha+c\omega+k\theta=N ma+cv+kx=F