リーマン多様体

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

リーマン多様体(リーマンたようたい)とはベルンハルト・リーマンを冠した微分幾何および代数的な考え方である。リーマン幾何学や表面微分幾何において、リーマン多様体およびリーマン空間(M, g)とは接ベクトル空間上で計量テンソルgによる内積の定義された滑らかな多様体Mを指す。リーマン距離とは多様体上の各点に与えられた計量テンソルにより、点と点を結ぶ距離を多様化したものである。リーマン距離を用いると、角度や曲線の長さなどの幾何的性質が多様体上で定義可能である。

はじめに[編集]

リーマン多様体の考え方は1828年にカール・フリードリヒ・ガウスが証明した『驚くべき定理 (Theorema Egregium)』までさかのぼる。この定理は曲面の曲率(厳密にはガウス曲率)が、曲面が三次元空間にどのように埋め込まれるかに依存せず、単に角度や長さを定める計量テンソルにのみ依存するというものである (英:Theorema Egregium)。ガウスの弟子であったリーマンはガウスの定理を多様体と呼ばれる高次元空間に拡張した。この応用として、アルバート・アインシュタイン相対性理論においてリーマン多様体の考え方を利用している。

概要[編集]

滑らかな多様体M上の接束(接ベクトル空間の非交叉和集合)の元は多様体の各点に接ベクトル空間を対応させるような対応だと考えられる。おのおのの接ベクトル空間には内積が定義可能である。接束上の内積の集まりを滑らかに多様化すると、接ベクトル空間上で個々の点においてのみ定義されていた内積を多様体上の有限領域のおける類似表現に拡張することができる。例えば滑らかな曲線α(t): [0, 1] → Mが接ベクトル空間TM(α(t0))上の接ベクトルα′(t0) (t0 ∈ (0, 1))を持つとする。このとき、各々の接ベクトルにおいて自分自身との内積によってノルム‖α′(t0)‖が定義できるとするならば、曲線αの長さL(α)は次のように表される。

L(\alpha) = \int_0^1{\|\alpha'(t)\|\, \mathrm{d}t}.

この式においてα(t)の[0, 1]上での連続性からL(α)がこの曲線の長さとして表される。多くの場合において、線形代数的な考え方を微分幾何に応用する場合、この滑らかさという考え方は非常に重要である。

Rn上の部分多様体がリーマン計量gを持つ場合、gは各々の接ベクトル空間におけるRn上の内積から制限される。実際、ナッシュの埋め込み定理に従えば、全てのリーマン多様体は、このようにRn上の内積を何らかの方法で多様体上に写すことで実される。ある滑らかな部分多様体上で、Rnからの内積で距離が定義されるとすると、多様体上に等距離性が自然に導入される。この定義は理論的に不十分なところもあるが。リーマン幾何学を幾何学的な直感に基づいて理解しようとする場合には非常に役立つものである。

距離空間におけるリーマン多様体[編集]

リーマン多様体は一般に正定値の計量テンソルgにより内積が定義された多様体を指す。このとき、リーマン多様体は距離空間に置き換えることが可能で、連続かつ微分可能な曲線γ: [a, b] → Mがリーマン多様体M上で与えられるとき、この曲線の長さL(γ)は例えば次のように表される。

L(\gamma) = \int_a^b \|\gamma'(t)\|\, \mathrm{d}t.

この定義において、全ての連続したリーマン多様体Mは距離空間となり、点xおよび点yとの距離d(x, y)は

d(x,y) = inf{ L(γ) : γ はxとyを結ぶ曲線のうち最も長さが短いもの (測地線ともいう) }

と与えられる。リーマン多様体上では、異なる2点xとyを結ぶ線は多くの場合曲線」であるわけだが、局所的に見て、最短距離で点と点を結んでいるという点においては「直線」であると考えることもできる。多様体がコンパクトであるという前提をおくと、任意の2点xおよびyについて長さd(x, y)の接続を考えることができる。もしコンパクト性がない場合には、最短距離が決まらない可能性があり、これは真ではない。

なお、リーマン計量gが正定値の場合には、これにより定まる内積が距離を与えることは明らかである。gが正定値ではないが非退化 (行列でいうところの正則行列) であるならば、この計量を擬リーマン計量とよぶ。この擬リーマン計量は相対性理論において用いられるミンコウスキ空間をなすための重量な考え方である。

性質[編集]

リーマン多様体において、測地的なコンパクト性やトポロジーのコンパクト性、距離のコンパクト性というのは同義であり、Hopf-Rinowの定理を示唆するものである。

リーマン計量[編集]

n次元可微分多様体M上のリーマン計量とは次のような双線形写像gpを指す。

g_p \colon T_pM\times T_pM\longrightarrow \mathbf R,\qquad p\in M

これを用いると、M上の任意のベクトル場X,Yを用いて、

 p\mapsto g_p(X(p), Y(p))

という滑らかな関数が定義され、すなわち多様体の各点pにおいて内積が定められる。

より一般的な書き方をするなら、リーマン計量gは正定値な2階テンソルである。 多様体M上の局所座標x1, x2, ..., xnを用いて、接ベクトル空間の基底を

\left\{\frac{\partial}{\partial x_1},\dotsc, \frac{\partial}{\partial x_n}\right\}

と表すと、計量テンソルの各成分は、

g_{ij}(p):=g_p\Biggl(\left(\frac{\partial }{\partial x_i}\right)_p,\left(\frac{\partial }{\partial x_j}\right)_p\Biggr).

のように書ける。同様に余接ベクトル空間上の双対基底 {dx1, …, dxn} を用いると、

 g=\sum_{i,j}g_{ij}\mathrm d x_i\otimes \mathrm d x_j.

とも書ける。このように計量テンソルを導入することでリーマン多様体(M, g)が定まる。


[編集]

接ベクトル空間の基底 \left\{ \frac{\partial}{\partial x_1}, \ldots \frac{\partial}{\partial x_n} \right\} を通常のベクトル空間の基底 { e1, ..., en} と同一視することにより、Rnの開部分集合Uに対して、自然に計量が定まる。このとき、

g^{\mathrm{can}}_p \colon T_pU\times T_pU\longrightarrow \mathbf R,\qquad \left(\sum_ia_i\frac{\partial}{\partial x_i},\sum_jb_j\frac{\partial}{\partial x_j}\right)\longmapsto \sum_i a_ib_i.

のような通常の内積が定まり、リーマン計量gcan

g^{\mathrm{can}}_{ij}=\langle e_i,e_j\rangle = \delta_{ij}.

のように与えられる。この時、Rnn次元ユークリッド空間と呼び、上のリーマン計量gcanをユークリッド計量と呼ぶ。


関連項目[編集]

参考文献[編集]

(英語版「英:Riemannian Manifold」より引用)