中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法

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中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法
(香港国家安全維持法、香港国家安全法)
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全国人民代表大会
適用地域 中華人民共和国の旗 中華人民共和国
成立日 2020年6月30日
起草者 全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会中国語版
現況: 施行中

中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法[1](ちゅうかじんみんきょうわこく-ホンコンとくべつぎょうせいく-こっかあんぜんいじほう、: 中华人民共和国香港特别行政区维护国家安全法[2]: Law of the People's Republic of China on Safeguarding National Security in the Hong Kong Special Administrative Region[3])は香港特別行政区における国家安全維持に関する法律制度と執行メカニズムを整備するための中華人民共和国の法律。

日本のメディアは本法について『香港国家安全維持法[4][5](ホンコンこっかあんぜんいじほう)や『香港国家安全法[6](ホンコンこっかあんぜんほう)などと呼称している。

立法過程[編集]

香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定
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全国人民代表大会
適用地域 中華人民共和国の旗 中華人民共和国
成立日 2020年5月28日
起草者 全国人民代表大会常務委員会法制工作委員会
概要
香港の「国家安全法」を整備する権限を全国人民代表大会常務委員会に付与する
現況: 施行中

2019年10月31日、中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議中国語版(四中全会)において『中国の特色ある社会主義制度の堅持と整備、国家ガバナンスのシステムと能力の現代化の推進における若干の重大な問題に関する中共中央の決定』[7]が審議・採択された。同決定には「特別行政区が国家安全を守るための法制度と執行メカニズムを確立・健全化し、特別行政区の法執行力の強化を支援する」と記されるなど、特別行政区の国家安全維持に関する中国共産党の活動方針が定められた[8]

2020年5月18日、第13期全国人民代表大会常務委員会(全人代常務委員会)第18回会議は国務院が提出した『香港特別行政区が国家安全を守るための状況に関する国務院の報告』の説明を聴取し審議を行った[9]。同日、全人代常務委員会法制工作委員会は『香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの確立・健全化に関する全国人民代表大会の決定中国語版[10]、通称:香港国家安全法[11][12][13][14][15]、香港版国家安全法[16][17]』の起草を完了し、全人代常務委員会会議は草案の審議を行い第13期全人代第3回会議中国語版に提出することを決定した[9]。提出された草案は全人代会議の3回の審議を経て修正され、5月28日に採択された。この決定は香港国家安全維持法制に対する立法方針と、全人代から全人代常務委員会へ同法制を整備する権限を付与すること[18]、関係する法律の制定後に香港政府が公布し即日施行することなどを定めている[19][18][注 1]香港立法会による審議の機会はない[19]

2020年6月1日、第13期全人代常務委員会第58回委員長会議が北京で開かれ、第13期全人代常務委員会第19回会議の開催期間を6月18日から20日までと決定し、同常務委員会会議の議事日程案が定められた[20]。17日、委員長会議は全人代常務委員会法制工作委員会が行う香港特別行政区国家安全維持法起草工作の状況報告を聴取し、『中華人民共和国香港特別行政区国家安全維持法(草案)』を13期全人代常務委員会第19回会議に提出することを決定した[2]。18日、13期全人代常務委員会第19回会議において委員長会議が提出した法律草案の議案の説明が聴取された[21]。19日、グループ別会議が法律草案の審議を行った[21]。20日、第13期全人代常務委員会第63回委員長会議が北京で開かれ、第13期全人代常務委員会第20回会議の開催期間を6月28日から30日までと決定し、同常務委員会会議の議事日程案が定められた[22]

6月30日、全国人民代表大会常務委員会は「香港国家安全維持法案」を全会一致で可決。習近平国家主席党総書記最高指導者)と林鄭月娥行政長官の公布により、現地時間同日夜11時(日本時間7月1日午前0時)より施行[23][24][25][18][注 2]

香港国家安全維持法草案の概要[編集]

委員長会議に委託され香港国家安全維持法草案を起草した全人代常務委員会法制工作委員会の担当責任者の説明によると、香港特別行政区国家安全維持法草案は6章66カ条あり、「総則」「香港特別行政区の国家安全維持の職責と機構」「犯罪行為と処罰」「事件の管轄」「法律の適用と手続」「中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構」「附則」に分かれるとしている。本法草案は実体法・手続法・組織法の内容を兼ね備える総合的法律であり、草案は以下の各分野の内容を包括していると説明している[2]

  • 中央人民政府の関係国家安全事務に対する基本的責任及び香港特別行政区が国家安全を守るための憲政制度上の責任
  • 香港特別行政区が国家安全を守るために遵守すべき重要な法治の原則
  • 香港特別行政区が国家安全を健全に守るために設立する関係機構とその職責
  • 四種類の国家安全に危害を及ぼす犯罪行為と処罰
  • 事件の管轄・法律の適用と手続
  • 中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構

香港特別行政区国家安全維持委員会[編集]

香港特別行政区は国家安全維持委員会を設立する。本委員会は香港特別行政区の国家安全を守るための事務に責任を負い、国家安全を守るための主要な責任を担い、かつ中央人民政府の監督と問責を受ける[2]

香港特別行政区国家安全維持委員会は行政長官が主席(議長)を担い、その構成員には政務司司長財政司司長律政司司長保安局局長・警務処処長・警務処国家安全維持部門担当責任者・入境事務処処長海関関長・行政長官弁公室主任が含まれる[2]

香港特別行政区国家安全維持委員会は秘書処を隷下に設置する。秘書処は秘書長が指導を行う。秘書長は行政長官により指名され、中央人民政府に報告して任命する[2]

香港特別行政区国家安全維持委員会の主な職責は以下となる[2]

  • 香港特別行政区が国家安全を守るための情勢を分析・研究する。
  • 機関の活動を計画する。
  • 香港特別行政区が国家安全を守るための政策を制定する。
  • 香港特別行政区が国家安全を守るための法律制度と執行メカニズムの建設を推進する。
  • 香港特別行政区が国家安全を守るための重要な活動と重大な行動を調整する。

香港特別行政区国家安全維持委員会は国家安全事務顧問を設置する。本顧問は中央人民政府により担当を命じられ、香港特別行政区国家安全維持委員会が履行する職責に関係する事務について諮問意見を提供する[2]

香港特別行政区政府の国家安全維持部門[編集]

香港特別行政区政府警務処は国家安全維持部門を設立し、法執行力を整備する[2]

香港特別行政区政府の国家安全犯罪事件検察部門[編集]

香港特別行政区政府律政司は専門の国家安全犯罪事件検察部門を設立し、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の検察活動とその関係する法律事務に責任を負う[2]

中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持機構[編集]

中央人民政府は香港特別行政区に国家安全公署を設置する。中央人民政府駐香港特別行政区国家安全維持公署(駐港国家安全公署)は法に基づき国家安全を守るための職責を履行し、関係する権力を行使する[2]

駐港国家安全公署の主な職責は以下となる[2]

  • 香港特別行政区が国家安全を守るための情勢を分析・研究する。
  • 国家安全を守るための重要な戦略と重要な政策について意見と建議を提出する
  • 香港特別行政区が履行する国家安全を守るための職責を監督・指導・調整・支援する。
  • 国家安全情報のインフォメーション[注 3]を収集・分析する。
  • 法に基づき国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を処理する。

駐港国家安全公署は厳格に法に基づき職責を履行すべきであり、法に基づき監督を受け、如何なる人や組織の合法的権利を侵害してはならない。駐港国家安全公署の人員は全国性法律を遵守すべきであるほか、加えて香港特別行政区の法律を遵守すべきである[2]

駐港国家安全公署は香港特別行政区国家安全維持委員会とともに調整メカニズムを整備すべきであり、香港特別行政区の国家安全維持活動を監督・指導する。駐香港国家安全公署の工作部門は香港特別行政区の国家安全維持の法執行・司法機関とともに調整メカニズムを整備し、情報共有と行動連携を強化する[2]

国家安全に危害を及ぼす犯罪行為とその処罰[編集]

草案第3章「犯罪行為と処罰」は6節に分かれ、国家分裂罪・国家政権転覆罪・テロ活動罪・外国又は境外勢力と結託し国家安全に危害を及ぼす罪の四種類の犯罪行為[注 4]の具体的な構成および相応の刑事責任と、それに対応した処罰規定および効力範囲を規定する。異なる状況を区分し、四種類の犯罪行為の刑罰を区別して規定する[2]

事件の管轄・法律の適用と手続[編集]

特定の状況[注 5]を除き、香港特別行政区は本法規定の犯罪事件に対し管轄権を行使する[2]

香港特別行政区は国家安全に危害を及ぼす犯罪事件の立件捜査・公訴・審判・刑罰の執行を管轄し、本法と香港特別行政区当地の法律[注 6]を適用する[2]

香港特別行政区政府警務処国家安全維持部門が国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を処理するとき、香港特別行政区の現行法律[注 6]が許可する警察など執行部門が重大な犯罪事件を調査する時に採る各種措置を採ることができる[2]

香港特別行政区行政長官は現任若しくは資格に合致する前任裁判官・区域法院法官・高等法院原訴法廷法官・上訴法廷法官・終審法院法官の中から若干名の法官を指定すべきであり、また暫委若しくは特委法官の中から法官を指定でき、国家安全に危害を及ぼす犯罪事件を処理する責任を負う[2]

本法の解釈権[編集]

本法の解釈権は全国人民代表大会常務委員会に属する[2]

香港特別行政区の法律との関係[編集]

香港特別行政区当地の法律[注 6]と本法が一致しない場合、本法の規定を適用する[2]

本法適用の逮捕者[編集]

BBCによると2020年7月1日に香港警察は「香港国家安全維持法」に違反したとして男女10人を逮捕した。この中には香港の独立をうたう旗を掲げたデモ参加者も一人含まれる。この他に禁止されていた集会に参加したとして約360人が拘束された[26][27]

本法に対する世論[編集]

本法をめぐっては、香港での言論の自由や政府に対する抗議活動が押さえつけられるという懸念の声があるほか、香港の高度な自治を保障した「一国二制度」を踏みにじるものだとする批判がなされている[28][29]

香港市民の世論[編集]

  • 5月28日に同法が採択されると、香港市民の間には怒りと無力感が広がり、海外に活路を見いだそうと移民を検討する市民が急増した。29日付の香港経済日報によると、市内の移民手続き代行業者に5日間で200件の問い合わせがあった。2〜3月の月平均は50件程度だったといい、同紙は「爆増」と報道した。5月に入ってからの問い合わせでの移住先としては台湾を検討する人が約4割を占めた[30]
  • ロイターが香港民意研究所(PORI)に委託して6月15日から18日にかけて実施した世論調査によると、「香港国家安全法案」に対し、強く反対の人は49%、ある程度反対の人は7%、支持の人は34%であった[31]
  • 中国政府へ批判的な言論活動への締め付けがさらに強化されることになり、「一国二制度」の形骸化だとして懸念の声が強まっている[32]
  • 5月31日ジャッキー・チェンら2000人を超える香港の芸能関係者が連名で「国家安全法制」の導入支持を表明した。支持を表明しなければ中国で活動ができなくなるためだろうという推測もある[33]
  • 香港衆志など民主活動団体・政党も立法に抗議する活動を行ったが、2020年6月30日の可決・成立を受け解散に追い込まれた[34]

国際世論[編集]

5月28日、アメリカカナダオーストラリアと中国当局を非難する共同声明を発表した[37]
29日、ドナルド・トランプ大統領はホワイトハウスでの記者会見で、中国が香港に国家安全法の導入を決めたことに関し「中国は香港に約束していた『一国二制度』を『一国一制度』に変えた」と批判。「香港の高度の自治は保証されなくなった」と述べ、米国-香港政策法でアメリカが香港に認めている優遇措置を見直す手続きへの着手を表明した[38]
  • カナダの旗 カナダ - 5月28日、共同声明を発表[37]
  • オーストラリアの旗 オーストラリア - 5月28日、共同声明を発表[37]
  • 日本の旗 日本 - 5月28日、菅義偉官房長官は記者会見で「議決が国際社会や香港市民が強く懸念する中でなされたことや、香港の情勢を深く憂慮している」と述べた。同日、秋葉剛男外務事務次官は孔鉉佑駐日中国大使を外務省に呼び、「深い憂慮」を強く申し入れた[39]。なお、日本政府もアメリカやイギリスなどの共同声明に参加を打診されていたが、これを拒否した[40]。30日、茂木敏充外務大臣は、「国際社会や香港市民の強い懸念にもかかわらず、『国家安全』に関する法律が制定されたことに遺憾の意を表明する」とする談話を出した[41]。与党自民党の外交部会と外交調査会は7月3日の役員会で本法の制定を受け、習近平国家主席の国賓来日を中止するよう政府に求める非難決議案をまとめた[42]
  • 朝鮮民主主義人民共和国の旗 北朝鮮 - 北朝鮮外務省の報道官が朝鮮中央通信の質問に対して、アメリカなどの共同非難声明を「外部勢力と追随勢力の陰謀」と非難し、「香港問題は徹底的に中国の内政に属する問題として、いかなる国や勢力もそれに対してどうのこうのと言う権利がなく、われわれは香港の安定と社会経済発展を阻害する外部の干渉行為に断固反対、排撃する」と述べ、中国政府を支持した[43]

香港立法会党派別意見[編集]

香港民主派の意見[編集]

司法の独立の精神や「一国二制度」の原則に背くもので、表面上は国家の安全を守るためといいながら、実際は香港市民の人権を奪うものだ、などと反発[32]

香港親中派の意見[編集]

脚注[編集]

[脚注の使い方]

注釈[編集]

  1. ^ この決定では憲法31条・62条2号・62条14号・62条16号に規定する全人代の権限の全人代常務委員会への授権(憲法67条22号)を定めている[18]
  2. ^ 法令番号は国家主席令第49号並びに2020年第136号法律。
  3. ^ 原語の「情报」を「情報」と訳し、原語の「信息」を「インフォメーション」と訳した。
  4. ^ 新華社で報道された草案起草者の説明では、「四種類の犯罪行為」について犯罪の具体的な構成要件は明らかにされなかった[2]
  5. ^ 新華社で報道された草案起草者の説明では、「特定の状況」がどのような状況を指すのか具体的な事は明らかにされなかった[2]
  6. ^ a b c 新華社で報道された草案起草者の説明では、「香港特別行政区当地の法律」及び「香港特別行政区の現行法律」に含まれる具体的な法律名は明らかにされなかった。

出典(ニュース)[編集]

  1. ^ “香港国家安全立法について知っておくべき六つの事実”. 中華人民共和国駐日本国大使館. (2020年6月10日). http://www.china-embassy.or.jp/jpn/zgyw/t1788307.htm 2020年6月21日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w “法制工作委员会负责人向十三届全国人大常委会第十九次会议作关于《中华人民共和国香港特别行政区维护国家安全法(草案)》的说明”. 新华社. 新华网. (2020年6月20日). http://www.xinhuanet.com/legal/2020-06/20/c_1126139511.htm 2020年6月21日閲覧。 
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  6. ^ “香港「国家安全法」草案の内容判明、中国政府権限強まる”. TBS. (2020年6月21日). https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4009168.html 2020年6月26日閲覧。 
  7. ^ “第19期四中全会が28~31日に北京で開催”. 人民網日本語版. (2019年10月25日). http://j.people.com.cn/n3/2019/1025/c94474-9626560.html 2020年6月26日閲覧。 
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出典(書籍)[編集]

関連項目[編集]