与那国島の防衛問題

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与那国島の防衛問題(よなぐにじまのぼうえいもんだい)では、沖縄県八重山郡与那国町にある日本最西端の島である与那国島の防衛問題について説明する。

経緯[ソースを編集]

1990年代より沖縄近海では、外国籍と思われる船舶の活動が確認されていた。

1996年中国台湾の総統選挙に軍事的圧力をかけたことから、台湾海峡ミサイル危機が発生。台湾に面した与那国島の沖合に、中国人民解放軍が威嚇目的で放った弾道ミサイルが弾着したことから、地元漁師は操業を一時見合わせることを余儀なくされた。

1998年第11管区海上保安本部は、尖閣諸島付近で領海侵犯したとされる中国漁船について、1547隻の確認を発表した[1]

1999年には、海上保安庁海上自衛隊が、日本の排他的経済水域で、中国の軍艦と海洋調査船合計45隻を確認したとされる[2]。中国船は中国海軍の4,200トンの旅滬型駆逐艦も確認されている。
またこの年、ロシアによる情報収集艦と、台湾の海洋調査船もそれぞれ1隻ずつ確認された[2]。中国の海洋調査船は、船尾から出したケーブルをえい航したり、海底の泥や海水を採取する作業を行っていたとされ[2]、日本の巡視船が国際電波で交信した際に当該船は「中国政府の指示により調査活動をしている。日本の排他的経済水域に同意していない。」と返答している。

2000年代に入っても、中国籍と思われる船が沖縄近海において頻繁に確認されていく。その一部は、中国海軍による10隻編成の艦艇が、日本最南端の沖ノ鳥島にまで到達していることが確認されたり[3]奄美大島近海の日本の排他的経済水域内では、中国海監の海洋監視船が、海上保安庁の測量船に接近し、約3時間45分にわたって追跡していたことが発表された[4]

これら中国籍とされる軍艦や船舶の、沖縄近海への接近および日本の排他的経済水域内の通過など、傍若無人な問題行動が頻繁に起こっていることと平行し、与那国島では防空識別圏の見直しを訴えたり、与那国町町議会による 自衛隊の誘致議決 が行われる動きが起こる。
この与那国町の自衛隊誘致の声を受け、2010年北澤俊美防衛大臣がこの地域への自衛隊配備に関して、予算計上を表明する動きへとつながった。

2012年度予算では、新編する沿岸監視部隊の配置及び移動警戒隊の展開のために必要な用地取得などを実施するため、10億円が計上された[5]。現地ではこれを根拠に、借地代として10億円が現地に落ちると解釈されたが[5]、用地代として国が提示した額は1億5000万円であり金額を巡る思惑の違いによって交渉は暗礁に乗り上げた[5]

2013年度予算では、駐屯地整備や沿岸監視レーダーなどの取得に62億円が盛り込まれた。

2014年5月、起工式を開催。ピーク時には600人程度の工事関係者が島に滞在した。2016年3月28日には与那国駐屯地が完成し、与那国沿岸監視隊が配備された[6]。あくまでも情報収集が任務であって、敵の迎撃を任務とする離島警備部隊ではない。駐屯地は日本最西端で台湾を臨む久部良地区にあり、島中部のインビ岳には船舶・航空機を監視するレーダー5本が建設された。駐屯地隊員が約160人、隊員家族を含めると約250人が移住し、島の商店や祭り、学校は活気を取り戻しているが、選挙への影響を指摘する声もある[7]

隊員と家族の転入により、与那国島の人口は2017年2月末時点で約9年ぶりに1700人台(うち15%が自衛隊関係者)を回復した。町財政にとっても年間で住民税4000万円程度と駐屯地賃貸料(約1500万円)が増収となり、後者を財源に小中学校と幼稚園の給食を無償化した。駐屯地側も、島の動植物を保護するビオトープを設置したり、駐屯地夏祭りを開催したり、官舎敷地内にある子供用遊具や建設中の体育館運動場を開放したりするなど、地域への溶け込みに配慮している[8]

自衛隊誘致[ソースを編集]

2008年に与那国島町議会では、国境の島として現状の警察官2名だけでは問題があることや島の活性化として自衛隊誘致を決議している[9]。2009年8月の町長選では、自衛隊誘致を推進する外間守吉が当選した[10]

与那国町議会議員の糸数健一によれば、与那国島における自衛隊誘致構想は、尾辻吉兼(第16代)町長時代からあったと言う[11]。糸数は与那国島周辺の状況について、「日が暮れる頃、中国の調査船が岸スレスレに近づいてくるのです。日中は沖合いにいますが、夕方になると接近してきます」と発言し[12]、中国船が与那国の漁師でも座礁を恐れて近づかない浅いところまで近づいてきて、船体を肉眼で確認できたと述べている[13]。また、島の防衛体制については、駐在する警察官2名と火器は回転式拳銃2丁のみ[14]であると述べている[13]

2010年4月30日北澤俊美防衛相は、日本周辺海域での中国海軍の活動活発化を受け、南西諸島への陸上自衛隊部隊の配備に向けて、次年度予算案に調査費を計上する考えを表明[15][16]。「九州から沖縄本島、与那国島までの間に、何がしかの配備を考えなければいけないとの空気は省内でも強くなっている」とした[16]

2013年3月20日 外間守吉は、基地設置の迷惑料として10億円を要求し、沿岸警備を含めた国防上の意義については「国が考えること」とし「町の経済効果が最優先」と説明し[5]、現状提示の金額では基地の設置には応じられず、金額の面で一切妥協する意思がないことを表明した。防衛省の提示額は最大1億5千万円で、金額の隔たりは大きく、防衛省は与那国島ではなく石垣島など代わりとなる配備先を検討した[5][17]。外間は10億円の根拠として2012年後に基地設置に伴う調査検討費用として10億円が計上されていることを挙げ、町民はその10億円が全額 島に投入されると解釈しているとし、今更町民の期待を裏切ることはできないと説明した。後に外間は「迷惑料」の表現を「市町村協力費」に修正した[18]。ただし、「迷惑料」の表現修正後も、メディアなどでは「迷惑料」の表記が引き続き使用されている。

2013年4月18日、君塚栄治陸上幕僚長は、会見で「町側が迷惑料10億円を要求している状況が続くなら、白紙も含めて全体計画の見直しも検討せざるを得ない」と語った[19]。2013年5月14日、与那国防衛協会は、8月11日に予定されている与那国町長選挙で、外間を支持せず、独自候補を立てることを表明した。与那国防衛協会は、前回選挙では外間を支持していたが、「協力費」に反発して支持を撤回した[20]。2013年5月19日、外間守吉町長は、「市町村協力費」について10億円という金額にこだわらず、予定地の賃貸料と特別交付税の増額を求めていく方針に転換した[21]

2013年6月19日、与那国町は、「迷惑費」の10億円を取り下げ、土地の年間賃貸料を1500万円とすることで、防衛省と妥結した[22]。この賃貸契約に関する議案は、2013年6月20日に与那国町議会へと出され、賛成3、反対2の賛成多数で可決された[23]。これを受けて2013年6月27日、与那国町と沖縄防衛局は、配備予定地を貸す仮契約を結んだ[24]

2013年7月7日、外間守吉は8月の町長選への立候補を表明。当初は独自候補を出す予定であった与那国防衛協会も、外間支持を表明しており、自衛隊誘致の賛成派は候補者を一本化した[25]。2013年8月11日、与那国町長選の投開票が行われ、自衛隊誘致賛成派の外間が、僅差で自衛隊誘致反対派の崎原正吉を破り、3選を果たした[26]

2014年3月31日、国と与那国町との間で町有地を貸す契約が正式に結ばれた[27]。2014年4月19日、小野寺五典防衛大臣出席のもと、沿岸監視部隊配備のための着工式典が開かれた[28]。2016年には、200名弱の自衛隊関係者が与那国町に駐屯すると見られる。

2014年9月7日投票の与那国町議会選挙で、町議会は誘致派が3人、反対派らが3人となった。誘致派が議長となったため、議長を除く議席構成では、反対派が多数となった。反対派らの賛成多数で、自衛隊誘致の賛否を島民に問う反対派が主導する住民投票条例が可決され[29][30]、2015年2月22日に陸上自衛隊沿岸監視部隊配備の是非を問う住民投票が実施された。

この住民投票に法的拘束力は無いものの、与那国町の住民投票条例は町長と町議会に対して「投票結果を尊重」するよう求めている[31]。誘致反対派の要求により、この住民投票での投票権は中学生以上の未成年者永住外国人にも与えられた[32]。この住民投票には、有権者1276人のうち1094人が投票し投票率は85.74%。開票結果は、賛成632票、反対445票で、賛成派が多数を占めた[33]。しかしながら反対派は納得せず、工事差し止めを求める裁判を起こすことを検討している[32]

反対派住民30名は武力衝突による平和的生存権の侵害や電磁波による健康被害の恐れを根拠に駐屯地の工事差し止めの仮処分命令申し立てを行ったが、那覇地方裁判所は2015年12月24日付けで却下した。決定理由として、武力衝突に至る恐れがあることを認める資料がないことや、電磁波の強度が法律の基準値を下回ることを挙げた[34]。住民3名はこれを不服として即時抗告したが、福岡高等裁判所那覇支部は2016年2月19日付けで却下した[35]

防空識別圏[ソースを編集]

アメリカ合衆国沖縄統治時代に東経123度を境に日本の防空識別圏を設定したことから、与那国島の上空に日本と台湾の防空識別圏の境界線が通ることになり、島の上空の西側(約3分の2)は台湾の防空識別圏になり、日本の民間機が台湾空軍スクランブル発進を受けたこともあった。しかし2006年、台湾側が与那国島の上空を避けるように、防空識別圏の境界線から西側の台湾寄りの海上を境界線として自国の防空識別圏を運用していることが明らかになっており、外務省は「防空上の問題は事実上生じない」という立場をとっていた。

2010年6月24日防衛省は与那国島の上空を通過する「防空識別圏」の境界線を、領空(領土から12カイリ)の2カイリ西側へ半円状に拡大することを発表し[36][37]。翌25日に施行した。台湾は前述の通り事実上与那国島上空が日本の防空識別圏内であることを認めて自国の防空識別圏を運用していたが、台湾外交部は日本側の一方的な決定であると反発した[38]

脚注[ソースを編集]

  1. ^ 尖閣諸島付近/中国船の領海侵犯が急増/98年1547隻 琉球新報 1999年1月11日
  2. ^ a b c 中国軍艦や調査船活動が活発/沖縄近海、昨年は45隻過去最高に 琉球新報 2000年2月17日
  3. ^ 沖縄通過の中国艦艇、その後に沖ノ鳥島近海へ 産経新聞 2010年4月20日
  4. ^ 中国船、日本のEEZ内で海保船に接近 外務省が厳重抗議 産経新聞 2010日5日4日
  5. ^ a b c d e 陸自配備 石垣島に変更検討 与那国町長「決裂やむなし」産経新聞 2013/04/04 08:34
  6. ^ 与那国島、陸自部隊を配備 駐屯地で式典 南西諸島防衛 朝日新聞 2016日3日28日
  7. ^ “与那国に陸自駐屯地 発足半年、変わる島の暮らし 関係者、人口の15%「顔を知らない人が増えて…」”. 日本経済新聞. (2016年8月5日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG30H50_R00C16A9CN8000/ 
  8. ^ “与那国島への陸自配備から1年余 島民に溶け込む自衛隊 国境の砦に「活気」と「安心」もたらす「地域のために 地域とともに」”. 『産経新聞』朝刊. (2017年7月3日). http://www.sankei.com/premium/news/170703/prm1707030009-n1.html 
  9. ^ “自衛隊誘致を決議 与那国町議会”. 琉球新報. (2008年9月20日). http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-136385-storytopic-1.html 2010年3月1日閲覧。 
  10. ^ 自衛隊誘致の外間氏再選 与那国町長選挙 八重山毎日新聞 2009年8月3日
  11. ^ 【与那国島が危ない】中国野放しの「友愛の海」 自衛隊誘致、町の悲願 産経ニュース 2009年10月14日
  12. ^ 櫻井よしこ「『週刊新潮』2009年9月24日号 日本ルネッサンス 拡大版 第379回「国境」が危ない」
  13. ^ a b 【与那国島レポート】与那国町・糸数健一議員に聞く」 日本文化チャンネル桜 2009年6月
  14. ^ 海上保安庁の施設は石垣保安部与那国駐在所のみで、巡視船艇の配備は無い。
  15. ^ 「南西諸島に自衛隊配備=北沢防衛相が検討表明、対中国で」 時事ドットコム 2010年4月30日
  16. ^ a b 「南西諸島に自衛隊配備、調査費要求へ 中国視野に防衛相」 朝日新聞 2010年4月30日
  17. ^ 与那国自衛隊配備、要求は「市町村協力費」 迷惑料の表現修正 琉球新報 3月29日(金)10時0分配信
  18. ^ “与那国自衛隊配備、要求は「市町村協力費」 迷惑料の表現修正”. 琉球新報 . (2013年3月29日). http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-204555-storytopic-3.html 2013年4月6日閲覧。 
  19. ^ “与那国配備白紙も 陸自沿岸監視部隊”. 琉球新報. (2013年4月19日). http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-205491-storytopic-3.html 2013年4月19日閲覧。 
  20. ^ “与那国町長選に独自候補 防衛協方針”. 沖縄タイムス. (2013年5月15日). http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-05-15_49252 2013年5月15日閲覧。 
  21. ^ “外間町長、方針を変更 「市町村協力費」問題”. 八重山毎日新聞. (2013年5月20日). http://www.y-mainichi.co.jp/news/22497/ 2013年5月20日閲覧。 
  22. ^ “陸自の与那国配備、交渉妥結へ”. 時事通信. (2013年6月19日). http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2013061900427 2013年6月19日閲覧。 
  23. ^ “与那国町が賃貸議案可決 来週中にも契約 陸自配備”. 産経新聞. (2013年6月20日). http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130620/plc13062020570007-n1.htm 2013年6月20日閲覧。 
  24. ^ “与那国町と防衛局、町有地賃貸仮契約締結”. 沖縄タイムス. (2013年6月27日). http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-06-27_50988 2013年6月27日閲覧。 
  25. ^ “与那国町長選:外間氏が出馬表明 保守系一本化”. 沖縄タイムス. (2013年7月7日). http://article.okinawatimes.co.jp/article/2013-07-07_51386 2013年7月7日閲覧。 
  26. ^ “与那国町長選、陸自部隊誘致推進の現職3選”. 読売新聞. (2013年8月11日). http://www.yomiuri.co.jp/election/local/news/20130811-OYT1T00606.htm 2013年8月11日閲覧。 
  27. ^ “防衛体制強化へ 陸自に町有地貸す契約”. NHK. (2014年3月31日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140331/k10013380061000.html 2014年3月31日閲覧。 
  28. ^ 広川高史 (2014年4月19日). “沖縄・与那国島で陸上自衛隊施設着工、小野寺防衛相が出席へ”. Bloomberg. http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N492JM6TTDS601.html 2014年4月19日閲覧。 
  29. ^ “東京新聞:与那国島の住民投票 陸自配備 賛成多数”. 東京新聞. (2015年2月23日). http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2015022302000151.html 2015年2月28日閲覧。 
  30. ^ “陸自配備、住民投票へ 与那国町議会 野党が多数派に”. 琉球新報. (2014年9月30日). http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-232335-storytopic-3.html 2015年2月28日閲覧。 
  31. ^ “与那国で住民投票始まる 陸自部隊配備の是非めぐり”. 産経新聞. (2015年2月22日). http://www.sankei.com/politics/news/150222/plt1502220008-n1.html 2015年2月22日閲覧。 
  32. ^ a b 神田大介 (2015年2月22日). “自衛隊配備「賛成」多数 沖縄・与那国の住民投票”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/articles/ASH2P7KVZH2PTPOB004.html 2015年2月22日閲覧。 
  33. ^ “陸自受け入れ是非、「賛成」過半数…与那国島”. 読売新聞. (2015年2月22日). http://www.yomiuri.co.jp/national/20150222-OYT1T50086.html 2015年2月22日閲覧。 
  34. ^ “与那国陸自配備、住民の工事差し止め訴えを却下 那覇地裁「武力衝突ない」”. 琉球新報. (2016年1月10日). http://ryukyushimpo.jp/news/entry-201438.html 2016年4月14日閲覧。 
  35. ^ “与那国の陸自基地 建設差し止め即時抗告は棄却”. 沖縄タイムス. (2016年3月19日). http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=159299 2015年4月14日閲覧。 
  36. ^ 防衛省、防空識別圏を拡大 最西端の与那国島 朝日新聞 2010年6月24日
  37. ^ “与那国島上空の防空識別圏の見直しについて” (プレスリリース), 防衛省・自衛隊, (2010年6月24日), http://www.mod.go.jp/j/press/news/2010/06/24a.html 2014年7月9日閲覧。 
  38. ^ “外交部:日本政府による台日間の防空識別圏境界線の拡張に関して” (日本語) (プレスリリース), 台北駐日経済文化代表処, (2010年6月1日), http://www.taiwanembassy.org/ct.asp?xItem=144115&ctNode=3591&mp=202 2014年7月9日閲覧。 

関連項目[ソースを編集]