ルックバック

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ルックバック』は、藤本タツキによる日本漫画作品。『少年ジャンプ+』(集英社)にて2021年7月19日に公開された、全143ページからなる長編読み切りである。小学生4年生の藤野と、同校に在籍する不登校の京本の、漫画を描く女子2人の人生が描かれている[1][2][3]

あらすじ

藤野は学年新聞で4コマ漫画を連載し、周囲から絶賛されていた[2][3]。ある日、教師が京本の漫画を掲載したいと告げる[2]。藤野は不登校児である京本を見下していたが、京本の画力は高く、周囲の児童からも称賛される[4]。2人が創作した漫画は共に新聞に掲載され[1][3]、藤野は屈辱を覚えながら絵の本格的な練習を開始するが[4]、友人・家族関係にも軋轢を生みながら重ねた研鑽の果てにも京本の画力には届かず、とうとうペンを折ることになる[5]

小学校の卒業式の日に教師から卒業証書を届けるよう頼まれた藤野は、この日初めて京本と対面し、2人は意気投合して藤野キョウというペンネームで漫画の創作を始める[4][5]。13歳で応募した作品が準入選となり[4]、17歳までに7本の読み切りを掲載[5]。漫画家として成功を収める2人であったが、高校卒業に際して2人の進路は分かれ、京本は東北地方の美術大学へ進学し、藤野は漫画雑誌での連載を開始して漫画製作を継続する。ここで両名のコンビは解消となる[4][5]

2016年1月10日、美術大学に不審者が侵入し12人の学生を殺害する。京本はその最初の犠牲者であった[4]。藤野は京本の死の原因が漫画家に彼女を導いた自分自身ではないかと苦悩する[5]。この事件をきっかけに物語は2つに枝分かれする。1つは京本が死亡した本来の世界、そしてもう1つは小学生時代に漫画をやめた藤野が、藤野と出会わずに不登校を脱して美術大学へ進学した京本を犯人から救い出すという、存在したかもしれない世界である。別の過程で再会を果たした2人が描かれた後、視点は元の世界の藤野に戻り、彼女が漫画を描いている後ろ姿を映して物語は幕を下ろす[4][5]

展開

日本時間の2021年7月19日から『少年ジャンプ+』で配信。配信開始から30分でTwitter上のトレンド2位に上った[1]。同日の午前10時過ぎにはトレンド1位となり[6]、関連するワードもトレンドを独占した[7]。閲覧数は一晩で120万を超え[6]、24時間で250万を突破し、2日弱で400万に到達した[8]。7月30日には既に閲覧数500万を超えている[5]

同年9月3日に単行本化される[9][8]

評価

ウェブメディア『Real Sound』では、反復構造に意味を仕込む手法や、時代性の高い作風、メッセージ性、作者自身の漫画愛が高く評価された[10]。同メディアの成馬零一は、文字による説明を最小限に抑えている点を指摘し、レイアウトとコマ運びが藤本タツキ作品の最大の魅力であると主張した。また、2019年7月18日京都アニメーション放火殺人事件2007年1月15日京都精華大学生通り魔殺人事件をモチーフにしているとも指摘し、京本ではなく藤野が被害を受けた可能性や、あるいは2人が加害者の立場に立った可能性を仄めかし、「漫画でしか描けない現実」を紡ぎ出していると賞賛した[4]

本作には漫画家や漫画関係者が多く反応した。漫画家では渡辺潤が本作と藤本を絶賛し、大童澄瞳も今後の抱負を決意した[11]浅野いにおも反応を見せた[12]。他に本作に言及した著名人には、手塚プロダクション取締役の手塚るみ子、アル株式会社代表取締役けんすう、映画監督上田慎一郎、ミュージシャン古賀隼斗、タレント野田クリスタル[11]詩人小説家最果タヒ随筆家犬山紙子などがいる[12]。劇中の舞台かつ藤本の出身校でもある東北芸術工科大学も反応を示した[11]

オマージュ・モチーフ

本作には多くのオマージュやモチーフが指摘されている。『ファミ通』の小林白菜は、2ページ目の"Don't"と最終ページの文字およびタイトルを組み合わせるとオアシスの「ドント・ルック・バック・イン・アンガー」のタイトルになること、また最終ページには映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』のブルーレイ版のパッケージに似たものが描かれていることを指摘している[7]タワーレコードの天野龍太郎も『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が描かれていることに同意し、また映画が1969年シャロン・テート殺害事件を未然に防ぐストーリーであることにも触れ、『ルックバック』の全体的なストーリーと共通しているとも述べた[13]。天野はこの他にも、藤野が雨に打たれながら喜んでいる場面を『雨に唄えば』や『ショーシャンクの空に』、パラレルワールドが描写されている点を『ラ・ラ・ランド』、漫画が藤野と京本の未来に大きく影響している点を『バタフライ・エフェクト』、事件発生後の藤野と事件発生前の京本がドアの隙間をすり抜けた4コマ漫画を介して繋がっている描写を『インターステラー』との共通点として挙げている[13]

美術大学襲撃は京都アニメーション放火殺人事件京都精華大学生通り魔殺人事件がモチーフになっていると指摘されている。前者の事件発生の日付は本作公開の前日であり[4][14]、後者の日付は京本の命日に近い[4]

犯人の表現を巡って

京本を襲った犯人の描写については、統合失調症をはじめとする精神障害ステレオタイプに見える点、また京都アニメーション放火殺人事件を連想させ事件関係者への配慮が欠けている点が一部の読者から指摘されていた[4][15]精神科医斎藤環は本作を「類まれな傑作」と高く評価した一方で、精神障害を抱えた犯罪者の「意思疎通が不可能な狂人」としての描写は読者に誤った認識を定着させてしまうと懸念した[15]。2021年8月2日、『少年ジャンプ+』編集部は、本作に不適切なシーンとして読者から指摘があったため表現を修正したと発表した。修正が行われたのは犯人の台詞や報道のテキストで、患者への差別を助長しないための措置であった[14][16][15]。なお作中の犯人が疾患者と具体的に書かれてはおらず、運命のメタファーとしての表現であり、まいじつライターの野木は創作表現に対して「配慮すべきというルールを押し付けるのもまた暴力的」と記述している[17]

出典

  1. ^ a b c 『チェンソーマン』作者、久々の新作読切公開 『ルックバック』143ページの長編で話題「天才」「面白い!」”. オリコン (2021年7月18日). 2021年8月2日閲覧。
  2. ^ a b c 藤本タツキ「ルックバック」鬼才が抉る140P超の新作読切登場!”. コラボカフェ (2021年7月19日). 2021年8月2日閲覧。
  3. ^ a b c 藤本タツキが143ページの大ボリュームで描く青春読切、ジャンプ+で公開”. コミックナタリー. ナターシャ (2021年7月19日). 2021年8月2日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g h i j k 成馬零一 (2021年7月19日). “藤本タツキが挑んだ短編漫画「ルックバック」 込められた切迫感と“漫画でしか描けない現実””. Real Sound. 2021年8月3日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g hamatsu (2021年7月30日). “藤本タツキは『ルックバック』を“描かずにはいられなかった”のではないか?──「受け手に湧き上がる衝動によって駆動する物語」としての『ルックバック』を考える”. ファミニコゲーマー. KADOKAWA Game Linkage. 2021年8月2日閲覧。
  6. ^ a b 「チェンソーマン」作者の新作読み切り「ルックバック」、一晩で閲覧120万超え 「ジャンプ+」で無料公開中”. ITmedia (2021年7月19日). 2021年8月3日閲覧。
  7. ^ a b 小林白菜 (2021年7月19日). “藤本タツキ『ルックバック』が大反響! ジャンプ+にて公開中、143ページの大長編読切マンガのタイトルに込められた意味とは?”. ファミ通. KADOKAWA Game Linkage. 2021年8月2日閲覧。
  8. ^ a b 藤本タツキ氏『ルックバック』単行本が9月3日に発売決定。話題の143ページ読切が早くもコミックス化”. ファミ通. KADOKAWA Game Linkage (2021年7月20日). 2021年8月2日閲覧。
  9. ^ 藤本タツキ氏の新作読切『ルックバック』早くもコミックス化、9・3発売 トレンド1位の話題作”. オリコン (2021年7月20日). 2021年8月2日閲覧。
  10. ^ 『チェンソーマン』藤本タツキの新作読切『ルックバック』に称賛の嵐 「天才」「泣ける」の声多数”. Real Sound (2021年7月19日). 2021年8月2日閲覧。
  11. ^ a b c 藤本タツキ「ルックバック」が与えた衝撃 「心臓の奥から泣いた」同業者・著名人・母校...止まぬ絶賛の声」『J-CASTニュース』、2021年7月19日。2021年8月3日閲覧。
  12. ^ a b チェンソーマン作者による読切漫画「ルックバック」が話題、奈良美智や村上隆らアーティストからも反響”. Fashionsnap.com. レコオーランド (2021年7月19日). 2021年8月2日閲覧。
  13. ^ a b 天野龍太郎 (2021年7月19日). “藤本タツキ衝撃の漫画「ルックバック」に見る数々の映画との共通点”. Mikki. タワーレコード. 2021年8月3日閲覧。
  14. ^ a b Web漫画「ルックバック」、読者の指摘で表現を修正 「チェンソーマン」作者の読み切り ネットは賛否”. ITmedia (2021年8月2日). 2021年8月2日閲覧。
  15. ^ a b c 森田将輝 (2021年8月2日). “藤本タツキ『ルックバック』表現を変更へ 「通り魔」の描き方で議論が紛糾”. KAI-YOU. 2021年8月2日閲覧。
  16. ^ 日下弘樹 (2021年8月2日). “漫画「チェンソーマン」作者・藤本タツキ氏の読切「ルックバック」一部修正”. Game Watch. Impress. 2021年8月2日閲覧。
  17. ^ 藤本タツキ新作『ルックバック』に抗議殺到!? 果たして「心を傷つける作品」だったのか”. まいじつエンタ (2021年7月23日). 2021年8月3日閲覧。

関連項目

外部リンク