車両限界

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トンネルの大きさが列車の最大寸法を決定している例

車両限界(しゃりょうげんかい)とは、全ての鉄道車両自動車が従わなければならない、車体断面の大きさの限界範囲のことである。

総説

車両限界はしばしば最大の幅と高さのことであると考えられがちであるが、実際にはトンネル、鉄道の場合であれば第三軌条プラットホーム、信号設備、ラック式鉄道のラックなどの高さや位置、形などに応じて、多くの要素に対して大きさが決められている複雑な形状が定められている。

国によって車両限界は異なっており、同じ国の中でも鉄道会社や路線によって異なっている。地下鉄は、一般的な鉄道に比べて小さなトンネルを許容して建設費を抑えるために、小さな車両限界を採用することが多い。その場合、地下鉄の車両は地上の線路を走行できても、その逆はできないことになる。

専門家は、単なる静的な車両の形状だけではなく、サスペンションの伸び縮みやカーブでの車体の内外へのはみ出し(偏倚(へんい)という)、車体の振動など、車両の動的な動きを考慮することが普通である。

車両側の最大断面範囲を決定するのが車両限界であるのに対して、周辺の建物や構造物の最小断面範囲を決定するのが建築限界である。車両限界と建築限界の間には、前述の車両の動的な動きを考慮し、さらに工学的な余裕を含めたクリアランスが必要となる。

プラットホームの高さと列車の床の高さ

プラットホームの高さと列車の床の高さの違いは、車両限界と建築限界の間で問題が表れる典型的な点である。高さの違いは、旅客の安全と列車運行の効率に大きな影響を与える。ステップが取り付けられていると旅客の乗降が遅くなる。車両限界と建築限界に大きな差があると、ホームと列車の間に隙間ができ、これも旅客の乗降に影響を与える。異なる車両限界・床面高さの車両が同じホームを使う場合、特に問題は大きくなる。

軍事上の制限

軍事においては鉄道輸送は重要な問題であるため、戦車や重火砲など重装備は車両限界の範囲に収まるように設計されなければならないという問題をかかえる。 特に戦車の横幅が3メートルを超える場合に日本などは車両限界の横幅を超えてしまい、自衛隊では鉄道輸送をあきらめるという選択を迫られる場合もある。 車両限界を越える場合には分解した状態で輸送されることもある。ティーガーI重戦車のように車両限界のために鉄道輸送時には転輪を外してキャタピラを幅の狭い輸送用の物に交換すると言った対策が取られることもあった。

鉄道の車両限界

路線によって異なる車両限界を利用している例。ロンドン地下鉄では2種類の車両限界の車両を使用している。左のメトロポリタン線の列車が右のピカデリー線の列車をレイナーズレーン駅ですれ違っている様子

車両限界は世界各国で異なっている。標準軌の鉄道で最も小さな車両限界はロンドン地下鉄のチューブで使われているもので、最も大きな車両限界は英仏海峡トンネルで使われているものである。

鉄道の発祥の地、イギリスの主要路線では、初期の技術者が将来大きな列車が必要とされることを予測できず、また初期には鉄道施設を建設するために大きな技術的困難に直面したため、車両限界はかなり小さなものとなっている。ヨーロッパ大陸では多くの路線でベルン・ゲージBerne gauge)で定められたいくらか大きな車両限界に沿っている。北アメリカではこれよりもさらに大きい。ロシア(旧ソビエト連邦諸国・フィンランドを含む)やインドパキスタンを含む)の車両限界は世界で最も大きい。一方スカンジナビア半島の他の国はヨーロッパ大陸と北アメリカの、ギリシャ中国、英仏海峡トンネルは北アメリカとロシア(世界で最も大きい車両限界)の中間である。

国際鉄道連合規格

国際鉄道連合 (UIC) はA、B、B+、Cの一連の車両限界の標準規格を定めている。

UIC A限界
UIC標準の中でもっとも小さい(PPI限界より少し大きい)[1]。最大寸法は3.15 m×4.32 mである。
UIC B限界
フランスTGVの多くの路線がUIC B限界を採用している[1]。最大寸法は3.15 m×4.32 mである。
UIC B+限界
フランスにおける新しい区間はUIC B+限界を採用している[1]
UIC C限界
中央ヨーロッパの限界である。ドイツやその他の中央ヨーロッパの国の鉄道網はUIC C限界を採用しており、またスカンディナヴィア諸国からの列車がドイツの駅に直通できるようにするために、幅を少し広げてあることもある[1]。最大寸法は3.15 m×4.65 mである。

日本

日本の主な車両限界[2]

車両限界という用語は、鉄道に関する技術上の基準を定める省令平成13年12月25日国土交通省令第151号)第64条にある。設定目的は、車両が線路上を安全に走行できるためにその幅、高さ等の数値を制限することである。具体的な数値は、その線路を走行する車両の構造や軌道構造によって異なり、鉄道事業者によっては路線ごとに異なる車両限界を設定することもある。

例として、JRの新幹線在来線東京地下鉄(東京メトロ)の銀座線半蔵門線などが挙げられる。

JR在来線は狭軌を採用しているが、ヨーロッパの標準軌の鉄道と比べても遜色のない車両限界を採用しており、最大幅は3,000 mm、最大高は4,100mmとなっている。新幹線においては、最大幅は3,400 mm、最大高は4,500mmとなっている[3]

民鉄では、古くから貨物輸送を行ってきた会社では国鉄との貨車のやり取りの関係などで鉄道建設規程または地方鉄道建設規程準拠としていることが多く、一方で関西私鉄などを中心に、路面電車から都市間電車(インターアーバン)へ発展した関係から標準軌を採用しているにもかかわらず地方鉄道建設規程よりも車両限界が小さい例や、地方鉄道建設規程ともJRの在来線が採用する普通鉄道構造規則とも異なる独自の車両限界(大阪市交通局の第三軌条電化線区、新京阪鉄道由来の阪急電鉄京都線系統各線など)を必要に応じて制定・採用した事例が存在する[4]

また、JRにおいても、高尾以西の中央本線身延線観音寺以西の予讃線のように、断面の小さな古いトンネルを活かして電化したため、天地方向の車両限界が他線よりも小さく、入線可能な車両に制約のある場合も存在する。

東アジア諸国

日本以外の東アジア諸国、中国朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、大韓民国では、主要幹線で最大幅3,400 mm、最大高さ4,500mmとなっている。これは新幹線と同じ値である[3]

ヨーロッパ大陸

ドイツの車両限界を示した図

ヨーロッパでは、UIC指令はERA相互運用性に関する技術仕様 (ERA Technical Specifications for Interoperability, TSI) で置き換えられている。TSIは欧州連合が2002年に発行したもので、鉄道網の相互運用のための多くの推奨基準を示している。TSI鉄道車両 (2002/735/EC) はUICの動的な限界の定義を置き換えており、GA限界、GB限界(どちらも高さ4.35 m、形が異なる)、GC限界(高さ4.7 m、幅3.08 mの平坦な屋根を持つ)の参考限界を定義している[5]

GB+限界の定義は、ISOコンテナとそれを搭載したトレーラーを輸送する汎ヨーロッパ貨物網を造る計画を参照したものである。このピギーバック輸送の列車は、B限界の上部を平坦にしたものを通過することができるので、大陸ヨーロッパで広く使われているB限界にわずかな変更を加えるだけで適用できる。イギリス諸島では、GB+限界を適用できるように拡張するように改築が行われているところがあり、最初にこれが適用されたのは英仏海峡トンネルである。

イギリス

イギリスのネットワーク・レールでは、車両限界をWで始まる記号で表している。もっとも小さいW6AからW7、W8、W9、W9Plus、W10、W11、最大のW12である。これに加えて、C1限界が客車用、UK1限界が高速鉄道用に用意されている。また機関車用の限界もある。輸送可能なコンテナの大きさは、コンテナ自体の大きさと車両の設計の両方に依存する[6]

W6a限界
イギリスの鉄道網の大半はこの限界を満たしている[7]
W8限界
8 フィート6 インチ (2.6 m) の高さがあるコンテナを標準の貨車に載せて運べる限界である[8]
W9限界
9 フィート6 インチ (2.9 m) の高さがあるハイキューブコンテナを"Megafret"という低床設計の貨車に載せて運ぶことができる限界である[8]。また2.6 m(8 フィート6 インチ)の幅があり、ユーロパレットを効率的に運べるように設計された[9]2.5 m(8 フィート2 インチ)幅のユーロシッピングコンテナを運ぶことができる[10]
W10限界
9 フィート6 インチ (2.9 m) の高さがあるハイキューブコンテナを標準の貨車に載せて運ぶことができる限界である[8]。また2.5 m幅のユーロシッピングコンテナを運ぶこともできる。UIC A限界よりも大きい[11]
W11限界
ほとんど使われていない限界であるが、UIC B限界より大きい[11]
W12限界
W10限界よりわずかに大きく、2.6 mの高さのある冷蔵コンテナを運ぶことができる[12]
UIC GB+限界
CTRL英仏海峡トンネルで採用されている限界で、ミッドランド本線でも採用する提案がされている[13]

2004年に車両限界の拡大のための戦略が採用され[14]、2007年には「ネットワーク・レール貨物ルート利用戦略」が発表されて、W10限界まで車両限界を確保すべきであって、かつ構造物を更新する際にはW12限界を採用している多くの重要なルートを定義している[12]

北アメリカ

北アメリカでは一般的に使用されているダブルスタックカーが最大の車両限界高さを必要とする

北アメリカで貨車に適用されている車両限界は、アメリカ鉄道協会(AAR)の定めた標準に基づいている[15]。もっともよく使われている標準はAARプレートBかAARプレートCであるが、これよりさらに高い車両限界も、ダブルスタックカー車運車の運行を可能にするために選択された特定のルートに対して適用されている。

貨車

AARプレートBでは、高さ15フィート1インチ(4,597 mm)、幅10フィート8インチ(3,251 mm)で台車の間隔(ボギーセンター)は41フィート3インチ(12.573m)と定められている。ボギーセンターが41フィート3インチより長くなるにつれて、AARプレートB-1のグラフに従って幅の限界が狭められる。AARプレートCでは高さ15フィート6インチ(4,724 mm)、幅10フィート8インチ(3,251 mm)、ボギーセンターは46フィート3インチ(14.097m)と定められている。ボギーセンターが46フィート3インチより長くなるにつれて、AARプレートC-1のグラフに従って幅の限界が狭められる。

ここに示したのは車両の最大高さと幅である。しかし、実際の車両限界は上部と下部が斜めになっており、この最大高さと幅で示される長方形のサイズが許容されるというわけではない[16]

プレートB
高さ15 フィート1 インチ (4.6 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)、ボギーセンター間距離41 フィート3 インチ (12.57 m)。このボギーセンター間距離を超えると、AARプレートB-1のグラフに従って車体幅が小さくなる。
プレートC
高さ15 フィート6 インチ (4.72 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)、ボギーセンター間距離46 フィート3 インチ (14.1 m)。このボギーセンター間距離を超えると、AARプレートC-1のグラフに従って車体幅が小さくなる[15]
プレートD
高さ15 フィート6 インチ (4.6 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)。プレートBと最大値は同じであるが、断面は上部でプレートBよりかなり大きく、下部でも少し大きい。
プレートE
高さ15 フィート9 インチ (4.8 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)。
プレートF
高さ17 フィート0 インチ (5.18 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)。
プレートH
高さ20 フィート2 インチ (6.15 m)[17]ダブルスタックカー用。
プレートJ
幅9 フィート11+38 インチ (3.03 m)。特に長い長物車用。
プレートK
高さ20 フィート2 インチ (6.15 m)、幅10 フィート8 インチ (3.25 m)、車運車用。

技術的にはプレートBが今でも多くの路線で最大で、プレートCはかなり制限されている。しかしながら、高さ18フィート(5,486 mm)のピギーバック輸送車両、大型の有蓋車に始まり、後には車運車、航空機部品輸送車両や高さ20フィート2インチ(6,147 mm)のダブルスタックカーなどが登場するにつれて、プレートCよりもさらに高い車両限界で設計される路線が増えている。

旅客車

北アメリカの旅客車両では標準で幅10フィート6インチ(3,200 mm)、高さ14フィート6インチ(4,420 mm)、連結器面間85フィート(25.908m)、ボギーセンター59フィート6インチ(18.136m)、または連結器面間86フィート(26.213m)、ボギーセンター60フィート(18.288m)が適用されている[18][19]1940年代から1950年代にかけて、西部で高さは16フィート6インチ(5,029 mm)まで拡大され、ドーム付きの車両やスーパーライナー、2階建て車両の運行を可能にした。

南アフリカ

南アフリカでは、1,065mm狭軌(ケープゲージ)が採用されているが、車両限界は日本と同様に大きく取られており、主要幹線では最大幅は3,048mm、最大高さは3,962mmである[3]

車両限界表

各国の車両限界の値を表にして示す。その国で全国的な鉄道網を形成している路線において、もっとも一般的とされる値を示す。

主要国の車両限界(単位ミリメートル)
軌間 最大幅 最大高さ
日本(在来線)[3] 1,067 3,000 4,100
日本(新幹線)[3] 1,435 3,400 4,500
東アジア諸国[3] 1,435 3,400 4,500
インド[20] 1,676 3,250 4,140
ヨーロッパ大陸(PPI限界(ベルン・ゲージ))[21] 1,435 3,150 4,280
イベリア半島[22] 1,668 3,274 4,300
英仏海峡トンネル[23] 1,435 4,100 5,600
北アメリカ(AARプレートB) 1,435 3,251 4,597
北アメリカ(AARプレートC) 1,435 3,251 4,729
南アフリカ[3] 1,065 3,048 3,962

道路の車両限界

道路において「車両限界」という用語はないが、日本では車両制限令(昭和36年7月17日政令第265号)や道路運送車両の保安基準(昭和26年7月28日運輸省令第67号)において、車両の幅、高さ等の限界値を定めている。ただし、道路交通の安全性とともに道路構造保全も目的とした数値であり、鉄道の車両限界の概念とは若干相違している。

脚注

  1. ^ a b c d European Loading Gauges” (英語). Modern Railways (1992年4月). 2010年9月15日閲覧。
  2. ^ 「電気鉄道技術入門」p.20、「日本の貨車」pp.91 - 93
  3. ^ a b c d e f g 久保田博『鉄道工学ハンドブック』グランプリ出版、1997年2月13日、pp.148 - 149頁。ISBN 4-87687-163-9 
  4. ^ 鉄道史資料保存会 編『新京阪車輛構造図集』鉄道史資料保存会、1984年12月1日、p.125頁。ISBN 4-88540-042-2 
  5. ^ TSI Rolling Stock (2002/735/EC)” (PDF). Commission of the European Communities (2002年9月12日). 2010年9月16日閲覧。
  6. ^ GE/GN8573” (PDF). 2009年5月15日閲覧。
  7. ^ Business Plan 2004 - Network Capability” (PDF). ネットワーク・レール. 2009年5月15日閲覧。
  8. ^ a b c Felixstowe South reconfiguration inspector's report”. イギリス運輸省. 2009年5月15日閲覧。
  9. ^ Standard Shipping Containers”. Container container. 2009年5月18日閲覧。
  10. ^ TEN PROPOSED ENHANCEMENT SCHEMES IN SCOTLAND”. Freight on rail. 2009年5月17日閲覧。
  11. ^ a b British and Continental Railway Loading Gauges”. Joyce's World of Transport Eclectica. 2007年9月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年5月18日閲覧。
  12. ^ a b 24 November 2006 Freight RUS Consultation Response National RUS” (PDF). Central Railways. 2009年5月17日閲覧。
  13. ^ Strategic Freight Network: The Longer-Term Vision”. イギリス運輸省. 2009年5月17日閲覧。
  14. ^ New SRA Gauging Policy Aims to Make Best Use of Network Capability” (PDF). イギリス運輸省. 2009年5月15日閲覧。
  15. ^ a b Car and Locomotive Cyclopedia Of American Practice
  16. ^ Comparaison des gabarits UIC et nord-américains (Comparison of UIC and North American Gauges)”. Marc Dufour. 2009年10月16日閲覧。
  17. ^ April 2001 Official Railway Equipment Register
  18. ^ http://www.emdx.org/rail/Gabarit/index.html
  19. ^ http://www.emdx.org/rail/Gabarit/ComparaisonGabaritsEuropenEtAAR.pdf
  20. ^ Technical Requirement” (PDF). 国際連合アジア太平洋経済社会委員会. 2010年9月15日閲覧。
  21. ^ uic.gif”. 2012年7月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月15日閲覧。
  22. ^ renfecp.gif”. 2012年6月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年9月15日閲覧。
  23. ^ David Lowe. Intermodal freight transport. pp. p.87. http://books.google.co.jp/books?id=72wkhXGPbXIC&lpg=PA86&ots=zNDM_Ckufx&dq=russia%20railway%20loading%20gauge&pg=PA87#v=onepage&q=russia%20railway%20loading%20gauge&f=false 

参考文献

  • 久保田博「鉄道工学ハンドブック」グランプリ出版 1995年 ISBN 4-87687-163-9 pp.148 - 149
  • 持永芳文 「電気鉄道技術入門」 オーム社 2008年 ISBN978 4-274-50192-0
  • 貨車技術発達史編纂委員会編 「日本の貨車 - 技術発達史 -」 社団法人 日本鉄道車輌工業会 2008年

関連項目

外部リンク