硬水

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硬水(こうすい)とは、カルシウムマグネシウム金属イオン含有量が多いのことである。逆のものは軟水という。

概要

水中に含まれるイオンの量によって軟水、中軟水(中硬水)、硬水、超硬水と呼び分けられる。多くの場合、mg/Lで比較される。

名称 硬度 (mg/L) 硬度 (mmol/L) 硬度 (dGH/°dH) 硬度 (gpg) 硬度 (ppm)
軟水 0–60 0–0.60 0-3.37 0-3.50 < 60
中軟水(中硬水) 61–120 0.61–1.20 3.38-6.74 3.56-7.01 60-120
硬水 121–180 1.21–1.80 6.75–10.11 7.06-10.51 120-180
超硬水 ≧ 181 ≧ 1.81 ≧ 10.12 ≧ 10.57 > 180

また、硬水は含有するイオンのタイプによって一時硬水永久硬水の2種類に分けることができる。前者は石灰岩地形を流れる河川水、地下水などで、炭酸水素カルシウムを多く含み、煮沸することにより軟化することができる(反応式は後述)。後者はカルシウムやマグネシウムの硫酸塩塩化物が溶け込んでいるもので、煮沸しても軟化されない。以前は蒸留しないと飲用に適さない水であったが、現在はイオン交換樹脂でイオンを除去し、軟化させることが容易となった。

ヨーロッパの水に多い。アメリカ合衆国では東部・南部・太平洋岸では軟水が多く、南西部は硬水が多い[1]日本では関東地方の一部や南西諸島に見られる。日本では、ほとんどの地域の水は軟水であり、上水道に硬水が供給される沖縄本島では、水道水の硬度を下げる処理を施している。

利用

一般に、飲料水料理洗濯染色工業等の用途には適さない[要出典]

水に含まれるミネラルが多くなるほど口当たりが重く、癖の強い味になるため、ミネラルを多く含む硬水は軟水と比べて飲み辛く、飲用に適さないものが多い。

また、水分子と強く結合(水和)するマグネシウム・イオンは体内に吸収されにくい。これを人間が摂取すると、大腸に長時間留まり、水の吸収を阻害する。この結果、腸内に水分が溜まり、下痢をひき起こす。このような理由から、硫酸マグネシウムを多く含む硬水を飲むと下痢をしやすくなる。しかし、硬水の中でも飲用に適しているものも存在し、水に含まれているミネラルを栄養として利用するために、飲料として販売されているものもいくつか存在する。(例:硬度が1468のコントレックスなど)

石鹸脂肪酸ナトリウムの塩であるから、硬水のマグネシウム・イオンと出会うと不溶性の塩(石鹸かす)を生じ、使用感が悪い。また、衣類にその塩が付着するので色のくすみが生じ、衣料の保存中にそれが分解して脂肪酸となり、さらに酸化して異臭を発したりする。染色ではカルシウム・イオンが染料と反応し、不溶性の色素が生じ、それが繊維と結びつくため、色むらが生じる。

硬水が蒸発すると、含まれていた塩類が析出する。したがって、洗浄に用いた場合などはすぐに拭き取らないと表面に白い斑点が生じる。一時硬水を自動車エンジンの冷却水として使用するとオーバーヒート、水漏れなどの問題が生じる場合がある。また、工業用ボイラーにおいては、加熱によってライムスケイルLimescale、缶石、水垢石灰の意。 )が生じるため、パイプ詰まりを起こしたり、熱効率を著しく低下させたりする。

料理

料理に使う場合も軟水の方が適している場合が多いが、肉の煮込み料理の場合は、余分なタンパク質などを灰汁として抜き出し、肉を軟らかく[2]したり、臭みを消したりする効果があるため、硬水の方が適していて肉料理や肉を使った洋風だしを作る上で適している[3][4]。また、糊化が抑制されるため、スパゲッティではを入れなくてもアルデンテになり、ジャガイモでは煮崩れが抑制され[2]たり、や米では堅く炊きあげる事ができる。また、近年まで、緑茶は通常軟水で煎れたものがうまいと考えられていたが、硬水で煎れたものが旨みが強いとする研究がある[5]。一方、和食で使用される昆布グルタミン酸鰹節イノシン酸のようなうま味成分の抽出を阻害するので軟水の使用が望ましい[3][6][7]等の穀類では軟水の方が適しており、コーヒーでは浅煎りのアメリカンでは軟水を用いることで、豆本来のよい香りとさっぱりした味を楽しむことができ、深煎りのエスプレッソでは、硬水を用いることで渋味の成分がカルシウムなどに結びついて、苦み、渋みが除かれまろやかさが増してコクが加わる[7]

醸造

醸造酒日本酒ビール蒸留酒焼酎など、酒造においては硬水であっても問題とならない。水中のミネラルは糖をアルコールに変える酵母を活性化させ、発酵が進みやすくなるため、すっきりした口当たりの、辛口の酒ができると言われる。日本の酒処でもの水は中硬水で、隆起珊瑚礁の島が多い沖縄県泡盛鹿児島県奄美黒糖焼酎の仕込み水は硬水である例が多い。ただし、焼酎の割り水(希釈水)は軟化処理してから用いるのが普通である。

健康との関係

世界保健機関によると、水の硬さと健康の関係は現在のところ充分に研究されておらず不明とする。他方、軟水は金属を腐食させる傾向が高く、重金属中毒を引き起こすおそれがあるとする[8]。日本では水道水質基準によってpHを保つことにより腐食を防止している[9]

化学

硬水を煮沸すると炭酸カルシウムを沈降させることができる。

また、軟水化剤の投入でもカルシウム塩を沈殿させることができる。

蒸気機関車鉄道動力の主力であった時代は、軟水の確保は深刻な問題であり、砂漠の中の機関車給水設備には必ず軟水化のための施設が付属していた。上述の式の右辺に生じる炭酸水素ナトリウムはボイラー中で炭酸ナトリウムになり、これは定期的に排水されて低濃度に保たれる。

語源

語源については、英語hard water直訳したというもの、ご飯など、煮物を硬くする成分を含んでいるため硬水といわれる、などの説[10]がある[独自研究?]

脚注

  1. ^ Water Hardness and Alkalinity”. USGS Water-Quality Information. 2014年9月30日閲覧。
  2. ^ a b 鈴野弘子、石田裕:水の硬度が牛肉,鶏肉およびじゃがいもの水煮に及ぼす影響 日本調理科学会誌 Vol.46 (2013) No.3 p.161-169
  3. ^ a b 軟水と硬水について
  4. ^ そのため硬水の多い欧州では肉料理が主流になる。
  5. ^ 茶の呈味におよぼす水質(特にCa)の影響と味認識装置による評価 日本調理科学会誌 Vol.47 (2014) No.6 p.320-325
  6. ^ 硬水・軟水で料理の味が変わる
  7. ^ a b 軟水、硬水はどのように使い分けされているのでしょうか。
  8. ^ Hardness in Drinking-water” (pdf). World Health Organization. 2014年9月30日閲覧。
  9. ^ pHとは”. 東京都水道局. 2014年9月30日閲覧。
  10. ^ 他に「豆を煮ると豆が固くなる水」、「絹を精錬する時に絹が固くなる水」という説もある[独自研究?]

関連項目