中山七里 (小説家)

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中山 七里
(なかやま しちり)
誕生 (1961-12-16) 1961年12月16日(62歳)
日本の旗 岐阜県[1]
職業 小説家
国籍 日本の旗 日本
活動期間 2010年 -
ジャンル 推理小説
代表作贖罪の奏鳴曲
主な受賞歴 『このミステリーがすごい!』大賞(2009年)
デビュー作さよならドビュッシー
ウィキポータル 文学
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中山 七里 (なかやま しちり、1961年12月16日[2] - )は、日本小説家推理作家岐阜県出身[1][3]花園大学文学部国文学科卒業[4]。男性。既婚者で、家族構成はエレクトーン教師の妻と息子[5]

経歴

1961年、岐阜県の呉服屋の家に生まれる[6]。幼稚園に入る前からどこでも常に本を読むような子供で、保育園の保母さんにも「本を書く人になりたい」と言っていた[6]。小学生の時にアーサー・コナン・ドイルシャーロック・ホームズシリーズモーリス・ルブランアルセーヌ・ルパンシリーズを読み尽くし、中学生の頃にはアガサ・クリスティーエラリー・クイーンなどのミステリの有名どころはほとんど読み終える[7]。1970年代半ば、映画『犬神家の一族』を観て横溝正史江戸川乱歩にのめり込み、江戸川乱歩賞を知って受賞作を読みつくす[6]。そして自分でも書いてみようかと思い立ち、高校時代から創作を始める[6]。小説新人賞などに投稿していたが[3]、大学時代、「謝罪」[注釈 1]というタイトルで東大安田講堂の落城の話を書き、江戸川乱歩賞に応募したところ予選を通過[6]。しかし2次選考で落選した[7]。その後、就職とともに創作から一旦離れる[3]

2006年、大阪単身赴任時にファンだった島田荘司の『UFO大通り』のサイン会に行って初めて生で小説家を見て、「今小説を書かなければ、もう一生書かないに違いない」と思い立ち[8]難波の電気屋でノートパソコンを買い求め[6]、20年ぶりに執筆を開始した[3]。この時に書いたのが『魔女は甦る』であり、このミステリーがすごい!大賞に応募したところ、最終審査まで残るも落選。しかし2009年、『さよならドビュッシー』で第8回このミステリーがすごい!大賞を受賞し[3]、48歳での小説家デビューとなった[9]。受賞作のほかに「災厄の季節」(のちに『連続殺人鬼カエル男』として刊行)も同賞初のダブルノミネートし、話題となった[3]。 ペンネームは本人の故郷にも程近い岐阜県下呂市にある渓谷・中山七里飛騨木曽川国定公園)にちなんでつけられた[6]

当初は会社員との兼業だったが、連載を6本抱えるまでになると有給休暇を使い切っても両立が難しくなったため、専業作家となる[10]。岐阜の自宅とは別に東京に仕事場を持ち、行き来しながら執筆を続けている[10]

作風

明るく爽やかな音楽ミステリー路線、ダークでシリアスなサスペンスや法律路線など幅広い作風の作品を手掛ける。これは普通に続けるだけでは一発屋で終わってしまう、どうしたら長く小説家として続けられるだろうと必死に考えた結果、警察小説に音楽ミステリー、法廷ものコージー・ミステリなど様々なジャンルに手を出してある程度保っておけば、どれかひとつが廃れても生き残っていけるだろうと考えたからであったという[6]。ミステリ評論家の佳多山大地は、なかでも「露悪的社会派ミステリー」の書き手として異彩を放っていると評価している[11]。『さよならドビュッシー』からはじまる岬洋介シリーズはクラシック音楽を題材とした作品であるが、中山本人は音楽に関して素人であり、楽器も何も演奏できない[5]

脇役と主役が入れ替わるなどして作品ごとに主人公は異なるものの、ほとんどの作品で出版社の枠を超えて話や世界観、登場人物がリンクしている[12]。これについて本人は、「本格派の方たちとは違って“犯人は誰か”(フーダニット)や“どのようにやったのか”(ハウダニット)という謎だけで最後まで楽しませる自信がないから」「付加価値としてより読者に楽しんでもらうため」と話しており[6][7][13]、自身の作品はそれよりも動機である何故の部分(ホワイダニット)に重心を置いて執筆している[7]。背景世界がひとつにつながるという作風は海堂尊桜宮サーガに通じるものがあるが、それについては海堂本人に「すみません、ちょっとやり方を真似させてもらいました」と言ったところ「いや、私は東野圭吾さんの真似をしたから(笑)」と返されたというエピソードがある[6]。また、ミステリ=驚きの文学であるという思いから、最後の数ページで世界観ががらりと変わるどんでん返しが仕掛けられていることが多く、いつからか「どんでん返しの帝王」などと呼ばれるようになった[7][14][15]。登場人物に関しては何かが欠けている人物を描くことが多く、複数の作品に登場する古手川和也に関しては“成長するキャラクター”として描き続けたいと話している[16]。また、まだ誰にも気づかれていないが登場人物の名前には共通点があるのだという[13]

作家にとっては書き続けていけることこそが一番のステイタスだと考えており、求められることを正確に汲み取り、かつ迅速に世に送り出すということを常に意識している[8][注釈 2]。そのため、小説を書く時はいつも編集者に「どんな話がいいですか?」とリクエストをするところから始まり、その返答や出版社のカラーによって登場人物やテーマが決まる[3][6][9]。そしていつも3日ほどでプロットを出すが[17]、その時にはすでに章の構成や物語の山場、最後の一行までが出来上がっており[7][9]、本人曰く「あとは頭の中をダウンロードするだけ」なため、日によって執筆の調子が良い・悪いの波も無いという[10]。基本的に取材をしたり資料を読むことは無く[4][18]、メモもとらない[17]。昔から見聞きしたものを忘れない性分で、読んできた小説や観続けてきた映画はおもしろいものからつまらないものまで含め、ストーリーや配役、タイトルバックなど様々な要素まで覚えている[17]。そのため、作家になってからも物語のアイデアはその頭の中のアーカイブから常に生まれてきていて[17]、バーゲンセールをするくらいにあるとインタビューでは話している[9]。また、書いた作品がどこで何と評価されようとも、デビュー作である『さよならドビュッシー』刊行時にもらった84枚の読者からのハガキが励みになっており、書き続けることのモチベーションになっているという[10]。作家としての一番の目標は、寝食を忘れて一気読みしてもらえる小説を書くこと[4][5]

人物

趣味は映画観賞[4]。中学1年生の時に『ジョーズ』を観てのめり込み[10]、中学・高校時代は土曜日の最後の授業を休んでまで毎週末映画館に通い詰め、公開されている作品を手当たり次第に全部観ようとしていた[18]。大学時代はアルバイトと学校の合間に睡眠時間を削ってまでも1日2本を見続ける生活を続ける[18]。就職してからも転勤するたびに家を映画館の近くにするなど映画漬けの日々を送り、現在も執筆を行う書斎は大型スクリーンや音響装置を完備するシアタールーム仕様にし、もう1つの趣味であるフィギュアとともに数千作品のコレクションを並べている[10][18]。映画は観るのが専門で、自分で制作したり批評したりすることには興味がない[18]。映画は自分にとっての「学校」であり、学校で教えてくれないことは全て映画から学んだと話している[18]。その中でも自分にとってのオールタイムベストは1982年のアメリカ映画『E.T.』であり、伏線の回収や緩急のつけ方、キャラクター造形など物語作りの基本はすべてこの映画から学び、初観から数十年たった今でも年に1回は必ず観るという[19]

自身と同じ第8回このミス大賞出身作家の太朗想史郎七尾与史伽古屋圭市とはプライベートで同期会を開催したことがある[20]

作品リスト

単行本

岬洋介シリーズ

御子柴礼司シリーズ

刑事犬養隼人シリーズ

  • 切り裂きジャックの告白(2013年4月 角川書店
    • 【改題】切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人(2014年12月 角川文庫
  • 七色の毒(2013年7月 角川書店)
    • 【改題】七色の毒 刑事犬養隼人(2015年1月 角川文庫)
      • 収録作品:赤い水 / 黒いハト / 白い原稿 / 青い魚 / 緑園の主 / 黄色いリボン / 紫の供花(単行本収録時は『紫の献花』)
  • ハーメルンの誘拐魔(2016年1月 角川書店)

その他

アンソロジー

「」内が中山七里の作品

  • このミステリーがすごい!』大賞10周年記念 10分間ミステリー(2012年2月 宝島社文庫)「最後の容疑者」
  • しあわせなミステリー(2012年4月 宝島社)「二百十日の風」
    • 【改題】ほっこりミステリー(2014年3月 宝島社文庫)
  • 5分で読める! ひと駅ストーリー 乗車編(2012年12月 宝島社文庫)「オシフィエンチム駅へ」
  • もっとすごい! 10分間ミステリー(2012年12月 宝島社文庫)「二十八年目のマレット」
  • 5分で読める! ひと駅ストーリー 夏の記憶 西口編(2013年7月 宝島社文庫)「盆帰り」
  • 5分で読める! ひと駅ストーリー 冬の記憶 東口編(2013年12月 宝島社文庫)「アンゲリカのクリスマスローズ」
  • 本をめぐる物語 栞は夢を見る(2014年3月 角川文庫)「『馬および他の動物』の冒険」
  • 5分で読める! 怖いはなし(2014年6月 宝島社文庫)「ふたり、いつまでも」
  • 5分で読める! ひと駅ストーリー 猫の物語(2014年9月 宝島社文庫)「好奇心の強いチェルシー」
  • このミステリーがすごい! 四つの謎(2014年12月 宝島社)「残されたセンリツ」
  • サイドストーリーズ(2015年3月 角川文庫)「平和と希望と」 - 「煙よりも、軽く」より改題。
  • 5分で読める! ひと駅ストーリー 食の話(2015年10月 宝島社文庫)「死ぬか太るか」
  • このミステリーがすごい! 三つの迷宮(2015年11月 宝島社文庫)「ポセイドンの罰」

単行本未収録作品

雑誌連載
  • ワルツを踊ろう(幻冬舎『ポンツーン』2014年9月号 - 2015年6月号)
  • 連続殺人鬼カエル男ふたたび(宝島社『宝島』2013年12月号 - )
  • どこかでベートーヴェン(宝島社『「このミステリーがすごい!」大賞作家書き下ろしBOOK』vol.6 - )
  • セイレーンの懺悔(小学館『きらら』2014年2月号 - 2015年9月号)
  • 秋山善吉工務店(光文社『小説宝石』2014年7月号 - 2015年4月号)
  • ヒポクラテスの憂鬱(祥伝社『新刊ニュース』2015年3月号 - )
  • ネメシスの使者(文藝春秋『別册文藝春秋』2015年6月号 - 2016年3月号)
  • 翼がなくても(双葉社小説推理』2015年7月号 - 2016年4月号)
  • 作家刑事毒島(幻冬舎『ポンツーン』2015年11月号 - )
  • TAS 特別師弟捜査員(集英社『小説すばる』2016年1月号 - )
WEB連載
  • 逃亡刑事(「PHP研究所 WEB文蔵」2014年7月 - 2016年2月)
新聞連載
  • ドクター・デスの遺産(「日刊ゲンダイ」2015年11月2日号 - )
  • 護られなかった者たちへ(地方紙「河北新報」ほか2016年2月 - )

文庫解説

映像化作品

映画

テレビドラマ

テレビ出演

海外への翻訳

中国本土(簡化字)

  • 再见了,德彪西 (2011年4月、吉林出版集团有限责任公司) - さよならドビュッシー

脚注

注釈

  1. ^ この作品の主人公の名前が“岬洋介”だったが、名前が気に入っていたためのちの岬洋介シリーズで再利用された。
  2. ^ この“読者に対するおもてなしの心”は、東野圭吾の考えに共感したものであるとインタビューでは話している[12]
  3. ^ さよならドビュッシー』のエピソード・ゼロとされる作品で、車椅子の玄太郎おじいちゃんと介護士・みち子さんコンビが活躍する[21]
  4. ^ ゲスト出演。『切り裂きジャックの告白』、稲見一良著『セント・メリーのリボン』についてなど。

出典

  1. ^ a b “小説家・推理作家の中山七里氏 岐阜が舞台の作品書く 県出身作家の活躍、秘密語る”. 岐阜新聞Web. (2013年1月24日). http://www.gifu-np.co.jp/tokusyu/2013/seikon/sei20130124.shtml 2014年12月12日閲覧。 
  2. ^ 会員名簿 中山七里|日本推理作家協会
  3. ^ a b c d e f g 中山七里. "『スタート!』インタビュー|中山七里さん「映画を作るつもりで、この本を書きました」" (Interview). Interviewed by Miho Tanaka(staff on). 2010年5月1日閲覧 {{cite interview}}: 不明な引数|program=は無視されます。 (説明)
  4. ^ a b c d 中山七里「創作の現場 中山七里」『新刊展望』2013年12月号、日本出版販売2014年1月17日閲覧 
  5. ^ a b c 中山七里 (7 February 2013). "著者インタビュー - 中山七里『さよならドビュッシー』" (Interview). Interviewed by 宇田夏苗. 2010年5月1日閲覧 {{cite interview}}: 不明な引数|program=は無視されます。 (説明)
  6. ^ a b c d e f g h i j k 中山七里「読者を挑発する新社会派 中山七里スペシャルインタビュー」『IN★POCKET』2013年11月号、講談社、172-191頁。 
  7. ^ a b c d e f 中山七里「インタビュー 「ミステリは最高のエンタテイメントなんです」」『小説すばる』2014年11月号、集英社、2014年10月17日、80-83頁。 
  8. ^ a b 「音楽ミステリーの名手が放つ家族と記憶、その罪の物語」『オトナファミ』2013年12月号、KADOKAWA、10頁。 
  9. ^ a b c d 「めくるめく仕掛けに喝采必至! 中山七里版“キネマの天地”」『ダ・ヴィンチ』第225巻2013年1月号、メディアファクトリー、70頁。 
  10. ^ a b c d e f 中山七里 (2014-12). "中山七里『嗤う淑女』刊行記念インタビュー "超多忙"を支えるプラモデル型仕事術" (Interview). Interviewed by 大矢博子. 2015-09-20閲覧 {{cite interview}}: |date=の日付が不正です。 (説明); 不明な引数|program=は無視されます。 (説明)
  11. ^ 佳多山大地「身体を侵す毒よりも心を蝕む毒こそおそろしい」『本の旅人』第214巻2013年8月号、角川書店、24-25頁。 
  12. ^ a b 中山七里「著者に聞く!中山七里『贖罪の奏鳴曲』」『小説すばる』2012年4月号、集英社、512-513頁。 
  13. ^ a b 「平成の世に切り裂きジャックが再臨!?猟奇の皮をかぶった社会派ミステリー『切り裂きジャックの告白』」『ダ・ヴィンチ』第230巻2013年6月号、メディアファクトリー、64頁。 
  14. ^ 中山七里『切り裂きジャックの告白』”. KADOKAWA. 2014年12月12日閲覧。
  15. ^ 茶木則雄 (2014年10月25日). “司法組織の正義と冤罪へ下る鉄槌 巧妙な「どんでん返し」に一読三嘆”. 本の話WEB. 文藝春秋. 2014年12月12日閲覧。
  16. ^ 「熱血!書店員鼎談 中山七里『切り裂きジャックの告白』」『本の旅人』第211巻2013年5月号、角川書店、14-21頁。 
  17. ^ a b c d 中山七里「『月光のスティグマ』刊行記念特集 インタビュー 女性という、もどかしい謎」『波』2015年1月号、新潮社、10-11頁。 
  18. ^ a b c d e f 中山七里「刊行記念インタビュー 中山七里 映画を自分で作りたいと思うほど、おこがましい人間じゃありません(笑)。」『小説宝石』2012年12月号、光文社、316-319頁。 
  19. ^ 中山七里「作家×映画 私のとっておきシネマ 第171回」『小説推理』2015年10月号、双葉社、104-105頁。 
  20. ^ 七尾与史のブログより
  21. ^ さよならドビュッシー前奏曲(プレリュード)|宝島チャンネル”. 宝島社. 2013年2月19日閲覧。
  22. ^ 宮崎美子のすずらん本屋堂』公式アカウント2013年6月20日の発言