アタック級潜水艦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

これはこのページの過去の版です。2400:2410:8341:8900:21f1:55f:a171:a95f (会話) による 2016年3月20日 (日) 07:53個人設定で未設定ならUTC)時点の版 (→‎各国の売り込み)であり、現在の版とは大きく異なる場合があります。

コリンズ級潜水艦更新計画(コリンズきゅうせんすいかんこうしんけいかく Collins-class submarine replacement project)とは、2014年時点でオーストラリア海軍が運用しているコリンズ級潜水艦(水中排水量約3,300トン)の後継艦に関する更新計画である。2020年代か2030年代に12隻の取得を目指し、検討が進められている。

コリンズ級の評価及び後継艦の任務

オーストラリアは、周囲を海洋に囲まれており、オーストラリア海軍は潜水艦の整備も継続して行ってきた。コリンズ級潜水艦は、1996年より就役を開始し、2003年までに全6隻が就役した。コックムス社の設計を基に、オーストラリアのASCが建造を担当している。しかし、コリンズ級は優れた潜水艦とは言えず、騒音は劣悪で、信頼性は低く、故障も頻発し、時には就役可能な潜水艦がわずか1隻という時すらあった[1]。オーストラリア国内では、コリンズ級の開発は「失敗」とする意見もある[2]

2000年代後半より、長期計画として、現況の戦力評価も含め、コリンズ級後継潜水艦に関する検討が開始された[3]。2009年のオーストラリア国防白書[4]においては、後継艦として、2030年代の戦略環境を見すえ、必要に応じ遠海域での作戦行動も行える通常動力型潜水艦の取得を目指すとしている。現用のコリンズ級は改良を行いつつ、28年間の運用を予定しており、7年程度の期間延長が可能と考えられているため[5][6]、2020年代か2030年代より後継艦が就役することとなる[6]。この後継艦計画は、"SEA1000"計画とも呼称される[7][8][9]

後継艦は、アジア地域の軍事力近代化に対応するため、12隻の取得を構想しており[4]、任務として対潜・対水上艦船攻撃能力、戦略打撃能力、機雷敷設及び探知能力、情報収集、特殊部隊の潜入・脱出支援、戦場情報収集支援等が求められている[4]

後継艦の検討

既存潜水艦の改設計や、コリンズ級の能力向上型、完全新設計の案が検討されたが[6]、2014年時点のオーストラリア国防相デイヴィッド・ジョンストン英語版のコメントでは、コリンズ級改と新設計案が主に検討されており[10]、2,000トン級ではサイズが過小なこと、要求性能は欧州のものとも日本のものともかなり異なっていることも示した[10]

新設計の場合、原型艦としてドイツホヴァルツヴェルケ=ドイツ造船(HDW)の216型潜水艦(構想中、214型潜水艦の拡大・改良型、4,000トン級)や日本のそうりゅう型潜水艦(2009年就役開始、水中排水量4,000トン)が有力候補に挙げられている[8][6][11]。また、スウェーデンのA26型潜水艦の拡大型(構想中)も売り込みを行っている[12]

各国の売り込み

日本のそうりゅう型は、大型通常動力潜水艦を取得したいオーストラリア側の意向に近いほか[13]、2014年4月1日に武器輸出三原則に代わり防衛装備移転三原則が制定され、潜水艦の輸出が可能となり間もなくの大型案件であることから、注目を浴びている[6]。オーストラリア政府は、武器管制システムに、コリンズ級でも使用されているアメリカ製のAN/BYG-1を搭載することが求めていることから、そうりゅう型そのものではなく、改良型の共同開発となり[6]、その場合、アメリカも共同開発に加わるという報道もなされている[14]。アメリカは、日米豪3カ国の武器の相互運用性が強まるとして、そうりゅう型のオーストラリアへの輸出を歓迎している[15]。このほか、そうりゅう型を「購入」見込みという報道も出ており、オーストラリア国内建造ではなくなった場合の雇用問題の指摘もある[16]

アボット政権は、選挙時の公約の一つに、コリンズ級の次の潜水艦を国内で建造すると表明しており、そうりゅう型の完成型を輸入することは、この公約に反することになる[17]。しかし、アボット首相は地元経済への影響という観点から判断することはないと強調しており、あくまで軍事的な観点から判断するとしている[18]。だが、オーストラリアでは、トヨタフォードホールデンなどの撤退が相次いでおり、製造業が急速に縮小している。2017年には、オーストラリアで自動車を製造する世界的な自動車メーカーは存在しなくなる[19][20]。このような状況で、さらに潜水艦建造という大型案件も外国に奪われる形となれば、アボット政権にはかなりの打撃になる可能性があり、与党内からも潜水艦建造はオーストラリア国内ですべきとの声が出ている[21]

しかし、オーストラリアのデイヴィッド・ジョンストン国防相は、国営造船会社ASCには「カヌー造りさえ安心して任せることはできない」と、国内には潜水艦建造技術がないとの「本音」を語っている[22]。この発言は波紋を呼び、ジョンストンの辞任要求が起こった。ジョンストンは、「ASC社員は世界クラスと考えている」と釈明、トニー・アボット首相は、ASCの能力を擁護した[23][24]

また、オーストラリアには日本の潜水艦を購入すると、中国を刺激するのではないかという懸念があり、日本側にも、機密性の高い潜水艦を他国に輸出することに慎重な意見がある[25][15]

なお、日豪政府間では、船舶の流体力学分野に関する共同研究が合意されており[26]、2014年7月8日には「防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定」が締結されている[27]

2014年10月16日、オーストラリアのジョンストン国防相は、江渡聡徳防衛大臣との会談で、オーストラリアが計画する潜水艦建造への協力を正式に要請した[28]

日本がそうりゅう型をオーストラリアに輸出する際には、オーストラリアの要求や予算に合わせて仕様を変更する可能性が高い。オーストラリアは、現在、日本が2015年から建造を計画している[29]リチウムイオン電池を使った最新型潜水艦を希望している[15]

2014年12月2日、オーストラリア政府は次世代潜水艦の建造計画について、競争入札を実施しない方針を示した。同時に、より短い期間で完成品を建造できる一握りのメーカーに限定された入札については可能性を排除しないとした[30]

2015年2月20日アボット首相は次世代潜水艦の建造について、スウェーデンと組むつもりはないと明言した。理由として、スウェーデンが、ここ20年間、潜水艦を建造していないなどの実績不足を挙げている[31]。そして、次世代潜水艦の調達先について「日本ドイツフランスの中から選ぶ」と明らかにした。建造や保守管理には豪州企業が最大限関わり、地元の雇用や産業を維持する方針も示した[32]

2015年3月25日、オーストラリアは次世代潜水艦の入札プロセスの開始を発表し、日本ドイツフランスに参加を求めた[33]。これについて、オーストラリアの同盟国、アメリカ合衆国の軍当局者は日本製を支持しており、日本が優勢になる可能性が報じられているが、日本は他国との受注競争に巻き込まれる事や、オーストラリア国内で機密性の高い潜水艦を建造するのには消極的との見方がある[34]

2015年5月18日の国家安全保障会議において、日本は、オーストラリアの新型潜水艦の共同開発・生産国を選ぶ手続きへの参加を決めた。また、一部潜水艦技術を供与することも明らかとされた[35]

2015年6月15日、フランスの政府高官が、新型潜水艦に関して、日本に共同提案を持ち掛ける可能性を示したとオーストラリアンが報じた。純日本製の導入は中国を刺激する可能性があるが、フランスとの共同提案を受け入れる程度なら、そうした批判も回避できるという[36]

2015年9月14日、経済政策への不信などが高まり、トニー・アボット首相は退陣し、変わってマルコム・ターンブル政権が発足した。潜水艦の性能を重視していたアボットに比べ、ターンブルは次期潜水艦について雇用問題などからオーストラリア国内での完全建造を考えているとされる。このため、オーストラリア現地建造に積極的なドイツやフランスが有利になっているとの指摘がある[37][38]

2015年11月4日、中谷元防衛大臣マレーシアで、オーストラリアのマライズ・ペイン英語版国防相と会談した。中谷元は、次期潜水艦について、日本が選ばれれば、建造場所などオーストラリア側の要望に柔軟に対応する方針を示した。ペインは「日本の提案は真剣に検討している」と応じた[39][40]

2016年1月22日、オーストラリアのアボット元首相の外交アドバイザーだったアンドリュー・シアラーと、アメリカの戦略国際問題研究所副所長のマイケル・グリーンナショナル・インタレストに寄稿した記事によると「米政府は(公式には)いずれの国にも肩入れしていないが、そうりゅう型は卓越した性能を持ち、米国製の戦闘システムを搭載して日米豪で相互運用すれば長期の戦略的利益になることに疑いはないと、米政府高官や米軍幹部はみている」としている[41]。2016年1月25日、オーストラリアンは「中国の産業スパイから、重要な防衛技術を守る能力がドイツにあるかどうかに深刻な懸念を抱いている」と報じた[42]

脚注

  1. ^ ROB TAYLOR (2014年6月12日). “豪、日本の潜水艦技術求める アジア海域緊張の中で防衛協力”. ウォール・ストリート・ジャーナル. http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052702304826804579619071990549580 2014年6月14日閲覧。 
  2. ^ “豪海軍、海上自衛隊潜水艦に関心示す”. 日豪プレス. (2012年7月9日). http://nichigopress.jp/ausnews/world/40075/ 2014年11月4日閲覧。 
  3. ^ NAVY'S RESPONSE TO THE SUBMARINE WORKFORCE SUSTAINABILITY REVIEW (オーストラリア国防省 2009年)
  4. ^ a b c 2009年オーストラリア国防白書
  5. ^ 2013年オーストラリア国防白書
  6. ^ a b c d e f オーストラリアが日本から潜水艦を購入か?!,能勢伸之,世界の艦船 2014年12月号,P96-97
  7. ^ Future Submarine Acquisition(オーストラリア国防省サイト)
  8. ^ a b Future Submarine Project(ASC)
  9. ^ Julian Kerr, Sydney (2014年10月22日). “Analysis: European yards face Soryu-shaped hurdle to replacing Collins class”. Jane. 2014年11月2日閲覧。
  10. ^ a b Julian Kerr, Sydney (2014年4月8日). “[http: http://www.janes.com/article/36535/johnston-reiterates-australia-s-collins-replacement-will-be-an-evolved-or-new-design]”. Jane. 2014年11月2日閲覧。
  11. ^ Germany fights for Australian submarine defence contract after Japan makes a bid for it, news.com.au, OCTOBER 14, 2014 7:37AM
  12. ^ Saab Makes Late Pitch For Australian Sub Project”. defensenews.com (Sep. 13, 2014 - 03:45AM). 2014年11月2日閲覧。
  13. ^ アングル:潜水艦めぐる日豪協議、年内の締結視野も課題山積”. ロイター (2014年05月29日 09:15 JST). 2014年11月2日閲覧。
  14. ^ 今井隆 (2014年10月28日 03時00分). “日豪の新型潜水艦共同開発、米も参加を検討”. 読売新聞. 2014年11月2日閲覧。
  15. ^ a b c “豪が最新鋭艦の建造を日本に打診、潜水艦の輸入検討=関係者”. Reuters. (2014年11月18日). http://jp.reuters.com/article/wtInvesting/idJPT9N0SO00G20141118 2014年11月22日閲覧。 
  16. ^ 豪が潜水艦購入間近か―日本、戦後初の武器輸出”. ウォールストリートジャーナル (2014年9月8日 21:37 JST). 2014年11月2日閲覧。
  17. ^ “豪が潜水艦購入間近か―日本、戦後初の武器輸出”. ウォール・ストリート・ジャーナル. (2014年9月8日). http://jp.wsj.com/news/articles/SB10001424052970204707704580141643283765392 2014年11月4日閲覧。 
  18. ^ “豪潜水艦建造で日本の協力要請、優れた静穏性に関心”. Reuters. (2014年10月17日). http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKCN0I51R420141016 2014年11月4日閲覧。 
  19. ^ “アングル:トヨタの豪州生産撤退、アボット政権内の亀裂露わに”. Reuters. (2014年2月13日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYEA1C05R20140213 2014年11月15日閲覧。 
  20. ^ “オーストラリア:自動車産業の終わり”. 日本ビジネスプレス (The Economist). (2014年2月21日). http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40010 2014年11月15日閲覧。 
  21. ^ “再送-潜水艦建造計画、豪政府に入札実施求める圧力強まる”. Reuters. (2014年11月12日). http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPL3N0T11CG20141111 2014年11月15日閲覧。 
  22. ^ “「豪企業はカヌー造りも無理」=国防相が失言-潜水艦計画で”. 時事通信社. (2014年11月26日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201411%2F2014112600601 2014年11月29日閲覧。 
  23. ^ “国営造船会社は「カヌー造りも疑問」、豪国防相失言に非難”. AFPBB News. (2014年11月26日). http://www.afpbb.com/articles/-/3032748 2014年11月26日閲覧。 
  24. ^ “豪次世代潜水艦計画めぐる国防相発言が波紋、海外発注観測強まる”. Reuters. (2014年11月26日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0JA07R20141126 2014年11月29日閲覧。 
  25. ^ “日本の潜水艦導入に意欲=「対中リスク」懸念も-豪”. 時事通信社. (2014年10月17日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201410/2014101700654 2014年11月4日閲覧。 
  26. ^ 小野寺大臣のオーストラリア・マレーシア出張(概要) 平成26年5月2日 防衛省
  27. ^ 防衛装備品及び技術の移転に関する日本国政府とオーストラリア政府との間の協定の署名 平成26年7月8日 外務省
  28. ^ “豪州、潜水艦の建造計画で日本に協力を要請=防衛省報道官”. Reuters. (2014年10月17日). http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPT9N0QD00720141016 2014年11月4日閲覧。 
  29. ^ “防衛省がより隠密性高い潜水艦建造へ、リチウム電池を搭載”. Reuters. (2014年8月29日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0GT06220140829 2014年11月22日閲覧。 
  30. ^ ROB TAYLOR (2014年12月2日). “豪の次世代潜水艦、日本企業に有利か 財務相が競争入札否定”. ウォール・ストリート・ジャーナル. http://jp.wsj.com/news/articles/SB11920364258490754648804580312373211285794 2014年12月8日閲覧。 
  31. ^ “豪次世代潜水艦、スウェーデンへの発注ない=アボット首相”. Reuters. (2015年2月20日). http://jp.reuters.com/article/worldNews/idJPKBN0LO03H20150220 2015年2月20日閲覧。 
  32. ^ 平野光芳 (2015年2月20日). “豪州:次世代潜水艦の調達先 首相「日独仏の中から選ぶ」”. 毎日新聞. http://mainichi.jp/select/news/20150221k0000m030070000c.html 2015年2月20日閲覧。 
  33. ^ “豪州、次世代潜水艦入札プロセス開始 日独仏に参加求める”. 朝日新聞. (2015年3月25日). http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN0ML0JV.html 2015-4-4 ]閲覧。 
  34. ^ “アングル:豪潜水艦調達計画、「アジア重視」米国が日本製後押し”. Reuters. (2015年4月2日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MT0KG20150402 2015年4月4日閲覧。 
  35. ^ “豪潜水艦開発手続きに参加”. Reuters. (2015年5月18日). http://jp.reuters.com/article/kyodoPoliticsNews/idJP2015051801001866 2015年5月19日閲覧。 
  36. ^ “仏、日本と共同提案も=豪の次期潜水艦開発”. 時事ドットコム. (2015年6月15日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201506/2015061500086&g=pol 2015年6月18日閲覧。 
  37. ^ “次期潜水艦選定で日本不利? ターンブル氏は地元雇用を優先”. 産経新聞. (2015年9月17日). http://www.sankei.com/world/news/150917/wor1509170049-n1.html 2015年10月17日閲覧。 
  38. ^ “ターンブル内閣が発足=潜水艦受注で日本に逆風-豪”. 時事ドットコム. (2015年9月21日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201509/2015092100200 2015年10月17日閲覧。 
  39. ^ “豪の潜水艦共同開発国選考 中谷大臣が“柔軟対応””. NHK. (2015年11月4日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20151104/k10010294441000.html 2015年11月6日閲覧。 
  40. ^ “豪国防相「日本案を真剣に検討」 潜水艦調達で中谷防衛相に”. 日本経済新聞. (2015年11月4日). http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS04H6R_U5A101C1PP8000/ 2015年11月6日閲覧。 
  41. ^ “豪潜水艦の受注争い、米高官が日本に“援軍” 「そうりゅう型の性能が卓越、戦略的利益にかなう」と寄稿”. 産経新聞. (2016年1月23日). http://www.sankei.com/world/news/160122/wor1601220021-n1.html 2016年1月31日閲覧。 
  42. ^ “「そうりゅう型」など日仏抜け出す? ドイツ脱落…米「中国への機密漏洩」懸念が背景”. 産経新聞. (2016年1月30日). http://www.sankei.com/world/news/160130/wor1601300033-n1.html 2016年1月31日閲覧。