アメリカ合衆国における携帯電話

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本稿ではアメリカ合衆国における携帯電話について解説する。

歴史

アメリカ合衆国では第二次世界大戦において無線通信機を用いた。これがアメリカにおける携帯電話の起源であるとされる。

携帯電話と呼ばれる形態が実用化したのは冷戦の時である。アメリカでは1978年AT&Tモトローラの2社に携帯電話の実用化のための実験がアメリカ政府から許可され、それにより携帯電話技術を完成させることが出来た。日本に次いで1981年にサービスを開始し、1990年代になってから急速な普及を遂げた。

携帯電話は英国英語ではmobile phone(モゥビル・フォゥン=移動電話)であるが、米国英語では現在の形の携帯電話がセル(cell)間で次々に移動できるために、通常cellular phone(セリュラー・フォゥン=セル形式の電話)と呼ばれ、現在は略してcell phone(セル・フォゥン)という場合が多い。米国英語でmobile phoneも使われることもあるが、この発音はモーバイル・フォゥンである。

周波数とそのライセンス

アメリカ合衆国では、連邦通信委員会(FCC)が、全国を数百の地域に割って、それぞれの地域毎の周波数ライセンスを発行している。これらは、通常、連邦通信委員会主宰のオークションで、通信事業者に落札される。この為、周波数ライセンス取得にかかる費用は巨額で、2006年に、T-Mobile USAが、3G用に全国で、周波数ライセンスを取得するのにかかった費用は、約40億ドルと言われている。また、ひとつの事業者が、ひとつの地域でもてる周波数帯域には、上限があり、地域独占することはできない。合併などで、ある地域で上限を越える周波数帯域を保持することになった場合は、連邦通信委員会は、合併承認の条件として、上限を越えている部分のライセンスについて売却処分を求めるのが通例である。携帯電話の周波数としては、1974年に800MHz帯(セルラーバンド)、1993年に1900MHz帯(PCSバンド)、2006年に1700/2100MHz帯(AWSバンド)、2008年に700MHz帯が、連邦通信委員会より、携帯電話用に割り当てられた。[1]

通信方式

通信方式の選択は、通信事業者の問題で、連邦通信委員会は、介入しない。現在は、CDMA陣営のベライゾン・ワイヤレス、スプリント・ネクステルとGSM陣営のAT&T、T-Mobile USAがほぼ拮抗している。2008年2月まで800MHzバンドのアナログ方式のAMPSが広くサポートされていたが、現在はごく一部を除いて廃止されている。[2] スプリント・ネクステルは、2.5GHz帯で、2008年WiMAX方式のワイヤレスブロードバンドサービスを全米規模で展開する予定であったが、実際に2008年中に展開できたのは、一都市(ボルチモア)だけと大幅に出遅れた。2008年5月には、WiMAX事業を独自にWiMAXネットワークを展開していたClearWireと合弁することになった。[3]ベライゾン・ワイヤレスは、2010年12月から、LTEを700MHz帯で商用展開しはじめた。[4]

第3世代

端末

GSMがほぼ独占している感のある欧州と異なり、アメリカでは事業者ごとに周波数および通信方式が異なる。CDMAの2大オペレータはいずれもR-UIMを採用していないので、CDMA端末は事実上そのオペレータ専用端末となっている。また欧州ほど極端にプリペイド端末の比率は高くない。日本では殆ど見ないが、アメリカでは男性の場合ホルスターに携帯電話をつけて歩いている姿が見られる。近年では、アップル社iPhoneに代表されるスマートフォンの人気が高まってきており、2010年12月の北米におけるスマートフォン・ユーザーの全利用者数に対する比率は27%に達している。[5]

メーカーのシェア

現在、スマートフォン専業メーカーのアップルAndroidフォンのリーディングメーカーであるHTCが急速にシェアを上げている。スマートフォン以外の音声端末においては、Motorola RAZR V3のピークを過ぎたモトローラが退潮著しいがアメリカでは一定のシェアを確保。また、大手2社がCDMA2000 1x方式を採用している事から、CDMA,GSM両刀使いのサムスン電子LGエレクトロニクスもシェアが高い。逆に、CDMAに弱くCDMA戦略の建て直し中のノキアソニー・エリクソンのシェアは低い。

ハイエンド

周波数ライセンスの獲得コストが高いため、日本の携帯電話事業者のように超高額の販売奨励金を端末につけて卸すというわけにはいかないので、アメリカのハイエンド端末は日本のハイエンドより1段か2段程度下であった。iPhone以前は、液晶画面の大きさと解像度については、最新のハイエンド機種でも2.0インチ前後のQVGAと小さなものが多く、スマートフォン以外の携帯電話では2.4インチ以上、解像度ワイドQVGA以上の機種は皆無に等しかった。しかしながら、iPhoneおよびAndroid機の発売を契機として、2010年前後を境に、急激にスマートフォンへのシフトがおこり、従来型ハイエンド機の販売は、大幅に下降線をたどることになった。長らく、AT&Tモビリティの独占販売であったiPhoneは、2011年2月より、ベライゾン・ワイヤレス、さらに、2011年10月からは、スプリント・ネクステルでも販売が開始された。これにより、iPhoneを製品ラインアップに持たない全国規模の事業者は、T-Mobile USAのみとなった。

ローエンド

逆にアメリカには2008年の日本市場で事実上存在しないようなローエンドの機種も存在する。具体的には液晶の解像度がQCIF+未満、大きさが1.8インチ以下で、カメラ未搭載、または30万画素クラスのカメラが搭載されているものなどがある。ローエンド機種の中には、モデルチェンジされても、デザインが中心の変更で、機能に関しては何年もほとんど変化がない端末も少なくない。

サービスと料金

主な事業者

全国レベルでサービスを提供する事業者は4社ある。Alltelの買収を完了したベライゾン・ワイヤレスが加入者数首位で、このすぐあとに、AT&Tモビリティ、かなり間があいてスプリント・ネクステル、T-Mobile USAの順で続く。2011年3月20日に、AT&Tとドイツテレコムは、AT&TがT-Mobile USAを390億ドルで買収することに合意したと発表した。[6]しかし、この買収計画は、司法省による反トラスト法違反での提訴につながり[7]、結局、AT&Tは、12月に買収を断念することを発表した。[8]

2011年8月時点でのおもな事業者
事業者名 通信技術 周波数 加入者数(百万人)[9] 備考
Verizon Wireless CDMA LTE 800MHz 1900MHz 700MHz 106.2 Verizon CommunicationsとVodafone PLC(英)の合弁事業。
AT&T Mobility GSM EDGE W-CDMA LTE 800MHz 1900MHz 1700MHz/2100MHz 700MHz 98.6 親会社の合併により、Cingular Wirelessから改名した。
Sprint Nextel CDMA iDEN WiMAX 1900MHz 800MHz(SMR) 2500MHz 51.8 旧SprintPCSは、CDMA(1900MHz).旧Nextelは、iDEN(SMR)。WiMAXはClearWireと合弁。iDENは2013年にサービス停止予定。
T-Mobile USA GSM EDGE W-CDMA 1900MHz 1700MHz/2100MHz 33.5 ドイツテレコム(独)の子会社。W-CDMAのサービスを、2008年に開始した。2011年にAT&Tによる吸収合併が合意されたが、司法省の反訴で撤回。 

高額の基本使用料と長時間の無料通話分

すべての事業者において基本的に着信も有料である。基本使用料については、どの大手事業者においても最低月29.99ドルであり、これに加えて地方自治体などの税金などによる請求額も多く、最低でも月40ドル近く支払わなければならないことが多い。このため、ライトユーザーにとっては高額である。さらに、アメリカでの携帯メールにあたるSMSの送受信料は、最低額のプランでは基本使用料に含まれないことがある。その場合、1通ごとに10セント程度の送受信料を課金されるか、上位のプランか別途オプションかに入り、SMSを部分もしくは全定額で使うかである。その反面、月額基本料金プランには、月200分という無料通話分や、通話無制限、または、同じ事業者間同士や、週末と夜間の通話に関しては無料というオプションがついてくる。そのため、電話を頻繁にかけるユーザーが多く、また長電話でも通話料金を気にする必要がそれほどないため、スーパーマーケットなどでは、携帯電話をつけっぱなしで買い物の相談をしている光景がよく見られるほか、博物館などでは携帯電話を利用した音声ガイドサービスをおこなっているところがある。

それまでは、一部事業者のみの提供であった無制限通話プランは、2009年頃から全国規模の事業者からも提供が開始され、一般的な選択肢の一つとなっている。

通話以外での利用

米国では携帯電話(スマートフォンを除くという意味)では音声サービスの利用がメインである。ワイヤレスウェブサーフィンは、アメリカではそれほど一般的ではない[10]。ワイヤレスウェブサーフィンを行うには、割安な通話料金とは別にオプション料金となるデータプランをつける必要があるが、多くの人は付けない。またアメリカは高度な車依存社会であり、一部の大都市を除けば、列車バスのような公共交通機関が発達していないので、これらのサービスを利用する時間を生み出しにくい。しかしそういう需要が全く無いわけではなく、アメリカでメッセージングサービスをヘビーに使用するユーザーは、より高機能に利用でき、スマートフォンないしワイヤレスハンドヘルド製品(ブラックベリーのうちの通話機能無しのものを含む)に移行してしまっていると思われる。実際、2007年度のスマートフォンワイアレスハンドヘルド製品の米国での出荷数は1億1500万ユニットで、前年2006年度比で60%増加している[11]。これは、パソコンの普及が古くから進み、その反面テンキーで文字を入力する習慣があまり浸透してこなかったアメリカでは、QWERTYキーが付いた端末が非常に重要視されているためである。タッチパネルが付いた端末が急速に普及しているのも、QWERTY方式の入力操作ができる事が理由の一つである。最近のiPhone,アンドロイド端末の普及にともない、かつては、ほとんどみられなかったQRコードも浸透しつつある。

オプションのデータプランはスマートフォン普及以後、転送量は無制限であることが一般的であったが、各事業者において、2010年以降、新規加入分に関しては従量制、またはそれに準じた料金制度への移行が行われている。含まれる通信量を超過した場合に超過料金が発生する方式[12]や極度の帯域制限をかける方式[13]がある。

プリペイド・サービス

大手四社はもちろん、トラックフォン、バージン・モバイル、ブースト・モバイルなどのプリペイド専業事業者も存在する。契約プラン(ポストペイド)では、クレジットヒストリーによる審査が必要な所がほとんどであるが、プリペイドの場合は、簡単な身元チェックだけで、サービスを購入する事ができるので、旅行者でも、スーパーマーケットなどで簡単に購入できる。電話機は、事業者により、持ち込みを認めるケースと認めないケースがある。通話時間あたりのコストは、ポストペイドに比べて割高なのが一般的である。電話番号を維持するためには、一定期間内に、クレジット(プリペイド・アカウント内の使用残)を積みますことが必要。

モバイルTV

モバイルTVについてはベライゾン・ワイヤレスAT&T MobilityMediaFLO方式のサービスを行っていたが、ベライゾン・ワイヤレスは2010年11月に、AT&Tモビリティは2011年3月にそれぞれサービスを終了した。

米国内でのローミングと、カナダとのローミング

国土が広大であるため地図の上ではサービスがまったくない区域が多数存在する。通信方式・周波数があえばローミングサービスが使えるのが一般的である。カナダとは技術仕様がほとんど同一なためローミングサービスでアメリカの端末が使える。日本国内向けの携帯電話でも、GSMの850MHz/1900MHzをサポートしている端末の場合は、ローミングによりアメリカで使用できる場合がある。

日米間での相互運用性について

米国での日本仕様電話機の利用

  • 日本仕様の電話機といえども、W-CDMAとGSMのデュアルモード機は、かなりある。GSMをサポートしている場合は、米国で使える可能性がある。
  • 米国のGSMは、850MHzと1900MHzである。北米以外のGSMは、900MHzと1800MHz。全国規模の事業者は、AT&TモビリティとT-Mobile USA。
  • 米国のW-CDMAは、全国規模の事業者としてはAT&TモビリティとT-Mobile USAが手がけており、AT&Tモビリティが850MHzと1900MHz、T-Mobile USAがAWS帯を採用。
  • 日本のdocomo、ソフトバンクモバイルのW-CDMAは、2100MHzで、この周波数は、米国では、サービスされていない。
  • iPhone4(GSM版)のように、W-CDMA,GSMの両方でクワッドバンド対応の場合は、米国だけでなく、世界中で問題なく使える。
  • 一部の日本仕様電話機は、AT&Tモビリティの850MHz、1900MHzのW-CDMAで使えるものがある。T-Mobile USAのAWS帯に対応する端末は、日本で発売されている端末ではiPhoneシリーズを含め皆無に近いため、GSMネットワークでのみローミング等で利用する形となる。
  • 日本の事業者のSIMカードを使う場合は、現地の事業者とのローミングアグリーメントが成立している事が必要。この場合、日本の電話番号が使えるが、国際ローミングなので通信料金は高い。
  • エアインタフェースのあう日本仕様電話機をアンロックして、米国事業者のSIMカードを挿入して使うことも原理的には可能であるが、基本的に、メーカーが国外でほとんどテストしていない機械なので、それなりのリスクがある行為という認識が必要。
  • KDDI向けCDMA機のほとんどは、米国のCDMAで使えない。これは、日米で800MHzのチャネル構造が異なるため(旧800MHz帯は、アップリンクの周波数帯とダウンリンクの周波数帯が逆であること、新800MHz帯は、subclassレベルのバンドが異なること)、初めから海外のCDMA利用を想定して設計された一部の機種(グローバルパスポートCDMA対応機種)でしか海外では利用できない。

米国での日本のSIMカードの利用

なお日本のドコモソフトバンクモバイルイー・アクセスUIMカードないしはKDDIのR-UIMカードと、US仕様のアンロック携帯電話でSIMカード対応のものを使うこと(プラスティックローミング)は原理的には可能である。この場合、国内の電話番号がそのまま使えるが国際ローミングになるので通話コストは非常に高価である。

携帯電話による問題点

SMSを利用したスパム

SMSを利用したスパムが大量に送信されている。SMSの場合、電話番号を知るだけでメッセージの送受信ができるため、Eメールのようにメールアドレスを複雑にして、安全性を確保するという事ができない。事業者側からの対策もあまり進んでいない。

カメラでの盗撮

カメラを使って撮影をする時、シャッター音を消す事ができる端末が非常に多い。このため、盗撮に悪用されやすい。

脚注

  1. ^ 700MHzの実際の割り当て変更はアナログTVサービス終了の2009年から
  2. ^ Most Analog Cellular to Fade Away Next Week(英語)[リンク切れ]
  3. ^ Larry Dignan (2008年5月7日). “WiMax saved: Sprint, Clearwire form joint venture; Google, Intel among backers”. 2011年8月21日閲覧。
  4. ^ Verizon Wirelessは4Gを38市場で年末までに展開(英語)
  5. ^ comScore,Inc (2011年2月14日). “The 2010 Mobile Year in Review”. 2011年8月20日閲覧。
  6. ^ http://newsroom.t-mobile.com/articles/att-acquires-tmobile-USA T-Mobile USAプレスリリース
  7. ^ US Department of Justice (2011年8月31日). “Deputy Attorney General James M. Cole Speaks at the AT&T/T-Mobile Press Conference”. 2011年9月1日閲覧。
  8. ^ AT&T (2011年12月19日). “AT&T Ends Bid To Add Network Capacity Through T-Mobile USA Purchase”. 2011年12月20日閲覧。
  9. ^ Grading the top 10 U.S. carriers in the second quarter of 2011”. 2011年8月31日閲覧。
  10. ^ Americans Slow To Adopt Mobile Multimedia - Study Shows US Lags Behind(英語)[リンク切れ]
  11. ^ Smart mobile device shipments hit 118 million in 2007, up 53% on 2006(英語)
  12. ^ 全米事業者ではAT&T、Verizonがこのタイプ
  13. ^ 全米事業者ではT-mobileがこのタイプ。尚、こちらは2011年8月現在、Sprintを除く全事業者で既存契約者に対しても行われているか、または行うことが発表されている

関連項目

外部リンク

  • phone scoop(英語)- 主要ベンダーの機種リスト