ヤン-ミルズ方程式と質量ギャップ問題

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

ヤン-ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題(:Yang–Mills existence and mass gap)とは、「任意のコンパクトで単純なゲージ群 G に対して R 4 上の自明でないヤン-ミルズ場の量子論が存在し、質量ギャップが存在することを示せるか?」という量子色力学および数学上の未解決問題である。 2000年アメリカ合衆国クレイ数学研究所ミレニアム懸賞問題の一つとしてこの問題に100万ドルの懸賞金をかけた。


問題は次のように要約される。[1]

ヤン・ミルズ方程式の存在と質量ギャップ問題とは、任意のコンパクトな単純ゲージ群 G に対して、非自明な量子ヤン・ミルズ理論が \mathbb{R}^4 上に存在し、質量ギャップ Δ > 0 を持つことを証明せよ、という問題である。存在とは、Streater & Wightman (1964)Osterwalder & Schrader (1973)Osterwalder & Schrader (1975) に主張されていることと少なくとも同等な確立された公理的な性質を持つことを意味している。

このステートメントでは、ヤン=ミルズ理論(Yang–Mills theory)は、素粒子物理学標準モデルを基礎とした(非可換な)場の量子論である。\mathbb{R}^44次元ユークリッド空間であり、質量ギャップ英語版 Δ はこの理論によって予言される最も小さな質量を持つ粒子の質量である。従って、「証明する」ということは、まず第一に、ヤン=ミルズ理論が存在することである。このことは、理論が現在の数理物理学を特徴づける厳密な基準、特に、構成的場の量子論英語版を満たす必要がある。構成的場の量子論は、ジャッフェとウィッテンによる公式な記述の参照文献である。[2][3] 第二には、理論によって予言される力の場の最小な質量の粒子の質量が、厳密に正であることを証明する必要がある。例えば、 G=SU(3) である強い原子核の相互作用の場合について、グル―ボール英語版(glueball)がより最低質量の限界を持ち、従って光子ではないことを証明せねばならない。

背景[編集]

[...] 4次元の時空での場の量子論の数学的に完全な例は、未だ得ることができていなく、まして、厳密な 4次元の量子ゲージ理論の定義は得ていない。21世紀には、これは変わるのであろうか? そのように期待する!

アサー・ジャッフェ英語版(Arthur Jaffe)とエドワード・ウィッテン(Edward Witten)による Clay Institute の公式な問題提起の記述より

4次元の最も有名な非自明な(つまり相互作用を持つ)場の量子論は、カットオフ英語版スケールを持つ有効場の理論である。ほとんどのモデルに対しベータ函数は正であるから、そのようなモデルが非自明なUV固定点英語版(UV fixed point)を持っているか否かは全く明らかではないように、ランダウの極英語版(Landau pole)を持っているように思われる。このことは、もしQFTがすべてのスケールでwell-definedであれば、公理的場の量子論英語版(axiomatic quantum field theory)の公理を満たすことになるように、自明であるはずである(つまり、自由場(free field theory)となってしまう)。

非可換なゲージ群を持ち、クォークを持たない量子ヤン=ミルズ理論英語版(Quantum Yang-Mills theory)は、例外である。なぜならば、漸近自由性(asymptotic freedom)がこの理論を特徴づけ、理論が自明なUV固定点を持つことを意味するからである。従って、これが 4次元の最も単純な非自明な構成的QFTである。(QCD(Quantum chromodynamics)はクォークを持っているので、より複雑な理論である。)

これは、すくなくとも理論物理学の厳密さのレベルではすでに証明されているが、数理物理学の意味での厳密さではない。すなわち、非可換なリー群の量子ヤン=ミルズ理論は、クォークの閉じ込めとして知られている性質を示す。数理物理学的な厳密さの意味ではないが、この性質の詳細は、適当なQCDの記事を参照のこと(QCD、クォークの閉じ込め、格子ゲージ理論など)。この性質の結果の一つは、あるスケールを超えると、結合定数 (物理学)#QCDスケールとして知られているように (より適切には、この理論は、クォークの閉じ込めを参照)、色電荷(color charge)は、QCDストリング(chromodynamic flux tubes)により結合され、電荷の間の線型なポテンシャルを導く。従って、自由な色電荷と自由なグルーオン(gluon)は存在しない。閉じ込めのない状態で、質量を持たないグルーオンがあることが期待されるが、それらは閉じ込められているので、グル―ボール英語版という中性の色を持つグルーオンしか観察することができない。もしグル―ボールが存在するとすると、それらは質量を持ち、期待の質量ギャップの理由を示すことになる。

格子ゲージ理論の結果には、非可換リー群の量子ヤン=ミルズ理論のモデルが閉じ込めを持つことに、多くの証拠が示されている。例えば、ウィルソンループ英語版の真空期待値(vacuum expectation value (VEV))の離反する領域法則によることで示される。しかし、これらの結果は、証拠の多くが数値的方法(計算機での計算)に頼っているので、数学的に厳密ではなく。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  1. ^ Arthur Jaffe and Edward Witten "Quantum Yang-Mills theory." Official problem description.
  2. ^ R. Streater and A. Wightman, PCT, Spin and Statistics and all That, W. A. Benjamin, New York, 1964.
  3. ^ K. Osterwalder and R. Schrader, Axioms for Euclidean Green’s functions, Comm. Math. Phys. 31 (1973), 83–112, and Comm. Math. Phys. 42 (1975), 281–305.

外部リンク[編集]

  • The Millennium Prize Problems: Yang–Mills and Mass Gap
  • Streater, R.; Wightman, A. (1964). PCT, Spin and Statistics and all That. W. A. Benjamin . 
  • Osterwalder, K.; Schrader, R. (1973). “Axioms for Euclidean Green’s functions”. Comm. Math. Phys. 31 (2): 83–112. doi:10.1007/BF01645738. 
  • Osterwalder, K.; Schrader, R. (1975). “Axioms for Euclidean Green’s functions II”. Comm. Math. Phys. 42 (3): 281–305. doi:10.1007/BF01608978. 
  • Bogoliubov, N.; Logunov, A.; Oksak; Todorov, I. (1990). General Principles of Quantum Field Theory. Kluver . 
  • Strocchi, F. (1994). Selected Topics of the General Properties of Quantum Field Theory. World Scientific . 
  • Dynin, A. (2014). “Quantum Yang-Mills-Weyl dynamics in the Schroedinger paradigm”. RJMP 21 (2): 169–188.