ポアンカレ予想

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(3次元)ポアンカレ予想(ポアンカレよそう、Poincaré conjecture)とは、数学位相幾何学)における定理のひとつ。7つのミレニアム懸賞問題のうち唯一解決されている問題である。

概要[編集]

ポアンカレ予想とは、

単連結な3次元閉多様体は3次元球面  S^3 同相である。

という予想であり、1904年にフランスの数学者アンリ・ポアンカレによって提出された。以来ほぼ100年にわたり未解決だったが、2002年から2003年にかけてロシア人数学者グリゴリー・ペレルマンはこれを証明したとする複数の論文をarXivに掲載した。これらの論文について2006年の夏ごろまで複数の数学者チームによる検証が行われた結果、証明に誤りのないことが明らかになり、ペレルマンには、この業績によって2006年のフィールズ賞が贈られた(ただし本人は受賞を辞退)。

ここで一つ注意しておくと、3次元球面は「普通の球」(3次元球)の表面(これは2次元球面)ではなく、4次元空間の単位球の表面(超曲面)である。何次元と言っているのは図形そのものの次元のことであり、それが埋め込まれている空間の次元とは何ら関係がない。

一般化された問題[編集]

単連結な2次元閉多様体においては、どのような輪であっても引き絞れば回収できるようであれば、その表面(表皮部分)は2次元球面に同相である。

ポアンカレ予想は一般化(高次元に拡張)できる。それは次のようなものである。

このようにポアンカレ予想を n 次元に一般化すると n = 2 での成立は古典的な事実であり、n ≥ 4 の場合は早くに証明が得られていた。n ≥ 5 の時はスティーヴン・スメイルによって(1960年)、n = 4 の時はマイケル・フリードマンによって(1981年)証明された。2人とも、その業績からフィールズ賞を受賞している。スメイルの証明は微分位相幾何学的なものであったが、フリードマンの証明は純粋に位相幾何学的なものである。実際、フリードマンの結果はその直後にドナルドソンによる異種4次元ユークリッド空間(位相的には通常の4次元空間だが、微分構造が異なるもの)の発見へとつながった。以上よりオリジナルである3次元ポアンカレ予想のみを残し、高次元ポアンカレ予想は先に決着してしまった(微分同相については4次元ポアンカレ予想も未解決)。

NHKスペシャル『100年の難問はなぜ解けたのか ~天才数学者 失踪の謎~』では「 宇宙の中の任意の一点から長いロープを結んだロケットが宇宙を一周して戻って来たとする。ロケットがどんな軌道を描いた場合でもロープの両端を引っ張ってロープを全て回収できるようであれば、宇宙の形は概ね球体である(ドーナツ型のような穴のある形、ではない)と言えるのではないか、というのが(3次元)ポアンカレ予想の主張である」とCGを使用して説明している。

ギャラリー[編集]

3次元ポアンカレ予想と幾何化予想[編集]

3次元ポアンカレ予想についてウィリアム・サーストン幾何化予想(サーストンのプログラム)があり、これは3次元多様体の分類に関するものである。この予想は3次元ポアンカレ予想を含み、大変壮大なものである。

幾何化予想とペレルマン[編集]

2002年から2003年にかけて当時ステクロフ数学研究所に勤務していたロシア人数学者グリゴリー・ペレルマンはポアンカレ予想を証明したと主張し、論文をプレプリント投稿サイトとして著名なarXivにて公表した。そのなかで彼はリチャード・ストレイト・ハミルトンが創始したリッチフローの理論に「手術」と呼ぶ新たな手法を付け加えて拡張し、驚くべきことにサーストンの幾何化予想を解決してその系としてポアンカレ予想を解決した(と宣言した)。非常に単純に言えば、幾何化予想とは、多様体を8つのピースに分割し、そのピースごとに幾何的性質を調べるというものである。一方で、リッチフローを用いたときに、ピースから全体を構成し直すときに特異点が発生する可能性がある。ペレルマンはこの特異点の発生条件と特異点の性質を調べ、特異点が発生しないような手法を考えた。それが「手術」といわれる方法である。[独自研究?]

それ以来ペレルマン論文に対する検証が複数の数学者チームによって試みられた。原論文が理論的に難解でありかつ細部を省略していたため検証作業は難航したが、2006年5 - 7月にかけて3つの数学者チームによる報告論文が出そろった。

これらのチームはどれもペレルマン論文は基本的に正しく致命的誤りはなかったこと、また細部のギャップについてもペレルマンの手法によって修正可能であったという結論で一致した。これらのことから、現在では少なくともポアンカレ予想についてはペレルマンにより解決されたと考えられている。

ほとんどの数学者がトポロジーを使ってポアンカレ予想を解こうとしたのに対し、ペレルマンは微分幾何学物理学の手法を使って解いてみせた。そのため、解法の説明を求められてアメリカの壇上に立ったペレルマンの解説を聞いた数学者たちは、「まず、ポアンカレ予想を解かれたことに落胆し、それがトポロジーではなく微分幾何学を使って解かれたことに落胆し、そして、その解の解説がまったく理解できないことに落胆した」という[1]。なお、証明には熱量・エントロピーなどの物理的な用語が登場する。

2006年8月22日スペインマドリードで催された国際数学者会議の開会式においてペレルマンに対しフィールズ賞が授与された。ただし、本人はこれを辞退した。

2006年12月22日、アメリカの科学誌「サイエンス」で科学的成果の年間トップ10が発表され、その第1位に「ポアンカレ予想の解決」が選ばれた[2][3]

賞金100万ドル[編集]

アメリカにあるクレイ数学研究所(CMI)はポアンカレ予想をミレニアム懸賞問題の一つに指定し、証明した者に100万ドル(約1億円)の賞金を与えると発表している。ここでペレルマンが本賞を受賞するのかどうかが一部の関心を呼んでいた。また、彼は賞金を受け取る条件である「査読つき専門雑誌への掲載」をしておらず、また彼の証明はあくまでも要領を発表したに過ぎないという説もあった[誰?]

この件に関し、CMI代表のジェームズ・カールソン(James Carlson)は次のように述べている。

CMIの規定では受賞資格者は必ずしも専門誌に掲載された論文の直接的な執筆者に限られるわけではない。ペレルマンが変則的な発表手段を採り、arXivへの掲載のみに留めて専門誌に投稿していないというそのこと自体は、彼が受賞する上での障害とはならない。CMIは、いずれにしてもあらゆる素材を吟味して証明の成否を判定し、しかるのち初めて授賞を検討するようである。

2010年3月18日、クレイ数学研究所はペレルマンへのミレニアム賞授賞を発表した[4]。これに関してペレルマンは以前、同賞を「受けるかどうかは、授賞を伝えられてから考える」と述べていたが、結局授賞式には出席しなかった。研究所の所長は「選択を尊重する」と声明を発表し、賞金と賞品は保管されるという[5]

2010年7月1日、ペレルマンは賞金の受け取りを最終的に断ったと報じられた。断った理由は複数あり、数学界の決定には不公平があることに対する異議や、ポアンカレ予想の解決に貢献したリチャード・S・ハミルトンに対する評価が十分ではないことなどを挙げている。さらに、このことについて本人は「理由はいろいろある」と答えた[6]

脚注[編集]

  1. ^ NHKスペシャル 2007年10月22日放送分 『100年の難問はなぜ解けたのか ~天才数学者 失踪の謎~』 より。解説を聞きに来た数学者のほとんどはトポロジーを専門としており、ペレルマンほどには微分幾何学や物理学に精通していなかったために彼の解説を理解できずに落胆したと言われている
  2. ^ 和文紹介
  3. ^ 英文原典
  4. ^ Clay Mathematics Institute. “The Poincaré Conjecture”. Clay Mathematics Institute. 2010年3月20日閲覧。
  5. ^ 数学者ペレルマン、授賞式に姿見せず
  6. ^ asahi.com(朝日新聞社):変わり者数学者、やっぱり賞金拒否 ポアンカレ予想解決 - 国際

関連文献[編集]

さらに進んだ文献[編集]

外部リンク[編集]