マーモット

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マーモット
Marmot-edit1.jpg
キバラマーモット
(Marmota flaviventris)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
: リス科 Sciuridae
亜科 : アラゲジリス亜科 Xerinae
: マーモット族 Marmotini
: マーモット属 Marmota
Blumenbach, 1779
  • Marmota baibacina
  • Marmota bobak
  • Marmota broweri
  • Marmota caligata
  • Marmota camtschatica
  • Marmota caudata
  • Marmota flaviventris
  • Marmota himalayana
  • Marmota kastschenkoi
  • Marmota marmota
  • Marmota menzbieri
  • Marmota monax
  • Marmota olympus
  • Marmota sibirica
  • Marmota vancouverensis

マーモット(英語:marmot、学名:Marmota)は、ネズミ目リス科マーモット属の動物の総称であり、大型のジリスである。

主にアルプス山脈カルパチア山脈タトラ山脈ピレネー山脈ロッキー山脈シェラネバダ山脈ヒマラヤ山脈などの山岳地帯に生息している。ただし、中国東北部からモンゴルにかけての草原に生息するタルバガン、北米大陸に広く生息するグラウンドホッグなど、平野部に生息する種もいくつか存在する。

マーモット類は一般に巣穴の中で生活しており、冬季は冬眠する。大部分のマーモットは社会性の高度に発達した動物で、危険が迫るとホイッスルのような警戒音でお互いに知らせ合う。

マーモットは主に草食である。草、果実、コケ、木の根、花などを食する。

 名前の由来[編集]

オックスフォード英語辞典によれば、marmot の直接の語源は近代フランス語のmarmotteであり、スペイン語ポルトガル語イタリア語などのマーモットを指す言葉(marmota, marmotta)もフランス語由来である。さらに語源をたどるとロマンシュ語のmurmontを経て、ラテン語のmurem montis (「山のネズミ」を意味するmus montisの対格)にたどりつく。murmontがmarmotteに語形変化したのはおそらくマーモセットを表す古フランス語marmotteないしmarmotに引きずられたものと思われる。ラテン語のmurem montis は他方でドイツ語のmurmeltierをはじめ、ゲルマン系言語におけるマーモットにあたる言葉の起源ともなっている。英語における古い用例として、オックスフォード英語辞典では1607年の用例(ある男がアルプスネズミのことをフランス風にMarmotと呼んでいた、という文脈)を紹介している。18世紀ごろに次第に英語での用例がふえ、定着した様子が伺える。

ただし、他の辞書類ではフランス語の「ぶつぶつ言う、もぐもぐ言う」の意味の動詞marmotterからの派生語といった、別の語源を提示している場合もある。[1]

 人間との関わり[編集]

日本ではなじみの薄い動物であるが、マーモット類は古くよりその存在を人間に知られてきた。古い記録としては、紀元前5世紀のヘロドトス『歴史』の第三巻においてインドに住む「黄金を掘るアリ」として記述された生物がヒマラヤマーモットではないかと言われている。そこでは黄金を掘るアリは犬よりは小さいが狐よりは大きく、ギリシャのアリとそっくりの巣穴を作る、といった特徴が記されている。[2] 

紀元77年のプリニウス博物誌では、「アルプスネズミ」Mus alpinusという名前でアルプスマーモットを紹介している。「アルプスネズミはテンくらいの大きさだが、やはり冬眠する。ただ彼らは前もって秣を穴ぐらに運んで蓄えておく。ある人の言うところでは、雄と雌とが交互に仰向けに寝て、根元から噛みちぎった草の束を抱いていると、いま一匹がその尾をくわえて引っ張るというふうに、つながって自分たちの穴におりていく。その結果この季節には彼らの背中に擦れた跡があるという。」[3]この Mus alpinusは近代に至るまでアルプスマーモットの正式な名称として使われており、英語でもmarmotが定着する以前はalpine mouseという表現が用いられていたようである。[4]

マルコ・ポーロも『東方見聞録』の中でタルタール人について「この辺り至る所の原野に数多いファラオ・ネズミも捕まえて食料に給する」とのべており、この「ファラオ・ネズミ」はおそらくタルバガン(モンゴルマーモット)だと考えられている。[5][6]

上記のマルコポーロの記述にもあるように、タルバガンをはじめとするマーモット類は古くからアジアで食用として利用されてきた。しかし、近年はそうした習慣がペストなど人獣共通感染症の発生の原因となっており、問題化している。

フランスサヴォワ地方ではアルプスマーモットに芸をしこんで旅をする風習がある。ゲーテがそうした旅芸人を題材とした詩をつくり、さらにルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンがゲーテの詩に曲をつけた歌曲「マーモット(旅芸人)」がある。[7]

北米ではマーモット類は親しみある生物となっている。グラウンドホッグデー(2月2日に行われる、ウッドチャックを用いた、春の訪れを予想する天気占い)やマーモット・デー(同じく2月2日にマーモット類の保全を祝うアラスカの祝日)が祝われる。マーモットをマスコットとするアイスホッケーチームも存在する(ビクトリアロイヤルズ en:Victoria Royalsのマーティー)。 バンクーバーオリンピック では「サイドキック」(マスコットの応援団)としてバンクーバーマーモットの「マクマク」がキャラクター化された。

日本にはマーモットは生息しておらず、それも一因となって長らくテンジクネズミ(モルモット)と混同されてきた。そもそも天保14年(1843)にオランダ人がテンジクネズミを連れてきた際に「モルモット」と呼んでいたようである。[8] 明治から大正期にかけては本来のマーモットを指す言葉としても「モルモット」が使われた例があり、両者が別個の生き物であることが当時まだ認識されていなかった可能性がある。[9]戦後になって、 アルプスの少女ハイジ山ねずみロッキーチャック といったアニメで紹介されることでマーモット類の日本における認知度は若干高まったとは思われるが、なじみの薄い動物であることには変わりがない。

[編集]

以下はソリントンとホフマンがリストアップするMarmota属のすべての種[10]に、近年になって定義されたM. kastschenkoiを加えたものである。[11] かれらはマーモットを二つの亜属 に区分する。

これに加え、化石から4種の絶滅したマーモットの存在が知られている。

  • Marmota arizonae アメリカ合衆国アリゾナ州
  • Marmota minor アメリカ合衆国ネバダ州
  • Marmota robusta 中国
  • Marmota vestus アメリカ合衆国ネブラスカ州

マーモットの例[編集]


関連項目[編集]

  • モルモット - マーモットとは系統的にもあまり近くなく、外見上も似ていないテンジクネズミ属の動物。
  • レ・ミゼラブル - 小説版の第一部第二編第十三節に登場する少年プティ・ジェルヴェはサヴォワの旅芸人であり、マーモットを箱に入れて背負っているという描写がある(岩波文庫版ではあやまって「モルモット」と表記されている)。
  • 上野動物園 - 日本で数少ないマーモットを見ることができた動物園。
  • アルプスの少女ハイジ (アニメ) - 「かわいいの」と訳されたアルプスマーモット (学名:Marmota marmota) が登場する。
  • 山ねずみロッキーチャック - 主人公ロッキーはウッドチャック(学名:Marmota monax)。
  • 恋はデジャ・ブ - グラウンドホッグデーを祝うパンクスタウニーの町を舞台とした映画(原題:Groundhog Day)。
  • ビッグ・リボウスキ - カルト的な人気を持つアメリカのコメディ映画。劇中である小動物が"nice marmot"(いいマーモットだな)と登場人物に言われるシーンがあるが、その外見はフェレットである。
  • ボールズ・ボールズ英語版 - 1980年のアメリカのコメディ。劇中にゴルフ場を荒らすgopher(ホリネズミ)が登場するが、その人形の造形はむしろウッドチャックに近い。
  • ポコポッテイト - 『おかあさんといっしょ』内の人形劇。マーモットの三兄弟がアイキャッチとして登場する。

脚注[編集]

  1. ^ 小学館ロベール仏和大辞典 (1988)のmarmotteの項より。
  2. ^ ヘロドトス『歴史 上』松平千秋訳、岩波文庫 1971。Peissel, Michel. "The Ants' Gold: The Discovery of the Greek El Dorado in the Himalayas". Collins, 1984. ISBN 978-0-00-272514-9.1971年の邦訳の注でも「マーモットのことと思われる」としているが、ヒマラヤマーモットという種は特定していない。以下の外部リンクも参照。 幻想動物の事典「インド/ピピーラカ」
  3. ^ 『プリニウスの博物誌 I』中野定雄、中野里美、中野美代訳、雄山閣、1986年、371ページ(第8巻第55節)。
  4. ^ なお、同箇所に、エジプトにも似たネズミがいて「同じように尻をついていたり、二本脚で歩き前脚を手として使う」という記述があるが、マーモット類はエジプトには分布しておらず、何を指しているかは明らかではない。アリストテレス『動物誌』にもエジプトのネズミについて同様の記述があるが、そちらの注釈ではトビネズミではないかと推測している(岩波文庫、島崎三郎訳 1998)
  5. ^ マルコ・ポーロ『完訳 東方見聞録1』愛宕松男訳注、平凡社、2000年、215ページ(第二章74節)。吉田 順一「モンゴル族の遊牧と狩猟--十一世紀〜十三世紀の時代」The Journal of Oriental researches 40(3), p512-547, 1981-12-00、519ページ。『東方見聞録』ではもう一度北方の「カンチ王」の国の記述において「ファラオ鼠も多く、大きなのは豚ほどもあって、住民はこれを夏季の間の食料とする」という記述がある(マルコ・ポーロ『完訳 東方見聞録2』愛宕松男訳注、平凡社、2000年、399ページ、第七章232節)。モンゴル北方にはタルバガンも含め複数のマーモット種が分布しており、それらのマーモットに対する言及と思われる。
  6. ^ インターネット上で「マルコ・ポーロは『Maharaja's Mantit』の中でマーモットについて言及している。」という記述が見られることがあるが、マルコ・ポーロにそうしたタイトルの著作はなく、東方見聞録中の言及についての記事が誤って広まったものと思われる。
  7. ^ 「マーモット(旅芸人)」の歌詞と解説
  8. ^ 早稲田大学Web展覧会 描かれた生き物たち 前編
  9. ^ ランケスター他 著『実用動物』(松栄堂, 1897)、山川均 述『動物界の道徳』(平民科学 ; 第4編) (有楽社, 1908)、松平道夫 著『珍しい動物の生活』(少年科学叢書 ; 4) (大鐙閣, 1923)など。いずれも国会図書館の近代デジタルライブラリーで閲覧することができる。
  10. ^ Thorington, R. W., Jr., and R. S. Hoffman. 2005. "Family Sciuridae". Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference, pp. 754–818. D. E. Wilson and D. M. Reeder, eds. Johns Hopkins University Press, Baltimore.
  11. ^ a b Brandler, OV (2003). “On species status of the forest-steppe marmot Marmota kastschenkoi (Rodentia, Marmotinae)”. Zoologičeskij žurnal 82 (12): 1498-1505.