マサチューセッツ湾交通局

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

マサチューセッツ湾交通局(Massachusetts Bay Transportation Authority)は、アメリカ合衆国マサチューセッツ州の公共交通機関事業者。MBTAという略称でよく呼ばれる。Tと呼ばれる全米最初の地下鉄をはじめ、近郊列車や路線バス、さらにはマサチューセッツ湾フェリーも運営している。これらの交通機関は、ボストン市およびその周辺を広くカバーしており、通勤・通学の足として、また観光客の移動手段として用いられ、ボストン都市圏の渋滞緩和に役立っている。

歴史[編集]

初期の公共交通[編集]

ボストンの公共交通の歴史は植民地時代の1631年まで遡ることができる。この年、ボストンにあった植民地政府は、半島の上に設けられたボストンの交通の利便性を改善するために、渡船の運行をはじめた。

陸上の公共交通は独立革命以降の事で、1793年、ボストン - ケンブリッジ間の駅馬車の運行がはじめられたのがその起源である。その後、ニューイングランド各地を結ぶ駅馬車の運行が行われるようになると共に、駅馬車を大型化して、短距離の乗降の利便性を高めた大型馬車オムニバスが1820年代には市街でサービスをはじめている。オムニバスは1832年には、軌道に乗せ、輸送力と乗り心地の向上を図った馬車鉄道に発展した。馬車鉄道は厳冬期を含む通年の公共交通の運行を可能にした。馬車鉄道はその後延伸が進められ、1856年には、ケンブリッジ地区への延伸も行われた。

ウエストエンド市街鉄道[編集]

ウエストエンド市街鉄道路線図

初期の馬車鉄道は路線ごとに異なった事業者により運行が行われたため、運行事業者は20社も存在した。運行事業者が細分化されている状態では、路線網の発展が妨げられたり、過当競争が発生するという弊害があるため、1887年、州政府の指導下でこれらの馬車鉄道は1社に統合され、ウエストエンド市街鉄道(West End Street Railway)が誕生した。ウエストエンド市街鉄道は1,480両の車両を持ち、当時アメリカ最大の市街鉄道事業者であった。

この会社の最大の問題は、8,000頭にも及ぶ馬の飼育費用にあった。高い餌代に加え、病気で馬を補充する必要もあり、その費用は莫大な額にのぼっていたのである。サンフランシスコで生まれ、シカゴで大規模な路線網の展開が行われていたケーブルカーは、冬の降雪の問題でボストンではあまり広まらなかった。フランク・スプレイグの吊り掛け駆動式の路面電車が1889年に導入され、その後、馬車鉄道路線を置き換えていくことになった。

市街電車の登場は革新的であったものの、ヨーロッパから到着する人や物資により大発展を遂げていたボストンの市内交通を賄うには不完全で、公共交通の改善は都市の発展の課題となり、1891年、高速鉄道委員会が設立された。委員会は1892年に4つの高架鉄道路線と、市街電車が乗り入れる地下鉄路線の建設が必要であるとする報告書を出した。これを受け、1894年に公的機関であるボストン交通委員会のもと、ボストン市内で必要とされる鉄道路線を建設・運営する民間会社である、ボストン高架鉄道が設立された。ボストン高架鉄道はウエストエンド市街鉄道を1897年に買収し、ボストンの都市交通を包括的に運営する事業者となった。

ボストン高架鉄道と高架鉄道、地下鉄建設[編集]

トレモント通り地下鉄路線図

ボストン高架鉄道は最初の地下鉄区間であるトレモント通り地下鉄(現在のグリーンラインの地下区間)を1897年から1898年に開業させた。この路線は、路面電車を直通運転させる目的で作られたという点で、都市高速鉄道として建設された他都市の地下鉄路線とは性格が異なるが、アメリカで最初の地下鉄で、この事は現在のMBTAもしばしば宣伝している。

1901年には、メインライン高架鉄道(現 オレンジライン)が開通した。この路線は市街外延部から都心へ路線を延ばし、都心部は地下構造になっていた。その後まもなく、アトランティック通り高架鉄道(1940年代に廃止)が開業した。両者はニューヨーク地下鉄よりも3年早く登場した(ニューヨーク高架鉄道は遥か以前から存在していたが)ボストン最初の都市高速鉄道であった。

キャナルストリート付近で並走する路面電車と高架鉄道

1908年に開通したワシントン・ストリート・トンネル(現 オレンジライン)は高架鉄道の都心ルートを短縮した。路面電車が乗り入れるトレモント・ストリート地下鉄は地上の軌道の短絡ルートとして無数の支線や延長部分を持つに至った。これに加えて、メインライン高架鉄道のスリバン駅やダッドリー駅(1987年廃止)などに乗り換えターミナルが設置され、路面電車利用客はここで高架鉄道に乗り換えて都心に向かう事ができるようになった。

次に建設された路線は1904年に開業したイーストボストントンネルで、ボストン・ハーバーとイースト・ボストンを結ぶ路面電車用のトンネルであった。このトンネルの開業により路面電車とフェリーの乗り継ぎが不要になった。このトンネルは1924年に高速鉄道用に転用され、現在はブルーラインのボストン市街側の路線の一部となっている。

1912年にはケンブリッジトンネルが開業した。このトンネルはケンブリッジ地区のハーバードスクエアのダウンタウンに掘られたものである。その後、市街南部とダウンタウンを結ぶドルチェスタートンネル(現 レッド・ライン)の開削も行われた。このトンネルに接続するドルチェスター線は1927年、かつてのニューヨーク・ニューヘブン・アンド・ハートフォード鉄道に沿って延伸され、アッシュモント-マッタパン高速鉄道がマッタパンまで延伸された。この路線の開業により周辺の路面電車路線の整理が行われている。1922年からは路面電車路線のバス化が進み、1936年にはトロリーバスも登場している。

公営化後[編集]

ボストン高架鉄道の事業拡大と、自動車の登場による利用客の停滞、低運賃政策は同社の財政を圧迫した。規制当局は様々な形で支援を行っていたが、路線施設とその運営は、1947年、ボストン市と周辺の自治体で設立したボストン都市圏交通局に引き継がれることになった。さらに、1964年には権限を都市の交通計画全般にまで拡大した、現在のMBTAが登場することになった。

1953年の路面電車路線図

公営化以降、路面電車路線のバス化と高架鉄道の地下鉄化が積極的に進められた。1953年には路面電車路線はトレモント・ストリート地下鉄に乗り入れる系統と、ハーバードスクエアに乗り入れる系統のみが残った。ハーバード・スクエアに乗り入れる路線は1958年にトロリーバス化されたが、これらの路線はボストンで現存する唯一のトロリーバス路線となっている。1959年には新たな地下鉄路線であるハイランド支線が開通した。この路線はボストン・メイン鉄道が使用していた軌道用地を転用したもので、利用客が多かったために車両を増備する必要に迫られた。グリーンラインの各支線のうち、プリーザント・ストリート・ポータル(Boylstonで分岐する延伸線)の最後の運行は1962年、A線と呼ばれるようになったウォータータウン支線の廃止は1969年で、アーバーウェイ線、すなわちE支線の部分廃止は1985年であった。

プリーザント・ストリート・ポータル(1962年廃止)への分岐部分の写真

高架鉄道路線は視界を遮り、ボストンの曲がりくねった道の上を通るためにカーブが多く、高速鉄道としては問題が多かった。このため、アトランティック通り高架鉄道は1938年に廃止され、オレンジラインの一部であるチャールズタウン高架鉄道は1975年にルート変更の上地下化され、ワシントン通り高架鉄道は1987年に廃止され、バス専用道路が設けられた。2004年のグリーンラインの一部を構成していたコーズウェイ通り高架鉄道の廃止により、残存する高架鉄道はレッドラインの一部付近のみとなった。

ワンダーランドへ向かうレビア延長線(現 ブルーライン)は1952年から1954年にかけて開業した。この路線はかつて存在した狭軌のボストン・レビアビーチ・アンド・リン鉄道の軌道敷にそって建設されている。レッドラインのブライアンツリー支線は1971年から1980年にかけて建設された。レッドラインのエールワイフに向かうノースウエスト延長線は1984年の部分開業を経て1985年に全通した。

これらの近年の延長線は、単なる地下鉄の延長に留まらず、駐車場の設置を行う事によって、自家用車の都心への流入の抑制手段としての役割も併せ持つことになった。

2005年1月12日、メドフォードとサマービルの住民は、マサチューセッツ州に対して訴訟を行う意向があることを明らかにした。中央道路・トンネル計画が交通流動を変え、沿線に汚染と混雑をもたらすことがその理由である。MBTAはこの2都市に向けグリーンラインを延長する計画を持っており、この知らせを受け、1990年以来進展していなかった工事の着手を表明している。

郊外[編集]

ボストン高架鉄道はボストン市街地の交通を経営する事業者であった。現在MBTAが経営を行っている郊外地域には、ベイステート路面鉄道(1911~1919)やマサチューセッツの農村部で長大な路面電車路線網を展開したイースタン・マサチューセッツ路面鉄道(1919~1968)などが存在した。イースタン・マサチューセッツ路面鉄道は1930年代から1940年代に路面電車運行を廃止するが、その後も1968年にMBTAに吸収されるまでバス事業者として活動を続けた。

近郊列車はニューヨーク・ニューヘイブン・アンド・ハートフォード鉄道とボストン・アンド・メイン鉄道が運行していたボストン近郊の通勤列車サービスを1974年に引き継いだものである。

地下鉄[編集]

地下鉄の路線図

MBTAの地下鉄はTと呼ばれる。レッドライン・ブルーライン・オレンジライン・グリーンラインの4路線があり、ボストン市内・郊外を走る。日本の地下鉄同様、車体や駅の案内板の色が路線の色に統一されている。料金は現金でも、地下駅のみで販売されているトークンでも払うことができたが、トークンは2006年12月をもって廃止され、2007年1月から「チャーリー・チケット」と呼ばれるプリペイドカード、一回用の「チャーリー・カード」が導入されている。

レッドライン[編集]

MBTA-red line1.jpg

レッドラインは、北西郊のエールワイフ駅(Alewife)を起点として、JFK駅(JFK/UMass)で分岐し、南郊のマッタパン駅(Mattapan)と南東郊のブレインツリー駅(Braintree)に向かう地下鉄路線である。駅は24ある。

途中、ケンブリッジ市内のハーバード駅(Harvard)やケンドール駅(Kendall/MIT、MIT最寄駅)、ダウンタウンの南駅を通る。ブレインツリー行きの電車はクインシー市内に4つの駅を有する。

パークストリート駅(Park Street)でグリーンラインと、ダウンタウン・クロッシング駅(Downtown Crossing)でオレンジラインおよびシルバーライン・ワシントン通り線と、また5つの駅で近郊電車とそれぞれ乗り換えが出来る。

南駅はアムトラックのターミナルとなっている駅で、ポートランド方面の1列車を除きすべての中長距離列車が発着する。また、南駅はグレイハウンドをはじめとする中長距離バスのターミナルも併設している。南駅はシルバーライン・ウォーターフロント線のターミナルともなっている。

グリーンライン[編集]

パークストリート駅
セントポールストリート

グリーンラインはケンブリッジ市東部のリッチメア駅(Lechmere)を東の起点としている。西側ではB・C・D・Eの各支線に分かれている。B・C・Dラインはケンモア駅(Kenmore)で分岐する。Bラインはボストン・カレッジへ、Cラインはクリーブランド・サークル駅(Cleveland Circle)へ、Dラインはニュートン市の中心部を通ってリバーサイド駅(Riverside)へと向かう。Eラインはケンモア駅より2駅ダウンタウン寄りのコプレー駅(Copley)で分岐してヒース・ストリート(Heath Street)へと通じている。

かつてはウォータータウン駅(Watertown)までのAラインがあったが、現在は廃止されている。他の路線と違い、ライトレールと呼ばれる路面電車形式の小型車両で運行されている。

ガバメント・センター駅(Govemment Center)でブルーラインと、パーク・ストリート駅でレッドラインと、北駅(North Station)およびヘイマーケット駅(Haymarket)でオレンジラインと、ボイルストン駅(Boylston)ではシルバーライン・ワシントン通り線とそれぞれ接続している。ダウンタウンから西郊へ向かう重要な路線で、利用客も多い。支線区間では、特定の時間帯・運転方向では料金が無料である。

オレンジライン[編集]

MBTA-orange line1.jpg

オレンジラインは、北郊のオーク・グロブ駅(Ork Grove)を起点として、南郊のフォレスト・ヒルズ駅(Forest Hills)に向かう地下鉄路線である。駅は19ある。

途中、北駅およびヘイマーケット駅でグリーンラインと、ステート・ストリート駅(State Street)でブルーラインと、ダウンタウン・クロッシング駅(Downtown Crossing)でレッドラインおよびシルバーライン・ワシントン通り線とそれぞれ乗り換えが出来る。また、チャイナタウン駅(Chinatown)およびNEメディカルセンター駅(NE Medical Center)でもシルバーライン・ワシントン通り線に接続している。そのほか、5つの駅で近郊電車に乗りかえることが出来る。

バックベイ駅(Back Bay)にはアムトラックアセラ・エクスプレス北東回廊の中長距離列車が停車する。これらの列車は南駅を起点としてニューヨーク方面に向かっている。そのため、北駅に発着するポートランド方面の列車とこれらの列車との乗り換えにオレンジラインがよく用いられる。

オレンジライン沿い、ロックスベリー・クロッシング駅(Roxbury Crossing)より南はボストン圏の中でも特に治安の悪い地域である。

ブルーライン[編集]

ブルーラインは、北東郊のワンダーランド駅(Wonderland)を起点として、ダウンタウンのボウドイン駅(Bowdoin)に向かう地下鉄路線である。駅は12ある。

途中、ガバメント・センター駅でグリーンラインと、ステート・ストリート駅(State Street)でオレンジラインと乗り換えが出来る。ボストン港の埠頭に立地するニューイングランド水族館や対岸のローガン国際空港へ向かう客の足として利用されている。ただし空港の最寄駅(Airport Station)からターミナルへは無料のシャトルバスに乗り換える必要がある。

シルバーライン[編集]

シルバーラインバスであるため、厳密には地下鉄とは言えないが、2両連結の大量輸送可能の車両を使用するほか、一部で地下の専用トンネル内を走ることもあり、MBTAでは地下鉄として扱っている。

シルバーラインにはワシントン通り方面とウォーターフロント方面の大きく分けて2系統がある。

ワシントン通り方面はSL4・SL5の支線に分かれている。SL4は、レッドライン、アムトラック、および中長距離バスの総合ターミナルである南駅からチャイナタウン駅(オレンジラインと接続)、ダウンタウンのタフツ・メディカル・センター駅(オレンジライン・SL5と接続)を通ってワシントン通りのダッドレイ・スクエア(Dudley Square)へ向かう。SL5は、ダウンタウン・クロッシング駅(レッドライン・オレンジラインと接続)からボイルストン駅(グリーンラインと接続)のループを左回りで回ってタフツ・メディカル・センター駅(オレンジライン・SL4と接続)からワシントン通りをダッドレイ・スクエア(Dudley Square)まで南下する。SL5で北上する場合は、タフツ・メディカル・センター駅からチャイナタウン駅を通りダウンタウン・クロッシング駅に向かう。したがってボイルストン駅は南行のみ、チャイナタウン駅は北行のみである。

これに対し、ウォーターフロント方面はSL1・SL2の支線に分かれ、南駅を起点としている。SL1はローガン国際空港の各ターミナルへと通じていて、SL2はデザインセンターへ向かう。なお、ウォーターフロント方面のシティ・ポイント行SL3は廃止された。SL1・SL2の車両は、専用トンネル内はトロリーバスとして架線から給電を受け、架線のない道路ではディーゼルエンジンを使用するデュアルモード車である。

近郊列車[編集]

MBTA-P. line1.jpg

MBTAは地下鉄のほか、ボストンと近隣の都市とを結ぶ近郊列車も運営している。その車体の色から地下鉄の各路線と対比してパープルラインとも言われる。運転間隔は1路線につき、1日30往復ほどである。郊外の観光地への足や、通勤の要として利用されている。

近郊列車は南駅および北駅を起点として放射状に路線を有する。南駅からはボストン都市圏西端の主要都市ウースターロードアイランド州州都プロビデンス、南東郊の歴史の町プリマスへと向かう路線が発着する。これに対し北駅からはコンコードセーラムに通ずる路線が発着する。

トロリーバス[編集]

ハーバードスクエア駅のトロリーバス。この発着方向の場合は車両右側で乗降
トロリーバス車両。左側にも乗降口がある。

MBTAは、ケンブリッジ地区でトロリーバスを運行している。路線数は4路線あり、ハーバードスクエア駅で地下鉄レッドラインと接続する。ハーバードスクエア駅は、接続の利便性を考慮して地下鉄ホームの横にトロリーバスのホームが設けられた構造が採られており、発着方向によりトロリーバス車両の左側で乗降を行うことも生じるため、左側にも乗降口を設けた車両が使用されている。

路線バス[編集]

MBTAは路線バスも運営している。約180路線を有し、市内および周辺を広くカバーしている。郊外とダウンタウンとを結ぶ急行バスもあり、500番台の路線番号が割り当てられている。

フェリー[編集]

MBTAは鉄道やバスのほか、ボストン港からのフェリーも運営している。ローガン国際空港やコンスティテューション号で知られるチャールズタウンの海軍基地、クインシー港への便が運航している。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

外部リンク[編集]