ナグ・ハマディ写本

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ナグ・ハマディ写本(第4コデックス)

ナグ・ハマディ写本あるいはナグ・ハマディ文書(Nag Hammadi Library)は、1945年にエジプトのナグ・ハマディ村(Nag Hammadi)近くの土中から発見された写本(古文書)。従来、原典がキリスト教によって意図的に破棄・湮滅され、実体が不明となっていたグノーシス主義の解明に大きく貢献した。

目次

[編集] 沿革

1945年12月にエジプトのナグ・ハマディ村(古代の名はケノボスキオン。ルクソールから北西約80キロメートルのナイル河西岸に位置する小村)に近いジャバル・アッターリフで、農夫ムハンマド・アリ・アッサンマンが土中から封印された壷を掘り起こし、壷の中から古い写本が見つかった。同写本については早くから重大な発見であることが指摘されていたが、写本は古物商や国家の思惑に左右されて数奇な運命をたどり、さまざまな事情によって公開が遅れ、ようやく1977年アメリカ合衆国ファクシミリ版が出版されたことで全容が明らかになった。

写本はもともと同地の修道院の書庫に収められていたものであったが、なんらかの理由で土中に秘匿したものと考えられている。この修道院は4世紀にパコミオスが創設した大修道院であることが発掘から明らかになっている。 なお、さまざまな研究によって、写本に記された内容はおそらく1世紀半ばから2世紀にかけて成立したギリシア語の文献をコプト語に訳出し、3世紀から4世紀にかけて修道院で筆写したものと考えられている。

現在、ナグ・ハマディ写本の原本はエジプトに保管されており、その一部はカイロのコプト博物館に展示されている。内容は各国語に翻訳されており、日本語訳も岩波書店から刊行されている。

[編集] 内容

ナグ・ハマディ写本は13巻からなるコデックス(冊子本)形態の写本である。写本のほとんどは古コプト語(サヒディック方言)で書かれており、グノーシス主義に関する文書を中心に、ヘルメス思想に分類されるもの、プラトンの『国家』の一部などが含まれている。またこのほか、名前と断片しか残っていなかった『トマスによる福音書』の完全な版が含まれており、調査によってそこに書かれたイエスの語録はオクシュリュンコスで発見されたオクシュリュンコス・パピルスの一部とも共通することがわかった。

ナグ・ハマディ写本の最大の意義は、従来は資料が少なく護教教父による反駁書(エイレナイオス『異端反駁』等)における引用や、その否定的な主張でしか知られていなかったグノーシス主義の文献が多く含まれており、グノーシス思想の解明に貢献したことである(ナグ・ハマディ写本発見以前に知られていたグノーシス主義の資料は『(マグダラの)マリアによる福音書』『イエウの書』『ピスティス・ソフィア』などごくわずかであった)。 また、ナグ・ハマディ写本は20世紀に入って研究が進んだオクシュリュンコス・パピルスと並び、キリスト教の最古層に属する関係文書群としても注目を集めている。

冊子のうちコデックス I(Codex I)は、分析心理学の創始者でグノーシス主義に対し深い関心を抱いていたカール・ユングに、チューリッヒのC・G・ユング研究所を通じて贈られた為、『ユング・コデックス』とも呼ばれている。

[編集] 各巻の構成

  • コデックス 1 (別名『ユング・コデックス』)
    • 使徒パウロの祈り
    • ヤコブの秘密の教え
    • 真理の福音
    • 復活の教説
    • 三部の教説
  • コデックス 2
  • コデックス 3
  • コデックス 4
    • ヨハネの秘密の教え
    • エジプト人の福音
  • コデックス 5
    • 祝福されたものエウグノーティス
    • パウロの黙示録
    • ヤコブの第一黙示録
    • ヤコブの第二黙示録
    • アダムの黙示録
  • コデックス 6
    • ペトロと十二使徒の言行録
    • 雷、完全なる精神性
    • 正しき教え
    • われわれの大いなる力の概念
    • プラトンの『国家』の一部 - 本来グノーシス主義とは無関係だが、ここに収められている版はかなりグノーシス寄りに改変されている。
    • 第八の教え、第九の教え - ヘルメス文書の一部
    • 感謝の祈り - ヘルメス想による祈り
    • アスクレピオス21-29 - ヘルメス思想に属する教説
  • コデックス 7
    • セムの解釈
    • 大なるセツの第二の教え
    • ペトロの黙示録
    • シルワノスの教え
    • セツの三本の柱
  • コデックス 8
    • ゾストリアノス
    • ペトロのフィリポへの書簡
  • コデックス 9
    • メルキゼデク
    • ノエアの思想
    • 真理の証言
  • コデックス 10
    • マルサネアス
  • コデックス 11
    • 知識の解釈
    • ヴァレンティノス派の解明
    • アロゲネス
    • ヒュプシフォローネ
  • コデックス 12
    • シクストゥスの言葉
    • 真理の福音
    • 断片
  • コデックス 13 (独立したコデックスの形ではなかった)
    • 三つのプロテノイア
    • 世界の起源について

[編集] 関連書籍

  • エレーヌ・ペイゲルス(Elaine Pagels)著、荒井献、湯本和子訳 『ナグ・ハマディ写本―初期キリスト教の正統と異端』 白水社。ISBN 4560028990

[編集] 関連項目

[編集] 外部リンク