スーパーモンスターウルフ

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スーパーモンスターウルフは、田畑の作物などへの鳥獣による被害(食害)を防ぐために開発されたオオカミ型のロボットである[1]

仕様[編集]

オオカミの姿をしており、「体長」65センチメートル、「体高」50センチメートル[2]ソーラーパネルによる太陽光発電とバッテリーにより、昼夜を分かたず稼働する。目にはLEDが採用され、胴体にはスピーカーが設置されている[3]

赤外線センサーでおよそ20メートル以内の動くものを検知し、最大約90デジベルの威嚇音声を発し[2]、首を左右にふり、目が「炎の色」など16パターンに発光する[2][4]。特に検知しない場合でも内蔵タイマーで一定時間毎に自動で作動する機能もある[5][6]

この威嚇音は約1キロメートル四方にまで届く[3]。音声は、オオカミの咆哮や、猟犬の鳴き声、イノシシの悲鳴、猟銃の発砲音、動物が忌避する金属音、「お前だけは許さない」という人の叫び声など約50種類[注 1]から選ばれる。様々な音を無作為に出すことで、野生動物が慣れてしまうことがないという[9][1][2][3][10][5]

開発[編集]

開発したのは北海道奈井江町の企業である[11]。開発には北海道大学東京農業大学との共同で実証実験を行い、7年を要した[9]。はじめは北海道の厳冬期に屋外で使用可能なLEDを商品化し、次いでLEDの光と音を組み合わせてヒグマエゾシカなどの野生動物を追い払う「モンスタービーム」という装置を実用化した。この商品は北海道内の鉄道会社や農家などから100台あまりの受注があったという[12]

この発展型である「モンスターウルフ」がオオカミを姿を模したのは、野生動物への実際の効果もさることながら、購買するユーザーに「これなら効きそうだ」と訴求する効果を狙ったという[4]

2022年10月13日に幕張メッセで開かれた農業イベントで、自走するオオカミ型ロボット「ウルフムーバー」がお披露目された。[13]

実績[編集]

当初、北海道内に設置して監視カメラで効果測定を行った。その結果、威嚇音の到達圏内ではクマやシカなど野生動物の侵入抑制効果が認められたという[14][15]。と同時に、農地の面積がそれほど大きくない本州のほうがより適地であるとも考えられた。そのため本州での実証実験を行うことになり、北海道には生息しないイノシシにも効果があるかが検証されることになった[15][14]

2017年からは本州各地の9ヶ所で試験導入が始まった。その最初になった千葉県木更津市では、農業協同組合が試験的に導入し、2017年7月に市内で鳥獣被害が深刻な矢那地区の水田に設置した[11][9][16][15][注 2]。その結果、移設までの2ヶ月の間、イノシシによる水田への被害が大きく減った。この水田ではかつて毎日イノシシが入り込んで泥浴びをした痕跡があったが、設置後はこれがみられなくなり、水田の設置箇所の反対側では被害があったものの、イネへの被害は抑えられたという[17]。秋にはクリ畑の林に移設したところ、こちらも食害の減少が確認された[16]

これらの結果から、設置した農協では、おおむね1キロメートル四方に効果が認められ、農地約1ヘクタールに1台を設置すると有効的とした。また電気柵捕獲罠などを併用して総合的な対策が望ましいともしている[16]。これらの結果は英国放送協会(BBC)やインデペンデント紙など日本国外でも報じられた[18][19]

ほかにも、青森県では果樹園に侵入するサル対策として設置、あわせてカメラを仕掛けたところ、サル、クマ、シカがスーパーモンスターウルフに驚いて逃げ去る様子が動画として記録された[17]栃木県足利市のゴルフ場では設置後にイノシシによるコースの掘り起こし被害が減った[2][6]長野県王滝村では、近接する民家への影響を慮って「音声」を消して設置したが、オオカミの姿と目の発光だけでもイノシシが出没しなくなったという[2]

一連の効果の実証により、山梨県岐阜県京都府愛媛県福岡県などから、また海外からはカナダフランスベルギードイツブルガリアから問い合わせがあったという[2]。開発元ではこれらの結果を踏まえて量産を開始[20]、2018年までには日本各地で40体が稼働している[10]

2018年1月からは九州で[8]、8月には関西圏では初となる淡路島での実証実験が始まった[10][5]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 導入時期等により音声の数が異なる。33(2017年11月山梨県[7])、50(2017年8月千葉県[1])、53(2018年1月福岡県[8])、57(2018年8月兵庫県[5])など。
  2. ^ 北海道での試作機にはなかった「首を振る」動作が、千葉県木更津市での試作機から採用された[4]

出典[編集]

  1. ^ a b c 毎日新聞,2017年8月10日付,スーパーモンスターウルフ 獣害に七色の鳴き声のロボット,2018年8月13日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 産経ニュース,2017年11月26日付,あの「モンスターウルフ」は効果があるか? クマ、シカ、サルの映像をとくとご覧あれ!!(2),2018年8月13日閲覧。
  3. ^ a b c 産経ニュース,2017年7月9日付,獣害対策の“秘密兵器” 吠えるオオカミフィギュア「スーパーモンスターウルフ」 11日から千葉県で投入(2),2018年8月13日閲覧。
  4. ^ a b c エキサイトニュース,害獣対策のコワすぎオオカミ型ロボ、実は観光案内もこなせる,2018年8月13日閲覧。
  5. ^ a b c d 産経ニュース,2018年8月7日付,見た目と音で獣害対策 淡路市で「スーパーモンスターウルフ」実証実験,2018年8月13日閲覧。
  6. ^ a b 下野新聞DIGITAL,2018年1月9日付,オオカミ型装置で獣害防止 足利のゴルフ場でも活躍「スーパーモンスターウルフ」,2018年8月13日閲覧。
  7. ^ 産経ニュース,2017年11月8日付,「33種の動物や人の声で威嚇する」! 害獣撃退“オオカミロボ”が発進 農作物被害対策に 山梨・南アルプス市(2),2018年8月15日閲覧。
  8. ^ a b 西日本新聞,2018年1月4日付,オオカミロボ出動 添田町 新年度九州初導入 農林被害防止へ奇策,2018年8月13日閲覧。
  9. ^ a b c 産経ニュース,2017年7月9日付,獣害対策の“秘密兵器” 吠えるオオカミフィギュア「スーパーモンスターウルフ」 11日から千葉県で投入(1),2018年8月13日閲覧。
  10. ^ a b c “大音量でイノシシ威嚇 モンスターウルフ実験開始”. 神戸新聞. (2018年8月2日). オリジナルの2018年8月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20180814103920/https://www.kobe-np.co.jp/news/awaji/201808/0011502144.shtml 2024年3月1日閲覧。 
  11. ^ a b 朝日新聞DIGITAL,2018年3月4日付,スーパーモンスターウルフ量産へ 「ウルトラ」にも期待,2018年8月13日閲覧。
  12. ^ 日経産業新聞,2015年10月16日付,北海道発、太田精器――LEDと音で鳥獣撃退、装置、農作物や生活守る(輝く),2018年8月13日閲覧。
  13. ^ 「お前だけは許さない」 海を渡るイノシシとも戦ってきたオオカミ型ロボットが進化 | TBS NEWS DIG (1ページ)”. TBS NEWS DIG. 2023年1月15日閲覧。
  14. ^ a b 産経ニュース,2017年7月9日付,獣害対策の“秘密兵器” 吠えるオオカミフィギュア「スーパーモンスターウルフ」 11日から千葉県で投入(3),2018年8月13日閲覧。
  15. ^ a b c 千葉日報,2017年7月11日付,光る目、吠え声で威嚇 木更津市農協が獣害対策 オオカミ型装置を設置,2018年8月13日閲覧。
  16. ^ a b c 千葉日報,2018年3月3日付,“切り札”効果あり スーパーモンスターウルフ イノシシの食害減少 木更津市農協、実用化へ,2018年8月13日閲覧。
  17. ^ a b 産経ニュース,2017年11月26日付,あの「モンスターウルフ」は効果があるか? クマ、シカ、サルの映像をとくとご覧あれ!!(1),2018年8月13日閲覧。
  18. ^ 英国放送協会(BBC),2018年3月6日付,'Super Monster Wolf' a success in Japan farming trials,2018年8月13日閲覧。
  19. ^ インデペンデント,2018年3月9日付,ROBOTIC 'SUPER MONSTER WOLF' DEPLOYED TO PROTECT JAPAN'S CROPS FROM WILD BOARS,2018年8月13日閲覧。
  20. ^ 日刊工業新聞,2018年3月21日付,“スーパーモンスター”量産へ 太田精器、動物避け需要に手応え,2018年8月13日閲覧。

関連項目[編集]