スターリング (スループ)

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HMS スターリング
グリーノックに停泊中の「スターリング」 (1943年3月24日)
グリーノックに停泊中の「スターリング」
(1943年3月24日)
基本情報
建造所 スコットランドゴヴァン英語版
フェアフィールド・シップビルディング・アンド・エンジニアリング・カンパニー英語版
運用者  イギリス海軍
艦種 スループ
フリゲート(1947年類別変更)
級名 改ブラックスワン級スループ
艦歴
発注 1941年7月18日
起工 1941年10月21日
進水 1942年10月14日
就役 1)1943年4月1日
2)1946年3月
退役 1)1945年10月
2)1956年
その後 1958年5月26日にスクラップとして処分
要目([1]
排水量 1,350ロングトン (1,370 t)
全長 299フィート6インチ (91.3 m)
最大幅 38フィート6インチ (11.7 m)
吃水 11フィート (3.4 m)
主缶 海軍本部式三胴型重油専焼ボイラー×2基
主機 ギヤード蒸気タービン×2基
出力 4,300馬力 (3,200 kW)(3.21 MW)
推進器 2軸推進
速力 20ノット (37 km/h; 23 mph)
航続距離 7,500海里 (13,900 km; 8,600 mi)
12ノット (22 km/h; 14 mph)時
乗員 士官、兵員192名
兵装 QF 4インチ (101.6mm) 連装高角砲英語版×3基
ヴィッカース 40mm単装機銃×4基
エリコン 20mm連装機銃×6基
爆雷投射機×8基
爆雷投下軌条×2基
爆雷×110発
ソナー 探信儀 (ASDIC)
その他 ペナント・ナンバー:U66
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スターリング (HMS Starling, U66) は、イギリス海軍スループ改ブラックスワン級。艦名はムクドリ科の総称「Starling」に由来し、イギリス海軍においてこの名前を持つ艦としては8代目にあたる[2]

「スターリング」は第二次世界大戦中の著名な対潜戦指揮官フレデリック・ジョン・ウォーカーの乗艦として大西洋の戦いで活躍した。「スターリング」は共同戦果を含めて合計14隻のUボートを撃沈し、イギリス海軍で最も成功した対潜艦艇であるとみなされている[3]

艦歴[編集]

「スターリング」は1940年度戦時補充建造計画に基づき1941年7月18日に発注され、1941年10月21日にスコットランドゴヴァン英語版フェアフィールド・シップビルディング・アンド・エンジニアリング・カンパニー英語版で起工、1942年10月14日進水し、1943年4月1日に就役した。建造期間は17ヶ月と10日であった[4]。建造中の1942年3月にはウォーシップ・ウィークのキャンペーンに参加し、ランコーン地方自治区英語版ランカシャーの住民に割り当てられた[3]

第二次世界大戦[編集]

「スターリング」は1943年4月、第2支援グループ(2SG)英語版指揮官フレデリック・ジョン・ウォーカー大佐の指揮下でウェスタンアプローチ管区に配備された。このグループは6隻のスループからなる戦隊で、船団護衛には縛られず、Uボートを発見すればどこでも自由に掃討することができた。この時点におけるグループの僚艦は、「シグニット英語版」、「カイト英語版」、「ワイルドグース英語版」、「ウッドペッカー英語版」、「レン英語版」であった。

攻撃体勢の「ウッドペッカー」を叱咤する「スターリング」艦橋上のウォーカー大佐。

1943年5月に行われた「スターリング」の最初の哨戒は順調だった。この月の間に何度か大きな船団護衛戦が発生したが、2SGが関与した戦闘はなかった。「スターリング」最初の成功は1943年6月1日のことで、初のUボート発見がなされた。この出来事は、ウォーカー大佐によって「栄光の6月1日」と呼ばれた[5]。グループは「U-202英語版」を発見。15時間にわたって追跡・撃沈し、大西洋におけるその時点で最長の対潜戦を展開した。

リバプールに帰還した「スターリング」と2SGの僚艦は、イギリス空軍コースタル・コマンド英語版と共同でUボートのビスケー湾横断を阻止するマスケトリー作戦に参加する。1943年6月24日、今度は2隻のUボートを撃沈することに成功した。「スターリング」は「U-119英語版」を体当たり攻撃で破壊したが、「スターリング」も「U-119」との衝突によって損傷した。修理のためにイギリス本土に戻ることを余儀なくされ、「ワイルドグース」艦長D・E・G・ウィームス中佐の臨時指揮下、ウォーカー大佐はグループに留まった[6]

10月、修理が終わりグループに復帰した「スターリング」は、ON207船団英語版周辺での戦闘に参加した。「スターリング」の直接的な戦果はなかったものの、船団全体ではUボート3隻を撃沈し、船団加入船に損失はなかった[7]

1943年11月、HX264船団周辺での活動において「スターリング」と僚艦2隻は、さらに2隻のUボート、すなわち「U-226英語版」と「U-842英語版」を発見、これらを撃沈する戦果を挙げた[8]

12月、スターリングはSL140/MKS31船団の支援中に「U-843英語版」を攻撃して損傷させ、攻撃を断念させた[9]

1944年1月末から2月にかけて、「スターリング」は「シックス・イン・ワン・トリップ」(Six in one trip)として知られることになる戦いに参加した。「スターリング」を含む2SGは2週間で6隻のUボートを撃沈し、「スターリング」はそのうち4隻を共同撃沈することになった[10]

1943年の「スターリング」。

1月31日、「スターリング」はSL147/MKS38船団を支援して「U-592英語版」を、2月9日には「U-734英語版」と「U-238英語版」を、2月19日には「U-264英語版」をそれぞれ沈めた[11]

1944年3月、「スターリング」と2SGは護衛空母ヴィンデックス」を伴い、北大西洋気象観測任務に就いていた「U-653英語版」を撃沈した。

同月下旬、ムルマンスク行き援ソ船団JW58船団英語版を支援していた「スターリング」は、今度は北大西洋へ向かう途中の「U-961英語版」と遭遇し、これを撃沈する[12]。合計3隻のUボートがJW58船団への攻撃で沈められたが、「スターリング」に関してはこれ以上の戦果はなかった。

5月3日、アメリカ海軍護衛駆逐艦ドンネル英語版」が「U-473英語版」に雷撃され損傷すると、ウォーカー大佐は即座に反応した。「ドンネル」が被雷した海域から300海里 (560 km)離れたところにいたものの、ウォーカー大佐は自らの経験に基づきどこを捜索すべきか当たりをつけ、3日間の捜索の末にUボートを発見した。18時間に及ぶ追跡の結果、「U-473」は海面に浮上したが、「スターリング」らの砲撃によりとどめを刺された[13][14]

6月、「スターリング」は「ネプチューン作戦」(ノルマンディー上陸作戦)に参加し、上陸艦隊への攻撃を阻止するのに尽力した。合計15隻のUボートが上陸艦隊を攻撃する試みの中で沈められたが、「スターリング」自身の戦果はなかった。

7月、「スターリング」は、就役以来艦を指揮していたウォーカー大佐が過労による脳卒中を発症し殉職するという最大の打撃を受けた。

ウォーカー大佐の後任として艦長となったN・W・ダック中佐の下で、8月に「スターリング」と2SGの僚艦はビスケー湾でUボート4隻を沈め、再び哨戒を成功させた。そのうち、「スターリング」は「U-333英語版」、「U-736英語版」、「U-385英語版」に対する戦闘に参加している[15]

1944年1月、爆雷攻撃を行う「スターリング」。

9月、「スターリング」はG・W・E・カステンス中佐の指揮下で第22護衛グループ(22EG)に移ったが、既にUボートに対する戦闘は変化し、以前のような成功をほとんど得られなかった。この頃の戦闘は、海底の残骸の中に隠れることができる浅い沿岸海域で単独行動するUボートに対するものへと様変わりしていた。この「一匹狼」を狩り出すのは遅くて退屈な仕事だったが、一方で商船の損失は最小限に抑えられた。

1945年1月、「スターリング」は22EGの艦艇を率いてノース海峡でUボートと思われる目標を攻撃した。これは戦後にドイツ側記録を調べた結果、「U-482英語版」を撃沈したものとされた。しかし、この評価は1991年に見直され、グループの戦果認定は取り消された。この攻撃は、潜水艦以外の目標に対して行われたと判断された[16]

ヨーロッパでの戦争が終わると、「スターリング」は太平洋での任務に就くことになったが、これに備えた改装中に日本の降伏を迎えた。1945年9月に「スターリング」は退役し、10月に予備役英語版へ編入された。

戦後の活動[編集]

1946年、「スターリング」はイギリス海軍の航海訓練学校であるHMSドライアド英語版で任務に就くために再就役した。航海練習艦に改造されて武装撤去後、その後10年間任務に就いた。1953年には、エリザベス2世戴冠記念観艦式に参加している[17]

現役最後の年、「スターリング」はノルウェーフィヨルドキールのUボート基地を訪問した。1956年、前年に廃棄が決まっていた「スターリング」最後の航海では、地元当局が用意した引退式典に参加するためリバプールのブートル英語版へ寄港し、ウォーカー大佐の未亡人がブートルからポーツマスへの最後の航海に同乗している[18]

到着後、ポーツマスで解役された「スターリング」は、1958年5月26日にクイーンズバラ英語版解体のため曳航された[3]

「スターリング」の艦名は、1984年就役のピーコック級哨戒艦「スターリング」に引き継がれた[3]。イギリス海軍を退役後はフィリピン海軍に売却され「アルテミオ・リカルテ英語版」として現役である[19]

戦果[編集]

  • 「スターリング」は大戦中の活動で14隻のUボート撃沈に関与した。
日付 Uボート 型式 場所[20] 情報
1943年6月2日 U-202英語版 VIIC型 北大西洋
北緯56度12分 西経39度52分 / 北緯56.200度 西経39.867度 / 56.200; -39.867
「スターリング」の爆雷と砲撃により沈没[21]
1943年6月24日 U-119英語版 XB型 北大西洋、オルテガル岬北西
北緯44度59分 西経12度24分 / 北緯44.983度 西経12.400度 / 44.983; -12.400
「スターリング」の砲撃と体当たり攻撃により沈没[22]
1943年11月6日 U-226英語版 VIIC型 北大西洋、レース岬英語版東方
北緯44度49分 西経41度13分 / 北緯44.817度 西経41.217度 / 44.817; -41.217
「スターリング」、「ウッドコック英語版」、「カイト英語版」の爆雷攻撃により沈没[23]
1943年11月6日 U-842英語版 IXC/40型 北大西洋
北緯43度42分 西経42度08分 / 北緯43.700度 西経42.133度 / 43.700; -42.133
「スターリング」と「ワイルドグース英語版」の爆雷攻撃により沈没[24]
1944年1月31日 U-592英語版 VIIC型 北大西洋、ケープ・クリア島英語版南西
北緯50度20分 西経17度29分 / 北緯50.333度 西経17.483度 / 50.333; -17.483
「スターリング」、「ワイルドグース」、「マグパイ英語版」の爆雷攻撃により沈没[25]
1944年2月9日 U-734英語版 VIIC型 北大西洋
北緯49度43分 西経16度23分 / 北緯49.717度 西経16.383度 / 49.717; -16.383
「ワイルドグース」と「スターリング」の爆雷攻撃により沈没[26]
1944年2月9日 U-238英語版 VIIC型 北大西洋、ケープ・クリア島南西
北緯49度44分 西経16度07分 / 北緯49.733度 西経16.117度 / 49.733; -16.117
「カイト」、「マグパイ」、「スターリング」のヘッジホッグ攻撃及び爆雷攻撃により沈没[27]
1944年2月19日 U-264英語版 VIIC型 北大西洋
北緯48度31分 西経22度05分 / 北緯48.517度 西経22.083度 / 48.517; -22.083
「ウッドペッカー」と「スターリング」の爆雷攻撃により沈没[28]
1944年3月15日 U-653英語版 VIIC型 北大西洋
北緯53度46分 西経24度35分 / 北緯53.767度 西経24.583度 / 53.767; -24.583
護衛空母ヴィンデックス」の第825海軍航空隊英語版ソードフィッシュ雷撃機により発見後、「スターリング」と「ワイルドグース」の爆雷攻撃により沈没[29]
1944年3月29日 U-961英語版 VIIC型 北大西洋、フェロー諸島北方
北緯64度31分 西経03度19分 / 北緯64.517度 西経3.317度 / 64.517; -3.317
「スターリング」と「マグパイ」の攻撃により沈没[30]
1944年5月6日 U-473英語版 VIIC型 北大西洋、ケープ・クリア島南西
北緯49度29分 西経21度22分 / 北緯49.483度 西経21.367度 / 49.483; -21.367
「スターリング」、「ワイルドグース」、「レン英語版」の爆雷攻撃と砲撃により沈没[31]
1944年7月31日 U-333英語版 VIIC型 イギリス海峡シリー諸島西方
北緯49度39分 西経07度28分 / 北緯49.650度 西経7.467度 / 49.650; -7.467
「スターリング」とフリゲートロック・キリン英語版」のスキッド攻撃により沈没[32]
1944年8月6日 U-736英語版 VIIC型 北大西洋、サン=ナゼール西方
北緯47度19分 西経04度16分 / 北緯47.317度 西経4.267度 / 47.317; -4.267
「スターリング」と「ロック・キリン」のスキッド攻撃により沈没[33]
1944年8月11日 U-385英語版 VIIC型 ビスケー湾ラ・ロシェル西方
北緯46度16分 西経02度45分 / 北緯46.267度 西経2.750度 / 46.267; -2.750
「スターリング」の爆雷攻撃とオーストラリア空軍第461飛行隊英語版サンダーランド飛行艇の爆撃により沈没[34]

「スターリング」は、スループ「アミシスト英語版」、「ピーコック英語版」、「ハート英語版」、フリゲート「ロック・クラギー」と共同で、1945年1月16日にノース海峡において「U-482英語版」を撃沈したとされていた。しかしながら、戦後の再検証で海軍本部はこの戦果を取り消している。

栄典[編集]

「スターリング」は第二次世界大戦の戦功で4個の戦闘名誉章(Battle honours)を受章した。

  • 「Biscay 1943」 、「Atlantic 1943–45」、「Arctic 1944」、「Normandy 1944」[35]

大衆文化において[編集]

「スターリング」の北極海船団における任務(「HMSスパロー」としてフィクション化)は、イギリスの作家ジュリア・ジョーンズ英語版児童冒険小説ストロング・ウインド・シリーズ英語版第1巻「The Salt-stained Book」(2011年)のプロローグで紹介されている。

脚注[編集]

  1. ^ Conway p57
  2. ^ J. J. Colledge; Ben Warlow (2010). Ships of the Royal Navy: The Complete Record of all Fighting Ships of the Royal Navy from the 15th Century to the Present. Newbury, Berkshire: Casemate. p. 383. ISBN 978-1935149071 
  3. ^ a b c d Mason, Geoffrey B. “HMS STARLING (U 66) - Modified Black Swan-class Sloop”. naval-history.net. 2024年3月21日閲覧。
  4. ^ Elliott p141
  5. ^ Wemyss p.63
  6. ^ Wemyss p.70
  7. ^ Blair p436-7
  8. ^ Blair p440
  9. ^ Blair p488
  10. ^ Blair p498
  11. ^ Blair p498
  12. ^ Blair p516
  13. ^ Wemyss p101
  14. ^ Blair p511
  15. ^ Blair p608-13
  16. ^ Blair p631
  17. ^ Souvenir Programme, Coronation Review of the Fleet, Spithead, 15th June 1953, HMSO, Gale and Polden
  18. ^ served on her 1958-59.
  19. ^ アルテミオ・リカルテArtemio Ricarte.”. 近代世界艦船事典. 2024年3月21日閲覧。
  20. ^ Locations per Kemp; other sources may differ
  21. ^ Kemp p122
  22. ^ Kemp p126
  23. ^ Kemp p156
  24. ^ Kemp p156
  25. ^ Kemp p166
  26. ^ Kemp p167-8
  27. ^ Kemp p167-8
  28. ^ Kemp p171
  29. ^ Kemp p177
  30. ^ Kemp p179-80
  31. ^ Kemp p187-8
  32. ^ Kemp p207
  33. ^ Kemp p208
  34. ^ Kemp p209
  35. ^ HMS Starling: Battle Honours at britainsnavy.co.uk; retrieved 21 March 2024

参考文献[編集]

  • Blair, Clay (1998). Hitler's U-Boat War: The Hunted 1942–1945. ISBN 0-304-35261-6 
  • Conway's All The World's Fighting Ships 1922–1946. London: Conway Maritime Press. (1980). ISBN 0-85177-146-7 
  • Arnold Hague : The Allied Convoy System 1939–1945 (2000). ISBN 1-55125-033-0 (Canada); ISBN 1-86176-147-3 (UK).
  • Kemp, Paul (1997). U-Boats Destroyed, German submarine losses in the World Wars. Arms and Armour. ISBN 1-85409-515-3 
  • Niestle, Axel (1998). German U-Boat Losses During World War II. Greenhill. ISBN 1-85367-352-8 
  • Warlow, B : Battle Honours of the Royal Navy (2004) ISBN 1-904459-05-6
  • Wemyss, DEG : Relentless Pursuit: The Story of Capt. FJ Walker CB.DSO***RN, U-Boat Hunter and Destroyer (2003) Cerberus Publishing ISBN 1841450235 (First published in 1955)
  • Burn, Alan (1993). The Fighting Captain. ISBN 0-85052-555-1.

外部リンク[編集]

関連項目[編集]