カーゴ・カルト
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カーゴ・カルト(Cargo Cult,直訳すると「積荷信仰(つみにしんこう)」)とは、主としてメラネシアなどに存在する招神信仰である。いつの日か、先祖の霊・または神が、天国から船や飛行機に文明の利器を搭載して自分達の元に現れる、という現世利益的な信仰である。「海の向こうから神が豊穣をもたらす」と言う信仰自体は、日本のマレビト信仰、琉球のニライカナイ信仰など、アジアの島嶼地域の信仰としては普遍的なものであるが、近代文明の捉え方について独特の形態をとる事が特徴である。
近代まで文明の利器を知らなかった現地人は西洋人が持ち込んで来た工業製品に対して、これは当地の先住民の為に神が作った物であり、白人は神と特別な繋がりを持って不当にそれらを占有したのだ、と考えた。
従ってカーゴ・カルトでは、白人達の振る舞いと同じ様な儀式を行う事で「白人」の影響を打ち破り、先祖が自分達を認識し白人にではなく自分達に積荷を送ってくれる様になる、とされている。また白人は先祖が姿を変えたものだ、という理解もある。
舶来信仰とは外国の人・物・制度に対し無批判に憧れる反応を指す言葉であり、本項とは関係無い。
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[編集] 概要
特徴は呪物崇拝としての文明の模倣である。かつて積荷が運ばれて来た時の状況(太平洋戦争時のアメリカ軍の装備や振る舞いなど)を再現して、滑走路もどき、空港もどき、事務所もどき等の模倣施設を作り、ココナッツと藁で作ったラジオもどき等の模倣品を作り、更には島民自身が軍人、船乗り、航空兵の行動を模倣した[1] 。またライフルに見立てた小枝を持ち、階級章の絵や「USA」という文字列等をボディペインティングし、「訓練」や「行進」をこなした。木を削って「ヘッドホン」を作り、それを着けて「管制塔」に座り、「滑走路」に立ち「着陸信号」を振り、「滑走路」をたいまつで照らし狼煙を上げることもした。共感呪術(sympathetic magic)型カーゴ・カルトでは、より多くの飛行機を呼び寄せる事を期待して、藁で飛行機の実物大模型を作り、新しい軍用滑走路もどきも作られた。作られた飛行機はメスなので、これでオスの飛行機が誘われて来るとも考えられた。
カーゴ・カルトに熱中する余り、島の人々の中には模倣施設や運ばれて来る積荷用の倉庫の建設にかまけ、農耕・出漁を放棄した上、莫大な富がもう直ぐ現れる、という確信の元に豚等の蓄えを惜しげもなく消費したり、また今までの財品は邪魔になると考えて食料や犬の歯等およそ財産と考えられる物は捨ててしまう事もあった。
このほか、予知夢によって、いつ何処から積荷がやって来るかが予言される事がままあった。予言を語る際は痙攣や踊りを伴う。
カーゴ・カルトはメラネシア各地で断続的に発生してきたが、特にニューギニア島で頻発した。北東部のタロ運動、東部のヴァイララ狂信等である。小規模なカーゴ・カルトは西部のアスマット族やダニ族等に見られた。
カーゴ・カルトによってそれまで存在していた宗教習慣(精霊信仰)は急変した。
[編集] ジョン・フラム信仰
バヌアツ・ニューヘブリデス諸島のタンナ島では、アメリカにはジョン・フラムという神がおり我々に工業製品を授けてくれる、という信仰が生まれ、アメリカ人を崇拝の対象としている。ジョン・フラムという名前は、「アメリカから来たジョン」という意味の「ジョン・フロム・アメリカ」に由来するものではないかと考えられている[2]。 またイギリスのエジンバラ公はジョン・フラムの兄弟で、積荷を積んだ飛行機の操縦者であるとされた為、信仰対象となった。
カーゴ・カルトの大半は21世紀までに消滅したが、現在でもタンナ島のジョン・フラムやエジンバラ公に対する信仰は続いており新興宗教の様な形に収まっている。ジョン・フラムが再来するとされている2月15日には毎年祭りが開かれており、バヌアツ国会にはジョン・フラム信仰の議員も存在する[3][4][5]。
[編集] 信仰要因
孤立した社会が初めて外の世界と接触する際、先住民は衝撃を受け新参者が神通力を持った霊的存在であると考えてしまう場合がある。しかし時が経つに連れて、外から来た者達が不死の霊的存在ではなく普通の(死を免れない)人間であり、彼らの力は神通力ではなく彼らの装置(または荷物)によるものであることが明らかとなってゆく。この「魔術的」装置を欲しがる人々にカーゴ・カルトが現れることが多いが、貿易で装置を入手することはきわめて難しい。地理的孤立もあって、カーゴ・カルトの関係者はたいてい現代技術に関する知識をほとんど持たず、西洋人の説明に不審を抱く。キリスト教や現代西洋社会関係のシンボルは、魔術的人工物として彼らの儀式に取り入れられる。文化の違いと地理的な孤立が独特な思想発展を齎す。
この信仰は、財産を極端なまでに共有し合うメラネシアの伝統文化が核になっているとみられる[6][7][8]。
[編集] 「カーゴ・カルト」に対する批判
ナンシー・マクダウェルは、カーゴ・カルトなる概念は西洋人の偏見が作り出した虚構のメラネシア文化であり、現実にはそのような文化は存在しないと結論付けている。
メラネシアの人々のこの信仰は、突如現れた旧来の常識では理解不能な異文明を、旧来の常識を以ってどうにか止揚した彼等なりの解釈の仕方であり、この思考自体は何ら突飛なものではなく全世界普遍の反応であって「カーゴ・カルト」とは人類普遍の考え方の一部を切り出して名前を付けただけのものである、としている。[9]
[編集] 歴史
- 1867年 オランダ領ニューギニア(ニューギニア島西部・現在のインドネシアパプア州)で、嘗てこの地に富を齎したマンレスが復活する、というカーゴ・カルトに類似した運動が起こる。
- 1885年 フィジーでトゥカ運動が始まる。これが記録に残る最古のカーゴ・カルトである。
- 1919年 パプアニューギニアのヴァイララ狂信がパプアニューギニアで実地研究を行った最初の人類学者の一人フランシス・エドガー・ウィリアムズに記録され1923年に発表される。
- アメリカ合衆国が大日本帝国を相手に戦った太平洋方面作戦中、アメリカ軍の膨大な軍需物資がメラネシアの島々に空中投下され、島民の生活が一変した。戦後アメリカ軍が引き上げ文明の利器が投下されなくなると、島民は物資投下を期待して模倣施設や模倣軍隊を作り始めた。
- 1945年 Pacific Iranz monthly1945年11月号にて初めて「cargo cult」(カーゴ・カルト)という単語が登場した。著者はANGAU(Australian New Guinea Administrative Unit)で准尉を務めていたノリス・バード。
[編集] 類似信仰
- アステカ民族は1519年にやって来たスペイン人を、「一の葦の年(1519年)に復活する」と宣言してアステカを去った白い善神ケツァルコアトル(白い肌に黒い髪をしており生贄の儀式を嫌うという点にスペイン人が共通していた)と同一視した為、侵略を許してしまった。
- 19世紀後半にアメリカで発生したゴースト・ダンスは、アメリカ・インディアンとアングロアメリカ人との文明の接触から起きた儀式である。パイユート族(Paiute)の予言者ウォヴォカ(Wovoka)は、特定の形式で踊る事で先祖が鉄道に乗って帰還し、到来する新たな世界では白人が抑圧される事になると説いた。
- 現代のUFO宗教はカーゴ・カルトになぞらえられる。一部のUFO信奉者は近代兵器には宇宙人から齎された技術が用いられていると考えている。
[編集] 「カーゴ・カルト」のその他の用法
- 「カーゴ・カルト」は現代、取り分け商業分野において用いられる。商業的に大成功を収めたもの(人、食品、製品、サービス、作品等)には大抵、劣化コピーを作る模倣者が現れるが、オリジナルの本質を捉えていない為成功には繋がらない。この様な模倣行為、または、思慮不足の為に行った無駄な努力・儀式をカーゴ・カルト的とする。
- 「cargo cult」という英熟語は、本質を理解せず表層のみを模倣する人々を指す。
- 表層にだけ拘り実態を見ない、という意味では、カタログ世代(性能数値、品質、材質、機構、製造企業等に過剰に拘り、肝心の使い心地や必要な機能を考慮しない)という流行語もこれに該当する。
- この文化は物理学者リチャード・P・ファインマンのカリフォルニア工科大学での卒業式式辞で言及され、また彼の著書『ご冗談でしょう、ファインマンさん』に収録された事でも知られる。この式辞でファインマンは、カーゴ・カルトの信者は外見上は正しく空港やヘッドセット、竹の「アンテナ」を作るが、飛行機は来ないと指摘した。ファインマンは、科学者もしばしばその愚に陥るが、そのような科学の形だけを真似た擬似科学は「カーゴ・カルト・サイエンス」であり、尊敬にも支援にも値しないものだと主張した。
- コンピュータ・プログラミングの世界にも「カーゴ・カルト・プログラミング」という用語があり、何の役にも立たないかも知れないコードを儀式的に含めておく行為を指す。ソフトウェアのバグ回避策としてや、そのプログラマが知らない何らかの理由によって必要なのだと、コードを含めた当人は信じている。[1]
- 「カーゴ・カルト・ソフトウェア工学」は、ソフトウェア工学分野に於ける造語で、成功しているソフトウェア開発集団のやり方を猿真似して失敗した開発集団を指す。[2]
[編集] 関連作品
- 世界残酷物語
- ミラクル・ワールド ブッシュマン (原題:The Gods Must Be Crazy) 南西アフリカに於いてコカ・コーラの瓶がいかに積荷信仰を発生させたかという映画。
- マッドマックス3サンダードーム
- マッドメン(諸星大二郎)
- 阿呆船(佐藤史生)
- Dream Park - SF・殺人推理小説。積荷信仰が背景設定に用いられている。
[編集] 参考文献
- Jebens, Holger (ed.). Cargo, Cult, and Culture Critique. Honolulu: University of Hawai'i Press, 2004.
- Kaplan, Martha. Neither cargo nor cult : ritual politics and the colonial imagination in Fiji. Durham : Duke University Press, 1995.
- Lawrence, Peter. Road belong cargo : a study of the Cargo Movement in the Southern Madang District, New Guinea. Manchester University Press, 1964
- Lindstrom, Lamont. Cargo cult: strange stories of desire from Melanesia and beyond. Honolulu : University of Hawaii Press, 1993.
- Worsley, Peter. The trumpet shall sound : a study of "cargo" cults in Melanesia. London : MacGibbon & Kee, 1957.
- Harris, Marvin. "Cows, Pigs, Wars and Witches: The Riddles of Culture". New York : Random House, 1974.
- Inglis, Judy. "Cargo Cults: The Problem of Explanation". Oceania vol. xxvii no. 4, 1957.
- K, E. Read. "A Cargo Situation in the Markham Valley, New Guinea". Southwestern Journal of Anthropology vol. 14 no. 3, 1958.
- Trenkenschuh, F. 1974. Cargo Cult in Asmat: Examples and Prospects'", in: F. Trenkenschuh (ed.), An Asmat Sketchbook, vol. 2, Hastings, NE: Crosier Missions.
[編集] 関連項目
- 呪術的思考
- 終末思想
- 終末論
- マレビト
- Prince Philip Movement
- Island of the Sequined Love Nun
- ジョンソン・カルト(Johnson cult)
- ジョン・フラム(John Frum)
- 『銃・病原菌・鉄』
[編集] 外部リンク
- 文化人類学講義 カード・カルト(cargo cult)
- 「カーゴカルトの諸相とその人類学的研究ーパリアウ運動における近代性の批判的考察」
- From Tradition to Market
- 研究(宗教社会学、宗教民俗学)
- Vanuatu cargo cult marks 50 years (BBC News)
- Information on the Jon Frum Cargo Cult (still active)
- Contemporary Cargo Cults by John FitzGerald
- Western Oceanian Religions
- [3] 2006 Smithsonian Magazine article entitled: "In John They Trust."
- Cargo cults includes a bibliography
- Fortean Times article Did 'cargo cultists' try to 'buy' former US President Lyndon Johnson as their chief?
- Account of a Visit to a Jon Frum Village in 2005
- Air Force Magazine, January 1991, Vol. 74, No. 1. Summary from the guys who fly those Cargoes.

