オリー伯爵

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

オリー伯爵』(Le Comte Ory )は、ジョアキーノ・ロッシーニ1828年パリ・オペラ座で発表した、フランス語の台詞によるオペラ

作曲の経緯[編集]

セミラーミデ』を最後に、イタリアからフランスへ移住したロッシーニは、イタリア劇場の指揮に加えてオペラの新作を書くという旨の契約をフランス政府と結んだ。程なく1824年9月にルイ18世が死去し、ロッシーニは新国王シャルル10世の即位を祝う作品を書くように命じられた。それが1825年6月に初演された『ランスへの旅』である。作品は成功を収めたが、『ランスへの旅』は戴冠式用の機会作品だったためにロッシーニは、それをそのままお蔵入りにしてしまう。

『ランスへの旅』の盛り上がりの後、ロッシーニは元の計画に戻り、フランスの劇場との仕事を続けた。その間に持ち上がってきたのが『オリー伯爵』である。典型的な好色貴族でトゥレーヌに住んでいたとされるオリー伯爵の伝説は、ウジェーヌ・スクリーブと同僚のシャルル=ガスパル・ドレストル=ポワルソンの共作で1816年に上演されたものである。しかし、この台本はそのまま使うのには短すぎ、原作を第2幕に充て、オリー伯爵がまんまと恋に成功しかける第1幕を継ぎ足すことにした。

音楽の大部分は『ランスへの旅』で使われた主題を使用しているために、フランスの歌手たちにベル・カントの技法を習得させる必要がある一方で、作曲するロッシーニにとっても台本作者にとっても、非常に制約を課された作業となってしまい、台本作者の一人スクリーブは初日に自分の名前を載せないように依頼するほどだった。そこでロッシーニは、自分も台本作りに関与する形でこの作品を成立させ、1828年8月20日にパリ・オペラ座での上演にこぎつける。

観客の反応は好調で、好色なオリー伯爵が小姓と片思いの女性の手によって散々に打ち負かされる内容を楽しんでいたようであるが、他方イタリアではモーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』と同様にふしだらな話として指弾され、話の内容を変更して上演しなければならなかった。

作品の特徴[編集]

この作品は『ランスへの旅』から転用された音楽が違うシチュエーションで巧みに使われている。その一例は以下の通りである。

  • 第1幕
    • 導入部「娘さん早くおいでなさい」《Jouvencelles, venez vite》…『ランスへの旅』導入部「早く早く、さあ、しっかり」《Presto, presto... su, coraggio》
    • オリー伯爵のアリア「願わくば幸いなる運が皆さん方の祈りに応じ給わん事を」《Que les destins prospères》…コルテーゼ夫人のアリア「輝かしい今日の美しい光とともに」《Di vaghi raggi adorno》
    • 農婦たちを伴った教育係のアリア「私たちの庇護者で」《Vous, notre appui》…シドニー卿のアリア「むなしくも心から矢を引き抜こうとするが」《Invan strappar dal core》
    • アデル伯爵夫人のアリア「悲しみの餌食となり」《En proie à la tristesse》…フォルヌヴィル伯爵夫人のアリア「私は出発したいのです」《Partir, oh ciel, desìo》
    • 1幕フィナーレ「まさかのこと!」《Ciel! Oh terreur》…14声のコンチェルタート「ああ、かくも思いがけぬなりゆきに」 《Ah, a tal colpo inaspettato》
  • 第2幕
    • オリー伯爵とアデル伯爵夫人の二重唱「ああ!なんと言うあなた様の高徳への、貴婦人様」《Ah, quel respect, madame》…コリンナと騎士ベルフィオールの二重唱「かのお方の神々しいお姿には」《Nel suo divin sembiante》
    • ランボーのアリア「この人里離れた」《Dans ce lieu solitaire》…ドン・プロフォンドのアリア「他に類のないメダル」《Medaglie incomparibili》

第1幕フィナーレは『ランスへの旅』から14人の無伴奏合唱によるコンチェルタートを使い盛り上がりを演出しており、第2幕のランボーのアリア「この人里離れた」の音楽は『ランスへの旅』の滑稽な早口ソングを征服物語に変えているなど、転用による同一音楽のイメージを変える工夫も凝らされている。

編成[編集]

登場人物[編集]

  • オリー伯爵(領主)…テノール
  • 教育係(オリー伯爵の後見人)…バス
  • イゾリエ(オリー伯爵の小姓)…メゾソプラノ
  • ランボー(騎士、オリー伯爵の仲間)…バリトン
  • フォルムティエの伯爵夫人アデル…ソプラノ
  • ラゴンド夫人(フォルムティエ城の侍女頭)…メゾソプラノ
  • アリス(若い農婦)…ソプラノ

管弦楽[編集]

あらすじ[編集]

舞台は1200年ごろのフランスの片田舎にあるフォルムティエの城。フォルムティエ伯爵は部下を引き連れて聖地エルサレム十字軍として出征、彼の妹で貞淑で慈悲深いアデル伯爵夫人は、話し相手のラゴンド夫人、侍女たちと共に彼らの帰りを待っている。聖地エルサレムに出かけなかった貴族の一人が若き伯爵オリーである。彼は教育係の目を盗み、アデル伯爵夫人に言い寄ろうと、行者に変装して城門の外に住んでいる。そしてその住処で人々の心の悩みを聞いて助言を与え、そのお礼として果物やワインを受け取っている。

第1幕[編集]

オリー伯爵の腹心であるランボーは、行者の関心を引こうと躍起になって群がってくる村娘たちや農夫たちをさばくのに一苦労している。ラゴンド夫人は、人々の群れが楽しげなのに、自分の女主人アデルが沈んでいるのを見かねて、あの行者にアデル伯爵夫人の相談にも乗ってもらえたらと考える。

ねぐらから出てきたオリー伯爵は、人々を祝福し、全ての人の望みを叶えよう、娘たちには結婚相手を見つけてあげようと約束する。城の夫人たちは、男たちが十字軍遠征に出かけて留守の間、貞節を護ると誓いを立てたのだが、ラゴンド夫人は行者(オリー伯爵)に願い事をする人の列に加わる。行者(オリー伯爵)は彼女の女主人に会うことを承知するが、自分の住まいで娘たちをもてなす事のほうに興味がありそうである。

オリー伯爵の若い小姓イゾリエは、アデル伯爵夫人に恋焦がれている。彼は、何故か不機嫌なオリー伯爵の教育係と一緒に登場し、姿を消した自分の主人の居所を探ろうと説得する(アリア「絶えず気配り」)。村人たちと話をし、仕入れた情報から行者(オリー伯爵)の素性を見破った教育係は、応援を頼みに行く。他方イゾリエは行者(オリー伯爵)にすっかり心酔し、自分は伯爵夫人に恋をしており、巡礼の尼僧に変装して城に忍び込むつもりだと打ち明けてしまう(二重唱「さる高貴な生まれの貴婦人が」)。行者(オリー伯爵)は彼に手を貸すと約束するが、その計画を自分のために利用しようとひそかに心に決める。

アデル伯爵夫人がやって来て、沈みがちな気持ちを訴えると(アリア「悲しみの餌食となり」)、行者(オリー伯爵)は恋こそが貴方の心の癒しだと処方する。この助言にはっとした彼女は、すぐにその気になり、イゾリエに自分の気持ちを打ち明けようと考える。行者(オリー伯爵)は、あの小姓は女たらしのオリー伯爵に仕えているので危険だと忠告する。行者(オリー伯爵)が伯爵夫人にうまく接近出来かけたとき、教育係が入ってきて行者の化けの皮をはぐ。アデル伯爵夫人もイゾリエも、彼の正体を知って恐れ戦くと共に自分を恥じる。2日後に十字軍が帰還すると聞いて、オリー伯爵はその到着の前に、もう一度城に侵入しようと計画を立てる(フィナーレ「まさかのこと…ああ、恐ろしいこと、悲痛の極みよ。」)

第2幕[編集]

伯爵夫人と侍女たちが、変装したオリー伯爵の噂をし、縫い物で気持ちを静めようとしている。突然嵐になり、城の外から女巡礼の一団(実は尼僧に扮したオリー伯爵とその部下たち)の悲鳴が聞こえてくる(嵐の場面「気高い女城主様、私どもの難儀をご覧ください」)。女巡礼たちは、オリー伯爵に追われているので匿ってほしいと訴える。伯爵夫人は女巡礼たちを中にいれる。女巡礼の一人が、伯爵夫人に直接礼を述べたいと言う。その正体は、変装したオリー伯爵で、アデルと二人きりになったとたん、自分の気持ちを抑えられなくなる(二重唱「ああなんという貴方様の高徳への」)。アデル伯爵夫人はミルクと果物をこの「巡礼」の客人にふるまうよう命じて部屋を出て行く。

城の酒蔵に入ったランボーは、ワインを何本も持ち出してつましい食事を盛り上げる(アリア「この人里はなれた」)。誰かが近づくと、酒盛りの騒ぎはすぐに敬虔な聖歌に変わる。

イゾリエが登場し、十字軍が真夜中に帰ってくると知らせを持ってくる。ラゴンド夫人から、伯爵夫人が城にお泊めしている「徳の高い方々」にもそれを知らせようと言われたイゾリエは、主人オリー伯爵のやり方をすでに心得ており、女巡礼たちが偽者だと見抜く。アデル伯爵夫人に気に入られたい一心で、イゾリエはオリー伯爵に罠を仕掛ける。オリー伯爵がアデル伯爵夫人のもとに不意に忍び込もうとしたとき、イゾリエはアデル伯爵夫人の寝室の明かりを消して、自分が彼女のベールをかぶり、自分は長椅子の上にいるから貴方は後ろに隠れてくださいとアデル伯爵夫人に言う。、暗闇と伯爵夫人の声に惑わされて、オリー伯爵はイゾリエに近寄る(三重唱「この暗い夜に乗じて」)。そこへラッパの音が鳴り響き、十字軍の帰還が伝えられる。イゾリエは正体を現わし、アデル伯爵夫人の手を借りながら、打ちのめされたオリー伯爵をこっそり外へと逃がす。

そして十字軍の騎士たちが人々に迎えられ、賛美の歌が歌われる(終曲「栄光あれ、勝利した子らに。」)

主要曲[編集]

  • 第1幕
    • アリア「絶えず気配り」(教育係)
    • 二重唱「さる高貴な生まれの貴婦人が」(イゾリエ、オリー伯爵)
    • アリア「悲しみの餌食となり」(アデル伯爵夫人)
    • フィナーレ「まさかのこと…ああ、恐ろしいこと、悲痛の極みよ。」
  • 第2幕
    • 嵐の場面「気高い女城主様、私どもの難儀をご覧ください」
    • 二重唱「ああなんという貴方様の高徳への」(オリー伯爵、アデル伯爵夫人)
    • アリア「この人里はなれた」(ランボー)
    • 三重唱「この暗い夜に乗じて」(オリー伯爵、イゾリエ、アデル伯爵夫人)
    • 終曲「栄光あれ、勝利した子らに。」

関連事項[編集]