アイアンドーム

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アイアンドーム
Flickr - Israel Defense Forces - Iron Dome Intercepts Rockets from the Gaza Strip.jpg
2012年11月14日、ガザ地区からの攻撃を迎撃するアイアンドーム
種類 Counter-RAM近SAM
原開発国 イスラエルの旗 イスラエル
運用史
配備期間 2011年-現在
配備先 イスラエル空軍
開発史
開発期間 2007年-
製造業者 ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズ
値段 9万ドル(ミサイル[2]
製造数 5個中隊[1]
諸元 (タミル対空ミサイル)
重量 90kg[3]
全長 3m[3]
弾体直径 160mm[3]

信管 近接信管[4]

発射
プラットフォーム
20連装ランチャー3基

アイアンドーム英語: Iron Dome、(ヘブライ語: כִּפַּת בַּרְזֶל‎、kipat barzel)は、Counter-RAMに分類されるイスラエルの防空システム。ラファエル・アドバンスト・ディフェンス・システムズイスラエル国防軍により共同開発された[5]

背景[編集]

イスラエルは、度々ハマースヒズボラなどによって発射されたロケット弾による攻撃を受けており、2006年レバノン侵攻では、イスラエル北部にロケット弾4,000発が打ち込まれ、イスラエル南部では2000年-2008年にかけてガザ地区から迫撃砲弾4,000発とロケット弾4,000発が撃ち込まれた[4]

2006年のイスラエル北部への攻撃ではロケット弾により市民33人以上が犠牲となり、軍人にも犠牲者を出している[6]

開発[編集]

2007年2月、アミール・ペレツ国防相はガザ地区からのカッサムや北部で使用されるBM-21などのロケット砲に対処可能なシステムをラファエル社に発注した[5]

2008年7月にはミサイルのテストに成功[7]、2009年3月にはシステムの[8]、7月にはロケット弾迎撃テストに成功した[9][4]2009年8月よりイスラエル空軍大隊規模の部隊が編成され[4]2010年7月には最終テストに成功した[10]2011年3月には、ベエルシェバアシュケロン近郊に最初の部隊が展開した[11][12]

資金[編集]

資金源としてイスラエルの国家予算以外に、アメリカ合衆国からの出資が得られている。これは、アイアンドームの開発に当たって、アメリカ合衆国が協力した事に対する適切な権利を獲得するための物でもあり、2011年度には2億500万ドルが提供され、2012年4月には、2015年までの間に6億8,000万ドルが拠出予定とされた[13]。2011年度の資金は、最初の2個中隊の調達資金となっており[13]、2012年度以降の資金は4個中隊の資金となる見込みである[14]

構成[編集]

指揮ユニット(BMC:Battle Management & Control)、レーダーミサイルランチャーによって構成され、いずれも牽引により移動が可能となるシステムである[15]。レーダーはイスラエル・エアロスペース・インダストリーズの子会社エルタ(ELTA)社製、指揮ユニットとタミル(Tamir)と命名されたミサイルはラファエルが製造している[5]。システムソフトウェアは、後にラファエルの子会社となったmPrest Systemsが開発したものである[16]

運用に際しては、1台のレーダーと各20発のタミルミサイルを装填した3台のランチャーが基本単位である[17]

Counter-RAMとして4km以上70km以内から発射される155mm砲弾ロケット弾は元より、対空ミサイルとして10km以内のUAV航空機誘導爆弾に対する近接防空を担うことも考慮されている。全天候型のシステムとして構築され、重要性の低い目標へ向かう攻撃を対象から除外することで、ミサイルの消費を押さえる事も可能とされている[15][17]2008年の段階では、射程15kmでロケット弾が飛来した場合、150平方kmのエリアを防御可能であると考えられていた[3]

迎撃成功率は、2011年末で75%[18]2012年3月には80%[19]、6月の段階で90%とされている[14]。これは、迎撃を試みた目標に対するものであり、迎撃対象外とされたものについては母数に含まれない[注 1]。運用時には、同時に2発のミサイルが用いられている[20]

調達計画[編集]

イスラエルでは10個中隊の配備を計画しており、内6個中隊は人員不足により予備役による運用を計画している[14]イスラエル空軍では、2011年4月の段階で13個中隊の配備がイスラエルの防衛に必要であると試算している[21]

戦歴[編集]

2011年3月末第947大隊が、各1個中隊ベエルシェバアシュケロンの近郊に展開させた[22]

4月4日に正式に配備されたアシュケロンの部隊が[23]、7日ガザ地区BM-21から発射されたロケット弾の迎撃に成功し、これが初の戦果となった[24]。この光景は、ガザ地区北部に近いイスラエルの町で目撃されている。9日には7発を迎撃したと発表した[25]。10日にはネタニヤフ内閣は閣議を開き、4個中隊の増備を決定。アメリカ合衆国の資金を待たず、予定されていた18ヶ月から6ヶ月に前倒しして3番目のアイアンドーム中隊の設立を急ぐことになった[21]

アイアンドームは南部イスラエルを転々としていたが[26]8月5日にはガザ地区からの攻撃が頻繁になったことに応じてベエルシェバとアシュケロンの近郊に再び展開された[27]。アイアンドームが都市防衛に効果を発揮することを受けて、ガザ地区からの攻撃はアイアンドームが配備されていない、アシュドッドオファキームへの比率が増大した。また、アイアンドームによる防御が突破されることもあり、ベエルシェバでは8月20日夜に7発中5発を阻止したものの1発が居住地区に着弾し犠牲者を出している[28]8月31日には4月から前倒しされていた1個中隊の編成が完了し、アシュドッドに配備された[20]

また、8月8日には最高裁判所により、アイアンドームをガザ地区との国境周辺に配備するよう求めた請願が却下されている[29]

12月、タリムミサイル20発が落下する事故が発生した[30]。これは整備のためにトラックに積み込む作業中に発生したものであり、死傷者は無かったもののミサイルは使用不能となった[31]

2012年3月、グッシュ・ダンに新たな中隊が展開した[32]11月17日には、さらに1個中隊が加わっている[33]

3月にガザ地区との衝突が発生すると、9日にはアシュケロン、アシュダッド、ベエルシェバで迎撃を行った[34]。14日朝までに56発の迎撃を成功させたとされている[35]

11月にもガザ地区との衝突が発生し、11月18日イスラエル国防軍はツイッターで、4日間にガザ地区から発射された846発のロケット弾に対して302発を迎撃したと発表した[36]

輸出[編集]

最初に輸出対象となったのは、アイアンドームそのものではなくレーダーの関連型とされるEL/M-2112であった[37][38]。調達したのはアフガニスタン多国籍軍を構成するヨーロッパの一国であるが、国名は明らかにされなかった。

アイアンドームとしては、2010年にヨーロッパのNATO加盟国が興味を示したとの報道がなされた[39]。また、2011年8月16日には、レイセオンがラファエルと共にアメリカ合衆国での営業を開始、自社のCounter-RAMとのシームレスな統合が可能であるとした[40]。アメリカ合衆国は、海外派兵時に拠点をロケット弾から防衛する目的で興味を持ったとされている[41]

インドに対しては、2010年に売り込みが行われ、交渉中である[42][43]

大韓民国もまた、興味を持った国であり、2011年には軍からの提案もされた。しかし、高コストになることから慎重論も出ている[44]。また、韓国製哨戒艦艇の輸入計画の交換条件とされる可能性も示唆されている[45][46]

問題点[編集]

3-10万ドルと[47][48]、推定値に大きな開きがあるものの高コストが問題として指摘されている[注 2]2012年11月の8日間の戦闘では、2,500-3,000万ドルが費やされた[49]。 単純な費用ではなく人命・着弾時に失われる経済的損失との比較で、許容範囲とみなす見方も存在している[50]

コストと対処可能な範囲の面からは、スカイガードなどのレーザーによるCounter-RAMがより適しているとする意見もある[51]

[編集]

  1. ^ 例:『Iron Dome intercepts missiles aimed at Tel Aviv”. エルサレム・ポスト (2012年11月17日). 2012年11月23日閲覧。』では、発射されたロケット740に対して着弾30。迎撃は成功245、市街地への着弾27で成功率90%としている
  2. ^ カッサムとの対比で問題視される場合もあるが、カッサムは1,000ドル以下で製造可能とされている

出典[編集]

  1. ^ YAAKOV LAPPIN (2012年11月16日). “Fifth Iron Dome battery deployed in Gush Dan”. エルサレム・ポスト. 2012年11月21日閲覧。
  2. ^ Tony Capaccio (2012年11月18日). “Israel’s Iron Dome Defense System Battles Hamas Rockets”. ブルームバーグ. 2012年11月21日閲覧。
  3. ^ a b c d Alon Ben-David (2008年3月18日). “Iron Dome advances to meet Qassam threat”. IHS. 2012年11月21日閲覧。
  4. ^ a b c d Iron Dome Air Defence Missile System, Israel”. army-technology.com. 2012年11月21日閲覧。
  5. ^ a b c Luca Bonsignore (2009年3月27日). “Israel successfully tests “Iron Dome” rocket & artillery shell defence system”. defence.professionals. 2012年11月21日閲覧。
  6. ^ Israel-Hizbullah conflict: Victims of rocket attacks and IDF casualties”. Israel Ministry of Foreign Affairs (2006年7月12日). 2012年11月21日閲覧。
  7. ^ Christian Windeck (2008年7月7日). “Israel's “Iron Dome” successfully tested”. defence.professionals. 2012年11月21日閲覧。
  8. ^ AP通信 (2009年3月27日). “Israel successfully tests anti-rocket system”. ガーディアン. 2012年11月22日閲覧。
  9. ^ Iron Dome Test Successful”. イスラエル国防軍 (2009年7月16日). 2012年11月22日閲覧。
  10. ^ AP通信 (2010年7月19日). “Iron Dome system passes final tests”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  11. ^ YAAKOV KATZ (2011年3月27日). “IDF downplays expectations from Iron Dome deployment”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  12. ^ YAAKOV KATZ (2011年4月10日). “Analysis: Iron Dome changes the Gaza equation”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  13. ^ a b BARBARA OPALL-ROME (2011年4月30日). “U.S. Attaches Strings to Israeli Iron Dome Funds”. DefenseNews. 2012年11月22日閲覧。
  14. ^ a b c 10 Iron Domes for IDF”. IsraelDefense (2012年6月13日). 2012年11月22日閲覧。
  15. ^ a b Dual-Mission Counter Rocket, Artillery and Mortar (C-RAM) and Very Short Range Air Defense (V-SHORAD) System”. Rafael Advanced Defence Systems. 2012年11月21日閲覧。
  16. ^ Yuval Azulai (2012年11月19日). “Iron Dome developer: It will get even better”. GLOBES. 2012年11月21日閲覧。
  17. ^ a b YAAKOV KATZ (2012年6月24日). “Iron Dome wins 2012 Israel Defense Prize”. エルサレム・ポスト. 2012年11月21日閲覧。
  18. ^ YAAKOV KATZ (2011年12月30日). “Iron Dome successful in downing 75% of rockets”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  19. ^ BARBARA OPALL-ROME (2012年3月19日). “Iron Dome Kills 80% of Targeted Rockets”. DefenseNews. 2012年11月22日閲覧。
  20. ^ a b YAAKOV KATZ (2011年8月31日). “IAF deploys third Iron Dome battery outside Ashdod”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  21. ^ a b Yanir Yagna and Anshel Pfeffer (2011年4月12日). “Israel speeds up third Iron Dome battery in wake of Gaza attacks”. ハアレツ. 2012年11月22日閲覧。
  22. ^ Noam Eshel (2011年3月27日). “IDF Pre-Deploys Iron Dome C-RAM in an Effort to Contain Palestinain Rocket Attacks”. Defense Update. 2012年11月22日閲覧。
  23. ^ Second Iron Dome Battery Deployed”. イスラエル国防軍 (2011年4月5日). 2012年11月22日閲覧。
  24. ^ Anshel Pfeffer and Yanir Yagna (2011年4月7日). “Iron Dome successfully intercepts Gaza rocket for first time”. ハアレツ. 2012年11月22日閲覧。
  25. ^ Overnight IDF Activity After Rocket Attacks in Israel”. イスラエル国防軍 (2011年4月9日). 2012年11月22日閲覧。
  26. ^ 例:YAAKOV KATZ (2011年6月3日). “IDF deploys Iron Dome near Sderot”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  27. ^ Anshel Pfeffer and Yanir Yagna (2011年8月5日). “IDF redeploys Iron Dome as rocket fire from Gaza increases”. ハアレツ. 2012年11月22日閲覧。
  28. ^ Anshel Pfeffer and Yanir Yagna (2011年8月22日). “Israeli defense sources: Gaza terror groups changing tactics to avoid Iron Dome system”. ハアレツ. 2012年11月22日閲覧。
  29. ^ JOANNA PARASZCZUK (2011年8月9日). “Petition rejected to deploy Iron Dome near border towns”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。</
  30. ^ Ron Ben-Yishai (2011年12月29日). “http://www.ynetnews.com/articles/0,7340,L-4168485,00.html”. Ynetnews. 2012年11月22日閲覧。
  31. ^ http://www.jpost.com/Defense/Article.aspx?id=251383”. エルサレム・ポスト (2011年12月29日). 2012年11月22日閲覧。
  32. ^ YAAKOV LAPPIN (2012年3月26日). “IDF deploys Iron Dome battery in central Israel”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  33. ^ Fifth Iron Dome battery deployed in Gush Dan”. エルサレム・ポスト (2012年11月16日). 2012年11月22日閲覧。
  34. ^ YAAKOV KATZ, YAAKOV LAPPIN (2012年3月10日). “Iron Dome ups its interception rate to over 90%”. エルサレム・ポスト. 2012年11月22日閲覧。
  35. ^ Several more rockets fired at Israel, IAF targets terror sites”. イスラエル国防軍 (2012年3月14日). 2012年11月22日閲覧。
  36. ^ Some numbers from the last 4 days”. イスラエル国防軍 (2012年11月18日). 2012年11月21日閲覧。
  37. ^ IAI Scores First “Iron Dome” Related Export Order”. Defense Industry Daily (2010年2月2日). 2012年11月23日閲覧。
  38. ^ Coalition Forces in Afghanistan Protected by IAI's Persistent Surveillance Radars”. イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ (2010年1月27日). 2012年11月23日閲覧。
  39. ^ YAAKOV LAPPIN (2010年2月2日). “NATO forces interested in Iron Dome”. エルサレム・ポスト. 2012年11月23日閲覧。
  40. ^ Raytheon Teams with Rafael to Market Iron Dome Weapon System”. レイセオン (2011年8月16日). 2012年11月23日閲覧。
  41. ^ YAAKOV LAPPIN (2011年11月10日). “US may purchase Iron Dome batteries”. エルサレム・ポスト. 2012年11月23日閲覧。
  42. ^ India in talks to buy Iron Dome, David's Sling”. GLOBES (2010年7月14日). 2012年11月23日閲覧。
  43. ^ VIVEK RAGHUVANSHI (2011年1月13日). “India Casts Wider Net for Short-Range Missiles”. Defense News. 2012年11月23日閲覧。
  44. ^ 北ミサイル迎撃にイスラエル製兵器、「高過ぎ」と慎重論”. Chosun Online (2012年11月22日). 2012年11月23日閲覧。
  45. ^ イスラエル、韓国にミサイル迎撃システム売り込み”. Chosun Online (2012年11月20日). 2012年11月23日閲覧。
  46. ^ Yuval Azulai (2012年11月18日). “South Korea mulls importing Iron Dome”. GLOBES. 2012年11月23日閲覧。
  47. ^ Israeli missile-makers strive to meet Iron Dome demand”. ロイター通信 (2012年11月20日). 2012年11月23日閲覧。
  48. ^ The Iron Dome”. エルサレム・ポスト (2012年2月18日). 2012年11月23日閲覧。
  49. ^ Iron Dome shootdowns of Gaza rockets cost $25mln-$30mln - Israel”. ロイター通信 (2012年11月22日). 2012年11月23日閲覧。
  50. ^ Iron Dome: Defense at bargain prices”. エルサレム・ポスト (2012年3月28日). 2012年11月23日閲覧。
  51. ^ Reuven Pedatzur and Haaretz Correspondent (2008年2月22日). “Iron Dome system found to be helpless against Qassams”. ハアレツ. 2012年11月23日閲覧。

関連項目[編集]

  • アロー - アロー3は、アイアンドームと共に迎撃システムを構築する。

外部リンク[編集]