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調音は声道のうち[[喉頭]]より上の部分で様々な度合いの'''せばめ''' |
調音は声道のうち[[喉頭]]より上の部分で様々な度合いの'''せばめ'''{{sfn|プラム・ラデュサー(2003)|p=276}}({{lang-en-short|stricture}})を作ることによって行われる。せばめを作る位置のことを[[調音部位]]といい、その方法のことを[[調音方法]]という。調音にかかわる[[器官]]は'''調音器官'''という。 |
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== 同時調音 == |
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'''同時調音''' |
'''同時調音'''{{sfn|プラム・ラデュサー(2003)|p=266,271}}は、2箇所以上の調音部位が関与する調音をいう。伝統的に、2つの調音部位が等しいせばめをもつ'''二重調音'''と、せばめの異なるもの(より広い方を'''二次的調音'''と呼ぶ)に分ける<ref name="ladmad">Ladefoged & Maddieson (1996) p.329</ref>。しかし、[[ピーター・ラディフォギッド]]とイアン・マディソンによると、せばめが等しいといっても[[破裂音]]の場合と[[接近音]]の場合では異なるとして、[[有声両唇軟口蓋接近音|{{IPA|w}}]]のような接近音を二重調音から除き(母音と同様に記述する)、また二次的調音は常に接近音であるとした<ref name="ladmad"/>。この説に従うと、同時調音は以下のように分けられる。 |
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* 二重調音 - 2箇所以上の調音部位が関与する破裂音または鼻音 |
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* 二次的調音 - 2つの調音部位が関与する調音のうち、片方が破裂音・鼻音・流音・摩擦音のいずれかで、もう一方が接近音のもの |
* 二次的調音 - 2つの調音部位が関与する調音のうち、片方が破裂音・鼻音・流音・摩擦音のいずれかで、もう一方が接近音のもの |
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=== 音響管モデル === |
=== 音響管モデル === |
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'''音響管モデル'''({{lang-en-short|acoustic tube model}})は1次元平面音波の声道内伝搬モデルである<ref>"平面波のみの伝搬を仮定した 円筒管は音響管と呼ばれる。 |
'''音響管モデル'''({{lang-en-short|acoustic tube model}})は1次元平面音波の声道内伝搬モデルである<ref>"平面波のみの伝搬を仮定した 円筒管は音響管と呼ばれる。{{harv|竹本浩典|足立整治|2020||p=188-195}}.</ref>。 |
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音波の波長が声道の幅より長い時、音波は横方向にほとんど伝搬せず声道の長軸方向へのみ伝搬する。ヒトの声の基本周波数が100~300Hzでありヒトの声道の幅を考慮すると、声の低周波数成分は声道内を1次元平面音波として伝搬すると見做せる<ref>"比較的低い周波数における円筒管の内部では, 長軸に沿って伝搬する平面波が主であると見なすことができる。 |
音波の波長が声道の幅より長い時、音波は横方向にほとんど伝搬せず声道の長軸方向へのみ伝搬する。ヒトの声の基本周波数が100~300Hzでありヒトの声道の幅を考慮すると、声の低周波数成分は声道内を1次元平面音波として伝搬すると見做せる<ref>"比較的低い周波数における円筒管の内部では, 長軸に沿って伝搬する平面波が主であると見なすことができる。{{harv|竹本浩典|足立整治|2020|p=188-195}}</ref>。これが音響管モデルである。 |
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=== 縦続音響管モデル === |
=== 縦続音響管モデル === |
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'''縦続音響管モデル'''は声道を「固有の断面積をもつ音響管」の集まりが縦続したものとするモデルである<ref name=":0">"十分短い間隔で輪切りにすれば,断面積の異なる複数の円筒管を接続した音響管と見なすことができる。これを縦続音響管モデルという。 |
'''縦続音響管モデル'''は声道を「固有の断面積をもつ音響管」の集まりが縦続したものとするモデルである<ref name=":0">"十分短い間隔で輪切りにすれば,断面積の異なる複数の円筒管を接続した音響管と見なすことができる。これを縦続音響管モデルという。{{harv|竹本浩典|足立整治|2020|p=188-195}}</ref>。 |
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声道は全ての領域が可変なのではなく、ある程度限られた[[調音部位]]が動く。ゆえに声道を十分短い区間で区切って見ればその部位を「断面積一定の音響管」としてモデル化できる。声道全体をいくつかの区画に区切って定断面積音響管の縦続とみなしたモデルが縦続音響管モデルである<ref name=":0" />。 |
声道は全ての領域が可変なのではなく、ある程度限られた[[調音部位]]が動く。ゆえに声道を十分短い区間で区切って見ればその部位を「断面積一定の音響管」としてモデル化できる。声道全体をいくつかの区画に区切って定断面積音響管の縦続とみなしたモデルが縦続音響管モデルである<ref name=":0" />。 |
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== 関連項目 == |
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2023年4月10日 (月) 07:58時点における最新版
調音(ちょうおん、英: Articulation)は、言語音を発音するため、舌や唇などの調音器官を動かし声道の形を変えることによって、気流に影響を与え、さまざまな種類の音声(子音および母音)を作り出すことをいう。調音の仕組みを調音機構という。気流および発声の仕組みと並んで言語音の主要な構成要素の一つである。
概要[編集]
調音は声道のうち喉頭より上の部分で様々な度合いのせばめ[1](英: stricture)を作ることによって行われる。せばめを作る位置のことを調音部位といい、その方法のことを調音方法という。調音にかかわる器官は調音器官という。
調音部位[編集]
調音部位(英: place of articulation)とは、子音の調音に際して声道内で空気の流れを妨げる場所のことをいう。例えば、唇、歯、歯茎、硬口蓋、軟口蓋などが調音部位であり、それぞれの音を唇音、歯音、歯茎音、硬口蓋音、軟口蓋音という。右表も参照。
調音方法[編集]
調音方法(英: manner of articulation)は、調音に際して、喉頭以上の調音器官の形や動きによって発声器官内の空気の流れを制御したり、発声器官内で発生する音声の共鳴の仕方を変化させたり、新たな音を発生あるいは追加したりして、さまざまな母音や子音を発生させる方法をいう。
母音の調音[編集]
母音の場合にも調音部位を考えることは不可能ではないが、はっきりしたせばめが作られないため、通常は調音部位・調音方法による記述ではなく、狭さ(高さ)と前後(前寄り・奥寄り)、および唇の形によって記述する。これらは聴覚印象の違いを生理的な用語で置き換えたもので、純粋に音声生理学的に母音の調音を説明するのは難しい。
一部の接近音は母音とよく似ており、母音と同様に記述される。たとえば[j]と[i]、[w]と[u]、[ɥ]と[y]、[ɰ]と[ɯ]、[ɹ]と[ɚ]などが対応する。ただし、接近音の方が声道の狭まりが強い[2]。
同時調音[編集]
同時調音[3]は、2箇所以上の調音部位が関与する調音をいう。伝統的に、2つの調音部位が等しいせばめをもつ二重調音と、せばめの異なるもの(より広い方を二次的調音と呼ぶ)に分ける[4]。しかし、ピーター・ラディフォギッドとイアン・マディソンによると、せばめが等しいといっても破裂音の場合と接近音の場合では異なるとして、[w]のような接近音を二重調音から除き(母音と同様に記述する)、また二次的調音は常に接近音であるとした[4]。この説に従うと、同時調音は以下のように分けられる。
- 二重調音 - 2箇所以上の調音部位が関与する破裂音または鼻音
- 二次的調音 - 2つの調音部位が関与する調音のうち、片方が破裂音・鼻音・流音・摩擦音のいずれかで、もう一方が接近音のもの
二重調音[編集]
二重調音(にじゅうちょうおん、英: double articulation)は、2つの調音位置で同時になされる調音のうち、せばめの度合いが同じであるものをいう。代表的な二重調音に両唇軟口蓋音 [k͡p g͡b ŋ͡m] がある。
接近音の[w]・[ɥ]も通常は二重調音とされるが、上記のように破裂音や鼻音の場合と別に扱うこともある。
吸着音はその機構上かならず二重調音になる。
二次的調音[編集]
二次的調音(にじてきちょうおん、英: secondary articulation)ないし副次調音(ふくじちょうおん)は、比較的せばめの強い調音に重ねられて同時に調音される、比較的せばめの弱い調音。普通、接近音である。せばめの度合いが強いほうは主要調音(しゅようちょうおん、英: primary articulation)という。
二次的調音の調音部位によって、唇音化・口蓋化・軟口蓋化・咽頭化に分かれる。
モデル[編集]
調音とその結果得られる音波の関係を記述する様々なモデルが提唱されている。
音響管モデル[編集]
音響管モデル(英: acoustic tube model)は1次元平面音波の声道内伝搬モデルである[5]。
音波の波長が声道の幅より長い時、音波は横方向にほとんど伝搬せず声道の長軸方向へのみ伝搬する。ヒトの声の基本周波数が100~300Hzでありヒトの声道の幅を考慮すると、声の低周波数成分は声道内を1次元平面音波として伝搬すると見做せる[6]。これが音響管モデルである。
縦続音響管モデル[編集]
縦続音響管モデルは声道を「固有の断面積をもつ音響管」の集まりが縦続したものとするモデルである[7]。
声道は全ての領域が可変なのではなく、ある程度限られた調音部位が動く。ゆえに声道を十分短い区間で区切って見ればその部位を「断面積一定の音響管」としてモデル化できる。声道全体をいくつかの区画に区切って定断面積音響管の縦続とみなしたモデルが縦続音響管モデルである[7]。
縦続音響管モデルは声道全体のインパルス応答を計算できるという利点をもつ。それぞれの区間音響管でウェブスターのホルン方程式を考えると、断面積一定の条件によって音響管両端における音圧・体積速度の関係が解析的に得られる(ABCD行列)。声道全体はこの縦続で表現されているのでABCD行列の積で計算できる。
脚注[編集]
- ^ プラム・ラデュサー(2003), p. 276.
- ^ Ladefoged & Maddieson (1996) p.323
- ^ プラム・ラデュサー(2003), p. 266,271.
- ^ a b Ladefoged & Maddieson (1996) p.329
- ^ "平面波のみの伝搬を仮定した 円筒管は音響管と呼ばれる。(竹本浩典 & 足立整治 2020, p. 188-195).
- ^ "比較的低い周波数における円筒管の内部では, 長軸に沿って伝搬する平面波が主であると見なすことができる。(竹本浩典 & 足立整治 2020, p. 188-195)
- ^ a b "十分短い間隔で輪切りにすれば,断面積の異なる複数の円筒管を接続した音響管と見なすことができる。これを縦続音響管モデルという。(竹本浩典 & 足立整治 2020, p. 188-195)
参考文献[編集]
- ジェフリー・K・プラム、ウィリアム・A・ラデュサー 著、土田滋・福井玲・中川裕 訳『世界音声記号辞典』三省堂、2003年。ISBN 4385107564。
- Ladefoged, Peter; Maddieson, Ian (1996). The Sounds of the World's Languages. Oxford: Wiley-Blackwell. ISBN 978-0631198154。
- 竹本浩典、足立整治「声道モデルにおけるインパルス応答の生成技術」『日本音響学会誌』第76巻第3号、日本音響学会、2020年、188-195頁、doi:10.20697/jasj.76.3_188。
関連項目[編集]
- 子音
肺臓気流 両唇 唇歯 歯 歯茎 後部歯茎 そり舌 硬口蓋 軟口蓋 口蓋垂 咽頭 声門 破裂 p b (p̪) (b̪) (t̪) (d̪) t d ʈ ɖ c ɟ k ɡ q ɢ ( ʡˤ) ʔ 鼻 (m̥) m (ɱ̊) ɱ (n̪̊) (n̪) (n̥) n ɳ ɲ ŋ ɴ ふるえ (ʙ̥) ʙ (r̥) r ʀ はじき (ⱱ̟) ⱱ ɾ ɽ (ɟ̆) (ɢ̆) (ʡ̆) 摩擦 ɸ β f v θ ð s z ʃ ʒ ʂ ʐ ç ʝ x ɣ χ ʁ ħ ʕ h ɦ 側面摩擦 ɬ ɮ 接近 (β̞) (ʋ̥) ʋ (ɹ̥) ɹ ɻ j ɰ 側面接近 (l̥) l ɭ ʎ ʟ 非肺臓気流 吸着 ʘ ǀ ǃ 𝼊 ǂ ǁ (ʞ) 入破 ɓ ɗ̪ ɗ (ᶑ) ʄ ɠ ʛ 放出 pʼ (t̪ʼ) tʼ ʈʼ c’ kʼ (qʼ) sʼ その他 同時調音 ʍ w ɥ ɕ ʑ ɧ (k͡p) (ɡ͡b) (ŋ͡m) 喉頭蓋音 ʜ ʢ ʡ 舌唇音 (t̼) (d̼) (n̼) (θ̼) (ð̼) その他側面音 ɺ (ɭ̆) (ɫ) 破擦音 p͡ɸ b͡β p̪͡f b̪͡v t͡θ d͡ð t͡s d͡z t͡ʃ d͡ʒ ʈ͡ʂ ɖ͡ʐ t͡ɕ d͡ʑ c͡ç ɟ͡ʝ k͡x ɡ͡ɣ q͡χ ɢ͡ʁ t͡ɬ d͡ɮ ʔ͡h 記号が二つ並んでいるものは、左が無声音、右が有声音。網掛けは調音が不可能と考えられる部分。
丸括弧内はIPA子音表(2005年改訂版)に記載されていないもの。- 国際音声記号 - 子音