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[[ファイル:Satsunan-Islands-Kagoshima-Japan.png|サムネイル|536x536ピクセル|渡瀬線はトカラ列島の悪石島と小宝島の間を通る。]]
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'''渡瀬線'''(わたせせん)とは、[[悪石島]]と[[小宝島]]の間にある[[トカラ海峡]]を通る生物の[[分布境界線]]である。[[生物地理区]]において[[旧北区]]と[[東洋区]]の境界であり、気候についても[[温帯]]と[[亜熱帯]]の境界となっている<ref name=":1">{{Cite journal|last=慎一郎|first=相場|last2=志歩|first2=藤田|last3=真理子|first3=鈴木|last4=信|first4=鵣川|last5=基博|first5=川西|last6=旬子|first6=宮本|date=2020|title=世界自然遺産候補地奄美群島の森林生態系に関する基礎的研究 ―鹿児島大学薩南諸島森林生態研究グループ―|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/pronatura/28/0/28_105/_article/-char/ja|journal=自然保護助成基金助成成果報告書|volume=28|pages=105–115|doi=10.32215/pronatura.28.0_105}}</ref><ref>{{Cite web |title=琉球の植物「琉球の植物区系と自然」 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo |url=https://www.kahaku.go.jp/research/activities/project/hotspot_japan/ryukyus/page01.html |website=www.kahaku.go.jp |access-date=2023-04-01}}</ref><ref name=":0">{{Cite web |url=https://www.env.go.jp/earth/coop/coop/document/ttmnc_j/07-ttmncj-2.pdf |title=自然環境保全技術移転研修マニュアル |access-date=2023-04-01 |publisher=環境省 |author=海外環境協力センター |year=2000}}</ref>。1912年に[[渡瀬庄三郎]]が確認し<ref name=":0" />、[[岡田弥一郎]]が命名した<ref name=":2" />。[[動物相]]および[[植物相]]の双方において重要な境界線とされ<ref>{{Cite journal|last=健|first=米田|date=2018|title=南西諸島の森林と保全|url=https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/84/0/84_3/_article/-char/ja|journal=森林科学|volume=84|pages=3–7|doi=10.11519/jjsk.84.0_3}}</ref>、[[ブラキストン線]]とともに日本における特に重要な分布境界線とされる<ref name=":0" />。


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[[Category:人名を冠した境界線|わたせせん]]

[[沖縄諸島]]と[[先島諸島]]の間(慶良間海裂)でも生物相が大きく変化し、蜂須賀線と呼ばれている<ref name=":1" />。渡瀬線と蜂須賀線の間の奄美群島と沖縄諸島は生物相の共通性が高く、生物地理学の区分で中琉球と呼ばれる<ref name=":1" />。[[鳥類]]については渡瀬線ではなく蜂須賀線が境界線であるとされる場合もある<ref name=":4" />。

== 発見 ==
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1912年に[[渡瀬庄三郎]]が<ref name=":0" />、1918年には[[青木文一郎]]が[[奄美大島]]と屋久島の間に哺乳類の分布に境界線があると発表した<ref name=":2" />。1921年に[[江崎悌三]]が青木線と命名した<ref name=":2" />。しかし、1927年に岡田弥一郎が渡瀬線と命名したことで、現在では渡瀬線という名称が広まっている<ref name=":2" />。

== 成立 ==
トカラ海峡は水深1,000メートルを超え、現在では西側の水深が火山堆積物により浅くなっているが、[[鮮新世]]から[[更新世]]には海で隔てられていたと考えられている<ref name=":5">{{Cite journal|last=正博|first=柴|date=2020-07|title=島嶼固有動物の分布と中期更新世後期以降の1,000mの海水準上昇|url=http://www.kasekiken.jp/kaishi/kaishi_53(1)/kasekiken_53(1)_1-17.pdf|journal=化石研究会会誌 = Journal of fossil research|volume=53|issue=1|pages=1–17|language=ja}}</ref>。[[鮮新世]]に[[琉球諸島]]は[[日本列島]]から切り離されていくつかの大きな島ができたが<ref name=":5" />、[[更新世]]に入ると隆起により大陸から台湾を経て沖縄、奄美、トカラ列島南部までの伸びる陸橋が形成され、トカラ海峡によって海で隔てられていたと考えられている<ref name=":5" /><ref>{{Cite journal|last=古川|first=雅英|last2=藤谷|first2=卓陽|last3=Furukawa|first3=Masahide|last4=Fujitani|first4=Takuyo|date=2014-09-30|title=琉球弧に関する更新世古地理図の比較検討|url=https://u-ryukyu.repo.nii.ac.jp/records/2007750|language=ja}}</ref>。

== 生物相 ==

=== 動物相 ===
渡瀬線以北の[[大隅諸島]]では哺乳類相、爬虫類相、両生類相は九州本土および[[本州]]と大きな違いがないとされる<ref name=":4" />。

==== 哺乳類 ====
渡瀬線以南の[[南西諸島]]には、[[アマミノクロウサギ]]、[[ルリカケス]]、[[アマミトゲネズミ]]、[[ケナガネズミ]]、[[イリオモテヤマネコ]]、[[ルリカケス]]など多くの固有分類群が存在する<ref name=":1" /><ref name=":4" />。また、[[オオコウモリ]]は渡瀬線を北限とする<ref name=":4" />。

==== 爬虫類 ====
[[ハブ (動物)|ハブ]]、[[ヒメハブ]]、[[リュウキュウアオヘビ]]、[[アカマタ]]、[[キノボリトカゲ]]、[[アオカナヘビ]]は渡瀬線を北限とする<ref name=":4" />。

==== 両生類 ====
渡瀬線以南では、[[有尾目|有尾類]]では[[シリケンイモリ]]、[[イボイモリ]]、[[カエル|無尾類]]では[[ヒメアマガエル]]、[[リュウキュウカジカガエル]]、[[ナミエガエル]]類などが生息している<ref name=":4" />。渡瀬線以南の[[南西諸島]]には固有種が多いと同時に、近縁種が[[中国]]南部や[[台湾]]、[[東南アジア]]に分布しているものが多いという特徴が見られる<ref name=":4" />。

==== その他 ====
昆虫においては三宅線が境界線であるとされる場合もあるが、チョウ以外では渡瀬線を北限とする種も多い<ref name=":4" />。

[[サンゴ礁]]の北限は[[吐噶喇列島|トカラ列島]]となっている<ref name=":1" />。

=== 植物相 ===
渡瀬線以南の沖縄・奄美には[[アダン]]や[[リュウキュウマツ]]の海岸林、[[アコウ (植物)|アコウ]]や[[ガジュマル]]といった[[イチジク属]]、[[ヤエヤマヤシ]]や[[ビロウ]]のような[[ヤシ科]]、[[ヘゴ]]や[[ヒカゲヘゴ]]などの[[木生シダ]]などが出現し、河口域には[[オヒルギ]]、[[メヒルギ]]などからなるマングローブ林が発達している<ref name=":7">{{Cite journal|last=清水|first=善和|date=2014-03|title=日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方 : 東アジアの視点から|url=http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/33916/kci027-02-shimizu.pdf|journal=地域学研究 = Regional views|volume=27|pages=19–75|language=ja}}</ref>。ただしメヒルギは九州本土にも分布する<ref name=":7" />。また、渡瀬線は[[ヒメツバキ]]属の北限である<ref name=":7" />。

[[照葉樹林]]については、渡瀬線をはさんで南北で構成種にある程度の交代は見られるが、大きな差はないと考えられている<ref name=":7" />。植物については[[大隅海峡]]を境界線とする属が多いとする意見もある<ref name=":6" />。

== 脚注 ==
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[[Category:生物地理学]]
[[Category:人名を冠した境界線]]

2023年4月1日 (土) 15:52時点における版

渡瀬線はトカラ列島の悪石島と小宝島の間を通る。

渡瀬線(わたせせん)とは、悪石島小宝島の間にあるトカラ海峡を通る生物の分布境界線である。生物地理区において旧北区東洋区の境界であり、気候についても温帯亜熱帯の境界となっている[1][2][3]。1912年に渡瀬庄三郎が確認し[3]岡田弥一郎が命名した[4]動物相および植物相の双方において重要な境界線とされ[5]ブラキストン線とともに日本における特に重要な分布境界線とされる[3]

哺乳類爬虫類両生類などの境界線は渡瀬線にあるとされているが、昆虫の分布境界線は大隅海峡にあるとされ、これは三宅線と呼ばれている[4][6]。ただし、チョウ以外では渡瀬線を北限とする種も多い[6]。また、植物相についても大隅海峡を境界線とする属が多いとする意見もある[7]

沖縄諸島先島諸島の間(慶良間海裂)でも生物相が大きく変化し、蜂須賀線と呼ばれている[1]。渡瀬線と蜂須賀線の間の奄美群島と沖縄諸島は生物相の共通性が高く、生物地理学の区分で中琉球と呼ばれる[1]鳥類については渡瀬線ではなく蜂須賀線が境界線であるとされる場合もある[6]

発見

旧北区と東洋区の境界線については古くから多く議論されてきた[4][8]

1912年に渡瀬庄三郎[3]、1918年には青木文一郎奄美大島と屋久島の間に哺乳類の分布に境界線があると発表した[4]。1921年に江崎悌三が青木線と命名した[4]。しかし、1927年に岡田弥一郎が渡瀬線と命名したことで、現在では渡瀬線という名称が広まっている[4]

成立

トカラ海峡は水深1,000メートルを超え、現在では西側の水深が火山堆積物により浅くなっているが、鮮新世から更新世には海で隔てられていたと考えられている[9]鮮新世琉球諸島日本列島から切り離されていくつかの大きな島ができたが[9]更新世に入ると隆起により大陸から台湾を経て沖縄、奄美、トカラ列島南部までの伸びる陸橋が形成され、トカラ海峡によって海で隔てられていたと考えられている[9][10]

生物相

動物相

渡瀬線以北の大隅諸島では哺乳類相、爬虫類相、両生類相は九州本土および本州と大きな違いがないとされる[6]

哺乳類

渡瀬線以南の南西諸島には、アマミノクロウサギルリカケスアマミトゲネズミケナガネズミイリオモテヤマネコルリカケスなど多くの固有分類群が存在する[1][6]。また、オオコウモリは渡瀬線を北限とする[6]

爬虫類

ハブヒメハブリュウキュウアオヘビアカマタキノボリトカゲアオカナヘビは渡瀬線を北限とする[6]

両生類

渡瀬線以南では、有尾類ではシリケンイモリイボイモリ無尾類ではヒメアマガエルリュウキュウカジカガエルナミエガエル類などが生息している[6]。渡瀬線以南の南西諸島には固有種が多いと同時に、近縁種が中国南部や台湾東南アジアに分布しているものが多いという特徴が見られる[6]

その他

昆虫においては三宅線が境界線であるとされる場合もあるが、チョウ以外では渡瀬線を北限とする種も多い[6]

サンゴ礁の北限はトカラ列島となっている[1]

植物相

渡瀬線以南の沖縄・奄美にはアダンリュウキュウマツの海岸林、アコウガジュマルといったイチジク属ヤエヤマヤシビロウのようなヤシ科ヘゴヒカゲヘゴなどの木生シダなどが出現し、河口域にはオヒルギメヒルギなどからなるマングローブ林が発達している[11]。ただしメヒルギは九州本土にも分布する[11]。また、渡瀬線はヒメツバキ属の北限である[11]

照葉樹林については、渡瀬線をはさんで南北で構成種にある程度の交代は見られるが、大きな差はないと考えられている[11]。植物については大隅海峡を境界線とする属が多いとする意見もある[7]

脚注

  1. ^ a b c d e 慎一郎, 相場; 志歩, 藤田; 真理子, 鈴木; 信, 鵣川; 基博, 川西; 旬子, 宮本 (2020). “世界自然遺産候補地奄美群島の森林生態系に関する基礎的研究 ―鹿児島大学薩南諸島森林生態研究グループ―”. 自然保護助成基金助成成果報告書 28: 105–115. doi:10.32215/pronatura.28.0_105. https://www.jstage.jst.go.jp/article/pronatura/28/0/28_105/_article/-char/ja. 
  2. ^ 琉球の植物「琉球の植物区系と自然」 :: 国立科学博物館 National Museum of Nature and Science,Tokyo”. www.kahaku.go.jp. 2023年4月1日閲覧。
  3. ^ a b c d 海外環境協力センター (2000年). “自然環境保全技術移転研修マニュアル”. 環境省. 2023年4月1日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 佐藤正己. “生物地理学における地域区分”. 茨城大学地域総合研究所年報 1. https://rose-ibadai.repo.nii.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=15487&item_no=1&attribute_id=20&file_no=1. 
  5. ^ 健, 米田 (2018). “南西諸島の森林と保全”. 森林科学 84: 3–7. doi:10.11519/jjsk.84.0_3. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsk/84/0/84_3/_article/-char/ja. 
  6. ^ a b c d e f g h i j 沖縄県文化環境部自然保護課. “琉球諸島を世界自然遺産へ”. 2023年4月1日閲覧。
  7. ^ a b 源, 村田 (2005). “日本の植物相と植生帯(第三回日本植物分類学会賞受賞記念論文)”. 分類 5 (1): 1–8. doi:10.18942/bunrui.KJ00004649627. https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunrui/5/1/5_KJ00004649627/_article/-char/ja/. 
  8. ^ 琉球列島”. www.kahaku.go.jp. 国立科学博物館. 2023年4月1日閲覧。
  9. ^ a b c 正博, 柴「島嶼固有動物の分布と中期更新世後期以降の1,000mの海水準上昇」『化石研究会会誌 = Journal of fossil research』第53巻第1号、2020年7月、1–17頁。 
  10. ^ 古川, 雅英、藤谷, 卓陽、Furukawa, Masahide、Fujitani, Takuyo「琉球弧に関する更新世古地理図の比較検討」2014年9月30日。 
  11. ^ a b c d 清水, 善和「日本列島における森林の成立過程と植生帯のとらえ方 : 東アジアの視点から」『地域学研究 = Regional views』第27巻、2014年3月、19–75頁。