メヒルギ

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メヒルギ
Kandelia obovata mehirugi hana.jpg
メヒルギ(沖縄県名護市・8月)
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ヒルギ目 Rhizophorales
: ヒルギ科 Rhizophoraceae
: メヒルギ属 Kandelia
: メヒルギ K. obovata
学名
Kandelia obovata
Sheue, H.Y.Liu et W.H.Yong
和名
メヒルギ

メヒルギ(雌蛭木、雌漂木、学名Kandelia obovata)はヒルギ科メヒルギ属の常緑木本。潮間帯に生育するマングローブ樹種のひとつ。別名リュウキュウコウガイ(琉球笄)。かつて、日本に産する本種にはKandelia candel (L.) Druceがあてられていた(#分類を参照)。

特徴[編集]

形態[編集]

樹高は成木で高さ15m程度となるが、生育条件で大きく異なり、日本では最大でも7-8m程度である。幹は直立し、樹皮は濃赤褐色でささくれタンニンを多く含み染料として用いられる。

成木は幹の周囲に呼吸根として板根を持ち、干潟の泥地に安定して株立ちする。葉は5cmほどの長楕円形で対生し、革質、光沢がある。葉の先端は鈍いかまたは円い。

花:裂けた花弁が見える

花期は初夏。腋性の集散花序で、細長い5枚のと、長さ1cm程度の糸状の5枚の花弁を持つ白色の花を10個程度つける。萼は後ろに反り返る。花弁は2裂し、裂片の先端はさらに細く裂ける。

花期の後、萼を中心に直径数cmの卵形の果実となる。種子は果実の内部で発芽、発根し、果実の先端から太い根が伸び出す。この根は長さ30cm程度の細長い緑色となり、やがて果実から根とその先端の芽が抜け落ちる形で脱落する。このように果実内で成長してしまうので胎生種子と呼ばれる。胎生種子の形状細長く、先端に向かってやや太くなり、その先で急に細くなるのが笄(こうがい、かんざし)に似ていることからリュウキュウコウガイの別名がある。胎生種子は樹上で発根し、親株の近くの泥地に根付くことが多いが、他のマングローブ植物と同様に海水に流され、海流散布によって分布を広げる。

オヒルギ(雄ヒルギ)に対してメヒルギ(雌ヒルギ)と呼ばれるのは、本種の胎生種子(が親植物上で発芽した状態)が、オヒルギよりも細く女性的であることに由来する。

染色体数は2n=36。

生態及び生育環境[編集]

主に熱帯から亜熱帯の河口干潟に生育し、マングローブの樹種の中では、最も高緯度に繁殖する種である。ヒルギ科の中では比較的耐塩性が弱く[1]川の下流域などの汽水域を好むが、栄養豊富な胎生種子による定着率の高さから、好適地には他の樹種より早く定着するパイオニア植物である[2]。定着の初期は低木として成熟し、群落を形成した後に、樹高の高い個体が現れ、密度を調整しながら高木の群落を形成する。

分類[編集]

もともと、日本に産する種メヒルギにはオセアニアから南アジアに広く分布するKandelia candelがあてられていた。しかしながら、2003年に、SheueらによりK. candel南シナ海を境に北の集団と南の集団の2種に分かれることが発表された[3]。現在では、K. candelは南シナ海以南に分布する種をさし、日本を含む東シナ海以北に分布する種メヒルギに対しては新たにK. obovataが与えられている。これによりメヒルギ属は一属二種となっている。

分布[編集]

東シナ海以北の中国南部から台湾日本に分布する。日本国内では、沖縄県及び鹿児島県に自然分布し、静岡県の一部に植樹された群落が分布する。日本が分布の北限である。

日本における生育地[編集]

九州南部の薩摩半島から南西諸島種子島屋久島奄美大島徳之島?・沖縄諸島宮古諸島八重山諸島)にかけて自生するが、他のマングローブ植物と比較して高緯度で繁殖するため、沖縄諸島以北では優占種となる傾向が強い[4]。また、定着の北限は静岡県南伊豆町の群落となる。

沖縄諸島・先島諸島(宮古諸島・八重山諸島)

先島諸島から沖縄本島にかけて普通に見られ、単一の群落も作るが、しばしばオヒルギやヤエヤマヒルギ等と混生する。西表島など八重山諸島では河川汽水域に群落を作るが、まとまった群落は作らず、単立あるい小規模な群落が多い。沖縄本島では、島南部の漫湖の自生地にて大規模な群落を作る[5]

奄美大島・屋久島・種子島

奄美市・住用町、屋久島・粟生、種子島西之表市に大型の群落がある。奄美市の群落ではオヒルギと混生するが、種子島・屋久島の群落ではオヒルギが自生しておらず、単一の群落を構成する。西之表市の群落は、天然の自生地としては北限であり、同時に世界の天然のマングローブ分布の北限でもある。

徳之島

徳之島には過去に分布記録があるが、現在では確認できない(鹿児島県(2003))。

鹿児島県・喜入のリュウキュウコウガイ産地

鹿児島県の薩摩半島の群生地である喜入のリュウキュウコウガイ産地は昭和27年に国の特別天然記念物に指定されている[6]。本群生地および大浦町の小群落が本種が自生する北限であり、かつ世界的なマングローブ自生地の北限でもある[7]。しかし本群生は天然ではなく、1609年に琉球より移植したという記録があり、天然の群落か否かが議論の対象となっている[8]。本群落が移植によるものであった場合は、天然の北限は種子島西之表市となるが、本群生地における本種は100年以上定着してマングローブを形成しており、定着したマングローブの北限として貴重な存在である。

静岡県南伊豆町のメヒルギ植栽地
南伊豆町のメヒルギ植栽地

1958年に、静岡県柑橘試験場・田中輸一郎、静岡県有用植物園・竹下康夫らが、気象・水温・水位および地形、汽水の状況を調査し、最適地として南伊豆町青野川河口付近を選択、奄美大島から移入した幼苗を移植したところ定着した群生地である。後に、本群生地で発生した胎生種子が自然定着し、自然繁殖が確認された。後に西表島からの移植も行われ、1999年時点では群生地の面積は4000m2、3000本を越える個体が確認されている。青野川の護岸工事[9]のため伐採される予定であったが、各方面からの嘆願により一部の群生地が残されることとなった。河口の保護区域への再移植も行われたが、移植ストレス等のため活着率は低く、多くの個体が枯死した。定着した個体は再度繁殖を行っていることが確認されているが、人の介在が必要な状態である[10]2008年現在でハマボウと混植状態で群落は維持されている。

日本国外における生育地[編集]

利用[編集]

樹皮はタンニンを多く含み、染料として利用される。奄美群島大島紬には染料として本種が使用されていた。また、木炭の原料とする。

保護上の位置付け[編集]

  • 種として
    • 鹿児島県版レッドデータブックに準絶滅危惧で掲載されている。

脚注[編集]

  1. ^ 植物体中の各種イオン動態からみたマングローブ 3 種の耐塩性の比較・琉球大学農学部学術報告Vol44(19971201) pp.91-105
  2. ^ マングローブの分布と植生に関する研究(pdf)・亜熱帯総合研究所平成12年度報告
  3. ^ Sheue, H.Y.Liu et W.H.Yong (2003) Kandelia obovata (Rhizophoraceae), a New Mangrove Species from Eastern Asia. Taxon, 52:287-294.
  4. ^ マングローブ生態系モニタリング手法策定に関する研究報告書(pdf)・環境庁自然保護局 西表国立公園管理事務所(平成2年)
  5. ^ マングローブの分布と植生に関する研究(pdf)亜熱帯総合研究所平成13年度報告
  6. ^ 喜入のリュウキュウコウガイ産地・(社)農林水産技術情報協会-日本の特別天然記念物
  7. ^ マングローブ林の林分解析(林学科)・琉球大学農学部学術報告 Vol.26(19791211) pp. 413-519
  8. ^ 「マングローブの古い標本が語るもの」(pdf)・日本熱帯生態学会ニューズレター No. 66 (2007)
  9. ^ 青野川水系河川整備計画(pdf)・静岡県建設部
  10. ^ 南伊豆町湊の河口に生育するメヒルギの特性(pdf)・静岡県農業試験場研究報告 第49号(2004)

参考文献[編集]

  • 大野照好監修・片野田逸郎著 『琉球弧・野山の花 from AMAMI』 株式会社南方新社、1999年。
  • 鹿児島県環境生活部環境保護課編 『鹿児島県の絶滅のおそれのある野生動植物-鹿児島県レッドデータブック植物編-』 財団法人鹿児島県環境技術協会、2003年。
  • 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧』 九州大学出版会、1997年。
  • 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第4巻 海辺の植物とシダ植物』 新星図書出版、1979年。
  • 土屋誠・宮城康一編 『南の島の自然観察』、東海大学出版会、1991年。
  • 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、1994年。

外部リンク[編集]