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2018年12月22日 (土) 09:10時点における版
ニコチン | |
---|---|
(S)-3-[1-メチルピロリジン-2-イル]ピリジン | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 54-11-5 |
PubChem | 89594 |
ChemSpider | 80863 |
UNII | 6M3C89ZY6R |
DrugBank | DB00184 |
KEGG | D03365 |
ChEBI | |
ChEMBL | CHEMBL3 |
2585 | |
| |
特性 | |
化学式 | C10H14N2 |
モル質量 | 162.23 |
外観 | 無色油状液体 |
密度 | 1.01, 液体 |
融点 |
−80 °C, 193 K, -112 °F |
沸点 |
247 °C, 520 K, 477 °F (分解) |
水への溶解度 | 混和する |
粘度 | 2.7 mPa·s (25 ℃) |
危険性 | |
GHSピクトグラム | |
EU分類 | T+ N |
NFPA 704 | |
Rフレーズ | R25 R27 R51/53 |
Sフレーズ | S1/2 S36/37 S45 S61 |
半数致死量 LD50 | 140 mg/kg(ラット、経皮) 50 mg/kg(ウサギ、経皮)[1] |
出典 | |
ICSC 0519 | |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
臨床データ | |
---|---|
法的規制 |
ニコチン (nicotine) は、主としてタバコ Nicotiana tabacum の葉に含まれるアルカロイドの一種として知られる揮発性がある無色の油状液体。精神刺激薬に分類され、血管を収縮し血圧を高める作用がある。また、生体において耐性と依存症を生じる[3]。日本では、毒物及び劇物取締法にて医薬品以外が毒物に指定され[2]、生体に作用することを目的としたものは医薬品医療機器等法(旧薬事法)による医薬品であり[4][5]、ニコチン含有量によって毒薬/劇薬/その他などに指定され[6]、たばこ製品はたばこ事業法が管轄する。(#日本での位置づけ)。
ニコチンの一般的な消費形態はたばこ、噛みたばこ、嗅ぎたばこ、また含有ガムである[3]。日本では、ニコチン依存症を治療するためのニコチン製剤であるニコチンパッチやニコチンガムが医薬品として承認されている。その他の医療用途はない[7]。これら医薬品はニコチン摂取量を管理しながら、離脱症状を管理するための、ニコチン置換療法に用いられる。世界保健機関(WHO)は「ニコチンはヘロインやコカインと同程度に高い依存性がある」と発表している[8]。ニコチン自体に発癌性はないものの、代謝物であるニトロソアミンに発癌性が確認されている[9]。
長らくニコチンの致死量は成人で60mg以下(30-60mg)とされてきたが[10]、これは19世紀半ばの疑わしい実験から推定されており[10]、実際の致死量はその20倍以上だと考えられる[10]。イヌにおける半致死量から[10]、ヒトにおけるニコチンの致死量は成人で500-1000mg と推定される[10]。
化学
ニコチンの示性式は C5H4NC4H7NCH3 である。ニコチンを硝酸などにより酸化すると、ニコチン酸が得られる[11]。光学異性体があり、天然品はD型。ニコチン酸はニコチン酸アミドとともにナイアシンの成分として知られる。
ニコチンの命名は、1550年にタバコ種をパリに持ち帰ったフランスの駐ポルトガル大使ジャン・ニコに由来する。
合成経路
トリプトファンを出発物質としてキヌレニン経路の数段階の合成経路を経てニコチン酸がまず出来上がる。そして、ニコチン酸にオルニチン由来のピロリジン環が付加することでニコチンが合成される。また、ニコチン酸にリシン由来のピペリジン環が付加する事で、類縁化合物のアナバシンが合成される。
なお、ニコチンはタバコ葉内にリンゴ酸塩、またはクエン酸塩として存在する。ニコチンの類縁化合物はアナバシンを含めて30種類以上あり、ニコチン系アルカロイドと総称されている。
薬理作用
β-エンドルフィンの生成を促すことで不安を和らげる[7]。ヒトにニコチン 1.5 mg/分を5分間静注すると脳血流が増すという報告もある[12]。
薬物動態
喫煙といった摂取方法では急速に体内に分布し急速に脳内におけるニコチン濃度が低下するため、最後の摂取から30-40分で渇望が生じる[3]。
ニコチンはCYP1A2を誘導するため、カフェインの代謝が促進される[13]。またこのことは、CYP1A2で代謝される一部の医薬品の血中濃度を下げてしまう。
ニコチンは、喫煙だけでなく、触れるだけでも皮膚から体内に吸収される[14][15]。
依存性
薬物 | 平均 | 快感 | 精神的依存 | 身体的依存 |
---|---|---|---|---|
ヘロイン | 3.00 | 3.0 | 3.0 | 3.0 |
コカイン | 2.37 | 3.0 | 2.8 | 1.3 |
アルコール | 1.93 | 2.3 | 1.9 | 1.6 |
たばこ | 2.21 | 2.3 | 2.6 | 1.8 |
バルビツール酸 | 2.01 | 2.0 | 2.2 | 1.8 |
ベンゾジアゼピン | 1.83 | 1.7 | 2.1 | 1.8 |
アンフェタミン | 1.67 | 2.0 | 1.9 | 1.1 |
大麻 | 1.51 | 1.9 | 1.7 | 0.8 |
LSD | 1.23 | 2.2 | 1.1 | 0.3 |
エクスタシー | 1.13 | 1.5 | 1.2 | 0.7 |
紙巻きたばこ、噛みたばこ、嗅ぎたばこ、パイプ、葉巻、ニコチンガム、ニコチンパッチなどすべての形態にて、ニコチン依存症を発症させ、その依存と離脱をもたらす能力は、喫煙、経口、経皮の摂取経路の順に弱くなり、また含有されるニコチンの量に左右される[17]。世界保健機関(WHO)は「ニコチンはヘロインやコカインと同程度に高い依存性がある」と発表している[8]。日本医師会のホームページにほぼ同様の記載がある[18]。
ニコチンの使用者は身体依存が形成されており、最後の摂取から数時間で離脱症状を生じ、ニコチンへの渇望や他の離脱症状を生じる[3]。
『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版改訂(DSM-IV-TR)には、ニコチン離脱の診断名があり、その診断基準に不快・抑うつ気分、不眠、易怒性、不安、集中困、心拍数減少、食欲増加などを挙げている[17]。こうした症状の大部分はニコチン欠乏によるものであり、紙巻きたばこの喫煙の場合には依存強化が急速で回数が多いため、身体依存がより大きくなり離脱症状は強く、軽度な離脱症状は低ニコチンの紙巻きたばこへの変更、ニコチンガムやニコチンパッチの使用後に起こる[17]。ニコチンの摂取が早い摂取形態では、ゆっくりと体に分布させる摂取形態のものより依存性が高い可能性がある[7]。
またニコチンへの依存は他の依存性薬物の使用に対して脆弱にし使用リスクを高める可能性がある[7]。
動物実験
日本の柳田知司はアカゲザルの実験を元に、「ニコチンは依存性薬物ではあるものの、身体的な依存性は有ったとしても非常に弱いもので精神依存の増強は認められず、その精神依存性は他の依存性薬物と共通する特性が見られるものの主要な依存性薬物と比較して明らかに弱いこと、また精神毒性(例えば、ニコチンの摂取は自動車の運転などの作業に悪影響を及ぼさない)も依存性薬物の中では唯一、これが認められない」と発表している[19]。
ヒト以外の霊長類においてニコチンが正の強化効果を示した報告があるものの、霊長類でニコチンの静脈内自己投与を確立することは困難である。自然な状態のサルが自己投与したという唯一の報告である1983年の柳田知司らの研究においては、4時間制限では自己投与が確立せず、24時間制限で自己投与が確立した。ヒトにおいては、ニコチンの投与を回避する反応を示したと報告されている[20]。ある研究は、静脈内自己投与は、薬物の乱用や依存を予測するための最も有効な手法であり、煙草の規制を進めるために研究が継続されているが、ニコチンの依存性の科学的根拠は見出だせていないため、法規制されていないと主張している[21]。
規制
国際的には、向精神薬に関する条約において特定の薬物の世界保健機関(WHO)による評価でニコチンは規制されていない。たばこ規制枠組条約により、各国で依存性や有害性についてのたばこ警告表示がなされており、ニコチン含有製品は医薬品やたばこ関連法規制に従うことも多い。
日本での位置づけ
- たばこ製品
日本では、たばこ製品については、たばこ事業法、喫煙については、未成年者喫煙禁止法が未成年者の喫煙を禁止している。
- 日本の医薬品
ニコチンを含む電子タバコでは、厚生労働省が医薬品成分としてのニコチンを含むと判断している[4]。薬機法がニコチンを医薬品に指定しているため許可なく販売できない[5]。
薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の第2条は医薬品を定義しており、1)『日本薬局方』の掲載品、2)人や動物の治療予防を目的とするもの、3)人や動物の身体構造や機能に影響することが目的とされるもののうち、機器など以外となる。
1999年5月12日にニコチンパッチが処方箋医薬品として承認された。この医薬品はニコチン含有量により毒薬または劇薬(薬事法の指定)と記述されていた[22]。これは、2008年2月29日実施の薬事・食品衛生審議会 一般用医薬品部会にて、一般用医薬品としてのニコチンパッチを許可と共に、毒薬などの指定も解除した。
ただ今説明がありましたように、医療用医薬品であるニコチン剤を含めて、「劇薬及び毒薬」、並びに「処方せん医薬品」の指定解除ということになりますが、これについて御意見等はございますか。よろしいですか。ありがとうございます。以上、審議事項を終わらせていただきます。 — 望月眞弓(望月部会長) - 薬事・食品衛生審議会 一般用医薬品部会 議事録. 2008年2月29日. 29 February 2008.
医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則にて、ニコチンを10%以上含有する場合に「毒薬」に、それ以下では「劇薬」だが、0.2%以下の外用薬、78mg以下の貼付剤、1個2mg以下の咀嚼剤は除外されている[6]
2008年5月31日にニコチンを低濃度に再調整して販売が開始された。
- その他
日本では、ニコチンは毒物だと法律で指定されており、その扱いには届け出や、毒物劇物取扱責任者を置くことなどが義務付けられている。
毒物に該当しても医薬品に該当する場合は、以下の毒劇法ではなく、前述の薬機法の規制を受ける[23]。
毒物及び劇物取締法(通称 毒劇法)第2条の別表第一の19にニコチンが、これを拡張する毒物及び劇物指定令の20と21にニコチン製剤が指定されている[24][25]。
第二条 この法律で「毒物」とは、別表第一に掲げる物であつて、医薬品及び医薬部外品以外のものをいう。
別表第一
— 毒物及び劇物取締法
十九 ニコチン
二十八 前各号に掲げる物のほか、前各号に掲げる物を含有する製剤その他の毒性を有する物であつて政令で定めるもの
第一条 毒物及び劇物取締法(以下「法」という。)別表第一第二十八号の規定に基づき、次に掲げる物を毒物に指定する。
二十 ニコチンを含有する製剤
— 毒物及び劇物指定令
二十一 ニコチン塩類及びこれを含有する製剤
害
電子たばこは、ニコチン摂取のための新しい使用形態であり、燃焼されたタバコよりもはるかに有害でない可能性が高い[7]。禁煙のためにパッチやガムに対する依存が残っている場合たばこの喫煙よりは、はるかに健康的である[7]。
あるいは他の研究機関によれば、統合失調症のニコチンによる自己治療とも考えられるが、平均寿命の短さに寄与しており、害を上回る利益となる可能性は低い[7]。
タバコ栽培では、葉を収穫する際に、湿った葉に触れてニコチンを皮膚から吸収することによって引き起こされる生葉たばこ病が問題となっている[14][26][15]。
ニコチンは依存性薬物の中で唯一、精神毒性がないとされる[27]。柳田は1964年と74年の文献や自身による動物研究を根拠として、急性、慢性的の異常な行動や精神症状はみられないとしている[27]。
ニコチンは昆虫に食べられることを抑制するためにタバコ植物が作り出す毒物である[7]。
ニコチン置換
1970年代にイギリスのモーズレイ病院の精神医学研究所にて、たばこにおけるハーム・リダクション(有害性低減)が提唱され、先駆者のマイケル・ラッセルは、ニコチンのために喫煙しながらタールによって死んでいると述べたが、2007年にも、英国王立医師会のタバコの助言に関する報告書は、ニコチン自体は危険ではなくタバコの代替品として提供されれば、数百万人の人命を救えることを報告している[28]。ニコチン置換療法でのニコチンの提供では、33000人以上の観察研究やメタアナリシスによって、心血管疾患のリスク上昇がみられていない[29]。
医学的研究
ニコチンには「脳波覚醒」「学習行動における正確さの上昇などの中枢興奮作用」「攻撃行動の減少」といった精神安定作用が確認されている。アカゲザルを用いた静脈内自己投与試験で、ニコチンの弱い強化因子としての作用が認められた。[30]
ADHDとニコチン依存の関連は自己治療仮説で最もよく説明されている。この仮説は、明確な薬理学的根拠と十分な証拠により支持されている[31]。ニコチンパッチが、投与直後にADHDの認知能力を改善したとする、単純な研究の報告がある[32]。8週間のニコチンガムの使用によって、5人の被験者中4人の強迫性障害を改善したとの基礎的な研究の報告がある[33]。
ニコチン中毒
特に乳児と幼児は、誤ってタバコを飲み込むことでニコチン中毒の事故を起こしている[7]。日本でも1990年代の中毒センターへの問い合わせでも、相談の8割を占める4歳未満の相談で最も多いのがタバコの誤飲である[34]。従来は、たばこ1本で致死量とされてきたが、8割が無症状で小児での死亡例がないため、胃洗浄から経過観察へと対応が変わってきた[35]。大量に飲み込んだ場合は、この限りではない[35]。
ニコチン過剰摂取の疑いがあればすぐに医師の診察を受けるべきである[7]。誤食では、胃液の酸性のためにニコチンの溶出が悪く吸収は遅い[36]。しかし、すでに水に溶けたニコチンは吸収が早く症状も重いとされ、作物としてのタバコ収穫作業従事者の間では経皮吸収による生葉たばこ病と呼ばれる急性中毒が発生することがある[37]。
致死量の目安
長らくニコチンの致死量は成人で60mg以下(30-60mg)とされてきたが、現在までに判明しているのはヒトの場合、6mg/kg(体重50Kgの成人であれば300mg相当)で中毒症状を引き起こし、ニコチンに対してヒトとよく似た反応を現すイヌにおける半致死量が最大13mg/kg(体重50Kgの超大型犬であれば650mgに相当)であるという客観的事実のみである。また、イヌの半致死量から、ヒトにおいては500-1000mgと推定される。[10]
60mgという致死量では現実の無数の中毒例と異なるため出自について古典を辿ったところ、19世紀半ばの薬理学者による自己投与実験から推定されていたに過ぎなかった。しかし後の1980-1990年代の実験でも、経口からの25mgに相当する摂取を行っても吐き気のような軽症の症状しか示さないことが判明している。[10]。
1998年の日本の論文では、胃液の酸性環境では15分でタバコから3%しか吸収されないとしている[34]。溶液に溶けだしたものではこの限りではない[34]。
症状
軽症では嘔気やめまい、脈拍上昇・呼吸促迫などの刺激・精神の脱抑制や興奮症状がみられる。重くなると、徐脈・痙攣・意識障害・呼吸麻痺などの抑制症状が見られる。
嘔吐は10-60分以内、中毒症状は2-4時間の間にほとんど現われ、タバコ誤食による中毒症状の出現頻度は14%程度とされる[34]。
検査
低カリウム血症、低血糖、白血球増加など。重症では、ショックに伴う臓器障害を起こしうるので、肝機能・腎機能・凝固線溶系の異常が見られることがある。動脈血ガス分析では、呼吸麻痺による低酸素血症や高 CO2 血症がみられる[要出典]。
治療
特異療法は無く体内からの排出を早めるための対症療法と循環管理と呼吸管理が行われる。副交感神経刺激作用のある硫酸アトロピンを投与することもある[38]。摂取後4時間経っても症状が出ない場合は、治療は不要である[要出典]。
吐かせるのは良いが、タバコを飲み込んだ場合は、吸収を防ぐため水やミルクを飲ませた後に吐かせる方法は勧められない[34]。ニコチンが溶けだした溶液ではそうしたものを飲ませ、吐かせるとある[34]またタバコでは吸収途中で、ニコチンの嘔吐作用によって吐き出してしまう事も多い[34]。タバコでは1本以上を摂取しているか症状があれば、胃洗浄を行うとされるが、アメリカの中毒センターでは5本以上で胃洗浄を勧めている[35]。
たばこ1本でニコチン量20mgとすれば、胃酸中では一時間に2.4mg(0.2%/分)人体に吸収されることから[34]、無理に吐かせようと水などを多く飲ませる処置が、胃酸を薄めニコチンの吸収を速めて重篤化を招くことを重くみて、米国では、乳幼児のタバコの中毒量はタバコ2本(吸いがら6本)以上とされる[34]。摂取後4時間および24時間までの経過観察を、電話などで丁寧におこなう方法がとられる[34]。
出典
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関連項目
- en:Convention_on_Psychotropic_Substances#Nicotine 向精神薬に関する条約のニコチンの項