「バーター症候群」の版間の差分
m r2.6.5) (ロボットによる 追加: zh:Bartter氏症候群 |
構成の整理、参考文献の追加。 |
||
1行目: | 1行目: | ||
{{Infobox disease |
|||
| Name = バーター症候群 |
|||
| Image = Gray1128.png |
|||
| Caption = Scheme of renal tubule and its vascular supply. |
|||
| DiseasesDB = 1254 |
|||
| ICD10 = {{ICD10|E|26|8|e|20}} |
|||
| ICD9 = {{ICD9|255.13}} |
|||
| ICDO = |
|||
| OMIM = 601678 |
|||
| OMIM_mult = {{OMIM2|241200}} {{OMIM2|607364}} {{OMIM2|602522}} |
|||
| MedlinePlus = |
|||
| eMedicineSubj = med |
|||
| eMedicineTopic = 213 |
|||
| eMedicine_mult = {{eMedicine2|ped|210}} |
|||
| MeshID = D001477 |
|||
}} |
|||
{{medical}} |
{{medical}} |
||
'''バーター症候群'''(バーターしょうこうぐん、'''Bartter syndrome''')は |
'''バーター症候群'''(バーターしょうこうぐん、'''Bartter syndrome''')は、[[ヘンレ係蹄]]の[[ヘンレ係蹄 (太い上行脚)|太い上行脚]](TAL)の機能不全を特徴とする[[症候群]]<ref name="林2010">{{Cite book|和書|author=林松彦|year=2010|title=今日の診断指針 第6版|chapter=Bartter症候群|publisher=[[医学書院]]|isbn=978-4-260-00795-5}}</ref>。 |
||
== 病態 == |
== 疫学・病態 == |
||
本症候群は、[[:en:Frederic Bartter|フレデリック・バーター]]らによって提唱された疾患概念である。[[1960年]]に最初の報告がなされ、[[1962年]]にはより多くの症例に基づく報告がなされた<ref name=Bartter>{{cite journal | author=Bartter FC, Pronove P, Gill JR Jr, MacCardle RC | title=Hyperplasia of the juxtaglomerular complex with hyperaldosteronism and hypokalemic alkalosis. A new syndrome | journal=Am J Med | year=1962 | pages=811–28 | issue=6 | volume=33 | pmid=13969763 | doi=10.1016/0002-9343(62)90214-0}} Reproduced in {{cite journal |author=Bartter FC, Pronove P, Gill JR, MacCardle RC |title=Hyperplasia of the juxtaglomerular complex with hyperaldosteronism and hypokalemic alkalosis. A new syndrome. 1962 |journal=J. Am. Soc. Nephrol. |volume=9 |issue=3 |pages=516–28 |year=1998 |pmid=9513916 |doi=}}</ref><ref name="pmid16773399">{{cite journal |author=Proesmans W |title=Threading through the mizmaze of Bartter syndrome |journal=Pediatr. Nephrol. |volume=21 |issue=7 |pages=896–902 |year=2006 |pmid=16773399 |doi=10.1007/s00467-006-0113-7}}</ref><ref>{{WhoNamedIt|synd|2328}}</ref><ref>http://www.whonamedit.com/synd.cfm/2328.html</ref>。 |
|||
バーター症候群は、Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体の機能不全によって起こると考えられている。 |
|||
本症候群は、[[腎臓]]の[[ヘンレ係蹄 (太い上行脚)|TAL]]にある[[ナトリウム|Na<sup>+</sup>]]-[[カリウム|K<sup>+</sup>]]-2[[塩素|Cl<sup>-</sup>]]共輸送体の機能不全による[[続発性アルドステロン症]]の一つと考えられており、[[レニン-アンジオテンシン系|レニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系]]の亢進にもかかわらず、血圧が正常ないし軽度高値程度に留まっていることが特徴である。機能不全はいずれも遺伝的素因によるものと考えられており、その機序に応じて |
|||
⚫ | 遠位尿細管の[[緻密斑]]では、原尿中のCl<sup>-</sup>の濃度が低いほど糸球体傍細胞でのレニン分泌を亢進させるように、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン |
||
⚫ | |||
== 分類 == |
|||
* Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体そのものの異常 |
* Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体そのものの異常 |
||
* ヘンレ係蹄の上皮細胞内から尿細管腔へK<sup>+</sup>を戻すROMKチャンネルの異常 |
* ヘンレ係蹄の上皮細胞内から尿細管腔へK<sup>+</sup>を戻すROMKチャンネルの異常 |
||
* ヘンレ係蹄の上皮細胞内から血管側へCl<sup>-</sup>を戻すCl<sup>-</sup>チャンネルの異常 |
* ヘンレ係蹄の上皮細胞内から血管側へCl<sup>-</sup>を戻すCl<sup>-</sup>チャンネルの異常 |
||
等に分けられる。 |
|||
⚫ | 遠位尿細管の[[緻密斑]]では、原尿中のCl<sup>-</sup>の濃度が低いほど糸球体傍細胞でのレニン分泌を亢進させるように、[[レニン-アンジオテンシン系|レニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系]]を調節している。その際に、緻密斑細胞が原尿中のCl<sup>-</sup>の濃度を感知する上で、Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体が重要な役割をはたしていると考えられている。しかし、Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体が機能不全に陥ると、原尿中のCl<sup>-</sup>の濃度を緻密斑が感知できなくなるため、原尿中のCl<sup>-</sup>の濃度が低いと誤認識を起こし、糸球体傍細胞でのレニン分泌が異常に亢進する。その結果、RAA系が過剰に賦活され[[アルドステロン]]の分泌を異常に促し、続発性アルドステロン症を起こす。 |
||
== 原因 == |
|||
Na<sup>+</sup>-K<sup>+</sup>-2Cl<sup>-</sup>共輸送体やその機能に関係のある遺伝子の異常。 |
|||
⚫ | |||
== |
== 症状・所見 == |
||
本症においては、その機序からしても、[[ループ利尿薬]]の過剰投与時と同様の臨床症状・検査所見が認められる。 |
|||
[[ICD]]-10:E26.8 |
|||
== 症状 == |
=== 臨床症状 === |
||
低カリウム血症による[[筋力低下]]、[[四肢麻痺]]、尿濃縮力低下による[[多尿]] |
低カリウム血症による[[筋力低下]]、[[四肢麻痺]]、尿濃縮力低下による[[多尿]]等を来たし、[[腎不全]]に至る。 |
||
== 検査 == |
=== 検査所見 === |
||
* 基本身体検査 |
* 基本身体検査 |
||
*: 元々RAA系が亢進しているので[[アンギオテンシン]]II負荷試験にて昇圧性が低下している。 |
*: 元々RAA系が亢進しているので[[アンギオテンシン]]II負荷試験にて昇圧性が低下している。 |
||
* 血液検査 |
* 血液検査 |
||
** 血清生化学検査 |
** 血清生化学検査 |
||
**: 低カリウム血症、代謝性アルカローシス、等が認められる。 |
**: 低カリウム血症、[[代謝性アルカローシス]]、等が認められる。 |
||
* [[腎臓学#腎臓針生体検査|腎臓針生体検査]] |
* [[腎臓学#腎臓針生体検査|腎臓針生体検査]] |
||
*: レニンを異常分泌している傍糸球体装置が過剰に形成されて大きくなる。過剰に形成される事を過形成と言う。 |
*: レニンを異常分泌している傍糸球体装置が過剰に形成されて大きくなる。過剰に形成される事を過形成と言う。 |
||
35行目: | 48行目: | ||
*: 低カリウム血症による[[U波]]増高などを認める。 |
*: 低カリウム血症による[[U波]]増高などを認める。 |
||
== |
== 予後・治療 == |
||
⚫ | |||
低カリウム血症、[[代謝性アルカローシス]]、[[続発性アルドステロン症]]を呈するが血圧は正常である時、本症を疑う。 |
|||
== 治療 == |
|||
先天異常なので対症療法を行う。低カリウム血症に対してはカリウムを補給する。低クロール血症に対してはKClの経口投与で補給する。アルドステロン症に対しては、アルドステロン受容体拮抗薬スピロノラクトンを投与する。プロスタグランジンの過剰産生に対しては、プロスタグランジン産成阻害薬のインドメサシン等を投与する。 |
先天異常なので対症療法を行う。低カリウム血症に対してはカリウムを補給する。低クロール血症に対してはKClの経口投与で補給する。アルドステロン症に対しては、アルドステロン受容体拮抗薬スピロノラクトンを投与する。プロスタグランジンの過剰産生に対しては、プロスタグランジン産成阻害薬のインドメサシン等を投与する。 |
||
== |
== 参考文献 == |
||
{{Reflist}} |
|||
⚫ | |||
== 関連項目 == |
== 関連項目 == |
||
* [[腎臓学]] |
* [[腎臓学]] |
||
* [[ギ |
* [[ギテルマン症候群]] |
||
*: かつてバーター症候群と同一疾患だと思われていた疾患。バーター症候群と同様血圧の上昇を認めない[[アルドステロン症]]のひとつである。バーター症候群との違いは低マグネシウム血症、著明な低カルシウム血症を起こし、テタニーまで起こすことがあるということである。分子生物学的にはサイアザイド感受性の輸送体遺伝子の異常である。 |
*: かつてバーター症候群と同一疾患だと思われていた疾患。バーター症候群と同様血圧の上昇を認めない[[アルドステロン症]]のひとつである。バーター症候群との違いは低マグネシウム血症、著明な低カルシウム血症を起こし、テタニーまで起こすことがあるということである。分子生物学的にはサイアザイド感受性の輸送体遺伝子の異常である。 |
||
2012年3月27日 (火) 13:25時点における版
バーター症候群 | |
---|---|
Scheme of renal tubule and its vascular supply. | |
概要 | |
診療科 | 内分泌学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | E26.8 |
ICD-9-CM | 255.13 |
OMIM | 601678 241200 607364 602522 |
DiseasesDB | 1254 |
eMedicine | med/213 ped/210 |
MeSH | D001477 |
ウィキペディアは医学的助言を提供しません。免責事項もお読みください。 |
バーター症候群(バーターしょうこうぐん、Bartter syndrome)は、ヘンレ係蹄の太い上行脚(TAL)の機能不全を特徴とする症候群[1]。
疫学・病態
本症候群は、フレデリック・バーターらによって提唱された疾患概念である。1960年に最初の報告がなされ、1962年にはより多くの症例に基づく報告がなされた[2][3][4][5]。
本症候群は、腎臓のTALにあるNa+-K+-2Cl-共輸送体の機能不全による続発性アルドステロン症の一つと考えられており、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系の亢進にもかかわらず、血圧が正常ないし軽度高値程度に留まっていることが特徴である。機能不全はいずれも遺伝的素因によるものと考えられており、その機序に応じて
- Na+-K+-2Cl-共輸送体そのものの異常
- ヘンレ係蹄の上皮細胞内から尿細管腔へK+を戻すROMKチャンネルの異常
- ヘンレ係蹄の上皮細胞内から血管側へCl-を戻すCl-チャンネルの異常
等に分けられる。
遠位尿細管の緻密斑では、原尿中のCl-の濃度が低いほど糸球体傍細胞でのレニン分泌を亢進させるように、レニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系を調節している。その際に、緻密斑細胞が原尿中のCl-の濃度を感知する上で、Na+-K+-2Cl-共輸送体が重要な役割をはたしていると考えられている。しかし、Na+-K+-2Cl-共輸送体が機能不全に陥ると、原尿中のCl-の濃度を緻密斑が感知できなくなるため、原尿中のCl-の濃度が低いと誤認識を起こし、糸球体傍細胞でのレニン分泌が異常に亢進する。その結果、RAA系が過剰に賦活されアルドステロンの分泌を異常に促し、続発性アルドステロン症を起こす。
続発性アルドステロン症は低カリウム血症と代謝性アルカローシスを起こす。続発性アルドステロン症によって起こされた低カリウム血症は腎臓で合成されるプロスタグランジンの産成を異常に促進し、過剰に産成されたプロスタグランジンはRAA系を更に賦活すると言う悪循環ができる。一方、レニンの昇圧作用とプロスタグランジンの降圧作用が相殺されて、血圧は正常に保たれる。
症状・所見
本症においては、その機序からしても、ループ利尿薬の過剰投与時と同様の臨床症状・検査所見が認められる。
臨床症状
低カリウム血症による筋力低下、四肢麻痺、尿濃縮力低下による多尿等を来たし、腎不全に至る。
検査所見
- 基本身体検査
- 元々RAA系が亢進しているのでアンギオテンシンII負荷試験にて昇圧性が低下している。
- 血液検査
- 血清生化学検査
- 低カリウム血症、代謝性アルカローシス、等が認められる。
- 血清生化学検査
- 腎臓針生体検査
- レニンを異常分泌している傍糸球体装置が過剰に形成されて大きくなる。過剰に形成される事を過形成と言う。
- 心電図
- 低カリウム血症によるU波増高などを認める。
予後・治療
本症においては、乳児期から低カリウム血症を発症し、成人までに1/3が末期腎不全に至る。
先天異常なので対症療法を行う。低カリウム血症に対してはカリウムを補給する。低クロール血症に対してはKClの経口投与で補給する。アルドステロン症に対しては、アルドステロン受容体拮抗薬スピロノラクトンを投与する。プロスタグランジンの過剰産生に対しては、プロスタグランジン産成阻害薬のインドメサシン等を投与する。
参考文献
- ^ 林松彦「Bartter症候群」『今日の診断指針 第6版』医学書院、2010年。ISBN 978-4-260-00795-5。
- ^ Bartter FC, Pronove P, Gill JR Jr, MacCardle RC (1962). “Hyperplasia of the juxtaglomerular complex with hyperaldosteronism and hypokalemic alkalosis. A new syndrome”. Am J Med 33 (6): 811–28. doi:10.1016/0002-9343(62)90214-0. PMID 13969763. Reproduced in Bartter FC, Pronove P, Gill JR, MacCardle RC (1998). “Hyperplasia of the juxtaglomerular complex with hyperaldosteronism and hypokalemic alkalosis. A new syndrome. 1962”. J. Am. Soc. Nephrol. 9 (3): 516–28. PMID 9513916.
- ^ Proesmans W (2006). “Threading through the mizmaze of Bartter syndrome”. Pediatr. Nephrol. 21 (7): 896–902. doi:10.1007/s00467-006-0113-7. PMID 16773399.
- ^ synd/2328 - Who Named It?
- ^ http://www.whonamedit.com/synd.cfm/2328.html