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定義=太陽の重力のみを受けガウス年を周期として円運動するテスト粒子の軌道半径| |
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天文単位は元来は太陽と地球との距離を基準にして決められた。 地球 |
天文単位は元来は太陽と地球との距離を基準にして決められた。 地球は月や他の惑星による重力の影響を無視すれば[[円]]に近い[[楕円]]を描いて太陽の周りを回っている。 この楕円軌道の長い軸の長さの半分を[[軌道長半径]]といい、この長さが天文単位とされた。 1976年以降、この定義は用いられていないが、差は1千万分の1程度のわずかなものなので、厳密を求めなければ天文単位とは太陽をめぐる地球の軌道の軌道長半径、もしくは太陽と地球の間の平均的な距離とみなしてよい。 |
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現在の正確な天文単位の定義はこれよりも複雑なものとなっており、もはや地球の軌道とは関係していない。 その代わりに定義では、地球の代わりにおいたある仮想的な粒子の運動を基準とする。 この粒子は、太陽からの重力以外の力を受けず、重さは無視でき、その軌道は完全に円であるようなものとされる。 このような粒子を考えると、太陽に近ければより強い力を受けて速く公転し、遠ければより弱い力を受けてゆっくりと公転する。 そうした軌道のうち、公転周期が 1 '''ガウス年'''([[w:Gaussian year|Gaussian year]])と呼ばれるある決まった期間で巡るようなものの円軌道の半径 |
現在の正確な天文単位の定義はこれよりも複雑なものとなっており、もはや地球の軌道とは関係していない。 その代わりに定義では、地球の代わりにおいたある仮想的な粒子の運動を基準とする。 この粒子は、太陽からの重力以外の力を受けず、重さは無視でき、その軌道は完全に円であるようなものとされる。 このような粒子を考えると、太陽に近ければより強い力を受けて速く公転し、遠ければより弱い力を受けてゆっくりと公転する。 そうした軌道のうち、公転周期が 1 '''ガウス年'''([[w:Gaussian year|Gaussian year]])と呼ばれるある決まった期間で巡るようなものの円軌道の半径を 1 天文単位 (1 AU) とする<ref name="BIPM06">{{cite book | author= International Bureau of Weights and Measures | title= The International System of Units (SI) (8th ed.) | year= 2006 | pages= p.126 | isbn= 92-822-2213-6 | url= http://www.bipm.org/utils/common/pdf/si_brochure_8_en.pdf | format= PDF}}</ref>。 ここでガウス年とは、地球の[[公転周期]]である[[恒星年]]に非常に近い 2<span style="font-family:serif;">π</span><!--font-famiy指定はブラウザの設定によりпのような字体になりにくくするため--> / ''k'' 日に相当する時間である。 ただし <span style="font-family:serif;">π</span> は円周率、''k'' は[[ガウス引力定数]]と呼ばれる観測によらず約束事として厳密に決まった定数で ''k'' = 0.017 202 098 95 である。 よって、ガウス年は 365.256 898 ... 日を意味する。 この定義によって地球の実際の軌道長半径は現在 1 天文単位よりわずかに大きなものとなっている。 |
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テスト粒子に力を及ぼしているのは太陽のみであるので、粒子がどれだけ動くかは[[太陽質量]] '' |
テスト粒子に力を及ぼしているのは太陽のみであるので、粒子がどれだけ動くかは[[太陽質量]] ''S'' と重力の大きさを決める[[万有引力定数]] ''G'' から決まる。 このテスト粒子には厳密に[[ケプラーの法則|ケプラーの第3法則]]が適用でき、これから天文単位の大きさ ''A'' は、''A''<sup>3</sup> = ''GS'' / ''k''<sup>2</sup> と簡明に表される。 よって現在の天文単位の値は地球とは関係なく ''GS'' の 1/3 乗(3乗根)に比例する値として決まっていることになる。 |
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===天文単位の値=== |
===天文単位の値=== |
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天文単位は、天体の測定を通じて '' |
天文単位は、天体の測定を通じて ''GS'' を決定することで求められる。 [[ジェット推進研究所]]の1997年の[[天体暦]] (DE405) では、この 1 天文単位をメートルで表した値は次のように求められている<ref name="USNO_asa_k6">{{cite web | url= http://asa.usno.navy.mil/SecK/2009/Astronomical_Constants_2009.pdf | title= Selected astronomical constants | work= The Astronomical Almanac Online!, Naval Oceanography Portal | format= PDF | accessdate= 2009-02-01}} 値は[[時刻系]]に依存し、ここで示されたものは[[太陽系力学時]] (TDB) を用いたときの値である。SI単位系の時刻では 1 AU = 149 597 871 464(6) m となる。</ref>。 |
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:1 AU = 149 597 870 691(6) m = [[1 E11 m|1.495 978 706 91(6){{E|11}} m]] |
:1 AU = 149 597 870 691(6) m = [[1 E11 m|1.495 978 706 91(6){{E|11}} m]] |
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ただし括弧内の数字は最後の桁を単位とする誤差を表す。 |
ただし括弧内の数字は最後の桁を単位とする誤差を表す。 |
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===値の永年変化=== |
===値の永年変化=== |
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天文単位が太陽質量 '' |
天文単位が太陽質量 ''S'' に依存するため、太陽の質量の変化とともに天文単位は変化する。 太陽は[[核融合]]により質量の一部をエネルギーに変えて、やがて[[電磁波]]として放射し、また大気を[[太陽風]]として放出するので、1年あたりおよそ10兆分の1の比率で質量を失っていると見積もられている<ref name="Noerdlinger08">{{cite journal | author= P.D. Noerdlinger | title= Solar mass loss, the astronomical unit, and the scale of the solar system | journal= (preprint) | volume= | pages= | year= 2008 | doi= }} ([http://arxiv.org/abs/0801.3807 arXiv:0801.3807])</ref>。 こうした減少はそのまま太陽からの重力の減少を意味し、すべての惑星の軌道半径と公転周期を増加させる。 一方、天文単位の仮想的なテスト粒子はガウス年という一定の公転周期が保障されると定義されているため、重力の減少とともに粒子は内側の軌道を取らねばならず、上述の式のように質量の減少の比率の 1/3 の比率で天文単位は減少する。 この天文単位の減少は100年で 0.4 m ほどに相当する。 なおこの他にも、天文単位には[[時刻系]]の[[一般相対性理論|一般相対論]]的変化の影響も受けるが、太陽質量の変化に比べるとその大きさははるかに小さい。 |
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近年は、距離の測定技術の向上により 1 m 以下の誤差で天文単位が求められるようになったため、従来無視しうるほどのものであったこうした変化が問題になりつつある。 太陽質量の減少にともない天体の運動だけでなくその「ものさし」であるべき天文単位まで変化するという複雑な事態を防ぐために、天文単位の大きさをメートルに対して固定するなど近い将来の見直しが避けられないという声が強くなっている<ref name="Noerdlinger08" /><ref name="Capitaine08">{{cite journal | author= N. Capitaine | coauthor= B. Guinot | title= The astronomical units | journal= (preprint) | vol= | pages= | year= 2008 | doi= }} ([http://arxiv.org/abs/0812.2970 arXiv:0812.2970])</ref><ref name="Than08">{{cite web | author= K. Than | title= ‘Astronomical unit’ may need to be redefined | url= http://www.newscientist.com/article/dn13286 | work= New Scientist | date= 2008-02-06 | accessdate= 2009-01-30}}</ref>。 |
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==天文単位の意義== |
==天文単位の意義== |
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===太陽系のものさし=== |
===太陽系のものさし=== |
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紀元前3世紀に[[アリスタルコス]]は、 |
紀元前3世紀に[[アリスタルコス]]は、たくみな推論と観測により太陽は月の 18~20 倍遠くにあると結論した。 また地球の大きさと比べたときの太陽や月の大きさも見積もっていた。 観測精度が悪くその値は実際とは大きく異なったものであったが、その幾何学的な推論は正しいものであった。 こうした比だけからは天体までの具体的な距離を知ることはできない。 しかし、太陽までの距離を天体の「ものさし」、天文単位、として長さの単位とみなすなら、アリスタルコスは月までの距離を天文単位で初めて科学的に求めたことになる。 |
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17世紀の[[ヨハネス・ケプラー|ケプラー]]もまた観測データと幾何的関係を用い、試行錯誤と複雑な計算を繰り返しながら地球の軌道に対する[[火星]]の軌道をほぼ正しく再構成して見せた。 ケプラーの努力によって、太陽から地球までの距離を正確に知らなくても、惑星の間の運動の相対的関係は理論的に明らかにできた。 惑星など天体の動きは、この[[ケプラーの法則]]によってよく記述できるようになり、ほどなく[[ニュートン力学]]によってその背後の力学的仕組みも明らかとなった。 仕組みが知られることによってケプラー的な運動との細かな食い違いを知ることもできるようになり、その後数世紀かけて[[天体力学]]は驚くほどの成功を収めることになった。 |
17世紀の[[ヨハネス・ケプラー|ケプラー]]もまた観測データと幾何的関係を用い、試行錯誤と複雑な計算を繰り返しながら地球の軌道に対する[[火星]]の軌道をほぼ正しく再構成して見せた。 ケプラーの努力によって、太陽から地球までの距離を正確に知らなくても、惑星の間の運動の相対的関係は理論的に明らかにできた。 惑星など天体の動きは、この[[ケプラーの法則]]によってよく記述できるようになり、ほどなく[[ニュートン力学]]によってその背後の力学的仕組みも明らかとなった。 仕組みが知られることによってケプラー的な運動との細かな食い違いを知ることもできるようになり、その後数世紀かけて[[天体力学]]は驚くほどの成功を収めることになった。 |
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とはいえ、いったいそれらの天体が地球からどの程度離れているかや、太陽や地球がどの程度の重さをもつのかをメートルや[[キログラム]]のような我々が地上で使ってる馴染み深い単位を使って精度よく知るのにはやはり困難が伴った。 しかし、その具体的な値を精度よく知る必要もなかっ |
とはいえ、いったいそれらの天体が地球からどの程度離れているかや、太陽や地球がどの程度の重さをもつのかをメートルや[[キログラム]]のような我々が地上で使ってる馴染み深い単位を使って精度よく知るのにはやはり困難が伴った。 しかし、その具体的な値を精度よく知る必要もなかった。 19世紀前半に天文学者たちが角度の1分(1° の 1/60)に満たない[[天王星]]の位置の予測とのずれに頭を悩ませていたときも、それは惑星の質量やそこまでの距離が日常の単位でどれだけであるかということとは無関係の問題だった。 アリスタルコスと同様に、地上の「ものさし」に頼らなくても、太陽系そのものを「ものさし」としさえすれば、すなわち、メートルの代わりに天文単位を、キログラムの代わりに太陽質量を用いさえすれば惑星の動きは非常に正確に測定でき計算と予測もできたのである。 よって、天文学にとって長さの単位として天文単位のような地上とは違う単位を用いるのは自然なことでもあり必然でもあった。 ここに天文単位が天文学で用いられてきた第一の意義がある。 |
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===距離の梯子=== |
===距離の梯子=== |
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しかし、年周視差から距離を求めることができるのは近距離の天体に限られるため、より遠い距離を測るには様々な別の方法を使うことになる。その際、それぞれの手法が使える距離範囲はやはり限定されているため、年周視差で測れない距離は A という別の方法で、A で測れない距離は B の方法で、B で測れない距離は C の方法で、というように、別々の方法を用いていた。 こうした方法は測定技術が向上するとともに[[梯子]]の段のようにそれぞれの手法を「つないで」遠方の距離を決めていくことができるようになった([[宇宙の距離梯子]])。この梯子の一段目に当たるのが地球の軌道の大きさである。 |
しかし、年周視差から距離を求めることができるのは近距離の天体に限られるため、より遠い距離を測るには様々な別の方法を使うことになる。その際、それぞれの手法が使える距離範囲はやはり限定されているため、年周視差で測れない距離は A という別の方法で、A で測れない距離は B の方法で、B で測れない距離は C の方法で、というように、別々の方法を用いていた。 こうした方法は測定技術が向上するとともに[[梯子]]の段のようにそれぞれの手法を「つないで」遠方の距離を決めていくことができるようになった([[宇宙の距離梯子]])。この梯子の一段目に当たるのが地球の軌道の大きさである。 |
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===薄れる意義=== |
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1960年代以降、太陽系の惑星や月までの距離を[[レーダー]]や[[レーザー]]、[[超長基線電波干渉法|VLBI]] を用いて直接に測定するという新しい観測技術が出現した。 これら電磁波の「ものさし」の登場によって地上の単位系の長さと太陽系の単位系の長さは今や 0.1 m の誤差で結び付けられるようになった<ref name="Pitjeva05">{{cite journal | author= E.V. Pitjeva | title= High-precision ephemerides of planets — EPM and determination of some astronomical constants | journal= Solar Sys. Res. | volume= 39 | pages= 176–186 | year= 2005 | doi= 10.1007/s11208-005-0033-2}} ([http://iau-comm4.jpl.nasa.gov/EPM2004.pdf PDF]) (''{{lang|ru|Астрономический вестник}}'' '''39''': 202–213)</ref>。 これに伴って太陽質量の減少など、従来ほとんど無視しうるほどのものであった影響が現実問題になりつつあり、地球の軌道の増大が予測よりも大きいという新たな謎も明らかになっている<ref name="Noerdlinger08" /><ref name="Krasinsky04">{{cite journal | author= G.A. Krasinsky | coauthor= V.A. Brumberg | title= Secular increase of astronomical unit from analysis of the major panet motions, and its interpretation | journal= Celest. Mech. Dyn. Astron. | volume= 90 | pages= 267–288 | year= 2004 | doi= 10.1007/s10569-004-0633-z}} ([http://iau-comm4.jpl.nasa.gov/GAKVAB.pdf PDF]) ただしこの論文では、増大は天文単位に関してとされている。 ここでは Noerdlinger に従った。</ref>。 万有引力定数 ''G'' の不確かさから太陽質量 ''S'' そのものは太陽系の質量の単位としての座を明け渡す気配はないものの、長さの単位に関しては地上と天体の梯子の段はひとつにまとまりつつある。 こうしたことから、太陽質量の減少が天体の運動だけでなく天文単位に影響するという複雑な事態を防ぐために、天文単位の大きさをメートルに対して固定する、あるいは天文単位を廃止するなど近い将来の見直しが避けられないという声が強くなっている<ref name="Capitaine08">{{cite journal | author= N. Capitaine | coauthor= B. Guinot | title= The astronomical units | journal= (preprint) | vol= | pages= | year= 2008 | doi= }} ([http://arxiv.org/abs/0812.2970 arXiv:0812.2970])</ref><ref name="Than08">{{cite web | author= K. Than | title= ‘Astronomical unit’ may need to be redefined | url= http://www.newscientist.com/article/dn13286 | work= New Scientist | date= 2008-02-06 | accessdate= 2009-01-30}}</ref>。 |
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==時間と質量の天文単位== |
==時間と質量の天文単位== |
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一般に天文単位という場合、距離の単位としての天文単位を意味する。 しかし[[国際天文学連合]] (IAU) の1976年の体系では、距離の天文単位のほかに同じく天文単位 (astronomical unit) という呼称で時間と質量に対する特定の単位を定めている<ref name="IAU_au">{{cite web | title= The IAU and astronomical units | url= http://www.iau.org/public_press/themes/measuring/ | work= Measuring the Universe, Public and Press, IAU | accessdate= 2009-01-30}}</ref>。 時間の天文単位は[[SI単位系]]での1日(86 400秒)を、質量の天文単位は太陽質量を指す。 ただし普通はこれらの値が単に「天文単位」の名で参照されることはない。 これらは[[カール・フリードリッヒ・ガウス|ガウス]]が導入した歴史的な[[単位系]]の枠組みを修正の上受け継いだもので、これら距離・時間・質量の天文単位が組として太陽系の天体の運動を表すための単位系をなしている。 |
一般に天文単位という場合、距離の単位としての天文単位を意味する。 しかし[[国際天文学連合]] (IAU) の1976年の体系では、距離の天文単位のほかに同じく天文単位 (astronomical unit) という呼称で時間と質量に対する特定の単位を定めている<ref name="IAU_au">{{cite web | title= The IAU and astronomical units | url= http://www.iau.org/public_press/themes/measuring/ | work= Measuring the Universe, Public and Press, IAU | accessdate= 2009-01-30}}</ref>。 時間の天文単位は[[SI単位系]]での1日(86 400秒)を、質量の天文単位は太陽質量を指す。 ただし普通はこれらの値が単に「天文単位」の名で参照されることはない。 これらは[[カール・フリードリッヒ・ガウス|ガウス]]が導入した歴史的な[[単位系]]の枠組みを修正の上受け継いだもので、これら距離・時間・質量の天文単位が組として太陽系の天体の運動を表すための単位系をなしている。 |
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==距離の例と他の単位との比較== |
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==事例== |
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*地球の軌道長半径は約 1.000 000 11 AU。 |
*地球の軌道長半径は約 1.000 000 11 AU<ref name="NSSDC_EarthFact">{{cite web | author= D.R. Williams | url= http://nssdc.gsfc.nasa.gov/planetary/factsheet/earthfact.html | title= Earth Fact Sheet | work= NSSDC, NASA | date= 2005-01-06 | accessdate= 2009-02-02}}</ref>。 |
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*[[冥王星]]は太陽から39.5AU。 |
*[[冥王星]]は太陽から39.5AU。 |
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*[[木星]]は太陽から5.2AU。 |
*[[木星]]は太陽から5.2AU。 |
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|[[ジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリ]] |
|[[ジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリ]] |
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|[[ジェット推進研究所|JPL]] DE200<sup>[ |
|[[ジェット推進研究所|JPL]] DE200<sup>[a]</sup> |
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|[[1992年]] |
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|IERS<sup>[ |
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|JPL DE403/DE405, EPM2000<sup>[ |
|JPL DE403/DE405, EPM2000<sup>[c]</sup> |
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==参考文献== |
==参考文献・注釈== |
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2009年2月2日 (月) 21:20時点における版
天文単位 | |
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記号 | AU |
系 | SI併用単位(SI単位で表される数値が実験的に得られるもの) |
量 | 長さ |
SI | 1.49597870691(6)×1011 m |
定義 | 太陽の重力のみを受けガウス年を周期として円運動するテスト粒子の軌道半径 |
天文単位(てんもんたんい、astronomical unit)は天文学で用いる長さの単位で、ほぼ地球と太陽との平均的な距離に対応し、約1.5億kmを表す。 主として太陽系での天体の運動を記述するのに用いられている。 国際天文学連合 (IAU) は天文単位を表す記号として au を推奨するが、AU や a.u. も広く使われている。 国際度量衡局では ua とするが使用例は少ない。
定義と値
定義とその変遷
天文単位は元来は太陽と地球との距離を基準にして決められた。 地球は月や他の惑星による重力の影響を無視すれば円に近い楕円を描いて太陽の周りを回っている。 この楕円軌道の長い軸の長さの半分を軌道長半径といい、この長さが天文単位とされた。 1976年以降、この定義は用いられていないが、差は1千万分の1程度のわずかなものなので、厳密を求めなければ天文単位とは太陽をめぐる地球の軌道の軌道長半径、もしくは太陽と地球の間の平均的な距離とみなしてよい。
現在の正確な天文単位の定義はこれよりも複雑なものとなっており、もはや地球の軌道とは関係していない。 その代わりに定義では、地球の代わりにおいたある仮想的な粒子の運動を基準とする。 この粒子は、太陽からの重力以外の力を受けず、重さは無視でき、その軌道は完全に円であるようなものとされる。 このような粒子を考えると、太陽に近ければより強い力を受けて速く公転し、遠ければより弱い力を受けてゆっくりと公転する。 そうした軌道のうち、公転周期が 1 ガウス年(Gaussian year)と呼ばれるある決まった期間で巡るようなものの円軌道の半径を 1 天文単位 (1 AU) とする[1]。 ここでガウス年とは、地球の公転周期である恒星年に非常に近い 2π / k 日に相当する時間である。 ただし π は円周率、k はガウス引力定数と呼ばれる観測によらず約束事として厳密に決まった定数で k = 0.017 202 098 95 である。 よって、ガウス年は 365.256 898 ... 日を意味する。 この定義によって地球の実際の軌道長半径は現在 1 天文単位よりわずかに大きなものとなっている。
テスト粒子に力を及ぼしているのは太陽のみであるので、粒子がどれだけ動くかは太陽質量 S と重力の大きさを決める万有引力定数 G から決まる。 このテスト粒子には厳密にケプラーの第3法則が適用でき、これから天文単位の大きさ A は、A3 = GS / k2 と簡明に表される。 よって現在の天文単位の値は地球とは関係なく GS の 1/3 乗(3乗根)に比例する値として決まっていることになる。
天文単位の値
天文単位は、天体の測定を通じて GS を決定することで求められる。 ジェット推進研究所の1997年の天体暦 (DE405) では、この 1 天文単位をメートルで表した値は次のように求められている[2]。
- 1 AU = 149 597 870 691(6) m = 1.495 978 706 91(6)×1011 m
ただし括弧内の数字は最後の桁を単位とする誤差を表す。
値の永年変化
天文単位が太陽質量 S に依存するため、太陽の質量の変化とともに天文単位は変化する。 太陽は核融合により質量の一部をエネルギーに変えて、やがて電磁波として放射し、また大気を太陽風として放出するので、1年あたりおよそ10兆分の1の比率で質量を失っていると見積もられている[3]。 こうした減少はそのまま太陽からの重力の減少を意味し、すべての惑星の軌道半径と公転周期を増加させる。 一方、天文単位の仮想的なテスト粒子はガウス年という一定の公転周期が保障されると定義されているため、重力の減少とともに粒子は内側の軌道を取らねばならず、上述の式のように質量の減少の比率の 1/3 の比率で天文単位は減少する。 この天文単位の減少は100年で 0.4 m ほどに相当する。 なおこの他にも、天文単位には時刻系の一般相対論的変化の影響も受けるが、太陽質量の変化に比べるとその大きさははるかに小さい。
天文単位の意義
太陽系のものさし
紀元前3世紀にアリスタルコスは、たくみな推論と観測により太陽は月の 18~20 倍遠くにあると結論した。 また地球の大きさと比べたときの太陽や月の大きさも見積もっていた。 観測精度が悪くその値は実際とは大きく異なったものであったが、その幾何学的な推論は正しいものであった。 こうした比だけからは天体までの具体的な距離を知ることはできない。 しかし、太陽までの距離を天体の「ものさし」、天文単位、として長さの単位とみなすなら、アリスタルコスは月までの距離を天文単位で初めて科学的に求めたことになる。
17世紀のケプラーもまた観測データと幾何的関係を用い、試行錯誤と複雑な計算を繰り返しながら地球の軌道に対する火星の軌道をほぼ正しく再構成して見せた。 ケプラーの努力によって、太陽から地球までの距離を正確に知らなくても、惑星の間の運動の相対的関係は理論的に明らかにできた。 惑星など天体の動きは、このケプラーの法則によってよく記述できるようになり、ほどなくニュートン力学によってその背後の力学的仕組みも明らかとなった。 仕組みが知られることによってケプラー的な運動との細かな食い違いを知ることもできるようになり、その後数世紀かけて天体力学は驚くほどの成功を収めることになった。
とはいえ、いったいそれらの天体が地球からどの程度離れているかや、太陽や地球がどの程度の重さをもつのかをメートルやキログラムのような我々が地上で使ってる馴染み深い単位を使って精度よく知るのにはやはり困難が伴った。 しかし、その具体的な値を精度よく知る必要もなかった。 19世紀前半に天文学者たちが角度の1分(1° の 1/60)に満たない天王星の位置の予測とのずれに頭を悩ませていたときも、それは惑星の質量やそこまでの距離が日常の単位でどれだけであるかということとは無関係の問題だった。 アリスタルコスと同様に、地上の「ものさし」に頼らなくても、太陽系そのものを「ものさし」としさえすれば、すなわち、メートルの代わりに天文単位を、キログラムの代わりに太陽質量を用いさえすれば惑星の動きは非常に正確に測定でき計算と予測もできたのである。 よって、天文学にとって長さの単位として天文単位のような地上とは違う単位を用いるのは自然なことでもあり必然でもあった。 ここに天文単位が天文学で用いられてきた第一の意義がある。
距離の梯子
天文単位は太陽系だけでなく、より遠くの恒星までの距離を定める長さの基準のひとつともなった。 距離を測るための最も単純明快な方法は、異なる2地点から対象を観測し、その方向の差(視差)と2点間の距離とから、三角形の幾何学を用いて対象までの距離を決めるという三角測量の方法である。天文学では比較的近い距離にある恒星までの距離を測る方法としてこの方法を用いる。同じ恒星を地球から1年間続けて観測すると、地球の位置が変わるため、より遠方にある背景の天体に対して対象の恒星の位置が動いて見える(年周視差)。この恒星の見かけの動きの最大の角度は地球の軌道の大きさと恒星までの距離で決まり、地球の軌道の大きさにほぼ対応する天文単位を用いて星までの距離を測ることができる。 この関係を用いて恒星までの距離の単位として用いられるパーセクが定義されている。
しかし、年周視差から距離を求めることができるのは近距離の天体に限られるため、より遠い距離を測るには様々な別の方法を使うことになる。その際、それぞれの手法が使える距離範囲はやはり限定されているため、年周視差で測れない距離は A という別の方法で、A で測れない距離は B の方法で、B で測れない距離は C の方法で、というように、別々の方法を用いていた。 こうした方法は測定技術が向上するとともに梯子の段のようにそれぞれの手法を「つないで」遠方の距離を決めていくことができるようになった(宇宙の距離梯子)。この梯子の一段目に当たるのが地球の軌道の大きさである。
薄れる意義
1960年代以降、太陽系の惑星や月までの距離をレーダーやレーザー、VLBI を用いて直接に測定するという新しい観測技術が出現した。 これら電磁波の「ものさし」の登場によって地上の単位系の長さと太陽系の単位系の長さは今や 0.1 m の誤差で結び付けられるようになった[4]。 これに伴って太陽質量の減少など、従来ほとんど無視しうるほどのものであった影響が現実問題になりつつあり、地球の軌道の増大が予測よりも大きいという新たな謎も明らかになっている[3][5]。 万有引力定数 G の不確かさから太陽質量 S そのものは太陽系の質量の単位としての座を明け渡す気配はないものの、長さの単位に関しては地上と天体の梯子の段はひとつにまとまりつつある。 こうしたことから、太陽質量の減少が天体の運動だけでなく天文単位に影響するという複雑な事態を防ぐために、天文単位の大きさをメートルに対して固定する、あるいは天文単位を廃止するなど近い将来の見直しが避けられないという声が強くなっている[6][7]。
時間と質量の天文単位
一般に天文単位という場合、距離の単位としての天文単位を意味する。 しかし国際天文学連合 (IAU) の1976年の体系では、距離の天文単位のほかに同じく天文単位 (astronomical unit) という呼称で時間と質量に対する特定の単位を定めている[8]。 時間の天文単位はSI単位系での1日(86 400秒)を、質量の天文単位は太陽質量を指す。 ただし普通はこれらの値が単に「天文単位」の名で参照されることはない。 これらはガウスが導入した歴史的な単位系の枠組みを修正の上受け継いだもので、これら距離・時間・質量の天文単位が組として太陽系の天体の運動を表すための単位系をなしている。
距離の例と他の単位との比較
メートル(SI単位) | 天文単位 | 光年 | パーセク | |
---|---|---|---|---|
1 m | = 1 | ≈ 6.68459×10−12 | ≈ 1.05700×10−16 | ≈ 3.24078×10−17 |
1 au | ≈ 1.49598×1011 | = 1 | ≈ 1.58125×10−5 | ≈ 4.84814×10−6 |
1 ly | ≈ 9.46073×1015 | ≈ 6.32411×104 | = 1 | ≈ 3.06601×10−1 |
1 pc | ≈ 3.08568×1016 | ≈ 2.06265×105 | ≈ 3.26156 | = 1 |
天文単位の観測の年表
sl版sl:Astronomska enotaの一部を日本語化したものである。
天文単位[×109m] | 観測年 | 観測者 | 観測方法 |
---|---|---|---|
3.7 | 紀元前265年 | アリスタルコス | 月の離角から |
7.8 | 紀元前136年 | ヒッパルコス | 月食の観測から |
65 | 紀元前90年 | ポセイドニオス | 月の離角から |
7.7 | 150年 | クラウディオス・プトレマイオス | |
7.1 | 890年頃 | アル=バッターニー | |
87.7 | 1630年頃 | ゴドフロイ・ウェンデリン | アリスタルコスの方法 |
93.8 | 1639年 | エレミア・ホロックス | 金星の日面通過 |
40 | 1665年 | ジョヴァンニ・バッティスタ・リッチョーリ | |
109.8 | 1672年 | ジョヴァンニ・カッシーニ | |
138.4 | 1672年 | ジョヴァンニ・カッシーニ. ジョン・フラムスティード |
|
1716年 | エドモンド・ハレー | ||
138.5 (129.2) | 1752年 (1751年) | ニコラ・ルイ・ド・ラカーユ | |
153.1(?) | 1761年 | ジェームズ・ショート | |
152.500 | 1825年 | ヨハン・フランツ・エンケ | |
149.50 | 1862年 | レオン・フーコー | |
146.83 147.32 |
1862 | ||
147.49 | 1863年 | ペーター・ハンゼン | |
147,00 | 1863年 | ユルバン・ルヴェリエ | |
148.990 153.5 ± 6.65 |
1864年 | カール・ポワルキー | |
1874年 | ジョージ・エアリー デービッド・ギル |
||
149.84 | 1877年 | ディビッド・ギル | |
149.50 ± 0,17 | 1879年 | アルバート・マイケルソン サイモン・ニューカム |
|
150,184 ± 0,686 148,179 ± 2,002 |
1882年 | ジョージ・エアリーら | |
1889年 | デービッド・ギル | ||
149.670 | 1895年 | サイモン・ニューカム | |
149.500 ± 0.050 | 1896年 | 国際天文学連合,(パリ) | |
149.464 | 1901年 | デービッド・ギル | |
149.397 ± 0.016 | 1901年 | アーサー・ヒンクス | |
1912年 | S. S. Hug | ||
149.413 | 1924年 | ハロルド・スペンサー=ジョーンズ | |
149.447 | 1927年 | ウィレム・ド・ジッター | |
149.462 ± 0.060 | 1928年 | ハロルド・スペンサー=ジョーンズ | |
149.566 ± 0.034 | 1929年 | ハロルド・スペンサー=ジョーンズ | |
149.668 ± 0.017 | 1931年 | ハロルド・スペンサー=ジョーンズ | |
149.549 ± 0.221 | 1911年- 1936年 |
kO Greenwich | |
149.453 | 1938年 | ウィレム・ド・ジッター | |
149.422 ± 0.119 | 1941年 | ウォルター・シドニー・アダムズ | |
149.670 | 1948年 | ジェラルド・クレメンス | |
149.550 ± 0,014 | 1960年 | パイオニア 5 | |
149.592 ± 0,006 | 1961年 | 電波観測 | |
149.674 ± 0,017 | 1964年 | ||
149,600 | 1964年 | 国際天文学連合、(ハンブルグ) | |
149.598 ± 0.000680 | 電波観測 | ||
149.597870 | 1976年 | IAU | |
149.597870660 | 1982年 | JPL DE200[a] | |
149.597870610 | 1992年 | IERS[b] | |
149.597870691 | 1995年 | JPL DE403/DE405, EPM2000[c] | |
149.597870691 (±0.00000003) |
|||
*[a] - DE200/DE403/DE405 天体暦, JPL, Pasadena *[b] - IERS *[c] - EPM2000 天体暦, IAA, RAS |
参考文献・注釈
- ^ International Bureau of Weights and Measures (2006) (PDF). The International System of Units (SI) (8th ed.). pp. p.126. ISBN 92-822-2213-6
- ^ “Selected astronomical constants” (PDF). The Astronomical Almanac Online!, Naval Oceanography Portal. 2009年2月1日閲覧。 値は時刻系に依存し、ここで示されたものは太陽系力学時 (TDB) を用いたときの値である。SI単位系の時刻では 1 AU = 149 597 871 464(6) m となる。
- ^ a b P.D. Noerdlinger (2008). “Solar mass loss, the astronomical unit, and the scale of the solar system”. (preprint). (arXiv:0801.3807)
- ^ E.V. Pitjeva (2005). “High-precision ephemerides of planets — EPM and determination of some astronomical constants”. Solar Sys. Res. 39: 176–186. doi:10.1007/s11208-005-0033-2. (PDF) (Астрономический вестник 39: 202–213)
- ^ G.A. Krasinsky; V.A. Brumberg (2004). “Secular increase of astronomical unit from analysis of the major panet motions, and its interpretation”. Celest. Mech. Dyn. Astron. 90: 267–288. doi:10.1007/s10569-004-0633-z. (PDF) ただしこの論文では、増大は天文単位に関してとされている。 ここでは Noerdlinger に従った。
- ^ N. Capitaine; B. Guinot (2008). “The astronomical units”. (preprint). (arXiv:0812.2970)
- ^ K. Than (2008年2月6日). “‘Astronomical unit’ may need to be redefined”. New Scientist. 2009年1月30日閲覧。
- ^ “The IAU and astronomical units”. Measuring the Universe, Public and Press, IAU. 2009年1月30日閲覧。
- ^ D.R. Williams (2005年1月6日). “Earth Fact Sheet”. NSSDC, NASA. 2009年2月2日閲覧。