小倉昭和館

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小倉昭和館
KOKURA SHOWAKAN
地図
情報
通称 昭和館
正式名称 小倉昭和館
開館 1939年
収容人員 (2館合計)370人
設備 ドルビーデジタルSDDSDLPデジタルシネマ機35mm映写機ブルーレイ・DVDプロジェクター
用途 映画上映
旧用途 芝居小屋
所在地 802-0006
福岡県北九州市小倉北区魚町4-2-9
位置 北緯33度52分53.8秒 東経130度52分47.7秒 / 北緯33.881611度 東経130.879917度 / 33.881611; 130.879917座標: 北緯33度52分53.8秒 東経130度52分47.7秒 / 北緯33.881611度 東経130.879917度 / 33.881611; 130.879917
アクセス 北九州モノレール小倉線旦過駅より徒歩1分
外部リンク kokura-showakan.com
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小倉昭和館(こくらしょうわかん)は、福岡県北九州市小倉北区魚町旦過市場にある映画館名画座)。北九州市唯一の個人経営による映画館であった[1]が、2022年令和4年)8月10日に発生した火災で全焼[2]。2023年12月に再建・営業再開した[3]

歴史[編集]

1939年(昭和14年)、映画館や芝居小屋を経営する[4]樋口勇によって昭和館が開館した[4]。当初は映画上映のみならず、芝居小屋としても機能する劇場であった。第二次世界大戦後は邦画の上映館となり、東映松竹の作品を多く上映。1970年代には日活ロマンポルノを上映したこともあった。

1982年(昭和57年)には隣接するパチンコ店の跡地を改修し、小倉昭和館1・2の2館体制となった。1990年(平成2年)時点の小倉北区には当館のほかに、小倉SY松竹文化・小倉ピカデリー(室町)、小倉松竹劇場・小倉ロマン座(京町)、小倉トキワ映劇(京町)、小倉名画座1・2(京町)、小倉有楽100・150(馬借町)など、系統の異なる映画館が点在していた[5]。1990年代は洋画ロードショー館として数々のヒット作を上映したが、市内に複数のシネマコンプレックスがオープンして競争が激化したことも重なり、2004年(平成16年)から封切館で公開が終わった作品を上映する二番館(名画座)スタイルに移行した。2代目館主は樋口昭正。

閉館を考えたこともあったが、2012年(平成24年)には昭正の娘の樋口智巳が3代目館主に就任[4]。この時点で北九州市内の名画座は昭和館だけになっていたが[4]高倉健からの励ましなどもあって続け[6]、高倉の特集や文化人や映画人を招いてのトークイベント、地元企業や行政との連携イベントなど、様々な企画を実施した。2016年1月から2月にかけて仲代達矢の特集を行った際は、同時期に北九州芸術劇場無名塾公演『おれたちは天使じゃない』を行っていた仲代本人が訪れ、『大菩薩峠』と『無頼漢』を観賞したという逸話がある[7]

2013年から2016年までギラヴァンツ北九州の監督を務めていた柱谷幸一は、2015年12月に当館を訪れて『あん』と『アリスのままで』を観賞したことを自身のブログで明かしている[8]

2019年(令和元年)には創業80周年を迎えた。2代目館主の樋口昭正の誕生日に開催した記念上映会では、270席の座席が満席となった[4]。また同年、20年ぶりに赤字から脱却した[4]

2020年(令和2年)には新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、3月21日からは2館のうち1館の上映を取りやめた[9]。館内の消毒や換気などの最善を尽くしているが、観客数は通常時の3分の1程度に減少したという[10]。4月7日には改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が発令されたことから、4月11日から5月6日まで臨時休館した[9]

創業81周年となる同年8月20日の創業日にあわせ、北九州市出身の俳優である光石研や映画ファンからの寄付を原資にして、夫婦やカップルの利用を想定した2人1組で座れる机付きのソファ席「光石研シート」を導入した[11][12][13]。これにより270席あった1号館の客席54席を撤去し、代わりに2人1組で座れるソファを6脚(12席)設置して228席となった。「光石研シート」はカップル2名が原則であり追加料金は不要だった。

焼失と再建[編集]

再建中の小倉昭和館(2023年8月)
再建された小倉昭和館(2024年4月)

2022年(令和4年)4月19日未明、旦過市場で延べ1,924 平方km、42店舗を焼く大規模な火災が発生[14]するも、当館は類焼を逃れ、飲食店が被災した地区のにぎわい維持のため2号館ロビーを改装して「集いの場」を設けたり[2]、館内を被災者の休憩所として開放するなどした。しばらく営業を自粛したが、4月30日には通常上映を再開した[15]。6月には旦過にゆかりのあるリリー・フランキー、作家の町田そのこによる復興支援のためのチャリティートークイベント(毎日新聞社主催)の会場となった。

しかし、同年8月10日に旦過市場で再び火災が発生し、当館は全焼した。配給会社から預かっていたフィルムや、高倉健が3代目館主の樋口智巳に送った直筆の手紙も被害を受けた[1][16]。昭和館の全焼を受け、樋口は当初「再建する余力はない」と語っていた[17]が、常連客をはじめとした地元住民からの励ましを受け、地域に館長が出向いて映画に関連するイベントを定期的に実施しようと試み、まずはリーガロイヤルホテル小倉無声映画のイベントを同年11月27日に開く予定とした[2]

再建・再開を支援する動きも広がり、2022年11月には国内外の有志からの署名1万7千筆が北九州市長に提出されたほか、再建に必要な費用9千万円に対して、クラウドファンディングで約4千万円、義援金で約1千万円が寄せられた[18]。館主の樋口は、高倉健から のファンレター返信のコピーを手帳に挟んで持ち歩き、折に触れ読んで勇気づけられたといい、高倉の命日である同年11月10日、福岡県内にある高倉の碑に「一緒に夢を見させてください」と再建への決意を報告した[18]

2023年4月12日に跡地にて地鎮祭が催され、翌13日に工事を開始し、12月の北九州国際映画祭に合わせて再開を目指した[19]。1スクリーンに減らし、出入り自由のパブリックスペースを設ける計画[20]。2023年12月8日にプレオープン、「ニュー・シネマ・パラダイス」が上映された。12月19日にグランドオープン[3]

スクリーン[編集]

  • 昭和館1:270席(椅子の色は緑)※光石研シートの設置により228席に(2020年8月から)
  • 昭和館2:100席(椅子の色は赤)
  • 再建後:134席

脚注[編集]

  1. ^ a b “老舗映画館「小倉昭和館」も焼失 館主「貴重なフィルムが…」”. 毎日新聞. (2022年8月11日). https://mainichi.jp/articles/20220811/k00/00m/040/005000c 2022年8月11日閲覧。 
  2. ^ a b c 「旦過市場 映画愛ここに/2度目の大火 北九州の映画館が再出発」朝日新聞』夕刊2022年9月15日1面(同日閲覧)
  3. ^ a b 小倉昭和館が再建 旦過市場火災から1年4か月”. NHK (2023年12月20日). 2024年1月4日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 元村有希子「窓を開けて にぎやかな映画館」『朝日新聞』2019年9月7日
  5. ^ 『映画年鑑 1990年版別冊 映画館名簿』(時事映画通信社、1989年)を出典としている1990年の映画館(九州地方) 「消えた映画館の記憶」を参照した。
  6. ^ “高倉健さん一周忌 文通の映画館、感謝の思い今も”. スポーツ報知. (2015年11月10日). https://web.archive.org/web/20151112025520/http://www.hochi.co.jp/topics/20151110-OHT1T50034.html 2016年3月15日閲覧。 
  7. ^ “仲代達矢さんが小倉昭和館に 出演作品2本を観賞”. 西日本新聞 (西日本新聞社). (2016年2月2日). http://www.nishinippon.co.jp/nnp/f_kitakyushu_keichiku/article/222123 2016年3月15日閲覧。 
  8. ^ 小倉昭和館”. 柱谷幸一のオフィシャルブログ. CyberAgent (2015年12月18日). 2016年3月15日閲覧。
  9. ^ a b 映画館 小倉昭和館も臨時休館へ[リンク切れ]NHKニュース(2020年4月8日)
  10. ^ 「最善尽くしたが」「周囲の目が」北九州市などで営業休止相次ぐ 西日本新聞(2020年4月8日)2023年5月16日閲覧
  11. ^ “「光石研シート」小倉昭和館に登場 コロナ対応、ペアでゆったり”. 西日本新聞 (西日本新聞社). (2020年8月21日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/637387/ 2020年9月12日閲覧。 
  12. ^ “福岡)創業81周年の小倉昭和館に「光石研シート」”. 朝日新聞 (朝日新聞社). (2020年8月22日). https://www.asahi.com/articles/ASN8P75MBN8NTIPE00P.html 2020年9月12日閲覧。 
  13. ^ “カップルは「光石研シート」で 2人掛けソファ新設 苦境の映画館を支援 北九州”. 毎日新聞 (毎日新聞社). (2020年8月21日). https://mainichi.jp/articles/20200821/k00/00m/040/062000c 2020年9月12日閲覧。 
  14. ^ “北九州の旦過市場で再び火災”. 日本経済新聞. (2022年8月10日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUE10D4M0Q2A810C2000000/ 2022年8月11日閲覧。 
  15. ^ “「今こそ映画の癒やしを」旦過被災店主ら後押し、小倉昭和館30日再開”. 西日本新聞. (2022年4月27日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/914107/ 2022年8月11日閲覧。 
  16. ^ 北九州・旦過市場で再び大規模火災 高倉健さん愛した映画館「小倉昭和館」も焼失 館主悲痛「どうしたら」”. スポーツ報知 (2022年8月12日). 2022年8月13日閲覧。
  17. ^ 全焼の老舗映画館がポスター回収 「再建する力ない」 旦過市場火災”. 毎日新聞 (2022年8月14日). 2022年8月17日閲覧。
  18. ^ a b 北九州・旦過市場火災で全焼 老舗映画館「夢」の再建/支援続々 故高倉健さんの手紙も後押し 12月完成目指す『東京新聞』夕刊2023年5月10日6面
  19. ^ 「映画館の続編が始まります」 焼失した小倉昭和館、再建へ地鎮祭 朝日新聞デジタル(2023年4月12日)2023年5月17日閲覧
  20. ^ 北九州市の『小倉昭和館』が新たな一歩 地鎮祭で安全祈願[リンク切れ]FBS福岡放送/Yahoo!ニュース

関連文献[編集]

  • 樋口智巳『映画館を再生します。 小倉昭和館、火災から復活までの477日』文藝春秋、2023年。ISBN 9784163917801 

外部リンク[編集]