インヒアレント・ヴァイス

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インヒアレント・ヴァイス
Inherent Vice
監督 ポール・トーマス・アンダーソン
脚本 ポール・トーマス・アンダーソン
原作 トマス・ピンチョン
LAヴァイス
製作 ジョアン・セラー
ダニエル・ルピ
ポール・トーマス・アンダーソン
製作総指揮 スコット・ルーディン
アダム・ソムナー
ナレーター ジョアンナ・ニューサム
出演者 ホアキン・フェニックス
ジョシュ・ブローリン
オーウェン・ウィルソン
キャサリン・ウォーターストン
リース・ウィザースプーン
ベニチオ・デル・トロ
ジェナ・マローン
マーヤ・ルドルフ
マーティン・ショート
音楽 ジョニー・グリーンウッド
撮影 ロバート・エルスウィット
編集 レスリー・ジョーンズ
製作会社 IACフィルムズ
Ghoulardi Film Company
ラットパック=デューン・エンターテインメント
配給 アメリカ合衆国の旗日本の旗 ワーナー・ブラザース
公開 2014年10月4日(ニューヨーク)
アメリカ合衆国の旗 2014年12月12日
日本の旗 2015年4月18日
上映時間 149分[1]
製作国 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
製作費 $20,000,000
興行収入 $14,710,975
2500万円[2] 日本の旗
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インヒアレント・ヴァイス』(Inherent Vice)は、トマス・ピンチョンの小説『LAヴァイス』を原作に、ポール・トーマス・アンダーソンが映画化した2014年アメリカ映画

第87回アカデミー賞では脚色賞衣裳デザイン賞にノミネートされた。また、第72回ゴールデングローブ賞ではホアキン・フェニックスが主演男優賞にノミネートされた。

あらすじ[編集]

1970年。ラリー・"ドック"・スポーテッロ(ホアキン・フェニックス)は、ロサンゼルスのゴルディータ・ビーチで私立探偵を営んでいる。この映画で、ドックは3件の事件について調査依頼を受ける。


  • 元恋人のシャスタは、不動産業界の大物ミッキー・ウルフマンの愛人。ミッキーの妻とその愛人が、彼を誘拐して精神病院に入れようとしており、その陰謀に巻き込まれようとしており、ドックに助けを求める。のちにシャスタ自身が姿を消す。
  • ブラック・ゲリラ・ファミリー(BGF)のメンバーであるタリクという男が、かつて刑務所で金を貸したグレン・チャーロックという男の捜索を依頼する。チャーロックはアーリアン・ブラザーフッドの元メンバーで、ミッキーのボディガードの一人だった。
  • ホープ・ハーリンゲンという女性が、死んだはずの夫コーイ・ハーリンゲンの捜索を依頼する。


ドックはミッキーのChannel View Estates projectという宅地開発計画の建築予定地を訪れる。そこで建設中のマッサージパーラー店でジェイドとバンビという娼婦と知り合うが、野球のバットで殴られて気を失ってしまう。目を覚ますと、ドックの隣にはチャーロックの死体が横たわり、その犯人の疑いを掛けられ、ロス市警の刑事"ビッグフット"に尋問される。

3件の事件の裏には、"the Golden Fang"(黄金の牙)というヘロインの密輸組織が関与していた。

キャスト[編集]

※括弧内は日本語吹替

主人公。ロスで暮らす私立探偵。ヒッピーで、マリファナのヘビースモーカー[3]
LAPDの刑事。常にフローズン・バナナを咥えている。たまに『特捜隊アダム12』にエキストラ出演している。エイドリアンという殺し屋を追っている。
ドックの元交際相手。
ドックの現在の交際相手。
ドックの弁護士。
ユダヤ人の土地開発業者。
ミッキーの妻。
地元のサーフ・ミュージックバンドのサックス奏者。共産主義者で、警察の情報提供者としてゴールデン・ファングに潜入していた。
コーイの妻。元ヒッピーの依存症カウンセラー。ヘロイン中毒だったため歯が無い。
ドックの事務所の元従業員。
診療所の看護師。
歯科医(D.D.S.=Doctor of Dental Science)。快楽主義で、常にスタッフと性的関係を持ち、コカインを吸っている。
ジャポニカの父。ゴールデン・ファングの仲介者。

製作[編集]

企画[編集]

2010年12月、アンダーソンが『LAヴァイス』を原案とする映画の製作を望んでいることが初めて報じられた。この数ヶ月前に監督作『ザ・マスター』の製作が延期になっているが、それ以来アンダーソンは本作のために脚本を書き続けていた。[4]

2011年2月までに、アンダーソンは脚本の第1稿を完成させ、第2稿の半分以上を書き上げた[5]2012年9月、アンダーソンは、脚本は執筆中だが、近年中に『インヒアレント・ヴァイス』の製作に取り掛かりたいと表明した。[6][7]

アンダーソンは本作を「緻密な、すばらしく熟考された物事が、想像しうる中でも最高にくだらないジョークの中で混ざり合っている」と表現している[8]。ピンチョンの作品が映画化されるのは本作が初めてである[9] [10]。 アンダーソンは、かつてピンチョンの小説『ヴァインランド』の映画化を試みたことがあったが、挫折している[11]。本作のエンディングは、原作から大幅に変更されている[11]

アンダーソンは、本作を監督するにあたり、ロバート・アルドリッチ監督の映画『キッスで殺せ!』や、レイモンド・チャンドラー原作の映画『三つ数えろ』、『ロング・グッドバイ』から影響を受けたことを明かしている。[11]

キャスティング[編集]

2011年秋、『オズ はじまりの戦い』を降板したロバート・ダウニー・Jrが今作のドック役に興味を持っていることが報じられた[5]。同年12月、ダウニー・Jrは今作への出演について「おそらく実現する」とコメントしている[12]2013年1月、ダウニー・Jrがプロジェクトを退き、ホアキン・フェニックスが主演のための協議に入ったことが報じられた。[13]

2013年5月上旬、ベニチオ・デル・トロオーウェン・ウィルソンリース・ウィザースプーンマーティン・ショートジェナ・マローンが出演のための協議に入ったことが[14][15][16][17]、 同月下旬にはジョシュ・ブローリンキャサリン・ウォーターストンがキャストに加わったことが[18][19]報じられた。

音楽[編集]

本作のスコアは、レディオヘッドギタリストジョニー・グリーンウッドが担当する。スコアはロンドンロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団と共に録音された[20]。グリーンウッドがアンダーソン作品のスコアを手掛けるのは『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』『ザ・マスター』に続いて3度目である[21]

公開[編集]

本作は2014年10月4日ニューヨーク映画祭プレミア上映された[22]。同年12月12日に限定公開されたのち[23]2015年1月9日には全米の映画館で公開された。[24]

評価[編集]

本作はおおむね肯定的な評価を得ている。映画批評サイトRotten Tomatoesには、222件のレビューがあり、批評家支持率は74%、平均点は10点満点中7.1点となっている[25]。また、Metacriticには、43件のレビューがあり、平均点は100点満点中81点となっている。[26]

IGNのマット・パッチスは、本作に10点満点中8.9点を与え、「非常に魅力的で、今年最もグルーヴィな映画のひとつ」であり、「本作は濃密で、また理解しにくく、確固とした思索はほとんどない」「驚くほど価値のある感覚を味わうことができ、繰り返し鑑賞したくなる」と評している。[27]

受賞[編集]

映画賞 対象 結果
第89回キネマ旬報ベスト・テン[28] 外国映画ベスト・テン 9位

脚注[編集]

  1. ^ INHERENT VICE (15)”. British Board of Film Classification (2014年12月9日). 2015年6月10日閲覧。
  2. ^ キネマ旬報」2016年3月下旬号 78頁
  3. ^ 『インヒアレント・ヴァイス』ポスター画像が公開 - ライブドアニュース
  4. ^ Brodesser-Akner, Claude (2010年12月2日). “Paul Thomas Anderson Wants to Adapt Thomas Pynchon’s Inherent Vice”. Vulture. New York Magazine. 2015年6月12日閲覧。
  5. ^ a b Brodesser-Akner, Claude (2011年2月10日). “Paul Thomas Anderson’s Scientology Movie and Inherent Vice Adaptation Close to Finding Financing”. Vulture. New York Magazine. 2015年6月14日閲覧。
  6. ^ Wiseman, Andreas (2012年9月3日). “Paul Thomas Anderson on making The Master: 'Scientology was the least of our problems'”. Screen Daily. en:Screen International. 2015年6月12日閲覧。
  7. ^ Plumb, Ali (2012年9月3日). “Paul Thomas Anderson On Inherent Vice It's like a Cheech and Chong movie...”. Empire Online. 2015年6月12日閲覧。
  8. ^ Alter, Ethan (2014年10月4日). “NYFF Report: Joaquin Phoenix and Cast Helped Make 'Inherent Vice' a Noir-Nonsense Affair”. en:Yahoo! Movies. Yahoo!. 2015年7月25日閲覧。
  9. ^ Brooks, Brian (2014年8月24日). “New York Film Festival to Debut 30 Features in 2014 Main Slate”. Film Society of Lincoln Center. 2015年7月25日閲覧。
  10. ^ Lim, Dennis (2012年12月27日). “A Director Continues His Quest”. NYTimes.com. en:The New York Times Company. 2015年7月25日閲覧。
  11. ^ a b c Hill, Logan (2014年9月26日). “Pynchon’s Cameo, and Other Surrealities”. NYTimes.com. en:The New York Times Company. 2015年7月25日閲覧。
  12. ^ Warner, Kurt (2011年12月8日). “Robert Downey Jr. Says Paul Thomas Anderson Collaboration Is 'Probably True'”. MTV. en:Viacom International. 2015年6月14日閲覧。
  13. ^ Kit, Borys (2013年1月24日). “Joaquin Phoenix in Talks to Reteam With Paul Thomas Anderson for 'Inherent Vice'”. The Hollywood Reporter. 2015年6月14日閲覧。
  14. ^ Sneider, Jeff (2013年5月6日). “Benicio Del Toro in Talks to Join Paul Thomas Anderson's ‘Inherent Vice’ (Exclusive)”. en:The Wrap. 2015年6月14日閲覧。
  15. ^ Sneider, Jeff (2013年5月9日). “Owen Wilson in Negotiations to Join Paul Thomas Anderson's ‘Inherent Vice’ (Exclusive)”. en:The Wrap. 2015年6月14日閲覧。
  16. ^ Fleming Jr., Mike (2013年5月15日). “Cannes: Reese Witherspoon Joining Paul Thomas Anderson’s ‘Inherent Vice’”. en:Deadline.com. Penske Business Media, LLC. 2015年6月14日閲覧。
  17. ^ Sneider, Jeff (2013年5月15日). “Martin Short and Jena Malone Join Paul Thomas Anderson's ‘Inherent Vice’ (Exclusive)”. en:The Wrap. 2015年6月14日閲覧。
  18. ^ Fleming Jr., Mike (2013年5月28日). “Josh Brolin Joins P.T. Anderson’s ‘Inherent Vice’”. Deadline.com. Penske Business Media, LLC. 2015年6月16日閲覧。
  19. ^ Fleming Jr., Mike (2013年5月30日). “Katherine Waterston Gets Lead in Paul Thomas Anderson’s ‘Inherent Vice’”. Deadline.com. Penske Business Media, LLC. 2015年6月16日閲覧。
  20. ^ “Jonny Greenwood Scoring Paul Thomas Anderson’s ‘Inherent Vice’”. filmmusicreporter.com. (2014年2月6日). http://filmmusicreporter.com/2014/02/06/jonny-greenwood-scoring-paul-thomas-andersons-inherent-vice/ 2015年6月16日閲覧。 
  21. ^ Kreps, Daniel (2014年10月4日). “Unreleased Radiohead Song 'Spooks' Appears in 'Inherent Vice'”. Rolling Stone. 2015年6月16日閲覧。
  22. ^ Chang, Justin (2014年7月19日). “Paul Thomas Anderson’s ‘Inherent Vice’ to World Premiere at New York Film Festival (EXCLUSIVE)”. Variety. en:Penske Media Corporation. 2015年6月14日閲覧。
  23. ^ Kroll, Justin (2014年2月25日). “Paul Thomas Anderson’s ‘Inherent Vice’ Dated for December”. Variety. en:Penske Media Corporation. 2015年6月14日閲覧。
  24. ^ Jagernauth, Kevin (2014年7月18日). “Be Patient, Paul Thomas Anderson's 'Inherent Vice' won't go into wide release until 2015”. en:Indiewire. en:SnagFilms. 2015年6月14日閲覧。
  25. ^ Inherent Vice”. Rotten Tomatoes. en:Flixter. 2015年6月25日閲覧。
  26. ^ Inherent Vice”. Metacritic. en:CBS Interactive. 2015年6月25日閲覧。
  27. ^ Patches, Matt (2014年10月5日). “Inherent Vice Review - Dope Detective Fiction”. IGN. 2015年6月25日閲覧。
  28. ^ キネマ旬報ベスト・テン発表、「恋人たち」「マッドマックス」が1位に輝く”. 映画ナタリー (2016年1月8日). 2016年1月8日閲覧。

参考文献[編集]

  • アダム・ネイマン『ポール・トーマス・アンダーソン ザ・マスターワークス』井原慶一郎訳、2021年10月、DU BOOKS

外部リンク[編集]