法律 (対話篇)
プラトンの著作 (プラトン全集) |
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初期 |
ソクラテスの弁明 - クリトン エウテュプロン - カルミデス ラケス - リュシス - イオン ヒッピアス (大) - ヒッピアス (小) |
初期(過渡期) |
プロタゴラス - エウテュデモス ゴルギアス - クラテュロス メノン - メネクセノス |
中期 |
饗宴 - パイドン 国家 - パイドロス パルメニデス - テアイテトス |
後期 |
ソピステス - 政治家 ティマイオス - クリティアス ピレボス - 法律 第七書簡 - 第八書簡 |
偽書及びその論争がある書 |
アルキビアデスI - アルキビアデスII ヒッパルコス - 恋敵 - テアゲス クレイトポン - ミノス - エピノミス 書簡集(一部除く) - 定義集 正しさについて - 徳について デモドコス - シシュポス エリュクシアス - アクシオコス アルキュオン - 詩 |
『法律』(希: Νόμοι、ノモイ[1]、羅: Leges、英: Laws)とは、プラトンの後期末(最後)[2]の対話篇。副題は「立法[3]について」。
構成
登場人物
年代・場面設定
アテナイからの客人は、クレイニアス、メギロスに、彼らの国の法の制定者は誰になっているのか尋ねる。クレイニアスは神ゼウス(メギロス(ラケダイモン)においてはアポロン)であり、(ホメロスの『オデュッセイア』に言われているのと同じように)「ミノス王が9年ごとに父ゼウスの元を訪れて言葉を戴き、法を制定した」ことになっているという。また、ミノスの弟ラダマンテュスも、様々な訴訟をこの上なく正しく裁いたことになっているという。
彼ら3人は、クノソスからイデ山を登り、「ゼウスの洞窟」まで行く予定となっていたが、上記の話を聞いてアテナイからの客人は喜び、道中その国制・法律について話をしていくことに決めた。
こうして登山がてらの対話が開始される。そして、それはやがて「マグネシア」(マグネシアの国、マグネシア人の国・国家)という架空の理想国家の建設、その国制・法律のありようを、議論上で構築していく話になっていく。様々な観点から、「マグネシア」の国制・法律を語り尽くした上で、最後にその国制・法律を保全する機構としての「夜の会議」が提示され、話は終わる。
補足
上記の通り、ソクラテスも登場せず、舞台もアテナイではなく、また全12巻から成る長編であるといったように、かなり異色な作品となっている。
巻別
全12巻の主な構成は、以下の通り。
- 第1巻 - 立法、勇気、飲酒
- 第2巻 - 芸術、飲酒
- 第3巻 - 国制
- 国制の起源、神話の大洪水以後の生活
- 大洪水直後の人間達の善良さ
- 家父長制(デュナステイア)、国制の原型、立法の起源
- イリオン(トロイア)の建設と崩壊
- ドーリア人諸国家の建国と崩壊、その原因、「祈り」のあり方と「知性」、立法目的と「無知」
- 支配者の7つの資格、スパルタ成功の要因
- 「適度」の重要性、双生児の王家、長老会、監督官の三権力による節度ある支配
- 君主制と民主制、ペルシア君主制衰退の原因
- ペルシア戦争とアテナイの「慎み」
- アテナイ民主制の崩壊、原因としての「自由」、劇場支配制(テアトロクラティア)
- 禍として「自由」と「専制」の両極、「適度」の重要性、立法者の3つの心掛けとしての「自由」「友愛」「知性」
- 第4巻 - 自然条件、植民、立法
- 国家建設と自然条件、海に隣接することの危険
- 海軍国の諸欠点
- 植民に関する諸問題、一種族の植民と多種族の植民
- 立法成功の諸条件、有能な僭主と優れた立法者、僭主の手本と国家の性格
- スパルタの国制の多面性
- クロノスの時代の幸福生活、人間国家の不幸・労苦、「強者の利益」と「正義」
- 「優れた国家」と「法の支配」、「法律の従僕」としての支配者
- 敬神の方法、両親への態度、葬儀のあり方、人々を徳へと向かわせること
- ヘシオドスの徳のすすめ、詩人から立法者への言葉、法律における一事に二説を立てることは許されない
- 法律制定の2つの方法(強制、強制+説得)
- 「複式の法律」と「単式の法律」、結婚に関する法律制定例
- 立法における「複式」と「単式」の優劣、法律の「本文」と「序文」
- 第5巻 - 建国、立法
- 「神々」に次ぐ尊敬対象としての「魂」
- 「魂」に次いで尊敬対象としての「身体」「財産」、「子供」「親族」「友人」「同胞」「外国人」「嘆願者」に対する義務
- 個人道徳 --- 真実であること、他人の不正を黙認しない、己の善きものを他人と共有する、徳を目指して競い合う、怒りと調和を併せ持つ
- 最大の悪としての過度の自己愛、その他各種の生活の知恵
- 「快楽を求め、苦痛を避ける」人間の性質
- 快適な生活の条件としての、節度、思慮、勇気、健康
- 建国に際しての役職任命と法律制定、不良分子の排除
- 国家の基礎としての富の公平な分配、適正な人口と国土、5040という数字の意義
- 神事に関する伝統維持、法律制定においては次善策もやむなし
- 最善の国家と完全な共同体、次善の国家、土地の分配、竈(かまど)の数の固定
- 分配地の売買禁止
- 金銀の所有禁止、国内限定の貨幣とギリシア共通の貨幣、持参金や高利貸しの禁止、
- 「財産」への関心は「魂」「身体」の後に回されるべき、4つの財産階級、貧富両極端の排除
- 国土の分割方法、中央に都市を置き、残りの国土を12分割、住民も12部族に分割
- 計画段階における理想の意義、実行段階における配慮
- 立法者にとっての数学の重要性、土地の良し悪しと立法の関係
- 第6巻 - 国家機構・役職、立法、家庭、建造物
- 立派な法律が不適当な役人によって無価値にされる可能性、最初の護法官の選出方法
- 護法官の一般的な選出方法
- 新しい国とクレタとの関係、最初の護法官選出の選挙管理者、護法官の任務(法の守護、財産登録の管理、不当利得に対する裁判)と任期
- 軍事関係の役人(将軍、騎兵隊長、部族騎兵隊長、部族歩兵隊長)の選出方法
- 政務審議会議員の選出方法、2種類の平等
- 政務審議会執行部の構成と任務
- 宗教関係役人(堂守、神官、神事解釈者、財務官)の任務と選出方法
- 国土の防衛、地方保安官と監視隊の構成と任務、国土の保全と整備
- 地方保安官の任務、執務監査、生活規律
- 都市保安官と市場保安官の任務と選出方法
- 教育監の選出方法と任務
- 役人の欠員補充、孤児後見人、3種類の法廷(隣人法廷、部族民法廷、第三法廷)、私事に関する裁判と国事に関する裁判、第三法廷の構成、裁判官の訴追、裁判への市民参加
- 将来の法律改正の原則、漸進的な改善
- 将来の立法者に向けて、徳の涵養こそ人生の目的、5040という数字の神聖な性格、祭礼、結婚、青年男女の交際、細則の改正
- 結婚相手をいかに選ぶべきか
- 結婚の義務、違反者への処罰、婚資、婚約の権利、結婚式
- 披露宴、新婚生活の心得
- 奴隷問題、奴隷の扱い
- 建造物 --- 神殿、市場、役所、裁判所、城壁、個人住宅、体育館、学校、劇場
- 私生活の規則、共同食事の制度、女性に適用することの困難
- 3つの基本的要求 --- 飲・食・性、性の要求の処理
- 子作り、世話役の婦人、姦淫、出生・死亡登録、結婚年齢
- 第7巻 - 教育
- 教育は法律よりも勧告が適当、早期発育と運動
- 運動と幼児の心身、コリュパンテスの療法、恐怖心の克服
- 3歳までの人格形成、快苦の極端の排除、妊婦の心得
- 成文法の基盤として不文律、3歳から6歳までのしつけ、監督の婦人、6歳からの男女分けと武術の訓練
- 手の両利きへの訓練
- 体育と学芸、戦争と祭礼のための踊りとレスリング
- 子供の遊びの変化の不必要性、法律・道徳の破壊につながる
- 祭礼における歌と踊りの設定・固定化、違反者に対する罰則
- 祭礼の詩歌に関する法律例 --- 1 縁起良い言葉、2 善いことを祈る、3 詩作の審査
- 神々への讃歌と優れた故人への頌歌、歌と踊りの審査の方法・基準、男性にふさわしい歌と女性にふさわしい歌、歌と踊りを楽しむべき神の玩具としての人間
- 教育施設 --- 学校、体育館、馬場、運動場
- 通学の義務、国家の所有物としての子供、男女平等教育
- 国々(トラキア、アテナイ、スパルタ)における女の生活様式
- 生活の雑事からの解放、徳の達成への精進
- 通学、市民共同の責任としての子供のしつけ、読み書き、竪琴、算数、天文学
- 最善の教材としての法律、竪琴の享受、男女の軍事訓練、レスリングの有用性
- 2種類の踊り --- 真面目な踊り(戦の踊り「ピュリケー」、平和の踊り「エンメレイア」)と卑猥な踊り(バッコスの踊り等)
- 喜劇と悲劇、外国人・奴隷にしてしまう喜劇、国制形成こそ真の悲劇の制作、厳重な審査の必要性
- 数学的諸学科 --- 算数、幾何学、天文学、これは高度知識は選ばれた少数者にのみ求められる、数学的知識の神的必然性
- エジプトの算数教育、遊びの中での知識の獲得、幾何学における無理量とそれについての無知
- 天文学についての誤解、天体運動の合法則性についての理解
- 教育に対する法律規制と称賛・非難による導きの必要性、教育の一手段としての狩猟
- 第8巻 - 祭礼、軍事、競技、愛、農業、住居、市場
- 祭礼に関する法律制定、軍事訓練、祭礼における競技と祝勝歌の作者
- 戦争に備えた危険な軍事訓練
- 現在軍事訓練が疎かな理由 --- 1 金銭へのあくなき欲求、2 支配者が国民の強大化を恐れる誤った国家体制 --- 我々の国家のみが軍事訓練に適している
- 体育競技の目的は実戦、その種類 --- 競走、重装備試合、軽装備試合、馬術
- 音楽競技についての補足、性の問題、クレタにおける同性愛批判、愛の本質見極めの必要性
- 3種類の愛 --- 1 似たもの同士の清らかな愛、2 相反する者同士の野性的愛、3 両者の混合 --- 好ましくない愛の禁止方法としての強力な世論形成
- 自然に即した交わりのみ容認、現状における強い反対、徳の達成のための快楽抑制のすすめ
- 動物における一夫一婦制を見習うこと、次善の方法として労働に励むことと羞恥心の育成
- 農業国であること、食料の供給、農業関係法 --- 境界石の移動禁止、隣人に与える損害、土地、家畜、焚火、植林、用水など
- 果実の収穫 --- 保存用と生食用のイチジクとブドウ、自分のものと他人のもの、奴隷の場合、外国人の場合、上記以外の果実
- 水について、収穫物の搬入、損害補償の細則、一人一職業の原則、違反者の処罰、輸出入、武器の輸出入の国家管理
- 農産物の配分 --- 月別に12等分、更に主人、奴隷、外国人に3等分
- 住居の割り当て --- 都市を中心に、他の国土を12等分し、それらの中心に村、その中心に神殿と市場を置く
- 市場 --- 市場保安官の任務、穀物・飲料・家畜・肉類・燃料・衣類・皮革などの売買、掛け売りの禁止、売買の制限、外国人の居住権
- 第9巻 - 刑罰
- 犯罪と刑罰についての立法、神殿荒らしと罰則
- 死刑が科せられるべき重罪を裁く法廷の構成、その裁判の進め方
- 国制転覆罪と反逆罪(売国罪)に対する規定、盗みに対する罰則
- 立法についての反省、国民の教育を目的とした法律
- 刑罰と犯罪の本質、刑罰における「正しさ」と「立派さ」、犯罪の不本意性、「故意犯」と「過失犯」のを分ける考え方
- 「損害行為」と「不正行為」の区別
- 犯罪(不正)の原因5種類
- 精神異常者・心神耗弱者の犯行の不処罰
- 殺人罪 --- 1 故意でない殺人の諸事例とその罰則、2 激情にかられての殺人の諸事例とその罰則
- 3 故意の殺人の理由 --- 3種類の欲望 --- 及び、諸事例とその罰則
- 親族殺人についての規定、自殺者の扱い、動物・物体が人命を奪った場合、犯人不明の場合、無罪になる場合の規定
- 傷害について、法律が必要な理由、法廷のあり方と自由裁量
- 傷害罪 --- 1 故意の傷害の諸事例とその罰則、2 激情にかられての傷害の諸事例とその罰則、3 故意でない傷害の諸事例とその罰則
- 暴行罪の諸事例と罰則
- 第10巻 - 神学
- 若者たちの神聖なものに対する暴慢な振る舞い、その原因である神々に対する3つの誤った考え
- 法の「序文」で現代の知者たちの無神論的な思想を批判する必要性
- 無神論の風潮に毒されている若者
- 現代の知者たちの学説 --- 自然や偶然が技術(人為)に勝る
- 無神論的な自然学説への反駁 --- 魂の力が全ての物体よりも先にある
- 上記の証明、運動の種類、自分で自分を動かす運動が、運動の中では第1の地位につく
- 魂は自分で自分を動かし、全ての運動変化の原因であり、物体よりも先にある
- 諸天体は、最善の魂によって動かされている、その仕方は明らかではないが、そのような魂を神とみなすべき、したがって神々は存在する
- 神々は人間のことに無関心であると考える人たちへの警告
- 神々は人間のことに配慮していることの証明、神々の配慮は宇宙全体の善を目指している、神々の裁きと各人の魂の運命についての説話
- 神々は買収され得るという考え方への反論、神々を人間並みの支配者と考えるべきではない
- 不敬罪に関する法律 --- 神々を敬わない人たちの種類と罰則
- 私邸に社を建てて祭事を行ってはならない
- 第11巻 - 財産、売買、契約、民事、その他
- 各人の財産の尊重、他人の埋没財産を持ち去ってはならない、拾得物についての規定
- 奴隷の扱い、解放奴隷の義務
- 売買および返品に関する規定、いんちきな品物を売ってはならない
- 小売業一般についての勧告と規則
- 契約不履行、職人の契約履行義務と依頼者の支払義務、軍人に対する報酬
- 遺言状のあり方についての勧告、遺言と相続についての規定
- 孤児のあ使い方と後見人に関する規定
- 息子を勘当する場合、父親を禁治産者にする場合の規定
- 離婚と再婚、自由民と奴隷の間の子供の処置
- 両親や祖父母を尊重すべき、両親を遺棄・虐待した場合の規定
- 薬物や魔法による加害、窃盗や強盗による損害についての規定
- 精神異常者の扱い、激情にかられての悪口雑言や喜劇において人を嘲笑することの禁止
- 乞食行為の禁止、奴隷による損害賠償、証人および偽証についての規定
- 不当告訴と不当弁護
- 第12巻 - 軍事、外交、法手続き、葬儀、「夜の会議」、結び
- 外交使節や軍使の犯す罪、公共財産を盗む罪
- 軍隊勤務における心得、兵役忌避、戦線離脱、武器放棄の罪
- 監査官について --- 選出方法と職務内容、受けるべき栄誉と訴追
- 宣誓についての規定、公費負担を拒否した者の扱い
- 外国との交流 --- 出国承認者たちの資格と目的、国外視察員の派遣とその任務
- 外国からの入国者の種類と扱い
- 雑則 --- 保証、盗品の家宅捜索、所有権を主張できる期限、法廷への出廷や競技会への参加の妨害、盗品授受、追放者のかくまい、私的な戦争の開始と和平締結、賄賂、税金、神々への奉納品
- 法廷の分類(三審制) --- 控訴、上告について、法律研究の重要性、判決の執行
- 葬儀についての規定
- 国制と法律を保全するための方策 --- 「夜の会議」の構成と国家における役割
- 立法目的としての徳、徳の4分割と単一性
- 「夜の会議」の会員には高度の教育が必要 --- 雑多なものから一なる形相へ目を向けること、徳についても多の中に一を見ること
- 徳の他にも、神々の存在、魂の本性、万有の知性などについて確固たる認識を持つこと
- 以上の高等教育を受けた者が真の意味で「法律の守護者」になり得る、そこでこの「夜の会議」に国制と法律の保全の仕事を任せるべき、結び
内容
この節の加筆が望まれています。 |
訳書
- 『プラトン全集〈13〉 ミノス・法律』 池田美恵、森進一、加来彰俊訳、岩波書店, 1976年、復刊1987年・2006年ほか
- 『法律』 池田美恵、森進一、加来彰俊訳、岩波文庫(上・下), 1993年、新版2017年