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「バラタナゴ」の版間の差分

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|色 = pink
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|画像=[[Image:Rhodeus ocellatus kurumeus M.JPG|250px|ニッポンバラタナゴ雄]]
|画像=[[Image:Rhodeus ocellatus kurumeus M.JPG|250px|ニッポンバラタナゴ雄]]
|画像キャプション = 香川県産'''ニッポンバラタナゴ'''雄個体。
|画像キャプション = 香川県産ニッポンバラタナゴ雄個体。
|界 = [[動物界]] [[:w:Animalia|Animalia]]
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|門 = [[脊索動物門]] [[:w:Chordata|Chordata]]
|門 = [[脊索動物門]] [[:w:Chordata|Chordata]]
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|英名 = Rosy bitterling
|英名 = Rosy bitterling
}}
}}
[[Image:Rhodeus ocellatus kurumeus F.JPG|thumb|香川県産'''ニッポンバラタナゴ'''雌個体。抱卵しており、産卵管が見える。]]
[[Image:Rhodeus ocellatus kurumeus F.JPG|thumb|香川県産ニッポンバラタナゴ雌個体。抱卵しており、産卵管が見える。]]
[[Image:Rhodeus ocellatus ocellatus-m.JPG|thumb|琵琶湖・淀川水系産'''タイリクバラタナゴ'''雄個体。腹鰭の前縁部に白線が現れている。]]
[[Image:Rhodeus ocellatus ocellatus-m.JPG|thumb|琵琶湖・淀川水系産タイリクバラタナゴ雄個体。腹鰭の前縁部に白線が現れている。]]
[[Image:Rhodeus ocellatus-1.jpg|thumb|香川県産バラタナゴ雄個体。農業用水路で採集されたもの。側線有孔鱗と腹鰭前縁部の白線が見える(赤丸参照)。この個体がタイリクバラタナゴなのか交雑個体なのかは遺伝情報の解析を要する。]]
[[Image:Rhodeus ocellatus-1.jpg|thumb|香川県産バラタナゴ雄個体。農業用水路で採集されたもの。側線有孔鱗と腹鰭前縁部の白線が見える(赤丸参照)。この個体がタイリクバラタナゴなのか交雑個体なのかは遺伝情報の解析を要する。]]
'''バラタナゴ'''(薔薇鱮、薔薇鰱、''Rhodeus ocellatus'')は、[[コイ目]][[コイ科]][[タナゴ亜科]][[バラタナゴ属]]に分類される淡水魚。
'''バラタナゴ'''(薔薇鱮、薔薇鰱、''Rhodeus ocellatus'')は、[[コイ目]][[コイ科]][[タナゴ亜科]][[バラタナゴ属]]に分類される淡水魚。'''ニッポンバラタナゴ'''(''Rhodeus ocellatus kurumeus'')と'''タイリクバラタナゴ'''(''Rhodeus ocellatus ocellatus'')の2亜種ならびに、'''両者の交雑個体'''が知られる<ref name="example">川那部ほか(2001)</ref>


== 分布・保全状評価 ==
== 分布・保全状評価 ==
* ''R. o. kurumeus'' '''ニッポンバラタナゴ'''
* ''R. o. kurumeus'' '''ニッポンバラタナゴ'''
{{絶滅危惧IA類}}
{{絶滅危惧IA類}}

[[日本]][[固有種|固有亜種]]。[[大阪府]]の[[淀川]]水系、[[奈良県]]の[[大和川]]水系、[[岡山県]]、[[香川県]]、[[福岡県]]、[[佐賀県]]、[[熊本県]]、[[大分県]]<ref>大分県[[レッドデータブック]]には「情報不足」として記載。</ref>、[[長崎県]]。[[兵庫県]]における分布は、大阪府からの移殖である可能性が高いとされる。各生息地とも局所的な分布となっており、希少種保護の観点から、生息地の詳細は非公開が通例である。[[2010年の日本|2010年]]4月に改訂・公表された「岡山県版レッドデータブック」において、同県内のため池1か所の[[個体群]]が純系のニッポンバラタナゴであると報告された。しかし、[[京都府]]・[[滋賀県]]ではすでに絶滅している<ref>京都府・滋賀県レッドデータブックに、それぞれ「絶滅種」として記載。[[京都府レッドデータブック]]の項参照。</ref>。また、[[2008年の日本|2008年]]、[[宮崎県]]の北川水系における個体群からニッポンバラタナゴの[[ミトコンドリアDNA]](mtDNA)が確認され、九州産のニッポンバラタナゴについては、従来の見解より広範囲に分布していた可能性が示唆された<ref>ただし、北川水系の個体群は、遺伝情報の解析により両亜種の交雑集団であると指摘された。</ref>。
[[日本]][[固有種|固有亜種]]。[[大阪府]]の[[淀川]]水系、[[奈良県]]の[[大和川]]水系、[[岡山県]]、[[香川県]]、[[福岡県]]、[[佐賀県]]、[[熊本県]]、[[大分県]]<ref>大分県レッドデータブックには「情報不足」として記載。過去に生息報告があったが、1990-2000年の間に生息が確認できなかったという。</ref>、[[長崎県]]。

[[兵庫県]]における分布は、大阪府からの移殖である可能性が高いとされる<ref name="example4">片野ほか(2005)</ref><ref>神戸市のため池に生息する個体群は、「国内移入種」にリストアップされている。[http://www.city.kobe.lg.jp/life/recycle/environmental/tayosei/red_data_black_inyuu.html 神戸市環境局環境創造部環境評価共生推進室]の情報による。ただし、「兵庫県版レッドデータブック2003」では「絶滅危惧I類相当」に選定されている。</ref>。

各生息地ともに局所的な分布となっており、希少種保護の観点から、生息地の詳細は非公開が通例である<ref>奈良県・香川県等における本亜種の保護指針や各府県のレッドデータブックの記述による。</ref>。

[[2010年の日本|2010年]]4月に改訂・公表された「岡山県版レッドデータブック」において、同県内の[[ため池]]1か所の[[個体群]]が純系<ref>タイリクバラタナゴとの交雑(本文後述)が認められないことをいう。</ref>のニッポンバラタナゴであると報告された。しかし、[[滋賀県]]・[[京都府]]ではすでに[[絶滅]]している。生息が確認されている府県すべてで[[レッドデータブック]]に記載されており、福岡県(絶滅危惧II類相当)を除いて軒並み「絶滅危惧I類相当」に選定されている(下表参照)<ref>各府県版レッドデータブックの記載による。</ref>。

都道府県別レッドリスト(2010年現在)

{| class="wikitable"
! カテゴリ !! 都道府県
|-
| 絶滅
| 滋賀県 京都府
|-
| 絶滅危惧I類相当
| 大阪府 奈良県 兵庫県 岡山県 香川県 佐賀県 熊本県 長崎県 
|-
| 絶滅危惧II類相当
| 福岡県
|-
| 情報不足
| 徳島県<ref>徳島県版レッドデータブックによると、過去に確実な生息報告はなく、詳細な分布調査が行われる前にタイリクバラタナゴが侵入したという(交雑個体群となっている可能性も指摘されている)。現状、隔離されたため池等の水域に残存している可能性が挙げられている。</ref> 大分県
|}

また、[[2008年の日本|2008年]]、[[宮崎県]]の北川水系における個体群からニッポンバラタナゴの[[ミトコンドリアDNA]](mtDNA)が確認され、[[九州]]産のニッポンバラタナゴについては、従来の見解より広範囲に分布していた可能性が示唆された。ただし、北川水系の個体群は、遺伝情報の解析により両亜種の交雑集団であると判定されている<ref name="example5">三宅ほか(2008)</ref>。


* ''R. o. ocellatus'' '''タイリクバラタナゴ'''
* ''R. o. ocellatus'' '''タイリクバラタナゴ'''

[[中華人民共和国|中国]]南部、[[台湾]]、[[朝鮮半島]]に分布。日本各地に移入(後述)。
[[中華人民共和国|中国]]南部、[[台湾]]、[[朝鮮半島]]に分布<ref name="example6">多紀(2008)</ref>。日本各地に移入(後述)。

[[環境省]]は「[[要注意外来生物]]」に、[[日本生態学会]]は「[[日本の侵略的外来種ワースト100]]」にそれぞれ選定している<ref>交雑・競合(本文後述)の要因で、「被害に係る一定の知見はあり、引き続き特定外来生物等への指定の適否について検討する外来生物」と環境省は定義しているが、本亜種はニッポンバラタナゴと形態的識別が難しいこと(本文後述)や飼育個体の大量の遺棄が生じる恐れがあることで防除の実施と被害の拡大防止が困難になるとして、[[特定外来生物]]への指定は、2010年現在検討中となっている。</ref>。


== 地方名 ==
== 地方名 ==
* '''ニッポンバラタナゴ<ref name="example3">青山ほか(2002)。また、環境省(調査時は環境庁)「第2回自然環境保全基礎調査総合とりまとめ 第2回緑の国勢調査(本編)(1982)」にも淡水魚の地方名に関する調査結果が記されている。</ref>'''
* '''ニッポンバラタナゴ'''
** キンタイ、タウラコ(大阪府)
** キンタイ、タウラコ、ボテキン(大阪府)
** ボテ、ボテジャコ、クソボテ([[琵琶湖]]・淀川水系、他のタナゴ類との混称)
** ボテ、ボテジャコ、クソボテ([[琵琶湖]]・淀川水系、他のタナゴ類との混称)
** キンタナゴ(琵琶湖・淀川水系)
** キンタナゴ(琵琶湖・淀川水系)
47行目: 77行目:
** シビンチャ、ビンタ、ベンタサン、アカブナ、シビンタン、ショビンタ、ニガビンタ、ヒラビンタ(熊本県)
** シビンチャ、ビンタ、ベンタサン、アカブナ、シビンタン、ショビンタ、ニガビンタ、ヒラビンタ(熊本県)


* '''タイリクバラタナゴ'''
* '''タイリクバラタナゴ<ref name="example3"></ref>'''
** タランコ([[福島県]]、他のタナゴ類との混称)
** タランコ([[福島県]]、他のタナゴ類との混称)
** オカメ、オカメタナゴ(関東地方、[[ゼニタナゴ]]との混称)
** オカメ、オカメタナゴ([[関東地方]]、[[ゼニタナゴ]]との混称)
** センパラ、センペラ([[濃尾平野]]、[[イタセンパラ]]との混称)
** センパラ、センペラ([[濃尾平野]]、[[イタセンパラ]]との混称)
** ボテ、ボテジャコ、ヒランタ(琵琶湖・淀川水系、他のタナゴ類との混称)
** ボテ、ボテジャコ、ヒランタ(琵琶湖・淀川水系、他のタナゴ類との混称)


== 形態 ==
== 形態 ==
<small>''各[[器官]]については[[魚類#体の構造]]も参照''</small>
おおむね雌よりも雄の方が大型になる。平らな体をもち、体高が高い。口髭はない。体は銀色だが虹色の光沢がある。未成魚では背鰭の前端部に明瞭な黒斑が入るが、雄の場合成熟に従って消失する。染色体数は2n=48。


おおむね雌よりも雄の方が大型になる。平らな体をもち、体高が高い。口髭はない。体は銀色だが虹色の光沢がある。[[稚魚]]・未成魚では背鰭の前端部に明瞭な黒斑が入るが、雄の場合成熟に従って消失する。[[染色体]]数は2n=48<ref name="example"></ref>
繁殖期の雄は紫色や鮮紅色の光沢をもつ婚姻色に輝く。この婚姻色(バラ色)が和名の由来。雌の産卵管は長く、産卵期の伸長時には全長を上回ることがある。

繁殖期の雄は紫色や鮮紅色の光沢をもつ[[婚姻色]]に輝く。この婚姻色(バラ色)が和名の由来。雌の産卵管は長く、産卵期の伸長時には全長を上回ることがある<ref name="example"></ref>


* ''R. o. kurumeus'' '''ニッポンバラタナゴ'''
* ''R. o. kurumeus'' '''ニッポンバラタナゴ'''

全長約5cm。雄の婚姻色は、タイリクバラタナゴよりも赤褐色を帯び、腹鰭が黒く縁取られる。側線は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で11-12(最頻値12)・背鰭分岐軟条が9-12、臀鰭主鰭で11-12(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が9-12。側線有孔鱗<ref>採集個体を[[オイゲノール]]等で麻酔させ、[[ルーペ]](×10)もしくは[[実体顕微鏡]]を用いて計数する。おおむね全長2cm以上の個体から計数可能である。</ref>の数は産地によって異なるが、およそ0-5である(最頻値0。九州産の個体群は若干多い)。
全長約5cm。雄の婚姻色は、タイリクバラタナゴよりも赤褐色を帯び、腹鰭が黒く縁取られる<ref name="example"></ref>[[側線]]は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で11-12(最頻値12)・背鰭分岐軟条が9-12、臀鰭主鰭で11-12(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が9-12。側線有孔鱗<ref>採集個体を[[オイゲノール]]等で麻酔させ、[[ルーペ]](×10)もしくは[[実体顕微鏡]]を用いて計数する。おおむね全長2cm以上の個体から計数可能である。三宅ほか(2008)</ref>の数は産地によって異なるが、およそ0-5である(最頻値0。九州産の個体群は若干多い)<ref name="example4"></ref>

* ''R. o. ocellatus'' '''タイリクバラタナゴ'''
* ''R. o. ocellatus'' '''タイリクバラタナゴ'''
全長約8cm。腹鰭の前端部に[[グアニン]]層による白い筋が入るとされる。しかし雌では不明瞭であったり、なかったりする個体も存在する。側線は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で12-14(最頻値13)・背鰭分岐軟条が10-13、臀鰭主鰭で12-13(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が10-12。側線有孔鱗の数は2-7(最頻値5)。


全長約8cm。腹鰭の前端部に[[グアニン]]層による白い筋が入るとされる。しかし雌では不明瞭であったり、なかったりする個体も存在する<ref name="example"></ref>。側線は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で12-14(最頻値13)・背鰭分岐軟条が10-13、臀鰭主鰭で12-13(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が10-12。側線有孔鱗の数は2-7(最頻値5)<ref name="example4"></ref>
ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴは容易に[[交雑]]し、交雑個体群(代々妊性をもつ)が繁殖し分布を広げていくため、形態のみによる両者の判別は困難である。側線有孔鱗の計数や腹鰭の白色帯の有無の確認により、タイリクバラタナゴあるいは交雑個体群の侵入が認められるかを概観することはできる。最終的に純系のニッポンバラタナゴであることを示すには、個体群単位で[[アイソザイム]]分析やmtDNA分析等を行って判定する。


ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴは容易に[[交雑]]し、代々妊性(稔性)をもつ交雑個体群が繁殖(遺伝子浸透を伴って交雑)し分布を広げていくため、形態のみによる両者の判別は困難である<ref name="example2">河村ほか(2009)</ref>。側線有孔鱗の計数や腹鰭の白色帯の有無の確認により、タイリクバラタナゴあるいは交雑個体群の侵入が認められるかを概観することはできる<ref>九州産のバラタナゴ46集団696個体について側線有孔鱗の計数とmtDNA分析を行ったところ、ニッポンバラタナゴ型のmtDNAが確認されたのは28集団で、そのうち17集団の側線有孔鱗数が0、残り11集団の側線有孔鱗の平均値は0.1-0.7であった。タイリクバラタナゴ型のmtDNAが確認されたのは5集団で、側線有孔鱗の平均値は3.8-5.2となった。両亜種のmtDNAが確認されたのは13集団で、側線有孔鱗の平均値は0.5-5.7の結果が得られた。さらに、タイリクバラタナゴ型のmtDNAの頻度と側線有孔鱗数の平均値との[[相関]]を調査したところ、両者は極めて高い正の相関が存在する(ニッポンバラタナゴの個体群にタイリクバラタナゴが侵入した集団において、タイリクバラタナゴ型のmtDNAの頻度が上がれば当該集団の側線有孔鱗数も増加する)ことが明らかになった。三宅ほか(2008)に詳述。</ref>。最終的に純系のニッポンバラタナゴであることを示すには、個体群単位で[[アイソザイム]]分析やmtDNA分析等を行って判定する<ref name="example7">三宅ほか(2007)</ref>。
ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが交雑・増殖する過程では、前者の[[対立遺伝子]]が後者の対立遺伝子に置換され、タイリクバラタナゴの形質が強く現れた個体群となっていく傾向が高いことが判明している([[遺伝子汚染]])。


ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが交雑・増殖する過程では、前者の[[対立遺伝子]]が後者の対立遺伝子に置換され、タイリクバラタナゴの[[形質]]が強く現れた個体群となっていく傾向が高いことが判明している([[遺伝子汚染|遺伝的汚染]]・遺伝的攪乱<ref name="example2"></ref>
[[2009年の日本|2009年]]、野外調査と飼育実験によって、[[適応度]]の高さがタイリクバラタナゴ>交雑個体>ニッポンバラタナゴ、であることが明らかにされた。その際、両亜種が混在した状態ではある程度の[[生殖的隔離]](交配前隔離)が働くものの<ref>ニッポンバラタナゴ雄×タイリクバラタナゴ雌・タイリクバラタナゴ雄×ニッポンバラタナゴ雌のペア産卵の頻度と成功率は、ニッポンバラタナゴ・タイリクバラタナゴ同士のペア産卵の3分の1から2分の1であった。雄の求愛行動がニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴとで異なっていることが一因と考えられている。</ref>、個体数の偏り(ニッポンバラタナゴの集団に少数のタイリクバラタナゴが侵入する)によって同亜種間の交配が妨げられて交雑が生じ、タイリクバラタナゴの繁殖率の高さが加わってニッポンバラタナゴは絶滅へと向かうことが判明した。あわせて、ニッポンバラタナゴが絶滅した後もタイリクバラタナゴは個体群を維持し、交雑個体群と[[戻し交配|戻し交雑]]を生じさせて、交雑個体へタイリクバラタナゴの遺伝子を浸透させ続ける可能性が高いと指摘された。


[[2009年の日本|2009年]]、野外調査と飼育実験によって、[[適応度]]の高さがタイリクバラタナゴ>交雑個体>ニッポンバラタナゴ、であることが明らかにされた。その際、両亜種が混在した状態ではある程度の[[生殖的隔離]](交配前隔離)が働くものの<ref>ニッポンバラタナゴ雄×タイリクバラタナゴ雌・タイリクバラタナゴ雄×ニッポンバラタナゴ雌のペア産卵の頻度と成功率は、ニッポンバラタナゴ・タイリクバラタナゴ同士のペア産卵の3分の1から2分の1であった。雄の求愛行動がニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴとで異なっていることが一因と考えられている。しかし、亜種間で交雑が生じるときには、交雑の方向性に有意な差は認められず、[[雑種第一代|F1]]個体に[[雑種強勢]]も存在しなかったという。あわせて、交雑個体群では[[ハーディー・ワインベルクの法則]]が継続して成立し、[[連鎖不平衡]]指数がほぼ0の「連鎖平衡」も成立していることから、交雑個体群は任意交配の状態にあるとされる。河村ほか(2009)に詳述。</ref>、個体数の偏り(ニッポンバラタナゴの集団に少数のタイリクバラタナゴが侵入すること)によって同亜種間の交配が妨げられて交雑が生じ、タイリクバラタナゴの繁殖率の高さ(後述)が加わってニッポンバラタナゴは絶滅へと向かうことが判明した。あわせて、ニッポンバラタナゴが絶滅した後もタイリクバラタナゴは個体群を維持し、交雑個体群と[[戻し交配|戻し交雑]]を生じさせて、交雑個体へタイリクバラタナゴの遺伝子を浸透させ続ける可能性が高いと指摘された<ref name="example2"></ref>
[[2000年]]以降、mtDNAの[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]-[[RFLP]]分析に加え、[[DNAシークエンシング]]や高感度の遺伝マーカーである[[マイクロサテライト]]の分析によって、ニッポンバラタナゴの[[ハプロタイプ]]を産地別に明らかにし、タイリクバラタナゴや交雑個体群との遺伝的分化を解明する研究が進められている<ref>参考文献の他に、香川県産ニッポンバラタナゴについては2001年より、[http://www.pref.kagawa.lg.jp/kankyo/e_center/hoken.htm 香川県環境保健研究センター]と[http://www.kagawa-u.ac.jp/lsrc/ 香川大学総合生命科学研究センター]が共同で解析を行っている。結果は、「香川県環境保健研究センター所報第5号」(2006)以降にまとめられている。</ref>。


[[2000年]]以降、mtDNAの[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]-[[RFLP]]分析に加え、[[DNAシークエンシング]]や高感度の遺伝マーカーである[[マイクロサテライト]]の分析によって、ニッポンバラタナゴの[[ハプロタイプ]]を産地別に明らかにし、タイリクバラタナゴや交雑個体群との遺伝的分化を解明する研究が進められている<ref name="example7"></ref><ref>青山ほか(2002)、10-13頁。</ref><ref>白井・池田・田島(2009)</ref><ref>参考文献の他に、香川県産ニッポンバラタナゴについては2001年より、[http://www.pref.kagawa.lg.jp/kankyo/e_center/hoken.htm 香川県環境保健研究センター]と[http://www.kagawa-u.ac.jp/lsrc/ 香川大学総合生命科学研究センター]が共同で解析を行っている。結果は、「香川県環境保健研究センター所報第5号」(2006以降にまとめられている。</ref>。
その結果、大阪・奈良・香川産のニッポンバラタナゴは、閉鎖的かつ小規模な水域の[[ため池]]に生息するが故に、[[遺伝的多様性]]が低下していることが判明した。同時に、九州産の個体群と比較したところ、大阪産のそれは、産卵数・孵化率・仔魚の生存率・成長・[[白点病]]や細菌感染症などの魚病に対する抵抗力、の各項目すべてで著しく劣ることがわかった。ため池という隔離され環境の中で、小集団化と[[近親交配]]が進んで遺伝的に劣化が生じ、個体群の維持を難しくさせているのが現状である。


その結果、大阪・奈良・香川産のニッポンバラタナゴは、閉鎖的かつ小規模な水域のため池に生息するが故に、個体群間の交流が妨げられたり[[ボトルネック効果]]が生じたりすることによって、[[遺伝的多様性]]が低下していることが判明した。同時に、九州産の個体群と比較したところ、大阪産のそれは、産卵数・孵化率・[[仔魚]]の生存率・成長・[[白点病]]や細菌感染症などの魚病に対する抵抗力、の各項目すべてで著しく劣ることがわかった。ため池という隔離され不安定な環境の中で、小集団化と[[近親交配]]が進んで<ref>ニッポンバラタナゴについて鱗移植の実験を行ったところ、九州産同士では[[拒絶反応]]が起こり受理されなかったのに対して、大阪産同士では移植した鱗が受理されたという。河村功一の研究(2005年)による。片野ほか(2005)、125-126頁ならびにKawamura, K. 2005.“Low genetic variation and inbreeding depression in small isolated population of the Japanese rosy bitterling, ''Rhodeus ocellatus kurumeus''”. ''Zool. Sci.'', 22:517–524. に詳述。</ref>遺伝的に劣化が生じ、個体群の維持を難しくさせているのが現状である<ref name="example4"></ref>
2008年、九州産のニッポンバラタナゴについては、ほとんどの生息地においてその近隣にタイリクバラタナゴや交雑個体群が確認されたことが明らかになった。当地のニッポンバラタナゴは、[[水路]]や[[川|河川]]の緩流域等の開放的な水域に生息するため、タイリクバラタナゴの[[遺伝子]]が侵入する恐れが常時ある。

2008年、九州産のニッポンバラタナゴについては、ほとんどの生息地<ref>三宅ほか(2008)によると、[[筑紫平野]]の中部・東部を除いた水域を指す。</ref>においてその近隣にタイリクバラタナゴや交雑個体群が確認された。当地のニッポンバラタナゴは、[[水路]]や[[川|河川]]の緩流域等の開放的な水域に生息するため、タイリクバラタナゴの[[遺伝子]]が侵入する恐れが常時ある<ref name="example5"></ref>


== 亜種 ==
== 亜種 ==
79行目: 114行目:
* ''Rhodeus ocellatus ocellatus'' Kner, 1866 '''タイリクバラタナゴ'''
* ''Rhodeus ocellatus ocellatus'' Kner, 1866 '''タイリクバラタナゴ'''


[[2001年]]、両亜種は遺伝的に大きく異なることが明らかになったため、両者の[[分類学]]的再検討が必要であると指摘されている<ref>環境省生物多様性情報システム「絶滅危惧種情報検索」内の記述による。その根拠となる出典としては、Kawamura, K., T.Ueda, R.Arai, Y.Nagata, K.Saitoh, H.Ohtaka and Y.Kanoh(2001).“Genetic introgression by the rose bitterling,''Rhodeus ocellatus ocellatus'', into the Japanese rose bitterling, ''R. o. kurumeus'' (Teleostei: Cyprinidae)”. ''Zool. Sci.'', 18:1027-1039. が挙げられる。「分類学的再検討」とは、両亜種(「亜種」と定義することへの検討も含んでいる)の学名の最適化・ニッポンバラタナゴ、タイリクバラタナゴ、交雑個体の簡便かつ正確な同定法の開発等である。</ref>。
[[2001年]]、両亜種は遺伝的に大きく異なることが判明したため、両者の[[分類学]]的再検討が必要とされる。


== 生態 ==
== 生態 ==
河川の中・下流域で比較的流れの穏やかなところや、[[用水路]]の緩流域・ため池・[[湖]]・[[沼]]などに分布する。止水域を好む。
河川の中・下流域で比較的流れの穏やかなところや、[[用水路]]の緩流域・ため池・[[湖]]・[[沼]]などに分布する。止水域を好む<ref name="example"></ref>


付着[[藻類]]などの植物食が中心だが、ワムシなどの[[輪形動物]]・[[ミジンコ]]などの[[甲殻類]]や小型の底生動物も食う。
付着[[藻類]]などの植物食を主とする、稚魚期を中心ワムシなどの[[輪形動物]]・[[ミジンコ]]などの[[甲殻類]]や小型の底生動物も食う<ref name="example"></ref>


繁殖形態は卵生で、3-9月に[[ドブガイ]]類などのイシガイ科の二枚貝に産卵する。繁殖のピークは4月下旬-6月上旬。雌は産卵管を二枚貝の出水管に入れ、貝のえらの中に卵を産みつける。雄は貝の入水管の上で精子を放ち、貝が精子を貝内に取り込むことによって受精する。受精卵は1-3日で孵化し、仔魚は約20日から1か月間貝内で過ごし全長7-8mmに成長すると、主に夜から夜明け前にかけて貝から泳ぎ出てくる<ref>産卵行動の詳細、卵の発生、仔魚の貝内での成長、産卵母貝の利用の仕方など、[http://ryuiki.net/index.php?ca=4&sca=1&ssca=1612 NPO法人流域環境保全ネットワーク]や、[http://www.kawachi.zaq.ne.jp/dpbva000/ronbun/kaini/kaini.html NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会]のサイトが詳しい。参照されたい。</ref>。約1年で成熟し、寿命は自然下でおよそ2年
繁殖形態は卵生で、3-9月に[[ドブガイ]]類などのイシガイ科の二枚貝に産卵する。繁殖のピークは4月下旬-6月上旬。雄は二枚貝の周りになわばりをつくり、十分成熟したを二枚貝に誘導し産卵を促す<ref>なわばりをもてなかった雄、なわばりをもった雄の隙を窺って侵入し、産卵の直前と直後に精子を放っていく。この類の雄を「スニーカー」という。</ref>。雌は二枚貝の様子を覗き込み、タイミングを見計らって産卵管を二枚貝の出水管に入れ、貝のえらの中に卵を産みつける。その直後に雄は貝の入水管の上で精子を放ち、貝が精子を貝内に取り込むことによって卵は受精する。受精卵は1-3日で孵化し、仔魚は約20日から1か月間貝内で過ごし全長7-8mmに成長すると、主に夜から夜明け前にかけて貝から泳ぎ出てくる<ref name="example4"></ref><ref>産卵行動の詳細、卵の発生、仔魚の貝内での成長、産卵母貝の利用の仕方など、[http://ryuiki.net/index.php?ca=4&sca=1&ssca=1612 NPO法人流域環境保全ネットワーク]や、[http://www.kawachi.zaq.ne.jp/dpbva000/ronbun/kaini/kaini.html NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会]のサイトが詳しい。参照されたい。</ref>。


仔魚は約1年で成熟し、寿命は自然下でおよそ2年<ref name="example"></ref>。ただし、産卵期の初期に生まれた成長のよい個体の中には、同年秋までに成熟し産卵するものも見られる<ref>タイリクバラタナゴに多い。瀬能・松沢(2008)</ref>。
タイリクバラタナゴはニッポンバラタナゴより成長が早く、移殖された地域では産卵する二枚貝や生息場所などをめぐって他のタナゴ類と競合すると言われる([[生態系]]の攪乱)。例えば、[[神奈川県]][[鶴見川]]水系のため池はゼニタナゴの生息地であったが、1980年代初頭にタイリクバラタナゴが侵入したことで、ゼニタナゴは激減した<ref>タイリクバラタナゴの侵入と同じくして、ため池の一部がコンクリート護岸化され[[湧水]]の流入がなくなった。結果、ため池に軟泥(ヘドロ)が堆積し、水質の悪化とドブガイ類の死滅を招いた。激減したゼニタナゴは、[[1993年]]より神奈川県水産総合研究所内水面試験場で系統保存されている。その後、ため池にはブルーギルが移殖され、ブルーギルの侵入からおよそ5年後、自然下ではゼニタナゴもタイリクバラタナゴも当地から姿を消した。</ref>。


大阪産のニッポンバラタナゴの場合、雌は1繁殖期に9-12日の周期で3-5回[[排卵]]するという。1回で約10個を排卵し、上記の産卵行動1回当たりで1-3個を産卵し、2-3日で複数のドブガイ類に産み付けていく<ref name="example4"></ref>。[[栃木県|栃木]]産のタイリクバラタナゴでは、大阪産のニッポンバラタナゴと比較して排卵周期は2倍速く、1繁殖期当たりの排卵回数は4倍、1回の排卵数は1.5倍それぞれ多く、繁殖期は3倍長かったことが判明している<ref name="example2"></ref>。
== 人間との関係 ==
開発による生息地の改変、ため池管理の放棄、人為的に移殖された[[オオクチバス]]([[ブラックバス]])・[[ブルーギル]]<ref>[[2005年]]に「[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]]」が施行され、これらの移殖放流は違法である。罰則規定あり。</ref>等による捕食により生息数は減少している。ニッポンバラタナゴの生息数の減少顕著る。


つまり、タイリクバラタナゴはニッポンバラタナゴより成長が早く産卵数も多い<ref name="example4"></ref>。結果としてタイリクバラタナゴが移殖された地域では産卵する二枚貝や生息場所などをめぐって他のタナゴ類と競合すると言われる[[生態系]]の攪乱。例えば、[[神奈川県]][[鶴見川]]水系のため池はゼニタナゴの生息地であったが、1980年代初頭にタイリクバラタナゴが侵入したことで、ゼニタナゴは激減した。水質の悪化で大幅に減少したドブガイ類にタイリクバラタナゴが、ゼニタナゴの産卵シーズンである秋にかけても集中して産卵を続けたため、ゼニタナゴの産卵が阻害されたからである<ref name="example4"></ref><ref>タイリクバラタナゴの侵入と同じくして、ため池の一部がコンクリート護岸化され[[湧水]]の流入がなくなった。結果、ため池に軟泥ヘドロが堆積し、ドブガイ類の死滅を招いた。激減したゼニタナゴは、[[1993年]]より神奈川県水産総合研究所内水面試験場で系統保存されている。その後、ため池にはブルーギルが移殖され、ブルーギルの侵入からおよそ5年後、自然下ではゼニタナゴもタイリクバラタナゴも当地から姿を消した。片野ほか(2005)、134-135頁に詳述。</ref>。
もともと日本には、ニッポンバラタナゴが西日本に生息していたが、タイリクバラタナゴの移殖に伴い亜種間での交雑が進んだこともあって、純粋なニッポンバラタナゴは[[絶滅]]に瀕している。

[[霞ヶ浦]]とその流入河川・農業用水路における、タナゴ類・二枚貝の生息調査ならびに環境要因の分析では、タイリクバラタナゴは採捕されたタナゴ類全体の約70-90%を占めていた。そして、同所生息する[[アカヒレタビラ]]・[[タナゴ]]等と比較してコンクリート護岸化や水質の悪化に対する耐性をもっていることが明らかになった<ref>諸澤・藤岡(2007)</ref>。加えて、2009年の同地域における調査では、タイリクバラタナゴは優占する[[イシガイ]]<ref>殻長4cm以上の個体にアカヒレタビラが産卵していた。アカヒレタビラは大型のイシガイに産卵することが明らかになった。</ref>には産卵せず、生息数の少ないドブガイ類を選択して利用していたという。タイリクバラタナゴはアカヒレタビラとは産卵母貝の選択を異にし、卵や仔魚についてはアカヒレタビラがタイリクバラタナゴより多く観察されたにもかかわらず、捕獲される個体数ではタイリクバラタナゴが卓越する結果となった。餌や生息場所の利用・環境改変への耐性などが、アカヒレタビラをはじめとするタナゴ類よりもタイリクバラタナゴに有利に働いていると考えられている<ref>北村・諸澤(2010)</ref>。

[[清風中学校・高等学校|清風高等学校]]生物部が2008-2009年に行った実験によると、ドブガイ類が排出する水には[[アラニン]]・[[グルタミン]]・[[グリシン]]・[[リシン]]等の[[アミノ酸]]が含まれており、成熟したバラタナゴはこれを刺激に産卵・放精に入ることが分かった。雌の産卵時に放出される卵巣腔液にはリシンが高い濃度で含まれており、雄はそれに誘発され放精することも明らかになった。バラタナゴとドブガイ類・バラタナゴの雌雄間で共通のアミノ酸が情報伝達に使われていることから、バラタナゴとトブガイ類は[[共進化]]してきた可能性が示された<ref>清風高等学校生物部(2010)。同時にこの実験の過程で、吸水・排水の循環機能を持つ人工のドブガイ模型を開発し、バラタナゴの産卵ならびに受精に成功している。</ref>。

== 人間との関係 ==
開発による生息地の改変、二枚貝の減少、ため池管理の放棄、人為的に移殖された[[オオクチバス]]([[ブラックバス]])・[[ブルーギル]]<ref>[[2005年]]に「[[特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律]]」が施行され、これらの移殖放流は違法である。罰則規定あり。</ref>等による捕食、[[水質汚濁]]、[[乱獲]]などがバラタナゴの減少要因である<ref name="example4"></ref>。特ニッポンバラタナゴは、[[1940年代]]には琵琶湖以西の[[本州]][[瀬戸内海]]側(岡山県まで)・香川県・九州北中部に広く生息していたが、その後タイリクバラタナゴの移殖に伴い亜種間での交雑が進んだことも加わって分布域は年々狭められている<ref name="example4"></ref>結果、ニッポンバラタナゴは純系を維持するのが極めて厳しい状況、絶滅の危機に瀕してい<ref name="example"></ref>


タイリクバラタナゴは、[[第二次世界大戦]]中の[[1940年代]]前半、中国から食用として[[ソウギョ]]、[[ハクレン]]などを日本(主に[[利根川]]水系)に導入する際、これらに混じって運ばれてきたと言われる。20世紀後半には、[[イケチョウガイ]]などの淡水産二枚貝の移動<ref>利根川水系から琵琶湖への移動が最初とされる。イケチョウガイ(淡水産真珠の養殖用)のえらの中にタイリクバラタナゴの卵や仔魚が残存しており、そこから増殖とニッポンバラタナゴとの交雑とが同時進行した。</ref>、琵琶湖産[[アユ]]の放流、琵琶湖・淀川水系からの[[ゲンゴロウブナ|ヘラブナ]]の移殖<ref>琵琶湖産アユやヘラブナの種苗の中にタイリクバラタナゴが混入していた。</ref>、ペットショップでの流通、飼育個体の放流や遺棄などによって、全国各地へ同時に分布を広げていった。
タイリクバラタナゴは、[[第二次世界大戦]]中の1940年代前半、中国から食用として[[ソウギョ]]、[[ハクレン]]などを日本(主に[[利根川]]水系)に導入する際、これらに混じって運ばれてきたと言われる<ref name="example"></ref>。20世紀後半には、[[イケチョウガイ]]などの淡水産二枚貝の移動<ref>利根川水系から琵琶湖への移動が最初とされる。イケチョウガイ(淡水産真珠の養殖用)のえらの中にタイリクバラタナゴの卵や仔魚が残存しており、そこから増殖とニッポンバラタナゴとの交雑とが同時進行した。川那部ほか(2001)</ref>、琵琶湖産[[アユ]]の放流、琵琶湖・淀川水系からの[[ゲンゴロウブナ|ヘラブナ]]の移殖<ref>琵琶湖産アユやヘラブナの種苗の中にタイリクバラタナゴが混入していた。</ref>、ペットショップでの流通、飼育個体の放流や遺棄などによって、全国各地へ同時に分布を広げていった<ref name="example6"></ref>


両亜種は、[[観賞魚]]として飼育される。体色から人気が高く、ペットショップで販売されている。タイリクバラタナゴについては[[突然変異]]等により、黄変個体・白変個体・透明鱗個体なども増殖され流通している。水槽飼育では、強い水流を避け植物質の含有量の多い飼料を与え、群泳させるとよいとされている。雄の婚姻色を楽しむためには、照明と水温を自然下に近づけ、水槽の正面以外の面に黒系のスクリーンを張り、[[セキショウモ属]]のような水面付近まで茂る水草を植えるとよいと言われる。飼育下での繁殖法としては、二枚貝を同居させ自然に産卵させる方法と、繁殖期の雌雄から卵と精子を搾り出し人工受精させる方法がある。
両亜種は、[[観賞魚]]として飼育される。体色から人気が高く、ペットショップで販売されている。タイリクバラタナゴについては[[突然変異]]等により、黄変個体・白変個体・透明鱗個体なども増殖され流通している。水槽飼育では、強い水流を避け植物質の含有量の多い飼料を与え、群泳させるとよいとされている。雄の婚姻色を楽しむためには、照明と水温を自然下に近づけ、水槽の正面以外の面に黒系のスクリーンを張り、[[セキショウモ属]]のような水面付近まで茂る水草を植えるとよいと言われる<ref>赤井・伊藤・橋本(2008)</ref>。飼育下での繁殖法としては、二枚貝を同居させ自然に産卵させる方法と、繁殖期の雌雄から卵と精子を搾り出し人工受精させる方法がある<ref>赤井ほか(2004)</ref>


一方、ニッポンバラタナゴの飼育については、絶滅が危惧されている状況を踏まえ、安易な採集・飼育をしないよう求められている。ニッポンバラタナゴはその希少性に鑑み、各地で[[希少野生動植物保護条例]]による捕獲規制動きが広がっている。
一方、ニッポンバラタナゴの飼育については、絶滅が危惧されている状況を踏まえ、安易な採集・飼育をしないよう求められている<ref>アクアライフ編集部編『川魚入門 採集と飼育-淡水魚と水辺の生きものを楽しむ』、マリン企画、2001年、65-66頁。</ref>。ニッポンバラタナゴはその希少性に鑑み、各地で[[希少野生動植物保護条例]]に基づいて野生個体の捕獲規制する動きが広がっている。


香川県では[[2006年の日本|2006年]]、「香川県希少野生生物の保護に関する条例」とその施行規則によって、ニッポンバラタナゴは「指定希少野生生物」に指定され、捕獲等が禁止されている。違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる。加えて奈良県でも2010年4月から、「奈良県希少野生動植物の保護に関する条例」による告示に基づき、「特定希少野生動植物」に指定され、捕獲等は禁止である。違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。長崎県では2010年3月、「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」による告示で、[[佐世保市]]のニッポンバラタナゴが「希少野生動植物種保存地域」に指定され、捕獲等が禁じられた。違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。
香川県では[[2006年の日本|2006年]]、「香川県希少野生生物の保護に関する条例」とその施行規則によって、ニッポンバラタナゴは「指定希少野生生物」に指定され、捕獲等が禁止されている。違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる。加えて奈良県でも2010年4月から、「奈良県希少野生動植物の保護に関する条例」による告示に基づき、「特定希少野生動植物」に指定され、捕獲等は禁止である。違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。長崎県では2010年3月、「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」による告示で、[[佐世保市]]のニッポンバラタナゴが「希少野生動植物種保存地域」に指定され、捕獲等が禁じられた。違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。


産地にかかわらず、ニッポンバラタナゴの野生個体を、興味本位で採集したり、売買などの商業利用を行ったり、研究材料として安易に使用したり、保護計画を策定せずみだりに放流したりすることは、ニッポンバラタナゴの絶滅に加担することであると指摘されている。モラルある採集・飼育・調査研究が求められている<ref>[[日本魚類学会]]自然保護委員会では、「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2003.html 研究材料として魚類を使用する際のガイドライン]」(2003)・「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2005.html 生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン]」(2005)・「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/moral/index.html モラルある淡水魚採集について]」(2006)を策定し、研究者・一般向けに提言と啓発を行っている。</ref>。
産地にかかわらず、ニッポンバラタナゴの野生個体を、興味本位で採集したり、売買などの商業利用を行ったり、研究材料として安易に使用したり、保護計画を策定せずみだりに放流したりすることは、ニッポンバラタナゴの絶滅に加担することであると指摘されている。モラルある採集・飼育・調査研究が求められている<ref>[[日本魚類学会]]自然保護委員会では、「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2003.html 研究材料として魚類を使用する際のガイドライン]」(2003・「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2005.html 生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン]」(2005・「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/moral/index.html モラルある淡水魚採集について]」(2006を策定し、研究者・一般向けに提言と啓発を行っている。</ref>。


亜種間交雑個体を形成し増殖させることによる遺伝子汚染・純系のニッポンバラタナゴの消失・在来生態系の攪乱・病の伝などが懸念されるので、タイリクバラタナゴ・ニッポンバラタナゴともに屋外への遺棄は決して行ってはならない、と行政・研究者等から呼びかけられている。
亜種間交雑個体を形成し増殖させることによる遺伝子汚染・純系のニッポンバラタナゴの消失・在来生態系の攪乱・[[原体]]([[寄生虫]]を含む)の伝染・ニッポンバラタナゴ在来集団の適応度の低下などが懸念されるので、タイリクバラタナゴ・ニッポンバラタナゴともに屋外への遺棄は決して行ってはならない、と行政・研究者等から呼びかけられている。


例えば、滋賀県では「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」による告示に基づいて、タイリクバラタナゴは「指定[[外来生物|外来種]]」となっており、屋外への遺棄が禁止され、飼育が届出制になっている。屋外へ遺棄した場合は1年以下の[[懲役]]または50万円以下の[[罰金]]に、届出のない飼育は30万円以下の罰金にそれぞれ処せられる<ref>佐賀県でもタイリクバラタナゴは、「佐賀県環境の保全と創造に関する条例」による告示に基づいて「移入規制種」に指定されている(2006年より)。罰則規定はないが、屋外に放つこと(再放流も含む)が禁止され、適切な飼養と販売者の購入者への説明(取扱いについて)が義務化されている。適切な飼養・取扱いとは「生きている個体や卵が屋外に出ない容器・施設で飼育し、水替えなどの際に布で濾過するなどの対策を講じて、稚魚や卵が飛散したり流失したりしないようにすること」とされている。</ref>。
例えば、滋賀県では「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」による告示に基づいて、タイリクバラタナゴは「指定[[外来生物|外来種]]」となっており、屋外への遺棄が禁止され、飼育が届出制になっている。屋外へ遺棄した場合は1年以下の[[懲役]]または50万円以下の[[罰金]]に、届出のない飼育は30万円以下の罰金にそれぞれ処せられる<ref>佐賀県でもタイリクバラタナゴは、「佐賀県環境の保全と創造に関する条例」による告示に基づいて「移入規制種」に指定されている(2006年より)。罰則規定はないが、屋外に放つこと(再放流も含む)が禁止され、適切な飼養と販売者の購入者への説明(取扱いについて)が義務化されている。適切な飼養・取扱いとは「生きている個体や卵が屋外に出ない容器・施設で飼育し、水替えなどの際に布で濾過するなどの対策を講じて、稚魚や卵が飛散したり流失したりしないようにすること」とされている。</ref>。


タイリクバラタナゴは、関東地方を中心に[[釣り]]の対象魚となっている。[[ユスリカ]]幼虫のアカムシ・練り餌などを小さな針につけ、浅場や船だまりの群れを狙う<ref>タイリクバラタナゴを含むタナゴ類・モツゴ・タモロコの釣法と用具についての解説が、葛島一美『水郷のタナゴ釣り』(つり人社、2008年)に記述されている。</ref>。釣具は[[電子商取引|ネットショッピング]]においても入手できるようになった<ref>[[検索エンジン]]にて「タナゴ竿 通販」と入力して検索のこと。</ref>。
タイリクバラタナゴは、関東地方を中心に[[釣り]]の対象魚となっている。[[ユスリカ]]幼虫のアカムシ・練り餌などを小さな針につけ、浅場や船だまりの群れを狙う<ref>タイリクバラタナゴを含むタナゴ類・[[モツゴ]][[タモロコ]]の釣法と用具についての解説が、葛島一美『水郷のタナゴ釣り』(つり人社、2008年)に記述されている。</ref>。釣具は[[電子商取引|ネットショッピング]]においても入手できるようになった<ref>[[検索エンジン]]にて「タナゴ竿 通販」と入力して検索のこと。</ref>。


一般的ではないものの、食用とされることある。調理方法として佃煮雀焼きなどある。ただし内部寄生虫([[肝吸虫]]など)を保持する可能性があるので、生食は避ける
一般的ではないものの、他のタナゴ類・モロコ類・フナ類と併せて食用とされることある。独特の苦みを利用して、[[佃煮]]や雀焼きなどに調理する<ref>川那部ほか(2001)、355頁ならびに赤井ほか(2004)、96頁。雀焼きとは、串焼きにした魚を甘辛いタレで味付けして食す。小型のタナゴ類を用いるときは佃煮にしたものを串に刺すこともあるという。</ref>。ただし内部寄生虫([[肝吸虫]]など)を保持する可能性があるので、生食は避ける<ref>[http://www.city.fukuoka.lg.jp/hofuku/shokuhinanzen/life/syokuhinanzen-ansin/003.html 福岡市保健福祉局生活衛生部食品安全推進課 食中毒(自然毒・化学物質・その他)について]
</ref>。


== ニッポンバラタナゴの保護 ==
== ニッポンバラタナゴの保護 ==
絶滅の危機に直面しているニッポンバラタナゴを保護する取り組みが、各生息地で始まっている。
絶滅の危機に直面しているニッポンバラタナゴを保護する取り組みが、各生息地で始まっている。


保護にあたって考慮すべき条件として、指摘されているものを列挙する。
保護にあたって考慮すべき条件として、指摘されているものを列挙する<ref name="example"></ref><ref name="example4"></ref><ref name="example6"></ref>
* 保護活動は、ニッポンバラタナゴの生息地で行う。
* 保護活動は、ニッポンバラタナゴの生息地で行う。
* ニッポンバラタナゴが産卵する、ドブガイ類などのイシガイ科の二枚貝が繁殖できる環境にする。二枚貝の生息には、餌となる[[珪藻|ケイソウ]]類が豊富に含まれ、[[溶存酸素量]]が十分確保された水質と、砂泥底から泥底の底質が必要である。なお、二枚貝の他水域からの移殖は、貝内仔魚の残存によるタイリクバラタナゴの非意図的な侵入を招く恐れがあるので、原則行わない。
* ニッポンバラタナゴが産卵する、ドブガイ類などのイシガイ科の二枚貝が繁殖できる環境にする。二枚貝の生息には、餌となる[[珪藻|ケイソウ]]類が豊富に含まれ、[[溶存酸素量]]が十分確保された水質と、砂泥底から泥底の底質が必要である。なお、二枚貝の他水域からの移殖は、貝内仔魚の残存による国外・国内外来種のタナゴ類(タイリクバラタナゴ・[[オオタナゴ]]・[[カネヒラ]]等)の非意図的な侵入を招く恐れがあるので、原則行わない。
* ドブガイ類は幼生(グロキディウム)期に、[[ヨシノボリ]](トウヨシノボリなど)属などの底生魚の鰭に[[寄生]]し成長する。したがって、ドブガイ類の繁殖には、これら底生魚の存在が不可欠である。
* ドブガイ類は幼生(グロキディウム)期に、[[ヨシノボリ]](トウヨシノボリなど)属などの底生魚の鰭に[[寄生]]し成長する。したがって、ドブガイ類の繁殖には、これら底生魚の存在が不可欠である。
* 前2項をまとめると、「ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が、同じ場所で繁殖できる環境」が要求されるのである。
* 前2項をまとめると、「ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が、同じ場所で繁殖できる環境」が要求されるのである。
* オオクチバスブルーギル・タイリクバラタナゴ・[[アメリカザリガニ]](ドブガイ類を捕食)などの外来生物の侵入を防止する。生息している場合は、適切な方法で防除する<ref>タイリクバラタナゴの侵入が確認されたときは、純系(非交雑)集団のみを選別し、施設に避難させて系統保存を行う。交雑集団の駆除が完全になされるまでは復元はできない。純系集団の選別にあたっては遺伝子分析を行うが、これはコスト・手間のかかる非常に困難な作業である、と河村功一は報告している。「保全遺伝学的視点から見た日本産タナゴ類における問題」([http://www.geocities.jp/tanagosummit/kako.html 第2回全国タナゴサミットin八尾]における報告、発表要旨集10-14頁、2007年)を参照 。</ref>。[[コイ]]もドブガイ類やニッポンバラタナゴの稚魚を捕食するため、生息状況を調査し、適切な管理を行う。
* オオクチバスブルーギル(ニッポンバラタナゴを捕食)・タイリクバラタナゴ(ニッポンバラタナゴと交雑)・[[アライグマ]](ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類を捕食)<ref>多紀(2008)、51-53頁。特に、オオクチバス・ブルーギル・アライグマ・ヌートリアは特定外来生物に指定されている。</ref>・[[アメリカザリガニ]]、[[ヌートリア]]<ref>多紀(2008)、44-45頁。あわせて、[http://chubu.yomiuri.co.jp/tokushu/cop10/cop100801_1.htm ヌートリア大量 捕食か イタセンパラ繁殖に不可欠 二枚貝 木曽川に貝殻散乱、「致命的影響も」]『読売新聞』(中部支社版)2010年8月1日付も参照。</ref>(ドブガイ類を捕食)などの外来生物の侵入を防止する。生息している場合は、適切な方法で防除する<ref>タイリクバラタナゴの侵入が確認されたときは、純系(非交雑)集団のみを選別し、施設に避難させて系統保存を行う。交雑集団の駆除が完全になされるまでは復元はできない。純系集団の選別にあたっては遺伝子分析を行うが、これはコスト・手間のかかる非常に困難な作業である、と河村功一は報告している。「保全遺伝学的視点から見た日本産タナゴ類における問題」([http://www.geocities.jp/tanagosummit/kako.html 第2回全国タナゴサミットin八尾]における報告、発表要旨集10-14頁、2007年)を参照 。</ref>。[[コイ]]もドブガイ類やニッポンバラタナゴの稚魚を捕食するため、生息状況を調査し、適切な管理を行う。
* [[サギ]]類や[[カワウ]]による、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類の捕食に注意する。サギ類は水位減少時の魚類・二枚貝の捕食が、カワウは魚類の捕食がそれぞれ多く見られる。
* [[サギ]]類や[[カワウ]]による、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類の捕食に注意する。サギ類は水位減少時の魚類・二枚貝の捕食が、カワウは魚類の捕食がそれぞれ多く見られる。
* [[密漁]]や外来生物を意図的に放流されることのないよう、監視態勢を整える。地域ぐるみの保護活動が軌道に乗るまでは生息地の詳細を公開しない。
* [[密漁]]や外来生物を意図的に放流されることのないよう、監視態勢を整える。地域ぐるみの保護活動が軌道に乗るまでは生息地の詳細を公開しない。
* 生息地の人為的な環境の改変、つまりニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が生息できないような環境にすることを防ぐ。
* 生息地の人為的な環境の改変、つまりニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が生息できないような環境にすることを防ぐ。
* 遺伝的な劣化や個体数の減少を防ぐため、生息地点に応じ適切な個体数となるよう管理し、[[生物多様性]]の視点に立ち継続的にモニタリング調査<ref>在来の他種や生態系への影響についても検討を加える必要がある。日本魚類学会自然保護委員会「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2005.html 生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン]」(2005)参照 。</ref>を行う。そのために、魚が行き来できる範囲の自然を、人間の手で総合的によいものにする取り組みを続ける。
* 遺伝的な劣化や個体数の減少を防ぐため、生息地点に応じ適切な個体数となるよう管理し、[[生物多様性]]の視点に立ち継続的にモニタリング調査<ref>在来の他種や生態系への影響についても検討を加える必要がある。日本魚類学会自然保護委員会「[http://www.fish-isj.jp/iin/nature/guideline/2005.html 生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン]」(2005参照 。</ref>を行う。そのために、魚が行き来できる範囲の自然を、人間の手で総合的によいものにする取り組みを続ける。
* 前項の具体例としては、用水路やため池の連結性を高める・ため池の水を用水として積極的に利用する・水域の[[富栄養化]]防止のための用水路の手入れ、ため池の堆積物と軟泥([[ヘドロ]])流し(かいぼり・ドビ流し、後述)並びに池干し・繁茂した[[水草|水生植物]]の間引き・周辺の森林の整備、などである。
* 前項の具体例としては、用水路やため池の連結性を高める・ため池の水を用水として積極的に利用する・水域の[[富栄養化]]防止のための用水路の手入れ、ため池の堆積物と軟泥[[ヘドロ]]流し(かいぼり・ドビ流し、後述)並びに池干し・繁茂した[[水草|水生植物]]の間引き・周辺の森林の整備、などである。
* 実際に保護活動を進めるにあたっては、[[水利権]]者・土地所有者・農業関係者・土地改良事業者などとの調整の機会が頻出するので、合意形成の手法を検討し、地域の実態に応じた形で具体化する。そして、ニッポンバラタナゴが生息する環境を保全していく意義を、地域住民に普及啓発する活動を継続的に行う。
* 実際に保護活動を進めるにあたっては、[[水利権]]者・土地所有者・農業関係者・土地改良事業者などとの調整の機会が頻出するので、合意形成の手法を検討し、地域の実態に応じた形で具体化する。そして、ニッポンバラタナゴが生息する環境を保全していく意義を、地域住民に普及啓発する活動を継続的に行う。


ニッポンバラタナゴは人間生活の影響を受ける環境のもとで、種々の生物と巧妙に関わり合って命をつないでいる魚である。ニッポンバラタナゴの[[生活史 (生物)|生活史]]と上記各項を総合させて、「ニッポンバラタナゴの保護は、生息地域の環境保全に他ならない」、と結論づけられている。保護団体・学識経験者・行政が連携して保護計画を作成し、保護活動に地域住民が参画して保護を推進する必要性が明らかにされている。
ニッポンバラタナゴは人間生活の影響を受ける環境のもとで、種々の生物と巧妙に関わり合って命をつないでいる魚である。ニッポンバラタナゴの[[生活史 (生物)|生活史]]と上記各項を総合させて、「ニッポンバラタナゴの保護は、生息地域の環境保全に他ならない」、と結論づけられている<ref>片野ほか(2005)、130-131頁。</ref>。保護団体・学識経験者・行政が連携して保護計画を作成し、保護活動に地域住民が参画して保護を推進する必要性が明らかにされている<ref>片野ほか(2005)、382-383頁。</ref>


大阪府では、「NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会」が[[清風中学校・高等学校]]生物部、[[興國高等学校]]科学部、[[関西大倉中学校・高等学校|関西大倉高等学校]]のメンバー、地域の小・中学生とともに、主に[[八尾市]]で保護活動に取り組んでいる。保護池において、秋から冬に池干しを行って堆積物や軟泥(ヘドロ)を除去し底質を還元泥から酸化土にすることが、ドブガイ類の繁殖に好条件をもたらす<ref>ドブガイ類の餌となるケイソウ類が多く発生する。</ref>ことを明らかにした。2008年2月、当地で伝統的に行われていた「ドビ流し」<ref>ため池の堆積物や軟泥(ヘドロ)を田畑に流し込んで田畑の土壌改良を図ろうとすること。</ref>を約40年ぶりに実施し、農業にも好適であるか土壌分析を行っている。あわせて、保護池上流の森林を整備し<ref>主にヒノキ林の間伐など。切り倒した木で土砂の流出を防ぐ。日照が増すことで新たに低木が生え、森林の保水性が高まり、ため池に水を安定供給できる。</ref>、保護池に良質の水を供給する活動を進めている。
大阪府では、「NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会」が清風中学校・高等学校生物部、[[興國高等学校]]科学部、[[関西大倉中学校・高等学校|関西大倉高等学校]]のメンバー、地域の小・中学生とともに、主に[[八尾市]]で保護活動に取り組んでいる。保護池において、秋から冬に池干しを行って堆積物や軟泥ヘドロを除去し底質を還元泥から酸化土にすることが、ドブガイ類の繁殖に好条件をもたらす<ref>ドブガイ類の餌となるケイソウ類が多く発生する。</ref>ことを明らかにした<ref>清風高等学校生物部・関西大倉高等学校(2007)</ref>。2008年2月、当地で伝統的に行われていた「ドビ流し」<ref>ため池の堆積物や軟泥ヘドロを田畑に流し込んで田畑の土壌改良を図ろうとすること。</ref>を約40年ぶりに実施し、農業にも好適であるか土壌分析を行っている。あわせて、保護池上流の森林を整備し<ref>主にヒノキ林の間伐など。切り倒した木で土砂の流出を防ぐ。日照が増すことで新たに低木が生え、森林の保水性が高まり、ため池に水を安定供給できる。</ref>、保護池に良質の水を供給する活動を進めている<ref>『産経新聞』2008年7月28日付</ref>


奈良県では、「[[近畿大学]]農学部環境管理学科を中心とする研究グループ」が、生息地のため池の浚渫工事に伴い避難させた個体群を、絶滅の危険を分散するために、修繕した別のため池にも移殖し管理していくことになった。2008年、元の生息池の工事も完了し、そこでの生息環境の大幅な改善が確認されている<ref>「奈良のニッポンバラタナゴを守る」、『毎日新聞』2009年2月17日</ref>。また、2010年2月より「里親プロジェクト」を開始した。在来生態系の保全に専門的な立場から検討を加え、小学校等における[[環境教育]]プログラムも実践しつつ、生息地域内の複数の施設でニッポンバラタナゴの系統保存を図る計画である。「奈良県くらし創造部景観・環境局自然環境課」は、ニッポンバラタナゴを含む特定希少野生動植物の保護推進指針([http://www.pref.nara.jp/secure/41874/03baratanago-shishin.pdf ニッポンバラタナゴ保護推進指針])を示している。
奈良県では、「[[近畿大学]]農学部環境管理学科水圏生態学研究室を中心とする研究グループ」が、生息地のため池の浚渫工事に伴い避難させた個体群を、絶滅の危険を分散するために、修繕した別のため池にも移殖し管理していくことになった。2008年、元の生息池の工事も完了し、そこでの生息環境の大幅な改善が確認されている<ref>「奈良のニッポンバラタナゴを守る」、『毎日新聞』2009年2月17日</ref>。また、2010年2月より「里親プロジェクト」を開始した。在来生態系の保全に専門的な立場から検討を加え、小学校等における[[環境教育]]プログラムも実践しつつ、生息地域内の複数の施設でニッポンバラタナゴの系統保存を図る計画が進捗中である<ref>『読売新聞』2010年2月10日付・『朝日新聞』(奈良版)2010年2月24日付・『読売新聞』(奈良版)2010年10月7日付</ref>。「奈良県くらし創造部景観・環境局自然環境課」は、ニッポンバラタナゴを含む特定希少野生動植物の保護推進指針([http://www.pref.nara.jp/secure/41874/03baratanago-shishin.pdf ニッポンバラタナゴ保護推進指針])を示している。


香川県では、「香川淡水魚研究会」が[[香川県立高松工芸高等学校]]環境研究同好会と連携して活動している。地域の農家と協力し、[[稲作]]にため池の水を活用する環境のもとで外来生物の影響を排除し、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類を安定的に繁殖させることに成功している。また、「香川県環境森林部みどり保全課」は、ニッポンバラタナゴ保護事業計画を2009年に策定した。
香川県では、「香川淡水魚研究会」が[[香川県立高松工芸高等学校]]環境研究同好会と連携して活動している。地域の農家と協力し、[[稲作]]にため池の水を活用する環境のもとで外来生物の影響を排除し、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類を安定的に繁殖させることに成功している<ref>香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会(2007)</ref>。また、「香川県環境森林部みどり保全課」は、ニッポンバラタナゴ保護事業計画を2009年に策定した。


長崎県では、「佐世保市環境部環境保全課」が、県内唯一の生息地の保護に地域住民と協同して取り組んでいる。
長崎県では、「佐世保市環境部環境保全課」が、県内唯一の生息地の保護に地域住民と協同して取り組んでいる。


なお、ニッポンバラタナゴを系統保存している主な施設は以下の通りである。
なお、ニッポンバラタナゴを系統保存している主な施設は以下の通りである<ref name="example4"></ref><ref name="example7"></ref><ref>『奈良新聞』2008年3月24日付</ref>
* [[さいたま水族館]]
* [[さいたま水族館]]
* [[新江ノ島水族館]]
* [[新江ノ島水族館]]
* [[三重大学]]大学院生物資源学部水圏資源生物学研究室
* [[三重大学]]大学院生物資源学部水圏資源生物学研究室
* [[滋賀県立琵琶湖博物館]]
* [[滋賀県立琵琶湖博物館]]
* 近畿大学農学部環境管理学科
* 近畿大学農学部環境管理学科水圏生態学研究室
* [[大阪府水生生物センター]]
* [[大阪府水生生物センター]]
* [[神戸市立須磨海浜水族園]]
* [[神戸市立須磨海浜水族園]]
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* [[海の中道海洋生態科学館|マリンワールド海の中道]]
* [[海の中道海洋生態科学館|マリンワールド海の中道]]


[[明仁|今上天皇]]は、[[2007年の日本|2007年]]12月20日の記者会見で「ニッポンバラタナゴは日本の淡水魚の中で最も絶滅の危機にあるものと思います。」と述べた。その上で、タイリクバラタナゴとの交雑を避けるため、大阪府八尾市産の個体群を[[東宮御所|赤坂御用地]]で<ref>「皇室豆知識 赤坂御用地の「大土橋池」って?」、『産経新聞』2008年3月27日に詳述。</ref>、福岡県[[多々良川]]水系産の個体群を[[常陸宮正仁親王|常陸宮]]邸内の池で、それぞれ[[1983年]]以来飼育・研究に供していることに触れた。
[[明仁|今上天皇]]は、[[2007年の日本|2007年]]12月20日の記者会見で「ニッポンバラタナゴは日本の淡水魚の中で最も絶滅の危機にあるものと思います。」と述べた。その上で、タイリクバラタナゴとの交雑を避けるため、大阪府八尾市産の個体群を[[赤坂御用地]]で<ref>「皇室豆知識 赤坂御用地の「大土橋池」って?」、『産経新聞』2008年3月27日に詳述。</ref>、福岡県[[多々良川]]水系産の個体群を[[常陸宮正仁親王|常陸宮]]邸内の池で、それぞれ[[1983年]]以来飼育・研究に供していることに触れた。


[[:en:Rosy bitterling]]内の「Conservation」の項目も参照されたい。
<small>''[[:en:Rosy bitterling#Conservation]]も参照''</small>

== 脚注 ==
{{reflist}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
<small>
* 『原色ワイド図鑑5 魚・貝』、学習研究社、1984年、13頁。
* 『原色ワイド図鑑5 魚・貝』、学習研究社、1984年、13頁。
* 『小学館の図鑑NEO 魚』、小学館、2003年、40頁。
* 『小学館の図鑑NEO 魚』、小学館、2003年、40頁。
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* 石井実監修・(財)日本自然保護協会編『生態学からみた里やまの自然と保護』、講談社サイエンティフィク、2005年、74-81頁。
* 石井実監修・(財)日本自然保護協会編『生態学からみた里やまの自然と保護』、講談社サイエンティフィク、2005年、74-81頁。
* 岡山県環境文化部自然環境課『岡山県版レッドデータブック2009-絶滅のおそれのある野生生物-』、2010年、126頁。
* 岡山県環境文化部自然環境課『岡山県版レッドデータブック2009-絶滅のおそれのある野生生物-』、2010年、126頁。
* 香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会「ニッポンバラタナゴの保護-希少生物保全への合意形成を目指して-」、環境省・(財)日本鳥類保護連盟『[http://www.jspb.org/jiseki/ji41.pdf 第41回全国野生生物保護実績発表大会記録]』、2007年、16-17頁。
* 香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会「ニッポンバラタナゴの保護-希少生物保全への合意形成を目指して-」、環境省・(財)日本鳥類保護連盟『第41回全国野生生物保護実績発表大会記録』、2007年、16-17頁。
* 片野修・森誠一監修・編『希少淡水魚の現在と未来-積極的保全のシナリオ』、信山社、2005年、122-141、341-384頁。
* 片野修・森誠一監修・編『希少淡水魚の現在と未来-積極的保全のシナリオ』、信山社、2005年、122-141、341-384頁。
* 葛島一美『水郷のタナゴ釣り』、つり人社、2008年。
* 葛島一美『水郷のタナゴ釣り』、つり人社、2008年。
168行目: 214行目:
* 河村功一ほか「近縁外来種との交雑による在来種絶滅のメカニズム」、『日本生態学会誌』第59巻第2号、2009年、131-143頁。
* 河村功一ほか「近縁外来種との交雑による在来種絶滅のメカニズム」、『日本生態学会誌』第59巻第2号、2009年、131-143頁。
* [http://www.fish-isj.jp/iin/nature/article/pdf/5502_series.pdf 日本魚類学会 シリーズ・日本の希少魚類の現状と課題]:北村淳一「タナゴ亜科魚類:現状と保全」、『魚類学雑誌』第55巻第2号、2008年、139-144頁。
* [http://www.fish-isj.jp/iin/nature/article/pdf/5502_series.pdf 日本魚類学会 シリーズ・日本の希少魚類の現状と課題]:北村淳一「タナゴ亜科魚類:現状と保全」、『魚類学雑誌』第55巻第2号、2008年、139-144頁。
* 北村淳一・諸澤崇裕「霞ヶ浦流入河川におけるタナゴ亜科魚類の産卵母貝利用」、『魚類学雑誌』第57巻第2号、2010年、149-153頁。
* 白井康子・池田滋・田島茂行「バラタナゴ2亜種(ニッポンバラタナゴおよびタイリクバラタナゴ)におけるマイクロサテライト座のサイズホモプラシー」、『魚類学雑誌』第56巻第2号、2009年、165-169頁。
* 清風高等学校生物部・関西大倉高等学校「[http://www.japanriver.or.jp/taisyo/oubo_jyusyou/jyusyou_katudou/no9/no9_pdf/seifuu_kansai.pdf キンタイを救う“池干し”の謎-ニッポンバラタナゴの産卵床となるドブガイの繁殖に影響を及ぼす伝統的な“池干し”の効果]」、日本水大賞委員会『第9回日本水大賞・受賞活動集』、2007年、100-108頁。
* 清風高等学校生物部・関西大倉高等学校「[http://www.japanriver.or.jp/taisyo/oubo_jyusyou/jyusyou_katudou/no9/no9_pdf/seifuu_kansai.pdf キンタイを救う“池干し”の謎-ニッポンバラタナゴの産卵床となるドブガイの繁殖に影響を及ぼす伝統的な“池干し”の効果]」、日本水大賞委員会『第9回日本水大賞・受賞活動集』、2007年、100-108頁。
* 清風高等学校生物部「バラタナゴはドブガイ模型に産卵するかpart2-産卵と放精を誘発するアミノ酸の不思議」、読売新聞社『第53回日本学生科学賞作品集』、2010年、88-90頁。
* 瀬能宏監修・松沢陽士『日本の外来魚ガイド』、文一総合出版、2008年、32-35頁。
* 多紀保彦監修・(財)自然環境研究センター編『決定版 日本の外来生物』、平凡社、2008年、124-125頁。
* 多紀保彦監修・(財)自然環境研究センター編『決定版 日本の外来生物』、平凡社、2008年、124-125頁。
* 長田芳和監修・福原修一『貝に卵を産む魚』、トンボ出版、2000年。
* 長田芳和監修・福原修一『貝に卵を産む魚』、トンボ出版、2000年。
* 三宅琢也ほか「奈良県内で確認されたニッポンバラタナゴ」、『魚類学雑誌』第54巻第2号、2007年、139-148頁。
* 三宅琢也ほか「奈良県内で確認されたニッポンバラタナゴ」、『魚類学雑誌』第54巻第2号、2007年、139-148頁。
* 三宅琢也ほか「ミトコンドリアDNAと形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状」、『日本水産学会誌』第74巻第6号、2008年、1060-1067頁。
* 三宅琢也ほか「ミトコンドリアDNAと形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状」、『日本水産学会誌』第74巻第6号、2008年、1060-1067頁。
* 諸澤崇裕・藤岡正博「霞ヶ浦における在来4種と外来3種のタナゴ類(Acheilognathinae)の生息状況」、『魚類学雑誌』第54巻第2号、2007年、129-137頁。
* 「絶滅防げ!救出大作戦 奈良公園にニッポンバラタナゴ」、『奈良新聞』2008年3月24日。
* 「絶滅防げ!救出大作戦 奈良公園にニッポンバラタナゴ」、『奈良新聞』2008年3月24日。
* 「シリーズ環境 次世代へ 増やせニッポンバラタナゴ-大阪府八尾市 効果絶大『先人の知恵』」、『産経新聞』2008年7月27日。
* 「シリーズ環境 次世代へ 増やせニッポンバラタナゴ-大阪府八尾市 効果絶大『先人の知恵』」、『産経新聞』2008年7月27日。
178行目: 229行目:
* 「絶滅危惧種のニッポンバラタナゴ放流…近大農学部、構内のため池に」、『読売新聞』2010年2月10日。
* 「絶滅危惧種のニッポンバラタナゴ放流…近大農学部、構内のため池に」、『読売新聞』2010年2月10日。
* 「絶滅危惧種『ニッポンバラタナゴ』救え-鼓阪小が『里親』 児童ら池に放流」、『朝日新聞(奈良版)』2010年2月24日。
* 「絶滅危惧種『ニッポンバラタナゴ』救え-鼓阪小が『里親』 児童ら池に放流」、『朝日新聞(奈良版)』2010年2月24日。
* 「希少種タナゴ 奈良の児童観察」、『読売新聞(奈良版)』2010年10月7日。

</small>
== 脚注 ==
{{reflist}}


== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
{{Commons|Rhodeus ocellatus kurumeus}}
* [[タナゴ亜科]]
* [[タナゴ亜科]]
* [[バラタナゴ属]]
* [[ため池]]
* [[用水路]]
* [[外来種]]


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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* [http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/list_gyo.html 要注意外来生物リスト 魚類]: 環境省 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室 「タイリクバラタナゴ」の項参照。
* [http://www.env.go.jp/nature/intro/1outline/caution/list_gyo.html 要注意外来生物リスト 魚類]: 環境省 自然環境局 野生生物課 外来生物対策室 「タイリクバラタナゴ」の項参照。
* [http://www.fish-isj.jp/iin/nature/index.html 日本魚類学会自然保護委員会]
* [http://www.fish-isj.jp/iin/nature/index.html 日本魚類学会自然保護委員会]
* [http://www.kawachi.zaq.ne.jp/dpbva000/index.html ニッポンバラタナゴの保護と環境保全]: NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会
* [http://n-baratanago.o.oo7.jp/ ニッポンバラタナゴの保護と環境保全]: NPO法人 ニッポンバラタナゴ高安研究会
* [http://www.purety.jp/fish/ 消えゆく日本の淡水魚たち]: 香川淡水魚研究会
* [http://www.purety.jp/fish/ 消えゆく日本の淡水魚たち]: 香川淡水魚研究会
* [http://www.pref.kagawa.lg.jp/kankyo/shizen/hogo_jyore/baratanago.htm ニッポンバラタナゴ保護事業計画]: 香川県環境森林部 みどり保全課
* [http://www.pref.kagawa.lg.jp/kankyo/shizen/hogo_jyore/baratanago.htm ニッポンバラタナゴ保護事業計画]: 香川県環境森林部 みどり保全課
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[[Category:コイ科|はらたなこ]]
[[Category:コイ科|はらたなこ]]
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[[nl:Chinese bittervoorn]]
[[nl:Chinese bittervoorn]]

2010年11月18日 (木) 17:23時点における版

バラタナゴ
ニッポンバラタナゴ雄
香川県産ニッポンバラタナゴ雄個体。
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 条鰭綱 Actinopterygii
上目 : 骨鰾上目 Ostariophysi
: コイ目 Cypriniformes
: コイ科 Cyprinidae
亜科 : タナゴ亜科
Acheilognathinae
: バラタナゴ属 Rhodeus
: バラタナゴ R. ocellatus
学名
Rhodeus ocellatus
(Kner, 1866)
和名
バラタナゴ
英名
Rosy bitterling
香川県産ニッポンバラタナゴ雌個体。抱卵しており、産卵管が見える。
琵琶湖・淀川水系産タイリクバラタナゴ雄個体。腹鰭の前縁部に白線が現れている。
香川県産バラタナゴ雄個体。農業用水路で採集されたもの。側線有孔鱗と腹鰭前縁部の白線が見える(赤丸参照)。この個体がタイリクバラタナゴなのか交雑個体なのかは遺伝情報の解析を要する。

バラタナゴ(薔薇鱮、薔薇鰱、Rhodeus ocellatus)は、コイ目コイ科タナゴ亜科バラタナゴ属に分類される淡水魚。ニッポンバラタナゴRhodeus ocellatus kurumeus)とタイリクバラタナゴRhodeus ocellatus ocellatus)の2亜種ならびに、両者の交雑個体が知られる[1]

分布・保全状況評価

  • R. o. kurumeus ニッポンバラタナゴ

絶滅危惧IA類 (CR)環境省レッドリスト

日本固有亜種大阪府淀川水系、奈良県大和川水系、岡山県香川県福岡県佐賀県熊本県大分県[2]長崎県

兵庫県における分布は、大阪府からの移殖である可能性が高いとされる[3][4]

各生息地ともに局所的な分布となっており、希少種保護の観点から、生息地の詳細は非公開が通例である[5]

2010年4月に改訂・公表された「岡山県版レッドデータブック」において、同県内のため池1か所の個体群が純系[6]のニッポンバラタナゴであると報告された。しかし、滋賀県京都府ではすでに絶滅している。生息が確認されている府県すべてでレッドデータブックに記載されており、福岡県(絶滅危惧II類相当)を除いて軒並み「絶滅危惧I類相当」に選定されている(下表参照)[7]

都道府県別レッドリスト(2010年現在)

カテゴリ 都道府県
絶滅 滋賀県 京都府
絶滅危惧I類相当 大阪府 奈良県 兵庫県 岡山県 香川県 佐賀県 熊本県 長崎県 
絶滅危惧II類相当 福岡県
情報不足 徳島県[8] 大分県

また、2008年宮崎県の北川水系における個体群からニッポンバラタナゴのミトコンドリアDNA(mtDNA)が確認され、九州産のニッポンバラタナゴについては、従来の見解より広範囲に分布していた可能性が示唆された。ただし、北川水系の個体群は、遺伝情報の解析により両亜種の交雑集団であると判定されている[9]

  • R. o. ocellatus タイリクバラタナゴ

中国南部、台湾朝鮮半島に分布[10]。日本各地に移入(後述)。

環境省は「要注意外来生物」に、日本生態学会は「日本の侵略的外来種ワースト100」にそれぞれ選定している[11]

地方名

  •  ニッポンバラタナゴ[12]
    •  キンタイ、タウラコ、ボテキン(大阪府)
    •  ボテ、ボテジャコ、クソボテ(琵琶湖・淀川水系、他のタナゴ類との混称)
    •  キンタナゴ(琵琶湖・淀川水系)
    •  キンタ、キンタフナ、ケンタ、ペタキン(奈良県)
    •  カメンタ(岡山県、他のタナゴ類との混称)
    •  ニガブナ(香川県・福岡県・佐賀県)
    •  イタブナ、タイコブナ、ニガンチョウ、ヒラブナ(香川県)
    •  シビンタ(福岡県・佐賀県・熊本県)
    •  ベンチョコ(福岡県、他のタナゴ類との混称)
    •  シュビンタ、シュブタ、ハエ(福岡県)
    •  シブタ、シンゴッチャー(佐賀県)
    •  カンノンバヤ、クソバヤ、タバヤ、デンバヤ、ベンバヤ(佐賀県、他のタナゴ類との混称)
    •  シビンチャ、ビンタ、ベンタサン、アカブナ、シビンタン、ショビンタ、ニガビンタ、ヒラビンタ(熊本県)
  •  タイリクバラタナゴ[12]
    •  タランコ(福島県、他のタナゴ類との混称)
    •  オカメ、オカメタナゴ(関東地方ゼニタナゴとの混称)
    •  センパラ、センペラ(濃尾平野イタセンパラとの混称)
    •  ボテ、ボテジャコ、ヒランタ(琵琶湖・淀川水系、他のタナゴ類との混称)

形態

器官については魚類#体の構造も参照

おおむね雌よりも雄の方が大型になる。平らな体をもち、体高が高い。口髭はない。体は銀色だが虹色の光沢がある。稚魚・未成魚では背鰭の前端部に明瞭な黒斑が入るが、雄の場合成熟に従って消失する。染色体数は2n=48[1]

繁殖期の雄は紫色や鮮紅色の光沢をもつ婚姻色に輝く。この婚姻色(バラ色)が和名の由来。雌の産卵管は長く、産卵期の伸長時には全長を上回ることがある[1]

  • R. o. kurumeus ニッポンバラタナゴ

全長約5cm。雄の婚姻色は、タイリクバラタナゴよりも赤褐色を帯び、腹鰭が黒く縁取られる[1]側線は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で11-12(最頻値12)・背鰭分岐軟条が9-12、臀鰭主鰭で11-12(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が9-12。側線有孔鱗[13]の数は産地によって異なるが、およそ0-5である(最頻値0。九州産の個体群は若干多い)[3]

  • R. o. ocellatus タイリクバラタナゴ

全長約8cm。腹鰭の前端部にグアニン層による白い筋が入るとされる。しかし雌では不明瞭であったり、なかったりする個体も存在する[1]。側線は不完全で、鰭条数は背鰭主鰭で12-14(最頻値13)・背鰭分岐軟条が10-13、臀鰭主鰭で12-13(最頻値12)・臀鰭分岐軟条が10-12。側線有孔鱗の数は2-7(最頻値5)[3]

ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴは容易に交雑し、代々妊性(稔性)をもつ交雑個体群が繁殖(遺伝子浸透を伴って交雑)し分布を広げていくため、形態のみによる両者の判別は困難である[14]。側線有孔鱗の計数や腹鰭の白色帯の有無の確認により、タイリクバラタナゴあるいは交雑個体群の侵入が認められるかを概観することはできる[15]。最終的に純系のニッポンバラタナゴであることを示すには、個体群単位でアイソザイム分析やmtDNA分析等を行って判定する[16]

ニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴが交雑・増殖する過程では、前者の対立遺伝子が後者の対立遺伝子に置換され、タイリクバラタナゴの形質が強く現れた個体群となっていく傾向が高いことが判明している(遺伝的汚染・遺伝的攪乱)[14]

2009年、野外調査と飼育実験によって、適応度の高さがタイリクバラタナゴ>交雑個体>ニッポンバラタナゴ、であることが明らかにされた。その際、両亜種が混在した状態ではある程度の生殖的隔離(交配前隔離)が働くものの[17]、個体数の偏り(ニッポンバラタナゴの集団に少数のタイリクバラタナゴが侵入すること)によって同亜種間の交配が妨げられて交雑が生じ、タイリクバラタナゴの繁殖率の高さ(後述)が加わってニッポンバラタナゴは絶滅へと向かうことが判明した。あわせて、ニッポンバラタナゴが絶滅した後もタイリクバラタナゴは個体群を維持し、交雑個体群と戻し交雑を生じさせて、交雑個体へタイリクバラタナゴの遺伝子を浸透させ続ける可能性が高いと指摘された[14]

2000年以降、mtDNAのPCR-RFLP分析に加え、DNAシークエンシングや高感度の遺伝マーカーであるマイクロサテライトの分析によって、ニッポンバラタナゴのハプロタイプを産地別に明らかにし、タイリクバラタナゴや交雑個体群との遺伝的分化を解明する研究が進められている[16][18][19][20]

その結果、大阪・奈良・香川産のニッポンバラタナゴは、閉鎖的かつ小規模な水域のため池に生息するが故に、個体群間の交流が妨げられたりボトルネック効果が生じたりすることによって、遺伝的多様性が低下していることが判明した。同時に、九州産の個体群と比較したところ、大阪産のそれは、産卵数・孵化率・仔魚の生存率・成長・白点病や細菌感染症などの魚病に対する抵抗力、の各項目すべてで著しく劣ることがわかった。ため池という隔離され不安定な環境の中で、小集団化と近親交配が進んで[21]遺伝的に劣化が生じ、個体群の維持を難しくさせているのが現状である[3]

2008年、九州産のニッポンバラタナゴについては、ほとんどの生息地[22]においてその近隣にタイリクバラタナゴや交雑個体群が確認された。当地のニッポンバラタナゴは、水路河川の緩流域等の開放的な水域に生息するため、タイリクバラタナゴの遺伝子が侵入する恐れが常時ある[9]

亜種

  • Rhodeus ocellatus kurumeus Jordan & Thompson, 1914 ニッポンバラタナゴ
  • Rhodeus ocellatus ocellatus Kner, 1866 タイリクバラタナゴ

2001年、両亜種は遺伝的に大きく異なることが明らかになったため、両者の分類学的再検討が必要であると指摘されている[23]

生態

河川の中・下流域で比較的流れの穏やかなところや、用水路の緩流域・ため池・などに分布する。止水域を好む[1]

付着藻類などの植物食を主とするが、稚魚期を中心にワムシなどの輪形動物ミジンコなどの甲殻類や小型の底生動物も食う[1]

繁殖形態は卵生で、3-9月にドブガイ類などのイシガイ科の二枚貝に産卵する。繁殖のピークは4月下旬-6月上旬。雄は二枚貝の周りになわばりをつくり、十分成熟した雌を二枚貝に誘導し産卵を促す[24]。雌は二枚貝の様子を覗き込み、タイミングを見計らって産卵管を二枚貝の出水管に入れ、貝のえらの中に卵を産みつける。その直後に雄は貝の入水管の上で精子を放ち、貝が精子を貝内に取り込むことによって卵は受精する。受精卵は1-3日で孵化し、仔魚は約20日から1か月間貝内で過ごし全長7-8mmに成長すると、主に夜から夜明け前にかけて貝から泳ぎ出てくる[3][25]

仔魚は約1年で成熟し、寿命は自然下でおよそ2年[1]。ただし、産卵期の初期に生まれた成長のよい個体の中には、同年秋までに成熟し産卵するものも見られる[26]

大阪産のニッポンバラタナゴの場合、雌は1繁殖期に9-12日の周期で3-5回排卵するという。1回で約10個を排卵し、上記の産卵行動1回当たりで1-3個を産卵し、2-3日で複数のドブガイ類に産み付けていく[3]栃木産のタイリクバラタナゴでは、大阪産のニッポンバラタナゴと比較して排卵周期は2倍速く、1繁殖期当たりの排卵回数は4倍、1回の排卵数は1.5倍それぞれ多く、繁殖期は3倍長かったことが判明している[14]

つまり、タイリクバラタナゴはニッポンバラタナゴより成長が早く産卵数も多い[3]。結果として、タイリクバラタナゴが移殖された地域では、産卵する二枚貝や生息場所などをめぐって他のタナゴ類と競合すると言われる(生態系の攪乱)。例えば、神奈川県鶴見川水系のため池はゼニタナゴの生息地であったが、1980年代初頭にタイリクバラタナゴが侵入したことで、ゼニタナゴは激減した。水質の悪化で大幅に減少したドブガイ類にタイリクバラタナゴが、ゼニタナゴの産卵シーズンである秋にかけても集中して産卵を続けたため、ゼニタナゴの産卵が阻害されたからである[3][27]

霞ヶ浦とその流入河川・農業用水路における、タナゴ類・二枚貝の生息調査ならびに環境要因の分析では、タイリクバラタナゴは採捕されたタナゴ類全体の約70-90%を占めていた。そして、同所生息するアカヒレタビラタナゴ等と比較してコンクリート護岸化や水質の悪化に対する耐性をもっていることが明らかになった[28]。加えて、2009年の同地域における調査では、タイリクバラタナゴは優占するイシガイ[29]には産卵せず、生息数の少ないドブガイ類を選択して利用していたという。タイリクバラタナゴはアカヒレタビラとは産卵母貝の選択を異にし、卵や仔魚についてはアカヒレタビラがタイリクバラタナゴより多く観察されたにもかかわらず、捕獲される個体数ではタイリクバラタナゴが卓越する結果となった。餌や生息場所の利用・環境改変への耐性などが、アカヒレタビラをはじめとするタナゴ類よりもタイリクバラタナゴに有利に働いていると考えられている[30]

清風高等学校生物部が2008-2009年に行った実験によると、ドブガイ類が排出する水にはアラニングルタミングリシンリシン等のアミノ酸が含まれており、成熟したバラタナゴはこれを刺激に産卵・放精に入ることが分かった。雌の産卵時に放出される卵巣腔液にはリシンが高い濃度で含まれており、雄はそれに誘発され放精することも明らかになった。バラタナゴとドブガイ類・バラタナゴの雌雄間で共通のアミノ酸が情報伝達に使われていることから、バラタナゴとトブガイ類は共進化してきた可能性が示された[31]

人間との関係

開発による生息地の改変、二枚貝の減少、ため池管理の放棄、人為的に移殖されたオオクチバスブラックバス)・ブルーギル[32]等による捕食、水質汚濁乱獲などがバラタナゴの減少要因である[3]。特にニッポンバラタナゴは、1940年代には琵琶湖以西の本州瀬戸内海側(岡山県まで)・香川県・九州北中部に広く生息していたが、その後タイリクバラタナゴの移殖に伴い亜種間での交雑が進んだことも加わって分布域は年々狭められている[3]。結果、ニッポンバラタナゴは純系を維持するのが極めて厳しい状況で、絶滅の危機に瀕している[1]

タイリクバラタナゴは、第二次世界大戦中の1940年代前半、中国から食用としてソウギョハクレンなどを日本(主に利根川水系)に導入する際、これらに混じって運ばれてきたと言われる[1]。20世紀後半には、イケチョウガイなどの淡水産二枚貝の移動[33]、琵琶湖産アユの放流、琵琶湖・淀川水系からのヘラブナの移殖[34]、ペットショップでの流通、飼育個体の放流や遺棄などによって、全国各地へ同時に分布を広げていった[10]

両亜種は、観賞魚として飼育される。体色から人気が高く、ペットショップで販売されている。タイリクバラタナゴについては突然変異等により、黄変個体・白変個体・透明鱗個体なども増殖され流通している。水槽飼育では、強い水流を避け植物質の含有量の多い飼料を与え、群泳させるとよいとされている。雄の婚姻色を楽しむためには、照明と水温を自然下に近づけ、水槽の正面以外の面に黒系のスクリーンを張り、セキショウモ属のような水面付近まで茂る水草を植えるとよいと言われる[35]。飼育下での繁殖法としては、二枚貝を同居させ自然に産卵させる方法と、繁殖期の雌雄から卵と精子を搾り出し人工受精させる方法がある[36]

一方、ニッポンバラタナゴの飼育については、絶滅が危惧されている状況を踏まえ、安易な採集・飼育をしないよう求められている[37]。ニッポンバラタナゴはその希少性に鑑み、各地で希少野生動植物保護条例に基づいて野生個体の捕獲を規制する動きが広がっている。

香川県では2006年、「香川県希少野生生物の保護に関する条例」とその施行規則によって、ニッポンバラタナゴは「指定希少野生生物」に指定され、捕獲等が禁止されている。違反すると、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられる。加えて奈良県でも2010年4月から、「奈良県希少野生動植物の保護に関する条例」による告示に基づき、「特定希少野生動植物」に指定され、捕獲等は禁止である。違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる。長崎県では2010年3月、「長崎県未来につながる環境を守り育てる条例」による告示で、佐世保市のニッポンバラタナゴが「希少野生動植物種保存地域」に指定され、捕獲等が禁じられた。違反すると、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられる。

産地にかかわらず、ニッポンバラタナゴの野生個体を、興味本位で採集したり、売買などの商業利用を行ったり、研究材料として安易に使用したり、保護計画を策定せずみだりに放流したりすることは、ニッポンバラタナゴの絶滅に加担することであると指摘されている。モラルある採集・飼育・調査研究が求められている[38]

亜種間交雑個体を形成し増殖させることによる遺伝子汚染・純系のニッポンバラタナゴの消失・在来生態系の攪乱・病原体寄生虫を含む)の伝染・ニッポンバラタナゴ在来集団の適応度の低下などが懸念されるので、タイリクバラタナゴ・ニッポンバラタナゴともに屋外への遺棄は決して行ってはならない、と行政・研究者等から呼びかけられている。

例えば、滋賀県では「ふるさと滋賀の野生動植物との共生に関する条例」による告示に基づいて、タイリクバラタナゴは「指定外来種」となっており、屋外への遺棄が禁止され、飼育が届出制になっている。屋外へ遺棄した場合は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に、届出のない飼育は30万円以下の罰金にそれぞれ処せられる[39]

タイリクバラタナゴは、関東地方を中心に釣りの対象魚となっている。ユスリカ幼虫のアカムシ・練り餌などを小さな針につけ、浅場や船だまりの群れを狙う[40]。釣具はネットショッピングにおいても入手できるようになった[41]

一般的ではないものの、他のタナゴ類・モロコ類・フナ類と併せて食用とされることがある。独特の苦みを利用して、佃煮や雀焼きなどに調理する[42]。ただし内部寄生虫(肝吸虫など)を保持する可能性があるので、生食は避ける[43]

ニッポンバラタナゴの保護

絶滅の危機に直面しているニッポンバラタナゴを保護する取り組みが、各生息地で始まっている。

保護にあたって考慮すべき条件として、指摘されているものを列挙する[1][3][10]

  •  保護活動は、ニッポンバラタナゴの生息地で行う。
  •  ニッポンバラタナゴが産卵する、ドブガイ類などのイシガイ科の二枚貝が繁殖できる環境にする。二枚貝の生息には、餌となるケイソウ類が豊富に含まれ、溶存酸素量が十分確保された水質と、砂泥底から泥底の底質が必要である。なお、二枚貝の他水域からの移殖は、貝内仔魚の残存による国外・国内外来種のタナゴ類(タイリクバラタナゴ・オオタナゴカネヒラ等)の非意図的な侵入を招く恐れがあるので、原則行わない。
  •  ドブガイ類は幼生(グロキディウム)期に、ヨシノボリ(トウヨシノボリなど)属などの底生魚の鰭に寄生し成長する。したがって、ドブガイ類の繁殖には、これら底生魚の存在が不可欠である。
  •  前2項をまとめると、「ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が、同じ場所で繁殖できる環境」が要求されるのである。
  •  オオクチバス、ブルーギル(ニッポンバラタナゴを捕食)・タイリクバラタナゴ(ニッポンバラタナゴと交雑)・アライグマ(ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類を捕食)[44]アメリカザリガニヌートリア[45](ドブガイ類を捕食)などの外来生物の侵入を防止する。生息している場合は、適切な方法で防除する[46]コイもドブガイ類やニッポンバラタナゴの稚魚を捕食するため、生息状況を調査し、適切な管理を行う。
  •  サギ類やカワウによる、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類の捕食に注意する。サギ類は水位減少時の魚類・二枚貝の捕食が、カワウは魚類の捕食がそれぞれ多く見られる。
  •  密漁や外来生物を意図的に放流されることのないよう、監視態勢を整える。地域ぐるみの保護活動が軌道に乗るまでは生息地の詳細を公開しない。
  •  生息地の人為的な環境の改変、つまりニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類が生息できないような環境にすることを防ぐ。
  •  遺伝的な劣化や個体数の減少を防ぐため、生息地点に応じ適切な個体数となるよう管理し、生物多様性の視点に立ち継続的にモニタリング調査[47]を行う。そのために、魚が行き来できる範囲の自然を、人間の手で総合的によいものにする取り組みを続ける。
  •  前項の具体例としては、用水路やため池の連結性を高める・ため池の水を用水として積極的に利用する・水域の富栄養化防止のための用水路の手入れ、ため池の堆積物と軟泥(ヘドロ)流し(かいぼり・ドビ流し、後述)並びに池干し・繁茂した水生植物の間引き・周辺の森林の整備、などである。
  •  実際に保護活動を進めるにあたっては、水利権者・土地所有者・農業関係者・土地改良事業者などとの調整の機会が頻出するので、合意形成の手法を検討し、地域の実態に応じた形で具体化する。そして、ニッポンバラタナゴが生息する環境を保全していく意義を、地域住民に普及啓発する活動を継続的に行う。

ニッポンバラタナゴは人間生活の影響を受ける環境のもとで、種々の生物と巧妙に関わり合って命をつないでいる魚である。ニッポンバラタナゴの生活史と上記各項を総合させて、「ニッポンバラタナゴの保護は、生息地域の環境保全に他ならない」、と結論づけられている[48]。保護団体・学識経験者・行政が連携して保護計画を作成し、保護活動に地域住民が参画して保護を推進する必要性が明らかにされている[49]

大阪府では、「NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会」が清風中学校・高等学校生物部、興國高等学校科学部、関西大倉高等学校のメンバー、地域の小・中学生とともに、主に八尾市で保護活動に取り組んでいる。保護池において、秋から冬に池干しを行って堆積物や軟泥(ヘドロ)を除去し底質を還元泥から酸化土にすることが、ドブガイ類の繁殖に好条件をもたらす[50]ことを明らかにした[51]。2008年2月、当地で伝統的に行われていた「ドビ流し」[52]を約40年ぶりに実施し、農業にも好適であるか土壌分析を行っている。あわせて、保護池上流の森林を整備し[53]、保護池に良質の水を供給する活動を進めている[54]

奈良県では、「近畿大学農学部環境管理学科水圏生態学研究室を中心とする研究グループ」が、生息地のため池の浚渫工事に伴い避難させた個体群を、絶滅の危険を分散するために、修繕した別のため池にも移殖し管理していくことになった。2008年、元の生息池の工事も完了し、そこでの生息環境の大幅な改善が確認されている[55]。また、2010年2月より「里親プロジェクト」を開始した。在来生態系の保全に専門的な立場から検討を加え、小学校等における環境教育プログラムも実践しつつ、生息地域内の複数の施設でニッポンバラタナゴの系統保存を図る計画が進捗中である[56]。「奈良県くらし創造部景観・環境局自然環境課」は、ニッポンバラタナゴを含む特定希少野生動植物の保護推進指針(ニッポンバラタナゴ保護推進指針)を示している。

香川県では、「香川淡水魚研究会」が香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会と連携して活動している。地域の農家と協力し、稲作にため池の水を活用する環境のもとで外来生物の影響を排除し、ニッポンバラタナゴ・ドブガイ類・ヨシノボリ類を安定的に繁殖させることに成功している[57]。また、「香川県環境森林部みどり保全課」は、ニッポンバラタナゴ保護事業計画を2009年に策定した。

長崎県では、「佐世保市環境部環境保全課」が、県内唯一の生息地の保護に地域住民と協同して取り組んでいる。

なお、ニッポンバラタナゴを系統保存している主な施設は以下の通りである[3][16][58]

今上天皇は、2007年12月20日の記者会見で「ニッポンバラタナゴは日本の淡水魚の中で最も絶滅の危機にあるものと思います。」と述べた。その上で、タイリクバラタナゴとの交雑を避けるため、大阪府八尾市産の個体群を赤坂御用地[59]、福岡県多々良川水系産の個体群を常陸宮邸内の池で、それぞれ1983年以来飼育・研究に供していることに触れた。

en:Rosy bitterling#Conservationも参照

脚注

  1. ^ a b c d e f g h i j k 川那部ほか(2001)
  2. ^ 大分県レッドデータブックには「情報不足」として記載。過去に生息報告があったが、1990-2000年の間に生息が確認できなかったという。
  3. ^ a b c d e f g h i j k l 片野ほか(2005)
  4. ^ 神戸市のため池に生息する個体群は、「国内移入種」にリストアップされている。神戸市環境局環境創造部環境評価共生推進室の情報による。ただし、「兵庫県版レッドデータブック2003」では「絶滅危惧I類相当」に選定されている。
  5. ^ 奈良県・香川県等における本亜種の保護指針や各府県のレッドデータブックの記述による。
  6. ^ タイリクバラタナゴとの交雑(本文後述)が認められないことをいう。
  7. ^ 各府県版レッドデータブックの記載による。
  8. ^ 徳島県版レッドデータブックによると、過去に確実な生息報告はなく、詳細な分布調査が行われる前にタイリクバラタナゴが侵入したという(交雑個体群となっている可能性も指摘されている)。現状、隔離されたため池等の水域に残存している可能性が挙げられている。
  9. ^ a b 三宅ほか(2008)
  10. ^ a b c 多紀(2008)
  11. ^ 交雑・競合(本文後述)の要因で、「被害に係る一定の知見はあり、引き続き特定外来生物等への指定の適否について検討する外来生物」と環境省は定義しているが、本亜種はニッポンバラタナゴと形態的識別が難しいこと(本文後述)や飼育個体の大量の遺棄が生じる恐れがあることで防除の実施と被害の拡大防止が困難になるとして、特定外来生物への指定は、2010年現在検討中となっている。
  12. ^ a b 青山ほか(2002)。また、環境省(調査時は環境庁)「第2回自然環境保全基礎調査総合とりまとめ 第2回緑の国勢調査(本編)(1982)」にも淡水魚の地方名に関する調査結果が記されている。
  13. ^ 採集個体をオイゲノール等で麻酔させ、ルーペ(×10)もしくは実体顕微鏡を用いて計数する。おおむね全長2cm以上の個体から計数可能である。三宅ほか(2008)
  14. ^ a b c d 河村ほか(2009)
  15. ^ 九州産のバラタナゴ46集団696個体について側線有孔鱗の計数とmtDNA分析を行ったところ、ニッポンバラタナゴ型のmtDNAが確認されたのは28集団で、そのうち17集団の側線有孔鱗数が0、残り11集団の側線有孔鱗の平均値は0.1-0.7であった。タイリクバラタナゴ型のmtDNAが確認されたのは5集団で、側線有孔鱗の平均値は3.8-5.2となった。両亜種のmtDNAが確認されたのは13集団で、側線有孔鱗の平均値は0.5-5.7の結果が得られた。さらに、タイリクバラタナゴ型のmtDNAの頻度と側線有孔鱗数の平均値との相関を調査したところ、両者は極めて高い正の相関が存在する(ニッポンバラタナゴの個体群にタイリクバラタナゴが侵入した集団において、タイリクバラタナゴ型のmtDNAの頻度が上がれば当該集団の側線有孔鱗数も増加する)ことが明らかになった。三宅ほか(2008)に詳述。
  16. ^ a b c 三宅ほか(2007)
  17. ^ ニッポンバラタナゴ雄×タイリクバラタナゴ雌・タイリクバラタナゴ雄×ニッポンバラタナゴ雌のペア産卵の頻度と成功率は、ニッポンバラタナゴ・タイリクバラタナゴ同士のペア産卵の3分の1から2分の1であった。雄の求愛行動がニッポンバラタナゴとタイリクバラタナゴとで異なっていることが一因と考えられている。しかし、亜種間で交雑が生じるときには、交雑の方向性に有意な差は認められず、F1個体に雑種強勢も存在しなかったという。あわせて、交雑個体群ではハーディー・ワインベルクの法則が継続して成立し、連鎖不平衡指数がほぼ0の「連鎖平衡」も成立していることから、交雑個体群は任意交配の状態にあるとされる。河村ほか(2009)に詳述。
  18. ^ 青山ほか(2002)、10-13頁。
  19. ^ 白井・池田・田島(2009)
  20. ^ 参考文献の他に、香川県産ニッポンバラタナゴについては2001年より、香川県環境保健研究センター香川大学総合生命科学研究センターが共同で解析を行っている。結果は、「香川県環境保健研究センター所報第5号」(2006年)以降にまとめられている。
  21. ^ ニッポンバラタナゴについて鱗移植の実験を行ったところ、九州産同士では拒絶反応が起こり受理されなかったのに対して、大阪産同士では移植した鱗が受理されたという。河村功一の研究(2005年)による。片野ほか(2005)、125-126頁ならびにKawamura, K. 2005.“Low genetic variation and inbreeding depression in small isolated population of the Japanese rosy bitterling, Rhodeus ocellatus kurumeus”. Zool. Sci., 22:517–524. に詳述。
  22. ^ 三宅ほか(2008)によると、筑紫平野の中部・東部を除いた水域を指す。
  23. ^ 環境省生物多様性情報システム「絶滅危惧種情報検索」内の記述による。その根拠となる出典としては、Kawamura, K., T.Ueda, R.Arai, Y.Nagata, K.Saitoh, H.Ohtaka and Y.Kanoh(2001).“Genetic introgression by the rose bitterling,Rhodeus ocellatus ocellatus, into the Japanese rose bitterling, R. o. kurumeus (Teleostei: Cyprinidae)”. Zool. Sci., 18:1027-1039. が挙げられる。「分類学的再検討」とは、両亜種(「亜種」と定義することへの検討も含んでいる)の学名の最適化・ニッポンバラタナゴ、タイリクバラタナゴ、交雑個体の簡便かつ正確な同定法の開発等である。
  24. ^ なわばりをもてなかった雄は、なわばりをもった雄の隙を窺って侵入し、産卵の直前と直後に精子を放っていく。この類の雄を「スニーカー」という。
  25. ^ 産卵行動の詳細、卵の発生、仔魚の貝内での成長、産卵母貝の利用の仕方など、NPO法人流域環境保全ネットワークや、NPO法人ニッポンバラタナゴ高安研究会のサイトが詳しい。参照されたい。
  26. ^ タイリクバラタナゴに多い。瀬能・松沢(2008)
  27. ^ タイリクバラタナゴの侵入と同じくして、ため池の一部がコンクリート護岸化され湧水の流入がなくなった。結果、ため池に軟泥(ヘドロ)が堆積し、ドブガイ類の死滅を招いた。激減したゼニタナゴは、1993年より神奈川県水産総合研究所内水面試験場で系統保存されている。その後、ため池にはブルーギルが移殖され、ブルーギルの侵入からおよそ5年後、自然下ではゼニタナゴもタイリクバラタナゴも当地から姿を消した。片野ほか(2005)、134-135頁に詳述。
  28. ^ 諸澤・藤岡(2007)
  29. ^ 殻長4cm以上の個体にアカヒレタビラが産卵していた。アカヒレタビラは大型のイシガイに産卵することが明らかになった。
  30. ^ 北村・諸澤(2010)
  31. ^ 清風高等学校生物部(2010)。同時にこの実験の過程で、吸水・排水の循環機能を持つ人工のドブガイ模型を開発し、バラタナゴの産卵ならびに受精に成功している。
  32. ^ 2005年に「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」が施行され、これらの移殖放流は違法である。罰則規定あり。
  33. ^ 利根川水系から琵琶湖への移動が最初とされる。イケチョウガイ(淡水産真珠の養殖用)のえらの中にタイリクバラタナゴの卵や仔魚が残存しており、そこから増殖とニッポンバラタナゴとの交雑とが同時進行した。川那部ほか(2001)
  34. ^ 琵琶湖産アユやヘラブナの種苗の中にタイリクバラタナゴが混入していた。
  35. ^ 赤井・伊藤・橋本(2008)
  36. ^ 赤井ほか(2004)
  37. ^ アクアライフ編集部編『川魚入門 採集と飼育-淡水魚と水辺の生きものを楽しむ』、マリン企画、2001年、65-66頁。
  38. ^ 日本魚類学会自然保護委員会では、「研究材料として魚類を使用する際のガイドライン」(2003年)・「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」(2005年)・「モラルある淡水魚採集について」(2006年)を策定し、研究者・一般向けに提言と啓発を行っている。
  39. ^ 佐賀県でもタイリクバラタナゴは、「佐賀県環境の保全と創造に関する条例」による告示に基づいて「移入規制種」に指定されている(2006年より)。罰則規定はないが、屋外に放つこと(再放流も含む)が禁止され、適切な飼養と販売者の購入者への説明(取扱いについて)が義務化されている。適切な飼養・取扱いとは「生きている個体や卵が屋外に出ない容器・施設で飼育し、水替えなどの際に布で濾過するなどの対策を講じて、稚魚や卵が飛散したり流失したりしないようにすること」とされている。
  40. ^ タイリクバラタナゴを含むタナゴ類・モツゴタモロコの釣法と用具についての解説が、葛島一美『水郷のタナゴ釣り』(つり人社、2008年)に記述されている。
  41. ^ 検索エンジンにて「タナゴ竿 通販」と入力して検索のこと。
  42. ^ 川那部ほか(2001)、355頁ならびに赤井ほか(2004)、96頁。雀焼きとは、串焼きにした魚を甘辛いタレで味付けして食す。小型のタナゴ類を用いるときは佃煮にしたものを串に刺すこともあるという。
  43. ^ 福岡市保健福祉局生活衛生部食品安全推進課 食中毒(自然毒・化学物質・その他)について
  44. ^ 多紀(2008)、51-53頁。特に、オオクチバス・ブルーギル・アライグマ・ヌートリアは特定外来生物に指定されている。
  45. ^ 多紀(2008)、44-45頁。あわせて、ヌートリア大量 捕食か イタセンパラ繁殖に不可欠 二枚貝 木曽川に貝殻散乱、「致命的影響も」『読売新聞』(中部支社版)2010年8月1日付も参照。
  46. ^ タイリクバラタナゴの侵入が確認されたときは、純系(非交雑)集団のみを選別し、施設に避難させて系統保存を行う。交雑集団の駆除が完全になされるまでは復元はできない。純系集団の選別にあたっては遺伝子分析を行うが、これはコスト・手間のかかる非常に困難な作業である、と河村功一は報告している。「保全遺伝学的視点から見た日本産タナゴ類における問題」(第2回全国タナゴサミットin八尾における報告、発表要旨集10-14頁、2007年)を参照 。
  47. ^ 在来の他種や生態系への影響についても検討を加える必要がある。日本魚類学会自然保護委員会「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」(2005年)参照 。
  48. ^ 片野ほか(2005)、130-131頁。
  49. ^ 片野ほか(2005)、382-383頁。
  50. ^ ドブガイ類の餌となるケイソウ類が多く発生する。
  51. ^ 清風高等学校生物部・関西大倉高等学校(2007)
  52. ^ ため池の堆積物や軟泥(ヘドロ)を田畑に流し込んで田畑の土壌改良を図ろうとすること。
  53. ^ 主にヒノキ林の間伐など。切り倒した木で土砂の流出を防ぐ。日照が増すことで新たに低木が生え、森林の保水性が高まり、ため池に水を安定供給できる。
  54. ^ 『産経新聞』2008年7月28日付
  55. ^ 「奈良のニッポンバラタナゴを守る」、『毎日新聞』2009年2月17日付
  56. ^ 『読売新聞』2010年2月10日付・『朝日新聞』(奈良版)2010年2月24日付・『読売新聞』(奈良版)2010年10月7日付
  57. ^ 香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会(2007)
  58. ^ 『奈良新聞』2008年3月24日付
  59. ^ 「皇室豆知識 赤坂御用地の「大土橋池」って?」、『産経新聞』2008年3月27日付に詳述。

参考文献

  •  『原色ワイド図鑑5 魚・貝』、学習研究社、1984年、13頁。
  •  『小学館の図鑑NEO 魚』、小学館、2003年、40頁。
  •  青山徳久・鈴木康典・淀江賢一郎編『タナゴの自然史』、島根県立宍道湖自然館ゴビウス、2002年、10-13、28-31頁。
  •  赤井裕ほか『タナゴのすべて-釣り・飼育・繁殖完全ガイド』、マリン企画、2004年。
  •  赤井裕・伊藤史彦・橋本直之「寒さに負けず 雨にも負けず タイリクバラタナゴの採集と飼育」、『月刊アクアライフ』2008年2月号、マリン企画、2008年、110-115頁。
  •  石井実監修・(財)日本自然保護協会編『生態学からみた里やまの自然と保護』、講談社サイエンティフィク、2005年、74-81頁。
  •  岡山県環境文化部自然環境課『岡山県版レッドデータブック2009-絶滅のおそれのある野生生物-』、2010年、126頁。
  •  香川県立高松工芸高等学校環境研究同好会「ニッポンバラタナゴの保護-希少生物保全への合意形成を目指して-」、環境省・(財)日本鳥類保護連盟『第41回全国野生生物保護実績発表大会記録』、2007年、16-17頁。
  •  片野修・森誠一監修・編『希少淡水魚の現在と未来-積極的保全のシナリオ』、信山社、2005年、122-141、341-384頁。
  •  葛島一美『水郷のタナゴ釣り』、つり人社、2008年。
  •  川那部浩哉・水野信彦・細谷和海編『山渓カラー名鑑 改訂版 日本の淡水魚』、山と渓谷社、2001年、360-364頁。
  •  河村功一ほか「近縁外来種との交雑による在来種絶滅のメカニズム」、『日本生態学会誌』第59巻第2号、2009年、131-143頁。
  •  日本魚類学会 シリーズ・日本の希少魚類の現状と課題:北村淳一「タナゴ亜科魚類:現状と保全」、『魚類学雑誌』第55巻第2号、2008年、139-144頁。
  •  北村淳一・諸澤崇裕「霞ヶ浦流入河川におけるタナゴ亜科魚類の産卵母貝利用」、『魚類学雑誌』第57巻第2号、2010年、149-153頁。
  •  白井康子・池田滋・田島茂行「バラタナゴ2亜種(ニッポンバラタナゴおよびタイリクバラタナゴ)におけるマイクロサテライト座のサイズホモプラシー」、『魚類学雑誌』第56巻第2号、2009年、165-169頁。
  •  清風高等学校生物部・関西大倉高等学校「キンタイを救う“池干し”の謎-ニッポンバラタナゴの産卵床となるドブガイの繁殖に影響を及ぼす伝統的な“池干し”の効果」、日本水大賞委員会『第9回日本水大賞・受賞活動集』、2007年、100-108頁。
  •  清風高等学校生物部「バラタナゴはドブガイ模型に産卵するかpart2-産卵と放精を誘発するアミノ酸の不思議」、読売新聞社『第53回日本学生科学賞作品集』、2010年、88-90頁。
  •  瀬能宏監修・松沢陽士『日本の外来魚ガイド』、文一総合出版、2008年、32-35頁。
  •  多紀保彦監修・(財)自然環境研究センター編『決定版 日本の外来生物』、平凡社、2008年、124-125頁。
  •  長田芳和監修・福原修一『貝に卵を産む魚』、トンボ出版、2000年。
  •  三宅琢也ほか「奈良県内で確認されたニッポンバラタナゴ」、『魚類学雑誌』第54巻第2号、2007年、139-148頁。
  •  三宅琢也ほか「ミトコンドリアDNAと形態から見た九州地方におけるニッポンバラタナゴの分布の現状」、『日本水産学会誌』第74巻第6号、2008年、1060-1067頁。
  •  諸澤崇裕・藤岡正博「霞ヶ浦における在来4種と外来3種のタナゴ類(Acheilognathinae)の生息状況」、『魚類学雑誌』第54巻第2号、2007年、129-137頁。
  •  「絶滅防げ!救出大作戦 奈良公園にニッポンバラタナゴ」、『奈良新聞』2008年3月24日。
  •  「シリーズ環境 次世代へ 増やせニッポンバラタナゴ-大阪府八尾市 効果絶大『先人の知恵』」、『産経新聞』2008年7月27日。
  •  「絶滅危惧の淡水魚放流、繁殖へ 近畿大がため池で実験」、『共同通信』2010年2月9日。
  •  「絶滅危惧種のニッポンバラタナゴ放流…近大農学部、構内のため池に」、『読売新聞』2010年2月10日。
  •  「絶滅危惧種『ニッポンバラタナゴ』救え-鼓阪小が『里親』 児童ら池に放流」、『朝日新聞(奈良版)』2010年2月24日。
  •  「希少種タナゴ 奈良の児童観察」、『読売新聞(奈良版)』2010年10月7日。

関連項目

外部リンク