朔日餅

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2月の朔日餅(立春大吉餅)
10月の朔日餅(栗餅)

朔日餅(ついたちもち)は、三重県伊勢市に本社を置く和菓子赤福1月を除く毎月1日に販売する地域風習である「朔日参り」にちなんだもので、毎月販売する餅は異なる[1]

1978年(昭和53年)に朔日参りの参宮客をもてなすために[1]、赤福餅で培った技術に季節感を織り込んだ商品として販売を開始した[2]。1日しか買えないことから、お金では買えない気持ちを伝える贈答品として優れているとともに、季節感を大切にしてきた日本の食文化を見直す上でも良いと経済学者伊藤元重は評している[3]

歴史[編集]

1978年(昭和53年)2月1日に販売を始めた[4]。伊勢周辺には毎月1日に伊勢神宮に参拝し、前月の無事に感謝すると同時に当月の無事を祈る「朔日参り」という風習があり[5]、その帰りに赤福を訪れ菓子とお茶を一杯注文する人が多かった[4]ことから、参拝者をもてなす菓子として朔日餅が創案されたのであった[1]。発売当初は200 - 300個の売り上げを想定していたが、口コミで評判が広まり、年々販売個数を増やしていった[2]。これを受け赤福本店だけでなく、1980年代には愛知県名古屋市大阪府大阪市百貨店でも取り扱いを開始した[2]。この頃にはグループ会社を含めた従業員総出で朔日餅づくりを行い、百貨店では行列が隣接する売り場にまで伸びてしまうため、予約制をとるようになった[2]

2007年(平成19年)10月消費期限及び製造日、原材料表示偽装事件が発覚した際には、朔日餅の原材料表示が重量順になっていないことが発覚[6]、朔日餅の一部を冷凍保存し解凍して販売していたことも明らかとなった[7]。このため、同年11月1日に販売を予定していた「ゑびす餅」の販売を休止した[8]。赤福では不正防止のため赤福餅用の冷解凍設備の全廃を表明したが、朔日餅用の設備については「検討する」とし、最終的には需要が高いため設備を維持することになった[7]。また河村たかしは、第168回国会で赤福餅と朔日餅の不適正表示について質問した[9]

2008年(平成20年)1月30日、三重県は赤福の営業禁止処分を解除することを決定し、販売地域を拡大する際と朔日餅の製造を行う場合は伊勢保健所に事前報告するよう赤福に求めた[10]。これを受け赤福は2月6日に営業を再開したが、朔日餅は当面販売を自粛すると発表した[11]。その後、8月1日に「八朔粟餅」を本店限定で販売した[12]が、設備の問題で9月以降再び販売自粛に至り、2009年(平成21年)3月1日の「よもぎ餅」から正式に販売を再開した[13]。「八朔粟餅」だけが一時的に販売されたのは、八朔粟餅が赤福餅の原形となったもので、赤福餅とほぼ生産方法が同じであったことによる[13]

行列[編集]

毎月1日の早朝には、朔日餅を求めて多くの人が赤福本店前に行列を成すことが恒例となっている[4][14]。早い時には前日や前々日から列ができ始め[2]、赤福が開店する頃には1,500人もの大行列になることがある[4]。第61回神宮式年遷宮が行われた1993年(平成5年)には、東北地方など遠方から訪れる客もおり、若い人が多くなったと日経流通新聞が報じている[4]。なお販売前月の15日以降に本店店頭または電話で予約をすることもでき、必ずしも行列に並ばなければ購入できないものではない[15]。しかし、並ぶこと自体が一種のイベント化している面があり、多くの人が毎月1日に行列を成す[14][16]。毎月欠かさず列に並ぶ三重県民もおり、知人・友人の分をまとめ買いする人も多い[16]

赤福本店では、販売前日の午後5時から当日午前3時30分まで列整理券の事前受付を行い、販売当日の午前3時30分より列整理券を配布し、午前4時45分の開店時に列整理券の番号順に販売される[15]。列整理券の事前受付には、列整理券に引き換えるための整理券の役割がある[17]。列整理券の順に販売されるため、販売当日の午前4時30分に並ばなければならず、並んでいない場合には列整理券は無効となる[17]。購入した朔日餅は持ち帰りのほか、店内で食べることもできる[15]。店内では毎月の餅に合わせて違うお茶を添えて提供される[1]

1991年(平成3年)6月30日からは、朔日餅を買い求めて行列を作る人に楽しんでもらうことを目的に、近隣にある料理店「すし久」2階にて「みそか寄席」と題した上方の若手落語家による寄席が開かれるようになった[18]。このほか、伊勢神宮・皇大神宮(内宮)の鳥居前町であるおはらい町の飲食店では毎月1日の午前4時45分から「朔日粥」を販売し、おかげ横丁では「朔日朝市」を開催する[19]

商品[編集]

1月は販売しないため、朔日餅は全11種類である[4]。7月のみ水羊羹であり、厳密には「餅」ではない[14]。商品はすべて従業員による手作りである[2]。月によって価格は異なり、各月3種類の入数の商品を扱っている[15]。最も売り上げが多いのが8月1日に販売される八朔粟餅であり、手に入りづらくなったアワ黒砂糖を使用した「懐かしの味」が評価されていると赤福は考えている[4]。なお、8月1日に参拝することを特に「八朔参宮」と呼び、五穀豊穣や無病息災を祈念する特別な朔日参りとされ[5]1987年(昭和62年)には粟餅だけで70万個以上を売り上げたという[2]

三重県民の中には各月の餅を覚えている人がおり、「この月の餅が好き」という好みがある人も多い[16]

商品一覧[1][15]

商品名 特徴
2月 立春大吉餅 節分立春にちなんだ豆大福
3月 よもぎ餅 粒あん入りの蓬餅
4月 さくら餅 桜色の餅でこしあんを包んだ桜餅(関西風)
5月 かしわ餅 端午の節句にちなんだ柏餅
6月 麦手餅 餅麦粉の生地で黒糖風味のあんを包んだ餅
7月 竹流し 赤福餅のあんを使った竹に入った水羊羹
8月 八朔粟餅 八朔参宮にちなんだ粟餅
9月 萩の餅 ほんのり塩味のおはぎ
10月 栗餅 栗あんを包んだ餅に栗羊羹を乗せたもの
11月 ゑびす餅 小判打出の小槌に見立てた餅
12月 雪餅 もろこし粉入りの生地でこしあんを包み、餅粉をまぶしたもの

脚注[編集]

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  1. ^ a b c d e JTBパブリッシング 2011, p. 141.
  2. ^ a b c d e f g 「月替わりもち、赤福―四季の味手づくり 朔日ごと長蛇の列」日本経済新聞1987年8月31日付朝刊、17ページ
  3. ^ 伊藤元重"「ハレ」の日消費 モノではなくコトを売る"日経MJ2008年1月9日付、4ページ
  4. ^ a b c d e f g 「毎月1回、限定の餅 ☆☆☆ 三重県伊勢市 懐かしい味 朝5時から」日経流通新聞1993年1月5日付、14ページ
  5. ^ a b JTBパブリッシング 2011, p. 140.
  6. ^ 「赤福 偽装製品 記号で識別 不正、組織ぐるみか 外国産原料も使う」日本経済新聞2007年10月23日付朝刊、43ページ
  7. ^ a b "赤福「朔日餅」は冷凍で 毎月恒例の人気商品 需要に対応できず"日本経済新聞2007年11月15日付朝刊、名古屋版社会面21ページ
  8. ^ "「指導窓口」機能せず 伊勢保健所 偽装見落とす 赤福・JAS法違反"朝日新聞2007年10月16日付朝刊、名古屋版社会面31ページ
  9. ^ 赤福餅及び御福餅の偽装表示問題に関する質問主意書”. 衆議院 (2007年11月19日). 2014年9月17日閲覧。
  10. ^ 「赤福 信頼回復これから 三重県 営業禁止を解除」日本経済新聞2008年1月30日付夕刊、名古屋版社会面36ページ
  11. ^ 「赤福、6日に営業再開 まず伊勢市内の直営3店」日本経済新聞2008年2月1日付朝刊、名古屋版社会面21ページ
  12. ^ "赤福「八朔粟餅」販売へ 来月1日"朝日新聞2008年7月29日付朝刊、三重版29ページ
  13. ^ a b "赤福の「朔日餅」3月に販売再開"朝日新聞2009年1月8日付朝刊、三重版18ページ
  14. ^ a b c 三重県地位向上委員会 編 2015, p. 11.
  15. ^ a b c d e 出版事業本部 国内情報部 第三編集部 編 2014, p. 58.
  16. ^ a b c 金木 2014, p. 11.
  17. ^ a b 一芸 (2013年3月22日). “おかわり 伊勢に着いたら「朔日(ついたち)餅」”. 列島あちこち 食べるぞ!B級ご当地グルメ. 日本経済新聞. 2014年11月10日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年4月7日閲覧。
  18. ^ 「みそか寄席が100回記念興行 邦楽なども上演 赤福」朝日新聞1999年9月22日付朝刊、三重版27ページ
  19. ^ 出版事業本部 国内情報部 第三編集部 編 2014, p. 51.

参考文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]