日はまた昇る

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日はまた昇る
The Sun Also Rises
著者 アーネスト・ヘミングウェイ
発行日 1926年10月22日
発行元 チャールズ・スクリブナーズ・サンズ
ジャンル 小説
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
言語 英語
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初版本の表紙

日はまた昇る』(ひはまたのぼる、アメリカ版:The Sun Also Rises, イギリス版 : Fiesta)は、アメリカ合衆国小説家アーネスト・ヘミングウェイが1926年に発表した長編小説

1926年に発表された。ヘミングウェイにとって初の長編であり、出世作でもある。ヘミングウェイの自伝を書いたジェフリー・メイヤーズ(Jeffrey Meyers)は、この作品が「ヘミングウェイ最高の作品と認識されている」と書いている[1]。ヘミングウェイの研究者であるリンダ・ワグナー・マーティン(Linda Wagner Martin)は、この作品はヘミングウェイのもっとも重要な作品であるとしている[2]。日本語訳は多くあるが、現行は新潮文庫高見浩訳と、集英社文庫佐伯彰一訳である。この小説の題名である「日はまた昇る」とは復活をかけるという意味ではなく、変わらぬ生活に対するやるせなさを表している。[要出典]

あらすじ[編集]

第一次世界大戦中に青春を過ごしたアメリカ合衆国の若者はロスト・ジェネレーション(自堕落な世代)と呼ばれ、未来への希望を欠いた日々を送っている。かつてボクシング選手だったロバート・コーンは妻と離婚し、文芸評論もうまくいかずにパリにやってくる。同じくアメリカ人のジェイク・バーンズは新聞特派員であり、派遣先のパリでコーンと出会う。ジェイクはダンスフロアでイギリス人のブレット・アシュリーと出会い、ブレットを愛するようになるが、ジェイクは戦争中の負傷が原因の性的不能者であり、ブレットへの欲望を成就できない虚しさを抱えている。ブレットも看護師として第一次世界大戦に参加したが、その際に愛する男を失った。ジェイクのことは誰よりも信頼しているが、欲望のままに様々な男とベッドを共にしている。

7月、ジェイクは友人のビル・ゴードンとともに、スペイン・パンプローナサン・フェルミン祭で行われる闘牛を見物しに行く。そこにブレット、密かにブレットを愛するコーン、ブレットといい関係にある退役軍人のマイク・キャンベルも加わり、ブレットを中心に一行の間には不穏な空気が流れる。若いスペイン人闘牛士のペドロ・ロメロは自制心と誇りを持ち、生と死の狭間に身を置きながら、威厳を持って自身の仕事を遂行している。ブレットはそんなロメロに惹かれ、一行を捨ててロメロと駆け落ちする。

作品背景[編集]

1925年にパンプローナを訪れたメンバー(左端がヘミングウェイ)
パンプローナにあるヘミングウェイの胸像

ヘミングウェイは24歳の時に短編からなる初の出版物を刊行し、その後も短編や中編などを執筆した[3]。1922年には妻のハドリーとともに、アメリカ合衆国からフランスのパリに移住し、1923年7月には初めてスペインのパンプローナを訪れて、サン・フェルミン祭エンシエロ(牛追い)と闘牛に魅了された[4][5]。1924年7月には自身と妻に加えて、イギリスの軍人であるエリック・ドーマン=スミス(Eric Dorman-Smith)、アメリカ人小説家のジョン・ドス・パソス、同じくアメリカ人小説家のドナルド・オグデン・スチュワートという3人の友人とともにパンプローナを訪れた[6]。1925年7月には自身と妻に加えて、小説家のハロルド・ローブ、小説家のドン・スチュワート、イギリス人女性のダフ・トゥイズデン、ダフの婚約者であるパット・ガスリー、少年時代からの親友のビル・スミスの7人で再びパンプローナを訪問した[5]

当初はこの体験を短編の題材にする予定であり、闘牛士のニーニョ・デ・ラ・パルマをモデルとした物語を書きためたが[7]マドリードバレンシア、再びマドリード、サン・セバスティアンと、闘牛の興行を追ってスペインを転々とする間に内容が変化していき、7月末頃に長編小説としての構造が出来上がった[7]。8月18日にはスペインからパリに戻り、9月末にシャルトル大聖堂を訪れた際に「日はまた昇る」というタイトルを思いついたとされる[7]。この小説は1926年3月頃にほぼ完成し、4月にはニューヨークチャールズ・スクリブナーズ・サンズ社の編集者に原稿を郵送したほか、出版社を紹介してもらったF・スコット・フィッツジェラルドにも助言を求めた[7]

1926年10月22日、『The Sun Also Rises』というタイトルでスクリブナーズ社から5,090部の初版が刊行され、1冊2.00ドルで発売された。Cleonike Damianakesがブックカバーのデザインを担当し、古代ギリシア風の装丁を行った。特に母国のアメリカ合衆国ではセンセーションを巻き起こし、「タイムリーなテーマ、簡潔な文体、生き生きとした会話、個性的な登場人物、エキゾチックな舞台背景」などが若い世代を熱中させた[8]。刊行から2カ月で7,000部を売り上げ、処女長編作としては大成功をおさめた[8]。文芸評論家からの評価も良好であり[3]、批評家のマルカム・カウリーは「女子学生たちは競ってブレット・アシュリーのファッションスタイルをまねていたし(中略)若者たちは、ヘミングウェイの描くヒーローを気どろうとして、口の端だけを動かす、抑制された、タフなしゃべり方を身につけようと努めていた」と書いている[8]。冒頭部には妻ハドリーと息子への献辞があるが、執筆中には夫婦仲に亀裂が生じており、刊行後の11月には印税すべてをハドリーに贈与することを約束し、1927年4月には正式に離婚が成立した[9]。1927年にはイギリス・ロンドンジョナサン・ケープ社によって、『Fiesta』というタイトルでイギリス版が出版された。

1932年、ヘミングウェイは闘牛の解説書である『午後の死』(Death in the Afternoon)を刊行した。1947年、スクリブナーズ社はこの小説、『武器よさらば』(1929年)、『誰がために鐘は鳴る』(1940年)の3冊をまとめたボックスセットを刊行した[10]。この小説を執筆する前の3度を含め、ヘミングウェイは死去するまでに9度もパンプローナを訪れた[11]。パンプローナ闘牛場の前の通りには「ヘミングウェイ通り」という名称がつけられ、その一角にはヘミングウェイの胸像が建立されている[11]。1959年から1960年には闘牛に関するノンフィクションの『The Dengerous Summer』を執筆し、死後の1985年に刊行された。この作品は1961年に死去する「ヘミングウェイ最後の作品」として引き合いに出される。2006年、アメリカ合衆国のサイモン&シュスター社はヘミングウェイの小説のオーディオブック版の製造を開始し、その中にはこの小説も含まれている[12]

登場人物[編集]

主要な登場人物は、1925年にヘミングウェイと一緒にパンプローナを訪れた7人のメンバーがモデルとなっている[7]。語り手のジェイク・バーンズはヘミングウェイ自身がモデルであり、ブレット・アシュリーはイギリス人女性のダフ・トゥイズデンが、ロバート・コーンは小説家のハロルド・ローブが、マイク・キャンベルはダフの婚約者であるパット・ガスリーが、ビル・ゴードンは小説家のドン・スチュワートと、ヘミングウェイの少年時代からの親友のビル・スミスが、ペドロ・ロメロは若手闘牛士のニーニョ・デ・ラ・パルマがモデルとなった[7]。端役も日ごろから付き合いのある人物の風貌がモデルとなっており、例えばブラドックスはイギリス人小説家フォード・マドックス・フォードがモデルとなった[7]

  • ジェイク・バーンズ - 物語の語り手。アメリカ人の新聞特派員。
  • ブレット・アシュリー - イギリス人の貴婦人。
  • ロバート・コーン - アメリカ人の作家。
  • マイク・キャンベル - 破産した退役軍人。
  • フランセス・クライン - コーンの愛人。
  • ビル・ゴードン - ジェイクの友人。
  • ペドロ・ロメロ - スペイン人の闘牛士。

映画・オペラ[編集]

1957年版映画でジェイク役を務めたタイロン・パワー

1957年と1984年にアメリカ合衆国で映画化されている。1957年版(英語版)はヘンリー・キングが監督を務め、43歳のタイロン・パワーがジェイクを、34歳のエヴァ・ガードナーがブレットを演じた。テレビ映画となった1984年版(英語版)はジェイムズ・ゴールドストーン英語版が監督を務め、27歳のハート・ボックナーがジェイクを、33歳のジェーン・シーモアがブレットを演じた。2000年5月7日にはアメリカ合衆国のロングアイランド・オペラ場にて、ウェブスター・A・ヤングによるオペラ『日はまた昇る』が上演された[13]

脚注[編集]

  1. ^ Meyers (1985), 192
  2. ^ Wagner-Martin (1990), 1
  3. ^ a b 佐伯 訳(2009)、pp.335-341「解説」
  4. ^ Meyers (1985), 117–119
  5. ^ a b 高見 訳(2003)、pp.465-469「解説 2」
  6. ^ Balassi (1990), 128
  7. ^ a b c d e f g 高見 訳(2003)、pp.469-474「解説 3」
  8. ^ a b c 高見 訳(2003)、pp.475-477「解説 4」
  9. ^ 高見 訳(2003)、pp.486-487
  10. ^ Reynolds (1999), 154
  11. ^ a b 高見 訳(2003)、pp.482-485「解説 6」
  12. ^ Hemingway books coming out in audio editions”. MSNBC.com (2006年2月15日). 2011年2月27日閲覧。
  13. ^ Eichler, Jeremy (2000年5月4日). “Now It's a Papa Opera / An LI composer adapts Hemingway's 'Sun Also Rises'”. Newsday. 2014年3月30日閲覧。

参考文献[編集]

  • 今村楯夫・島村法夫 監修『ヘミングウェイ大事典』勉誠出版, 2012年
  • アーネスト・ヘミングウェイ, 『日はまた昇る』, (新潮文庫), 高見浩 訳, 新潮社, 2003年
  • アーネスト・ヘミングウェイ, 『日はまた昇る』, (集英社文庫), 佐伯彰一 訳, 集英社, 2009年
その他の文献
  • 日本ヘミングウェイ協会『ヘミングウェイ研究』2000年の創刊号以降に年1回発行
  • Meyers, Jeffrey (1985). Hemingway: A Biography. New York: Macmillan. ISBN 978-0-333-42126-0
  • Wagner-Martin, Linda (1990). "Introduction". in Wagner-Martin, Linda (ed). New Essays on Sun Also Rises. New York: Cambridge UP. ISBN 978-0-521-30204-3
  • Balassi, William (1990). "Hemingway's Greatest Iceberg: The Composition of The Sun Also Rises". in Barbour, James and Quirk, Tom (eds). Writing the American Classics. Chapel Hill: North Carolina UP. ISBN 978-0-8078-1896-1
  • Reynolds, Michael (1999). Hemingway: The Final Years. New York: Norton. ISBN 978-0-393-32047-3

外部リンク[編集]